(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
「NMC」により、我々は、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト−酸化物を指す。高NiのNMC粉末は、Liイオン再充電可能バッテリーにおけるカソード活物質として使用され得る。本発明のカソード物質を含有するバッテリーは、より高いサイクル安定性及び可溶性塩基の低含有量などのより良好な性能をもたらす。
【0003】
現在、再充電可能Liイオンバッテリーは、「大型」再充電可能バッテリー市場に浸透し始めている。ここで、「大型バッテリー」とは、自動車用バッテリー、並びに定置発電所などの用途を指す。このような大型の定置又は自動車用バッテリーは、ノート型パソコン用の円筒形電池又はスマートフォン用の高分子型電池のような携帯用途のための以前の支配的なバッテリーよりも非常に大型である。したがって、「大型バッテリー」カソード物質には、性能面だけではなく、資源希少性の観点からも、根本的に異なる要件がある。以前には、再充電可能なリチウムバッテリーの大部分は、LiCoO
2(LCO)をカソード物質として使用していた。コバルト資源が限られている(コバルト開発研究所(Cobalt Development Institute)によれば、現在までに地球上で利用可能なコバルトの約30%が既に使用されている)ため、LiCoO
2は大型バッテリーには持続不可能である。この状況は、いわゆるNMCカソード物質についてはそれほど深刻ではない。「442」及び「532」カソード物質がその例である。442は、一般的にLi
1+xM
1−xO
2(式中、x=0.05であり、M=Ni
0.4Mn
0.4Co
0.2である)を指し、532は、一般的にLiMO
2(式中、M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2である)を指す。NMCカソード物質は、コバルトがニッケル及びマンガンによって置き換えられているために、コバルトの含有量が少ない。ニッケル及びマンガンは、コバルトよりも安価であり、比較的より豊富であるために、NMCは、大型バッテリーにおいてLiCoO
2に取って代わる可能性がある。かんらん石(LiFePO
4)などの他の候補物質は、NMCと比べてエネルギー密度が非常に低いために、競争力が弱い。
【0004】
NMCカソード物質は、LiCoO
2、LiNi
0.5Mn
0.5O
2及びLiNiO
2の固体状態溶液としておおよそ理解され得る。LiNi
0.5Mn
0.5O
2中では、Niは二価であり、LiNiO
2中では、Niは三価である。4.3Vにおいて、LiCoO
2及びLiNi
0.5Mn
0.5O
2についての公称容量は、約160mAh/gであり、対して、LiNiO
2については220mAh/gである。任意のNMC化合物の可逆容量は、これらの所定の容量から概算することができる。例えば、NMC622は、0.2LiCoO
2+0.4LiNi
0.5Mn
0.5O
2+0.4LiNiO
2として理解することができる。したがって、期待容量は、0.2×160+0.4×160+0.4×220=184mAh/gに等しい。容量は、「Ni過剰」と共に増加し、この「Ni過剰」は、三価のNiの割合であり、NMC622では、Ni過剰は0.4である(リチウム化学量論をLi:(Ni+Mn+Co)=1.0と仮定する場合)。明らかに、容量はNi過剰と共に増加し、これにより、同じ電圧において、Ni過剰のNMCは、LCOよりも高いエネルギー密度を有し、これは、LCOの代わりにNi過剰のNMCを使用するとき、ある特定のエネルギー需要には、カソード物質の重量又は体積がより少ないことが必要とされることを意味する。更に、ニッケル及びマンガンが、コバルトと比べてより安価であるために、供給されるエネルギーの単位当たりのカソードのコストが非常に削減される。このように、LCOとは対照的に、Ni過剰のNMCのより高いエネルギー密度及びより低いコストは、「大型バッテリー」市場においてより好ましいものである。
【0005】
NMCカソード物質の簡単かつ安価な製造プロセスが、大規模用途には必要とされる。我々が直接焼結と呼ぶ、このような典型的プロセスは、混合金属前駆体(例えば、M(OH)
2前駆体)及びリチウム前駆体(例えば、Li
2CO
3)の配合物のトレイ内での連続的方法での焼成である。配合物を含むトレイは、炉に連続的に送り込まれ、炉を通る移動中に、最終焼結LiMO
2に向かう反応が進行する。焼成コストは、焼成プロセスの処理量に大きく依存する。トレイが炉に向かってより速く移動するほど(「焼成時間」と称される)またより多くの配合物をトレイが搬送するほど(「トレイ搭載量」と称される)、炉の処理量は高くなる。炉は、投資コストが高いために、処理量が小さい場合、炉の減価償却は総処理コストに大きく寄与する。したがって、安価な製品を得るためには、高い処理量が望ましい。
【0006】
NMC物質の容量はNi過剰と共に増加するために、NMC532及びNMC622のような「Ni過剰」のNMCカソード物質は、Niが少ないバッテリー、例えば、NMC111(LiMO
2(式中、M=Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3である)であり、Ni過剰=0)よりも、高い容量を有する。しかしながら、この生産は、Ni含有量の増加と共により一層困難になる。一例として、NCA(これはLiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2である)のような非常に高いNi過剰のカソード物質は、空気中では、又はLi
2CO
3をLi前駆体として使用しては調製することができない。高Ni物質中のLiの低い熱力学的安定性のために、調製はCO
2を含まない酸化ガス(通常は酸素)中で行われ、リチウム前駆体LiOHがより安価なLi
2CO
3の代わりに使用される。これに対して、低NiのNMC111は、通常の空気中で、Li
2CO
3前駆体を用いて、容易に調製することができる。Niが増加すると、NMCは低空気安定性を有する傾向があり、低含有量の可溶性塩基を有するカソードを得ることは一層困難である。「可溶性塩基」の概念は、米国特許第7,648,693号により明示的に議論されている。
【0007】
NMC532(Ni過剰=0.2)の調製は、NMC111よりも難しいが、NMC532は、空気下での安価かつ簡単な「直接焼結」固体状態反応を通して大規模に処理され得る。リチウム源は、好ましくは、NMC111の生産の場合のように、その低価格のためにLi
2CO
3として選択される。この直接焼結の詳細な調製手順は、以下の説明で議論される。NMC532カソード物質の製造コストは、NMC111よりも比較的高いが、0.8のNi過剰を有するNCAについてよりも非常に安い。
【0008】
NMC532のエネルギー密度は、NMC111よりも非常に高く、したがって、NMC532は、大規模での安価な生産プロセスにおいてLCOに取って代わるために非常に競争力がある。
【0009】
別の有望なNi過剰のNMCは、NMC622であり、NMC622のNi過剰は0.4であり、これはNMC532におけるNi過剰よりも非常に高く、これにより、NMC622の容量は、NMC532のものよりも更に高いが、これと同時に、NMC532よりも生産が難しく、NMC111よりも確実に困難である。NMC622を、NMC532及びNMC111の場合のように、直接焼結によって生成することが実現可能であるとしても、NMC622を、効率的な方法で、大規模かつ低コストで調製することは困難である。大量生産の問題は、主として、最終NMC製品中の高可溶性塩基含有量に由来する。可溶性塩基とは、Li
2CO
3及びLiOHのような表面不純物を指し、この場合Li
2CO
3不純物が最も懸念される。米国特許第7,648,693号で議論されるように、これらの塩基は、リチウム源の未反応試薬、通常、Li
2CO
3又はLiOH・H
2Oに由来する可能性があり、LiOH・H
2Oは、通常、1重量%のLi
2CO
3不純物を含有する。これらの塩基はまた、生産において遷移金属源として使用される混合遷移金属水酸化物にも由来し得る。混合遷移金属水酸化物は、通常、遷移金属硫酸塩とNaOHなどの工業グレードの塩基との共沈によって得られる。この塩基は、CO
32−不純物をNa
2CO
3の形態で含有する。NMC622のような高Ni過剰のNMCの場合、高温での焼結の後に、炭酸塩化合物が最終製品の表面上に残る。可溶性塩基含有量は、米国特許第7,648,693号で議論されるように、pH滴定と呼ばれる技術によって測定することができる。
【0010】
最終NMC物質中の可溶性塩基含有量の存在は、燃料電池試験において、通常「バルジング」と呼ばれる、燃料電池内の深刻なガス発生を引き起こし得る。深刻なガス発生又はバルジングの問題は、バッテリーの不良なサイクル寿命と共に安全性の懸念をもたらすであろう。したがって、高Ni過剰のNMC物質を大型バッテリー用途に使用するために、このような高可溶性塩基含有量を回避する、効果的かつ安価な処理法が必要である。更に、NMC物質におけるサイクル性の悪化が、上述したLi
2CO
3の存在に関連することが観察されている。
【0011】
米国特許出願公開第2015−010824号に開示されるように、低Li
2CO
3可溶性塩基を有するNMC622を調製するためのプロセスは、以下の通りに行われる:Li源としての低Li
2CO
3不純物を有するLiOH・H
2Oを、混合遷移金属水酸化物と、目標の組成で配合し、大気雰囲気下で高温にて焼結する。このプロセスでは、このような高Ni過剰のNMC最終製品(NMC622のような)の塩基含有量が、非常に低下されるが、Li
2CO
3前駆体と比べて純粋なLiOH・H
2Oが高価であるために、製造コストは比較的高い。これは、LCOをNMC物質によって置き換える低コストの有益性、すなわち、前に述べたように、安価かつ簡単な生産プロセスが、LCOに取って代わるために必須であるということに矛盾する。
【0012】
米国特許第7,648,693号は、「分割」法を提案しており、ここでは、直接焼結は、2つの工程:700℃のような比較的低い温度での第1のリチウム化、及びより高温での焼結の第2の工程で行われる。本特許では、LiMO
2(式中、M=Ni
4/15(Mn
1/2Ni
1/2)
8/15Co
0.2である)の大規模調製が、可溶性塩基をほとんど含まない最終製品で達成される。このNMC物質のサイクル安定性も改善される。したがって、この「分割」法は、可溶性塩基を含まないNMC622を低コストで調製するための可能性のある方法である。しかしながら、この「分割」法が、米国特許第7,648,693号のように、過剰量の予熱した空気が反応器を通して送り込まれねばならないために、炭酸リチウムをLi前駆体として用いるNMC622大規模生産に使用可能でないことが今では判明している。実質的に、この処理法は、NMC532などのより低いNi過剰のNMCに対して限定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、「大型バッテリー」市場用に、LCOをNMC622のような高Ni過剰のNMCで置き換えるために、本発明の目的は、安価かつ効率的な製造プロセスを提供することであり、ここでは、高Ni過剰のNMCが、低コストで、かつ高すぎる可溶性塩基含有量をもたらすことなく生成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様から鑑みると、本発明は、以下の製品実施形態を提供することができる:実施形態1:リチウムイオンバッテリーにおける正極活物質として使用できるリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための結晶性前駆体化合物であって、前駆体が、一般式Li
1−a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2(式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.04≦a≦0.50である)を有し、前駆体が、nmで表される結晶子サイズLを有し、77−(67
*z)≦L≦97−(67
*z)である、結晶性前駆体化合物。結晶子サイズLは、以下に記載されるウィリアムソン−ホール(Williamson−Hall(W−H))法によって算出される。ドーパントAは、Al、Ti、Mg、B、Ca、Mn、Cr、V、Fe、Zr、S、F、P及びBiからなる元素の群から選択されてもよい。これらのドーパントは、通常、最大で10モル%でNMC化合物に添加される。Co含有量は、コストを下げるために、0.1≦x≦0.25に更に制限されてもよい。aの値もまた、以下の方法実施形態における第1及び第2の焼結工程間の良好な平衡を有するように、0.10≦a≦0.25と規定されてもよい。
実施形態2:結晶性前駆体化合物は、<0.3重量%、又は更には<0.2重量%のLi
2CO
3含有量を有する。
実施形態3:結晶性前駆体化合物において、0.40≦z≦0.55であり、0.10≦a≦0.25である。
実施形態4:一般式Li
1−a[Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2]
1+aO
2を有し、0.10≦a≦0.20であり、55≦L≦65である、結晶性前駆体化合物。
実施形態5:一般式Li
1−a[Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15]
1+aO
2を有し、0.15≦a≦0.25であり、45≦L≦55である、結晶性前駆体化合物。
上述の各個々の製品実施形態は、その前に記載された製品実施形態のうちの1つ以上と組み合わせることができる。
【0015】
第2の態様から見ると、本発明は、以下の方法実施形態を提供することができる。
実施形態6:一般式Li
1+a’M
1−a’O
2を有し、ここでM=(Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
kであり、式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.01≦a’≦0.10である、正極物質を調製するための方法であって、
金属硫酸塩と塩基との共沈から調製されるM系前駆体を用意する工程と、
M系前駆体をLi
2CO
3と混合し、これにより第1の混合物を得る工程であって、これにより、第1の混合物中のLi対遷移金属の比が0.50〜0.96である、混合する工程と、
第1の混合物を、860〜930℃の温度で、8〜36時間、酸化雰囲気中で焼結し、これによりリチウム欠乏前駆体粉末を得る工程と、
リチウム欠乏前駆体粉末を、LiOH及びLiOH・H
2Oのうちのいずれか1つと混合し、これにより第2の混合物を得る工程と、
第2の混合物を、800〜1000℃の温度で、6〜36時間、酸化雰囲気中で焼結する工程と、を含む方法。ドーパントAは、Al、Ti、Mg、B、Ca、Mn、Cr、V、Fe、Zr、S、F、P及びBiからなる元素の群から選択されてもよい。
実施形態7:リチウム欠乏前駆体粉末が、本発明の第1の態様によるものであり得る、方法。
実施形態8:本方法において、第1の混合物におけるLi対遷移金属の比は、0.65〜0.82である。
実施形態9:本方法において、0.40≦z≦0.55であり、第1の混合物におけるLi対遷移金属の比は、((2−z)/1.88)±0.05である。
実施形態10:本方法において、第1の混合物は、880〜920℃の温度で焼結される。
実施形態11:本方法において、第2の混合物は、820〜860℃の温度で8〜12時間の時間で焼結される。
上述の各個々の方法実施形態は、その前に記載された方法実施形態のうちの1つ以上と組み合わせることができる。
【0016】
第3の態様から鑑みると、本発明は、以下の電極物質実施形態を提供することができる:
実施形態12:結晶性前駆体化合物を、800〜1000℃の温度Tで6〜36時間の時間tで酸化雰囲気中で焼結することによって調製された、一般式Li
1+a’((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1−a’O
2(式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.01≦a’≦0.10である)を有する正極物質。
実施形態13:2つの連続するリチウム化反応によって調製された、一般式Li
1+a’((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1−a’O
2(式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.01≦a’≦0.10である)を有する正極物質であって、第1のリチウム化反応が、前に記載された前駆体化合物をもたらす、正極物質。
実施形態14:2つの連続するリチウム化反応によって調製された、一般式Li
1+a’((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1−a’O
2(式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.01≦a’≦0.10である)を有する正極物質であって、第1のリチウム化反応が、正極物質に比べてリチウムが欠乏している中間体化合物をもたらす、正極物質。
実施形態15:<0.3重量%のLi
2CO
3含有量を有する、実施形態12に記載の正極物質。
実施形態16:<0.15重量%のLi
2CO
3含有量を有する、実施形態12に記載の正極物質。
【0017】
第4の態様から鑑みて、本発明は、本発明の第3の態様による正極物質を製造するための、本発明による結晶性前駆体粉末の使用を提供することができる。例えば、実施形態17は、リチウムイオンバッテリーにおける正極活物質として使用できるリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための化合物の使用であって、この化合物が、一般式Li
1−a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2(式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.30≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.05≦a≦0.50である)を有し、この化合物が、nmで表される結晶子サイズLを有し、77−(67
*z)≦L≦97−(67
*z)である、使用を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
直接焼結法を通してのNMCの製造手順
以下の説明は、直接焼結を通してのNMC粉末の標準製造手順を提供し、直接焼結は、Li
2CO
3と、通常は混合金属水酸化物M(OH)
2又はオキシ水酸化物MOOH(M=Ni、MN及びCo)であるが、これらの水酸化物に限定されない混合遷移金属源との間の固体状態反応である。典型的な構成では、直接焼結法は、以下の工程を含む:
1)前駆体の混合物を配合する工程であって、炭酸リチウムと混合ニッケル−マンガン−コバルトオキシ水酸化物MOOH(式中、Mは最終製品の「目標の」遷移金属組成を有する)とは、乾燥粉末混合プロセスによって、Henschel Mixer(登録商標)内で30分間均質に配合される。
2)配合物をトレイ内で焼結する工程であって、粉末混合物がトレイに充填され、このトレイの充填重量は、2kg未満であり、チャンバー炉内で乾燥空気雰囲気下で、900℃で10時間焼結される。乾燥空気は、20L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。
3)後処理工程であって、焼結後に、焼結されたケークが粉砕され、非凝集NMC粉末を得るために分類及びふるい分けされる。
【0020】
本発明は、直接焼結法が、可溶性塩基があまりに多く存在することなく、低Ni過剰又は非Ni過剰のNMC物質(<0.25のNi過剰を有する)の大規模製造のために適用可能であることを観察している。以下の「説明実施例1」は、低Ni過剰又は非Ni過剰を有するNMC粉末が、直接焼結によって容易に調製され得ることを示している。しかしながら、Ni過剰が増加すると、直接焼結はより難しくなる。高Ni過剰のNMC(≧0.25のNi過剰を有する)は、直接焼成法を通して成功裏に製造されるために、長い焼結時間及び低トレイ搭載量を必要とすることが観察されている。したがって、高Ni過剰のNMCは、低処理量を有し、これゆえに、直接焼結生成は、NMC622などの高Ni過剰のNMC物質を、許容できる低コストにおいて高品質で処理することには利用できない。
【0021】
「説明実施例2」は、Ni過剰が調製の容易さにどのように影響するかを更に検討しており、0.4、0.55及び0.7などのNi過剰を有するNMC物質が、直接焼結法を通して小規模で(10g)生成されている。これらの3つの試料のpH滴定結果は、最大で0.7のNi過剰を有するNMC材料が、最終製品の炭酸リチウム含有量が劇的に増加するために、空気中で生成されるのに十分に安定ではないことを示している。気相輸送問題(反応とは離れてCO
2を得るための)のために、一般的に、小規模で反応を完了させることはより容易であり、したがって、10gが低塩基量をもたらさないならば、このアプローチは大規模においては失敗するであろう。当然、例えば0.7の高Ni過剰を有するNMCは、Li
2CO
3をリチウム源として使用しては、空気中では全く調製され得ないという結果になる。LiNi
0.55(Mn
1/2Ni
1/2)
0.3Co
0.15O
2及びLiNi
0.4(Mn
1/2Ni
1/2)
0.4Co
0.2O
2の組成を有する他の2つのNMC物質は、非常に低い量の炭酸リチウムを有し、これにより、0.4及び0.55などのNi過剰を有するNMC物質は、直接焼結法によって生成され得るが、これは少ない処理量に限定される。したがって、高Ni過剰のNMCを大型バッテリー市場に適用させるために、大規模生産には代替処理方法が必要となる。
【0022】
「説明実施例3」は、上述した直接焼結法による高処理量で生成されたNMC622物質(Ni過剰=0.4)を提示している。この物質の分析は、炭酸リチウムの高含有量及び不良なサイクル安定性を示す。NMC622は、直接焼結による高処理量で高品質には調製され得ない。大規模製造において、NMC622は、最終製品中の可能性塩基の存在を低下させるために、長い焼結時間及び低トレイ搭載量を必要とする。これは、ニッケル過剰が増加すると、熱力学的安定性が減少し、それによって、炭酸リチウム分解及びNMC形成の平衡反応が後方に押し戻されるためである。したがって、大規模生産においては、CO
2ガス輸送動態は、比較的ゆっくりである。トレイ搭載量が少なく、焼成時間が延長される場合に限り、反応は完了され、低Li
2CO
3生成物が得られる。しかしながら、この場合には、処理量が低すぎ、NMC622の製造コストは非常に高くなる。更にNMC811(LiMO
2(式中、M=Ni
0.7(Mn
1/2Ni
1/2)
0.2Co
0.1である)である)のようなより高いNi過剰のNMCについては、この生成物を大規模で空気雰囲気下において製造することは不可能である。
【0023】
本発明は、二重焼成法によって高Ni過剰のNMCを調製するための前駆体を提供する。分割焼成(米国特許第7,648,693号に記載されるように、焼成が2つの部分に分割され、第1番目は反応であり、第2番目は焼結である)とは対照的に、本発明で理解される二重焼成は2つの別個のリチウム化反応が存在することを意味する。これは、炭酸リチウム及び水酸化リチウム前駆体の量を最適化することによって、低コストと低可溶性塩基含有量との間のバランスを得るという着想である。主な手順は、二工程の焼結を含む。第1の焼結の意図は、NMC622のような高Ni過剰を有するNMCを高トレイ処理量かつ低コストで調製することを可能にする、Li欠乏焼結前駆体の調製である。混合遷移金属源(混合水酸化物のような)は、Li欠乏化学量論で炭酸リチウムと配合され、これはLiMO
2中のLi:Mの比が1未満であることを意味する。次いで、第2の焼結では、Li:Mの比を最終の目標組成に修正するために、リチウム欠乏前駆体が、水酸化リチウムと配合される。実施形態において、低可溶性塩基含有量を有するNMC622は、第2の焼成中にリチウム欠乏焼結前駆体を用いる、この二重焼成法を通して大規模生産で得られる。この処理量は、直接焼結法と比べて非常に高い。したがって、本発明におけるリチウム欠乏焼結前駆体の使用及び二重焼成法の適用は、高Ni過剰のNMCに対して低コストかつ効率的な製造方法である。
【0024】
本発明は、リチウム欠乏焼結生成物の特性が、最終製品の性能に強く影響を及ぼすことを観察している。最終製品の可溶性塩基含有量は、リチウム欠乏焼結前駆体を調製するための第1の焼成中の条件に強く関連する。例えば、第1の加熱焼成温度、焼結時間、トレイ搭載量、及びリチウム対混合遷移金属の比は、高品質の最終製品を高処理量であるように適切に選択され得る。幸運にも、多数のパラメータの適切な選択が、1つの単一のパラメータ:第1の焼結工程の生成物の結晶子サイズによって確認され得ることが示されるであろう。
【0025】
リチウム欠乏焼結前駆体の調製中に、すなわち、第1の焼結中に、炭酸リチウム対混合遷移金属水酸化物の配合モル比(Li:M比、Mの組成は、最終製品中の金属組成に対応する)は、あまりに多くの可溶性塩基が中間体生成物中に現れることを回避するように調整されてもよい。本発明の実際の実施形態では、Li:M比は、最適化された焼結温度(所望の結晶化度に関連する)及びより短い焼成時間の選好に従って調整されてもよい。
【0026】
第1の焼結中に、焼成時間はまた、最大の限度に向かって反応処理を保証するように最適化されてもよい。実施形態において、加熱及び冷却を含める総焼成時間は、NMC622の大規模生産には、12〜20時間の範囲に設定される。第1の焼結後に、リチウム欠乏焼結前駆体が得られる。この前駆体は、Li
2CO
3不純物の含有量が低い。実施形態では、pH滴定により、Li
2CO
3含有量が<0.3重量%、好ましくは<0.15重量%であると決定される。中間体生成物は、規則的又は不規則な岩塩結晶構造を有する単相のリチウム遷移金属酸化物である。この組成はLi
1−aM
1+aO
2であると考えられる。実施形態では、Li:Mの化学量論比は、0.5〜0.90、好ましくは0.60〜0.82である。金属組成は、Li
1−a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2であり、式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.30≦z≦0.55であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.05≦a≦0.50である。この前駆体は、Ni過剰含有量zに依存する、nmで表される結晶子サイズLを有し、77−67
*z≦L≦97−67
*zである。
【0027】
リチウム欠乏焼結前駆体は、再充電可能リチウムバッテリー用のカソード物質を調製するために前駆体として使用される。カソード物質は、中間体粉末よりも高いLi:M比を有する、十分に結晶化されたリチウム遷移金属酸化物である。カソード物質は、第2の焼結プロセスによって調製され、ここでは、中間体生成物及びLiOH又はLiOH・H
2Oの配合物が、空気、乾燥空気、CO
2を含まない空気又は酸素のような酸化ガス中で焼成される。直接焼結プロセスから分かるように、先行技術においては、1モルのLiがLiOHの形態で必要とされるが、本発明による二重焼成プロセスでは、0.5モル未満のLiが、LiOHの形態で供給されることになる。
【0028】
試験条件の説明:コイン電池試験
本発明による二重焼成法によって生成された最終NMC物質は、コイン電池において小規模で電気化学的に試験される。詳細は以下の通りである:セパレータ(Celgardより)を、正極と、負極としてのリチウム金属片との間に配置し、EC/DMC(1:2)中の1MのLiPF
6の電解質をセパレータと電極との間に滴下することによって、半電池(コイン電池)が組み立てられる。本発明での全ての電池試験は、表1に示した同じ手順に従う。Cレートは、160mAh/gと定義される。例えば、0.1Cは、電池が10時間で充電又は放電することになることを意味する。「E−電流」及び「V」は、それぞれ末端電流及びカットオフ電圧を表す。第1のサイクルにおいて、DQ0.1C(0.1Cのレートにおける第1のサイクルの放電容量)及びIRRQ(不可逆容量)が決定される。レート性能は、その後の5つのサイクルから算出され得る。サイクル安定性の性能は、サイクル#7〜#35で得られる。0.1Cにおける容量フェージングは、「Qfade0.1C(%/100)」によって表される。サイクル#7及び#34の放電容量をそれぞれ指すDQ7及びDQ34を用いて、「Qfade0.1C(%/100)」は、以下の式:(1−(DQ34/DQ7))/27
*100
*100により得ることができる。これは、「Qfade1C(%/100)」と記述される1Cにおける容量フェージングと同様である。サイクル#8及び#35の放電容量をそれぞれ指すDQ8及びDQ35を用いて、「Qfade1C(%/100)」は、以下の式:(1−(DQ35/DQ8))/27
*100
*100により得ることができる。
【0030】
試験条件の説明:エクスサイチュコイン電池試験
本発明による二重焼成法によって生成された最終NMC物質は、コイン電池において小規模で電気化学的に充電された後に、X線回折によりエクスサイチュで試験される。コイン電池は、上述の通りに作製される。作製した電池を、0.1Cのレートで12.5%のSOC(充電状態)電気化学的に充電し、この1Cは、160mAh/gが1時間以内に充電されたことを意味する。次いでコイン電池を分解して、カソード電極をX線回折により試験した。
【0031】
試験条件の説明:PH滴定試験
可溶性塩基含有量は、米国特許第7,648,693号で説明されるように、表面と水の間の反応生成物の分析によって定量的に測定され得る材料表面特性である。粉末が水に浸されると、表面反応が起こる。反応中、水のpHは(塩基性化合物が溶出するにつれて)増加し、塩基はpH滴定によって定量される。滴定の結果は、「可溶性塩基含有量」(SBC)である。可溶性塩基の含有量は以下の通りに測定され得る:2.5gの粉末を、100mLの脱イオン水中に浸し、密閉ガラスフラスコ内で10分間撹拌する。撹拌して塩基を溶解した後に、水中の粉末の懸濁液を濾過して、透明な溶液を得る。次いで、90mLの透明溶液は、撹拌しながらpHが3に達するまで、0.5ml/分の速度で0.1M HClの添加中にpHプロファイルを記録することによって滴定される。参照電圧プロファイルは、DI水中に低濃度で溶出したLiOH及びLi
2CO
3の適切な混合物を滴定することによって得られる。ほとんど全ての場合において、2つの異なるプラトーが観察される。pH8〜9の間の終点γ1(mL)を有する上部プラトーはOH
−/H
2O、続いてCO
32−/HCO
3−であり、pH4〜6の間の終点γ2(mL)を有する下部プラトーはHCO
3−/H
2CO
3である。第1プラトーと第2プラトーの間の変曲点γ1並びに第2プラトーの後の変曲点γ2は、pHプロファイルの微分係数d
pH/d
Volの対応する最小値から得られる。第2の変曲点は一般にpH4.7に近い。次いで、結果は、LiOH及びLi
2CO
3の重量パーセントで表される。
Li
2CO
3の重量%=73.8909/1000×(γ
2−γ
1);LiOHの重量%=23.9483/1000×(2×γ
1−γ
2)。
【0032】
試験条件の説明:X線回折試験
本発明は、リチウム欠乏焼結前駆体の結晶特性が、最終NMC生成物における可溶性塩基含有量と、更にはこれらのNMC物質系コイン電池のサイクル安定性に相関していることを観察している。本発明によるリチウム欠乏焼結前駆体の結晶化度が、あまりに高いか、又はあまりに低いかのいずれかであるとき、可溶性塩基含有量が最終製品において高くなるか、可逆電気化学的容量が不十分になるか又はサイクル性能が不良であるかのいずれかとなる。この発明では、NMC物質の結晶化度は、X線回折パターンから結晶子サイズ及び格子歪みを決定することによって評価される。完全結晶化度から誘導される結晶子サイズは、回折ピークのブロード化をもたらす。これは歪みの場合も同じであり、歪みは、Δd/dによって表される、単位セルの、その長さによって割られた変形として定義される。不均一な格子歪みは、原子の全体的なシフトを引き起こし、ピークのブロード化をもたらし得る。したがって、個々の回折ピークの幅の分析を通して、結晶子サイズ及び格子歪みを得ることができる。
【0033】
「Acta Metallurgica,1,22〜31(1953)」において、ウィリアムソン及びホールは、回折ピークの積分幅から結晶子サイズ及び歪みの情報を抽出する方法を提案した。この方法は、ブラッグ角(θ)と結晶子サイズ及び格子歪みから生じるピークのブロード化との間の近似的関係に基づくものであり、以下の式を伴い、
βcosθ=C
εsinθ+Kλ/L
式中βは、ピークの積分幅を表し、εは格子歪みであり、Lは、結晶子サイズであり、λは放射波長であり、C及びKは、多くの場合それぞれ4及び0.9となる定数である。積分幅(β)とcosθとの積をsinθの関数として見ることによって、格子歪み及び結晶子サイズは、それぞれ、この式に適合する線の勾配及び切片から推定することができる。積分幅(β)は、選択された回折ピークの同じ高さ(最大強度)及び面積(積分強度)を有する長方形の幅である。この面積は、台形法則によって近似的に積分されることができ、高さは、回折パターンの生データから容易に得ることができるために、このウィリアムソン−ホール(W−H)法によって、各回折ピークの積分幅を推定し、結晶子サイズ及び格子歪みを更に決定することは実行可能である。
【0034】
本発明においては、(003)及び(104)ピークが、結晶子サイズ及び歪みを算出するために選択される。回折ピーク(003)の積分幅及びブラッグ角は、β
1及びθ
1で表され、一方回折ピーク(104)の積分幅及びブラッグ角は、β
2及びθ
2で表される。結晶子サイズL及び格子歪みεは、以下の式により、切片及び勾配から得ることができる:
【0036】
式中、y
2は、β
2とcosθ
2との積として定義され、y
1は、β
1とcosθ
1との積として定義される。x
2及びx
1は、それぞれ、sinθ
2及びsinθ
1の値である。
【0037】
Li
1−a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2の構造モデルが、3a部位のLi、3b部位にランダムに配置されたNi、Co、及びMn、並びに6c部位上の酸素原子を有する、α−NaFeO
2構造(空間群R−3m、no.166)であることが知られている(一般的には、NMC化合物は、[Li]
3a[Ni
xCo
yMn
z]
3b[O
2]
6cとして表すことができる)。しかしながら、本発明は、リチウム欠乏焼結前駆体が、Liの3a部位(大部分はLi原子によって埋められた層内の部位)上に大量のNiが存在することを意味するカチオン混合の現象を有することを観察している。これが、我々のリチウム欠乏焼結前駆体を、充電/放電中に得られる通常のリチウム欠乏物質と差別化する。後者は、基本的に、カチオン混合をほとんど有さない。一般的に、Li/M不規則性の程度は、「J.Electrochem.Soc.140(1993)1862」に示されるように、ピーク(003)強度(I003と称される)対I104(=ピーク(104)の強度)の比によっておおよそ推定することができる。I003対I104の比が大きいと、Li/M不規則性の程度が低いことを意味する。カチオン混合の系統的な研究は、Solid State Ionics 44(1990)87〜97においてJeff Dahnによって記載されている。米国特許第6,660,432 B2号は、Li過剰の遷移金属酸化物物質上のLi/M不規則性の程度を評価するために、この方法の拡大適用を提供している。この方法の着想は、ピーク(101)の強度I101が、急速に減衰するのに対し、ピーク(102)及びピーク(006)の組み合わせ強度(I102&I006)は、Ni原子が「Li部位」を占有するときに強くなるという事実に由来する。したがって、I102&I006対I101の比を表す因子Rが導入される。Dahnの文献では、Li
xNi
2−xO
2物質中のxが減少すると、R因子が急激に増加することが立証されている(ここでは、1−xは、カチオン混合の程度を指す)。Rとxとの間の関係を表すために、式が以下の通りに推論される。
R=4/3 (1.6−x)
2/x
2
カチオン混合の程度(1−x)は、Rに相当し、この式によるR値から決定することができる。
【0038】
本発明では、上記のこの2つの方法が、リチウム欠乏焼結前駆体及びこれらの前駆体に基づく最終製品のカチオン混合の程度を評価するために用いられる。比I003/I104及びRの値は、以下に論じられる。カチオン混合の程度は、最終製品に比べると、リチウム欠乏焼結前駆体においてより高いことが観察されている。説明実施例はまた、カチオン混合が、正常なバッテリーサイクルプログラムにおける充電中に得られるリチウム欠乏物質をもたらし、このリチウム欠乏物質は、本発明のリチウム欠乏焼結前駆体と同様な組成を有するが、カチオン混合において明確な差を有することを記述するために提供されている。
【0039】
以下の実施例は、本発明をより詳細に例示する。
【0040】
説明実施例1
式Li
(1+x)M
(1−x)O
2を有し、Li:M=1.05:0.95及びM=Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3である、NMC粉末を、上述した「直接焼結法を通してのNMCの製造手順」に従って調製する。この試料を、NMC P1.1とラベルを付けた。また、式Li
(1+x)M
(1−x)O
2を有し、Li:M=1.01:0.99及びM=Ni
0.25(Ni
1/2Mn
1/2)
0.54Co
0.2である、NMC粉末を、同じ手順を使用して調製し、NMC P1.2とラベルを付けた。最後に、式Li
(1+x)M
(1−x)O
2を有し、Li:M=1.01:0.99及びM=Ni
0.45(N
1/2Mn
1/2)
0.44Co
0.11O
2である、NMC粉末を、同じ手順を使用して調製し、NMC P1.3とラベルを付けた。焼結中に、焼結装置を出るガス流中のCO
2圧の割合を測定する。
【0041】
図1では、左のy軸は、焼結時間にわたって焼結装置から出るガス流中のCO
2圧の割合を表し、一方右のy軸は、温度プロファイルを提供する。3つのNMC試料のCO
2及び温度プロファイルは、NMC 1.1、NMC P1.2及びNMC P1.3試料について、それぞれ点線、破線、及び実線で表され、NMC P1.3試料は、0.45の最高のNi過剰を有し、一方NMC P1.1試料は非Ni過剰であり、NMC P1.2試料は、0.25のNi過剰を有する。3つ全ての試料は、
図1に示した同じ温度プロファイルを通して焼結されているが、それらのCO
2プロファイルは、焼結中の異なる挙動を示唆している。焼結中に、前駆体は、以下の概略平衡反応を通して反応すると考えられ、反応式中のMOOHは、目標の組成Mを有する混合ニッケル−マンガン−コバルト−オキシ水酸化物を表す:
MOOH+Li
2CO
3←→LiMO
2+CO
2↑+1/2 H
2O↑
【0042】
焼結温度が、反応を活性化するのに十分に高くなると、反応は、焼結装置内で空気流の最大CO
2分圧に達している平衡点に達するまで右方向に向かって迅速に進む。平衡点を超えると、気相は、反応速度を右方向に向かって制限し、固体状態反応が進むと、CO
2分圧は徐々に減少し、反応が終了すると、空気流の初期分圧に近づく。CO
2分圧曲線の形状は、焼結生成物中のLi
2CO
3の存在に関連する。開始時の高CO
2分圧及びゼロに向かっての急激な減少は、Li
2CO
3が、急激に分解され、最終製品が、ごく少量の未反応のLi
2CO
3不純物を含有することを示唆している。そうではなくCO
2分圧がゼロに向かって減少しないが、ゼロ周辺で長時間留まるならば、これは、Li
2CO
3の分解がゆっくりとした速度で進行していることを示唆している。これは、所定のガス流に対して、全てのLi
2CO
3を分解して、低Li
2CO
3不純物を有する最終製品を得るために、より多くの時間が必要であることを意味する。したがって、より長い焼結時間又はより低いトレイ搭載量が、炭酸リチウムの存在を回避するのに有益であるが、これは、コストの観点からは許容され得ない低処理量に相当する。
【0043】
NMC P1.1試料の焼結中に、CO
2分圧は、初期分圧に近い低い値まで迅速に減少し、これは、ほぼ完全な反応であり、炭酸リチウムがNMC P1.1試料中ではほとんど現れないことを示唆している。高Ni過剰のNMC試料に関して、NMC P1.2のCO
2分圧は、900℃の温度における保圧時間中にゆっくりと低下し、この高温での保圧期間後に、初期分圧までほぼ戻る。NMC P1.1試料とは対照的に、NMC P1.2は、所望のNMC生成物を得るためにより多くの時間を必要とし、NMC生成物は、ごく少量の炭酸リチウムを含有する。これは、Ni過剰のNMCが、NMC111よりも製造することが難しいことを証明している。NMC P1.3試料のような最も高いNi過剰のNMCに関しては、これは更に一層困難である。NMC P1.3試料のCO
2分圧は、焼結中に、更に保圧温度での10時間の焼結後においても、先の2つの試料の値よりも常に高い。これは、この場合、NMC P1.3の適切な焼結には、10時間超を必要とすることを裏付けている。我々はまた、平衡点において得られる最大CO
2圧が、Ni過剰が増加するにつれて減少することを観察しており、この反応が、より多くの時間を要するばかりでなく、初期により低い速度で進むことも示唆している。したがって、直接焼結法を通しての生産中に、高Ni過剰のNMC物質は、炭酸リチウムの過剰を回避するために、許容できないほど長い焼結時間を必要とする。
【0044】
説明実施例2
この実施例は、小規模において直接焼結法を使用して調製された3つのNMC物質を提示する。式LiNi
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2O
2を有するNMC622粉末を、以下の通りに調製する:Li
2CO
3及びMOOH(式中、M=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2である)の混合物100gを、乾燥粉末混合プロセスによって、縦型単軸ミキサー内で均質に配合する。配合粉末10gを、るつぼに充填し、箱形炉内で空気雰囲気下において700℃で48時間焼結する。少量の試料及び長い焼成時間は、最終製品が、所定の温度及び気体の圧力についての熱力学的平衡に近づくことを保証する。焼結後に、粉末を粉砕し、pH滴定試験ができる状態にする。上記で生成された試料をNMC P2.1とラベル付けする。2番目に、式LiNi
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15O
2を有するNMC粉末及びLiNi
0.7(Ni
1/2Mn
1/2)
0.2Co
0.1O
2を有するMMC811も、適合したMOOH組成で、上記と同様な工程を通して調製する。式LiNi
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15O
2を有する生成された試料を、NMC P2.2と名付け、一方式LiNi
0.7(Ni
1/2Mn
1/2)
0.2Co
0.1O
2を有する試料を、NMC P2.3とラベル付けする。
【0045】
図2は、これらのNMC物質のpH滴定結果を提示しており、最終NMC試料中の炭酸リチウムの重量割合がプロットされている。3つのNMC物質は、Ni過剰の異なる値を有し、NMC P2.1では0.4であり、NMC P2.2では0.55であり、NMC P2.3では0.7である。全ての試料は、同じ処理条件下で調製されている。しかしながら、調製された粉末は、塩基含有量において大きな差異を有する。NMC P2.3の試料が、他の2つの試料よりも非常に高い量の炭酸リチウムを有することは明らかである。それ故に、非常に高いNi過剰を有するNMC P2.3の試料は、このような小規模であっても、低塩基含有量で生成されることは難しい。したがって、NMC811は、直接焼結によって空気雰囲気下で効率的に製造されることは不可能である。他の2つのNMC物質に関しては、炭酸リチウム含有量は、極めて少ないので、これらは大規模で空気下において製造される可能性を有する。しかしながら、これらの残留炭酸リチウム含有量は、なお高すぎる。
【0046】
説明実施例3
式Li
1.03[Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2]
0.97O
2を有するNMC粉末を、880℃の焼結温度及び2kgのトレイ搭載量で、上述した「直接焼結法を通してのNMCの製造手順」に従って調製する。このNMC622試料を、NMC P3.1と名付ける。表2は、NMC P3.1のpH滴定及びコイン電池の結果をまとめている。
【0048】
最終NMC P3.1試料中の炭酸リチウムの重量パーセントを0.72重量%と決定し、これは、通常、NMC111又はNMC532物質において測定される0.3重量%近辺の含有量と比較して非常高い量である。一般的に、NMC物質中の可溶性塩基の高含有量及び高Li
2CO
3の存在は、サイクル性能を悪化させる。コイン電池試験は、表2で「Qfade0.1C」及び「Qfade1C」と表されている0.1C及び1Cにおける容量フェージングに基づいて、NMC P3.1試料のサイクル安定性を評価する。これは、25サイクル後に、0.1Cにおいて1サイクル当たり放電容量の0.0769%の損失があり、1Cについては0.1217%の損失があることを示している。コイン電池におけるこの放電容量フェージングは、大きすぎると考えられ、これにより、NMC P3.1試料のサイクル安定性は、フル電池用途には許容できない。炭酸リチウムの高含有量及び不良なサイクル性能の理由は、たとえトレイ搭載量が非常に低いとしても、主として、直接焼結プロセス中の短い焼結時間(10時間)である。「説明実施例1」で論じたように、高Ni過剰のNMCは、高温焼結中に、CO
2輸送のゆっくりとした動態及び高Ni過剰のNMC物質の不安定性に耐えるために、通常、非常に長い焼結時間を必要とする。この実施例における焼結時間は、この要件を満たすことができず、これにより、大量の炭酸リチウム不純物が存在し、その結果サイクル安定性は悪化する。性能を改善するために、直接焼結プロセスには、より長い焼結時間又は少量のトレイ搭載量のいずれかが必要であるが、これに関連するコストの増加の観点から今日できるものではない。
【0049】
実施例1
式Li
1.05M
0.95O
2を有し、M=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2である、NMC粉末を、以下の工程を通して、リチウム欠乏焼結前駆体から、大規模で製造する(トレイあたり>3kg)。
1)第1の配合:Li
0.85(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2)
1.15O
2の組成を有するリチウム欠乏前駆体を得るために、5.5kgの炭酸リチウム及び混合ニッケル−マンガン−コバルトオキシ水酸化物を、Henschel Mixer(登録商標)内で、適当な割合で、30分間均質に配合する。組成は、標準ICP試験によって確認することができる。
2)第1の焼結:第1の配合工程からの混合物5kgを、試験規模の装置において、乾燥空気下で、900℃で10時間焼結する。乾燥空気は、40L/分の流量で、焼結装置に連続的に送り込まれる。焼結後に、焼結ケークを粉砕し、第2の配合工程のために準備ができた状態にする。この工程から得られた生成物は、リチウム欠乏焼結前駆体である。この中間体生成物の組成は、標準ICP試験によって確認される。
3)第2の配合:リチウム欠乏焼結前駆体を、20モル%のLiOHと配合して、中間体生成物中のLi化学量論をLi
1.05(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2)
0.95O
2の最終の目標組成に修正する。配合は、Henschel Mixer(登録商標)で30分間行われる。
4)第2の焼結:工程3)からの混合物を、試験規模の装置において、乾燥空気下で、850℃で10時間焼結する。乾燥空気は、40L/分の流量で、焼結装置に連続的に送り込まれる。
5)後処理工程:焼結後に、焼結されたケークが粉砕され、非凝集粉末を得るために分類及びふるい分けされる。
上記の調製されたリチウム欠乏焼結前駆体をNMC E1pとラベル付けし、最終NMC試料をNMC E1とラベル付けした。
【0050】
比較例1
式Li
1.05M
0.95O
2を有し、M=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2である、NMC粉末を、リチウム欠乏焼結前駆体が不十分な結晶化度を有する(これが820℃のより低い第1の焼結温度で調製されるため)以外は、実施例1の工程に従って、大規模で製造する。このNMC試料は、NMC C1とラベル付けし、リチウム欠乏焼結前駆体をNMC C1pとラベル付けする。
【0051】
比較例2
式Li
1.05M
0.95O
2を有し、M=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2である、NMC粉末を、リチウム欠乏焼結前駆体が増加した結晶子サイズを有する(これが950℃の高い第1の焼結温度で調製されるため)以外は、実施例1の工程に従って、大規模で製造する。上記で調製されたNMC試料は、NMC C2とラベル付けし、リチウム欠乏焼結前駆体をNMC C2pとラベル付けする。
【0052】
実施例1、比較例1、及び比較例2の性能:
図3は、NMC C1p、NMC C2p、及びNMC E1pのX線回折パターンを示し、ここで中間体とは、第1の焼結後(工程2の後)に得られたLi欠乏NMC粉末を意味する。XRDパターンは、明白な不純物を含まない単相NMC粉末を開示している。図面において、(003)及び(104)の回折ピークが表示されている。これらの2つのピークは、結晶子サイズ及び格子歪みをW−H法を用いて算出するために選択されている。
【0053】
図4は、NMC C1、NMC E1、及びNMC C2試料のコイン電池の結果を示し、ここで三角形記号はNMC E1について、円形記号はNMC C2について、四角形記号はNMC C1について示す。これらの電池のサイクル性は、パラメータ「Qfade0.1C(%/100)」及び「Qfade1C(%/100)」によって評価される。この「Qfade0.1C(%/100)」は、表1に詳説したように、サイクリング後の0.1Cレートにおける放電容量フェージングを提供する。この「Qfade1C(%/100)」は、サイクリング後の1Cレートにおける放電容量フェージングを提供する。図面から、NMC E1が最高のサイクル性を有し、一方、NMC C1が最低のサイクル性を有することを観察することができる。表3は、NMC E1、NMC C1及びNMC C2試料の電気化学的性能、結晶情報及び可溶性塩基含有量をまとめている。
【0055】
全ての試料は、二重焼成法で調製されているために、これらの間の唯一の違いは、第2の焼成で使用されたリチウム欠乏焼結前駆体の結晶化度である。第1の処理中の異なる焼結条件は、リチウム欠乏前駆体の結晶子サイズ及び格子歪みの変動をもたらす。最も高い焼結温度については、NMC C2pは、72.1nmの比較的大きな結晶子サイズを有する。焼結温度を50℃まで低下させると、NMC E1pは、62.7nmのより小さい結晶子サイズで得られる。焼結温度を80℃まで更にもっていくと、NMC C1pの結晶子サイズは39.3nmである。本発明によれば、z=0.4では、50.2≦L≦70.2である。中間体の結晶子サイズは、焼結温度を低下させるときに減少することは明らかであるが、最終NMC生成物中の炭酸リチウム含有量は逆の傾向に従う。炭酸リチウム含有量は、NMC C2では、最も高い第1の焼結温度について0.139重量%まで低減される。したがって、最終製品中の炭酸リチウム含有量を低減させるために、高結晶化度を有するリチウム欠乏焼結前駆体を得ることが必要である。
【0056】
「説明実施例3」で説明したように、サイクル安定性は、カソードNMC物質中の炭酸リチウムの存在によって強く影響される。NMC粉末における高炭酸リチウム含有量は、NMC系バッテリーにおける不良なサイクル性につながる。これは、NMC E1及びNMC C1試料の場合に示されている。NMC E1試料は、炭酸リチウムの最低量を有しており、NMC E1のコイン電池試験は、最高のサイクル性を提示し、ここでは、「Qfade0.1C(%/100)」及び「Qfade1C(%/100)」によって表される25サイクル後の容量フェージングは、NMC C1のデータよりもかなり小さい。しかしながら、NMC C2試料の結果は、得られた炭酸リチウム含有量の観点からは予想外である。NMC C2における炭酸リチウム含有量は最低であるのに、サイクル安定性はNMC E1についてのものよりも非常に悪い。NMC C2の「Qfade0.1C(%/100)」及び「Qfade1C(%/100)」は、NMC E1のものよりも大きいことを観察することができる。このような不良のサイクル性の理由は、リチウム欠乏焼結前駆体の高すぎる結晶化度によるものである。高結晶化度は、過焼結をもたらす非常に高い焼結温度によって引き起こされる。
【0057】
このような過焼結された中間体から作製された最終NMC生成物は、コイン電池試験において不良なサイクル性の結果を有する。したがって、バッテリーにおいて良好なサイクル性を有する高Ni過剰のNMC粉末(Ni過剰=0.4)を得るための中間体に対しては、結晶子サイズの最適な範囲が存在する。リチウム欠乏焼結前駆体の結晶子サイズが、NMC C2pの場合のように高すぎるとき、サイクル安定性は、悪影響を受ける。中間体の結晶子サイズが、NMC C1pの場合のように低すぎるとき、最終製品中の炭酸リチウム含有量は、良好なサイクル性を得るためには高すぎる。このように、本発明による高Ni過剰のNMC(Ni過剰=0.4)の二重焼成法において、リチウム欠乏焼結前駆体の結晶子サイズは、最終製品の良好なサイクル性能を得るために重要である。
【0058】
図5は、NMC E1p及びNMC E1のXRDパターンを示す。ブラッグピーク(003)、(101)、(104)及び二重項ピーク(006、102)が表示されている。これらのピークの強度に基づいて、表4は、NMC E1p及びNMC E1試料のI003/I104の比及びR因子をまとめている。
【0060】
上述したように、I003/I104の比は、Liの遷移金属に対する不規則性の程度を反映している。I003/I104の大きな値は、歪みの小さい程度を示す。前駆体試料のNMC E1pは、小さいI003/I104比を有し、このことは、NMC E1p中のより多くのカチオン混合及びLi部位上のより多くのNiが存在することを意味する。R因子を比較すると、同じことを観察することができる。リチウム欠乏焼結前駆体は、最終製品と比べると、より高いR因子を有する。上述したDahnの文献で論じられたように、高いR因子は、Li及び遷移金属の高不規則性を意味する。このように、NMC E1pにおけるRの高い値は、リチウム欠乏焼結前駆体において、Li部位上により高い割合のNiが存在することを確証している。
【0061】
説明実施例4
この実施例は、充電/放電中に得られるリチウム欠乏NMC 622物質が、カチオン混合をほとんど有さず、本発明のリチウム欠乏焼結前駆体よりも少なくとも非常に少ないことを立証する。式Li
1.05M
0.95O
2を有し、M=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2である、NMC622粉末を、実施例1の手順に従って調製する。「試験条件の説明:エクスサイチュコイン電池試験」に従って、この試料を、M=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2でLi
0.875MO
2の組成に対して充電され、この試料をNMC P4とラベル付けする。
図6は、NMC E1p及びNMC P4のXRDパターンを示す。ブラッグピーク(103)、(101)、(104)及び二重項ピーク(006、102)が表示されている。これらのピークの強度に基づいて、表5は、NMC E1p及びNMC P4試料のI003/I104の比及びR因子をまとめている。これらの2つの試料のXRDパターンもまた、リートベルト精密化法(Rietveld refinement)を通して分析され、Li部位上のNiの割合、セル体積及びR
braggなどの結果を表5にまとめる。R
braggは、精密化の信頼性を表す。小さいR
braggは、良好な適合性能を意味する。試料E1p及びP4のR
braggは、それぞれ2.133及び3.235であり、この値は、これらの2つの試料に関する精密化が信頼できることを確証するのに十分に小さいものである。
【0063】
表から、NMC E1p試料が、NMC P4試料と比べると、より小さいI003/I104及びより大きなR因子を有することが分かる。これは、NMC E1pにはより多くのカチオン混合が存在することを示唆している。NMC E1と比べると、NMC P4は、同じI003/I104の比及び同様なR因子を有する。したがって、充電/放電後に得られるリチウム欠乏NMC622は、「通常の」NMC622製品と同様な、又はこれよりも更に低いカチオン混合の程度を有する。精密化の結果も、同じ結論を示している。NMC E1pについてのLi上のNiの割合は10.45%であり、一方NMC P4については、これは2.35%である。NMC E1pでは、ほぼ5倍多いNiがLi部位上に存在する。このように、リチウム欠乏焼結前駆体は、より高いカチオン混合の程度を有し、これは、充電/放電中に得られるリチウム欠乏試料からは、完全に識別できるものである。
【0064】
実施例2
M=Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15で式Li
1.06M
0.94O
2を有するNMC粉末を、リチウム対金属の比及び焼結温度のようなある特定の焼結条件を除いては、実施例1と同様な工程を通して、リチウム欠乏焼結前駆体から大規模で製造する。詳細は以下の通りである。
1)リチウム欠乏焼結前駆体Li
0.8(Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15)
1.2O
2:4kgのLi
2CO
3及びMOOH(式中、M=Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15である)を、Henschel Mixer(登録商標)内で30分間均質に配合する。配合された粉末を、試験規模の装置において、乾燥空気下で、895℃で10時間焼結する。乾燥空気は、40L/分の流量で、焼結装置全体に連続的に送り込まれる。焼結後に、焼結ケークを粉砕し、第2の配合工程のために準備ができた状態にする。この工程から得られた生成物は、リチウム欠乏焼結前駆体である。この中間体生成物の組成は、ICP試験によって確認される。
2)式Li
1.06[Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15]
0.94O
2を有するNMC粉末の調製:工程1で得られたリチウム欠乏焼結前駆体を、26モル%のLiOHと配合して、中間体生成物におけるLi化学量論をLi
1.06[Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15]
0.94O
2の最終の目標組成に修正する。配合は、Henschel Mixer(登録商標)で30分間行われる。次いで、混合物を、試験規模の装置において、乾燥空気下で、830℃で10時間焼結する。乾燥空気は、40L/分の流量で、焼結装置中に連続的に送り込まれる。焼結後に、焼結されたケークが粉砕され、非凝集粉末を得るために分類及びふるい分けされる。上記のように調製されたNMC試料を、NMC E2とラベル付けし、上記のように調製されたリチウム欠乏焼結前駆体をNMC E2pとラベル付けする。
【0065】
比較例3
式Li
1.06M
0.94O
2を有し、M=Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15である、NMC粉末を、リチウム欠乏焼結前駆体が不十分な結晶化度を有する(これが850℃のより低い第1の焼結温度で調製されるため)以外は、実施例2で説明したように大規模で製造する。このNMC試料は、NMC C3とラベル付けし、NMC C3のリチウム欠乏焼結前駆体をNMC C3pとラベル付けする。
【0066】
比較例4
式Li
1.06M
0.94O
2を有し、M=Ni
0.55(Ni
1/2Mn
1/2)
0.3Co
0.15である、NMC粉末を、リチウム欠乏焼結前駆体が大きな結晶子サイズを有する(これが940℃のより高い第1の焼結温度で調製されるため)以外は、実施例2で説明したように大規模で製造する。このNMC試料は、NMC C4とラベル付けし、NMC C4のリチウム欠乏焼結前駆体をNMC C4pとラベル付けする。
【0067】
実施例2、比較例3、及び比較例4の性能:
図7は、NMC C3p、NMC C4p及びNMC E2pのX線回折パターンを示す。XRDパターンは、明白な不純物を含まない単相NMC粉末を示している。図面において、(003)及び(104)の回折ピークが表示されている。これらの2つのピークは、W−H法を用いて結晶子サイズを算出するために選択されている。
【0068】
図8は、NMC C3、NMC E2、及びNMC C4試料のコイン電池の結果を示し、ここで三角形記号はNMC E2について、円形記号はNMC C3について、四角形記号はNMC C4について示す。図面から、NMC E2が最高のサイクル性を有し、一方、NMC C4が最低のサイクル性を有することを観察することができる。表6は、NMC E2、NMC C3及びNMC C4の電気化学的性能、結晶情報及び可溶性塩基含有量をまとめている。
【0070】
全ての試料は、二重焼成法を使用して調製されているために、これらの間の唯一の違いは、第2の焼成に使用されるリチウム欠乏焼結前駆体の結晶化度である。第1の処理中の異なる焼結温度は、リチウム欠乏前駆体の結晶子サイズ及び格子歪みの変動をもたらす。最も高い焼結温度については、NMC C4pは、64.2nmの比較的大きな結晶子サイズを有する。焼結温度を45℃周辺まで低下させると、NMC E2pは、51.9nmのより小さい結晶子サイズで得られる。焼結温度を45℃まで更にもっていくと、NMC C3pの結晶子サイズは37.1nmである。本発明によれば、z=0.55では、40.15≦L≦60.15である。中間体の結晶子サイズは、焼結温度がより低いときに減少することは明らかであるが、実施例1においてCE2及びCE3で既に観察されているように、炭酸リチウム含有量は、同様な傾向には従わない。
【0071】
Ex1、CE2&CE3における分析と同様に、NMC粉末は、その炭酸リチウム含有量が、NMC C3のように高すぎる時には不良なサイクル性を有する。再び、これはリチウム欠乏焼結前駆体が高すぎる結晶化度を有するときにも観察され、このような前駆体から作製された最終NMC製品は、NMC C4のように不良なサイクル性を呈する。NMC C4における炭酸リチウム含有量がたとえ低くても、過焼結されたリチウム欠乏中間体のためにサイクル安定性は悪化する。
【0072】
したがって、バッテリーにおいて良好なサイクル性を有する高Ni過剰のNMC粉末(Ni過剰=0.55)を得るための中間体の結晶子サイズの最適な範囲が存在する。リチウム欠乏焼結前駆体の結晶子サイズが、NMC C4pの場合のように高すぎるとき、サイクル安定性は、悪影響を受ける。中間体の結晶子サイズが、NMC C3pの場合のように低すぎるとき、最終製品中の炭酸リチウム含有量は、良好なサイクル性を得るためには高すぎる。このように、本発明による二重焼成法により作製された良好なサイクル性を有するNMC粉末(Ni過剰=0.55)を得るために、焼結条件は、リチウム欠乏前駆体の結晶子サイズが最適な範囲内にあることを確実にするように調整されねばならない。
【0073】
最後に、前に論じたように、リチウム欠乏焼結前駆体(NMC E1p)は、最終製品(NMC E1)と比べるときに、カチオン混合の異なる結果を示した。この現象もまた、実施例2で観察されている。
図9は、NMC E2p及びNMC E2試料のXRDパターンを示す。ブラッグピーク(103)、(101)、(104)及び二重項ピーク(006、102)が表示されている。これらのピークの強度に基づいて、表7は、NMC E2p及びNMC E2試料のI003/I104の比及びR因子をまとめている。
【0075】
I003/I104の比は、Liの遷移金属に対する不規則性の程度を反映している。I003/I104の大きな値は、歪みの小さい程度を示す。NMC E2p及びNMC E2の比I003/I104に目を向けると、NMC E2p中に存在するより多くのカチオン混合及びより多くのLi部位上のNiがあると結論付けることができる。R因子を比較すると、同じことを観察することができる。リチウム欠乏焼結前駆体は、最終製品と比べると、より高いR因子を有する。上述したDahnの文献で論じられたように、高いR因子は、Li及び遷移金属の高不規則性を意味する。このように、NMC E2pにおけるRの高い値は、リチウム欠乏焼結前駆体において、Li部位上により高い割合のNiが存在することを確証している。