(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6744541
(24)【登録日】2020年8月4日
(45)【発行日】2020年8月19日
(54)【発明の名称】採汁器
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20200806BHJP
【FI】
G01N1/10 Z
G01N1/10 N
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-200503(P2015-200503)
(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公開番号】特開2017-72518(P2017-72518A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺内 方克
(72)【発明者】
【氏名】杉松 力
【審査官】
北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1052932(KR,B1)
【文献】
韓国登録特許第10−1422588(KR,B1)
【文献】
実開昭61−167548(JP,U)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0042120(KR,A)
【文献】
特開昭55−016218(JP,A)
【文献】
特開昭59−231434(JP,A)
【文献】
特開平11−142390(JP,A)
【文献】
米国特許第05269169(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0078082(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
G01N33/02
A01G23/10
A01G23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状体の採汁部を備えた採汁器であって、
前記採汁部は、先端部に、汁液採取対象の植物体内に挿入される尖り先を有する上向きに開口した傾斜開口が設けられていると共に、前記傾斜開口にて開放され、前記傾斜開口の下側で前記傾斜開口から入る汁液を受ける管状又は溝状の流路が設けられており、
前記採汁器の下側部には、前記流路に連通して、前記流路を流れる汁液を排出する排汁部が設けられていることを特徴とする採汁器。
【請求項2】
前記採汁部の上側部には、前記流路の終端部に連通する洗浄孔が設けられていることを特徴とする請求項1記載の採汁器。
【請求項3】
前記採汁部は、採取した汁液を溜める採取容器の入口が取り付け可能になっていることを特徴とする請求項1又は2記載の採汁器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物などの植物体から一定量の汁液を採取する採汁器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果物や野菜などの植物体の各種利用に際して、それらに含まれる成分を定量・定性分析することが行われている。その際、植物体から汁液を採取することがしばしば行われる。
【0003】
従来、汁液の採取には、搾汁器が用いられている。搾汁器を用いた汁液の採取では、成分分析用のサンプルを得ようとすると、植物体から汁液を搾り出し、これを汁受け容器にとり、その汁受け容器から一定量の汁液を分け取ることがなされている。この際に用いられる搾汁器としては、底に搾汁液を排出し得る小孔を備えた容器と押圧具及びその押圧具を押圧する機構を有したものなどが知られている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、ごく微量の汁液を得る場合には、微量採汁器が用いられている。微量採汁器を用いた汁液の採取では、得られる微量の汁液を対応する分析機器に直接塗りつけるなどの方法が採られている。この際に用いられる採汁器としては、先端が尖り、その手前に液溜まりを備えた棒状の採汁器が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−153797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
搾汁器を用いて汁液を一定量採取しようとすると、少量の採取であって、植物体全体又は一部を圧搾する必要があり、また、一定量の汁液を取り分けるために、搾汁器の他に汁受け容器や小分け用の容器、或いは小分けするためのピペットのような道具が必要になる。また、作業手順も搾汁と小分けの2段階になって煩雑にならざるを得ない。
【0007】
一方、ごく微量の採取量(10μl以下)で良い場合は、前述した微量採汁器を用いて、サンプル台などに直接汁液を塗りつけるなどの方法がとらえる場合があるが、このような方法がとられるのは、ハンドレフラクトメーター(通称糖度計)などの簡便に持ち運び可能で、且つ、その場で情報の得られる特定の分析器に限られており、化学分析やHPLC(High Performance Liquid Chromatography:高速液体クロマトグラフィー)などの分析機器には対応できない。また、この微量採汁器で採取した汁液を分析用の採取容器(マイクロチューブなど)に移し替えることもなされているが、採取してから細い採汁器の先端を容器の入口に合わせて移し替えるのは手間のかかる作業であり、また、一度の採取で取れる量が限られているので、1ml程度の量を採取するには、複数回の採取が必要になり、さらに作業が繁雑になる。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題とするものであり、搾汁器を用いること無く、連続して簡易に植物体から一定程度(例えば1ml程度)の汁液を採取できる採汁器を提供すること、採取した汁液を容易に分析用の採取容器に溜めることができること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するために、以下の構成を具備するものである。
棒状体の採汁部を備えた採汁器であって、前記採汁部は、先端部に
、汁液採取対象の植物体内に挿入される尖り先
を有する上向きに開口した傾斜開口が設けられていると共に、前記
傾斜開口にて開放され
、前記傾斜開口の下側で前記傾斜開口から入る汁液を受ける管状又は溝状の流路が設けられており、前記採汁器の
下側部には、前記流路に連通して、前記流路を流れる汁液を排出する排汁部が設けられていることを特徴とする採汁器。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る採汁器の全体構成を示す説明図である((a)が平面図、(b)が側面図)。
【
図2】本発明の実施形態に係る採汁器の使用状況(汁液採取状況)の一例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る採汁器の全体構成を示している。本発明の実施形態に係る採汁器1は、棒状体の採汁部10を備えている。
【0012】
採汁部10は、その先端部に、棒状体の中空部分を斜めに切断することで先端に尖り先12を有する傾斜開口11が設けられている。また、採汁部10には、尖り先12にて開放される管状の流路10Aが設けられている。図示の例では、棒状体の内部に管状の流路10Aを形成しているが、これに代えて、棒状体に溝状の流路を形成しても良い。溝状の流路は、棒状体の上側部の全体又は一部を開放して形成することができる。
【0013】
図示の例では、傾斜開口11を上向きにした状態での棒状体(採汁部10)の上側部に洗浄孔13が設けられている。洗浄孔13は、流路10Aの終端部に連通して形成されており、後述する排汁部14とは異なる側部に設けられている。前述したように溝状の流路が採汁部10に設けられており、流路の上方が開放されている場合には、洗浄孔13は省略される。
【0014】
更に、採汁部10には、傾斜開口11を上向きにした状態での棒状体(採汁部10)の下側部に、下向きに延設されて流路10Aに連通する排汁部14が設けられている。採汁部10は、金属管やプラスチック管など所定の強度を有する管体で形成することができる。
【0015】
排汁部14は、採汁部10である棒状体の内部に形成される流路10Aに連通した中空の短管状部であり、下端が開放されている。排汁部14は、採汁部10の先端から設定された距離だけ離れた位置に設けられ、その上部に洗浄孔13を設けることが好ましい。排汁部14の位置は、採汁部10の先端部を採汁対象の植物体(果物など)内部にどの程度挿入するか、挿入後に採汁部10の角度をどの程度上下に動かすかによって適宜設定される。
【0016】
排汁部14には、
図1(b)に示すように、マイクロチューブなどの採取容器Mの入口が直接取り付けられるようになっている。採取容器Mは、排汁部14に取り付けられた状態で保持されることが好ましい。そのためには、排汁部14の外径を採取容器Mの口径と略等しくするか、或いは、排汁部14の外周面に採取容器Mを保持するための突起などを設けることが好ましい。排汁部14に対しての採取容器Mの取り付けは、簡易に取り付けられるだけで無く、簡易に取り外しができることが必要になる。
【0017】
採汁部10の基端側には、必要に応じて、取っ手部15が設けられる。図示の例では、取っ手部15は採汁部10の延設方向に対して交差する方向に棒状体部を設けており、採汁部10と取っ手部15がT字状になるように構成されている。取っ手部15の形態はこれに限らず、採汁部10を簡易に保持できる形態であればどのような形態であってもよい。
【0018】
図2は、採汁器1の使用状況(汁液採取状況)の一例を示している。図示の例では、作業者が取っ手部15を握って、採汁部10の尖り先12を汁液採取対象の植物体(果物など)Sに突き刺して、傾斜開口11を植物体Sの内部に挿入している。これによって、傾斜開口11から採汁部10内の流路10Aに流れ込んだ汁液が排汁部14を経由して、排汁部14に取り付けられた採取容器M内に溜められる。汁液の量が不足するときには、植物体に採汁部10を挿入したままで採汁部10の挿入角度を上下に変更すると、より多くの汁液を得ることができる。
【0019】
連続してサンプルを採取する場合は、洗浄孔から洗浄水等で簡単に洗浄できる。ただし、洗浄後は拭き取り乾燥の工程が必要となる。類似のサンプルを定量的な分析に用いる場合は、サンプル汁液による共洗い工程を行うことでより簡便に連続的な汁液採取が可能となり、洗浄水を用いるよりも測定誤差を低減できる。すなわち、前のサンプル採取後の採汁器に採取容器をセットせずに次のサンプルを得るための植物体に挿入して汁液を得るが、これはそのまま廃棄処分する工程を1〜2回行うことで、前回サンプルの汁液混入を防ぐことができる。仮に前回のサンプルが混入した場合は、類似のサンプルであるため、水の混入に比べて誤差を生じ難くなる。
【0020】
このように、本発明の実施形態に係る採汁器1は、採汁部10の先端部に設けた尖り先12を汁液採取対象物である植物体に挿入して、必要に応じて先端部の挿入角度を変えることで、採汁部10に取り込まれた汁液を流路10Aから排汁部14を介して、所定量採取容器M内に溜めることができる。また、使用後の洗浄も洗浄孔13から洗浄水などを入れることで容易に行うことができる。このため、搾汁器を用いること無く、簡易に一定量(1ml程度)の汁液を採取容器M内に採取することを連続的に行うことができる。
【0021】
一定量の汁液サンプルを得る場面は、例えば、果物やさとうきびなどの植物体の品質などを検査する場面で必要となる。果物の主要な評価指標である糖度(Brix)については、従来の微量採汁器で対応できるが、酸度の測定や、機能性成分などを測定するためのHPLC分析やミネラルの分析などにあたっては、汁液を一定程度の採取量(1ml程度)で採取容器(マイクロチューブ)に溜めることが必要になる。このような場面で、本発明の実施形態に係る採汁器1は有効であり、連続的に簡易且つ速やかに適量の汁液を採取容器に採取することが可能になる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1:採汁器,10:採汁部,10A:流路,
11:傾斜開口,12:尖り先,13:洗浄孔,14:排汁部,
15:取っ手部,
M:採取容器(マイクロチューブなど),S:植物体