(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<フィブロインナノ薄膜及びナノ薄膜シート>
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜(シルクフィブロインナノ薄膜)は、フィブロイン(シルクフィブロイン)を含有する。本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜の水に対する接触角は30°以上であり、例えば、フィブロインナノ薄膜の表面における水に対する接触角が30°以上である。
【0016】
水に対する前記接触角は、更に優れた貼付性を得る観点から、40°以上が好ましく、60°以上がより好ましい。前記接触角は、例えば23℃における接触角である。水に対する前記接触角は、例えば、協和界面科学株式会社製の接触角計DM−501型により測定することができる。
【0017】
本実施形態で用いられるフィブロインは、限定されるものではなく、例えば、家蚕、野蚕、天蚕等の天然蚕、トランスジェニック蚕から産生されるフィブロインが挙げられる。フィブロイン(シルクフィブロイン)は、原料入手が容易であることから安定に供給されることが期待でき、さらに、価格も安定しているため、工業的に利用することが容易である。
【0018】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、フィブロインを含有するフィブロイン水溶液を用いて形成することができる。フィブロイン水溶液を得る方法としては、公知のいかなる手法を用いてもよいが、例えば、高濃度の臭化リチウム水溶液にフィブロインを溶解後、透析による脱塩、及び、風乾による濃縮を経る手法が簡便である。フィブロイン水溶液の溶媒としては、フィブロインを溶解できるものであれば、任意の溶媒を用いることができるが、水(純水等)を用いることができる。
【0019】
フィブロインナノ薄膜の膜厚は、特に限定されないが、乾燥時において下記の範囲であることが好ましい。フィブロインナノ薄膜の厚さは、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性が更に優れる観点から、1nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましい。フィブロインナノ薄膜の膜厚は、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性が更に優れる観点から、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることが更に好ましい。フィブロインナノ薄膜の膜厚は、自己密着性、吸水性、乾燥状態での柔軟性等の特性が更に優れる観点から、1〜300nmであることが好ましく、40〜300nmであることがより好ましく、40〜250nmであることが更に好ましく、40〜200nmであることが特に好ましい。
【0020】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、機能性物質(例えば、臓器、皮膚等の被転写体において機能性を発揮する物質)を含有することができる。機能性物質としては、化粧料、色素、金属イオン、薬剤等が挙げられる。機能性物質は、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。フィブロインナノ薄膜における機能性物質の含有量は、例えば、フィブロイン100質量部に対して1〜100質量部である。
【0021】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、皮膚貼付用フィブロインナノ薄膜、化粧用フィブロインナノ薄膜、又は、化粧用皮膚貼付用フィブロインナノ薄膜として好適に使用することができる。また、フィブロインナノ薄膜は、医療用フィブロインナノ薄膜、臓器貼付用フィブロインナノ薄膜等として好適に使用することができる。
【0022】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、保湿クリーム等の化粧料を含有することができる。これにより、化粧料をフィブロインナノ薄膜に保持させることが可能であり、皮膚等に貼付したとき(使用時)に、化粧料が徐々にフィブロインナノ薄膜から溶出し、皮膚等に徐々に吸収させることができる。
【0023】
化粧料としては、保湿クリーム、スキンクリーム、美白クリーム、乳液、化粧水、美容液、美容ジェル等のスキンケアに用いられる化粧料全般を用いることができる。化粧料は、化粧料成分を含有している。化粧料成分としては、化粧品学的に許容される、皮膚等に有効な成分であればよく、特に限定されない。化粧料成分としては、例えば、保湿剤、ホワイトニング成分、しみ取り成分、防皺成分、ビタミン類、抗炎症成分、血流促進成分、湿潤成分、油分、金属微粒子等の、化粧料に用いられる成分を用いることができる。化粧料及び化粧料成分は、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
化粧料成分としては、例えば、アーモンド油、アクリル酸アルキルコポリマー、麻セルロース、アシタバエキス、アスコルビン酸、アスコルビン酸Na、キサンチン、アスタキサンチン、アスパラガスエキス、アスパラギン酸、アズレン、アセロラエキス、アデノシン三リン酸2Na、アボカド油、アマチャエキス、アミノ酪酸、アラニン、アラントイン、アルギニン、アルギン酸Na、アルジルリン、アルテアエキス、アルニカエキス、アルブミン、アロエベラエキス−2−キダチアロエエキス、安息香酸塩Na、イチョウエキス、イノシトール、ウコンエキス、ウワウルシエキス、エイジツエキス、塩化ナトリウム、オイスターエキス、オウゴンエキス、オウバクエキス、オタネニンジンエキス、オドリコソウエキス、オランダカラシエキス、オリーブ油、オリザノール、海塩、加水分解ケラチン、コラーゲン、加水分解コラーゲン、加水分解コンキリオン、加水分解シルク、加水分解卵殻膜、加水分解卵白、褐藻エキス、カフェイン、カミツレエキス、カラミン、カリンエキス、カロチン、カロットエキス、カワラヨモギエキス、甘草エキス、カンフル、キイチゴエキス、キウイエキス、キシリトール、キトサン、キュウリエキス、クオタニウム−73、クチナシエキス、クマザサエキス、クララエキス、グリコール酸、グリシン、グリセリン、グリチルリチン酸2K、グリチルレチン酸ステアリル、グルコース、グルタチオン、グルタミン酸、グレープフルーツエキス、クレマティスエキス、クロレラエキス、ケープアロエエキス、ゲンチアナエキス、紅茶エキス、コエンザイムQ10、コーヒーエキス、コーンスターチ、ココイル加水分解コラーゲンK、ココイル加水分解コラーゲンNa、ココベタイン、ゴボウエキス、ゴマ油、コムギデンプン、コムギ胚芽エキス、コメヌカエキス、コレステロール、コンフリーエキス、酢酸トコフェロール、酢酸レチノール、サザンカオイル、サフラワー油、サリチル酸、サリチル酸Na、酸化亜鉛、酸化チタン、サンザシエキス、シアノコバラミン、シイタケエキス、ジオウエキス、ジグリセリン、シコンエキス、シソエキス、ジヒドロコレステロール、ジフェニルジメチルメコン、シモツケソウエキス、酒石酸、ショウキョウエキス、ショウブ根エキス、シルク、シルクエキス、水添レシチン、スクワラン、ステアリルアルコール、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸スクロース、セイヨウキヅタエキス、セイヨウハッカエキス、セージエキス、セタノール、セラミド3、セリン、セルロースガム、ソウハクヒエキス、ソルビトール、ダイズエキス、ダイズ発酵エキス、月見草油、ドクダミエキス、トコフェロール、トレハロース、ナイアシンアミド、ニコチン酸トコフェロール、乳酸、乳酸Na、尿素、バクガエキス、ハチミツ、パパイン、ハマメリスエキス、パルミチン酸レチノール、パンテノール、ヒアルロン酸Na、ビオチン、ヒキオコシエキス、ヒマシ油、ヒマワリ油、ピリドキシンHCl、ビワ葉エキス、ブクリョウエキス、ブッチャーブルームエキス、ブドウエキス、ブドウ種子油、プラセンタエキス、プルラン、ベタイン、ヘチマエキス、ボタンエキス、ホップエキス、ホホバオイル、メドウフォーム油、メトキシケイヒサンオクチル、メリッサエキス、メリロートエキス、メントール、モモ葉エキス、ヤグルマギクエキス、ヤシ油、ユーカリエキス、ユーカリ油、ユキノシタエキス、ユズエキス、ユリエキス、ヨウ化ニンニクエキス、葉酸、ヨクイニンエキス、ヨモギエキス、ラズベリーケトン、ラクトフェリン、ラノリン、ラベンダーエキス、リシン、リシンHCl、リノール酸、硫酸Na、リンゴエキス、レイシエキス、レシチン、レゾルシン、レタスエキス、レモンエキス、レモン油、ロイシン、ローズ水、ローズヒップ油、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ローヤルゼリー、ワレモコウエキス、AHA(α−ヒドロキシ酸)、BG(ブチレングリコール)、DNA(デオキシリボ核酸)、PCA(ピロリドンカルボン酸)−Na、PCA−Naアラントイン、PG(プロピレングリコール)、PPG−28ブテス−35(ポリオキシエチレン(35)ポリオキシプロピレン(28)ブチルエーテル)、RNA(リボ核酸)−NA、t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン、α−アルブチン、ムコ多糖、クレアチン、ジアセチルボルジン、ビタミンA及びその誘導体、ビタミンC及びその誘導体、リン酸リボフラビンナトリウム、ヒドロキノン、リポ核酸及びその塩、アミノ酸及びその誘導体、各種植物エキス、各種動物由来抽出物等が挙げられる。
【0025】
フィブロインナノ薄膜を皮膚等に対して用いる際、保湿クリーム等の化粧料を皮膚等に塗布し、その上にフィブロインナノ薄膜を転写することもできる。この場合、化粧料が保持されつつ、剥がれ落ちにくいという効果が得られる。また、フィブロインナノ薄膜を皮膚等に転写した後に、その上に化粧料を塗布することもできる。これらの場合、皺、たるみ、しみ、あざ、そばかす、毛穴、傷跡、にきび跡、熱傷跡、又は、皮膚疾患による変色等のある肌を目立たなくすることができる。
【0026】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、化粧料を保持させてなる化粧用シート、保湿シート、化粧補助貼付シート及び化粧保護シートとしても好適に使用できる。
【0027】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、色素を含有することができる。これにより、色素をフィブロインナノ薄膜に保持させることが可能であり、皮膚等に貼付したとき(使用時)の貼付位置を目視等で簡単に確認できる。
【0028】
色素としては、アゾ染料(ナフトール染料等)、モーブ、パラレッド、フルオレセイン、フクシン、フェノールフタレイン、ニュートラルレッド、フェナジン誘導体色素、メチレンブルー、ジヒドロイントール、コンゴーレッド、エオシン、インダンスレン、アニリンブラック、アクリジン、アゾイック染料、ネオシアニン、クリプトシアニン、インドシアニングリーン、ヘモグロビン、ヘムエリトリン、フェオポルフィリン、フェオホルビド、チトクロム、バクテリオクロロフィル、クロロフィリド、クロロフィル、メラニン、カテキン、アントシアン、アントクロール、フラバノン、フラボン類、フラボノイド、ルテイン、リコピン、フコキサンチン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、キサントフィル、カロチン、カロチノイド、ゲニステイン、クロロクルオリン、クロリン、クロセチン、クルクミン、キサントンマチン、カルタミン、エリトロクルオリン、ウロビリン、インジゴ、アントラキノン、アントシアン、アリザリン、ビリルビン、ビリベルジン、フィトクロム、フィコエリスリン、フィコビリン、フィコシアニン、ミオグロビン、ポルフィン、ポルフィリン、ヘモシアニン、ヘモバナジン、ロドマチン、ロドキサンチン、ロドプシン、リトマス、レグヘモグロビン、ラミナラン、モリンジン、ホルビリン、マンゴスチン、ベルベリン、ベタシアニン、プルプリン、ブラジリン、ピンナグロビン、ヒペリシン、ビキシン、ツラシン、タンニン、ステルコピリン、シコニン、コンメリニン、ゴッシポール、コチニール等が挙げられる。色素の中でも、水及びアルコールに対する溶解性に優れる観点から、イオン性の色素が好ましい。色素は、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、金属イオンを含有することができる。これにより、金属イオンをフィブロインナノ薄膜に保持させることが可能であり、皮膚等に貼付したとき(使用時)に、金属イオンが徐々にフィブロインナノ薄膜から溶出し、皮膚等に徐々に吸収させることができる。また、金属イオンを利用して、抗菌、殺菌、消臭、制汗といった効果を有するフィブロインナノ薄膜を得ることができる。
【0030】
金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカル金属イオン;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン;金、銀、銅、白金、パラジウム等の遷移金属イオン;アルミニウムイオン;鉛イオン;スズイオンなどが挙げられる。金属イオンの中でも、抗菌効果及び消臭効果を有する観点から、銀イオンが好ましい。金属イオンは、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、薬物を含有することができる。これにより、薬物をフィブロインナノ薄膜に保持させることが可能であり、皮膚等に貼付したとき(使用時)に、薬物が徐々にフィブロインナノ薄膜から溶出し、皮膚等に徐々に吸収させることができる。また、創傷治癒といった効果を有するフィブロインナノ薄膜を得ることができる。
【0032】
薬物としては、抗炎症剤、止血剤、血管拡張薬、血栓溶解剤、抗動脈硬化剤等が挙げられる。薬物は、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
化粧料又は薬物が疎水性の場合、フィブロインナノ薄膜の疎水性領域に疎水性相互作用にて化粧料又は薬物を結合させる方法を用いてもよい。化粧料又は薬物が水素結合性の場合、フィブロインナノ薄膜の水素結合性領域に水素結合にて化粧料又は薬物を結合させる方法を用いてもよい。化粧料又は薬物が電荷を有する場合、フィブロインナノ薄膜の反対電荷領域に静電的相互作用にて化粧料又は薬物を結合させる方法を用いてもよい。
【0034】
架橋剤として、アルキルジイミデート類、アシルジアジド類、ジイソシアネート類、ビスマレイミド類、トリアジニル類、ジアゾ化合物、グルタルアルデヒド、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)アルキオネート、ブロモシアン等を用いて、上記の成分と、フィブロインナノ薄膜中の所定の官能基とを架橋させてもよい。架橋剤は、1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
図1は、ナノ薄膜シートの一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るナノ薄膜シート1は、支持基材(基材)2と、支持基材2上に積層されたフィブロインナノ薄膜3と、を備える。ナノ薄膜シート1は、例えば、ナノ薄膜転写シートである。ナノ薄膜シート1は、フィブロインナノ薄膜3上に積層されたカバーフィルムを更に備えていてもよい。支持基材2としては、ナノ薄膜シート1のフィブロインナノ薄膜3が被転写体に転写され得る基材が用いられる。例えば、支持基材2としては、フィブロインナノ薄膜3に対する接着力が被転写体よりも小さい支持基材が用いられる。
【0036】
支持基材としては、平滑な面を有するものであれば、特に限定されず、フィルム状(シート状)又はロール状であってもよい。支持基材は、溶媒を浸透又は透過させることが可能な浸透性基材であってもよい。浸透性基材は、例えば、溶媒を浸透又は透過させる孔を有している。浸透性基材は、ナノ薄膜シートから基材を剥離する際にフィブロインナノ薄膜が基材側に残存することを容易に抑制できる観点から、メッシュシート、不織布シート、又は、多孔質構造を有する多孔性シートであってもよい。メッシュシートとは、例えば、直径100μm以下の糸状の材料が格子状に編みこまれたシートである。浸透性基材を用いる場合、溶媒等に溶解する溶解性支持層を介して浸透性基材上にフィブロインナノ薄膜を形成した後、浸透性基材を浸透又は透過する溶媒によって溶解性支持層を溶解することにより、浸透性基材とフィブロインナノ薄膜とが積層された構造を得てもよい。
【0037】
メッシュシートとしては、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、カーボンメッシュシート、フッ素樹脂メッシュシート、ポリプロピレンメッシュシート、シルクメッシュシート等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルメッシュシート、ナイロンメッシュシート、ポリプロピレンメッシュシートが好ましく、ポリエステルメッシュシートがより好ましい。ポリエステルメッシュシートとしては、ポリエチレンテレフタレートメッシュシートが好ましい。これらのメッシュシートは、不織布シートと複合させて用いられてもよい。
【0038】
支持基材としては、樹脂フィルム等の基材フィルムを用いることもできる。支持基材の構成材料としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えば、ポリエチレン(高密度、中密度又は低密度)、ポロプロピレン(アイソタクチック型又はシンジオタクチック型)、ポリブテン、エチレン−プレピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチル−1−ペンテン)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオ共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、エチレン−テレフタレート−イソフタレート共重合体、ポリエチレンナフタレート、プリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エボキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ナイロン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース系樹脂、又は、これらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイが挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて(例えば2層以上の積層体として)用いることができる。
【0039】
これらの樹脂フィルムの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムが好ましく、フィブロインナノ薄膜を含む積層膜における接着性に更に優れる観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
【0040】
支持基材の表面に、コロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、オゾン処理、アルカリ、酸等による化学的エッチング処理などを施してもよい。
【0041】
支持基材上に、樹脂膜、無機膜、又は、有機材料と無機材料とを含む膜(有機−無機膜)が積層されていてもよい。これら樹脂膜、無機膜、又は、有機−無機膜からなる積層構造は、基材表面の一部を覆っていればよい。また、積層構造中、最表面層に位置しない膜は、極性基を有する必要はない。
【0042】
支持基材の膜厚は、1〜500μmであることが好ましく、3〜300μmであることがより好ましく、5〜200μmであることが更に好ましい。
【0043】
カバーフィルムの膜厚は、1〜500μmであることが好ましく、3〜300μmであることがより好ましく、5〜200μmであることが更に好ましい。
【0044】
<フィブロインナノ薄膜の製造方法、及び、ナノ薄膜シートの製造方法>
本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜の製造方法は、例えば、フィブロインナノ薄膜形成工程として、フィブロイン水溶液を用いてフィブロインナノ薄膜を得る工程を備える。本実施形態に係るフィブロインナノ薄膜は、例えば、支持基材上にフィブロイン水溶液を塗布することにより得ることができる。支持基材上へのフィブロイン水溶液の塗布の方法としては、キャスト法、スピンコート法、スプレーコート法、ダイコート法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
本実施形態に係るナノ薄膜シート(例えばナノ薄膜転写シート)の製造方法は、例えば、フィブロイン水溶液を用いて支持基材(基材)上にフィブロインナノ薄膜を形成する工程を備える。本実施形態に係るナノ薄膜シートは、例えば、支持基材上にフィブロイン水溶液を塗布することによりフィブロインナノ薄膜を形成して得られてもよく、フィブロイン水溶液を用いて形成されたフィブロインナノ薄膜を支持基材に貼り付けることにより得られてもよい。
【0046】
<転写方法>
本実施形態に係る転写方法は、フィブロインナノ薄膜の転写方法(貼付方法)であり、ナノ薄膜シートのフィブロインナノ薄膜を被転写体に転写する工程を備える。
【0047】
本実施形態に係る転写方法は、ナノ薄膜シートをフィブロインナノ薄膜側が被転写体と対向するように配置し、ナノ薄膜シートの基材側を押圧することにより、フィブロインナノ薄膜を被転写体に転写する工程を備えていてもよい。このような転写方法では、基材がフィブロインナノ薄膜を覆っている状態でナノ薄膜シートの基材側を押圧することによりフィブロインナノ薄膜を被転写体に転写するため、被転写体とナノ薄膜層との追従性及び接着性が向上する。したがって、このような転写方法では、例えば、基材を予め剥離した上でフィブロインナノ薄膜を被転写体に転写する方法、又は、押圧することなくフィブロインナノ薄膜を被転写体に転写する方法に比べて、フィブロインナノ薄膜を好適に被転写体へ転写できる。
【0048】
ナノ薄膜シートの基材側を押圧する際、基材全面に対して略均一に圧力を加えることが好ましい。押圧は、ローラー等の冶具を用いることで、より簡便かつ好適に行うことができる。
【0049】
ナノ薄膜シートの基材側を押圧する際の荷重は、ナノ薄膜シートから基材を剥離する際にフィブロインナノ薄膜が基材側に残存することを容易に抑制できる観点から、10g/cm
2以上であることが好ましく、30g/cm
2以上であることがより好ましく、50g/cm
2以上であることが更に好ましい。前記荷重は、皮膚等の被転写体が損傷することを容易に抑制できる観点から、1000g/cm
2以下であることが好ましく、900g/cm
2以下であることがより好ましく、800g/cm
2以下であることが更に好ましい。これらの観点から、前記荷重は、10〜1000g/cm
2であることが好ましく、30〜900g/cm
2であることがより好ましく、50〜800g/cm
2であることが更に好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
<ナノ薄膜の作製>
(実施例1)
まず、高圧精練済み切繭(シルクフィブロイン、ながすな繭株式会社製)150gを9M臭化リチウム水溶液1000mLに添加し、室温(25℃)で6時間攪拌して溶解した。次いで、遠心分離(回転速度:12000rpm、5分間)して、デカンテーションで沈殿物を除去した後、透析チューブ(Spectra/Por(登録商標) 1 Dialysis Membrane、MWCO6000−8000、Spectrum Laboratories, Inc.製)に注入し、超純水製造装置(PRO−0500及びFPC−0500(型番)、オルガノ株式会社製)から採水した超純水5Lに対して12時間の透析を5回繰り返して溶液を得た。
【0052】
得られた溶液2mLをアルミニウム製容器に分取し、秤量した。その後、乾燥機で100℃、2時間乾燥し得られた乾燥物を空冷し、秤量した。質量減少から溶液中のシルクフィブロイン濃度(単位:g/L)を定量した。
【0053】
濃度を測定した溶液にグリセリン及び超純水を加え、シルクフィブロイン濃度1質量%及びグリセリン濃度1質量%のシルクフィブロイン水溶液を調製した。
【0054】
支持基材であるポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東洋紡績株式会社製、商品名「A4100」、150mm×100mm×100μm厚)上に、アプリケータを用いてシルクフィブロイン水溶液を塗工した。その後、100℃1時間乾燥を行ってシルクフィブロインナノ薄膜を形成した。シルクフィブロインナノ薄膜の膜厚をフィルメトリスク株式会社製の型番:F20によって測定した結果、シルクフィブロインナノ薄膜の膜厚は100nmであった。
【0055】
続いて、ポリビニルアルコール500(関東化学株式会社製、平均重合度:500)を超純水に溶解した10質量%水溶液を、乾燥後の膜厚が5μmとなるようにナノ薄膜上にバーコーターによって塗布し、溶解性支持層を形成した。
【0056】
その後、浸透性基材として、ポリエチレンテレフタレートメッシュシート(PETメッシュ、大紀商事株式会社製、商品名「OKILON HYBRID」、JIS L1096に記載されるフラジール形法による通気性3600cc/cm
2・sec、厚さ:90μm)を、溶解性支持層上に積層し、室温(25℃)にて水分を蒸発させた。その結果、支持基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に、シルクフィブロインナノ薄膜、溶解性支持層(ポリビニルアルコール)及び浸透性基材(ポリエチレンテレフタレートメッシュシート)がこの順に積層された積層体A1を得た。
【0057】
浸透性基材をポリエチレンテレフタレートメッシュシート(PETメッシュ、大紀商事株式会社製、商品名「OKILON−SHA 2516」、JIS L1096に記載されるフラジール形法による通気性5850cc/cm
2・sec、厚さ:80μm)に変更した以外は、積層体A1と同様にして積層体A2を得た。
【0058】
積層体A1及び積層体A2のそれぞれから支持基材を剥離し、積層体A1及びA2のナノ薄膜同士を貼り合わせ、端部を固定した状態で水に24時間浸漬することにより溶解性支持層を溶解させた。その後、室温(25℃)にて水分を蒸発させた。
【0059】
その結果、浸透性基材(「OKILON HYBRID」)上に、シルクフィブロインナノ薄膜、浸透性基材(「OKILON−SHA 2516」)がこの順に積層されたナノ薄膜転写シートが得られた。これらの浸透性基材は、共にポリエチレンテレフタレートメッシュシートであるが、ナノ薄膜との密着強度が相違するものである。また、これらは、メッシュの状態(目開き)が異なっているため、ナノ薄膜との接触面積が互いに異なるものである。
【0060】
<実施例2>
実施例1と同様に、濃度を測定した溶液にグリセリン及び超純水を加え、シルクフィブロイン濃度1質量%及びグリセリン濃度1質量%のシルクフィブロイン水溶液を調製した。さらに、このシルクフィブロイン水溶液に対し、表面調整剤としてシルフェイスSAG503Aを0.1質量%添加したこと以外は実施例1と同様に行い、ナノ薄膜転写シートを得た。
【0061】
<比較例1〜2>
ポリカチオンを含む溶液Aとして、0.3質量%のキトサン(株式会社キミカ製、粘度平均分子量:90000)を含有する水溶液を準備した。ポリアニオンを含む溶液Bとして、アルギン酸ナトリウム水溶液(株式会社キミカ製、粘度平均分子量:100000、粘度:6.7mPa・s、濃度:0.1質量%)100質量部と、リンゴ酸(和光純薬工業株式会社製)1質量部とを混合して得られる溶液を準備した。
【0062】
支持基材であるポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム、東洋紡績株式会社製、商品名「A4100」、150mm×100mm×100μm厚)を準備した。(a)ポリカチオンを含む溶液Aに支持基材を1分間浸漬した後、リンス用の超純水(比抵抗:18MΩ・cm)に1分間浸漬する工程と、(b)ポリアニオンを含む溶液Bに支持基材を1分間浸漬した後、リンス用の超純水(比抵抗:18MΩ・cm)に1分間浸漬する工程を交互に行う手順を1サイクルとして、このサイクルを18回繰り返した。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルム(支持基材)上に、キトサン由来の層とアルギン酸ナトリウム由来の層とからなるナノ薄膜を形成した。形成したナノ薄膜の膜厚をフィルメトリスク株式会社製の型番:F20によって測定した結果、ナノ薄膜の膜厚は100nmであった。
【0063】
続いて、ポリビニルアルコール500(関東化学株式会社製、平均重合度:500)を超純水に溶解した10質量%水溶液を、乾燥後の膜厚が5μmとなるようにナノ薄膜上にバーコーターによって塗布し、溶解性支持層を形成した。
【0064】
その後、浸透性基材として、ポリエチレンテレフタレートメッシュシート(PETメッシュ、大紀商事株式会社製、商品名「OKILON HYBRID」、JIS L1096に記載されるフラジール形法による通気性3600cc/cm
2・sec、厚さ:90μm)を、溶解性支持層上に積層し、室温(25℃)にて水分を蒸発させた。その結果、支持基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に、ナノ薄膜(キトサン由来の層とアルギン酸ナトリウム由来の層との交互積層膜)、溶解性支持層(ポリビニルアルコール)及び浸透性基材(ポリエチレンテレフタレートメッシュシート)がこの順に積層された積層体B1を得た。
【0065】
浸透性基材をポリエチレンテレフタレートメッシュシート(PETメッシュ、大紀商事株式会社製、商品名「OKILON−SHA 2516」、JISL 1096に記載されるフラジール形法による通気性5850cc/cm
2・sec、厚さ:80μm)に変更した以外は、積層体B1と同様にして積層体B2を得た。
【0066】
積層体B1及び積層体B2のそれぞれから支持基材を剥離し、積層体B1及びB2のナノ薄膜同士を貼り合わせ、端部を固定した状態で水に24時間浸漬することにより溶解性支持層を溶解させた。その後、室温(25℃)にて水分を蒸発させた。
【0067】
その結果、浸透性基材(「OKILON HYBRID」)上に、ナノ薄膜(キトサン由来の層とアルギン酸ナトリウム由来の層との交互積層膜)、浸透性基材(「OKILON−SHA 2516」)がこの順に積層されたナノ薄膜転写シートが得られた。
【0068】
なお、前記工程(a)及び工程(b)を行うに際し、比較例1では、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成される積層体の表面(ナノ薄膜転写シートの浸透性基材を剥離した際に露出する面)にキトサン由来の層が露出するように調整した。また、比較例2では、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に形成される積層体の表面(ナノ薄膜転写シートの浸透性基材を剥離した際に露出する面)にアルギン酸ナトリウム由来の層が露出するように調整した。
【0069】
<接触角の測定>
水に対する接触角の測定に際し、水として、超純水製造装置(PRO−0500(型番)、オルガノ株式会社製)から採水した超純水(電気抵抗率:18MΩ・cm以上)を用いた。
【0070】
接触角の測定は、協和界面科学株式会社製の接触角計DM−501型を用いて行った。具体的には、温度23℃、湿度50%RHの環境下で、ナノ薄膜転写シートを切り出して得られた約50mm×50mmの試料片の浸透性基材(「OKILON−SHA 2516」)を剥離した後、シリコンウエハにナノ薄膜面を貼付した。超純水を用いて5回ずつ接触角を測定し、その平均値を接触角として得た。水に対する接触角の測定に際しては、水の滴下量を1.0μlとし、10秒静置後の接触角を読み取った。実施例1の接触角は60.2°であり、実施例2の接触角は30.2°であり、比較例1(測定対象:キトサン由来の層)の接触角は8.0°であり、比較例2(測定対象:アルギン酸ナトリウム由来の層)の接触角は6.3°であった。
【0071】
<貼付性の評価>
水及び化粧水を用いて湿らせた皮膚表面に、ナノ薄膜転写シートの浸透性基材(「OKILON−SHA 2516」)を剥離して露出したナノ薄膜を貼付した。その後、浸透性基材(「OKILON HYBRID」)を剥離してナノ薄膜を皮膚に転写した。実施例1及び2では、貼付の際、押圧することなく貼付可能であった。一方、比較例1〜2では、押圧なしでは貼付が困難であった。