【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様から鑑みると、本発明は、以下の製品実施形態を提供することができる。
実施形態1:二次電池用二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料であって、Aを少なくとも1つの元素を含むドーパントとして有する一般式Li
1+bN
1−bO
2(式中、0.155≦b≦0.25)及びN=Ni
xMn
yCo
zZr
cA
d(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、0≦d≦0.10、かつx+y+z+c+d=1)を有する、単相リチウム金属酸化物成分を備え、Li
2ZrO
3成分を更に備える、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。一実施形態では、0.18≦b≦0.21である。別の実施形態では、この材料は、単相リチウム金属酸化物成分及び二次Li
2ZrO
3成分のみからなることができる。この材料では、リチウムは、1.365≦Li/N≦1.515のモル比を有して化学量論的に制御することができる。この高リチウム濃度NMC粉末は、空間群R3−mを有する層状構造を有する固溶体である。
【0014】
実施形態2:0.205<b≦0.25である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【0015】
実施形態3:0.15≦x≦0.30、0.50≦y≦0.75、0.05<z≦0.15、0.01≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【0016】
実施形態4:ドーパントAは、Al、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuからなる群から選択される1つ以上の元素のいずれかを含む、二成分リチウム金属酸化物粉末。
【0017】
実施形態5:0.205<b≦0.25であり、かつLi
2ZrO
3成分は、層状酸化物材料内に均質に分散された、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【0018】
実施形態6:0.15≦x≦0.25、0.55≦y≦0.70、かつ0.05≦z≦0.15である、二成分リチウム金属酸化物粉末。
【0019】
実施形態7:x=0.22±0.02、y=0.67±0.05、z=0.11±0.05、かつ0.18≦b≦0.21である、二成分リチウム金属酸化物粉末。一実施形態では、c=0.01±0.005である。
【0020】
本発明による更なる製品実施形態が、以前に記載された異なる製品実施形態によって対象とされる特徴を備え得ることが明らかである。
【0021】
第2の態様から鑑みると、本発明は、以下の方法実施形態を提供することができる。
【0022】
実施形態8:製品実施形態の1つに従って、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法であって、
Ni、Mn、及びCoを含む前駆体を準備するステップと、
水に不溶性のZrを含む前駆体を準備するステップと、
ドーパントAを含む前駆体を準備するステップと、
Liを含む前駆体を準備するステップと、
Ni、Mn、及びCoの前駆体、リチウム、Zr、並びにAを含む乾燥混合物を調製するステップであって、異なる元素の量は、一般式Li
1+bN
1−bO
2(式中、0.155≦b≦0.25)、及びN=Ni
xMn
yCo
zZr
cA
d(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10、かつx+y+z+c+d=1)に到達するように化学量論的に制御された、ステップと、
混合物を少なくとも700℃の焼結温度に加熱するステップと、
一定期間、この焼結温度で混合物を焼結するステップと、
焼結した混合物を冷却するステップと、を含む、方法。異なる実施形態では、焼結温度は、700〜950℃、特に800〜850℃である。これらの温度範囲は、所望の製品特性を実現するために効果的であることが実証されている。一実施形態では、焼結ステップの期間は、5〜15時間、特に10時間付近である。別の実施形態では、Ni、Mn、及びCoの供給源は、化学量論的に制御されたNi−Mn−Coカーボネートである。
【0023】
実施形態9:0.205<b≦0.25である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。
【0024】
実施形態10:二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法であって、Ni、Mn、及びCoを含む前駆体を準備するステップは、
ナイトレート、サルフェート、又はオキサラートのうちのいずれか1つである、Ni、Mn、及びCoの別個の供給源を準備するステップと、
一般式Ni
xMn
yCo
zに到達するように、水性液体内で化学量論的に制御された量の別個の供給源を混合するステップと、
水酸化物又はカーボネートのいずれかである沈降剤を添加するステップであって、それによって、Ni−Mn−Coオキシ水酸化物又はNi−Mn−Coカーボネートである前駆体が析出される、ステップと、を含む、方法。
【0025】
実施形態11:Zr前駆体がZrO
2である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。
【0026】
実施形態12:Zr前駆体は、500nm未満のD50及び40m
2/g以上のBETを有するサブミクロンサイズのZrO
2粉末である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。
【0027】
実施形態13:ドーパントAの前駆体は、Al
2O
3、TiO
2、MgO、WO
3、Cr
2O
3、V
2O
5、Nb
2O
5、及びRuO
2からなる群から選択される1つ以上の化合物のいずれかである、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。一実施形態では、ドーパントAを含む前駆体は、Al
2O
3とすることができる。その実施形態では、Aの供給源は、TiO
2、MgO、WO
3、Cr
2O
3、V
2O
5、Nb
2O
5、及びRuO
2からなる群から選択される1つ以上の化合物のいずれかを更に含むことができる。
【0028】
本発明による更なる方法実施形態が、以前に記載された異なる方法実施形態によって対象とされる特徴を備え得ることが明らかである。
【0029】
第3の態様から鑑みると、本発明は、本発明による高リチウム濃度NMC粉末を含むカソード材料を備える、電気化学電池(Liイオン電池などの)を提供することができ、この電気化学電池は、ポータブル電子機器、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動車両、及びエネルギ貯蔵システムのうちのいずれか1つに使用される。
【0030】
本発明は、コイン電池で最大4.6Vまで充電されたときに改良されたサイクル安定性及び電圧安定性を有するカソード材料粉末を提供する。これらの材料は、R3−mの空間群を有し、かつ遷移金属層内に
【0031】
【数2】
【0032】
の超格子構造を有する特定の量の長距離Li規則配列を有する、層状構造の固溶体構造を有する高リチウム濃度NMC材料であると考えられる。これらの材料は、既存の市販のNMCカソード材料、例えば、NMC111(Ni:Mn:Co=33:33:33を有する)と比較して、著しく高い比容量を提供することができる。改良された電圧安定性を有して、本発明によるカソード材料は、高性能の携帯型電子機器、自動車用途、電動工具、及びエネルギ貯蔵において使用するのに有望な候補である。
【0033】
著者は、特定の量のZrドーピング、又は他のドーピング元素と組み合わせたZrドーピングを含有する高リチウム濃度NMCカソード粉末がLiイオン電池に使用される場合に優れた特性を有することを発見した。Zrでのドーピングは、サイクル中の放電電圧衰退を抑制するのに役立つことができ、それによって、高リチウム濃度NMC材料の実用的な用途の最も困難な問題を解決するのに役立つことができる。
【0034】
本発明によれば、本発明の粉末を形成する粒子は、AをAl、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuから選択される少なくとも1つの元素を含むドーパントとして有する一般式Li
1+bN
1−bO
2(式中、0.155≦b≦0.25)、N=Ni
xMn
yCo
zZr
cA
d(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10)を有する。一実施形態では、bは、Li/N比によって0.205<b≦0.25の範囲内であるように制御され、Zr量は、0.005≦c≦0.03、又は更に0.01≦c≦0.03の範囲内であるように制御される。本発明による材料では、ZrのXRDパターン及びEDSマッピングから見ることができるように、Zrの大部分は、高リチウム濃度NMC粉末の結晶構造内に均質にドーピングされ、Zrの小部分は、Li
1+bN
1−bO
2材料のマトリックス内に均質に分散された二次相としてLi
2ZrO
3内に形成される。この実施形態では、高リチウム濃度NMCの電圧衰退は、非Zrドーピングされた材料と比較して著しく抑制される。
【0035】
本発明はまた、「発明の概要」に説明したようなプロセスを提供する。第1の混合物は、リチウムの供給源、遷移金属(Ni、Mn、Co)の供給源、Zrの供給源、及び(適用される場合)Aの供給源をブレンドすることにより得られる。リチウム及び遷移金属の供給源に関して、既知の材料が優先される。例えば、リチウムカーボネート、及び混合したNi−Mn−Coオキシ水酸化物又は混合したNi−Mn−Coカーボネートである。次に、すべての前駆体を、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。ブレンド比は、酸化物粉末の組成を得ることを目標に設定することができる。
【0036】
Zrの供給源は、ナノメータのZrO
2粉末とすることができる。一実施形態では、ZrO
2は、典型的には少なくとも40m
2/gのBETを有し、500nm未満のd50を有する非塊状の一次粒子からなる。本発明の方法の一実施形態では、Aは、少なくとも1つのドーパントである。Aは、Al、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuの群からの1つ以上の元素とすることができる。Aの供給源は、金属酸化物、例えば、Al
2O
3、TiO
2、MgO、WO
3、Cr
2O
3、V
2O
5、Nb
2O
5、RuO
2、及びそれらの混合物の群から選択される化合物とすることができる。
【0037】
本発明のプロセスでは、加熱ステップ中に、混合物は、少なくとも600℃、好ましくは少なくとも700℃、より好ましくは少なくとも750℃の温度(焼結温度と呼ばれる)に加熱される。好ましくは、焼結温度は、最大950℃、より好ましくは最大900℃、最も好ましくは最大850℃である。この焼結温度の選択は、高リチウム濃度NMC材料の均質なドーピングを得るために重要である。焼結時間は、一定焼結温度での熱処理の期間である。焼結時間は、好ましくは少なくとも5時間、より好ましくは少なくとも8時間である。好ましくは、焼結時間は、15時間未満、より好ましくは12時間未満である。
【0038】
本発明をより詳細に説明するために、以下の実施例及び比較例を提供し、これらは、以下の図を参照する。