(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、MRI(Magnetic Resonanse Imaging:磁気共鳴画像)等の画像診断装置の進歩によって、圧迫性病変による脊髄や末梢神経の障害部位診断は容易に行えるようになった。しかし、画像上の明らかな圧迫にもかかわらず無症状の症例も数多く存在する等、画像による形態学的情報のみでは脊髄・末梢神経の機能障害部位を真に診断することは不可能であり、電気生理学的手法による神経機能診断法はいまだ不可欠な検査である。
【0003】
詳細な障害部位診断には神経誘発電位をインチング法で測定するのが最適であるが、体表から深い神経、ことに脊髄では電流が周囲組織の影響を強く受けるため、神経機能を体表から正確に評価することは困難である。このため、術中に脊髄近傍に電極を設置するか、術前に経皮的に硬膜外腔やくも膜下腔にカテーテル電極を挿入することにより、脊髄誘発電位が測定されている。カテーテル電極の挿入は侵襲的かつ熟練を要するため、診断のために気軽に行う検査とは言い難く、非侵襲的で簡便な電気生理学的手法が切望されている。
【0004】
一方、電流が流れるとその周囲に右ネジの法則に従って磁界が発生する。磁界は骨・軟部組織等の生体組織にはほとんど影響を受けない性質があり、生体磁界計測は電位計測に比べ理論的に高い空間精度を持つことが知られている。生体磁界計測とは、生体の神経や筋肉の活動に伴って発生する微小な磁界を生体の外で計測し、その活動源のふるまいを解析する手法である。超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting quantum interference device)を利用した多チャンネルの磁気計測装置を用いた生体磁界計測システムがこれまでに開発され、医療現場への導入が進んでいる。
【0005】
現在、生体磁界計測は特に脳研究の分野で応用され、脳の活動が高い空間精度で同定されている。又、脊髄や末梢神経等、脳以外の神経系の活動に伴う磁界の計測をすることにより、それらの神経系に障害が生じた場合の神経信号伝播障害を診断するための有効な手法として、生体磁界計測システムは、主として脊椎・脊髄外科、末梢神経外科の医療現場において注目されている。なお、脊髄誘発磁界を測定した実験例を記載した論文がいくつか知られている。
【0006】
生体の神経磁界を計測するためには、磁気計測装置と同時に、神経刺激装置が必要である。神経刺激装置による刺激電流が末梢神経を刺激し、その刺激による神経活動が発生する磁界が磁気計測装置で計測される。電流刺激と計測磁界との同期をとることによって、測定された磁界が末梢神経及び脊髄を流れる電流由来のものであることが分かる。しかし、末梢神経に安定して刺激電流を印加することは難しく、例えば神経と刺激電極の位置関係が微妙に動くことによって、適切な末梢神経刺激ができなくなり、最適な末梢神経刺激が困難になるという問題がある。
【0007】
そこで、複数の刺激陰極と、それらのうちの至適な電極を選択する回路を用いることで、神経を適切に刺激する電極を選択し、高効率に、神経を刺激する技術が検討されている(例えば、特許文献1参照)。この技術を用いて、経皮的に最適な刺激神経を検出する神経刺激装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0014】
(脊髄誘発磁界計測システム)
本実施の形態では、神経刺激装置を、生体磁界計測システムの1つである脊髄誘発磁界計測システムに用いる例を示す。
図1は、脊髄誘発磁界計測システムについて説明する図である。
【0015】
図1を参照するに、脊髄誘発磁界計測システム1は、主要な構成要素として、磁気計測装置10と、低温容器20と、神経刺激装置30とを有している。神経刺激装置30は、体表から神経を電気刺激する装置である。磁気計測装置10は、SQUIDセンサアレイ11と、信号処理部12とを備えており、神経刺激装置30の電気刺激により生体に誘発された磁界を計測する装置である。
【0016】
脊髄誘発磁界計測システム1の一部は磁気シールドルーム100内に配置されている。磁気シールドルーム100を利用するのは、生体から発生する微弱な磁界である脊髄誘発磁界を測定するためである。磁気シールドルーム100は、例えば、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅やアルミニウム等の導電体からなる板材の積層により構成することができる。
【0017】
磁気シールドルーム100は、例えば、2.5m×3.0m×2.5m程度の大きさの内部空間を有し、装置器具の搬送や、人の出入りを可能とする扉110を備えている。扉110は、磁気シールドルーム100の他の部分と同様に、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅やアルミニウム等の導電体からなる板材の積層により構成することができる。
【0018】
なお、本明細書において、高透磁率材料とは、比透磁率が1000より大きい材料を指す。高透磁率材料としては、パーマロイ以外に鉄、ニッケル、コバルトの単体や、その合金(アモルファス合金や紛体、ナノ粒子を含む)、フェライト等を挙げることができる。
【0019】
以下、脊髄誘発磁界計測システム1及びその周辺部について、より詳しく説明する。磁気シールドルーム100内には、テーブル150が設置されている。又、磁気シールドルーム100内には、低温容器20が設置されており、測定や制御等に用いる信号線61が、低温容器20内のSQUIDセンサアレイ11に接続されている。信号線61は、磁界ノイズを低減するためにツイストケーブル等により構成され、磁気シールドルーム100に開けられた孔1001を通して、磁気シールドルーム100の外へ引き出され、磁気計測装置10を構成する信号処理部12と接続されている。
【0020】
脊髄誘発磁界計測システム1を用いた測定では、磁気シールドルーム100内に置かれたテーブル150に、被験者500が仰臥位で横たわり、安静な状態で脊髄誘発磁界の測定が行われる。安静な状態で測定が行われることで、被験者500への負担が少ないのみでなく、被験者500の不必要な動きによる測定装置との位置ずれや、筋肉の緊張により生じる筋肉からの磁界ノイズ等を低減することができる。
【0021】
低温容器20はデュワーとも称され、生体から発生する磁界を検出するSQUIDセンサアレイ11の極低温動作に必要な液体ヘリウムを保持している。低温容器20は、例えば、脊髄誘発磁界の測定に適する突起部201を備えており、突起部201の内部にSQUIDセンサアレイ11が設置されている。
【0022】
仰臥位となった被験者500の頚椎、或いは腰椎を、内部にSQUIDセンサアレイ11が設置された突起部201と接触させた状態で脊髄誘発磁界の測定を行うことができる。
【0023】
脊髄誘発磁界を測定する際には、電気刺激により意図的に神経活動を誘発する必要がある。そこで、神経刺激装置30を用いて電気刺激が印加される。具体的には、神経刺激装置30は、電極310を備えており、被験者500の体の一部分に電極310を取り付け、電気刺激が印加される。電極310は、刺激陽極と刺激陰極を少なくとも備え、被験者500の肘関節部の正中神経や膝関節部の腓骨神経等に効率的に電気刺激を印加できる箇所の皮膚上に取り付けられる。
【0024】
電極310には、刺激を送るために信号線62が取り付けられている。信号線62は、磁界ノイズを低減するためにツイストケーブル等により構成されている。信号線62は、磁気シールドルーム100に開けられた孔1002を通して、磁気シールドルーム100の外へ引き出され、磁気シールドルーム100の外に設置された神経刺激装置30の本体(電極310以外の部分)に接続されている。電極310の詳細については、後述する。
【0025】
被験者500の神経活動を誘発するために、神経刺激装置30は、パルス状の電流を電極310の刺激陽極−刺激陰極間に流すことができる。脊髄誘発磁界計測時の電気刺激は、例えば、数mA程度の大きさのパルス電流を数Hzで印加する。この電気刺激で誘発された神経活動を起因とした脊髄からの誘発磁界がSQUIDセンサアレイ11で検出される。
【0026】
脊髄誘発磁界計測システム1では、電気刺激印加時に電気刺激に用いる電流そのものが磁界ノイズとなる。具体的には、神経刺激装置30から電極310までの信号線62、及び電極310の刺激陽極−刺激陰極間に流れるパルス電流が作る磁界が、SQUIDセンサアレイ11に入り、磁界ノイズとなる。
【0027】
信号線62の作る磁界ノイズは、ツイストケーブル化や光による伝送等により低減が行われているが、電極310の刺激陽極−刺激陰極間に流れるパルス電流が作る磁界ノイズに対しては、これらの構造では解決を図ることができない。そこで、電気刺激に用いるパルス電流が作る磁界ノイズを低減し、脊髄誘発磁界をより正確に計測するために、被験者500の体の一部分に取り付けられた電極310の近傍を、パーマロイ等の高透磁率材料により構成された磁気遮蔽カバーで覆う等を実施してもよい。
【0028】
(神経刺激装置)
[神経刺激装置の概要と動作]
次に、神経刺激装置30について、詳しく説明する。
図2は、神経刺激装置を例示する図(ブロック図)である。
図2に示すように、神経刺激装置30は、電極310と、電流供給部320と、選択回路330と、筋電計340と、PC(Personal Computer)350とを有している。
【0029】
電極310は、皮膚上に配列される電極であって、刺激陰極311と、刺激陽極312と、検出陰極313と、検出陽極314とを有している。刺激陰極311は、電気刺激により神経活動を誘発するための刺激電極のうち陰極側であり、複数個設けられている。刺激陽極312は、電気刺激により神経活動を誘発するための刺激電極のうち陽極側である。検出陰極313は、筋電計340により筋肉の活動電位(筋電図)を測定するための検出電極のうち陰極側である。検出陽極314は、筋電計340により筋肉の活動電位を測定するための検出電極のうち陽極側である。
【0030】
電流供給部320は、選択回路330が選択した刺激陰極311の1つに対して刺激電流の供給等を行う回路である。選択回路330は、複数の刺激陰極311から1つの刺激陰極311を選択する回路である。但し、必要に応じて、選択回路330は複数の刺激陰極311を選択し、電流供給部320は選択回路330が選択した複数の刺激陰極311に対して同時に刺激電流の供給を行ってもよい。
【0031】
このように、電流供給部320、選択回路330、刺激陰極311、及び刺激陽極312により、生体に対して経皮的に神経を電気刺激する刺激装置を実現することができる。
【0032】
筋電計340は、検出陰極313と検出陽極314との間の活動電位を測定する装置である。但し、上記の刺激装置からの刺激により刺激される神経が支配する筋肉の動作を計測する計測装置であれば、筋電計以外の装置を用いてもよい。例えば、加速度センサやモーションセンサ等がある。又、神経が支配する筋肉の筋活動でなくても、刺激している神経自体の活動電位(神経誘発電位)を体表面から検出電極で計測してもよい。
【0033】
PC350は、筋電計340等の計測装置から、筋肉の動作の計測結果を受け、筋肉の動きが最も大きくなる刺激電極を判断する情報処理装置である。PC350は、電流供給部320、選択回路330、筋電計340との間で命令やデータを送受信することができる。PC350は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、メインメモリ等を含む構成とすることができる。
【0034】
この場合、PC350の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。PC350のCPUは、必要に応じてRAMからデータを読み出したり、格納したりできる。但し、PC350の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。又、PC350は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。又、PC350は、ハードディスク装置や光ディスク装置等を備えてもよい。
【0035】
図3は、被験者の体の一部分に神経刺激装置の電極を装着した様子を例示する模式図である。
図4は、
図3の状態における神経刺激装置の動作を説明するフローチャートである。
【0036】
図3では、装着部40(詳細は
図5及び
図6を参照して後述)に搭載された複数の刺激陰極311が被験者500の皮膚と接して配置され、選択回路330と接続されている。又、装着部40に搭載された刺激陽極312が被験者500の皮膚と接して配置され、電流供給部320と接続されている。又、検出陰極313及び検出陽極314が被験者500の皮膚と接して配置され、筋電計340と接続されている。
【0037】
図3の状態にした後、
図4に示すように、まず、ステップS101では、PC350は、選択回路330に命令を送り、複数の刺激陰極311のうちの1つの刺激陰極を最初の刺激陰極として選択する。次に、ステップS102では、PC350は、電流供給部320に命令を送り、選択した刺激陰極311の1つと刺激陽極312との間に刺激電流を流すことで、神経を電気刺激する。
【0038】
次に、ステップS103では、筋電計340は、検出陰極313と検出陽極314との間に発生する筋肉の活動電位を測定する。筋電計340が測定した筋肉の活動電位は、PC350に送られる。次に、ステップS104では、PC350は、選択した刺激陰極の番号と、そのときの測定結果(測定された筋肉の活動電位)とを関連付けてRAM等に記憶する。次に、ステップS105では、PC350は、選択回路330に命令を送り、複数の刺激陰極311のうち、次の刺激陰極を選択する。
【0039】
次に、ステップS106では、PC350は、複数の刺激陰極311のうち、最後に選択した刺激陰極を用いた最後の測定が終了したか否かを判定する。ステップS106でPC350が最後の測定が終了していないと判定した場合(Noの場合)には、ステップS102に戻り上記と同様の処理を繰り返す。一方、ステップS106でPC350が最後の測定が終了したと判定した場合(Yesの場合)には、ステップS107に移行する。
【0040】
次に、ステップS107では、PC350は、RAM等に記憶した、選択した刺激陰極と、そのときに測定された筋肉の活動電位とのデータに基づいて、基準値に達した活動電位を示した刺激陰極を判断する。以降、脊髄誘発磁界を計測する際には、判断された刺激陰極が選択される。但し、必要な場合には、再度
図4の処理を行い、刺激陰極を選択し直してもよい。必要な場合の例としては、装着部40の位置がずれた場合等が挙げられる。
【0041】
[装着部の構造例]
図5は、被験者に取り付ける装着部の構造を例示する図であり、
図5(a)は平面図、
図5(b)は底面図、
図5(c)は
図5(a)のA−A線に沿う断面図である。
図6は、被験者に装着部を装着した状態を例示する断面図である。なお、断面図以外において、導電性材料390の図示は省略されている(以降の図についても同様)。
【0042】
図5及び
図6を参照するに、装着部40には、神経刺激装置30を構成する電極310の一部が配置されている。
図5の例では、7個の刺激陰極311(311A〜311G)及び刺激陽極312が配置されているが、刺激陰極311の個数はこれに限定されることはなく、適宜必要な個数を配置することができる。
【0043】
装着部40は、バンド41と、バンド41の表面側に設けられた可動部42と、可動部42上に設けられた立体構造体43とを備えている。なお、表面側とは、生体(被験者の腕等)と接触する側である。
【0044】
バンド41は、刺激陰極311及び刺激陽極312を被験者の腕等に装着及び固定するための部材であり、可撓性を有している。可動部42は、神経の位置に応じて刺激陰極311の位置を変えられるように、立体構造体43上に配置された刺激陰極311を、立体構造体43と共にバンド41上の長手方向にスライドさせるユニットである。すなわち、可動部42は、刺激陰極311をバンド41上でスライドさせ、刺激陰極311と刺激陽極312との位置関係を可変することができる。但し、可動部42は、必要に応じて設ければよい。
【0045】
立体構造体43は、刺激陰極311の底部に設置された被験者の皮膚側に凸である部材であり、装着部40が被験者の腕等に装着された際に、刺激陰極311を皮膚に押し付ける形態となることによって、神経と刺激陰極311とを近づける機能を有している。
【0046】
入力陰極44は、バンド41の裏面側に突出している。選択回路330は、例えば、バンド41の表面側に搭載することができる。選択回路330の入力は入力陰極44と接続され、選択回路330の出力は各刺激陰極311(311A〜311G)と接続される。選択回路330は、例えば、リレーや半導体スイッチ等により構成できる。
【0047】
入力陰極44は、電流供給部320から刺激電流を供給する際、及びPC350が選択回路330にどの刺激陰極311を選択するかを命令する際、外部ケーブルと接続するためのつまみである。つまり、入力陰極44は、PC350からの命令に基づいて選択回路330が選択した刺激陰極311と接続される。又、電流供給部320からの刺激電流が流れる経路の一部となる。
【0048】
刺激陽極312は、バンド41の表面側に設けられている。入力陽極45は、バンド41の裏面側に突出している。入力陽極45は、電流供給部320から刺激電流を供給する際、ケーブルと接続するためのつまみであり、刺激陽極312と電気的に接続されている。複数の刺激陰極311(311A〜311G)のうち、刺激陽極312に一番近い刺激陰極311と刺激陽極312との間隔は、2cm以上離れていることが好ましい。
【0049】
なお、刺激陰極311及び刺激陽極312の被験者の腕等と接する部分に、導電性材料390を設けることが好ましい。これにより、刺激陰極311及び刺激陽極312と生体表面(被験者の腕等の表面)との接触抵抗を下げ、刺激電流を神経に注入しやすくすることができる。導電性材料390としては、例えば、導電性ゲルや塩化銀等を用いることができる。
【0050】
バンド固定テープ46及び47は、夫々バンド41の表面及び裏面に設けられている。バンド固定テープ46及び47は、バンド41を被験者の腕等に巻いて、バンド41の両端をつなぎ合わせるためのテープである。
【0051】
なお、立体構造体43は、
図7(a)に示すように、断面形状が半円柱型(かまぼこ型)の凸部を有する構造であってもよいし、
図7(b)に示すように、円錐台型の凸部を有する構造であってもよいし、その他の形状の凸部を有する構造であってもよい。要は、刺激陰極311を皮膚に押し付けることによって、神経と刺激陰極311とを近づける機能を発揮できれば、如何なる構造であってもよい。
【0052】
又、
図8に示すように、各刺激陰極311(311A〜311G)の平面形状は、例えば、円形とすることができる。この場合、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sは、3mm未満とすることが好ましい。隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm以上であると、神経選択性が悪化する。
【0053】
又、各刺激陰極311(311A〜311G)の面積は12mm
2以上とすることが好ましい。各刺激陰極311の平面形状が円形である場合には、各刺激陰極311の直径φは4mm以上とすることが好ましい。各刺激陰極311(311A〜311G)の面積が12mm
2未満(各刺激陰極311の平面形状が円形である場合には、各刺激陰極311の直径φが4mm未満)であると、疼痛が激しくなり、脊髄誘発磁界の計測が困難になるためである。
【0054】
但し、各刺激陰極311(311A〜311G)の平面形状は円形以外としても構わない。各刺激陰極311(311A〜311G)の平面形状は、例えば、楕円形や多角形(六角形等)とすることができる。又、各刺激陰極311(311A〜311G)の配置は、
図8の例に限定されることなく、適宜決定することができる。
【0055】
図9は、可動部の具体的な構造を例示する断面図である。
図9に示す可動部42は、土台421と、ベルト422と、ギヤ423とを備えている。土台421は、バンド41に可動部を固定するための板状の部材である。ベルト422は、上面に刺激陰極311が固定されており、ギヤ423の回転に応じてスライドする柔軟性のあるフィルム状の部材である。
【0056】
例えば、ギヤ423を回転させる小型のモータを設け、電流供給部320からモータに駆動信号を供給してギヤ423を回転させ、可動部42のベルト422をスライドさせることができる。これにより、ベルト422上の複数の刺激陰極311をバンド41の長手方向にスライドさせることができる。
【0057】
可動部42を設けることにより、被験者の腕等の太さの違いに応じて、刺激陰極311と刺激陽極312との位置関係を任意に変えることができる。その結果、神経の選択精度を高めることが可能となり、的確に神経を刺激することができる。
【0058】
[測定例]
7個の刺激陰極311(311A〜311G)を
図8に示すように配置した。そして、各刺激陰極311の直径φを4mm以上とし、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm以上の場合、3mm未満の場合の夫々で、約10msに現れる信号が最大値を示す刺激陰極311における筋電信号(以降、最大筋電信号とする)を取得した。刺激電流は、電流値7mA、周波数5Hzとした。
【0059】
又、装着部40の付け外しを1回の測定毎に行い、各計100回のデータを取得した。100回のデータの平均値によると、各刺激陰極311の直径φが4mm以上、かつ、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm以上の場合には、
図10(a)に示すように、約10msに現れる最大筋電信号の大きさは約0.25mVであった。
【0060】
これに対して、各刺激陰極311の直径φが4mm以上、かつ、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm未満の場合には、
図10(b)に示すように、約10msに現れる最大筋電信号の大きさは約1.0mVであった。
【0061】
すなわち、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm以上の場合と、3mm未満の場合の夫々の最大筋電信号(約10ms時)を比較すると、3mm未満の場合の方が、3mm以上の場合よりも約4倍大きな筋電信号が得られた。
【0062】
なお、
図10(b)の筋電図を取得した時には、7個の刺激陰極311(311A〜311G)を
図8に示すように配置し、各刺激陰極311(311A〜311G)の直径φを4mm、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sを2mmとした。
【0063】
なお、
図8の配置において、各刺激陰極311の直径φを4mm未満とした場合にも筋電信号の測定を試みたが、各刺激陰極311の直径φを4mm未満とした場合、被験者への疼痛が強すぎるために神経刺激ができず、測定不可であった。
【0064】
図11は、被験者の腕に電気刺激を加えた際の筋電測定と刺激陰極との関係を例示する図である。上記の測定結果より、刺激陰極311の直径φは、疼痛の度合いを決めるといえる。又、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sは、神経選択性の良し悪しを決めるといえる。
【0065】
そして、
図11の左上側に示すように、刺激陰極311の直径φが4mm以上、かつ、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm未満の場合、疼痛がなく、神経選択性が良好(つまり、刺激陰極311の空間分解能が適切)であった。そのため、
図10(b)に示す良好な筋電波形を取得できた。
【0066】
又、
図11の右上側に示すように、刺激陰極311の直径φが4mm以上、かつ、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm以上の場合、神経選択性が悪かった。そのため、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sが3mm未満の時よりも筋電信号が弱く、
図10(a)に示す筋電波形となった。
【0067】
又、
図11の左下側及び右下側に示すように、各刺激陰極311の直径φを4mm未満とした場合、隣接する刺激陰極311の中心間距離Sの大小に関係なく、被験者への疼痛が激しいため、神経刺激ができず、測定不可であった。
【0068】
このように、本実施の形態に係る神経刺激装置30では、刺激部(刺激陰極及び刺激陽極)と検知部とを分離構成し、検知部に筋電計を用いている。そして、皮膚上に配列される複数の電極に対して電流を供給し、生体に対して神経を電気刺激する。そして、刺激される神経が支配する筋肉の動作を計測する筋電計から筋肉の動作の計測結果を受け、筋肉の動きが充分に大きくなる電極を判断する。その結果、神経の選択精度を高めることが可能となり、的確に目的とする神経を刺激することができる。すなわち、神経刺激電極検出の正確性を向上した神経刺激装置を実現することができる。
【0069】
又、刺激部と検知部を分離構成することで、抵抗の低い神経を流れる電流を高純度に検知できる。又、運動神経を流れる電流による筋肉の動きを敏感に検出できる筋電計を用いて的確に神経が刺激されていることを確認することができる。すなわち、的確に神経を刺激するために、高確度に神経を検知することができる。又、被験者への疼痛が強すぎることなく、不快でない測定環境を実現することができる。
【0070】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0071】
例えば、上記の実施の形態では、本発明に係る神経刺激装置と、磁気計測装置とを備え、脊髄を走行する電流を磁界として検出する脊髄誘発磁界計測システム(脊髄計)を例示したが、これには限定されない。例えば、本発明に係る神経刺激装置と、磁気計測装置とを備えた脳磁計等の生体磁界計測システムを実現することができる。
【0072】
又、上記の実施の形態では、磁気計測装置において、センサアレイを構成するセンサとしてSQUIDセンサを用いる例を示したが、これには限定されない。磁気計測装置において、センサアレイを構成するセンサとしては、例えば、原子磁気センサ(AMM素子)、磁気抵抗素子(MR素子)、磁気インピーダンス素子(MIセンサ)等を用いることができる。
【0073】
又、本発明に係る神経刺激装置は脊髄誘発磁界計測システムに限定されず、一般的な神経機能検査、例えば、体性感覚誘発電位検査(SEP)や、神経伝導検査(MCV)への適用も可能である。