(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分岐部ハウジングは、前記分岐部分と前記接着剤付熱収縮チューブの一部とを覆う本体部と、前記本体部から延出されている前記絶縁電線のそれぞれの延出部分を個別に、あるいは複数本の前記絶縁電線の延出部分の周囲を一括して覆う凸状の電線保護部と、を一体に有する、
請求項7または8に記載のワイヤハーネス。
前記第1止水工程では、前記複数の絶縁電線の周囲に接着剤を配置した後に、前記接着剤付熱収縮チューブを設け、加熱により前記接着剤付熱収縮チューブを収縮させると共に前記接着剤を溶融させる、
請求項10に記載のワイヤハーネスの製造方法。
前記複数本の絶縁電線が分岐する分岐部分と前記接着剤付熱収縮チューブの一部とを覆うように樹脂をモールド成形して分岐部ハウジングを形成するハウジング形成工程を備え、
前記ハウジング形成工程では、前記接着剤付熱収縮チューブと前記固定用熱収縮チューブとが重なった部分を金型で挟持した状態で、前記樹脂のモールド成形を行う、
請求項10乃至12の何れか1項に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両において、電動式の制動装置が用いられている。電動式の制動装置としては、電気機械式ブレーキ(Electro-Mechanical Brake、EMB)装置や、電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake、EPB)装置が知られている。
【0003】
電気機械式ブレーキ装置は、単に電動ブレーキあるいは電気ブレーキとも呼称されるものであり、運転者によるブレーキペダルの操作量(踏力又は変位量)に応じて、車両の各車輪に備えられた専用の電気モータの回転駆動力を制御し、当該電気モータにより駆動されるピストンによりブレーキパッドを車輪のディスクロータに押し付けることにより、運転者の意図に応じた制動力を発生させるように構成されている。
【0004】
電動パーキングブレーキ装置は、車両の停止後に運転者がパーキングブレーキ作動スイッチを操作することにより、車両の各車輪に備えられた専用の電気モータを駆動させて、当該電気モータにより駆動されるピストンによりブレーキパッドを車輪のディスクロータに押し付けた状態とし、制動力を発生させるように構成されている。
【0005】
また、近年の車両においては、走行中の車輪速を検出する車輪速センサ(ABS(Anti-lock Brake System)センサとも呼称されている)や、タイヤの空気圧を検出する空気圧センサ、温度センサなどのセンサ類が車輪に搭載されることが多い。
【0006】
そこで、車輪に搭載されたセンサ用の信号線や電気機械式ブレーキ装置の制御用の信号線と、電気機械式ブレーキ装置や電動パーキングブレーキ装置用の電気モータに電力を供給する電源線とを共通のシースに収容した複合タイプのケーブルを用い、車輪側と車体側とを接続することが行われている。
【0007】
複合タイプのケーブルを用いたワイヤハーネスでは、ケーブルに含まれる複数の絶縁電線(上述の信号線や電源線)の接続先が異なるため、接続先毎に絶縁電線を分岐させる必要がある。絶縁電線の分岐部分では、絶縁電線を伝ってシース内部に水分が侵入するおそれがあるため、分岐部分での防水性を確保する必要がある。
【0008】
絶縁電線の分岐部分の防水性を確保するケーブルの止水構造として、例えば分岐部分全体を樹脂モールドで覆うことが考えられる。しかし、この構造では、例えば樹脂モールドがウレタン樹脂であり、絶縁電線の絶縁体がポリエチレンである場合には、樹脂モールドと絶縁体とが密着せず防水性を確保することができない。そこで、さらに樹脂モールドと樹脂モールドから延出される絶縁電線やケーブルとを覆うように接着剤付熱収縮チューブを設けて防水をとることも考えられるが、この場合、電線やケーブルの延出先毎に接着剤付熱収縮チューブを設ける必要があるため、製造に非常に手間がかかってしまう。
【0009】
そこで、本発明者は、シースとシースの端部から延出されている絶縁電線とを一括して接着剤付熱収縮チューブで覆うことで、分岐部分の防水性を確保することを検討した。
【0010】
しかしながら、単に接着剤付熱収縮チューブを設けたのみでは、例えば120℃以上の高温環境下においては、接着剤が溶融すると共に樹脂チューブが再び収縮を開始してしまい、樹脂チューブがシースから脱落してしまう場合があることが分かった。インシュロックによりシースを覆う部分の樹脂チューブを強固に締結固定することも検討したが、インシュロックを用いた場合であっても、高温環境下での樹脂チューブの脱落が発生してしまうことが確認された。
【0011】
特許文献1では、シースとシースから延出されている絶縁電線とを一括して接着剤付熱収縮チューブで覆い、さらに接着剤付熱収縮チューブの端部とシースとを一括して覆うように、接着剤付熱収縮チューブよりも収縮開始温度が低い低温収縮型熱収縮チューブを設けたケーブルの止水構造が開示されている。特許文献1の構造によれば、高温環境下での樹脂チューブの脱落を抑制可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0021】
(ワイヤハーネスを適用する車両の説明)
図1は、本実施の形態に係るワイヤハーネスが用いられた車両の構成を示す模式図である。
【0022】
車両1は、車体10に4つのタイヤハウス100を有し、2つの前輪11及び2つの後輪12がそれぞれのタイヤハウス100内に配置されている。本実施の形態では、車両1が前輪駆動車であり、前輪11がエンジンや電動モータからなる図略の駆動源の駆動力を受けて駆動される。すなわち、本実施の形態では、前輪11が駆動輪であり、後輪12が従動輪である。
【0023】
また、車両1は、2つの電動パーキングブレーキ装置130と、制御装置14とを有している。電動パーキングブレーキ装置130は、2つの後輪12のそれぞれに対応して設けられ、制御装置14から供給される電流によって作動して、後輪12に制動力を発生させる。制御装置14は、車室内に設けられたパーキングブレーキ作動スイッチ140の操作状態を検出可能であり、運転者は、このパーキングブレーキ作動スイッチ140をオン/オフ操作することで、電動パーキングブレーキ装置130の作動状態と非作動状態とを切り替えることが可能である。
【0024】
例えば、停車時おいて運転者がパーキングブレーキ作動スイッチ140をオフ状態からオン状態にすると、制御装置14は、所定時間(例えば1秒間)にわたって電動パーキングブレーキ装置130を作動させるための作動電流を出力する。これにより、電動パーキングブレーキ装置130が作動し、後輪12に制動力を発生させる。この電動パーキングブレーキ装置130の作動状態は、制御装置14から電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流が出力されるまで維持される。このように、電動パーキングブレーキ装置130は、主として車両1の停止後に制動力を発生させる。
【0025】
制御装置14は、運転者の操作によってパーキングブレーキ作動スイッチ140がオン状態からオフ状態にされた場合に、電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流を出力する。なお、制御装置14は、パーキングブレーキ作動スイッチ140がオフ状態にされた場合の他、例えばアクセルペダルが踏込操作された場合にも、電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流を出力する。
【0026】
また、前輪11及び後輪12には、車輪速を検出するための車輪速センサ(ABSセンサ)131が設けられている。車輪速センサ131は、それ自体は周知のものであり、前輪11又は後輪12と共に回転する環状の磁気エンコーダの磁界を検出する磁界検出素子を有し、この磁界の向きが変化する周期によって車輪速(前輪11又は後輪12の回転速度)を検出する。
【0027】
制御装置14と、前輪11の車輪速センサ131とは、複数の電線からなる前輪用電線群151、及び前輪用ワイヤハーネス152によって電気的に接続されている。前輪用電線群151と前輪用ワイヤハーネス152とは、車体10に固定された中継ボックス153内で接続されている。中継ボックス153は、左右一対の前輪11のそれぞれの近傍に配置されている。
【0028】
また、制御装置14と、後輪12の電動パーキングブレーキ装置130及び車輪速センサ131とは、複数の電線からなる後輪用電線群154、及び本実施の形態に係るワイヤハーネス2によって電気的に接続されている。後輪用電線群154とワイヤハーネス2とは、車体10に固定された中継ボックス155内で接続されている。中継ボックス155は、左右一対の後輪12のそれぞれの近傍に配置されている。
【0029】
前輪用電線群151は、束ねられた状態で車体10に設けられた配線路150に配置されている。また、後輪用電線群154も、前輪用電線群151と同様に、束ねられた状態で車体10に設けられた配線路150に配置されている。
【0030】
前輪用ワイヤハーネス152は、一端部が前輪11の車輪速センサ131に接続され、他端部が中継ボックス153に収容されている。後輪用のワイヤハーネス2は、一端部が後輪12の電動パーキングブレーキ装置130及び車輪速センサ131に接続され、他端部が中継ボックス155に収容されている。前輪用ワイヤハーネス152及び後輪用のワイヤハーネス2には、車両1の走行に伴う前輪11及び後輪12の車体10に対する上下動に応じて屈曲されるので、高い屈曲耐久性が要求される。
【0031】
(ワイヤハーネス2に用いるケーブルの説明)
図2は、ワイヤハーネス2に用いるケーブル3の断面図である。ケーブル3は、一対の電源線31及び一対の信号線32と、一対の電源線31及び一対の信号線32を一括して覆うシース33と、を有している。また、本実施の形態では、一対の電源線31及び信号線32が、潤滑材34を介してシース33に保持されている。電源線31及び信号線32は、本発明の絶縁電線の一態様である。
【0032】
一対の電源線31の一端部には、電動パーキングブレーキ装置130との接続のための第1電源コネクタ(不図示)が取り付けられ、一対の電源線31の他端部には、中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための第2電源コネクタ(不図示)が取り付けられている。
【0033】
一対の信号線32には、一端部に車輪速センサ131が取り付けられ、他端部には中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための信号線接続コネクタ(不図示)が取り付けられている。
【0034】
本実施の形態に係るワイヤハーネス2は、このケーブル3と、第1電源コネクタ、第2電源コネクタ、車輪速センサ131、及び信号線接続コネクタと、を備えたものである。詳細は後述するが、ワイヤハーネス2においては、一対の電源線31と一対の信号線32とが分岐されており、この分岐部分3aの防水性を確保するために、本実施の形態に係るケーブルの止水構造4が用いられている。
【0035】
一対の電源線31は、電動パーキングブレーキ装置130に電流を供給するために用いられる。一対の信号線32は、車輪速センサ131の検出信号を制御装置14に伝送するために用いられる。つまり、一対の信号線32は、車両1の走行時に、車両1の走行状態を示す車両状態量の検出信号を制御装置14に伝送する。
【0036】
一対の電源線31は、銅等の良導電性の導線からなる中心導体310を絶縁性の樹脂からなる絶縁体311で被覆した絶縁電線である。中心導体310は、複数の素線からなる撚線である。絶縁体311は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。
【0037】
信号線32は、銅等の良導電性の導線からなる中心導体320を絶縁性の樹脂からなる絶縁体321で被覆した絶縁電線である。中心導体320は、複数の素線からなる撚線である。絶縁体321は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。信号線32の外径は、電源線31の外径よりも小さい。
【0038】
電源線31及び信号線32は、シールド導体により被覆されていない。つまり、電源線31と信号線32との間には、電磁波を遮蔽する導電性の部材が配置されていない。これは、電源線31に電流が流れるのは主として車両1の停車中であり、信号線32が電気信号を伝送するのは主として車両1の走行中であるため、信号線32と電源線31との間には、シールド導体を設ける必要がないことに着目したものである。つまり、一対の電源線31に電流が流れた場合、この電流により発生する電磁波は、一対の信号線32の電位差に影響を及ぼし得るが、制御装置14は、車速がゼロである車両1の停車中には、信号線32の電気信号を無視することができ、車両1の走行に悪影響を及ぼさないようにすることができる。また、信号線32がシールド導体に被覆されていないことにより、ケーブル3の柔軟性が増し、屈曲性が高まると共に、ケーブル3の軽量化ならびに低コスト化にも寄与することができる。
【0039】
電源線31と信号線32とは、ケーブル3の周方向に交互に配置されており、一対の電源線31と一対の信号線32とが撚り合わされている。
【0040】
シース33は、絶縁性の樹脂からなる。本実施の形態では、シース33は、柔軟性及び耐久性に優れた軟質ポリウレタンからなる。
【0041】
潤滑材34は、粒径が例えば5〜50μmであり、その材質としては、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)やシリカ(SiO2)等を好適に用いることができる。ここで、粒径とは、JIS8801で規定されるふるい分け法、顕微鏡法、レーザ回析散乱法、電気検知法、クロマトグラフィー法等により求められる粒子の大きさをいう。また、潤滑材34として、紙テープや潤滑油を用いてもよい。潤滑材34を用いることによって、シース33の内部における一対の電源線31及び信号線32の動きを円滑にすることができ屈曲性が高められると共に、ケーブル3の端末処理が容易になる。
【0042】
(ケーブルの止水構造の説明)
図3は、本実施の形態に係るケーブルの止水構造を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【0043】
図3(a),(b)に示すように、本実施の形態に係るケーブルの止水構造4は、ケーブル3の分岐部分3aにおける防水性を確保する構造である。ケーブル3の分岐部分3aでは、シース33の一部を切除して、電源線31及び信号線32が露出されている。ケーブルの止水構造4は、シース33の内部に水が入ることを抑制すべく、シース33の端部と、シース33から延出されている電源線31及び信号線32とにわたって設けられ、シース33の端面を封止するように設けられる。
【0044】
ケーブルの止水構造4は、接着剤付熱収縮チューブ5と、固定用熱収縮チューブ6と、を備えている。
【0045】
接着剤付熱収縮チューブ5は、内部に接着剤(不図示)を有し、シース33の端部と当該端部から延出されている複数本の絶縁電線(一対の電源線31及び一対の信号線32)の周囲を一括して覆うように設けられている。
【0046】
接着剤付熱収縮チューブ5は、熱収縮性を有する樹脂チューブ51と、樹脂チューブ51の内周面に設けられた接着剤からなる接着剤層(不図示)と、を有している。本実施の形態では、ポリオレフィンからなる樹脂チューブ51を用いた。接着剤層を構成する接着剤は、エポキシ樹脂等のホットメルト接着剤からなる。
【0047】
接着剤付熱収縮チューブ5の接着剤は、樹脂チューブ51を収縮させる際の熱により溶融して樹脂チューブ51、電源線31、信号線32、及びシース33間の隙間に入り込み、収縮後に硬化して樹脂チューブ51、電源線31、信号線32、及びシース33間の隙間を封止する。
【0048】
本実施の形態では、一対の電源線31と一対の信号線32とを有する4心のケーブル3を用いているため、例えば2心のケーブル等と比較して各心線間の隙間が大きくなる。そこで、本実施の形態では、各心線(一対の電源線31及び一対の信号線32)間の隙間を確実に封止できるように、接着剤付熱収縮チューブ5の接着剤に加えて別途接着剤を追加している。
【0049】
具体的には、予め両電源線31及び両信号線32の周囲に円環状(短円筒状)の接着剤52(
図7(a),(b)参照)を配置した後に、接着剤付熱収縮チューブ5を設け、加熱により接着剤付熱収縮チューブ5を収縮させると共に円環状の接着剤52を溶融させて心線間の隙間を埋めるようにしている。円環状の接着剤52としては、接着剤付熱収縮チューブ5の接着剤と同じ成分のものを用いるとよく、エポキシ樹脂等のホットメルト接着剤を用いることができる。
【0050】
接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なる部分の長さL2は、5mm以上、好ましくは10mm以上とすることが望ましい。これは、長さL2が5mm未満と短いと、高温時にシース33から接着剤付熱収縮チューブ5が脱落するおそれが大きくなるためである。ここでは、長さL2を20mmとした。接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重ならない部分(つまりシース33から延出されている電源線31及び信号線32の周囲を覆う部分)の長さL1は、接着剤の封止により十分に防水性が確保できる程度の長さとすればよく、5mm以上、好ましくは10mm以上とすることが望ましい。ここでは、長さL1を10mmとした。
【0051】
固定用熱収縮チューブ6は、高温時における接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれを抑制するための部材であり、内部に接着剤(接着剤層)を有しておらず、樹脂チューブ61のみで構成されている。固定用熱収縮チューブ6は、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33を覆っている部分と接着剤付熱収縮チューブ5から延出されているシース33の周囲を覆うように設けられている。固定用熱収縮チューブ6を構成する樹脂チューブ61の内周面は、樹脂チューブ51の外周面及びシース33の外周面に直接接触している。
【0052】
なお、固定用熱収縮チューブ6としては、接着剤付きのものを用いることはできない。これは、固定用熱収縮チューブ6として接着剤付きのものを用いた場合、高温時にその接着剤が溶融して潤滑油のように作用してしまい、接着剤付熱収縮チューブ5が収縮することによるケーブル長手方向に沿った移動を規制することができなくなり、接着剤付熱収縮チューブ5がシース33から脱落してしまうおそれがあるためである。
【0053】
また、本実施の形態に係るケーブルの止水構造4では、固定用熱収縮チューブ6の収縮開始温度は、接着剤付熱収縮チューブ5の収縮開始温度よりも高い。詳細は後述するが、本実施の形態に係るワイヤハーネスの製造方法では、固定用熱収縮チューブ6を収縮させる際に接着剤付熱収縮チューブ5の樹脂チューブ51の端部も同時に収縮する。このとき、固定用熱収縮チューブ6の収縮開始温度が接着剤付熱収縮チューブ5の収縮開始温度よりも低いと、接着剤付熱収縮チューブ5よりも先に固定用熱収縮チューブ6が収縮してしまい、収縮する固定用熱収縮チューブ6に押し出されて接着剤付熱収縮チューブ5に位置ずれが生じてしまったり、固定用熱収縮チューブ6の内部にて接着剤付熱収縮チューブ5(樹脂チューブ51)に周方向に皺がよってしまったりするおそれがある。接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれは、上述の距離L2の短縮による防水性の低下につながり、接着剤付熱収縮チューブ5の皺は、シース33及び樹脂チューブ61と樹脂チューブ51との間に隙間を生じさせて防水性の低下につながってしまう。
【0054】
本実施の形態のように固定用熱収縮チューブ6の収縮開始温度を接着剤付熱収縮チューブ5の収縮開始温度よりも高くすることで、固定用熱収縮チューブ6を収縮させる際に先に内側の接着剤付熱収縮チューブ5の樹脂チューブ51が収縮し、その後外側の固定用熱収縮チューブ6が収縮されることになるため、接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれや接着剤付熱収縮チューブ5の皺の発生を抑制し、防水性を高めることが可能になる。なお、収縮開始温度とは、樹脂チューブ51,61が収縮を開始する温度であり、その内径が収縮前の内径に対して1%以上収縮する温度をいう。
【0055】
また、固定用熱収縮チューブ6は、接着剤付熱収縮チューブ5よりも剛性が高い。これにより、接着剤付熱収縮チューブ5を強固に挟持して高温時の接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれを抑制し、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33からの脱落を抑制することが可能になる。本実施の形態では、固定用熱収縮チューブ6の樹脂チューブ61として、半硬質ポリオレフィンからなるものを用いた。
【0056】
さらに、固定用熱収縮チューブ6は、シース33よりも硬い材質からなる。なお、「固定用熱収縮チューブ6は、シース33よりも硬い材質からなる」とは、固定用熱収縮チューブ6とシース33とを同じ形状(例えば同じ内外径及び同じ長さの円筒状)とした場合に、シース33と比較して固定用熱収縮チューブ6の方がより曲げにくい(剛性が高い)ことを意味している。
【0057】
これにより、固定用熱収縮チューブ6の直近でケーブル3を曲げる配索レイアウトとするような場合であっても、固定用熱収縮チューブ6を設けた部分におけるケーブル3の屈曲を抑制すること(つまり曲げにくくすること)が可能になる。固定用熱収縮チューブ6を設けた部分でケーブル3を屈曲させると、曲げの外側で固定用熱収縮チューブ6とケーブル3との間に隙間が生じ易く防水性の観点から好ましくないが、固定用熱収縮チューブ6を設けた部分でケーブル3を曲げにくくすることで、このような隙間の発生を抑制し、防水性をより高めることが可能になる。
【0058】
なお、接着剤付熱収縮チューブ5と固定用熱収縮チューブ6が重なっている部分では、両熱収縮チューブ5,6が重なっていることにより剛性が高く曲げにくくなっているため、曲げにより接着剤付熱収縮チューブ5と固定用熱収縮チューブ6との間で隙間は発生しにくい。また、接着剤付熱収縮チューブ5は、その両端部が固定用熱収縮チューブ6及び分岐部ハウジング21(後述する)によりそれぞれ覆われているため、接着剤付熱収縮チューブ5のみを設けた部分で曲げられても防水性上問題となることはなく、接着剤付熱収縮チューブ5の剛性は比較的小さくてもよい。
【0059】
固定用熱収縮チューブ6は、樹脂チューブ51,61間の摩擦力と樹脂チューブ61とシース33間の摩擦力とにより、高温時における接着剤付熱収縮チューブ5の収縮による位置ずれを抑制している。そのため、樹脂チューブ51,61同士が重なっている長さ(面積)、及び樹脂チューブ61とシース33とが接触している長さ(面積)は、接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれを抑制できる程度の摩擦力が得られる長さ(面積)とする必要がある。
【0060】
具体的には、接着剤付熱収縮チューブ5と固定用熱収縮チューブ6とのケーブル長手方向に沿った重なり長L3は、1mm以上12mm以下、好ましくは5mm以上12mm以下であることが望ましい。重なり長L3が1mm未満であると、樹脂チューブ51,61間の摩擦力が小さくなり、高温時に固定用熱収縮チューブ6から接着剤付熱収縮チューブ5が抜けてしまい、接着剤付熱収縮チューブ5がシース33から脱落してしまうおそれがある。また、重なり長L3が12mmを超えると、両熱収縮チューブ5,6が重なった屈曲させにくい部分が長くなり、配索レイアウトの自由度が低下してしまうおそれが生じる。本実施の形態では、重なり長L3を10mmとした。
【0061】
さらに、重なり長L3は、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なる部分の長さL2よりも短くするとよい。これは、重なり長L3が長さL2以上となり固定用熱収縮チューブ6がシース33からはみ出していると、高温時の固定用熱収縮チューブ6自身の収縮により、より小径な電源線31及び信号線32の延出側への移動が発生し、接着剤付熱収縮チューブ5と共にシース33から脱落してしまうおそれがあるためである。
【0062】
また、固定用熱収縮チューブ6の接着剤付熱収縮チューブ5と重なっていない部分のケーブル長手方向に沿った長さL4は、1mm以上12mm以下、好ましくは5mm以上12mm以下であることが望ましい。長さL4が1mm未満であると、樹脂チューブ51とシース33間の摩擦力が小さくなり、高温時に接着剤付熱収縮チューブ5と共に固定用熱収縮チューブ6がケーブル長手方向に沿って移動してしまい、接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれを抑制できなくなるおそれがある。また長さL4が12mmを超えると、ケーブルの止水構造4全体のサイズが大きくなり、配索レイアウトの自由度が低下してしまう。本実施の形態では、長さL4を10mmとした。
【0063】
(ワイヤハーネス2におけるケーブル3の分岐部分3aの説明)
図4(a)は、ワイヤハーネス2におけるケーブル3の分岐部分3aを示す斜視図であり、
図4(b)は分岐部ハウジングにコルゲートチューブと固定部材を設けた際の斜視図である。
【0064】
図4(a),(b)に示すように、ワイヤハーネス2では、接着剤付熱収縮チューブ5の固定用熱収縮チューブ6と反対側で電源線31と信号線32とが分岐されている。この分岐部分3aと、接着剤付熱収縮チューブ5の一部(固定用熱収縮チューブ6と反対側の端部)とを覆うように、分岐部ハウジング21が備えられている。
【0065】
分岐部ハウジング21は、電源線31及び信号線32の延出方向を維持した状態で電源線31及び信号線32を保持する役割と、チッピング等から分岐部分3aを保護する役割と、コルゲートチューブ22の端部を固定する役割と、固定部材23が取付けられる土台としての役割と、を兼ねた部材である。
【0066】
本実施の形態では、分岐部ハウジング21は、樹脂モールドからなり、金型を用いた樹脂成形により形成されている。分岐部ハウジング21に用いる樹脂としては、柔軟性及び耐久性に優れた軟質ポリウレタンを用いるとよい。
【0067】
本実施の形態においては、分岐部ハウジング21は、固定用熱収縮チューブ6を覆っていない。これは、固定用熱収縮チューブ6まで覆うように分岐部ハウジング21を成形すると、成形時の熱の影響により接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれ(つまり、上述の長さL2の減少やシース33からの脱落)が発生してしまうおそれがあるためである。詳細は後述するが、本実施の形態では、分岐部ハウジング21を成形する際の熱の影響を抑制するために、金型8で固定用熱収縮チューブ6の端部(接着剤付熱収縮チューブ5と固定用熱収縮チューブ6とが重なった部分)を押さえ込んだ状態で、金型内に樹脂を流し込み分岐部ハウジング21の成形を行う(
図9(b)参照)。
【0068】
なお、分岐部ハウジング21を設けると、この分岐部ハウジング21により接着剤付熱収縮チューブ5のケーブル長手方向に沿った移動(電源線31及び信号線32の延出側への移動)が規制されることになり、これにより上述の長さL2の減少やシース33からの脱落が抑制されることになる。しかし、分岐部ハウジング21の軟化温度を超える高温環境(例えば、軟質ポリウレタンが軟化する120℃以上の環境)においては、分岐部ハウジング21が軟化するため、分岐部ハウジング21により接着剤付熱収縮チューブ5のケーブル長手方向に沿った移動を規制することはできない。つまり、分岐部ハウジング21を設けるのみでは、高温時の接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれ(長さL2の減少やシース33からの脱落)を抑制することはできず、固定用熱収縮チューブ6は必須となる。
【0069】
分岐部ハウジング21は、分岐部分3aと接着剤付熱収縮チューブ5の一部とを覆う本体部21aと、本体部21aから延出される絶縁電線(電源線31及び信号線32)のそれぞれの延出部分を個別に、あるいは複数本の絶縁電線の延出部分の周囲を一括して覆う凸状の電線保護部21b,21cと、を一体に有している。本実施の形態では、一対の電源線31の周囲を一括して覆うように第1電線保護部21bを設け、一対の信号線32の周囲を一括して覆うように第2電線保護部21cを設けた。
【0070】
電線保護部21b,21cは、電源線31や信号線32が揺動された際に電源線31や信号線32に追随して揺動し、電源線31や信号線32の損傷を抑制する役割を果たしている。また、電線保護部21b,21cは、電源線31や信号線32を覆うコルゲートチューブ22の端部を保持する役割も果たしている。コルゲートチューブ22は、樹脂製の蛇腹状のチューブであり、チッピングにより電源線31や信号線32が損傷してしまうことを抑制するためのものである。コルゲートチューブ22は、分岐部ハウジング21から第1電源コネクタに至る一対の電源線31の全体、及び分岐部ハウジング21から車輪速センサ131に至る一対の信号線32の全体をそれぞれ覆うように設けられる。
【0071】
分岐部ハウジング21の本体部21aには、分岐部ハウジング21を車両1の任意の部分に固定するための固定部材23が取付けられる。本実施の形態では、固定部材23は、本体部21aを締結固定するバンド部23aと、車両1の任意の部分に固定するためのベース部23bと、を一体に備えている。なお、固定部材23の形状等は図示のものに限定されず、取付け対象となる部材の形状等にあわせて適宜変更可能である。また、分岐部ハウジング21にクリップ等を一体に設けて固定部材23としての役割を兼ねさせてもよい。固定部材23は、後輪12の回転に伴って回転せず、かつサスペンションスプリングの伸縮に伴って後輪12と共に車体10に対して上下動する非回転部材(例えばナックル)に固定される。
【0072】
(ワイヤハーネスの製造方法)
図5は、本実施の形態に係るワイヤハーネスの製造方法の手順を示すフロー図である。
【0073】
図5に示すように、本実施の形態に係るワイヤハーネスの製造方法は、ケーブル3の端末処理を行う端末処理工程S1と、接着剤付熱収縮チューブ5を取り付ける第1止水工程S2と、固定用熱収縮チューブ6を取り付けるチューブ固定工程S4と、分岐部ハウジング21を形成するハウジング形成工程S5と、を備えている。
【0074】
端末処理工程S1では、
図6に示すように、ケーブル3から所定長さのシース33を切り取り、一対の電源線31と一対の信号線32とを露出させる。
図6では、
図3(a)や
図4(a),(b)と対応させるために、一対の電源線31と一対の信号線32とを分岐させた状態で示しているが、端末処理工程S1の段階ではまだ分岐させずともよい。端末処理工程S1を行った後、第1止水工程S2を行う。
【0075】
第1止水工程S2では、まず、
図7(a),(b)に示すように、電源線31と信号線32の周囲に個別に円環状の接着剤52を配置する。この接着剤52は、接着剤付熱収縮チューブ5を収縮させる際に溶融して電源線31、信号線32、及び樹脂チューブ51の間の隙間に入りこみ、当該隙間を埋め封止する役割を果たす。本実施の形態では4心のケーブル3を用いる場合を示しているが、ケーブル3の心線数が3本以上である場合には、心線間の隙間が大きくなり接着剤付熱収縮チューブ5の接着剤層のみでは隙間を埋めることができないおそれがあるので、別途接着剤52を用いることが望ましい。
【0076】
円環状の接着剤52は、電源線31や信号線32の端末より挿入され、シース33に当接した状態で配置される。本実施の形態では、各絶縁電線(電源線31、信号線32)に個別に接着剤52を設けたが、複数本(例えば2本ずつ)の絶縁電線を一括して覆うように接着剤52を設けてもよい。また、接着剤52の形状は円環状に限定されず、例えば柱状の接着剤52を絶縁電線の間に配置してもよい。
【0077】
第1止水工程S2では、接着剤52を配置した後に、
図8(a)に示すように、接着剤付熱収縮チューブ5を、シース33の端部と当該端部から延出されている一対の電源線31と一対の信号線32の周囲を覆うように設け、接着剤付熱収縮チューブ5を加熱し収縮させる。
【0078】
本実施の形態では、接着剤付熱収縮チューブ5内に別途接着剤52を配置しているため、接着剤52を十分に溶融できる程度に長時間加熱すると、接着剤付熱収縮チューブ5の樹脂チューブ51が収縮し過ぎてしまい、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なる部分の長さL2が短くなってしまうおそれがある。
【0079】
そこで、
図8(b)に示すように、第1止水工程S2では、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なっている部分とケーブル3とを治具7により挟持した状態で、近赤外線を照射して加熱を行うようにした。これにより、接着剤52を十分に溶融できる程度に長時間加熱した場合であっても、接着剤付熱収縮チューブ5の位置ずれ(電源線31及び信号線32の延出側への移動)を抑制でき、上述の長さL2を十分に確保して防水性を確保できる。
【0080】
なお、治具7で挟持されている部分(接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なっている側の端部)の接着剤付熱収縮チューブ5(樹脂チューブ51)は、治具7により近赤外線が遮られて近赤外線が直接照射されないので、第1止水工程S2の段階ではほとんど収縮されていない状態となっている。近赤外線の照射を停止し加熱を終了すると、接着剤52及び接着剤付熱収縮チューブ5の接着剤が硬化し、樹脂チューブ51、電源線31、信号線32、及びシース33間の隙間が封止される。第1止水工程S2を行った後、第2止水工程S3を行う。
【0081】
第2止水工程S3では、
図9(a)に示すように、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33を覆っている部分と接着剤付熱収縮チューブ5から延出されているシース33の周囲を覆うように固定用熱収縮チューブ6を設け、固定用熱収縮チューブ6に近赤外線を照射して加熱し収縮させる。第2止水工程S3では、第1止水工程S3で治具7に挟持されていた部分の接着剤付熱収縮チューブ5(樹脂チューブ51)も収縮されることになる。
【0082】
本実施の形態では、固定用熱収縮チューブ6の収縮開始温度が、接着剤付熱収縮チューブ5の収縮開始温度よりも高いので、第2止水工程S3では、先に内側に配置されている接着剤付熱収縮チューブ5(樹脂チューブ51)が収縮し、その後固定用熱収縮チューブ6が収縮することになる。そのため、固定用熱収縮チューブ6の収縮により接着剤付熱収縮チューブ5が押し出されたり樹脂チューブ51に皺がよってしまったりすることがなく、より確実に防水性を確保できる。第2止水工程S3が終了すると、
図3(a),(b)の状態となり、ケーブルの止水構造4が得られる。第2止水工程S3を行った後ハウジング形成工程S4を行う。
【0083】
なお、本実施の形態では、接着剤付熱収縮チューブ5を収縮させる第1止水工程S2と固定用熱収縮チューブ6を収縮させる(接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なっている側の端部も収縮させる)第2止水工程S3とを別工程としたが、例えば2心のケーブルを用いる場合など接着剤52を別途追加する必要がない場合には、接着剤付熱収縮チューブ5と固定用熱収縮チューブ6とを同時に加熱し収縮させてもよい。つまり、第1止水工程S2と第2止水工程S3とが1工程で行われてもよい。ただし、第1止水工程S2と第2止水工程S3とを1工程で行った場合には、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33と重なる部分の長さL2がどの程度の長さとなっているかを視認することはできない。よって、長さL2を確実に確保し防水をとるという観点からは、第1止水工程S2と第2止水工程S3とを別工程とし、長さL2が規定の長さとなっていることを確認した後に固定用熱収縮チューブ6を取り付けることがより望ましいといえる。
【0084】
ハウジング形成工程S4では、一対の電源線31と一対の信号線32とが分岐する分岐部分3aと接着剤付熱収縮チューブ5の一部とを覆うように、樹脂をモールド成形して分岐部ハウジング21を形成する。
【0085】
ハウジング形成工程S4では、
図9(b)に示すように、接着剤付熱収縮チューブ5と固定用熱収縮チューブ6とが重なった部分を金型8で挟持した状態で、金型8に樹脂を流し込んでモールド成形を行う。このようにすることで、金型8の吸熱効果により溶融樹脂の熱の影響を低減できると共に、金型8の挟持により溶融樹脂の熱の影響で収縮しようとする接着剤付熱収縮チューブ5のケーブル長手方向に沿った移動(電源線31及び信号線32の延出側への移動)を規制して、接着剤付熱収縮チューブ5位置ずれを抑制できる。その後、金型8を離型し冷却すると、
図4(a)の状態となる。また、必要に応じてコルゲートチューブ22や固定部材23を取り付けると、
図4(b)の状態となる。以上により、ワイヤハーネス2が得られる。
【0086】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るケーブルの止水構造4では、内部に接着剤を有し、シース33の端部と当該端部から延出されている複数本の絶縁電線(電源線31及び信号線32)の周囲を覆うように設けられ収縮されている接着剤付熱収縮チューブ5と、内部に接着剤を有しておらず、接着剤付熱収縮チューブ5のシース33を覆っている部分と接着剤付熱収縮チューブ5から延出されているシース33の周囲を覆うように設けられ収縮されている固定用熱収縮チューブ6と、を備え、固定用熱収縮チューブ6の収縮開始温度が、接着剤付熱収縮チューブ5の収縮開始温度よりも高い。
【0087】
これにより、固定用熱収縮チューブ6を加熱し収縮させる際に、内側に配置された接着剤付熱収縮チューブ5を先に収縮させることが可能になり、固定用熱収縮チューブ6の収縮により接着剤付熱収縮チューブ5が押し出されて位置ずれが発生したり、樹脂チューブ51に皺がよってしまったりすることを抑止し、より確実に防水性を確保することが可能になる。
【0088】
本発明者が実際にワイヤハーネス2を作成し試験を行ったところ、140℃で1時間保持した後であっても、接着剤付熱収縮チューブ5がシース33から脱落せず、防水性を維持できていることが確認できた。
【0089】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0090】
[1]複数本の絶縁電線(31,32)と前記複数本の絶縁電線(31,32)を一括して覆うシース(33)とを有するケーブルの止水構造(4)であって、内部に接着剤を有し、前記シース(33)の端部と当該端部から延出されている前記複数本の絶縁電線(31,32)の周囲を覆うように設けられ収縮されている接着剤付熱収縮チューブ(5)と、内部に接着剤を有しておらず、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の前記シース(33)を覆っている部分と前記接着剤付熱収縮チューブ(5)から延出されている前記シース(33)の周囲を覆うように設けられ収縮されている固定用熱収縮チューブ(6)と、を備え、前記固定用熱収縮チューブ(6)の収縮開始温度が、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の収縮開始温度よりも高い、ケーブルの止水構造(4)。
【0091】
[2]前記固定用熱収縮チューブ(6)は、前記シース(33)よりも硬い材質からなる、[1]に記載のケーブルの止水構造(4)。
【0092】
[3]前記固定用熱収縮チューブ(6)の前記接着剤付熱収縮チューブ(6)と重なっていない部分のケーブル長手方向に沿った長さが1mm以上12mm以下であり、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)と前記固定用熱収縮チューブ(6)とのケーブル長手方向に沿った重なり長が1mm以上12mm以下である、[1]または[2]に記載のケーブルの止水構造(4)。
【0093】
[4]複数本の絶縁電線(31,32)と前記複数本の絶縁電線(31,32)を一括して覆うシース(33)とを有するケーブル(3)を備えたワイヤハーネス(2)であって、内部に接着剤を有し、前記シース(33)の端部と当該端部から延出されている前記複数本の絶縁電線(31,32)の周囲を覆うように設けられ収縮されている接着剤付熱収縮チューブ(5)と、内部に接着剤を有しておらず、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の前記シース(33)を覆っている部分と前記接着剤付熱収縮チューブ(5)から延出されている前記シース(33)の周囲を覆うように設けられ収縮されている固定用熱収縮チューブ(6)と、を備え、前記固定用熱収縮チューブ(6)の収縮開始温度が、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の収縮開始温度よりも高い、ワイヤハーネス(2)。
【0094】
[5]前記固定用熱収縮チューブ(6)は、前記シース(33)よりも硬い材質からなる、[4]に記載のワイヤハーネス(2)。
【0095】
[6]前記固定用熱収縮チューブ(6)の前記接着剤付熱収縮チューブ(5)と重なっていない部分のケーブル長手方向に沿った長さが1mm以上12mm以下であり、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)と前記固定用熱収縮チューブ(6)とのケーブル長手方向に沿った重なり長が1mm以上12mm以下である、[4]または[5]に記載のワイヤハーネス(2)。
【0096】
[7]前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の前記固定用熱収縮チューブ(6)と反対側で前記複数本の絶縁電線(31,32)が分岐されており、前記複数本の絶縁電線(31,32)が分岐する分岐部分(3a)と前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の一部とを覆う分岐部ハウジング(21)を備えた、[4]乃至[6]の何れか1項に記載のワイヤハーネス(2)。
【0097】
[8]前記分岐部ハウジング(21)は、樹脂モールドからなり、前記固定用熱収縮チューブ(6)を覆っていない、[7]に記載のワイヤハーネス(2)。
【0098】
[9]前記分岐部ハウジング(21)は、前記分岐部分(3a)と前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の一部とを覆う本体部(21a)と、前記本体部(21a)から延出されている前記絶縁電線(31,32)のそれぞれの延出部分を個別に、あるいは複数本の前記絶縁電線(31,32)の延出部分の周囲を一括して覆う凸状の電線保護部(21b,21c)と、を一体に有する、[7]または[8]に記載のワイヤハーネス(2)。
【0099】
[10]複数本の絶縁電線(31,32)と前記複数本の絶縁電線(31,32)を一括して覆うシース(33)とを有するケーブル(3)を備えたワイヤハーネス(2)の製造方法であって、内部に接着剤を有する接着剤付熱収縮チューブ(5)を、前記シース(33)の端部と当該端部から延出されている前記複数本の絶縁電線(31,32)の周囲を覆うように設け、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)を加熱し収縮させる第1止水工程(S2)と、内部に接着剤を有しておらず、収縮開始温度が前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の収縮開始温度よりも高い固定用熱収縮チューブ(6)を、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の前記シース(33)を覆っている部分と前記接着剤付熱収縮チューブ(5)から延出されている前記シース(33)の周囲を覆うように設け、固定用熱収縮チューブ(6)を加熱し収縮させる第2止水工程(S3)と、を備えた、ワイヤハーネスの製造方法。
【0100】
[11]前記第1止水工程(S2)では、前記複数の絶縁電線(31,32)の周囲に接着剤(52)を配置した後に、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)を設け、加熱により前記接着剤付熱収縮チューブ(5)を収縮させると共に前記接着剤(52)を溶融させる、[10]に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【0101】
[12]前記第1止水工程(S2)では、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の前記シース(33)と重なっている部分と前記ケーブル(3)とを治具(7)により挟持した状態で加熱を行う、[11]に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【0102】
[13]前記複数本の絶縁電線(31,32)が分岐する分岐部分(3a)と前記接着剤付熱収縮チューブ(5)の一部とを覆うように樹脂をモールド成形して分岐部ハウジング(21)を形成するハウジング形成工程(S4)を備え、前記ハウジング形成工程(S4)では、前記接着剤付熱収縮チューブ(5)と前記固定用熱収縮チューブ(6)とが重なった部分を金型(8)で挟持した状態で、前記樹脂のモールド成形を行う、[10]乃至[12]の何れか1項に記載のワイヤハーネスの製造方法。
【0103】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0104】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、本実施の形態では、一対の電源線31と一対の信号線32を有する4心のケーブル3を用いる場合を説明したが、絶縁電線の本数はこれに限定されず、2本、3本、あるいは5本以上であってもよい。また、ケーブル3の絶縁電線の全てが電源線31であってもよいし、ケーブル3の絶縁電線の全てが信号線32であってもよい。
【0105】
さらに、信号線32の用途は車輪速センサ131に限定されず、例えば、車輪11,12の空気圧を検出する空気圧センサに用いられるもの等であってもよく、用途の異なる複数系統の信号線32がケーブル3に備えられていてもよい。また、電源線31の用途は電動パーキングブレーキ装置130に電源を供給する用途に限らず、例えば電気機械式ブレーキ装置に電源を供給するものであってもよい。
【0106】
さらにまた、上記実施の形態では、分岐ハウジング21が樹脂モールドからなる場合について説明したが、分岐ハウジング21は、別途成形された部品(例えば2分割構成の部品)を分岐部分3aに取り付けて構成されてもよい。