【文献】
CHICHIGNOUD, G et al.,High temperature processing of poly-SiC substrates from the vapor phase for wafer-bonding,Surface & Coatings Technology,2006年,Vol.201, Issue 7,Pages 4014-4020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素、珪素又は炭化珪素からなる母材基板の両面に、酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドを含む被覆層を設け、その被覆層表面を平滑面とした支持基板を準備する工程と、
上記支持基板の両面に気相成長法又は液相成長法で多結晶炭化珪素の膜を形成する工程と、
上記支持基板のうち、少なくとも被覆層を化学的に除去して該支持基板から表面に被覆層表面の平滑性を反映させたままで多結晶炭化珪素の膜を分離し、この多結晶炭化珪素の膜を結晶粒径が10nm以上10μm以下であり、少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaが0.3nm以下である炭化珪素基板として得る工程と
を有する炭化珪素基板の製造方法。
上記母材基板の両面を平滑化し、次いで該母材基板の両面に酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドからなる被覆層を成膜することにより該被覆層表面に母材基板の平滑面を反映させて上記支持基板を作製する請求項1記載の炭化珪素基板の製造方法。
上記母材基板の両面にリン珪酸ガラス又はボロンリン珪酸ガラスからなる被覆層を形成した後、該被覆層をリフローさせてその表面を平滑化して上記支持基板を作製する請求項1記載の炭化珪素基板の製造方法。
多結晶炭化珪素の気相成長膜又は液相成長膜からなる炭化珪素基板であって、その結晶粒径が10nm以上10μm以下であり、少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaが0.3nm以下である炭化珪素基板。
立方晶及び六方晶の少なくとも1つから構成されており、基板主面の法線軸から1/3πステラジアン以内の立方角に最密面が配向している結晶粒の体積が全構成結晶粒の体積の半分以下である請求項5記載の炭化珪素基板。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスのダミーウエハや、ナノインプリンティングなどの型材、ミラー、X線リソグラフィー用の窓材、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用の主たる基板としてこれまでは単結晶のSi基板が用いられてきたが、機械的強度や化学的耐性が不十分なこと、耐熱性が不十分なことにより用途が制限されていた。最近、この用途に用いる基板として、耐熱性、機械的特性に優れ、放射線にも強い炭化珪素基板が注目されている。
【0003】
上記用途に用いるための基板には、50μm以下のTTV(Total Thickness Variation)や算術平均粗さRaで1nmを下回るほどの平滑性が要求される。
【0004】
ここで、単結晶の炭化珪素基板を上記用途に用いた場合、単結晶炭化珪素基板は製造コストが高く、また熱工程などを経ると、結晶中の転位が運動し基板が変形するという問題が生ずる。
【0005】
一方、多結晶の炭化珪素基板は比較的安価に作製することが可能であり、かつ結晶粒界を多数含むので、転位の運動が阻まれ、熱工程を経た後にも基板の変形が抑制される。しかしながら、平滑な表面を得ようとして基板表面にCMP(chemical−mechanical polishing)を施すと、表面の平滑性が損なわれるという問題が発生する。これは、多結晶の炭化珪素基板では表面に異なる極性面や結晶方位面が混在して露出しており、それらの研磨速度やエッチング速度が異なるためである。
【0006】
また、最近では安価な多結晶炭化珪素基板上に単結晶炭化珪素薄膜を貼り合わせ、高性能なパワー半導体を製造する動きもみられる(例えば、特開2015−15401号公報(特許文献1)参照)。
直接接合法では接合面の表面粗さを非常に小さくする必要があるところ、この発明では接合面を改質して非晶質層を形成することにより直接接合法で要求される接合面の表面粗さよりも表面粗さが大きな場合でも所望の接合強度が得られるとしている。しかしながら、この発明では基板表面にアルゴンの中性原子ビームを照射して表面から一定の深さまでの結晶構造を破壊して非晶質層を形成した後、貼り合わせた後に1000℃以上の熱処理を施して非晶質層に流動性を持たせて接触面間の空間を埋めるようにしており、特殊な処理が必要となっている。したがって、直接接合法によって簡便に多結晶炭化珪素基板に単結晶炭化珪素薄膜を貼り合わせた積層基板を作製することが可能な、接合面の表面粗さを非常に小さくした多結晶炭化珪素基板が望まれている。
【0007】
また、炭化珪素基板の平滑化、平坦化に関して以下のような技術が開示されている。
特開2015−211047号公報(特許文献2)では、炭化珪素基板の研磨する面をギャップ形成材、砥粒、及び電解質を含む電解液を挟んで導電性定盤に対向配置し、前記炭化ケイ素基板の表面を陽極とし、前記導電性定盤を陰極として、前記炭化ケイ素基板の研磨する面の少なくとも一部を前記電解液に接触させながら電解研磨する、炭化ケイ素基板の研磨方法が提供されている。
また、特開2016−155697号公報(特許文献3)では、ポテンショスタットを用いて、二槽型溶液槽中の第一溶液槽中で作用極、対極を第二溶液槽中で参照極を配して、第一溶液槽と第二溶液槽を塩橋にて電位を制御する装置構成において、第一溶液槽中に浸漬し配置した炭化珪素基板の表面に対して、作用極に備えた回転可能な平坦触媒電極により、炭化珪素基板表面を研磨処理する炭化珪素基板の平坦化処理方法が提供されている。
しかしながら、加工工程が複雑になること、電気伝導度によって加工品質が変化すること、結晶欠陥の箇所においてピットが発生するなどの問題が懸念される。
【0008】
特開2008−230944号公報(特許文献4)では、結晶欠陥を含む不安定サイトや、基板表面の研磨時に発生したダメージ層が存在する単結晶炭化珪素基板を高真空環境において1500℃以上2300℃以下の温度で加熱処理することにより、単結晶炭化珪素基板の表面及びその近傍を炭化して炭化層を形成し、次にこの単結晶炭化ケイ素基板をシリコンの飽和蒸気圧下で加熱処理することにより、炭化層の部分にアモルファス炭化珪素からなる犠牲成長層を形成すると共に、このアモルファス炭化珪素層を昇華させて熱エッチングして(第2工程)、不安定サイトが自己修復された平坦な単結晶炭化珪素表面を露出させることができ、このあと更に若干量熱エッチングすることで、非常に平坦化(安定化)された単結晶炭化珪素基板を得ることができることが述べられている。しかしながら、この方法では炭化珪素に熱的なストレスが加えられるため、結晶内での欠陥の移動や拡張が促進され、所望の品質が得られないという問題が懸念される。
【0009】
特開平11−147766号公報(特許文献5)では、多結晶から成る炭化珪素焼結体において、該焼結体の研磨面の表面粗さが、接触式による中心線平均粗さ(Ra)で3nm以下である炭化珪素焼結体を提供している。これを製造するために0.7μm以下の平均粒径を有する炭化珪素粉末に、焼結助剤としてほう素またはその化合物を0.1〜0.8重量%、炭素を1〜5重量%添加し、成形し、それを1900〜2050℃の不活性ガス雰囲気中で常圧焼結した後、それをさらに1000kg/cm
2以上の圧力下で焼結温度より低い温度で熱間静水圧プレス(HIP)処理し、得られたHIP処理体の表面を2μm以下の平均粒径を有するダイヤモンド砥粒で研磨することとした炭化珪素焼結体の製造方法も開示されている。しかしながら、製造工程が複雑になること、高温処理によって結晶の品質が劣化すること、表面の粒径が制限されること、ホウ素が不純物として取り込まれること等の問題が生ずる。
【0010】
炭化珪素基板の応力低減に関しても、幾つかの構造や方法が提供されている。
例えば、特開2013−216514号公報(特許文献6)では、回転引き上げされる台座を囲みつつ加熱容器の内周壁面から突き出すように第3断熱材を備える炭化珪素単結晶製造装置が開示されている。これにより、炭化珪素単結晶の外縁部の温度が第3断熱材の温度に引っ張られるようにでき、炭化珪素単結晶の成長表面が凹形状になることを抑制できる。よって、炭化珪素単結晶の結晶内部に応力が発生することを抑制でき、結晶欠陥(転位)が発生するなどによって品質が劣化することを防止することが可能となる。しかしながら、炭化珪素結晶と断熱材の配置や温度等により発生する応力の影響を少なからず受けるため、応力低減のためには、精密な形状と温度の制御が必要となる。
【0011】
また、特開平9−221395号公報(特許文献7)では、基体上に形成される多結晶の炭化珪素膜において、該炭化珪素膜は基体表面に被覆された多結晶薄膜を介して形成されていることを特徴とする炭化珪素膜が開示されている。しかしながら、基体表面に被覆された多結晶薄膜の結晶粒の配向を等方的にすることは容易ではなく、かつ多結晶の炭化珪素膜表面の平滑性は、基体表面に被覆された多結晶薄膜の表面粗さの影響を受けるという問題が生ずる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、表面が平滑かつ平坦であり、かつ内部応力の低減も実現する炭化珪素基板の製造方法及び炭化珪素基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ところで、予め平滑な基板(母材基板)を準備し、その基板の両面に多結晶の炭化珪素を堆積し、その後に母材基板を除去すれば、母材基板に当接していた多結晶炭化珪素の表面は母材基板表面と同等の平滑性を有することが期待できる。例えば、母材基板としてSiウエハを用いれば、それに当接した多結晶炭化珪素表面においてSiウエハ表面と同等の表面粗さ(例えば算術平均粗さRa<1nm)が得られると考えられてきた(Siウエハ表面のレプリカ)。また例えば、シリコン基板を準備し、これに炭化珪素を堆積し、その後にシリコン基板をエッチングなどにより除去すれば、フリースタンディングの(自立した)炭化珪素基板が得られ、シリコン基板と接していた面においては、シリコン基板表面と同等の平滑性を有する面が得られることが期待される。
また、特開平7−335562号公報(特許文献8)では、単結晶シリコン基板表面を炭素雰囲気中で炭化させて単結晶の炭化珪素からなる表面炭化層を形成する工程と、前記の表面炭化層をシリコン基板より分離する工程と、シリコン基板より分離された表面炭化層を基板としてシリコンの原料ガスと炭素の原料ガスより炭化珪素を析出させる工程とを含むことを特徴とする炭化珪素の成膜方法が提供されている。
しかしながら、非特許文献1(日本結晶成長学会誌、Vol.24、No.3(1997)p.270−286)に記載されているように、炭化珪素を堆積する高温環境においてはSiウエハの表面がエッチングやサーマルラフニング、あるいは炭化され、当初の平滑性が損なわれてしまい、結果としては多結晶炭化珪素の表面の平滑性も損なわれる。このため、
図14に示すように、シリコン基板91上に炭化珪素膜92を堆積、形成する前に、シリコン基板91にはエッチピット91pが発生し、そのレプリカがフリースタンディングした炭化珪素基板(炭化珪素膜92)の表面92f上に転写されて突起93を形成し、期待される平滑な表面が得られなかった。
【0016】
炭素からなる母材基板を準備し、その基板上に多結晶炭化珪素を堆積した後に、炭素基板を酸化して除去すれば、サーマルラフニングや炭化による平滑性の悪化からは逃れることができる。しかしながら、炭素基板の製造法やかさ密度によっては、多結晶の炭化珪素を堆積中に堆積雰囲気中のSiが炭素製母材基板に含浸してしまい変形をもたらすという問題が懸念される。
【0017】
更に、炭化珪素基板自体を母材基板として用いることも考えられるが、多結晶炭化珪素表面を算術平均粗さRa1nm以下の平滑性に至るまで研磨することが難しいことや、母材基板と同種の多結晶炭化珪素を選択的に剥離させて取り出す手段が無いため、現実的な方法とは言えない。
【0018】
これに加え、母材基板としてSiウエハや炭化珪素基板を用いた場合には、本来多結晶炭化珪素であるべき堆積層が不本意にもエピタキシャル成長により形成されてしまい、単結晶化し、変形しやすくなるという問題も含む。
【0019】
また、特開2016−18890号公報(特許文献9)では、炭化珪素基材の表面にガラス状炭素層及び前記ガラス状炭素層の上にCVD−炭化珪素層を有する炭化珪素複合基板と、表面に水素イオンが注入されたイオン注入層を有する単結晶炭化珪素基板とを準備する工程と、前記炭化珪素複合基板のCVD−炭化珪素層と前記単結晶炭化珪素基板のイオン注入層とを貼り合せ接合体を得る接合工程と、前記接合体を加熱し、前記イオン注入層を単結晶炭化珪素基板から剥離し、単結晶被覆基板を得る第1剥離工程と、前記単結晶被覆基板の前記ガラス状炭素層とCVD−炭化珪素層とを剥離し炭化珪素ウエハを得る第2剥離工程と、からなる炭化珪素ウエハの製造方法が提供されている。ただし、ガラス状炭素層を軟化させて平滑化することは困難であり、CMPによる平坦化も困難であることから、剥離によって平滑な炭化珪素ウエハを得ることは難しい。
また、炭素層の酸化雰囲気に対する耐性が十分ではないため、CVD−炭化珪素層を形成する際にその表面が荒れてしまう可能性がある。
発明者らは以上の知見を基に鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。
【0020】
即ち、本発明は、下記の炭化珪素基板の製造方法及び炭化珪素基板を提供する。
〔1〕 炭素、珪素又は炭化珪素からなる母材基板の両面に、酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドを含む被覆層を設け、その被覆層表面を平滑面とした支持基板を準備する工程と、
上記支持基板の両面に気相成長法又は液相成長法で多結晶炭化珪素の膜を形成する工程と、
上記支持基板のうち、少なくとも被覆層を化学的に除去して該支持基板から表面に被覆層表面の平滑性を反映させたままで多結晶炭化珪素の膜を分離し、この多結晶炭化珪素の膜を結晶粒径が10nm以上10μm以下であり、少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaが0.3nm以下である炭化珪素基板として得る工程と
を有する炭化珪素基板の製造方法。
〔2〕 上記母材基板の両面を平滑化し、次いで該母材基板の両面に酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドからなる被覆層を成膜することにより該被覆層表面に母材基板の平滑面を反映させて上記支持基板を作製する〔1〕記載の炭化珪素基板の製造方法。
〔3〕 上記母材基板の両面にリン珪酸ガラス又はボロンリン珪酸ガラスからなる被覆層を形成した後、該被覆層をリフローさせてその表面を平滑化して上記支持基板を作製する〔1〕記載の炭化珪素基板の製造方法。
〔4〕 熱CVD法により上記多結晶炭化珪素の膜を形成する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の炭化珪素基板の製造方法。
〔5〕 多結晶炭化珪素の気相成長膜又は液相成長膜からなる炭化珪素基板であって、その結晶粒径が10nm以上10μm以下であり、少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaが0.3nm以下である炭化珪素基板。
〔6〕 立方晶及び六方晶の少なくとも1つから構成されており、基板主面の法線軸から1/3πステラジアン以内の立方角に最密面が配向している結晶粒の体積が全構成結晶粒の体積の半分以下である〔5〕記載の炭化珪素基板。
〔7〕 基板の反り量が基板の直径が6インチのときに−30μm以上30μm以下である〔5〕又は〔6〕記載の炭化珪素基板。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面が平滑な支持基板の被覆層上に該被覆層を浸食することなく多結晶炭化珪素膜を形成するので、表面に支持基板の平滑な面を反映させた多結晶炭化珪素膜を炭化珪素基板として得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[炭化珪素基板の製造方法]
以下に、本発明に係る炭化珪素基板の製造方法について説明する。
本発明に係る炭化珪素基板の製造方法は、炭素、珪素又は炭化珪素からなる母材基板の両面に、酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドを含む被覆層を設け、その被覆層表面を平滑面とした支持基板を準備する工程と、上記支持基板の両面に気相成長法又は液相成長法で多結晶炭化珪素の膜を形成する工程と、上記支持基板全体を化学的に除去して取り出した多結晶炭化珪素の膜、又は上記支持基板のうち被覆層を化学的に除去し母材基板から分離した多結晶炭化珪素の膜を結晶粒径が10nm以上10μm以下であり、少なくとも一方の主面の算術平均粗さRaが0.3nm以下である炭化珪素基板として得る工程とを有する。
以下、本発明に係る炭化珪素基板の製造方法の実施形態について
図1を参照しながら説明する。
【0024】
(工程1)
炭素、珪素又は炭化珪素からなる母材基板1aの両面に、酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドを含む膜である被覆層1b,1bを設け、その被覆層1b、1b表面を平滑面とした支持基板1を準備する(
図1(a))。
【0025】
ここで、母材基板1aは、炭素、珪素又は炭化珪素からなる板厚の均一な基板である。例えば、高純度カーボン基板、シリコン(Si)ウエハ、炭化珪素基板が挙げられる。
母材基板1aの主面の大きさは、最終的に得られる炭化珪素基板の大きさに対応するものであり、例えば直径3インチ、6インチなど適宜選択するとよい。また、母材基板1aの厚さは後述する炭化珪素膜を支持可能な程度の強度を確保できる程度に厚く、後述する除去が容易な程度に薄いことが好ましく、例えば100〜1000μmが好ましく、300〜700μmがより好ましい。
【0026】
被覆層1bは、酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドを含む、後で行なわれる多結晶炭化珪素膜の成膜時に用いられる原料(化学気相成長法の場合では原料ガス)との反応性が小さい材料からなる膜であり、多結晶炭化珪素膜の成膜時の母材基板1aの不本意なエッチングや炭化反応を抑制するためのものである。また、被覆層1bは、多結晶炭化珪素膜の成膜後に該多結晶炭化珪素膜を侵すことなく化学的に除去可能な材料からなる膜である。
【0027】
ここで、被覆層1bは、後で行なわれる多結晶炭化珪素膜の成膜時に用いられる原料(化学気相成長法の場合では原料ガス)との反応性が小さい材料からなる膜であり、多結晶炭化珪素膜の成膜時の母材基板1aの不本意なエッチングや炭化反応を抑制し、多結晶炭化珪素膜の成膜後に該多結晶炭化珪素膜を侵すことなく化学的に除去可能な材料からなるものである限り、主成分の酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドに他の副成分材料を含んでいてもよい。
【0028】
例えば、「酸化珪素を含む被覆層1b」は、酸化珪素のみからなる被覆層1bだけではなく、酸化珪素(SiO
2)と他のガラス形成成分とからなる被覆層1bを含み、好ましくはB
2O
3及び/又はP
2O
5がドープされたリフロー性を有するボロン珪酸ガラス(Boro silicate glass:BSG)、リン珪酸ガラス(Phospho silicate glass:PSG)、ボロンリン珪酸ガラス(Boro−phospho silicate glass:BPSG))からなる被覆層1bも含む。
また、「窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドを含む被覆層1b」についても、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドのみからなる被覆層1bだけではなく、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドと、それ以外の上記特性を阻害しない副成分材料とを含む材料からなる被覆層1bでもよい。
【0029】
好ましい被覆層1bとしては以下のものが例示される。
例えば、母材基板1aが単結晶シリコン基板の場合、該シリコン基板を熱酸化処理することにより基板表裏面に形成される熱酸化膜(酸化珪素膜)を被覆層1bとしてもよい。
また、母材基板1a表面にSOG(Spin on Glass)膜を形成し、これを被覆層1bとしてもよい。
あるいは、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成されるリン珪酸ガラス(PSG)からなる膜(PSG膜)又はボロンリン珪酸ガラス(BPSG)からなる膜(BPSG膜)を被覆層1bとしてもよい。
また、酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素又はシリサイドからなる化学気相成長膜を被覆層1bとしてもよい。
また、シリコン基板上に金属膜を蒸着法などにより堆積させ、更に加熱して固相反応を引き起こすことにより任意の金属(例えば、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンなど)のシリサイドを被覆層1bとして形成してもよい。
【0030】
なお、成膜方法及び成膜条件を選定することにより被覆層1bを非晶質の膜とすれば、その上に炭化珪素膜を堆積させても堆積方法や堆積条件に依存せず、等方的に配向した多結晶の炭化珪素膜を得ることができ好ましい。
【0031】
被覆層1bの厚さは、支持基板1の表面の平滑性を確保でき、化学的に除去可能であれば特に制限されないが、例えば0.01〜10μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。
【0032】
支持基板1の表面は、その平滑性が最終的に炭化珪素基板の表面に反映されるものであることから該炭化珪素基板に要求されるレベルの平滑性を有する必要があり、その表面の算術平均粗さRaが0.3nm以下であることが好ましく、0.1nm以下であることがより好ましい。
【0033】
なお、ここでいう算術平均粗さRaは、対象となる基板表面を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)などの走査プローブ顕微鏡法(Scanning Probe Microscope;SPM)により測定した表面プロファイル(断面曲線)データを基に、JIS B0601:2013で規定される算術平均粗さRaの式により算出したもの(即ち、粗さ曲線において基準長さにおけるZ(x)(任意位置xにおける粗さ曲線の高さ)の絶対値の平均)である(以下に出てくる算術平均粗さRaにおいて同じ)。なお、表面プロファイル(断面曲線)は、対象の試料表面の組織を観察し、できるだけ凹凸が大きくなる断面方向のものとする。
【0034】
本発明では、このように両面が平滑化された支持基板1を準備する方法として、母材基板1aの両面を平滑化した後、その平滑面を表面まで反映させる被覆層1b,1bを形成して上記支持基板1を準備する方法(方法1)と、母材基板1aの両面に被覆層1b,1bを形成した後に該被覆層1b,1bをリフローさせてその表面を平滑化して上記支持基板1を準備する方法(方法2)の2つの方法が推奨される。
【0035】
即ち、方法1として、母材基板1a、好ましくは炭素又は珪素からなる母材基板1aの両面を平滑化し、次いで該母材基板1aの両面に被覆層1b,1bを成膜し、母材基板1aの平滑面を該被覆層1b、1b表面に反映させて支持基板1を作製することが好ましい。
【0036】
ここで、炭素又は珪素からなる母材基板1a両面をCMP処理により算術平均粗さRa0.1nm程度になるように平滑化を行うことが好ましい。次いで、被覆層1bとして上記で例示したいずれかの膜を形成すればよい。このとき、母材基板1aがシリコン基板(Si基板)の場合にはシリコン基板を熱酸化すれば簡便に平滑で均一性に優れた酸化珪素膜を被覆層1bとして得ることができ好ましい。また、化学気相成長法を用いれば酸化珪素、窒化珪素、窒化炭化珪素、シリサイドのいずれからなる膜であっても任意の膜厚で被覆層1bとして形成可能であり好ましい。あるいは、本発明の製造方法で製造した少なくとも片面が平滑化された2枚の炭化珪素基板をその平滑化された表面が外側になるように互いに貼り合わせたものを母材基板1aとしてもよい。
【0037】
方法1として、例えば、以下のように支持基板1を準備するとよい。
即ち、まず両面に研磨を施した単結晶Si基板を準備する。このとき、研磨後の表面の算術平均粗さ(Ra)は0.1nm以下とする。次いで、この単結晶Si基板を熱酸化装置に載置し、1100℃で300分の水蒸気酸化を施す。この酸化により熱酸化膜が被覆層1b,1bとしてSi基板の両面に形成される。酸化膜表面のRaは0.3nm以下とすることが望ましく、更に0.1nm以下がより望ましい。母材基板1aの平滑面を表面に反映させるためには酸化膜の厚さは0.5μm以下にとどめることが望ましい。なお、酸化膜表面の算術平均粗さRaが0.3nmを超える場合には、研磨やエッチングなどにより平滑化してもよい。
【0038】
また、方法2として、母材基板1aの両面にリン珪酸ガラス(PSG)又はボロンリン珪酸ガラス(BPSG)からなる被覆層1bを形成した後、該被覆層1bをリフローさせてその表面を平滑化して上記支持基板1を作製することが好ましい。
【0039】
この場合、母材基板1aが炭素、珪素、炭化珪素のいずれの材料からなるものでもよいが、研磨による表面平滑化が困難な炭化珪素基板であっても適用可能である。即ち、母材基板1aの両面に被覆層1bとしてPSG膜又はBPSG膜を形成した後、1000℃程度の高温で熱することでこの膜をリフローさせることによっても表面が平滑化され所期の支持基板1を得ることができる。また、母材基板1aとして炭化珪素基板を用いた場合には、被覆層1bが母材基板1aと多結晶炭化珪素膜との剥離を促し、多結晶炭化珪素膜を分離して取り出すことができるようになる。なお、PSG膜又はBPSG膜の形成は従来公知の方法、例えば熱CVD法でよい。
【0040】
(工程2)
次に、支持基板1の全面に気相成長法又は液相成長法で多結晶炭化珪素膜10を形成する(
図1(b))。
【0041】
ここで、炭化珪素膜10の形成は、化学気相成長法によるものが好ましく、熱CVD法によるものがより好ましい。
【0042】
(炭化珪素膜の形成例)
ここでは、単結晶Si基板の母材基板1a表面に熱酸化膜が被覆層1b,1bとして形成された支持基板1を用いた場合で説明する。
まず、上記のように表面が平滑化されたウエハである支持基板1を熱CVD装置に載置する。
載置に際しては、支持基板1の両面がガス雰囲気に均等に暴露されるよう、ウエハ周辺部の一か所のみをカーボン製又は炭化珪素製ロッドにナットで固定する。固定された場所が一箇所のみであるため、固定治具とウエハの間に熱膨張係数差が有っても応力が発生せず、熱CVD工程後においてもウエハの変形や残留応力が抑制される。
【0043】
次いで、大気圧窒素雰囲気中で支持基板1を所定の成膜温度まで昇温し、塩化シラン、炭化水素を導入する。導入された塩化シランは気相中で熱分解され、SiCl
2を生成し、それらが支持基板1の両面に形成された被覆層1b,1b上に吸着する。吸着したSiCl
2は水素で還元されてSiが形成される。次いで、Siが炭化水素と反応して炭化珪素が被覆層1b,1b上に形成される。更に、支持基板1の端部外周部にも炭化珪素が形成される。ここで、単結晶のSi基板上であれば、成膜される炭化珪素は基板Siの結晶性を引き継いで(エピタキシャル成長)単結晶が形成されるが、Si基板は非晶質の酸化膜で覆われているため、エピタキシャル成長が阻害されて多結晶の炭化珪素が形成される。
なお、上記工程において酸化膜(被覆層1b)が熱的にダメージを受けたりエッチングされてしまう場合には、意図的に低い温度で薄膜の多結晶炭化珪素を堆積したり、炭化水素雰囲気で酸化膜表面を炭化珪素膜に転換することで酸化膜の劣化を抑制することが可能であり、その後で高温で高速の多結晶炭化珪素の堆積を実施してもよい。
【0044】
成膜される多結晶炭化珪素の結晶粒は立方晶か六方晶の結晶構造を形成するが、エネルギー的に最も安定な結晶面が表面積を広げるようにして膜が形成されるため、結晶粒の配向方位は必ずしも均一になるとは限らない。結晶粒が特定方向に配向してしまうと、炭化珪素膜の応力が増大したり、基板に反りが発生したりする。そこで、できる限り結晶粒径を小さくとどめ、かつランダムな方向に配向するように(等方的な配向方位となるように)気相中の過飽和度を高めることが好ましい。このため、基板温度は1000〜1370℃の範囲、更に望ましくは1250〜1330℃の範囲とするとよい。基板温度が低い場合には気相中での塩化シランの分解が不十分なために工業的に量産に適した成膜速度(5μm/h以上)が得られなくなる場合がある。一方、基板温度が高すぎる場合には、結晶粒の横方向成長が促進されて膜の配向性が高まり本発明の効果を発現させることができなくなるおそれがある。なお、被覆層1bがPSG又はBPSGからなる場合には基板温度がリフロー温度以上となるため、基板を短時間で昇温して多結晶炭化珪素で被覆することが望ましい。
【0045】
また、原料ガスの塩化シランとしてはジクロルシラン、トリクロルシラン、テトラクロルシランのいずれかから選択することが可能であるが、シランやジシランと塩化水素の混合ガスで代用することも可能である。塩化シランとしてジクロルシランを用いる場合には、50〜500sccmの流量で導入することが望ましく、更には100〜300sccmの流量がより望ましい。流量が小さい場合には十分な成膜速度が得られないばかりか、過飽和度が低下して膜の配向性が高まり、膜応力が高まったり、基板に反りが発生したりする可能性が生ずる。また、流量が大きすぎる場合には気相中でのSiCl
2生成量が過剰となり、これが膜中にSi微結晶を混入させるおそれがある。一方、炭化水素としてはメタン、エタン、アセチレン、プロパンなどを用いることができるが、本実施形態に記載された温度領域で最も安定なアセチレンを用いることが望ましい。ジクロルシランと併用してアセチレンを用いる場合、導入されるSiとCの原子の数の比は炭化珪素(Si/C)=1.5〜3.5が望ましく、更には2.0〜3.0がより望ましい。この比が大きい場合にはSiの反応前駆体量が過剰となり、炭化珪素膜中にSiの微結晶が混入するおそれがある。一方、この比が小さい場合には基板表面のエッチングが促進されたり、グラファイトが堆積したりするという問題が発生する場合がある。
【0046】
上述の熱CVD工程において、ウエハ(支持基板1)表面は塩化雰囲気や炭化雰囲気にさらされるが、その表面は酸化や塩化に耐性を有する酸化膜が被覆層1bとして覆われているため、エッチピットの発生が抑制され、サーマルラフニングの影響も受けずに多結晶炭化珪素膜に対する界面としての平滑性が保たれる。
【0047】
上記した最適CVD条件範囲においてはランダムな方向に(等方的に)配向した炭化珪素多結晶膜が得られ、Si基板表面の面方位にかかわらず、基板の法線軸から1/3πステラジアン内の立体角に最密面を配向させる結晶粒の体積の割合は、全構成結晶粒体積の半分以下となる。この結晶の配向性分布はX線回折法によるロッキングカーブや極座標、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction:EBSD)などから定量的に算出することができる。
【0048】
支持基板1の表裏主面上に形成される炭化珪素膜10の膜厚は、支持基板1を除去した後にも単独で十分な機械的強度を保つように50μm以上であることが好ましく、更に150μm以上であることがより好ましい。
【0049】
(工程3)
次に、炭化珪素膜10のうち、支持基板1端部に付着した炭化珪素膜を研削により除去して支持基板1の端面を露出させる(
図1(c))。
このとき、支持基板1端部の炭化珪素膜をダイヤモンドホイールで切断したり、研磨砥粒で研削したりすることにより除去するとよい。この結果、支持基板1の端面が露出すると共に、支持基板1の表裏主面上に炭化珪素膜である炭化珪素基板10a、10bが存在する状態となる。
【0050】
(工程4)
次に、上記支持基板1のうち、少なくとも被覆層1b、1bを化学的に除去して該支持基板1から表面に被覆層1b表面の平滑性を反映させたままで多結晶炭化珪素の膜を分離し、この多結晶炭化珪素の膜を炭化珪素基板10a、10bとして得る(
図1(d))。
【0051】
ここで、支持基板1からの多結晶炭化珪素の膜の分離の仕方としては、支持基板1全体を化学的に除去して多結晶炭化珪素の膜を取り出すようにしてもよいし、あるいは上記支持基板1のうち被覆層1b、1bを化学的に除去し母材基板1aから多結晶炭化珪素の膜を分離するようにしてもよい。
【0052】
即ち、支持基板1が上記で例示した単結晶Si基板の母材基板1a表面に熱酸化膜が被覆層1b,1bとして形成されたものである場合、
図1(c)に示す構成の積層基板をフッ化水素溶液と硝酸溶液の混酸に浸漬することにより支持基板1全体、即ちSi基板と熱酸化膜をエッチングして除去するとよい。このとき、支持基板1の表裏面に堆積された多結晶炭化珪素膜は十分な化学的耐性を有しており、エッチングされることなく単体の膜として採取することができる。また、多結晶炭化珪素膜は支持基板1の両面に堆積されているため、このエッチングによって一枚の基板あたり2枚の多結晶炭化珪素膜を炭化珪素基板10a、10bとして得ることができる。
【0053】
また、支持基板1のうち、母材基板1aがカーボン基板からなる場合、大気中で加熱してカーボンを酸化して除去し、残った被覆層1bを化学的なエッチングで除去するとよい。
【0054】
更に、支持基板1のうち、母材基板1aが炭化珪素基板からなる場合、支持基板1の端面から被覆層1b,1bを化学的にエッチングして除去して、母材基板1aから炭化珪素膜を剥離させるようにするとよい。
【0055】
被覆層1b,1bを化学的にエッチング除去する場合、好ましいエッチング液として以下のものが例示される。
例えば、酸化珪素からなる被覆層1bを化学的にエッチング除去する場合、エッチング液としてフッ化水素溶液と硝酸溶液の混酸を用いるとよい。
また、窒化珪素からなる被覆層1bを化学的にエッチング除去する場合、エッチング液としてリン酸(液温150℃以上)を用いるとよい。
また、窒化炭化珪素からなる被覆層1bを化学的にエッチング除去する場合、エッチング液として溶融KOHや溶融NaOH(液温400℃以上)を用いるとよい。
また、シリサイドからなる被覆層1bを化学的にエッチング除去する場合、シリサイドを構成する金属によって、適宜、硫酸(H
2SO
4)、硝酸(HNO
3)、リン酸(H
3PO
4)、ホスホン酸(H
3PO
3)、有機酸の混酸からエッチング液として選択して用いるとよい。
また、リン珪酸ガラス又はボロンリン珪酸ガラスからなる被覆層1bを化学的にエッチング除去する場合、エッチング液として48質量%程度の弗酸水溶液(弗化水素酸)を用いるとよい。
【0056】
以上のようにして得られた炭化珪素基板10a、10bの被覆層1b,1bに当接していた面は被覆層1b表面の形状(平滑性)を反映するため、煩雑な研磨工程を経ること無く、算術平均粗さRaで0.3nm以下の平滑性を有する多結晶炭化珪素基板を得ることができる。
また、炭化珪素基板10a、10bを構成する結晶粒の粒径は10nm〜10μmの範囲となり、望ましくは100nm〜5μmの範囲となり、更に望ましくは100nm〜2μmの範囲となる。この結晶粒径範囲であれば、膜の電気抵抗の増加を抑制し、パワーデバイスの基板として用いる際の損失を小さくすることができる。また、結晶の配向性を抑制し、応力の局在化を抑えることができる。
【0057】
また、炭化珪素基板10a、10bを構成する結晶粒の配向方位が等方的であり、転位の運動が妨げられるため、応力の発生も100MPa以下に抑えられ、炭化珪素基板の反りや変形も抑制される。通常、結晶性の膜は転位の運動により変形や応力変化をもたらすが、結晶粒が等方的に配向している場合には転位の運動方向も等方的なものとなる上、結晶粒界において転位の運動が妨げられるため、変形や応力分布が抑制される。なお、多結晶膜の応力や粗さは結晶粒径の影響を受けるが、結晶粒径は堆積時の温度や圧力により随意に制御可能である。
【0058】
以上のように、本発明の炭化珪素基板の製造方法によれば、平坦性と平滑性に優れ、内部応力も低減した多結晶炭化珪素基板を実現することができる。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、算術平均粗さRaは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)を用いて測定した表面プロファイル(断面曲線)データを基に、JIS B0601:2013で規定される算術平均粗さRaの式により算出した。なお、このときの表面プロファイル(断面曲線)は、対象の試料表面の組織を観察し、できるだけ凹凸が大きくなる断面方向のものとした。
【0060】
[実施例1]
図1に示す手順で炭化珪素基板を作製した。
まず、母材基板1aとして、直径3インチφ、厚さ400μmで表面を(100)面とした単結晶シリコン基板を用いた。シリコン基板の両面には研磨を施しており基板表面の算術平均粗さRaは0.1nmであった。
次いで、シリコン基板に対して1100℃の水蒸気酸化処理を施し、基板表裏面に0.5μmの厚さの熱酸化膜を被覆層1b,1bとして形成し、支持基板1を用意した。この場合、被覆層1b、1b(熱酸化膜)表面は母材基板1a(シリコン基板)の平滑面を反映しており、支持基板1の表面の算術平均粗さRaは0.3nm以下であった。
次に、支持基板1に対して以下の条件で熱CVD法を用いて炭化珪素膜の成膜を実施した。
(成膜条件)
成膜温度:1300℃、
圧力:11Pa、
導入したガス:ジクロルシラン200sccm、アセチレン50sccm、水素3slm。
6時間の成膜により厚さ300μmの立方晶炭化珪素膜10を形成した。
次いで、支持基板1端部に付着した炭化珪素膜を研削により除去して支持基板の端面を露出させた。その後、その試料を弗酸と硝酸の混酸に浸漬して支持基板1の全部を除去した。支持基板1の除去により、フリースタンディングの厚さ300μmの炭化珪素基板10a、10bを得た。
【0061】
炭化珪素基板10a、10bの支持基板1の被覆層1bに接していた面10af、10bfを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、
図2に示す表面組織及び
図3に示す表面プロファイル(粗さ断面曲線。図中、横軸は試料表面の位置、縦軸は粗さ断面曲線の高さである(以下同じ))からなるモホロジーが見られ、その算術平均粗さRaは0.24nmであることが判明した。
図3の表面プロファイルに表面粗さデータも合わせて示す(以下、同じ)。
また、X線回折装置(株式会社リガク製、SuperLab、Cu管球)を用いてX線ロッキングカーブ法(ωスキャン)により、炭化珪素基板の表面の法線軸を基準とする該炭化珪素基板を構成する3C−SiC結晶の(111)面のロッキングカーブを取ったところ、顕著なピークは見出されず、基板の法線軸から1/3πステラジアンの立体角に最密面を配向させている結晶粒は全体の17%以下の多結晶であることが見出された。なお、炭化珪素基板の結晶粒の粒径は110〜600nmであった。
また、上記フリースタンディング化した炭化珪素基板10a、10bにオプティカルフラットを載置して、光学的干渉により形成されるニュートンリングの間隔から曲率半径を求めたところ、103mが得られ、口径6インチのウエハにおいては27μmの反り量まで低減されることが判明した。
【0062】
[実施例2]
図1に示す手順で炭化珪素基板を作製した。
まず、母材基板1aとして、直径3インチφ、厚さ400μmの高純度カーボン基板を用いた。カーボン基板表面の算術平均粗さRaは2.3nmであった。
次に、CVD法によりカーボン基板の表裏面に厚さ1μmのBPSG(Boro−phospho silicate glass)膜を被覆層1b,1bとして堆積させた。次いで、アルゴンガス雰囲気中で900℃に加熱してこの被覆層1b,1bをリフローさせることにより表面を平滑化させて、支持基板1とした。この支持基板1の表面の算術平均粗さRaは0.2nmであった。
次に、この支持基板1に対して実施例1と同じ条件で熱CVD法を用いて厚さ300μmの炭化珪素膜の成膜を実施した。
次いで、支持基板1端部に付着した炭化珪素膜を研削により除去して支持基板1の端面を露出させた。その後、その試料を大気中で900℃にて24時間加熱することによりカーボン基板の部分を除去し、更に被覆層1bのBPSG膜を弗酸溶液で除去した。支持基板1の除去により、フリースタンディングの厚さ300μmの炭化珪素基板10a、10bを得た。
【0063】
炭化珪素基板10a、10bの支持基板1の被覆層1bに接していた面10af、10bfを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、
図4に示す表面組織及び
図5に示す表面プロファイルからなるモホロジーが見られ、その算術平均粗さRaは0.13nmであることが判明した。
また、実施例1と同様にして、炭化珪素基板の結晶のロッキングカーブを測定したところ、顕著なピークは見出されず、基板の法線軸から1/3πステラジアンの立体角に最密面を配向させている結晶粒は全体の17%以下の多結晶であることが見出された。なお、炭化珪素基板の結晶粒の粒径は160〜820nmであった。
また、上記フリースタンディング化した炭化珪素基板10a、10bにオプティカルフラットを載置して、光学的干渉により形成されるニュートンリングの間隔から曲率半径を求めたところ、95mが得られ、口径6インチのウエハにおいては30μmの反り量まで低減されることが判明した。
【0064】
[比較例1]
支持基板として、直径3インチφ、厚さ400μmで表面を(100)面とした単結晶シリコン基板を用いた。シリコン基板の両面には研磨を施しており基板表面の算術平均粗さRaは0.1nmであった。
この支持基板に対して実施例1と同じ条件で熱CVD法を用いて厚さ300μmの炭化珪素膜の成膜を実施した。
次いで、支持基板端部に付着した炭化珪素膜を研削により除去して支持基板の端面を露出させた。その後、その試料を弗酸と硝酸の混酸に浸漬してシリコン基板の部分を除去した。基板の除去により、フリースタンディングの厚さ300μmの炭化珪素基板を得た。
炭化珪素基板がシリコン基板に接していた面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、
図6に示す表面組織及び
図7に示す表面プロファイルからなるモホロジーが見られ、その算術平均粗さRaは2.1nmであることが判明した。
また、実施例1と同様にして、炭化珪素基板の結晶のロッキングカーブを測定したところ、(111)面を極とした鋭いピークが観察され、表面の法線軸を中心として100arcsec以内に90%以上の最密面が配向した単結晶であることが見出された。
また、上記フリースタンディング化した基板にオプティカルフラットを載置して、光学的干渉により形成されるニュートンリングの間隔から曲率半径を求めたところ、8mが得られ、口径6インチのウエハにおいては350μmの反り量になることが判明した。
次いで、上記炭化珪素基板のシリコン基板に接していた面に対してコロイダルシリカを用いたCMP処理を3時間施し、その表面をAFMを用いて観察したところ、
図8に示す表面組織及び
図9に示す表面プロファイルからなるモホロジーが見られ、その算術平均粗さRaが8.3nmであることが判明した。
【0065】
[比較例2]
支持基板として、直径3インチφ、厚さ400μmで、基板表面の算術平均粗さRaが2.3nmの高純度カーボン基板を用いた。この基板に対して実施例1と同じ条件で熱CVD法を用いて厚さ300μmの炭化珪素膜の成膜を実施した。
次いで、支持基板端部に付着した炭化珪素膜を研削により除去して支持基板の端面を露出させた。その後、その試料を大気中で900℃にて24時間加熱することによりカーボン基板の部分を除去した。基板の除去により、フリースタンディングの厚さ300μmの炭化珪素基板を得た。
炭化珪素基板がカーボン基板に接していた面を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ、
図10に示す表面組織及び
図11に示す表面プロファイルからなるモホロジーが見られ、その算術平均粗さRaは11.6nmであることが判明した。また、実施例1と同様にして炭化珪素基板の結晶のロッキングカーブを測定したところ、顕著なピークは見出されず、基板の法線軸から1/3πステラジアンの立体角に最密面を配向させている結晶粒は全体の17%以下の多結晶であることが見出された。なお、炭化珪素基板の結晶粒の粒径は210〜2040nmであった。
また、上記フリースタンディング化した炭化珪素基板にオプティカルフラットを載置して、光学的干渉により形成されるニュートンリングの間隔から曲率半径を求めたところ、98mが得られ、口径6インチのウエハにおいては29μmの反り量まで低減されることが判明した。
次いで、上記炭化珪素基板のカーボン基板に接していた面に対してコロイダルシリカを用いたCMP処理を3時間施し、その表面をAFMを用いて観察したところ、
図12に示す表面組織及び
図13に示す表面プロファイルからなるモホロジーが見られ、その算術平均粗さRaは2.8nmであることが判明した。
【0066】
以上のように、実施例1、2で得られた炭化珪素基板は研磨処理を施していないにもかかわらず0.3nm以下の算術平均粗さを実現し、かつ基板の法線軸から1/3πステラジアン以内の立体角に最密面が配向している結晶粒の体積が全構成結晶粒体積の半分以下であることから、転位などの欠陥の運動による変形が抑制された基板であることが明らかとなった。
【0067】
なお、これまで本発明を上記実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。即ち、本発明において、被覆層は実施例で示した酸化珪素、BPSGの膜に限らず、十分な耐熱性と酸化耐性、そして平滑性を有するものであれば同様の効果が得られ、その製造方法も限定されるものではない。また、多結晶炭化珪素膜の成膜方法も塩化シリコンと炭化水素ガスの組み合わせに限定されるものではなく、昇華法、溶液法においても同様な本発明の効果が得られる。