(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載の従来の熱伝導シートは、専ら熱伝導性と柔軟性とを向上させることに着目したものであり、具体的には、所定の性状を有する樹脂を採用して、さらに熱伝導シート中における熱伝導性充填材の平均粒子径を200μm以上とすることで、良好な熱伝導性及び柔軟性を達成していた。
しかし、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、熱伝導シートに含まれる平均粒子径が200μm以上である熱伝導性充填材は、粒子径が大きいため樹脂との界面熱抵抗が相対的に少なく、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができる反面、一次シートの強度を低下させる虞があることが明らかとなった。一次シートの強度が低下すれば、熱伝導シートを作成する際に、一次シートを積層することや、一次シートを積層して得られた成形体をスライスすることが難しくなり、結果的に熱伝導シートの生産性が著しく低下する虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、熱伝導性が十分に高く、且つ生産効率の高い熱伝導シートを提供することを目的とする。また、本発明は、熱伝導性の高い熱伝導シートを効率的に製造し得る熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、熱伝導シートを製造する際に、樹脂及び所定の粒子径の炭素材料を含む組成物を用いることで一次シートの強度を高めて熱伝導シートを高効率で生産することができ、さらにかかる一次シートを用いて形成される熱伝導シートが熱伝導性に優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、樹脂及び個数基準のモード径が5μm以上50μm以下である炭素材料を含む条片が並列接合されてなり、厚み方向の熱伝導率が40W/m・K以上であることを特徴とする。このような熱伝導シートは、熱伝導性が十分に高く、さらに生産効率が高い。
ここで、本発明において、炭素材料の「個数基準のモード径」とは、炭素材料を含む所定の懸濁液について、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて懸濁液中に含まれる炭素材料の粒子径を測定して得られる、粒子径を横軸とし、炭素材料の個数を縦軸とする粒子径分布曲線の極大値における粒子径である。
また、本発明において「熱伝導率」は、熱伝導シートの熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)及び密度ρ(g/m
3)を用いて、下記式(I):
熱伝導率λ(W/m・K)=α×Cp×ρ ・・・(I)
より求めることができる。ここで、「熱拡散率」は熱物性測定装置を用いて測定することができ、「定圧比熱」は示差走査熱量計を用いて測定することができ、「密度」は自動比重計を用いて測定することができる。
【0010】
また、本発明の熱伝導シートは、前記炭素材料が粒子状炭素材料を含むことが好ましい。このような熱伝導シートは、熱伝導性及び生産効率を一層良好に両立することができる。
ここで、本発明において炭素材料が「粒子状」であるとは、炭素材料の長径/短径で求められる比率であるアスペクト比が少なくとも1以上10以下であることを意味する。
【0011】
また、本発明の熱伝導シートは、前記炭素材料が繊維状炭素材料をさらに含むことが好ましい。このような熱伝導シートは、熱伝導性が一層高い上に、強度も高く、さらに、粒子状炭素材料が粉落ちしにくい。
【0012】
また、本発明の熱伝導シートは、前記熱伝導シートの少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaが15μm以下であることが好ましい。このような熱伝導シートは、平滑であり、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した際に、熱伝導シートと、発熱体や放熱体などの取付物との間の密着性を高めることができ、発熱体と放熱体との間の熱伝導を促進することができる。
ここで、本発明において算術平均粗さRaは、表面粗さ計(ミツトヨ社製、「SJ−201」)を用いて測定することができる。
【0013】
また、本発明の熱伝導シートは、前記樹脂がフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂を用いることで、熱伝導シートの柔軟性を向上させることができ、熱伝導シートと、熱伝導シートの取付物との間の密着性を向上させることができるからである。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、上述した熱伝導シートの製造に用いられ、樹脂及び炭素材料を含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る工程と、前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程と、前記積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、熱伝導シートを得る工程と、を含むことを特徴とする。このような製造方法によれば、熱伝導性に優れる熱伝導シートを効率的に製造することができる。
【0015】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、上述した粒子状炭素材料を含む熱伝導シートの製造に用いられ、第一粒子径の炭素材料と樹脂とを混合して組成物を得る工程と、前記組成物を加圧してシート状に成形し、第二粒子径の前記炭素材料と前記樹脂とを含むプレ熱伝導シートを得る工程と前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程と、前記積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、前記第二粒子径の前記炭素材料と前記樹脂とを含む条片が並列接合されてなる熱伝導シートを得る工程と、を含み、前記第二粒子径は、個数基準のモード径であり、5μm以上50μm以下で、且つ、前記第一粒子径よりも小さいことが好ましい。
このような製造方法によれば、熱伝導性に優れる熱伝導シートを一層効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生産効率及び熱伝導性を十分に高いレベルで両立させた熱伝導シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。そして、本発明の熱伝導シートは、例えば本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。
【0018】
本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が40W/m・K以上と、熱伝導性に優れる。さらに、本発明の熱伝導シートは、かかる熱伝導シートを構成する条片が、樹脂及び個数基準のモード径が5μm以上50μm以下である炭素材料を含み、任意に、添加剤を更に含有する。熱伝導シートを構成する条片が、個数基準のモード径が5μm以上50μm以下である炭素材料を含むので高強度であり、熱伝導シートの製造時に条片同士を並列接合させる際の操作性に優れ、本発明の熱伝導シートは生産効率が高い。
【0019】
[樹脂]
ここで、樹脂としては、特に限定されることなく、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の樹脂を用いることができる。具体的には、樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができる。なお、本発明において、ゴム及びエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。また、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂とは併用してもよい。
【0020】
[[熱可塑性樹脂]]
なお、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2−エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物及びポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物などのフッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン−プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン−アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン−ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン−イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
[[熱硬化性樹脂]]
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上述した中でも、熱伝導シートの樹脂としては、フッ素樹脂を用いることが好ましい。フッ素樹脂を用いることで、熱伝導シートの柔軟性を向上させることができ、熱伝導シートと、熱伝導シートの取付物との間の密着性を向上させることができるからである。
【0023】
[炭素材料]
本発明の熱伝導シートに含有されている炭素材料は、個数基準のモード径で5μm以上50μm以下であり、好ましくは、粒子状炭素材料を含有する。
【0024】
[[炭素材料のモード径]]
本発明の熱伝導シートに含有されている炭素材料は、個数基準のモード径で5μm以上50μm以下である必要がある。好ましくは炭素材料の個数基準のモード径は40μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。ここで、一般的に、熱伝導シートの熱伝導性を向上させるためには、粒子間の界面抵抗を減らすために、平均粒子径が200μm以上である比較的大粒子径の炭素材料が用いられてきた。しかし、炭素材料のモード径が大きくなれば、熱伝導シートを構成する、樹脂と炭素材料とを含有する条片の強度が低下する傾向があった。このため、従来、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることと、条片の強度を向上させることとはトレードオフの関係にあった。しかし、本発明者らは、熱伝導シートを構成する条片に含有させる炭素材料のモード径を上記特定範囲内とすることで、熱伝導シートの熱伝導性と、条片の強度とを、高いレベルで両立させ得ることを見出した。具体的には、本発明において、熱伝導シートを構成する条片に含有させる炭素材料のモード径を5μm以上とすることで、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができる。さらに、本発明において、熱伝導シートを構成する条片に含有させる炭素材料のモード径を50μm以下とすることで、炭素材料の大きさに起因して熱伝導シートに含有される条片の強度が低下して、熱伝導シートの生産性が著しく低下することを回避することができ、さらに、条片の伸びを良好とすることができる。換言すれば、含有させる炭素材料の個数基準のモード径が50μm超である場合には、熱伝導シートの生産性を十分に高めることができない。
なお、熱伝導シート中に含有されている炭素材料のモード径は、後述する製造条件を調節することによって、任意に変更することができる。
【0025】
[[粒子状炭素材料]]
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;グラフェンなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができるからである。
【0026】
なお、本発明の熱伝導シートに含有されている粒子状炭素材料のアスペクト比(長径/短径)は通常、1以上10以下であり、1以上5以下であることが好ましい。なお、本発明において、「アスペクト比」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0027】
[[[膨張化黒鉛]]]
ここで、粒子状炭素材料として好適に使用し得る膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、本発明の熱伝導シートに配合する膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製の、EC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0028】
[[[グラフェン]]]
また、上述したように、粒子状炭素材料としてグラフェンを用いることもできる。ここで、本明細書において、グラフェンとは、炭素原子が1層から5層でハニカム状に配列してなる構造体である。粒子状炭素材料として使用しうるグラフェンの形状は、粒子状である限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる形状でありうる。また、上述した「薄片化黒鉛」は、グラフェンが5層超積層した構造を有する。グラフェンは、酸化された状態(酸化グラフェン)、水酸基などの官能基をもつ状態、また金属が担持された状態でもよい。
【0029】
グラフェン、酸化グラフェン、官能基を有するグラフェン、及び金属担持グラフェンとしては、必要に応じて、種々の処理が施されたものを用いることができる。かかる処理としては、ヒドラジンなどを用いた還元処理、マイクロ波処理、オゾン処理、プラズマ処理、及び酸素プラズマ処理、などが挙げられる。これらの処理は一種で、又は複数種を併用することができる。
【0030】
[[材料としての粒子状炭素材料のモード径]]
本発明の熱伝導シートの製造時に配合する材料としての粒子状炭素材料の大きさは、少なくとも個数基準のモード径が5μm以上のものであれば良い。なお、本発明の熱伝導シートの製造時に配合する材料としての粒子状炭素材料の「個数基準のモード径」は、熱伝導シートに配合された炭素材料のモード径と同様に、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。具体的には、熱伝導シートの形成に用いられる材料としての粒子状炭素材料をメチルエチルケトンに分散させた懸濁液を用い、前記懸濁液に含まれる粒子状炭素材料の粒子径を測定する。得られた粒子径を横軸とし、粒子状炭素材料の個数を縦軸とした粒子径分布曲線の極大値における粒子径を、材料としての粒子状炭素材料の個数基準のモード径として求めることができる。
【0031】
[[粒子状炭素材料の含有割合]]
そして、本発明の熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましい。熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有割合が30質量%以上90質量%以下であれば、熱伝導シートの生産性及び熱伝導性をバランス良く十分に高めることができるからである。また、粒子状炭素材料の含有割合が90質量%以下であれば、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。特に、高い熱伝導率を得るためには粒子状炭素材料の配合量を増加させる必要があるところ、粒子状炭素材料の配合量を増加させた場合、熱伝導シートを構成する条片の強度が下がり熱伝導シートの生産性が悪くなる傾向があった。しかしながら本発明では、粒子状炭素材料の含有割合を上記範囲内とすることで、熱伝導シートの生産性及び熱伝導性をバランス良く十分に高めることができる。
【0032】
[[繊維状炭素材料]]
本発明の熱伝導シートは、炭素材料が繊維状炭素材料をさらに含んでもよい。繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、それらの切断物、及びグラフェンなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、繊維状炭素材料としてグラフェンを熱伝導シートに含有させる場合には、形状が繊維状である限りにおいて特に限定されることなく、粒子状炭素材料として熱伝導シートに含有させうるグラフェンと同様の性状を有するグラフェンを使用することができる。
そして、本発明の熱伝導シートに繊維状炭素材料を含有させれば、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができると共に、熱伝導シート及び熱伝導シートを構成する条片の強度も向上させ、更に、熱伝導シートからの粒子状炭素材料の粉落ちを効果的に抑制することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や強度を高めつつ粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0033】
上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、本発明の熱伝導シートの熱伝導性及び熱伝導シートを構成する条片の強度を更に向上させることができるからである。
【0034】
[[[カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体]]]
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
【0035】
例えば、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、非円筒形状の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、例えば、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
【0036】
ここで、GNTは、その合成時から内壁同士が近接または接着したテープ状部分が全長に亘って形成されており、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成された物質であると推定される。そして、GNTの形状が扁平筒状であり、かつ、GNT中に内壁同士が近接または接着したテープ状部分が存在していることは、例えば、GNTとフラーレン(C60)とを石英管に密封し、減圧下で加熱処理(フラーレン挿入処理)して得られるフラーレン挿入GNTを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、GNT中にフラーレンが挿入されない部分(テープ状部分)が存在していることから確認することができる。
【0037】
なお、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ及び/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、本発明の熱伝導シートの熱伝導性を一層向上させ、並びに熱伝導シート及び熱伝導シートを構成する条片の強度を一層向上させることができるからである。
【0038】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることが更に好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、本発明の熱伝導シートの熱伝導性及び強度を十分に高めることができる。また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制して本発明の熱伝導シート中のCNTの分散性を高めることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0039】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物及びキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0040】
ここで、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。具体的には、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、上述したグラフェンナノテープ(GNT)が含まれていてもよい。
【0041】
[[繊維状炭素材料の性状]]
そして、熱伝導シートに含まれうる繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性を一層向上させ、さらに熱伝導シート及び熱伝導シートを構成する条片の強度を一層向上させることができる。また、繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導シートを構成する条片の伸びを良好なものとすることができる。ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比は、10を超えることが好ましい。
【0042】
なお、本発明において、「平均繊維径」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。特に、繊維径が小さい場合は、同様の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察することが好適である。
【0043】
[[繊維状炭素材料の含有割合]]
そして、本発明の熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が0.05質量%以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性及び強度を十分に向上させることができると共に、粒子状炭素材料の粉落ちを十分に防止することができるからである。更に、熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が5質量%以下であれば、繊維状炭素材料の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、本発明の熱伝導シートの熱伝導性を一層向上させると共に、熱伝導シートを構成する条片の強度及び伸びを十分に高いレベルで両立させることができるからである。
【0044】
[添加剤]
本発明の熱伝導シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、可塑剤;赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。
【0045】
上述した中でも、熱伝導シートには、リン酸エステル系難燃剤を配合することが好ましい。熱伝導シートにリン酸エステル系難燃剤を配合すれば、熱伝導シートの難燃性を効率的に向上させることができる。
【0046】
[熱伝導シートの性状]
[[厚み方向の熱伝導率]]
そして、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、40W/m・K以上である必要がある。熱伝導率が40W/m・K以上であれば、熱伝導シートとしての熱伝導性が十分に高く、例えば熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。
【0047】
[[算術平均粗さRa]]
さらに、本発明の熱伝導シートは、少なくとも一方の主面(厚み方向に直交する面)の算術平均粗さRaが15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましい。本発明の熱伝導シートの少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaの値を15μm以下とすることで、取付物への密着性を高めることができる。さらに、本発明の熱伝導シートは、両主面の算術平均粗さRaが上記数値範囲を満たすことが好ましい。両主面の算術平均粗さRaの値が上記上限値以下とすれば、取付物への密着性を一層高めることができる。
【0048】
[[熱伝導シートの厚み]]
なお、熱伝導シートの厚みは、好ましくは0.1mm〜10mmである。
【0049】
(熱伝導シートの製造方法)
そして、上述した熱伝導シートは、特に限定されることなく、樹脂及び炭素材料を含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る工程(プレ熱伝導シート成形工程)と、プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程(熱伝導シート積層体形成工程)と、得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、熱伝導シートを得る工程(スライス工程)と、を含む製造方法により製造することができる。
【0050】
<プレ熱伝導シート成形工程>
プレ熱伝導シート成形工程では、樹脂及び炭素材料を含み、任意に添加剤を更に含有する組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0051】
[樹脂及び炭素材料を含む組成物]
ここで、樹脂及び炭素材料を含む組成物は、樹脂及び炭素材料と、任意の添加剤とを攪拌混合して調製することができる。そして、樹脂、炭素材料、及び添加剤としては、本発明の熱伝導シートに含まれ得る樹脂、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料、及び添加剤として上述したものを用いることができる。特に、本発明の熱伝導シートに含有されうる粒子状炭素材料は、プレ熱伝導シート成形工程における攪拌混合等の影響により解砕されて粒子径が変化し得る。すなわち、本発明の熱伝導シートの製造時に配合されうる材料としての粒子状炭素材料の粒子径である第一粒子径に対し、プレ熱伝導シートには、当該第一粒子径よりも小さい第二粒子径の粒子状炭素材料が含まれ得る。なお、第二粒子径は、個数基準のモード径であり、5μm以上50μm以下である。また、第一粒子径も個数基準のモード径でありうる。
【0052】
因みに、熱伝導シートの樹脂を架橋型の樹脂とする場合には、架橋型の樹脂を含む組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成してもよいし、架橋可能な樹脂と硬化剤とを含有する組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成し、プレ熱伝導シート成形工程後に架橋可能な樹脂を架橋させることにより、熱伝導シートに架橋型の樹脂を含有させてもよい。
【0053】
なお、攪拌混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー、二軸混錬機等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、攪拌混合は、酢酸エチルやメチルエチルケトン等の溶媒の存在下で行ってもよい。そして、攪拌混合条件は、材料としての炭素材料の粒子径、熱伝導シート中における炭素材料の目標とする粒子径、及び用いる樹脂の種類等に基づいて、熱伝導シート中における炭素材料のモード径が5μm以上50μm以下となるように、任意に決定することができる。例えば、当該攪拌混合条件は、後述の実施例を参照して適宜設定することができる。また、攪拌混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0054】
[[樹脂及び炭素材料を含む組成物の成形]]
そして、上述のようにして調製した樹脂及び炭素材料を含む組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。ここで、炭素材料のモード径は、解砕時に調整することもできる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0055】
ここで、樹脂及び炭素材料を含む組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形によりシート状に形成することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、離型性に優れた離型ポリエチレンテレフタレートフィルムやサンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃とすることができる。
【0056】
なお、組成物に繊維状炭素材料を含有させる場合には、繊維状炭素材料の分散性を向上させるために以下の処理をすることが好ましい。まず、繊維状炭素材料は、凝集し易く、分散性が低いため、そのままの状態で樹脂などの他の成分と混合すると、組成物中で良好に分散し難い。一方、繊維状炭素材料は、溶媒(分散媒)に分散させた分散液の状態で他の成分と混合すれば凝集の発生を抑制することはできるものの、分散液の状態で混合した場合には混合後に固形分を凝固させて組成物を得る際などに多量の溶媒を使用するため、組成物の調製に使用する溶媒の量が多くなる虞が生じる。そのため、プレ熱伝導シートの形成に用いる組成物に繊維状炭素材料を配合する場合には、繊維状炭素材料は、溶媒(分散媒)に繊維状炭素材料を分散させて得た分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素材料の集合体(易分散性集合体)の状態で他の成分と混合することが好ましい。ここで、易分散性集合体の調製に用いる分散液としては、特に限定されることなく、既知の分散処理方法を用いて繊維状炭素材料の集合体を溶媒に分散させてなる分散液を用いることができる。具体的には、分散液としては、繊維状炭素材料と、溶媒とを含み、任意に分散剤などの分散液用添加剤を更に含有する分散液を用いることができる。
【0057】
繊維状炭素材料の分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素材料の集合体は、一度溶媒に分散させた繊維状炭素材料で構成されており、溶媒に分散させる前の繊維状炭素材料の集合体よりも分散性に優れているので、分散性の高い易分散性集合体となる。従って、易分散性集合体と他の成分とを混合すれば、多量の溶媒を使用することなく効率的に、組成物中で繊維状炭素材料を良好に分散させることができる。即ち、熱伝導シートを製造する際には、プレ熱伝導シート成形工程の前に易分散性集合体調製工程を含むことが好ましい。
【0058】
[[プレ熱伝導シート]]
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、炭素材料が主として面内方向に配列し、特にプレ熱伝導シートの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。さらに、組成物が繊維状炭素材料を含有する場合には、プレ熱伝導シート中において繊維状炭素材料も配向するため、プレ熱伝導シートの熱伝導性は一層向上すると推察される。
なお、プレ熱伝導シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させる観点からは、プレ熱伝導シートの厚みは、熱伝導シート中における炭素材料の個数基準のモード径の5倍超5000倍以下であることが好ましく、400倍以下であることがより好ましい。
さらに、プレ熱伝導シートの主面のRa値は10μm以上15μm以下であることが好ましい。プレ熱伝導シートの主面のRa値がかかる範囲内であれば、プレ熱伝導シートを積層させた際にプレ熱伝導シート間の密着性を向上させることができ、プレ熱伝導シートの積層体をスライスして得られた熱伝導シートの平滑性を一層向上させることができる。
【0059】
[積層体形成工程]
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に限定されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に限定されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0060】
ここで、通常、積層体形成工程で得られる積層体において、プレ熱伝導シートの表面同士の接着力は、プレ熱伝導シートを積層する際の圧力や折畳または捲回する際の圧力により充分に得られる。しかし、接着力が不足する場合や、積層体の層間剥離を十分に抑制する必要がある場合には、プレ熱伝導シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体形成工程を行ってもよいし、プレ熱伝導シートの表面に接着剤を塗布した状態またはプレ熱伝導シートの表面に接着層を設けた状態で積層体形成工程を行ってもよい。
【0061】
なお、プレ熱伝導シートの表面を溶解させる際に用いる溶剤としては、特に限定されることなく、プレ熱伝導シート中に含まれている樹脂成分を溶解可能な既知の溶剤を用いることができる。
【0062】
また、プレ熱伝導シートの表面に塗布する接着剤としては、特に限定されることなく、市販の接着剤や粘着性の樹脂を用いることができる。中でも、接着剤としては、プレ熱伝導シート中に含まれている樹脂成分と同じ組成の樹脂を用いることが好ましい。そして、プレ熱伝導シートの表面に塗布する接着剤の厚さは、例えば、10μm以上1000μm以下とすることができる。
更に、プレ熱伝導シートの表面に設ける接着層としては、特に限定されることなく、両面テープなどを用いることができる。
【0063】
なお、層間剥離を抑制する観点からは、得られた積層体は、積層方向に0.05MPa以上1.0MPa以下の圧力で押し付けながら、20℃以上100℃以下で1〜30分プレスすることが好ましい。
【0064】
なお、組成物に繊維状炭素材料を加えた場合、あるいは粒子状炭素材料として膨張化黒鉛を使用した場合には、プレ熱伝導シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体にて、膨張化黒鉛や繊維状炭素材料が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
【0065】
[スライス工程]
スライス工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。ナイフ加工法にて用いるナイフの形状は片刃、両刃、非対称刃いずれでもよいが、厚み精度を出す観点から片刃が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0066】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0067】
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は−20℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上30℃以下とすることがより好ましい。更に、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。このようにして得られた熱伝導シート内では、粒子状炭素材料や繊維状炭素材料が厚み方向に配列していると推察される。従って、上述の工程を経て調製された熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導性だけでなく、導電性も高い。得られた熱伝導シートでは、材料として粒子径の大きい炭素材料を使った場合でも、撹拌混合や解砕によって炭素材料が破砕されて、炭素材料のモード径が5μm以上50μm以下になっている。また、スライス工程を経て得られた熱伝導シートは、通常、樹脂とモード径が5μm以上50μm以下の炭素材料とを含む条片(積層体を構成していたプレ熱伝導シートのスライス片)が並列接合されてなる構成を有する。
【0068】
なお、熱伝導シートを構成する粒子状炭素材料及び/又は繊維状炭素材料としてグラフェンを使用しうる。粒子状炭素材料及び/又は繊維状炭素材料としてグラフェンを使用するにあたり、既知のあらゆる導入方法を経て、熱伝導シートに対してグラフェンを導入することができる。例えば、導入方法としては、樹脂及び炭素材料を含む組成物の調製に当たり、粒子状炭素材料及び/又は繊維状炭素材料として、グラフェンをそのまま、或いは溶媒に分散させて得たグラフェン分散液として、或いは、かかるグラフェン分散液から溶媒を除去して得たグラフェンの集合体として配合することが挙げられる。この際に使用しうる溶媒としては、グラフェンを良好に分散可能である限りにおいて特に限定されることなく、水、アルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、及びメチルエチルケトン等のケトン類等の一般的な極性溶媒を使用することができる。
或いは、上述した製造工程中で得られたプレ熱伝導シートに対してグラフェン分散液を塗布することによっても熱伝導シートに対してグラフェンを導入することができる。
導入にかかる操作の容易性を向上して、熱伝導シートの製造効率を向上させる観点から、樹脂及び炭素材料を含む組成物の調製時に、グラフェンをそのまま配合することが好ましい。
【0069】
さらに、グラフェンを含有する熱伝導シートに対して、任意で、グラフェンの物性を向上させるための後処理を施すことができる。ここで、後処理としては、加熱処理、光照射、電磁波照射、化学品を用いた表面洗浄処理等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例及び比較例において、炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRa、並びにプレ熱伝導シートの強度及び伸びは、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。また、実施例において使用したフッ素樹脂溶液、及び易分散性集合体は以下のようにして調製した。
【0071】
<熱伝導シート中における炭素材料のモード径>
実施例、比較例にて得られた熱伝導シート3gを、メチルエチルケトン6gに添加し、スターラーで5分間撹拌した。目視により、メチルエチルケトン中にシート状のものが存在しないことを確認し、得られた懸濁液を試験液とした。
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA−960」)を用いてこれらの懸濁液中に含まれる炭素材料の粒子径を測定した。そして、横軸を粒子径、縦軸を炭素材料の個数とした粒子径分布曲線を得て、その極大値における粒子径を、炭素材料の個数基準のモード径として求めた。
【0072】
<厚み方向の熱伝導率>
熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)及び密度ρ(g/m
3)を以下の方法で測定した。各種測定の温度は25℃とした。
[熱拡散率]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して測定した。
[定圧比熱]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、比熱を測定した。
[熱伝導シートの密度]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER−H」)を用いて測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0073】
<プレ熱伝導シートの強度及び伸び>
プレ熱伝導シートを20mm×80mmのサイズで打ち抜いたものを試験片とした。得られた試験片について、小型卓上試験機(日本電産シンポ社製、「FGS-500TV」、デジタルフォースゲージとしてFGP-50を使用)を用いて、引張速度を20mm/分とした引張試験を行った。なお、チャック間距離は60mmとした。引張試験時における最大強度(N)を試験体の厚み(mm)で除して、プレ熱伝導シートの強度(N/mm)を算出した。また、引張試験時における試験片の最大長さから、試験前の試験片の長さ(80mm)を減じて、プレ熱伝導シートの伸び(mm)を算出した。
【0074】
<算術平均粗さRa>
実施例、比較例にて得られた熱伝導シートの両主面の算術平均粗さ(Ra)を、表面粗さ計(ミツトヨ社製、「SJ−201」)を用いて測定した。
【0075】
(フッ素樹脂溶液の調製)
フッ素樹脂としてのフッ素ゴム(ダイキン工業社製、「Daiel−G912」)30gを鋏で切り刻んで米粒大とし、メチルエチルケトン60gに投入して3時間撹拌することにより均一に溶解した。目視でフッ素ゴムが確認されなくなったものをフッ素樹脂溶液とした。
【0076】
(繊維状炭素材料の易分散性集合体の調製)
<繊維状炭素材料の調製>
繊維状炭素材料として、国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法によってSGCNTを準備した。
得られたSGCNTの比表面積は800m
2/gであった。
<繊維状炭素材料の易分散性集合体の調製>
約400mgの繊維状炭素材料を、2Lのメチルエチルケトンと混合し、ホモジナイザーにより2分間撹拌することにより、SGCNT/メチルエチルケトン分散溶液を作製した。この溶液を湿式ジェットミル(株式会社常光製、商品名「JN-20」)を用い、100MPaの圧力で0.5mmの流路を2サイクル通過させて繊維状炭素材料(SGCNTの集合体)をメチルエチルケトンに分散させ、カーボンナノチューブマイクロ分散液を得た。このカーボンナノチューブマイクロ分散液の濃度は0.20%、中心粒子径は24.1μmであった。中心粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式LA960)を用いて測定した。そして、得られたカーボンナノチューブマイクロ分散液をろ紙(桐山社製、No.5A)を用いて減圧ろ過し、繊維状炭素材料の易分散性集合体(不織布シート)を得た。
【0077】
(実施例1)
<熱伝導シートの製造>
上述のようにして調製した繊維状炭素材料の易分散性集合体を1部と、粒子状炭素材料としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、個数基準のモード径(測定値):110μm)を130部と、上述のようにして調製したフッ素樹脂溶液を80部(固形分相当)と、難燃材としてリン酸エステル系難燃材(大八化学工業株式会社製、「PX−110」)を10部とを、溶媒としての酢酸エチル900部の存在下においてホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて回転数目盛を6として180分間攪拌混合した。そして、得られた混合物を1時間真空脱泡し、脱泡と同時に溶媒の除去を行って、繊維状炭素材料(SGCNT)と、粒子状炭素材料である膨張化黒鉛と、フッ素樹脂とを含有する組成物を得た。そして、得られた組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙330μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ0.3mmのプレ熱伝導シートを得た。得られたプレ熱伝導シートを用いて、プレ熱伝導シートの強度及び伸びを算出した。結果を表1に示す。
そして、得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に100枚積層し、厚さ3cmの積層体を得た後に、得られた積層体を手押しにて圧縮し、密着させた。積層体のサイズを縦6cm、横6cm、高さ3cmに調整した後、カッター(オルファ株式会社製、品番「LBB50K」の刃を使用)を、プレ熱伝導シートの主面の法線方向に対して±3度以下の角度から2mm/分の速度でスライスし、縦6cm×横3cm×厚さ0.1cmの熱伝導シートを得た。スライス時の積層体の温度は25℃であった。
得られた熱伝導シートを用いて、上述の方法に従って、熱伝導シート中における炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRaを測定又は算出した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
ホバートミキサーを用いた攪拌混合時間を120分間に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートを用いて、上述の方法に従って、熱伝導シート中における炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRaを測定又は算出した。また、上述の方法に従って、さらにプレ熱伝導シートの強度及び伸びを算出した。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
ホバートミキサーを用いた攪拌混合時間を60分間に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートを用いて、上述の方法に従って、熱伝導シート中における炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRaを測定又は算出した。また、上述の方法に従って、さらにプレ熱伝導シートの強度及び伸びを算出した。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
ホバートミキサーを用いた攪拌混合時間を30分間に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートを用いて、上述の方法に従って、熱伝導シート中における炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRaを測定又は算出した。また、上述の方法に従って、さらにプレ熱伝導シートの強度及び伸びを算出した。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
ホバートミキサーを用いた攪拌混合時間を5分間に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートを用いて、上述の方法に従って、熱伝導シート中における炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRaを測定又は算出した。また、上述の方法に従って、さらにプレ熱伝導シートの強度及び伸びを算出した。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
ホバートミキサーを用いた攪拌混合時間を360分間に変更した以外は実施例1と同様にして、熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートを用いて、上述の方法に従って、熱伝導シート中における炭素材料のモード径、並びに、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率及び算術平均粗さRaを測定又は算出した。また、上述の方法に従って、さらにプレ熱伝導シートの強度及び伸びを算出した。結果を表1に示す。
【0083】
なお、表1中、「SGCNT」は、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを指す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、樹脂及び個数基準のモード径が5μm以上50μm以下である炭素材料を含む条片が並列接合されてなり、厚み方向の熱伝導率が40W/m・K以上である実施例1〜3の熱伝導シートでは、炭素材料の個数基準のモード径が50μm超である比較例1及び2、及び炭素材料の個数基準のモード径が5μm未満であり厚み方向の熱伝導率が40W/m・K未満である比較例3の熱伝導シートと比較し、熱伝導性とプレ熱伝導シートの強度とを十分に高いレベルで両立させ得ることが分かる。そして、プレ熱伝導シートの強度が十分に高い実施例1〜3の熱伝導シートは、生産性が高い。