(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極板は、負極材によって構成される負極材充填部と、前記負極材充填部を支持する負極材支持部、当該負極材支持部の上側に帯状に形成された上部周縁部及び当該上部周縁部に設けられた耳部を有する負極集電体と、を有し、
前記耳部の表面が、Sn又はSn合金を含む表面層で構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池の製造方法。
前記隔壁は、平坦部と、前記平坦部から隆起した、前記電槽の高さ方向に延びる複数のリブ部と、前記領域の入口側に設けられており前記平坦部から前記リブ部に至る傾斜部とを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池の製造方法。
前記負極板は、負極材によって構成される負極材充填部と、前記負極材充填部を支持する負極材支持部、当該負極材支持部の上側に帯状に形成された上部周縁部及び当該上部周縁部に設けられた耳部を有する負極集電体と、を有し、
前記耳部の表面が、Sn又はSn合金を含む表面層で構成されている、請求項7〜10のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池。
前記隔壁は、平坦部と、前記平坦部から隆起した、前記電槽の高さ方向に延びる複数のリブ部と、前記領域の入口側に設けられており前記平坦部から前記リブ部に至る傾斜部とを有する、請求項7〜11のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中において、「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。本明細書中において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書中に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書中において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。比重は温度によって変化するため、本明細書においては、20℃で換算した比重と定義する。
【0025】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して、本開示に係る液式鉛蓄電池の実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0026】
<液式鉛蓄電池>
本実施形態に係る液式鉛蓄電池(以下、単に「鉛蓄電池」ともいう)は、一つ又は複数の隔壁によって二つ以上の領域に区切られた電槽と、二つ以上の領域にそれぞれ収容されており、複数の正極板と複数のセパレータと複数の負極板とを含む極板群と、電槽内に収容された電解液と、を備える。領域の幅をXmmとし、極板群の厚さをYmmとすると、XとYは以下の条件式を満たす。
−1.1≦X−Y≦1.2
【0027】
本実施形態に係る液式鉛蓄電池の基本構成としては、従来の液式鉛蓄電池と同様の構成を用いることができる。
図1は本実施形態に係る鉛蓄電池(液式鉛蓄電池)1の斜視図であり、
図2は鉛蓄電池1の内部構造を示す図である。これらの図に示すとおり、鉛蓄電池1は、上面が開口して複数の極板群11が収容される電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。蓋3は、例えば、ポリプロピレン製となっており、正極端子4と、負極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とを備えている。電槽2の内部には、極板群11と、極板群11を負極端子5に接続する負極柱18と、極板群11を正極端子4に接続する正極柱(不図示)と、電解液(不図示)とが収容されている。
【0028】
(電槽)
図3は、電槽を示す斜視図である。
図4は、
図3のIV−IV線における断面図である。
図3及び
図4に示すように、電槽2の内部は、5枚の隔壁51によって6区画に分割されて、6つの領域(セル室)52が形成されている。すなわち、電槽2は、5枚の隔壁51を有し、当該隔壁51によって区切られた6つの領域(セル室)52を有する。
【0029】
各領域52は、極板群11がそれぞれ挿入される空間である。極板群11は、単電池とも呼ばれており、起電力は2Vである。自動車用の電装品は、直流電圧12Vを昇圧又は降圧して駆動するため、6個の極板群11を直列に接続して、2V×6=12Vとしている。そのため、鉛蓄電池1を自動車用の電装品として用いる場合、領域52は6個必要となる。なお、鉛蓄電池1を他の用途で用いる場合は、領域52の数は6個に限定されるものではない。
【0030】
図3及び
図4に示すように、隔壁51の両側面と、電槽2の隔壁51と対向する一対の内壁面50とには、電槽2の高さ方向に延びる複数のリブ(リブ部)53が設けられていてよい。すなわち、隔壁51は、平坦部54と、平坦部54から隆起した電槽2の高さ方向に延びる複数のリブ53と、を有していてよい。リブ53は、領域52に挿入された極板群11を、極板群11の積層方向(電槽2に極板群11を格納した場合における正極板12及び負極板13の積層方向)において適切に加圧(圧縮)する機能を有する。リブ53の高さは、領域52の幅Xが所定の値となるように設定されてよい。また、隔壁51は、領域52の入口側に設けられており平坦部54からリブ部53に至る傾斜部55を更に有してもよい。電槽2の隔壁51にリブ部53と傾斜部55とを設けることで、電槽2の領域52に極板群11を収容する作業をしやすくなるとともに、極板群11に対して圧縮力を付与しやすくなる。
【0031】
電槽2は、極板群11を収納しやすい観点から、上面が開放された箱体であることが好ましい。この場合、箱体の上面は蓋3によって覆われる。なお、箱体と蓋3との接着には、接着剤、熱溶着、レーザ溶着、超音波溶着等を適宜用いることができる。電槽2の形状としては、特に限定されるものではないが、電極(板状体である極板等)の収納時に無効空間が少なくなるように方形のものが好ましい。
【0032】
電槽2の材質は、特に制限されるものではないが、電解液(希硫酸等)に対し耐性を有するものである必要がある。電槽2の材質の具体例としては、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂等が挙げられる。材質がPPであると、耐酸性、コストの面で有利である。また、ABS樹脂では電槽2と蓋3の熱溶着が困難となりやすいことから、材質がPPであると加工性の面でも有利である。電槽2が、上面が開放された箱体である場合、電槽2及び蓋3の材質は、互いに同一の材質であってもよく、互いに異なる材質であってもよい。無理な応力が発生しない観点からは、熱膨張係数の等しい材質が好ましい。
【0033】
(極板群)
図5は極板群の一例を示す斜視図である。
図2及び
図5に示すとおり、極板群11は、複数の極板(複数の正極板12及び複数の負極板13)と複数のセパレータとを含み、正極板12と負極板13は、セパレータを介して積層されることにより極板群11を構成している。極板群11は、例えば、正極板12と、負極板13と、袋状のセパレータ14と、正極側ストラップ15と、負極側ストラップ16と、セル間接続部17又は極柱18とを備えている。
【0034】
[電極板]
図6は、電極板(正極板12又は負極板13)を示す正面図である。
図7は、
図6のVII−VII線における断面図であり、
図7(a)は正極板12の断面を図示したものであり、
図7(b)は負極板13の断面を図示したものである。
図8は、集電体(正極集電体21又は負極集電体31)を示す正面図である。
図6及び
図8において、カッコ書きした符号は負極板13の構成を示している。
【0035】
電極板(正極板12及び負極板13)は、例えば、電極材(正極材23及び負極材33)によって構成される電極材充填部(正極材充填部24及び負極材充填部34)と、電極材充填部を支持する集電体(正極集電体21及び負極集電体31)と、を備える。電極板のうち、電極材が充填された部分が電極材充填部(
図6において砂地状にハッチングした部分)となる。
【0036】
集電体(正極集電体21及び負極集電体31)は電極材(正極材23及び負極材33)への電流の導電路を構成するものである。
図8(a)及び
図8(b)に示すように、集電体は、例えば、電極材を支持する電極材支持部(正極材支持部21a及び負極材支持部31a)と、電極材支持部の上側に帯状に形成された上側フレーム部(正極集電体の上部周縁部21b及び負極集電体の上部周縁部31b)と、上側フレーム部に設けられた耳部(正極耳部22及び負極耳部32)とを有する。電極材支持部の外形は例えば矩形(長方形又は正方形)であり、格子状に形成されている。電極材支持部は、
図8(b)に示すように、下方の隅部が切り落とされた形状であってもよい。耳部は、例えば、集電体の上側フレーム部から上方に突出するように設けられている。なお、耳部は、集電部(正極集電部及び負極集電部)と言い換えてよい。
【0037】
集電体の組成としては、例えば、鉛−カルシウム−錫合金、鉛−カルシウム合金及び鉛−アンチモン合金が挙げられる。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより集電体を得ることができる。なお、
図8に示す集電体は、エキスパンド格子体である。
【0038】
図7(b)に示すように、負極集電部32の表面は、Snを含む表面層32aによって構成されていることが好ましい。この場合、負極集電体31の表面層32a以外の組成は、正極集電体21と同様であってよい。負極集電部32の表面の少なくとも一部が、実質的にSn(スズ)を含むことで、電解液の減少をより十分に抑制できるとともに耳痩せ現象を抑制できる傾向がある。負極集電部32の表面の少なくとも一部が、実質的にSn(スズ)を含むことで、電解液の減少をより十分に抑制できる原因は、明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、負極集電部32の表面の鉛の露出が少なくなることで局部電池を形成しにくくなり、局部電池作用による腐食が抑制される。その結果、腐食された負極集電部32の表面で生じる電解液の電気分解が抑制されるため、電解液の減少をより十分に抑制できると推察される。表面層は、Sn以外にPbを主要に含んでいてもよい。表面層は、Sn合金を含んでいてよい。
【0039】
Snの含有量は、耳痩せ現象をより抑制できる観点から、表面層の全質量を基準として、例えば、4質量部以上であり、9質量部以上、30質量部以上又は50質量部以上であってもよい。耳痩せ現象をより抑制できる観点及び製造上の観点からは、100質量部であってもよい。なお、Snの含有量が100質量部である場合、すなわち、表面層32aがSnからなる場合は、表面層32aはSnの他に不可避的な不純物を含んでいてもよい。このような不純物としては、例えば、Ag、Al、As、Bi、Ca、Cd、Cu、Fe、Ni、Sb、Zn等が挙げられる。
【0040】
なお、負極集電部32の全体が表面層32aで覆われていることが好ましいが、表面層32aが設けられていない箇所が存在していてもよい。例えば、負極集電部32においてその一方の主面にのみ表面層32aが設けられていてもよい。
【0041】
表面層32aを有する負極集電体31は、例えば表面層32aを形成すること以外は、正極集電体21と同様の方法により作製することができる。負極集電体31を作製する方法は、例えば、正極集電体21と同様の方法により集電体を作製する工程と、その後に所定の箇所に表面層32aを形成する工程とを含んでもよく、あるいは、予め表面層32aが形成された合金板を準備する工程と、この合金板を加工することによって負極集電体31を得る工程とを含んでもよい。
【0042】
表面層32aを形成する方法としては、例えば、圧延法、溶融メッキ法等が挙げられる。圧延法とは、表面層32aが形成される材料(例えば、金属板、合金板等)と、表面層32aを形成する材料(例えばSnを含むシート)とを重ね合わせて、これらを圧延する方法である。一方、溶融メッキ法とは、表面層32aを形成する材料(Snを含む材料)が溶融した溶融槽に、表面層32aを形成すべき箇所を浸漬させてメッキする方法である。本実施形態では、これらの方法のうち、圧延法が好ましい。
【0043】
圧延法により表面層32aを形成する方法は、例えば、以下のような方法であってもよい。まず、板状の鉛合金(基材)の両面に、表面層32aを形成するためのSnシートを重ね合わせた後、これを圧延ローラで圧延して圧延シートを作製する(圧延シートを作製する工程)。次に、負極集電体31の負極集電部32となる領域に表面層32aが形成されるように圧延シートの位置を調整しながら、圧延シートをエキスパンド機により展開する(エキスパンド法)。これにより、表面層32aを有する負極集電体31が得られる。なお、この圧延法においては、基材となる合金の厚さ、表面層32aとなるシートの厚さ、及び/又は圧延後のシートの厚さを調整することによって、表面層32aの厚さを容易に調節可能である。圧延後の表面層32aの厚さdは、製造上の観点から、例えば、10〜60μmであってよい。
【0044】
[セパレータ]
本実施形態に係るセパレータは、例えば、ガラス、パルプ、及び合成樹脂から選ばれる少なくとも1種からなるセパレータであってよい。また、本実施形態に係るセパレータは、可撓性を有するセパレータであってよい。前記セパレータの中でも、短絡をより抑制できる観点及び可撓性を有することにより極板群の圧縮が容易である観点から、合成樹脂を用いることが好ましい。更に、前記合成樹脂の中でも特に、ポリオレフィンが好ましい。以下、本実施形態のセパレータの一態様を、
図9〜
図11を用いて説明する。
【0045】
図9は、袋状のセパレータ14と、袋状のセパレータ14に収容される電極板(例えば負極板13)とを示す図面である。
図10(a)は、袋状のセパレータ14の作製に用いるセパレータ40を示す正面図であり、
図10(b)は、セパレータ40の断面図である。
図11は、セパレータ40及び電極板(正極板12及び負極板13)の断面図である。
【0046】
本実施形態では、セパレータとして、セパレータ40をそのまま用いてもよいが、
図9に示すように、正極板12及び負極板13の少なくとも一方の電極板を収容できるように袋状のセパレータ14を用いることが好ましい。例えば、正極板12及び負極板13のうちの一方が袋状のセパレータ14に収容され、且つ、正極板12及び負極板13のうちの他方と交互に積層されている態様が好ましい。袋状のセパレータ14を正極板12に適用した場合、正極集電体21の伸びにより正極板12がセパレータを貫通する可能性があることから、負極板13が袋状のセパレータ14に収容されていることが好ましい。また、セパレータは、
図9に示すように、凸状のリブと、当該リブを支持するベース部と、を有することが好ましい。
【0047】
図10に示すセパレータ40は、平板状のベース部41と、凸状(例えば線状)の複数のリブ42と、ミニリブ43とを備えている。ベース部41は、リブ42及びミニリブ43を支持している。セパレータ40がリブ42を有する場合、極板間距離をより厳密に設定することができるとともに、電極板の表面と電解液との接触性を向上させることができる。リブ42は、セパレータ40の幅方向における中央において、セパレータ40の長手方向に延びるように複数(多数本)形成されている。複数のリブ42は、セパレータ40の一方面40aにおいて互いに略平行に配置されている。リブ42の間隔は、例えば3〜15mmである。リブ42の高さ方向の一端はベース部41に一体化しており、リブ42の高さ方向の他端は、正極板12及び負極板13のうちの一方の電極板44aに接している(
図11参照)。ベース部41は、リブ42の高さ方向において電極板44aと対向している。セパレータ40の他方面40bにはリブは配置されておらず、セパレータ40の他方面40bは、正極板12及び負極板13のうちの他方の電極板44b(
図11参照)と対向又は接している。本実施形態では、リブ42の高さ方向の他端が正極板12に接し、セパレータ40の他方面40bが負極板13と対向又は接していることが好ましい。
【0048】
ミニリブ43は、セパレータ40の幅方向における両側において、セパレータ40の長手方向に延びるように複数(多数本)形成されている。ミニリブ43は、鉛蓄電池1が横方向に振動した際に、電極の角がセパレータを突き破って短絡することを防止するためにセパレータ強度を向上させる機能を有する。なお、ミニリブ43の高さ、幅及び間隔は、何れもリブ42よりも小さいことが好ましい。また、ミニリブ43の断面形状は、リブ42と同一であってもよく、異なっていてもよい。ミニリブ43の断面形状は、半円型であることが好ましい。また、セパレータ40においてミニリブ43は形成されていなくてもよい。
【0049】
ベース部41の厚さTの上限は、優れた充電受入性及び放電特性を得る観点から、例えば、0.25mmである。厚さTが0.25mm以下であると、充電受入性及び放電特性が向上する傾向がある。ベース部41の厚さTの上限は、更に優れた充電受入性及び放電特性を得る観点から、0.2mmが好ましく、0.15mmがより好ましい。ベース部41の厚さTの下限は、特に制限はないが、短絡の抑制効果に優れる観点から、0.05mm又は0.1mmとすることができる。
【0050】
リブ42の高さ(ベース部41及び電極の対向方向の高さ)Hの上限は、優れた充電受入性を得る観点から、1.25mmが好ましく、1.0mmがより好ましく、0.75mmが更に好ましい。リブ42の高さHの下限は、正極での酸化劣化を抑制する観点から、例えば、0.3mmであり、0.4mm又は0.5mmであってもよい。
【0051】
リブ42が設けられた部分のセパレータの厚さ(ベース部41の厚さHとリブ42の高さTの合計)は、例えば0.4〜0.75mmであり、0.4〜0.7mm、0.4〜0.65mm、0.4〜0.6mm、0.5〜0.75mm、0.55〜0.75mm、0.6〜0.75mm、又は0.6〜0.7mmであってもよい。
【0052】
ベース部41の厚さTに対するリブ42の高さHの比率H/Tの下限は、セパレータの耐酸化性に優れる観点から、2以上であってよい。比率H/Tが2以上であると、電極(例えば正極板12)と接触しない部分を充分に確保できるため、セパレータの耐酸化性が向上すると推察される。
【0053】
比率H/Tの下限は、セパレータの耐酸化性及び生産性に優れる観点から、2.4が好ましく、3がより好ましい。比率H/Tの上限は、リブの形状保持性に優れる観点、及び、短絡の抑制効果に優れる観点から、6であってよい。比率H/Tが6以下であると、正極板12と負極板13との間の距離が充分であることから短絡が抑制されると推察される。また、比率H/Tが6以下であると、鉛蓄電池1を組み立てた際にリブが破損することなく、充電受入性等の電池特性が良好に維持されると推察される。比率H/Tの上限は、短絡の抑制効果に優れる観点、及び、リブの形状保持性に優れる観点から、5が好ましく、4.5がより好ましく、4が更に好ましい。
【0054】
また、リブ42の上底幅B(
図10(b)参照)は、リブの形状保持性及び耐酸化性に優れる観点から、0.1〜2mmが好ましく、0.2〜1mmがより好ましく、0.2〜0.8mmが更に好ましい。リブ42の下底幅Aは、リブの形状保持性に優れる観点から、0.2〜4mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましく、0.4〜1mmが更に好ましい。上底幅Bと下底幅Aの比率(B/A)は、リブの形状保持性に優れる観点から、0.1〜1が好ましく、0.2〜0.8がより好ましく、0.3〜0.6が更に好ましい。
【0055】
図10(a)に示すように、袋状のセパレータ14の作製に用いるセパレータ40は、例えば、長尺のシート状に形成されている。
図9に示すように、袋状のセパレータ14は、セパレータ40を適切な長さに切断して作製してもよい。袋状のセパレータ14内に電極板(例えば負極板13)を収容する方法は、例えば、以下の方法であってもよい。適切な長さに切断したセパレータ40のリブを設けていない面上の長手方向のおおよそ中央においてU字状又はV字状に折り曲げ、積層シートを得る。続いて、前記積層シートの両側部をメカニカルシール、圧着又は熱溶着する(例えば、
図9の符号45はメカニカルシール部を示す)。これにより、
図9に示す袋状のセパレータ14が得られる。その後、袋状のセパレータ14内に電極板(例えば負極板13)を配置する。また、前記積層シートの両側部をメカニカルシール、圧着又は熱溶着する前に、電極板を配置してもよい。生産性に優れる観点から、袋状のセパレータ14を先に作製し、その後、袋状のセパレータ14内に電極板を配置することが好ましい。
【0056】
セパレータ40としては、微多孔シートからなるポリオレフィン製のセパレータ(例えば微多孔性ポリエチレンシート)を用いることができる。また、セパレータ40としては、微多孔性ポリエチレンシート;ガラス繊維と耐酸紙とを貼りあわせたもの等を用いることができる。減液性能に更に優れる観点及び充電受入性の維持率が向上する観点から、微多孔性ポリエチレンシート等のセパレータを単独で用いるのではなく、不織布(不織布からなるセパレータ)、好ましくは、ガラス繊維、ポリオレフィン系繊維及びパルプ等の材料で構成される繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維からなる不織布(不織布からなるセパレータ)と、ポリオレフィン製のセパレータ、好ましくは微多孔性ポリエチレンシートと、を併用することが好ましい。この場合、セパレータの負極板13と相対する表面が不織布により構成されるように、微多孔性ポリオレフィンシートと不織布とを重ね合わせて用いればよい。すなわち、鉛蓄電池における負極板13と不織布とを当接させればよい。不織布を用いることにより減液性能に更に優れる要因は明らかではないが、以下のように推察される。不織布を用いることで、電気分解によって発生したガスが不織布内に捕捉され、電極材と電解液との界面にガスが存在することになる。その結果、電極材と電解液との界面の面積が減少し、ガス発生の過電圧が増大する。これにより減液性能に更に優れると推察される。
【0057】
上述の不織布は、シリカ等の無機酸化物粉末を適宜含有してよい。また、微多孔性ポリエチレンシートと組み合わせず、不織布を単独でセパレータとして用いてもよい。
【0058】
(クリアランス)
本実施形態に係る液式鉛蓄電池におけるクリアランス(X−Y、単位:mm)は、例えば、−1.1〜1.2である。X−Yの値(クリアランス)が−1.1以上であることで、電解液の減少を十分に抑制できるとともに、短絡が抑制される傾向がある。また、X−Yの値(クリアランス)が1.2以下であることで、電解液の減少を十分に抑制できると共に、CCA(Cold Cranking Ampere)性能及び低温高率放電性能が向上する傾向がある。すなわち、クリアランス(X−Y)を1.2以下とすることにより、減液の抑制とCCA性能及び低温高率放電性能の向上とを両立することができる。クリアランス(X−Y)は、電解液の減少をより十分に抑制できるとともに、短絡をより抑制できる観点から、−1.0以上が好ましく、−0.6以上がより好ましい。クリアランス(X−Y)は、電解液の減少をより十分に抑制できる観点及びCCA(Cold Cranking Ampere)性能及び低温高率放電性能を向上させる観点から、1.0以下が好ましく、0.0以下がより好ましく、0.0未満が更に好ましい。これらの観点から、クリアランス(X−Y)は、−1.0〜1.0が好ましく、−0.6〜0.0がより好ましく、−0.6以上−0.0未満が更に好ましい。
【0059】
複数の領域の幅は同一でも異なっていてもよい。領域52の幅Xは、リブ53の高さ等によって調整することができる。
【0060】
なお、本明細書において、領域の幅Xは、隔壁51がリブ53を有しない場合、対向する隔壁51間の最短距離、又は、隔壁51と当該隔壁51に対向する電槽2の内壁面50との間の最短距離(以下、「壁間距離」と総称する。)と定義される。隔壁51及び/又は電槽2の内壁面50がリブを有する場合、領域の幅Xは、壁間距離Xaから、最も高いリブの高さHaを引いた値と定義される(
図4参照。)。例えば、対向する2つの隔壁51のリブの高さHaが同一である場合、領域の幅Xは、[壁間距離Xa]−(2×[リブの高さHa])となる。
【0061】
複数の極板群の厚さYは同一でも異なっていてもよい。極板群11の厚さYは、集電体の厚さ、電極板の厚さ、セパレータの厚さ及び極板間距離等によって調整することができる。
【0062】
なお、本明細書において、極板群の厚さYとは、圧縮力が加わっていない状態での極板群の厚さを意味する。極板群の厚さYは、極板群の最も外側にある電極板の電極材充填部と、当該電極板が有する集電体の上側フレーム部(上部周縁部)との境界より高さ方向に±3mmの範囲rにおいて、極板群の幅方向の中央p1で1点、中央より右側の任意の位置p2で1点、中央より左側の任意の位置p3で1点の計3点で測定した極板群の厚さの平均値と定義される(
図12参照。)。ここで、
図5及び
図12のように、極板群の最も外側にセパレータが配置された構成の場合、通常、当該セパレータのリブ42は電槽2の隔壁51(又は隔壁51が有するリブ53)と接触しないことから、当該セパレータのリブ42の高さHは極板群の厚さには含めない。すなわち、極板群の最も外側にセパレータが配置された構成の場合、当該セパレータのベース部41の位置で極板群の厚さを測定する。ただし、電槽2の隔壁51がリブ53を有しない場合等、極板群の最も外側に配置されたセパレータのリブ42が電槽2の隔壁51又は内壁面50に接触する場合には、当該リブ42の高さHを極板群の厚さに含めるものとする。化成後の液式鉛蓄電池における極板群の厚さYは、例えば、化成後の極板群を取り出し1時間水洗をし、硫酸の取り除かれた極板群を酸素の存在しない系において十分に乾燥させた後に測定することができる。
【0063】
圧縮力が加わっていない状態において、極板群11は下方に広がった構造を有していてよい。すなわち、極板群11の下端における厚さをYaとした場合、YaはYよりも小さい値であってよい。
【0064】
(極板間距離)
極板群11に圧縮力が加わっていない状態での極板群における極板群における隣り合う正極板12と負極板13との距離(極板間距離)は、電解液の減少をより十分に抑制できる観点、短絡を抑制できる観点及び放電容量を向上させる観点から、0.4mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、0.55mm以上であることが更に好ましい。極板間距離は、電解液の減少をより十分に抑制できる観点から、0.8mm以下であることが好ましく、0.75mm以下であることがより好ましく、0.7mm以下であることが更に好ましく、0.65mm以下であることが更により好ましく、0.6mm以下であることが特に好ましい。これらの観点から、極板間距離は、0.4〜0.8mmであることが好ましく、0.4〜0.75mmであることが好ましく、0.5〜0.7mmであることがより好ましく、0.55〜0.65mmであることが更に好ましく、0.55〜0.6mmであることが更により好ましい。
【0065】
電極板とセパレータとが接している場合、例えば、極板群から、すべてのセパレータを抜き取り、抜き取った全てのセパレータについて、当該セパレータの上端46から下端47側に向かって約8mmの箇所でセパレータの厚さを測定し、測定値の平均値を極板間距離とすることができる。セパレータがリブを有する場合、セパレータの厚さは、ベース部の厚さTとリブの高さHの和である。複数本形成されたリブ42のうち、幅方向の最も外側に配置された2本のリブ(
図9中の42a及び42b)上及びそれらの中点に配置されたリブ(
図9中の42c又は42d)上の計3点で測定した厚さの平均値をセパレータの厚さとする。セパレータがリブを有しない場合、セパレータの幅方向の中央で1点、中央より右側の任意の位置で1点、中央より左側の任意の位置で1点の計3点で測定した極板群の厚さの平均値をセパレータの厚さとする。なお、セパレータが袋状である場合、セパレータを展開して厚さを測定する。また、化成後の液式鉛蓄電池における、極板群11に圧縮力が加わっていない状態での極板間距離は、化成後の電池より極板群を取り出し1時間水洗をし、電解液(例えば硫酸)の取り除かれた極板群を酸素の存在しない系において十分に乾燥させた後に、上記方法によって測定することができる。
【0066】
(電極材)
次に、電極板(正極板12及び負極板13)の電極材充填部を構成する電極材について説明する。電極材は、例えば、電極活物質を含有する。なお、本実施形態において電極材とは、化成後(例えば満充電状態)の電極材を意味する。未化成の段階においては、電極材に相当する材料は、化成によって電極材となる物質を含有している。
【0067】
[正極材]
[正極活物質]
正極材23は、例えば、正極活物質を含有している。正極活物質は、例えば、化成によって正極活物質となる物質(正極活物質の原料)を含む正極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の正極活物質を得た後に未化成の正極活物質を化成することで得ることができる。正極活物質は、β−二酸化鉛(β−PbO
2)を含むことが好ましく、α−二酸化鉛(α−PbO
2)を更に含んでいてもよい。正極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を用いてもよい。未化成の正極材は、主成分として、三塩基性硫酸鉛を含む未化成の正極活物質を含有することが好ましい。
【0068】
[正極添加剤]
正極材23は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、炭素質材料(炭素質導電材)、補強用短繊維等が挙げられる。炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等が挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。なお、ここで補強用短繊維として挙げた炭素繊維は、炭素質材料(炭素質導電材)として正極材に添加してもよい。
【0069】
[正極材の物性]
正極材23の比表面積の下限は、充電受入性に更に優れる観点から、3m
2/gが好ましく、4m
2/gがより好ましく、5m
2/gが更に好ましい。正極材の比表面積の上限は、特に制限はないが、実用的な観点及び利用率に優れる観点から、15m
2/gが好ましく、12m
2/gがより好ましく、7m
2/gが更に好ましい。なお、ここでいう正極材23の比表面積は、正極材23(化成されたもの)の比表面積を意味する。正極材23の比表面積は、例えば、正極材ペーストを作製する際の硫酸及び水の添加量を調整する方法、未化成の段階で活物質の原料を微細化させる方法、化成条件を変化させる方法等により調整することができる。
【0070】
正極材23の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。
【0071】
[負極材]
[負極活物質]
負極材33は、例えば、負極活物質を含有している。負極活物質は、例えば、化成によって負極活物質となる物質(負極活物質の原料)を含む負極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の負極活物質を得た後に未化成の負極活物質を化成することで得ることができる。負極活物質としては、海綿状鉛(Spongylead)等が挙げられる。海綿状鉛は、電解液中の硫酸と反応して、次第に硫酸鉛(PbSO
4)に変わる傾向がある。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。負極材ペーストは、例えば、塩基性硫酸鉛及び金属鉛、並びに、低級酸化物から構成される。
【0072】
[負極添加剤]
負極材33は、添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、スルホン基(スルホン酸基、スルホ基)及びスルホン酸塩基(スルホン基の水素原子がアルカリ金属で置換された基等)からなる群より選ばれる少なくとも一種を有する樹脂(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂)、硫酸バリウム、炭素質材料(炭素質導電材)、補強用短繊維等が挙げられる。充放電性能を更に向上させることができる観点から、負極材33は、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂を含有することが好ましい。なお、補強用短繊維の一例として炭素繊維が挙げられるが、これを炭素質材料(炭素質導電材)として負極材に添加してもよい。
【0073】
[スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂]
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂としては、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有するビスフェノール系樹脂(以下、単に「ビスフェノール系樹脂」という)、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、充電受入性が更に向上する観点から、ビスフェノール系樹脂が好ましく、ビスフェノール系化合物と、アミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸及びアミノアリールスルホン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種との縮合物であるビスフェノール系樹脂がより好ましい。
【0074】
ビスフェノール系樹脂は、例えば、下記一般式(II)で表される構造単位、及び、下記一般式(III)で表される構造単位の少なくとも一方を有することが好ましい。
【0075】
【化1】
[式(II)中、X
2は、2価の基を示し、A
2は、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、アリーレン基を示し、R
21、R
23及びR
24は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
22は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、n21は、1〜150の整数を示し、n22は、1〜3の整数を示し、n23は、0又は1を示す。また、ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1〜5のアルキル基で置換されていてもよい。]
【0076】
【化2】
[式(III)中、X
3は、2価の基を示し、A
3は、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、アリーレン基を示し、R
31、R
33及びR
34は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
32は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、n31は、1〜150の整数を示し、n32は、1〜3の整数を示し、n33は、0又は1を示す。また、ベンゼン環を構成する炭素原子に直接結合している水素原子は、炭素数1〜5のアルキル基で置換されていてもよい。]
【0077】
式(II)で表される構造単位、及び、式(III)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。ビスフェノール系樹脂としては、式(II)で表される構造単位、及び、式(III)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0078】
前記X
2及びX
3としては、例えば、アルキリデン基(メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、sec−ブチリデン基等)、シクロアルキリデン基(シクロヘキシリデン基等)、フェニルアルキリデン基(ジフェニルメチリデン基、フェニルエチリデン基等)などの有機基;スルホニル基が挙げられ、充電受入性に更に優れる観点からはイソプロピリデン基(−C(CH
3)
2−)が好ましく、放電特性に更に優れる観点からはスルホニル基(−SO
2−)が好ましい。前記X
2及びX
3は、フッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。前記X
2及びX
3がシクロアルキリデン基である場合、炭化水素環はアルキル基等により置換されていてもよい。
【0079】
A
2及びA
3としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜4のアルキレン基;フェニレン基、ナフチレン基等の2価のアリーレン基が挙げられる。前記アリーレン基は、アルキル基等により置換されていてもよい。
【0080】
R
21、R
23、R
24、R
31、R
33及びR
34のアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。n21及びn31は、サイクル特性及び溶媒への溶解性に更に優れる観点から、1〜150が好ましく、10〜150がより好ましい。n22及びn32は、サイクル特性、放電特性及び充電受入性がバランス良く向上しやすい観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。n23及びn33は、製造条件により変化するが、サイクル特性及びビスフェノール系樹脂の保存安定性に更に優れる観点から、0が好ましい。
【0081】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)の重量平均分子量は、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂が鉛蓄電池において電極から電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、3000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましく、30000以上が特に好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下して分散性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、200000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、100000以下が更に好ましい。
【0082】
スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。
(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC−2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU−2080
示差屈折率計:RI−2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV−2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO−2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mmol/L)及びトリエチルアミン(200mmol/L)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10
6、5.80×10
5、2.55×10
5、1.46×10
5、1.01×10
5、4.49×10
4、2.70×10
4、2.10×10
4;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10
2;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10
2;キシダ化学株式会社製)
【0083】
[炭素質材料(炭素質導電材)]
ところで、部分充電状態で使用される鉛蓄電池においては、放電の際に負極材中に生成される絶縁体である硫酸鉛が、充放電の繰り返しに伴って粗大化していく、サルフェーションと呼ばれる現象が早期に生じる。サルフェーションが起こると、充電受入性及び放電性能が著しく低下する。負極材に炭素質導電材を添加することにより、硫酸鉛の粗大化を抑制し、硫酸鉛を微細な状態に維持して、硫酸鉛から溶け出す鉛イオンの、電解液中の濃度が低下することを抑制し、充電受入性が高い状態を維持する効果が得られる。
【0084】
炭素質材料(炭素質導電材)は、好ましくは、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、炭素繊維及びカーボンナノチューブからなる材料群の中から選択される。カーボンブラックの例は、正極添加材として例示したものと同じである。充電受入性の向上の観点から、好ましくは、黒鉛が選択され、さらに好ましくは、鱗片状黒鉛が選択される。鱗片状黒鉛の平均一次粒子径は、100μmよりも大きいことが好ましい。減液性能の観点では、好ましくは、カーボンブラックが選択され、さらに好ましくは、アセチレンブラックが選択される。
【0085】
ここでいう鱗片状黒鉛とは、JISM8601(2005)記載のものを指す。鱗片状黒鉛の電気抵抗率は、0.02Ω・cm以下であり、アセチレンブラック等のカーボンブラック類の電気抵抗率(0.1Ω・cm前後)より一桁小さい。したがって、従来の鉛蓄電池で用いられているカーボンブラック類に替えて鱗片状黒鉛を用いることにより、負極活物質の電気抵抗を下げて、充電受入性を更に向上することができる。
【0086】
ここで、鱗片状黒鉛の平均一次粒子径は、JISM8511(2005)記載のレーザ回折・散乱法に準拠して求める。レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック9220FRA)を用い、分散剤として市販の界面活性剤ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えば、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製:トリトンX−100)を0.5vol%含有する水溶液に鱗片状黒鉛試料を適量投入し、撹拌しながら40Wの超音波を180秒照射した後、測定を行なう。求められた平均粒子径(メディアン径:D50)の値を平均一次粒子径とする。
【0087】
炭素質材料(炭素質導電材)の含有量は、満充電状態の負極活物質(海綿状金属鉛)100質量部に対し0.1〜3質量部の範囲とするのが好ましい。
【0088】
補強用短繊維は、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等が挙げられる。
【0089】
[負極材に対する正極材の質量比]
負極材に対する正極材の質量比(正極材/負極材)は、充分な電池容量が得られやすいと共に高い充電受入性が得られやすい観点から、0.9以上が好ましく、1以上がより好ましく、1.05以上が更に好ましい。負極材に対する正極材の質量比は、充分な電池容量が得られやすい観点から、1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.4以下が更に好ましい。負極材に対する正極材の質量比は、1.3以下であってもよい。負極材に対する正極材の質量比は、充分な電池容量が得られやすいと共に高い充電受入性が得られやすい観点から、0.9〜1.6が好ましく、1〜1.5がより好ましく、1.05〜1.4が更に好ましい。負極材に対する正極材の質量比は、1.05〜1.3であってもよい。負極材に対する正極材の前記質量比は、化成後の負極材及び正極材の質量比である。
【0090】
(電解液)
次に、電槽2に収容される電解液について説明する。電解液は、例えば、硫酸を含有している。電解液は、ナトリウムイオン及び/又はアルミニウムイオンを含有してよい。電解液は、減液性能に更に優れる観点及び過放電時の短絡を抑制できる観点から、アルミニウムイオンを含有することが好ましい。電解液がアルミニウムイオンを含有することにより過放電時の短絡を抑制できる理由は、水酸化アルミニウムがセパレータ内、特に表層部に析出しやくなり、鉛の析出が抑制されるためであると推測される。
【0091】
電解液がアルミニウムイオンを含有する場合、前記電解液中のアルミニウムイオンの含有量、すなわち、アルミニウムイオンの濃度(アルミニウムイオン濃度)は、減液性能を改善する効果が顕著となる観点から、電解液量に対して、0.001mol/L以上が好ましく、0.03mol/L以上がより好ましく、0.06mol/L以上が更に好ましい。また、アルミニウムイオンの濃度は、減液性能を改善する効果が顕著となる観点から、電解液量に対して、0.2mol/L以下が好ましい。以上のことから、アルミニウムイオンの濃度は、0.001〜0.2mol/Lが好ましく、0.03〜0.2mol/Lがより好ましく、0.06〜0.2mol/Lが更に好ましい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。
【0092】
アルミニウムイオンを含有する電解液は、例えば、硫酸及び硫酸アルミニウム(例えば、硫酸アルミニウム粉末)を混合することにより得ることができる。すなわち、アルミニウムイオンを含有する電解液は、硫酸アルミニウムを含んでいてよい。前記電解液中に溶解させる硫酸アルミニウムは、無水物又は水和物として添加することができる。
【0093】
化成後の電解液(例えば、アルミニウムイオンを含む電解液)の比重は下記の範囲であってよい。電解液の比重は、浸透短絡又は凍結を抑制すると共に放電特性に優れる観点(例えば、低温高率放電性能に優れる観点)から、例えば、1.25以上が好ましく、1.28以上がより好ましく、1.285以上が更に好ましく、1.29以上が特に好ましい。電解液の比重は、充電受入性が向上する観点及びISSサイクル特性が更に向上する観点から、1.33以下が好ましく、1.32以下がより好ましく、1.315以下が更に好ましく、1.31以下が特に好ましい。電解液の比重の値は、例えば、浮式比重計、又は、京都電子工業株式会社製のデジタル比重計によって測定することができる。
【0094】
<鉛蓄電池の製造方法>
本実施形態に係る液式鉛蓄電池の製造方法は、一つ又は複数の隔壁51によって二つ以上の領域52に区切られた電槽2を準備する工程と、複数の正極板12と複数のセパレータ(例えば袋状のセパレータ14)と複数の負極板13とをそれぞれ含む、二つ以上の極板群11を準備する工程と、電槽2の領域52に極板群11を収容する工程と、電槽2内に電解液を供給する工程と、を備える。本実施形態に係る製造方法では、電槽2の領域52に極板群11を収容する際、極板群11の厚さ方向の圧縮力を隔壁51から極板群11に付与しながら、領域52に対して極板群を押し込む。
【0095】
二つ以上の極板群11を準備する工程における正極板12及び負極板13は、未化成の正極板及び負極板である。二つ以上の極板群11を準備する工程は、例えば、未化成の電極板(未化成の正極板及び未化成の負極板)を得る電極板製造工程と、電極板製造工程で得られた未化成の負極板を内部に配置した袋状のセパレータ14及び未化成の正極板を交互に積層させ(
図4参照)、同極性の電極の集電部をストラップで連結(溶接等)させて極板群11を得る工程と、を有していてよい。
【0096】
電極板製造工程では、例えば、電極材ペースト(正極材ペースト及び負極材ペースト)を集電体(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極板を得る。正極材ペーストは、例えば、正極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、他の添加剤を更に含有していてもよい。負極材ペーストは、負極活物質の原料(鉛粉等)を含有しており、他の添加剤(例えば分散剤)を更に含有していてもよい。負極材ペーストは、分散剤として、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)を含有していることが好ましい。
【0097】
正極材ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。まず、正極活物質の原料に添加剤(補強用短繊維等)及び水を加える。次に、希硫酸を加えた後、混練して正極材ペーストが得られる。正極材ペーストを作製するに際しては、化成時間を短縮できる観点から、正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を用いてもよい。この正極材ペーストを正極集電体21に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の正極板を得ることができる。
【0098】
正極材ペーストにおいて補強用短繊維を用いる場合、補強用短繊維の配合量は、正極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.005〜0.3質量%が好ましく、0.05〜0.3質量%がより好ましい。
【0099】
未化成の正極板を得るための熟成条件としては、温度35〜85℃、湿度50〜98RH%の雰囲気で15〜60時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜80℃で15〜30時間が好ましい。
【0100】
負極材ペーストは、例えば、下記の方法により得ることができる。まず、負極活物質の原料に添加剤(スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂、補強用短繊維、硫酸バリウム等)を添加して乾式混合することにより混合物を得る。そして、この混合物に硫酸(希硫酸等)及び溶媒(イオン交換水等の水、有機溶媒など)を加えて混練することにより負極材ペーストが得られる。この負極材ペーストを負極集電体31(例えば、鋳造格子体、エキスパンド格子体等の集電体格子)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の負極板を得ることができる。
【0101】
負極材ペーストにおいて、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂等)、炭素質材料、補強用短繊維又は硫酸バリウムを用いる場合、各成分の配合量は下記の範囲が好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、樹脂固形分換算で、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.05〜1.0質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%が更に好ましく、0.1〜0.3質量%が特に好ましい。炭素質材料の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.1〜3質量%が好ましく、0.2〜1.4質量%がより好ましい。補強用短繊維の配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として0.05〜0.15質量%が好ましい。硫酸バリウムの配合量は、負極活物質の原料(鉛粉等)の全質量を基準として、0.01〜2.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。
【0102】
未化成の負極板を得るための熟成条件としては、温度45〜65℃、湿度70〜98RH%の雰囲気で15〜30時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜60℃で15〜30時間が好ましい。
【0103】
電槽2の領域52に極板群11を収容する工程では、
図13に示すように、電槽2の領域52に対して極板群11を押し込むことにより、極板群11の厚さ方向の圧縮力を隔壁51から極板群11に付与しながら極板群11を電槽2内に収容する。これにより、未化成電池を作製する。なお、隔壁51と対向する面が電槽2の内壁面50である場合、隔壁51及び電槽2の内壁面50から極板群11の厚さ方向の圧縮力を極板群11に付与する。
【0104】
本実施形態では、電槽2の領域52に極板群11を収容する作業をしやすい観点から、クリアランス(X−Y、単位:mm)を−1.1以上とすることが好ましく、−1.0以上とすることがより好ましく、−0.6以上とすることが更に好ましい。また、極板間距離を厳密に設定しやすい観点から、クリアランス(X−Y)を1.2以下とすることが好ましく、1.0以下とすることがより好ましく、0.0以下とすることが更に好ましく、0.0未満とすることが特に好ましい。これらの観点から、クリアランス(X−Y)を−1.1〜1.2とすることが好ましく、−1.0〜1.0とすることがより好ましく、−0.6〜0.0とすることが更に好ましく、−0.6以上0.0未満とすることが特に好ましい。なお、本発明者らの知見によれば、クリアランス(X−Y)が1.16以上である場合には極板群11を押し込むことなく、極板群11を自重により電槽2の領域52内に落とし込むことができるが、クリアランス(X−Y)が1.16より小さい場合には、極板群11に対して圧力Fを加えて、電槽2の領域52に対して極板群11を押し込む必要がある。クリアランス(X−Y)が正の値である場合にも、極板群11を電槽2の領域52に対して押し込む必要がある理由は、明らかではないが、
図13(a)に示すように、極板群11が下方に広がった構造を有しているためであると推察される。
【0105】
本実施形態では、上記クリアランスに応じて極板群11の厚さ方向に圧縮力が付与されるため、極板群11の上方に圧力Fを付与することで、電槽2の領域52に対して極板群11を押し込む必要がある。
【0106】
電槽2内に電解液を供給する工程では、上記電槽2の領域52に極板群11を収容する工程により得られた未化成電池の電槽2内に電解液を供給(注入)する。
【0107】
本実施形態に係る製造方法は、電解液を供給した後の未化成電池を化成する工程を更に備えていてよい。当該工程は、例えば、電解液を供給した後、直流電流を通電して電槽化成する工程であってよい。化成後は、電解液の比重を適切な比重に調整してよい。これにより、化成された液式鉛蓄電池が得られる。
【0108】
化成条件及び硫酸の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、未化成電池を得た後に実施されることに限られず、電極製造工程における熟成及び乾燥後に実施されてもよい(タンク化成)。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本開示を具体的に説明する。但し、本開示は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0110】
(実施例1)
<鉛蓄電池の作製>
[電槽の準備]
上面が開放された箱体からなり、内部が隔壁によって6つの領域に区切られた電槽(内部の厚さ方向の長さ:3.5cm)を準備した。隔壁及び隔壁と対向する電槽の内壁面は、平坦部と、平坦部から隆起した、電槽の高さ方向に延びる複数のリブ部と、領域の入口側に設けられており平坦部からリブ部に至る傾斜部とを有しており、リブの高さは1.4mmであった。また、各領域の幅X(単位:mm)は32.2であった。なお、本実施例では、電槽に収容された極板群11の最も外側に位置する極板の上部周縁部と電極材充填部との境界より±3mmの高さにおいて領域の幅Xを測定した。
【0111】
[正極板の作製]
正極活物質の原料として、鉛粉及び鉛丹(Pb
3O
4)を用いた(鉛粉:鉛丹=96:4(質量比))。正極活物質の原料と、正極活物質の原料の全質量を基準として0.07質量%の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを混合して混練した。続いて、希硫酸(比重1.280、20℃換算以下同様)を少量ずつ添加しながら混練して、正極材ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(集電体)にこの正極材ペーストを充填した。次いで、正極材ペーストが充填された集電体を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の正極板を得た。
【0112】
[負極板の作製]
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。ビスフェノール系樹脂を0.2質量%(固形分換算、日本製紙(株)製、商品名:ビスパーズP215)、補強用短繊維(アクリル繊維)を0.1質量%、硫酸バリウムを1.0質量%、及び、炭素質材料(鱗片状黒鉛、平均粒径(メディアン径:D50):180μm)を2.0質量%含む混合物を前記鉛粉に添加した後に乾式混合した(前記配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)。前記ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、前記記載の条件のGPCにより測定したところ、53900であった。前記鱗片状黒鉛の粒径は、JISM8511(2005)記載のレーザ回折・散乱法に準拠して求めた。次に、水10質量%(負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)を加えた後に混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)9.5質量%(負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)を少量ずつ添加しながら混練して、負極材ペーストを作製した。続いて、鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド格子体(集電体)に前記負極材ペーストを充填した。次いで、負極材ペーストが充填された集電体を温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後、乾燥して未化成の負極板を得た。
【0113】
[袋状のセパレータの作製]
まず、微多孔シートからなり、一方面に複数の線状のリブを有する所定寸法長さのセパレータ(ポリエチレン製、ベース部の厚さT:0.2mm、リブの高さH:0.55mm)を準備し、当該セパレータのリブを設けていない面の長手方向のおおよそ中央においてU字状に折り曲げ、積層シートを得た。続いて、前記積層シートの両側部をメカニカルシールし、袋状のセパレータを得た。
【0114】
[極板群の作製]
袋状のセパレータ内に未化成の負極板を配置した。未化成の負極板を入れた袋状のセパレータ8枚と未化成の正極板7枚と、を交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。ストラップ部は、Pb−Sb系合金からなり、ストラップ部の質量に対するSbの含有量は2.9質量%とした。極板群の厚さY(単位:mm)は31.2であった。
【0115】
[電解液の調製]
化成後の電解液におけるナトリウムイオン濃度が0.1mol/Lとなるように、希硫酸に硫酸ナトリウムを加えて電解液を調製した。なお、電解液は、化成後の電解液の比重が1.290となるような比重とした。
【0116】
[電池の組み立て]
極板群を電槽の領域に押し込むことにより収容し、12V電池(JIS D 5301規定のD23サイズに相当)を組み立てた。電解液をこの電池に注入し、その後、35℃の水槽中、通電電流18.6Aで18時間の条件で化成して液式鉛蓄電池を得た。あった。負極材の比表面積は、1.0m
2/gであった。負極材に対する正極材の質量比(正極材/負極材)は1.4であった。また、化成後の電解液の比重は1.290であった。極板群厚さY(単位:mm)は31.2であった。電槽の領域の幅X(単位:mm)が32.2であったことから、クリアランス(X−Y)は1.0であった。なお、本実施例では、化成後の極板群厚さY(単位:mm)は、化成後の電池より極板群を取り出し1時間水洗をし、電解液の取り除かれた極板群を酸素の存在しない系において十分に乾燥させてから測定した。
【0117】
[極板間距離の測定]
化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離を以下の方法により測定した。まず、化成後の電池より極板群を取り出し1時間水洗をし、電解液の取り除かれた極板群を酸素の存在しない系において十分に乾燥させた。次いで、乾燥した極板群から、すべてのセパレータを抜き取った。抜き取った全てのセパレータについて、当該セパレータの上端から下端側に向かって約8mmの箇所でセパレータの厚さを測定し、測定値の平均値を極板間距離とした。上記セパレータの厚さの測定は、複数本形成されたリブのうち、幅方向の最も外側に配置された2本のリブ上及びそれらの中点に配置されたリブ上の計3点を測定することにより行い、測定した厚さの平均値をセパレータの厚さとした。化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.75mmであった。
【0118】
(実施例2)
領域の幅X(単位:mm)が30.9である電槽を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後のクリアランス(X−Y)は−0.3であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.75mmであった。
【0119】
(実施例3)
領域の幅X(単位:mm)が30.1である電槽を用いたこと以外は実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後のクリアランス(X−Y)は−1.1であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.75mmであった。
【0120】
(実施例4)
領域の幅X(単位:mm)が30.1である電槽を用いたこと、及び、ベース部の厚さが0.2mm、リブの高さが0.4mmのセパレータを用いて作製した袋状のセパレータを用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後の極板群の厚さY(単位:mm)は29.1であり、化成後のクリアランス(X−Y)は1.0であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.6mmであった。
【0121】
(実施例5)
領域の幅X(単位:mm)が27.3である電槽を用いたこと、及び、ベース部の厚さが0.2mm、リブの高さが0.2mmのセパレータを用いて作製した袋状のセパレータを用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後の極板群の厚さY(単位:mm)は26.3であり、化成後のクリアランス(X−Y)は1.0であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.4mmであった。
【0122】
(実施例6)
化成後の電解液におけるアルミニウムイオン濃度が0.06mol/Lとなるように、希硫酸に硫酸アルミニウムを溶解させて電解液を調製した。この電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。
【0123】
(実施例7)
化成後の電解液におけるアルミニウムイオン濃度が0.12mol/Lとなるように、希硫酸に硫酸アルミニウムを溶解させて電解液を調製した。この電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。
【0124】
(実施例8)
化成後の電解液におけるアルミニウムイオン濃度が0.18mol/Lとなるように、希硫酸に硫酸アルミニウムを溶解させて電解液を調製した。この電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。
【0125】
(実施例9)
[負極集電体の作製]
基材として、厚さが12mmであり、板状の鉛−カルシウム−錫合金(カルシウム含有量:0.05質量%、錫含有量:0.5質量%)を用意し、表面層を形成するための金属シートとして、厚さが0.2mmである錫(Sn)シートを用意した。鉛−カルシウム−錫合金の両面に、負極集電体の耳部の位置にSnからなる表面層が備えられるようにSnシートを重ね合わせ、圧延ローラで圧延することにより、厚さが0.8mmの圧延シートを作製した。圧延シートに形成された表面層となる層(Snからなる表面層)の厚さは約13μmであった。
【0126】
負極集電体の耳部の位置にSnからなる表面層が備えられるように圧延シートの位置を調整しながら、圧延シートをレシプロ式エキスパンド機により展開した。これにより、耳部の表面にSnからなる表面層(厚さ:13μm)が形成された負極集電体を作製した。この負極集電体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。
【0127】
(実施例10)
領域の幅X(単位:mm)が33.1である電槽を用いたこと、ベース部の厚さが0.2mm、リブの高さが0.5mmのセパレータを用いて作製した袋状のセパレータを用いたこと、及び、電池の組み立ての際に、セパレータの負極板と相対する表面が不織布により構成されるように、負極板とセパレータとの間に日本バイリーン株式会社製の不織布(厚み:0.2mm、繊維組成:ガラス繊維)を配置したこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後の極板群の厚さY(単位:mm)は33.7であり、化成後のクリアランス(X−Y)は−0.6であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.7mmであった。
【0128】
(実施例11)
実施例11では、実施例1の12V電池(JIS D 5301規定のD23サイズに相当)に代えて、JIS D 5301規定のB24サイズに相当する、電池工業界規格SBA S 0101規定のN−55タイプの12V電池を組み立てた。具体的には、電槽として、各領域の幅X(単位:mm)が36.4の電槽を用い、正極板及び負極板の厚さを変更するとともに、正極板を8枚と負極板を8枚用い、セパレータとして、微多孔シートからなり、一方面に複数の線状のリブを有する所定寸法長さのセパレータ(ポリエチレン製、ベース部の厚さT:0.2mm、リブの高さH:0.75mm)を用いて作製した袋状のセパレータを用い、化成前の極板群の厚さY(単位:mm)が35.4となるように、極板群を作製した。上記以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後の極板群の厚さY(単位:mm)は35.65であり、化成後のクリアランス(X−Y)は0.75であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.95mmであった。
【0129】
(実施例12)
電池の組み立ての際に、セパレータの負極板と相対する表面が不織布により構成されるように、負極板とセパレータとの間に日本板硝子株式会社製の不織布(厚み:0.2mm、繊維組成:ガラス繊維)を配置したこと、及び、セパレータとして、ベース部の厚さが0.2mm、リブの高さが0.55mmのセパレータを用いて作製した袋状のセパレータを用いたこと以外は、実施例11と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後の極板群の厚さY(単位:mm)は35.85mmであり、化成後のクリアランス(X−Y)は0.55mmであり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.95mmであった。
【0130】
(比較例1)
領域の幅X(単位:mm)が32.5である電槽を用いたこと以外は、実施例1と同様にして液式鉛蓄電池を作製した。化成後のクリアランス(X−Y)は1.3であり、化成後の電池から取り出した極板群における極板間距離は0.75mmであった。
【0131】
<電池特性の評価1>
実施例1〜10及び比較例1で作製した液式鉛蓄電池について、減液性能、5時間率容価した。結果を表1に示す。
【0132】
(減液性能の評価)
減液性能の評価は次のように行った。電池温度が60℃になるように調整し、42日間(1008時間)、14.4Vで定電圧充電を行った。電池温度が60℃に達し定電圧充電を行う直前の電池重量と、42日間の定電圧充電が終了した直後の電池重量の差を減液量とし、この量を比較することにより減液性能を評価した。減液性能の評価は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0133】
(5時間率容量の評価)
作製した液式鉛蓄電池において、25℃、10.4Aで定電流放電を行い、セル電圧が10.5Vを下回るまでの放電持続時間から5時間率容量を算出した。5時間率容量は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0134】
(充電受入性能の評価)
作製した液式鉛蓄電池において、25℃、3.1Aで2時間定電流放電を行い、24時間放置した。その後、200Aの制限電流の下、14Vで60秒間の定電圧充電を行い、充電開始から5秒目の電流値を測定した。この測定値を比較することにより充電受入性を評価した。充電受入性能は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0135】
(コールドクランキング電流の評価)
作製した液式鉛蓄電池において、電池温度を−18℃に調整し、30秒間の定電流放電を行った。放電中、セル電圧が7.2Vとなった時点の放電電流値を測定した。この測定値をコールドクランキング電流値とした。コールドクランキング電流は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0136】
(低温高率放電性能)
作製した液式鉛蓄電池において、電池温度を−15℃に調整し、300Aで定電流放電を行った。放電開始から、セル電圧が6.0Vを下回るまでの時間(放電持続時間)を測定した。この放電持続時間を比較することにより低温高率放電性能を評価した。低温高率放電性能は、比較例1の測定結果を100として相対評価した。
【0137】
【表1】
【0138】
<電池特性の評価2>
(充電受入性維持率評価)
以下の方法で、実施例11及び実施例12の鉛蓄電池の充電受入性維持率を評価した。
【0139】
まず、作製した満充電状態の液式鉛蓄電池(公称容量:36Ah)において、25℃で0.2C放電を30分間行うことにより、満充電状態から電池容量の10%を放電させ、電池の充電状態(State of charge)を90%とした。ついで、100Aの制限電流の下、14Vで定電圧充電を行い、充電開始から10秒目の電気量(Ah)を測定した。さらに、鉛蓄電池を満充電状態まで充電した。上記サイクルを繰り返し行い、サイクル経過後の10秒目の電気量(Ah)を比較することにより、充電受入性維持率を評価した。結果を表2に示す。
【0140】
【表2】