特許第6744053号(P6744053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユミコアの特許一覧 ▶ ユミコア・コリア・リミテッドの特許一覧

特許6744053リチウムイオン電池用高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード粉末
<>
  • 特許6744053-リチウムイオン電池用高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード粉末 図000007
  • 特許6744053-リチウムイオン電池用高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード粉末 図000008
  • 特許6744053-リチウムイオン電池用高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード粉末 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6744053
(24)【登録日】2020年8月3日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード粉末
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20200806BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20200806BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20200806BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200806BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/485
   H01M4/36 E
   H01M4/36 B
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-532844(P2018-532844)
(86)(22)【出願日】2016年9月22日
(65)【公表番号】特表2018-526807(P2018-526807A)
(43)【公表日】2018年9月13日
(86)【国際出願番号】IB2016055652
(87)【国際公開番号】WO2017051338
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】15186502.9
(32)【優先日】2015年9月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シン・シア
(72)【発明者】
【氏名】ソン−イ・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ジヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−193888(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114534(WO,A1)
【文献】 特開2007−273448(JP,A)
【文献】 特開2007−242581(JP,A)
【文献】 特開2013−134871(JP,A)
【文献】 特開2013−239434(JP,A)
【文献】 特開2014−049309(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/132647(WO,A1)
【文献】 特表2014−509046(JP,A)
【文献】 特許第5459565(JP,B2)
【文献】 特開2013−114786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料であって、一般式Li1+b1−b(式中、0.155≦b≦0.25)及びN=NiMnCoZr(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、0≦d≦0.10、x+y+z+c+d=1、かつAは少なくとも1つの元素を含むドーパントである)を有する、単相リチウム金属酸化物成分を備え、LiZrO成分を更に備える、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料
【請求項2】
0.205<b≦0.25である、請求項1に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【請求項3】
0.15≦x≦0.30、0.50≦y≦0.75、0.05<z≦0.15、0.01≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10である、請求項1に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【請求項4】
前記ドーパントAは、Al、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuからなる群から選択される1つ以上の元素のいずれかを含む、請求項1に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料
【請求項5】
前記LiZrO成分は、前記層状酸化物材料内に均質に分散された、請求項2に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【請求項6】
0.15≦x≦0.25、0.55≦y≦0.70、かつ0.05≦z≦0.15である、請求項1に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料
【請求項7】
x=0.22±0.02、y=0.67±0.05、z=0.11±0.05、かつ0.18≦b≦0.21である、請求項1に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料
【請求項8】
請求項1に記載の二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法であって、
Ni、Mn、及びCoを含む前駆体を準備するステップと、
水に不溶性のZrを含む前駆体を準備するステップと、
ドーパントAを含む前駆体を準備するステップと、
Liを含む前駆体を準備するステップと、
前記Ni、Mn、及びCoを含む前駆体と、前記リチウムを含む前駆体と、前記Zrを含む前駆体と、前記ドーパントAを含む前駆体とを含む乾燥混合物を調製するステップであって、前記乾燥混合物における異なる元素の量は、一般式Li1+b1−b(式中、0.155≦b≦0.25)、及びN=NiMnCoZr(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10、かつx+y+z+c+d=1)に到達するように化学量論的に制御された、ステップと、
前記混合物を少なくとも700℃の焼結温度に加熱するステップと、
一定期間、前記焼結温度で前記混合物を焼結するステップと、
前記焼結した混合物を冷却するステップと、を含む、方法。
【請求項9】
0.205<b≦0.25である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Ni、Mn、及びCoを含む前駆体を準備するステップは、
ナイトレート、サルフェート、又はオキサラートのうちのいずれか1つである、Ni、Mn、及びCoの別個の供給源を準備するステップと、
一般式NiMnCoに到達するように、水性液体内で化学量論的に制御された量の前記別個の供給源を混合するステップと、
水酸化物又はカーボネートのいずれかである沈降剤を添加するステップであって、それによって、Ni−Mn−Coオキシ水酸化物又はNi−Mn−Coカーボネートである前記前駆体が析出される、ステップと、を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記Zr前駆体がZrOである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記Zr前駆体は、500nm未満のD50及び40m/g以上のBETを有するサブミクロンサイズのZrO粉末である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記ドーパントAの前記前駆体は、Al3、TiO2、MgO、WO、Cr3、、Nb、及びRuOからなる群から選択される1つ以上の化合物のいずれかである、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
ポータブル電子機器、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動車両、及びエネルギ貯蔵システムのうちのいずれか1つの電池における、請求項1に記載の正電極材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式リチウムイオン電池用の改良された高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード材料に関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有するカソード材料は、Ni、Mn、Coを含有し、金属元素でドーピングされ、コイン電池型の試験において4.6Vに充電されたときに改良されたサイクル安定性、特に改良された高電圧安定性を示す変更された組成を有する。高電圧安定性は、高リチウム濃度ニッケルマンガンコバルトカソード材料の最も重要な問題の1つである。
【0003】
市販のリチウムイオン電池は、典型的には、グラファイト系のアノード及びカソード材料を含有する。カソード材料は、通常、リチウムを可逆的にインターカレートしデインターカレートすることができる粉末状の材料である。現在の産業市場では、LiCoO(いわゆる「LCO」)、Li(NiMnCo)O(いわゆる「NMC」、x+y+z=1)及びLiMn(いわゆる「LMO」)は、充電式リチウム電池用の主流のカソード材料である。LiCoOは、Sonyによって1990年にリチウムイオン電池用カソード材料として最初に導入された。それ以降、それは、特に高電圧LCOの市販化後に、最も幅広く使用されるカソード材料であり、ポータブル電子機器、例えば、スマートフォン及びタブレット用の用途を支配している。「NMC」は、Co金属の高価格のために、CoをNi及びMnによって置換することによりLCOを置き換えるために2000年頃に開発された。「NMC」は、LCOに匹敵する重量エネルギ密度を有するが、その低い容積密度のために相当より小さな容積エネルギ密度を有する。今日では、NMCは、主に、自動車用途、例えば、電気自動車(electrical vehicles)(EV)及びハイブリッド車(hybrids)(HEV)に適用されている。これは、NMCがLCOより相当安価であり、自動車用途がポータブル電子機器より小さな容積密度を必要とするためである。「LMO」材料は、1990年代の中頃から開発されてきた。LMOは、Liイオンの「3D」拡散経路を有するスピネル型構造を有する。それは、電動工具、電動自転車、並びに自動車用途などの様々な用途に幅広く使用されてきている。
【0004】
リチウムイオン電池技術及び関連用途の急速な発展に伴い、カソードのエネルギ密度を増大する継続的要求が存在する。1つの手法は、カソード材料の比容量を増大することである。2000年に、新型のLi(NiMnCo)O(x+y+z=1、かつa>>1)が開発された。通常のNMCと比較して、そのような材料は、1分子当たり1個より多いLi原子を有する。それは、通常、「高リチウム濃度NMC」又は「過リチオ化リチウム遷移金属酸化物」と呼ばれる(本明細書で我々はそれを「高リチウム濃度NMC」と呼ぶ)。高リチウム濃度NMCはまた、層状構造を有する。この構造は、R3−mの空間群を有し、かつ遷移金属層内に
【0005】
【数1】
【0006】
の超格子構造を有する特定の量の長距離Li規則配列を有する、層状構造の固溶体である。高リチウム濃度NMCは、約4.5V(Li/Liに対して)で電圧プロファイルに大きな平坦域を有する300mAh/gの非常に高い一次充電容量を有する。この平坦域は、Oの放出に関連すると考えられる。通常の可逆比容量は、2.0〜4.6V(Li/Liに対して)の間で繰り返す場合に、250mAh/gを上回り、これは、通常のNMC材料より相当高い。したがって、高リチウム濃度NMCは、その高エネルギ密度のため、自動車及び電動工具などの様々な用途に対して非常に有望である。
【0007】
しかし、高リチウム濃度NMCに関して、いくつかの重要な問題が存在する。第1に、高リチウム濃度NMC用の相溶性の電解質系に対する要件は、厳格である。上述したように、フルセル(full cell)内に高リチウム濃度NMCがカソード材料として使用される場合、300mAh/gを上回る高容量を得るために、4.5V(Li/Liに対して4.6Vに相当する)を上回って充電することにより、活性化する必要がある。次に、250mAh/g付近の可逆容量を保持するために通常2〜4.6V(Li/Liに対して)の広いサイクル範囲も必要とする。通常、そのような高い電圧は、現在の電解質系により許容することができず、主に線状及び環状カーボネートである電解質内の有機溶剤が、4.5Vより高い高電圧で分解し始めて、カソード/電解質及びアノード/電解質の境界面に悪影響を及ぼす副生物を形成する。副生物は、電池の電気化学性能を劣化させて、結果として容量の激しい衰退となる。4.5Vより高い高電圧での電解質の安定性の改良に関する研究は、新しい溶剤を見出すこと、新しい塩を発明すること、及び機能性添加物を混合することを含めて、継続している。
【0008】
高リチウム濃度NMCに関する他の固有の欠点もまた、存在する。サイクル中に高リチウム濃度NMCの平均放電電圧が漸進的に減少することを示す幅広い研究が存在する。J.Electrochem.Soc.2014 161(3):A318〜A325で、Croyらは、高リチウム濃度NMCの電圧衰退メカニズムを研究した。彼らはまた、電圧衰退が遷移金属のリチウム層への移動に起因し、それによって、局所構造を変化させてエネルギ出力の減少を引き起こすことを見出した。
【0009】
高リチウム濃度NMCの電圧衰退を改良する多くの取り組みが存在する。J.Electrochem.Soc.2015 162(3):A322〜A329で、Leeらは、Al及びGaのドーピングによる電圧衰退を改良する利点は存在しないことを見出した。J.Power.Sources 2014 249:509〜514でBloomらによって行われた別の研究で、彼らは、コーティング手法、例えば、高リチウム濃度NMC上へのAl、TiO、及びAlPOのコーティングが電圧衰退を抑制するのに役立たないことを確認した。
【0010】
欧州特許第2654109(A1)号、国際公開第2015/040818号、日本特許第5459565(B2)号、及び欧州特許第2557068(A1)号に、過リチオ化ジルコニウムドーピングニッケルマンガンコバルト酸化物、及び二次電池用の正電極材料としてのそれらの使用が開示されている。欧州特許第2826750(A1)号及び日本出願公開第2014−049309号に、その表面上に形成されたジルコニウムドーピングリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物及びリチウムジルコネート塩化合物を含む正電極材料が開示されている。
【0011】
上述した問題を考慮して、サイクル中の高リチウム濃度NMCの電圧安定性を改良する効果的な手法の探索は、この種のカソード材料の今後の開発及び用途のための最も重要な論題の1つになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、材料の高い重量エネルギ密度を保持しながら、高リチウム濃度NMCの電圧衰退を抑制する解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様から鑑みると、本発明は、以下の製品実施形態を提供することができる。
実施形態1:二次電池用二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料であって、Aを少なくとも1つの元素を含むドーパントとして有する一般式Li1+b1−b(式中、0.155≦b≦0.25)及びN=NiMnCoZr(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、0≦d≦0.10、かつx+y+z+c+d=1)を有する、単相リチウム金属酸化物成分を備え、LiZrO成分を更に備える、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。一実施形態では、0.18≦b≦0.21である。別の実施形態では、この材料は、単相リチウム金属酸化物成分及び二次LiZrO成分のみからなることができる。この材料では、リチウムは、1.365≦Li/N≦1.515のモル比を有して化学量論的に制御することができる。この高リチウム濃度NMC粉末は、空間群R3−mを有する層状構造を有する固溶体である。
【0014】
実施形態2:0.205<b≦0.25である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【0015】
実施形態3:0.15≦x≦0.30、0.50≦y≦0.75、0.05<z≦0.15、0.01≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【0016】
実施形態4:ドーパントAは、Al、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuからなる群から選択される1つ以上の元素のいずれかを含む、二成分リチウム金属酸化物粉末。
【0017】
実施形態5:0.205<b≦0.25であり、かつLiZrO成分は、層状酸化物材料内に均質に分散された、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料。
【0018】
実施形態6:0.15≦x≦0.25、0.55≦y≦0.70、かつ0.05≦z≦0.15である、二成分リチウム金属酸化物粉末。
【0019】
実施形態7:x=0.22±0.02、y=0.67±0.05、z=0.11±0.05、かつ0.18≦b≦0.21である、二成分リチウム金属酸化物粉末。一実施形態では、c=0.01±0.005である。
【0020】
本発明による更なる製品実施形態が、以前に記載された異なる製品実施形態によって対象とされる特徴を備え得ることが明らかである。
【0021】
第2の態様から鑑みると、本発明は、以下の方法実施形態を提供することができる。
【0022】
実施形態8:製品実施形態の1つに従って、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法であって、
Ni、Mn、及びCoを含む前駆体を準備するステップと、
水に不溶性のZrを含む前駆体を準備するステップと、
ドーパントAを含む前駆体を準備するステップと、
Liを含む前駆体を準備するステップと、
Ni、Mn、及びCoの前駆体、リチウム、Zr、並びにAを含む乾燥混合物を調製するステップであって、異なる元素の量は、一般式Li1+b1−b(式中、0.155≦b≦0.25)、及びN=NiMnCoZr(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10、かつx+y+z+c+d=1)に到達するように化学量論的に制御された、ステップと、
混合物を少なくとも700℃の焼結温度に加熱するステップと、
一定期間、この焼結温度で混合物を焼結するステップと、
焼結した混合物を冷却するステップと、を含む、方法。異なる実施形態では、焼結温度は、700〜950℃、特に800〜850℃である。これらの温度範囲は、所望の製品特性を実現するために効果的であることが実証されている。一実施形態では、焼結ステップの期間は、5〜15時間、特に10時間付近である。別の実施形態では、Ni、Mn、及びCoの供給源は、化学量論的に制御されたNi−Mn−Coカーボネートである。
【0023】
実施形態9:0.205<b≦0.25である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。
【0024】
実施形態10:二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法であって、Ni、Mn、及びCoを含む前駆体を準備するステップは、
ナイトレート、サルフェート、又はオキサラートのうちのいずれか1つである、Ni、Mn、及びCoの別個の供給源を準備するステップと、
一般式NiMnCoに到達するように、水性液体内で化学量論的に制御された量の別個の供給源を混合するステップと、
水酸化物又はカーボネートのいずれかである沈降剤を添加するステップであって、それによって、Ni−Mn−Coオキシ水酸化物又はNi−Mn−Coカーボネートである前駆体が析出される、ステップと、を含む、方法。
【0025】
実施形態11:Zr前駆体がZrOである、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。
【0026】
実施形態12:Zr前駆体は、500nm未満のD50及び40m/g以上のBETを有するサブミクロンサイズのZrO粉末である、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。
【0027】
実施形態13:ドーパントAの前駆体は、Al、TiO、MgO、WO、Cr、V、Nb、及びRuOからなる群から選択される1つ以上の化合物のいずれかである、二成分高リチウム濃度層状酸化物正電極材料を調製する方法。一実施形態では、ドーパントAを含む前駆体は、Alとすることができる。その実施形態では、Aの供給源は、TiO2、MgO、WO、Cr3、、Nb、及びRuOからなる群から選択される1つ以上の化合物のいずれかを更に含むことができる。
【0028】
本発明による更なる方法実施形態が、以前に記載された異なる方法実施形態によって対象とされる特徴を備え得ることが明らかである。
【0029】
第3の態様から鑑みると、本発明は、本発明による高リチウム濃度NMC粉末を含むカソード材料を備える、電気化学電池(Liイオン電池などの)を提供することができ、この電気化学電池は、ポータブル電子機器、ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動車両、及びエネルギ貯蔵システムのうちのいずれか1つに使用される。
【0030】
本発明は、コイン電池で最大4.6Vまで充電されたときに改良されたサイクル安定性及び電圧安定性を有するカソード材料粉末を提供する。これらの材料は、R3−mの空間群を有し、かつ遷移金属層内に
【0031】
【数2】
【0032】
の超格子構造を有する特定の量の長距離Li規則配列を有する、層状構造の固溶体構造を有する高リチウム濃度NMC材料であると考えられる。これらの材料は、既存の市販のNMCカソード材料、例えば、NMC111(Ni:Mn:Co=33:33:33を有する)と比較して、著しく高い比容量を提供することができる。改良された電圧安定性を有して、本発明によるカソード材料は、高性能の携帯型電子機器、自動車用途、電動工具、及びエネルギ貯蔵において使用するのに有望な候補である。
【0033】
著者は、特定の量のZrドーピング、又は他のドーピング元素と組み合わせたZrドーピングを含有する高リチウム濃度NMCカソード粉末がLiイオン電池に使用される場合に優れた特性を有することを発見した。Zrでのドーピングは、サイクル中の放電電圧衰退を抑制するのに役立つことができ、それによって、高リチウム濃度NMC材料の実用的な用途の最も困難な問題を解決するのに役立つことができる。
【0034】
本発明によれば、本発明の粉末を形成する粒子は、AをAl、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuから選択される少なくとも1つの元素を含むドーパントとして有する一般式Li1+b1−b(式中、0.155≦b≦0.25)、N=NiMnCoZr(式中、0.10≦x≦0.40、0.30≦y≦0.80、0<z≦0.20、0.005≦c≦0.03、かつ0≦d≦0.10)を有する。一実施形態では、bは、Li/N比によって0.205<b≦0.25の範囲内であるように制御され、Zr量は、0.005≦c≦0.03、又は更に0.01≦c≦0.03の範囲内であるように制御される。本発明による材料では、ZrのXRDパターン及びEDSマッピングから見ることができるように、Zrの大部分は、高リチウム濃度NMC粉末の結晶構造内に均質にドーピングされ、Zrの小部分は、Li1+b1−b材料のマトリックス内に均質に分散された二次相としてLiZrO内に形成される。この実施形態では、高リチウム濃度NMCの電圧衰退は、非Zrドーピングされた材料と比較して著しく抑制される。
【0035】
本発明はまた、「発明の概要」に説明したようなプロセスを提供する。第1の混合物は、リチウムの供給源、遷移金属(Ni、Mn、Co)の供給源、Zrの供給源、及び(適用される場合)Aの供給源をブレンドすることにより得られる。リチウム及び遷移金属の供給源に関して、既知の材料が優先される。例えば、リチウムカーボネート、及び混合したNi−Mn−Coオキシ水酸化物又は混合したNi−Mn−Coカーボネートである。次に、すべての前駆体を、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。ブレンド比は、酸化物粉末の組成を得ることを目標に設定することができる。
【0036】
Zrの供給源は、ナノメータのZrO粉末とすることができる。一実施形態では、ZrOは、典型的には少なくとも40m/gのBETを有し、500nm未満のd50を有する非塊状の一次粒子からなる。本発明の方法の一実施形態では、Aは、少なくとも1つのドーパントである。Aは、Al、Mg、Ti、Cr、V、W、Nb、及びRuの群からの1つ以上の元素とすることができる。Aの供給源は、金属酸化物、例えば、Al、TiO、MgO、WO、Cr、V、Nb、RuO、及びそれらの混合物の群から選択される化合物とすることができる。
【0037】
本発明のプロセスでは、加熱ステップ中に、混合物は、少なくとも600℃、好ましくは少なくとも700℃、より好ましくは少なくとも750℃の温度(焼結温度と呼ばれる)に加熱される。好ましくは、焼結温度は、最大950℃、より好ましくは最大900℃、最も好ましくは最大850℃である。この焼結温度の選択は、高リチウム濃度NMC材料の均質なドーピングを得るために重要である。焼結時間は、一定焼結温度での熱処理の期間である。焼結時間は、好ましくは少なくとも5時間、より好ましくは少なくとも8時間である。好ましくは、焼結時間は、15時間未満、より好ましくは12時間未満である。
【0038】
本発明をより詳細に説明するために、以下の実施例及び比較例を提供し、これらは、以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】X線回折(X−ray diffraction)(XRD)から測定したLi/M対単位セル体積の関係、
図2】断面SEM画像、
図3】実施例4のZrのEDSマッピング。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に従って調製された材料を評価するために、材料は、以下のコイン電池試験にかける。ハーフセル(コイン電池)を、正電極と負電極としてのリチウム金属片との間にセパレータ(Celgard製)を配置して、セパレータと電極との間に電解質(EC/DMC(1:2)の1M LiPF)を滴下することにより組み立てる。以下の実施例でのすべての電池試験は、表1に示す手順に従う。C比は、160mAh/gとして定義される。例えば、0.1Cは、電池が10時間で充電又は放電されることとなることを意味する。「E電流」及び「V」は、それぞれ末端電流及びカットオフ電圧を表す。1回目のサイクルで、DQ0.05C(0.05Cの比での1回目のサイクルの放電容量)及びIRRQ(irreversible capacity)(不可逆容量)を測定する。比性能は、その後の6回のサイクルから計算することができる。サイクル安定性の性能は、サイクル#8〜#32から得られる。0.1Cでの容量衰退は、「Qfade0.1C(%/100)」により表される。それぞれサイクル#8及び#31の放電容量を指すDQ8及びDQ31を用いて、「Qfade0.1C(%/100)」は、以下の式:(1−(DQ31/DQ8))/22×100×100により得ることができる。放電電圧安定性の性能は、サイクル#8〜#32から得られる。0.1Cでの電圧衰退は、「Vfade0.1C(V/100)」により表される。それぞれサイクル#8及び#31の平均放電電圧を指すDV8及びDV31を用いて、「Vfade0.1C(V/100サイクル)」は、以下の式:(DV8/DV31))/22×100により得ることができる。
【0041】
【表1】
【0042】
本発明による材料は、市販のX線回折計で測定して、結晶構造情報を得た。Cu(Kα)ターゲットX線管及び回折ビームモノクロメータを備えたRigaku D/MAX 2200 PC回折計を、15〜70度の2シータ(Θ)範囲で、室温で適用した。異なる相の格子パラメータ(単位セルのa及びc軸)は、完全パターンマッチング及びリートベルト精密解析法を用いてX線回折パターンから計算した。実施例の単位セルの容積は、以下の式を使用することにより、計算した。
【0043】
【数3】
【0044】
ここで、本発明を以下の実施例において例示する。
実施例1:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、ニッケルマンガンコバルト前駆体、及びZr前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、混合したNi−Mn−Coカーボネート、及びZrOを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.197(Ni0.218Mn0.663Co0.109Zr0.010.803を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は800℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0045】
実施例2:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、ニッケルマンガンコバルト前駆体、及びZr前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、混合したNi−Mn−Coカーボネート、及びZrOを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.201(Ni0.218Mn0.663Co0.109Zr0.010.799を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は800℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0046】
実施例3:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、ニッケルマンガンコバルト前駆体、及びZr前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、混合したNi−Mn−Coカーボネート、及びZrOを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.203(Ni0.218Mn0.663Co0.109Zr0.010.797を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は850℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0047】
実施例4:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、ニッケルマンガンコバルト前駆体、及びZr前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、混合したNi−Mn−Coカーボネート、及びZrOを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.210(Ni0.218Mn0.663Co0.109Zr0.010.790を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は850℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0048】
比較例1:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、及びニッケルマンガンコバルト前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、及び混合したNi−Mn−Coカーボネートを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.197(Ni0.22Mn0.67Co0.110.803を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は800℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0049】
比較例2:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、及びニッケルマンガンコバルト前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、及び混合したNi−Mn−Coカーボネートを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.201(Ni0.22Mn0.67Co0.110.799を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は800℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0050】
比較例3:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、及びニッケルマンガンコバルト前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、及び混合したNi−Mn−Coカーボネートを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.203(Ni0.22Mn0.67Co0.110.797を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は850℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0051】
比較例4:本発明による粉末を、以下のステップにより製造する。
(a)リチウム、及びニッケルマンガンコバルト前駆体のブレンド:リチウムカーボネート、及び混合したNi−Mn−Coカーボネートを、乾燥粉末混合プロセスにより垂直一軸ミキサー内で均質にブレンドする。このブレンド比は、Li1.210(Ni0.22Mn0.67Co0.110.790を得ることを目標に設定され、これは、ICPなどの分析技法により容易に確認することができる。
(b)酸化雰囲気中での合成:ステップ(a)からの粉末混合物を、酸化雰囲気中で箱形炉内で焼結する。焼結温度は850℃であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。
(c)粉砕:焼結後に、試料は、粉砕器でD50=10〜12μmを有する粒子サイズ分布に粉砕する。
【0052】
論考:
図1は、異なる実施例及び比較例の結晶構造の単位セルの体積を示す。Li/Mは、それぞれの実施例及び比較例の分子式から計算された目標値である。実施例及び比較例の体積は、大きくは異ならず、Li/Mに対して同じ傾向に従っている。Zr4+及びNi2+又はCo3+の類似したイオン半径を考慮すると、Zr4+ドーピングは、結果として格子定数及び単位セルの体積の劇的な変化にならないであろう。これは、Zr又はその大部分が、結晶構造内にドーピングされることを示す。実施例4の粉末のXRDパターンは、二次相LiZrOの存在を示す。図2は、実施例4の断面SEM画像を示し、図3は、元素ZrのEDSマッピングを示す。それは、Zr元素がNMC粒子内に均質に分散していることを示す。それは、LiZrOも、得られた高Li濃度NMC粒子の大部分内に均質に分散していることを示す。表2は、実施例及び比較例のコイン電池の性能を要約している。実施例1は、匹敵する電圧安定性を有する比較例1に対して、改良されたサイクル安定性を示す。実施例2は、サイクル安定性及び電圧安定性の両方で著しい改善を示す。実施例3対比較例3、及び実施例4対比較例4を比較すると、同様の結果が得られる。ドーピングされたZrが、特に電圧衰退の問題に対する高リチウム濃度NMCの電気化学性能を改善することは明白である。実施例4は、すべての実施例のうちの最良の電圧安定性を有する。それは、層状酸化物内に均質に分散した二次相LiZrOの存在が電圧安定性を更に改善することができることを示す。これは、大部分内のLiZrOが層状構造のスピネル型構造への相遷移を抑制するのに役立つことができるという事実に起因し得る。一方で、Zrドーピングは、この種のカソード材料の高エネルギ密度を保持する。
【0053】
【表2】
図1
図2
図3