(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような工程では、研削を実施しているときに該改質層からクラックが伸長し、ウェーハをチップに分離する隙間が形成されるが、該隙間は非常に狭い。そして、該隙間が形成された後も研削は継続されるため、研削の際に加わる力によって、形成された各チップが移動する。
【0006】
格子状のストリートに沿ってウェーハが分割されると、複数のチップが碁盤の目状に密に配列された状態となるので、研削によりチップが移動すると、チップの角部(コーナー)はその角部側に隣接する別のチップの角部に接触する。チップの角部は衝撃に弱いので、角部と角部とが接触して衝撃が加わると該チップに欠けやクラック等の損傷が生じ易くなる。損傷が生じたチップは不良となるため、角部同士の接触は特に問題である。
【0007】
ウェーハの表面には、研削が実施される前に該表面を保護する表面保護テープが貼着され、ウェーハ中に該隙間が形成された後も各チップは該表面保護テープに支持される。しかし、一般的に、表面保護テープは、研削による各チップの移動を完全に防止できる程に剛性が高くないため、表面保護テープはチップの角部同士の接触を防止できない。
【0008】
表面保護テープは、ウェーハの表面を保護し、該表面に形成されたデバイスに損傷を生じさせない目的のために使用されるものであり、該機能を発揮する程度の剛性を有していれば、それ以上の剛性は不要であった。そのため、表面保護テープを単にウェーハに貼着したのでは、チップの移動を十分に抑制できず、このような問題を生じてしまう。
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、チップの角部に受ける衝撃を抑制し、チップへの欠けやクラック等の損傷の発生を抑制してウェーハを分割できるウェーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、交差する複数のストリートで区画された各領域にそれぞれデバイスが形成された表面を有するウェーハの加工方法であって、ウェーハの該表面に高剛性基材を有する表面保護部材を貼着する表面保護部材貼着ステップと、該表面保護部材貼着ステップを実施した後、ウェーハに対して透過性を有する波長のレーザビームを該ストリートに沿ってウェーハ裏面側から照射してウェーハの内部に改質層を形成する改質層形成ステップと、該改質層形成ステップを実施した後、ウェーハを裏面側から研削して薄化する研削ステップと、を備え、該改質層形成ステップまたは研削ステップでは、該改質層から該ウェーハの表面に至るクラックを形成し、該研削ステップにおいては、該クラックを境界としてウェーハが分割されて個々のチップが形成され
、該複数のストリートは、第1の方向に連続して伸長する第1のストリートと、該第1の方向と交差する第2の方向に伸長する第2のストリートと、を含み、該改質層形成ステップで形成される該改質層は、該第1のストリートに沿った第1の改質層と、該第2のストリートに沿った第2の改質層と、を含み、該第1の改質層は、該第2のストリートを境に一方側の第1の部分と、他方側の第2の部分と、を有し、該改質層形成ステップでは、該第1のストリートにおいて該第1の改質層の該第1の部分と、該第1の改質層の該第2の部分と、は互いに該第2の方向にずれて形成されることを特徴とするウェーハの加工方法が提供される。
【0011】
なお、本発明の一態様において、
該高剛性基材は、硬質プレートであってもよい。また、本発明の一態様において、該第1の改質層の該第1の部分と、該第1の改質層の該第2の部分と、は、該第2の改質層と隣接しており、該改質層形成ステップでは、該第1の改質層の該第1の部分と、該第1の改質層の該第2の部分と、は、該第2の改質層から離間するように形成されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法によると、高剛性基材を有する表面保護部材がウェーハの表面に貼着される。該表面保護部材は、高剛性基材と、糊層と、により構成されている。すると、ウェーハが個々のチップに分割された後、該表面保護部材は高剛性基材により研削で生じる力に抗して各チップを支持するため、各チップの角部同士の接触が抑制される。その結果、チップへの欠けやクラック等の損傷の発生が抑制される。
【0013】
さらに、改質層形成ステップにおいて該改質層からウェーハ表面に至るクラックが形成される場合、高剛性基材を有する表面保護部材によりウェーハが支持されているとクラックが蛇行せずに境界となる該クラックが形成される。
【0014】
例えば、高剛性基材を使用しない柔らかいテープを表面保護部材に用いると、改質層形成ステップで改質層が形成される際に、レーザビームの照射により発生した衝撃や熱により該テープが動き、改質層が形成される前にクラックが発生してしまう。すると、形成されるクラックが蛇行してしまう。蛇行したクラックが形成され該クラックがチップ間の境界となると、研削ステップにおいて、チップに欠け等の損傷が発生する一因となる。
【0015】
高剛性基材を有する表面保護部材によりウェーハが支持されていると、ウェーハにレーザビームが照射されても該表面保護部材は動きにくく、クラックは改質層の形成より前に形成されないため、改質層によって蛇行しないように制御されてクラックが形成される。そのため、研削ステップにおいて各チップの角部同士の接触が抑制され、欠け等の損傷の発生が抑制される。
【0016】
したがって、本発明の一態様によりチップの角に受ける衝撃を抑制し、チップへの欠けやクラック等の損傷の発生を抑制してウェーハを分割できるウェーハの加工方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る実施形態について説明する。本実施形態に係る加工方法の被加工物であるウェーハについて説明する。
図1は、該ウェーハの一例を示す斜視図である。本実施形態に係る加工方法における被加工物であるウェーハ1は、例えば、シリコン、SiC(シリコンカーバイド)、若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる基板である。
【0019】
ウェーハ1の表面1aは格子状に配列されたストリート3で複数の領域に区画されている。ストリート3は、第1の方向1cに伸長する第1のストリート3aと、該第1の方向1cに交差する第2の方向1dに伸長するストリート3bと、を含む。そして、ストリート3により区画された各領域にはIC等のデバイス5が形成されている。ウェーハ1は、最終的にストリート3に沿って分割され、個々のチップが形成される。
【0020】
次に、本実施形態に係るウェーハ1の加工方法について説明する。該加工方法では、ウェーハ1の表面1aに高剛性基材を有する表面保護部材を貼着する表面保護部材貼着ステップを実施する。該表面保護部材貼着ステップの後には、ウェーハ1のストリート3に沿って分割の起点となる改質層を形成する改質層形成ステップを実施する。該改質層形成ステップを実施した後、ウェーハ1の裏面1bを研削してウェーハ1を個々のデバイスチップへと分割する研削ステップを実施する。
【0021】
なお、改質層形成ステップまたは研削ステップでは、該改質層からウェーハ1の表面1aにクラックを伸長させる。そして、該クラックがウェーハを厚さ方向に貫くに至るか、または、ウェーハ1の裏面1b側が研削されて該クラックが裏面側1bに露出すると、ウェーハ1が個々のデバイスチップに分割される。
【0022】
以下、本実施形態に係るウェーハの加工方法の各ステップについて詳細に説明する。
【0023】
図1(B)を用いて表面保護部材貼着ステップを説明する。表面保護部材貼着ステップでは、ウェーハ1の表面1aに表面保護部材7を貼着する。表面保護部材7は、本実施形態に係るウェーハの加工方法が実施されている間、各ステップや搬送等の際に加わる衝撃からウェーハ1の表面1a側を保護し、デバイス5に損傷が生じるのを防止する機能を有する。
【0024】
まず、表面保護部材貼着ステップに用いられるチャックテーブル2について説明する。チャックテーブル2は、凹部を有する枠体2aと、該枠体2aの該凹部を埋める多孔質部材でなる保持部4と、を有する。チャックテーブル2は、一端が吸引源6に接続された吸引路8を内部に有し、該吸引路8の他端が該保持部4に接続されている。該保持部4上に載せ置かれたウェーハ1に、該吸引源6により生じた負圧を保持部4内の孔を通して作用させることで、ウェーハ1はチャックテーブル2に吸引保持される。
【0025】
チャックテーブル2は、さらに保持部4よりも下方に加熱ユニット10を有する。該加熱ユニット10は、チャックテーブル2に吸引保持されたウェーハ1を加熱する機能を有する。該加熱ユニット10は、凹部を有する枠体10aを有する。該凹部には、発熱体(加熱手段)12と、該発熱体12上のプレート14と、該発熱体12下の断熱材16と、が配置されている。
【0026】
該発熱体12は、例えば、渦巻き状に巻かれた電熱線であり、該電熱線に流れる電流は該発熱体12が所定の温度となるようにコントローラ(不図示)により制御される。該発熱体12で発生した熱は、下部に設けられた断熱材16により下方への伝達が抑制される一方で、上部に設けられたプレート14により上方への伝達が促される。なお、プレート14には、例えば、熱伝導性の高いアルミニウムが用いられる。このような構造により、加熱ユニット10は、効率的にチャックテーブル2上のウェーハ1を加熱できる。
【0027】
表面保護部材貼着ステップでは、まず、チャックテーブル2の保持部4上に表面1aが上方に向けられた状態でウェーハ1が載置される。そして、該吸引源6を作動させて吸引路8及び保持部4の多孔質部材を通じてウェーハ1に負圧を作用し、ウェーハ1をチャックテーブル2に吸引保持させる。
【0028】
次に、加熱ユニット10の発熱体12に電流を流して発熱体12に発熱させる。チャックテーブル2に吸引保持されたウェーハ1に発熱体12が発した熱が伝わり、ウェーハ1が加熱される。ウェーハ1の温度が所定の温度となった状態で、ウェーハ1の表面1aに表面保護部材7を貼着する。本実施形態では、該貼着をより確実にするため、ウェーハ1の表面1aに貼着された表面保護部材7の上にローラー18を載せて、しわが生じないように該ローラー18で表面保護部材7を引っ張りながら貼着を行う。
【0029】
表面保護部材7は、可撓性を有するフィルム状の高剛性基材7aと、該高剛性基材7aの一方の面に形成された糊層(接着剤層)7bと、を有する。ここで、該高剛性基材7aとは、例えば、PO(ポリオレフィンよりも剛性の高い材料が用いられた基板である。高剛性基材7aを用いると、ウェーハ1やチップを強力に支持して、チップの移動を抑制し、損傷の発生を抑えることができる。高剛性基材7aには、例えば、PET(ポリエチレンテレフタラート)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等が用いられる。
【0030】
高剛性基材7aは、異なる材料でなる2以上の層が積層されて形成されてもよい。該高剛性基材7aは、さらに剛性の高いガラス等の材料を用いた硬質プレートでもよく、その場合、高剛性基材7aは可撓性を有さなくてもよい。該高剛性基材7aに硬質プレートを用いると、ウェーハ1やチップをより強力に支持できる。また、糊層(接着剤層)7bには、例えば、シリコーンゴム、アクリル系材料、エポキシ系材料等が用いられる。
【0031】
表面保護部材7は、該糊層がウェーハ1の表面1aに向けられて貼着される。該表面保護部材7は、加熱されたウェーハ1に貼着されると該ウェーハ1から熱が伝わり加熱される。表面保護部材7の該糊層7bは、温度の上昇とともに軟化するため、加熱されたウェーハ1に接触すると該糊層7bは軟化する。
【0032】
該糊層7bが軟化すると、ウェーハ1の表面1aに対する密着性が高まるため、ウェーハ1が個々のチップに分割された後も、個々のチップをより強力に保持するようになる。したがって、個々のチップに分割された後に研削による力が働いても、チップは移動しにくくなる。すると、チップの角部同士の接触の頻度も低減できるため、チップにクラックや欠け等の損傷が発生しにくくなる。
【0033】
なお、表面保護部材7は、該ウェーハ1から伝わる熱により加熱されなくてもよく、例えば、該ローラー18に発熱体を設け、該ローラー18から伝わる熱により加熱されてもよい。また、表面保護部材7はウェーハ1の表面1aに貼着された後にランプや温風により加熱されてもよい。温度は高いほど表面保護部材7の糊層7bは軟化しやすく、例えば、40℃以上、好ましくは50℃以上の温度に加熱する。
【0034】
ただし、表面保護部材の7の温度が高くなりすぎると、表面保護部材7が有する基材や糊層7bが溶融していまい、表面保護部材7はもはやその機能を発揮しなくなるため、加熱温度は高剛性基材7aや糊層7bが溶融する温度よりも低くなければならない。なお、基材や糊層が溶融する温度は、その材質により異なるが、例えば、基材にPET(ポリエチレンテレフタラート)を用いる場合は約90℃までは溶融しない。
【0035】
なお、表面保護部材貼着ステップでは、表面保護部材を加熱しなくてもよい。本実施形態に係るウェーハの加工方法においては、高剛性基材7aを有する表面保護部材により十分にチップを保持できる。
【0036】
次に、本実施形態に係る改質層形成ステップについて、
図2(A)を用いて説明する。改質層形成ステップは、表面保護部材貼着ステップが実施される前または後に実施される。特に、表面保護部材貼着ステップより後に実施されると、改質層形成ステップにおいてもウェーハ1の表面1aが保護されるため好ましい。
【0037】
改質層形成ステップでは、ウェーハ1の裏面1b側からレーザビームを照射し、ウェーハ1の内部の所定の深さに集光させて改質層9を形成する。改質層形成ステップで使用されるレーザ加工装置20は、ウェーハ1を吸引保持するチャックテーブル22と、レーザビームを発振する加工ヘッド24と、を備える。
【0038】
チャックテーブル22は、吸引源(不図示)と接続された吸引路(不図示)を内部に有し、該吸引路の他端がチャックテーブル22上の保持面22aに接続されている。該保持面22aは多孔質部材によって構成され、該保持面22a上に載せ置かれたウェーハ1に対して該吸引源により生じた負圧を保持部4内の孔を通して作用させることで、ウェーハ1はチャックテーブル22に吸引保持される。
【0039】
加工ヘッド24は、ウェーハに対して透過性を有するレーザビームを発振してウェーハ1の内部の所定の深さに集光する機能を有し、該所定の深さに改質層9を形成する。なお、該レーザビームには、例えば、Nd:YAGを媒体として発振されるレーザビームが用いられる。
【0040】
レーザ加工装置20はパルスモータ等を動力とする加工送り手段(加工送り機構、不図示)により、チャックテーブル22をレーザ加工装置20の加工送り方向(例えば、
図2(A)の矢印の方向)に移動できる。ウェーハ1の加工時等には、チャックテーブル22を加工送り方向に送ってウェーハ1を加工送りさせる。また、チャックテーブル22は保持面22aに略垂直な軸の周りに回転可能であり、チャックテーブル22の加工送りの方向を変化できる。
【0041】
さらに、レーザ加工装置20はパルスモータ等を動力とする割り出し送り手段(割り出し送り機構、不図示)により、チャックテーブル22をレーザ加工装置20の割り出し送り方向(不図示)に移動できる。
【0042】
改質層形成ステップでは、まず、ウェーハ1の表面1aを下側に向け、レーザ加工装置20のチャックテーブル22上にウェーハ1を載せ置く。そして、該チャックテーブル22から負圧を作用させて、ウェーハ1をチャックテーブル22上に吸引保持させる。ウェーハ1を吸引保持させた後、ストリート3に沿って改質層9を形成できるように、チャックテーブル22と加工ヘッド24との相対位置を調整する。
【0043】
次に、レーザ加工装置20の加工ヘッド24からウェーハ1の裏面1bにレーザビームを照射する。レーザビームをウェーハ1の所定の深さに集光させ、質層(分割の起点)9を形成する。ストリート3に沿って改質層9が形成されるように、レーザビームを照射させながらチャックテーブル22を移動させてウェーハ1を加工送りする。
【0044】
一つのストリート3に沿って改質層9が形成された後、ウェーハ1を割り出し送りして、隣接するストリート3に沿って次々と改質層(分割の起点)9を形成する。さらに、チャックテーブル22を回転させてウェーハ1を加工送りする方向を切り替え、その後、同様にレーザビームを照射することで、すべてのストリート3に沿って改質層9を形成する。
【0045】
なお、レーザビームの照射条件次第では、改質層9を形成した上、該改質層9からウェーハ1の表面1aに至るクラックを形成できる。このように、改質層形成ステップにてクラックを形成できると、チップ間の境界となるクラックを形成するためのステップを別途実施する必要がなく工程を簡略化できる。
【0046】
ここで、例えば、高剛性基材7aを使用しない柔らかいテープを表面保護部材7に用いると、改質層形成ステップで改質層9が形成される際に、レーザビームの照射により発生した衝撃や熱により該テープが動き、改質層9が形成される前にクラックが発生してしまう。すると、形成されるクラックが蛇行してしまう。蛇行したクラックが形成され該クラックがチップ間の境界となると、研削ステップにおいて、チップに欠け等の損傷が発生する一因となる。
【0047】
高剛性基材7aを有する表面保護部材7によりウェーハ1が支持されていると、ウェーハ1にレーザビームが照射されても該表面保護部材7は動きにくく、クラックは改質層9の形成より前に形成されないため、改質層9によって蛇行しないように制御されてクラックが形成される。そのため、後述の研削ステップにおいて各チップの角部同士の接触が抑制され、欠け等の損傷の発生が抑制される。
【0048】
次に、
図2(B)を用いて研削ステップについて説明する。該研削ステップは、改質層形成ステップの後に実施される。該研削ステップでは、ウェーハ1の裏面1b側が研削されウェーハ1が所定の厚さに薄化される。改質層形成ステップで分割時の境界となるクラックを形成していない場合は、該研削ステップにおいて該クラックを形成する。その場合、研削で生じる外力を該改質層9に作用させて該クラックを形成する。クラックが形成されたウェーハ1の裏面1bを研削すると、ウェーハ1を個々のチップに分割できる。
【0049】
図2(B)は、研削ステップを模式的に説明する部分断面図である。本ステップでは研削装置26が用いられる。研削装置26は、研削ホイール30に垂直な回転軸を構成するスピンドル28と、該スピンドル28の一端側に装着され下側に研削砥石32を備える円盤状の研削ホイール30と、を備える。該スピンドル28の他端側にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されており、該モータが該スピンドル28を回転させると、該スピンドル28に装着された研削ホイール30も回転する。
【0050】
また、研削装置26は、研削ホイール30と対面し被加工物を保持するチャックテーブル34を有する。チャックテーブル34上の保持面34aは、吸引源(不図示)に接続された多孔質部材で構成される。なお、チャックテーブル34は、保持面34aに略垂直な軸の周りに回転可能である。
【0051】
まず、ウェーハ1の表面1aを下側に向け、チャックテーブル34の保持面34a上にウェーハ1を載せ置く。そして、該多孔質部材を通して該吸引源による負圧を作用させて、ウェーハ1をチャックテーブル34上に吸引保持させる。さらに、研削装置26は、昇降機構(不図示)を有しており、研削ホイール30は該昇降機構により加工送り(下降)される。
【0052】
研削時には、チャックテーブル34を回転させるとともに、スピンドル28を回転させて研削ホイール30を回転させる。チャックテーブル34及び研削ホイール30が回転している状態で、研削ホイール30が加工送り(下降)されて、研削砥石32がウェーハ1の裏面1bに当たると、該裏面1bの研削が開始される。そして、ウェーハ1が所定の厚さとなるように研削ホイール30をさらに加工送りする。
【0053】
上述の改質層形成ステップにおいて、クラックを形成していない場合、または、該クラックの形成が不十分である場合、該研削ステップにて該クラックを形成する。すなわち、ウェーハ1の内部に該研削により生じた力を作用させ、改質層9からウェーハ1の厚さ方向にクラックを伸長させる。クラックが形成されたウェーハ1の裏面1bを研削すると、ストリート3に沿って隙間が形成されて、ウェーハ1が個々のチップに分割される。
【0054】
本実施形態に係る加工方法では、該研削ステップにおいてウェーハ1を薄化する際に、ウェーハ1が個々のデバイスチップに分割される。そのため、デバイスチップを分割するためだけに別のステップを実施する必要がなく、デバイスチップの作製工程が簡略化される。
【0055】
一方で、個々のチップが形成された後にも研削は続けられるので、個々のチップには、保持面34aに平行な面内の方向に力がかかる。しかし、本実施形態に係る加工方法においては、チップの表面側は高剛性基材7aを有する表面保護部材7に貼着されており、該高剛性基材7aが該力に抗して強力にチップを支持する。そのため、個々のチップは動き難く、各チップの角部同士の接触も抑制される。したがって、欠けや不要なクラック等の損傷の発生が抑制される。
【0056】
以上の各ステップにより、本実施形態に係る加工方法ではチップが形成される。
【0057】
次に、本実施形態に係る加工方法の作用効果を検証した試験について説明する。本試験では、異なる表面保護部材7をそれぞれ用いる複数の加工条件にてチップを作成し、チップに生じた損傷の数を各条件でカウントした。なお、各条件では、同じウェーハを用いて、同様のステップを実施した。本試験により、表面保護部材7と、損傷の数と、の関係に関する知見が得られた。
【0058】
該試験では、3枚の直径12インチのシリコンウェーハをサンプルとして使用し、それぞれ、該表面保護部材には、厚さ50μmの基材の上に、厚さ20μmの糊層が形成された以下に示す表面保護部材を使用した。
【0059】
すなわち、サンプルAでは、PETを用いた基材を有する表面保護部材を用いた。サンプルBでは、PTE材料とPO材料とを積層した基材を有する表面保護部材を用いた。サンプルCでは、ガラスを用いた硬質プレートを基材とする表面保護部材を用いた。サンプルDでは、PETよりも剛性の低いPOのみを用いた基材を有する表面保護部材を用いた。該試験では、各条件でそれぞれ異なる表面保護部材を用いて表面保護部材貼着ステップを実施した。
【0060】
次に、各サンプルに対して同様の改質層形成ステップを実施して、各サンプルにストリートに沿って分割の起点となる改質層を形成するとともに該改質層からウェーハの表面に至るクラックを形成した。次に、各サンプルに対して同様の研削ステップを実施して、各サンプルを裏面から研削して薄化して個々のチップに分割した。
【0061】
そして、研削ステップを実施した後、チップに生じたクラックやコーナー欠け等の損傷をカウントした。該カウントでは、倍率200倍の対物レンズを取り付けた赤外線カメラを用いてサンプルを観察し、5μm以上の大きさの損傷の数をカウントした。カウントされた損傷の数は、サンプルA(PET基材)では32個、サンプルB(PETとPOの積層基材)では53個、サンプルC(硬質プレート基材)では15個、サンプルD(PO基材)では118個であった。
【0062】
各サンプルの結果を比較すると、表面保護部材の基材の材質により発生する損傷の数に差があることが分かる。PET材料はPO材料よりも剛性が高く、サンプルA(PET基材)の結果と、サンプルD(PO基材)の結果と、を比較すると、基材の剛性が高いほど損傷の数が少ないことが分かる。
【0063】
また、サンプルB(PETとPOの積層基材)で観測された損傷の数は、サンプルA(PET基材)で観測された損傷の数と、サンプルD(PO基材)で観測された損傷の数と、の間の数となった。これは、PETとPOとを積層して形成した基材の剛性が、PET基材よりも低く、PO基材よりも高いためであると考えられる。すなわち、PO基材よりも高い剛性を有する基材を用いると、チップに生じる損傷を低減できることが示唆された。剛性の高い硬質プレートを用いたサンプルCでは、損傷をさらに低減できた。
【0064】
PET材料を用いた高剛性基材は研削により生じた力に抗してチップの移動を抑制でき、チップの角部同士の接触を抑制する。また、改質層形成ステップにおいて、ウェーハの分割時の境界となるクラックが改質層から蛇行せずに形成される。その結果、チップへの欠けや不要なクラックの発生が抑制される。以上の結果より、本実施形態に係る加工方法により、チップへの損傷の発生を抑制できることが確認された。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、一直線状に改質層9を各ストリート3に沿ってウェーハ1に形成するが、本発明はこれに限定されない。例えば、各ストリート3にデバイス5からの距離が異なる複数の改質層9を形成することもできる。
【0066】
そのような形態の改質層9について、
図3を用いて説明する。
図3に示す通り、ウェーハ1の複数のストリート3は、第1の方向1cに伸長する第1のストリート3aと、該第1の方向1cに交差する第2の方向1dに伸長する第2のストリート3bと、を含む。
【0067】
改質層形成ステップでは、例えば、該第1のストリート3aに沿った第1の改質層9aと、該第2のストリート3bに沿った第2の改質層9bと、が形成される。該第1の改質層9aは、任意の該第2のストリート3bを境に、一方側の第1の部分11aと、他方側の第2の部分11bと、を有する。該第1の改質層9aの第1の部分11aと、該第1の改質層9aの第2の部分11bと、は一直線状ではなく、互いに第2の方向1dにずれている。
【0068】
第1の改質層9aが一直線状に形成される場合、研削により形成されたチップが移動すると、チップの角部はその角部側に隣接するチップの角部と接触するようになる。チップの角部は衝撃に弱いので、角部と角部との接触により衝撃が加わると該チップに欠けや不要なクラック等の損傷が生じ易くなる。
【0069】
そこで、
図3に示す通り、該第1の改質層9aの第1の部分11aと、該第1の改質層9aの第2の部分11bと、を互いに第2の方向1dにずらして形成すると、ずらした距離の分だけ、チップの角部同士は離間される。そのため、表面保護部材に高剛性基材を用いた上で、改質層9をこのように形成すると、チップの角部はその角部側に隣接するチップの角部とは接触しにくくなり、さらにチップの角部の損傷の発生が抑制される。
【0070】
また、第1の改質層9aの第1の部分11aと、第2の部分11bと、は、隣接する第2の改質層9bから離間するように形成してもよい。すなわち、第1の改質層9aの第1の部分11aの端部または第2の部分11bの端部と、該端部に隣接する第2の改質層9bと、の間に所定の距離を設ける。
【0071】
第1の改質層9aを形成する際、加工送りの誤差等を生じると、第1の部分11aの端部や第2の部分11bの端部が、所定の位置で終端せずに所定の位置よりも第1の方向1cに進んだ位置で終端する場合がある。そのため、第1の改質層9aの第1の部分11aの端部または第2の部分11bの端部と、該端部に隣接する第2の改質層9bと、が離間していない場合、第1の改質層9aが第2の改質層9bを横切って形成される場合がある。
【0072】
第2の改質層9bを横切って形成された第1の改質層9aの第2の改質層9bからはみ出した部分は、形成されるチップに残り、欠けや不要なクラックを生じる起点になりかねない。そのため、加工送りの誤差等が生じても形成されるチップに該起点を残さないために、第1の改質層9aの第1の部分11aと、第2の部分11bと、は、隣接する第2の改質層9bから離間するように形成するとよい。
【0073】
図3に示すように該第1の改質層9aの第1の部分11aと、該第1の改質層9aの第2の部分11bと、を互いに第2の方向1dにずらして形成する方法について説明する。改質層形成ステップでは、まず、第1のストリート3aの全長において、該第1の改質層9aの第1の部分11aを形成する。
【0074】
すなわち、第1のストリート3aに沿ってウェーハ1をチップの一辺の長さの程度加工送りする毎にレーザの発振と停止を繰り返して、第1のストリート3aの全長に渡り第1の改質層9aの第1の部分11aを形成する。
【0075】
次に、ウェーハ1を第2の方向1dに第1のストリート3aの幅に収まる所定の距離で割り出し送りして、第1のストリート3aに沿って第1の改質層9aの第2の部分11bを形成する。
【0076】
すなわち、第1のストリート3aに沿ってウェーハ1をチップの一辺の長さの程度加工送りする毎に、レーザの発振と停止を繰り返して、2つの第1の部分11aの間に配設されるように第1の改質層9aの第2の部分11bを形成する。すると、第1の部分11aの端部と、該端部に隣接する第2の部分11bの端部と、は該所定の距離以上に離間する。
【0077】
一つの第1のストリート3aにおいて、第1の部分11aと、第2の部分11bと、を含む第1の改質層9aを形成した後は、チップの一辺の長さ程度の距離でウェーハ1を割り出し送りしていき、次々と改質層9を形成する。第1の方向1cに平行なストリート3に対して改質層9を形成した後は、第2の方向1dに加工送りできるようにウェーハ1を回転し、第2の方向1dに平行なストリート3に沿って次々と改質層9を形成する。以上により、
図3に示すような改質層9をウェーハ1の全面に渡り形成できる。
【0078】
なお、第1の改質層9aを第1の部分11aと、第2の部分11bと、に分けて形成する場合について説明したが、さらに第2のストリート3bに沿って形成する第2の改質層9bも同様に、第1の方向1cにずれた2つの部分に分けて形成してもよい。
【0079】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。