(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記矯正具は、3.0〜10.0質量%のAl、及び5.0〜20.0質量%のMnを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有し、かつ任意の副添加元素として、Ni、Co、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタル(Pr、Ndなど)からなる群より選ばれた1種または2種以上を含有することができ、これらの任意の副添加元素の含有量は合計で0.000〜10.000質量%で形成されたCu−Al−Mn系超弾性合金からなることからなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の外反母趾矯正装具。
【背景技術】
【0002】
外反母趾とは、解剖学的因子(母趾中足骨の内反、扁平足など)、および外的因子(靴、生活スタイルなど)により引き起される疾患である。
図4(A)と4(B)に示した外反母趾角(R)が、9〜15°未満で正常、15°以上〜20°未満で軽症、20°以上〜40°未満で中等症、40°以上で重症といわれる。軽症であっても強い痛みを訴える人がいる。中等症、重度で痛みが保存的にコントロール出来ない場合は、手術を要する場合が多い。現状では、外反母趾に対して種々の装具が開発、市販されているが、多くは保存用装具、すなわち症状の悪化を防止するものであり、治療効果の有る矯正具は存在しない。
外反母趾は、女性に多く、患者の男女比率は男1:女10と言われている。また、一旦回復しても元の生活習慣に戻れば再発する。
【0003】
現状の外反母趾を矯正する装具としては、昼間歩行時に靴底に入れる足底挿板(インソール)や就寝時に着用しながら矯正する夜間装具がある。夜間装具としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1に記載の夜間装具の使用状態の概略斜視図を
図6に示す。
図6は、従来例の外反母趾矯正用夜間装具の使用状態を説明する斜視図である。
この夜間装具は、足親指から中足の内側にかけてのバネ性副子(31)の足親指付け根にヒンジ(32)が設けられている。また、バネ性副子は足親指を伸び難い可撓性で柔軟な材料、例えば布テープ又は非延伸性の粘着テープからなる第1の環状締付け具(34)で縛り、かつ、バネ性副子は足親指と中足の周囲方向に伸び難い可撓性で柔軟な材料、例えば布テープ又は非延伸性の粘着テープからなる第2の環状締付け具(33)で縛ることによって、歩行を可能にした装具である。
前記バネ性副子(31)の形状は足の形状に沿う3次元形状である。また、前記バネ性副子(31)の材質は金属又はプラスチックであり、好適には薄い炭素繊維強化板を用いるとされている。代表的には、プラスチック製である。
【0005】
特許文献2に記載の夜間装具の使用状態の概略斜視図を
図5に示す。
図5は、従来例の別の外反母趾矯正用夜間装具の使用状態を説明する斜視図である。
この夜間装具は、副子(矯正板21)に形状記憶合金を用いた装具である。超弾性のしなやかさを用いることによって、もし長時間装着することができれば、矯正効果は期待できる。図中、22は矯正板(21)に設けた空間部であり、23は中足骨用環状締付け具、24は母指用環状締付け具、25、25は面ファスナーである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の外反母趾矯正装具を、図面を用いて説明する。
図1に示すように、本発明に係る一実施態様の外反母趾矯正装具(1)は、超弾性合金からなる矯正具(10)と、矯正具を中足に締結する取付具(3)と矯正具を母指に締結する取付具(4)を備えている。また、本発明に係る一実施態様の外反母趾矯正装具は、取付具(3)の外側に取付具(3)と矯正具(10)を足に固定する締結帯(2)を備えている。また、本発明に係る一実施態様の外反母趾矯正装具は、母指付根(関節)に当接する部分に母指付根内側突出部緩衝パッド(緩衝部材)(5)を備えている。
矯正具(10)は、矯正具収納袋(6)に収容されている。また、矯正具(10)は、矯正を要する足指(すなわち母指)の曲がり方向及び伸び方向に回動できるヒンジ部(11)を有している。ヒンジ部(11)は少なくとも母指付根部分に設けられていれば良く、母指の他の関節部分に更に設けられていても良い。
このような構成とすることで、本発明に係る一実施態様の外反母趾矯正装具は、母指関節を支点として、矯正具の全体(母趾から中足)に亘って力(P)を作用させることができる。これにより、母指に対して部分的に力を作用させることがないため、違和感(不快感)を与えることなく、長時間・長期間装着することができ、外反母趾を効果的に矯正することができる。
【0016】
ヒンジを有さない超弾性合金の一体物(例えば、一枚の板)では、超弾性による足内側全体に一定の力を付与し痛みを伴わずに矯正できる。しかし、足の指を曲げられないために歩行出来ないだけでなく、就寝時に指を無意識に動かしてしまうことでも装具がずれることでの不快感は想像以上である。
これに対して、本発明に従って、超弾性合金板(矯正具10)とヒンジ(11)を組合わせ、ヒンジ(11)を可動式、回動式とすることによって、足指の折れ曲がり角度に対して2つの超弾性合金板(10、10)がヒンジ(11)を介して追随することができる。これによって、患者の負担を低減させることで、長時間・長期間装着可能になり超弾性の矯正効果を高度に発揮できる。
本発明の外反母趾矯正装具において、ヒンジ(11)は、図示は省略するが、2つの超弾性合金板(10、10)を、上下左右には動かないが、それぞれ自由に回動可能な状態で接合していればよい。なお、2つの超弾性合金板(10、10)の内の一方は母趾と略同等の長さであり、他方は長尺骨と略同等の長さである。
これを換言すると、本発明では、超弾性合金製の矯正具(10)は、ヒンジ(11)を有していてもその全体が所定の弾性力を持つことで母指に対する矯正力(P)を作用させることができ、これは、ヒンジ部が曲がっていても同様である。母指から中足にかけて一定の矯正力(P)を、(歩行時や夜間であっても)違和感(不快感)を与えることなく作用させることができることが技術的意義である。
ここで、「超弾性合金製の板」でないとならないのは、弾性力の発揮(下記段落[0017]の力P)と変形防止のためである。
図7に示すように、通常金属の場合、弾性変形領域であれば、形状は復元する。しかし、塑性変形領域まで達する荷重が加わると、変形したまま元の形状に戻らない。歩行等で不意に矯正具に力がかかって変形してしまうと、矯正力が失われ、最悪の場合はけがをすることもある。
【0017】
外反母趾矯正装具において既存製品の不都合な点を挙げると、大きく二つに分けられる(なお、母趾の痛みも違和感ではあるが、あえて二つに分けている。)。
・痛み:外反母趾そのものが痛い。
・違和感:装具の構造・構成から来る不快感。
超弾性合金は、一定の変形量を超えると荷重が一定になることと、鉄に比べてヤング率が1/3と剛性が低いことから、母趾を強引に曲げるのではなく、超弾性板(矯正具10)が母趾全体に吸い付くようにフィットし、母趾全体に一定の緩やかな力(P)が掛かるので、痛みを感じさせにくくしている(
図1と
図2参照)。
一方、就寝時には、足の指を無意識に曲げることやトイレに行くために歩くとき指を曲げる。しかし、指が曲げられないとうのは想像以上に違和感(不快感)を与える。
本発明の外反母趾矯正装具は、装着していることを忘れさせるような感覚で、MTP関節(
図4(A)と4(B)参照)が軟らかくなり、外反母趾角度(R)も改善出来て、足のアーチ(足のアーチとは足の横断面の形状であり、母趾(親指)と小趾(小指)の両端がしっかり地面を捉え、足の横断面がアーチを形成した状態が理想的と言われている。)を形成させることで、歩行が楽になることである。
【0018】
本発明の外反母趾矯正装具は、
図1、
図2及び
図3に示したヒンジ部(11)を有する超弾性合金製の矯正具(10)を用いたことによって、モニターから以下のような声があった。
(1)矯正力が有りながら装着感が自然。
(2)足の甲のバンドは収まり感が良い。
(3)超弾性合金製矯正具が可動式なので、装着したまま歩行が容易である。
(4)従来の装具に比して、装着時に違和感が無い。
また、整形外科医からは以下のような声(意見)があった。
(5)安眠できるので夜間も装着出来る、今までなかった本当の夜間装具である。
(6)歩行可能なので、昼間も装着出来る。
(7)夜間と昼間に装着可能で、長時間の装着が可能であり、治療効果に期待できる。
なお、ヒンジ(11)は一方の矯正具(10)が他方の矯正具(10)に対して360°回動(つまり回転)できるように設けることができる。装着時には、実際は約90°まで、つまり足の指の曲がる角度まで、回動すればよい。
ここで、ヒンジ(11)とは、2つの超弾性合金板(10、10)を図示したように回動中心でリベット止めしたものをいう。
【0019】
本発明の外反母趾矯正装具によれば、前記治療効果に関して、以下のとおり期待できる。すなわち、MTP関節(
図4(A)と4(B)参照)の拘縮をとることで痛みを低減させることができる。これは、矯正効果が得られることで母趾と基節骨のアラインメントが正常化し、結果として足への荷重バランスの正常化が得られるためと推定される。
【0020】
更に、本発明の外反母趾矯正装具は、
図1、
図2及び
図3に示した極細樹脂繊維、例えば、極細ポリエステルファイバー(帝人製、商品名:ナノフロント)の生地を肌に直接触れる部分に用いたことによって、以下のような利点があった。
(1)水分蒸発量が少なく角質を傷めないために、肌触りが良く、違和感(不快感)がない。
(2)極細繊維により表面積が大きいために、吸水性があり、汗を吸収し蒸れない。
(3)運動しても温度上昇しにくいために、就寝中に装着しても蒸れない。
(4)摩擦抵抗が高いために、滑りにくく、ズレにくい。
なお、本発明の外反母趾矯正装具に用いる生地は、前記極細ポリエステルファイバーに限定されるものではない。同等の効果を有する生地であれば前記極細ポリエステルファイバーに制限されることなく、使用することができる。
【0021】
本発明の外反母趾矯正装具は、前記生地の内で、肌に直接触れる部分は極細ポリエステルファイバーからなることが好ましい。ここで、肌に直接触れる部分とは、例えば、取付具(3)(中足骨環状包帯)の内側部分や取付具(4)(母指環状包帯)の内側部分を挙げることができる。
さらに、取付具(3)(中足骨締結ベルト)、母指付根内側突出部緩衝パッド(5)や矯正具収納袋(6)の材質には特に制限はない。以下に説明する実施態様では、これらを合成ゴム製(例えば、ネオプレーン製)とした。但し、これらを含めて、取付具の全体を極細ポリエステルファイバーで構成してもよい。
ナノフロントは、繊維1本の直径が約700nmの帝人製極細ポリエステルファイバーの商品名である。
【0022】
本発明の外反母趾矯正装具は、好ましくは、足親指部における第1の環状包帯(4)と、中足部における第2の環状包帯(3)によって保持され、中足部における第2の環状包帯の外側に中足部を締め付ける締結帯(2)を有し、母指関節内側に緩衝パッド(緩衝部材)(5)を有し、足の付け根と母指がこれらの取付具(第1及び第2の環状包帯)(3、4)により保持され、矯正具収納袋(6)内に収納され、足の内側に沿って延びる超弾性合金製板の矯正具(10)を有することが好ましい。
このような構成とすることで、外反母趾矯正装具と足の接触面積を減らし、装具の違和感を低減することができる。
また、ヒンジ部(11)と母指関節の間に緩衝部材(5)を設けることにより、外反母趾矯正装具の違和感を更に低減することができる。また、緩衝部材(5)を設けて、母指関節と矯正具(10)の間にスペースを設けることで、矯正具(10)の弾性力(P)をより効率良く母指に作用させることができる。
【0023】
図1、
図2及び
図3に示した本発明の外反母趾矯正装具は、これらの第1の環状包帯(4)、第2の環状包帯(3)、締結帯(2)、緩衝パッド(5)及び矯正具収納袋(6)が別体として構成されている。
本発明の外反母趾矯正装具は、好ましくは、第1の環状包帯(4)、第2の環状包帯(3)、締結帯(2)及び緩衝パッド(5)を、例えば、矯正具収納袋(6)に縫い付けて、一体として有する取付具を構成してもよい。
【0024】
本発明の外反母趾矯正装具において、矯正具(10)と、必要によりヒンジ部(11)と、を構成する超弾性合金の種類には特に制限はなく、例えば、Ni−Ti系合金やCu−Al−Mn系合金などの各種の超弾性合金を用いることができる。この内、超弾性合金としては、Cu−Al−Mn系合金を用いることが好ましい。以下に、好ましい組成などについて述べる。
【0025】
<Cu−Al−Mn系合金材の組成>
形状記憶特性及び超弾性を有する本発明で用いられる銅系合金は、Al及びMnを含有した合金である。この合金は、高温でβ相(体心立方)単相(本書では、単にβ単相ともいう)になり、低温でβ相とα相(面心立方)の2相組織(本書では、単に(α+β)相ともいう)になる。合金組成により異なるが、β単相となる高温は通常700℃以上であり、(α+β)相となる低温とは通常700℃未満である。
【0026】
本発明で用いられるCu−Al−Mn系合金材は、3.0〜10.0質量%のAl、及び5.0〜20.0質量%のMnを含有し、残部Cuと不可避的不純物からなる組成を有する。Al元素の含有量が少なすぎるとβ単相を形成できず、また多すぎると合金材が脆くなる。Al元素の含有量はMn元素の含有量に応じて変化するが、好ましいAl元素の含有量は6.0〜10.0質量%である。Mn元素を含有することにより、β相の存在範囲が低Al側へ広がり、冷間加工性が著しく向上するので、成形加工が容易になる。Mn元素の添加量が少なすぎると満足な加工性が得られず、かつβ単相の領域を形成することができない。またMn元素の添加量が多すぎると、十分な形状回復特性が得られない。好ましいMnの含有量は8.0〜12.0質量%である。
【0027】
上記必須の添加成分元素以外に、本発明で用いられるCu−Al−Mn系合金材はさらに任意の副添加元素として、Ni、Co、Fe、Ti、V、Cr、Si、Nb、Mo、W、Sn、Mg、P、Be、Sb、Cd、As、Zr、Zn、B、C、Ag及びミッシュメタル(Pr、Ndなど)からなる群より選ばれた1種または2種以上を含有することができる。これらの元素は冷間加工性を維持したままCu−Al−Mn系合金材の強度を向上させる効果を発揮する。これらの添加元素の含有量は合計で0.001〜10.000質量%であるのが好ましく、特に0.001〜5.000質量%が好ましい。これら元素の含有量が多すぎるとマルテンサイト変態温度が低下し、β単相組織が不安定になる。
【0028】
Ni、Co、Fe、Snは基地組織の強化に有効な元素である。CoはCo−Al金属間化合物の形成により結晶粒を粗大化するが、過剰になると合金の靭性を低下させる。Coの含有量は0.001〜2.000質量%である。Ni及びFeの含有量はそれぞれ0.001〜3.000質量%である。Snの含有量は0.001〜1.000質量%である。
【0029】
Tiは阻害元素であるN及びOと結合し酸窒化物を形成する。またBとの複合添加によってボライドを形成し、強度を向上させる。Tiの含有量は0.001〜2.000質量%である。
【0030】
V、Nb、Mo、Zrは硬さを高める効果を有し、耐摩耗性を向上させる。またこれらの元素はほとんど基地に固溶しないので、β相(bcc結晶)として析出し、強度を向上させる。V、Nb、Mo、Zrの含有量はそれぞれ0.001〜1.000質量%である。
【0031】
Crは耐摩耗性及び耐食性を維持するのに有効な元素である。Crの含有量は0.001〜2.000質量%である。Siは耐食性を向上させる効果を有する。Siの含有量は0.001〜2.000質量%である。Wは基地にほとんど固溶しないので、析出強化の効果がある。Wの含有量は0.001〜1.000質量%である。
【0032】
Mgは阻害元素であるN及びOを除去する効果があるとともに、阻害元素であるSを硫化物として固定し、熱間加工性や靭性の向上に効果がある。多量の添加は粒界偏析を招き、脆化の原因となる。Mgの含有量は0.001〜0.500質量%である。
【0033】
Pは脱酸剤として作用し、靭性向上の効果を有する。Pの含有量は0.01〜0.50質量%である。Be、Sb、Cd、Asは基地組織を強化する効果を有する。Be、Sb、Cd、Asの含有量はそれぞれ0.001〜1.000質量%である。
【0034】
Znは形状記憶処理温度を上昇させる効果を有する。Znの含有量は0.001〜5.000質量%である。B、Cは適量であればピン止め効果が得られより結晶粒が粗大化する効果がある。特にTi、Zrとの複合添加が好ましい。B、Cの含有量はそれぞれ0.001〜0.500質量%である。
【0035】
Agは冷間加工性向上させる効果がある。Agの含有量は0.001〜2.000質量%である。ミッシュメタルは適量であればピン止め効果が得られるので、より結晶粒が粗大化する効果がある。ミッシュメタルの含有量は0.001〜5.000質量%である。なお、ミッシュメタルとは、LaやCe、Ndなど単体分離の難しい希土類元素の合金のことを指す。
【0036】
<Cu−Al−Mn系合金材の製造方法>
本発明で用いられるCu−Al−Mn系合金材において、上記のような安定的に良好な超弾性特性を奏して耐繰返し変形特性に優れる超弾性合金材を得るための製造条件としては、下記のような製造工程を挙げることができる。
【0037】
Cu−Al−Mn系合金材の製造工程は、
図8に示すように主として溶解・鋳造[工程1]、熱間鍛造・加工[工程2]、中間焼鈍[工程3]、冷間加工[工程4]、記憶熱処理[工程5]、時効処理[工程6]からなる。
製造工程全体の中で特に、中間焼鈍[工程3]での熱処理温度[3]を400〜680℃の範囲とし、冷間加工(具体的には冷間圧延もしくは冷間伸線)[工程4−1]での冷間圧延率もしくは冷間伸線の加工率[5]を30%以上の範囲とすることにより、安定的に良好な超弾性特性を奏するCu−Al−Mn系合金材が得られる。これに加えて、記憶熱処理[工程5−1]〜[工程5−10]において、(α+β)相になる温度域[8]と[14](合金組成により異なるが400〜650℃、好ましくは450℃〜550℃)からβ単相になる温度域[11]と[17](合金組成により異なるが通常700℃以上、好ましくは750℃以上、さらに好ましくは900℃〜950℃)までの加熱[工程5−3]と[工程5−7]での昇温速度[10]と[16]とを、いずれも0.1〜20℃/分という所定の遅い範囲に制御する。これに加えて、β単相になる温度域[11]から(α+β)相になる温度域[14]までの冷却[工程5−5]での降温速度[13]を、0.1〜20℃/分という所定の遅い範囲に制御する。さらに、前記(α+β)相になる温度域[8]からβ単相になる温度域[11]までの加熱[工程5−3]の後で、β単相になる温度域[11]での所定時間[12]の保持[工程5−4]から、その後の、β単相になる温度域[11]から(α+β)相になる温度域[14]まで0.1〜20℃/分の降温速度[13]で冷却[工程5−5]し、該温度域[14]に所定時間[15]保持[工程5−6]を経て、さらに、(α+β)相になる温度域[14]からβ単相になる温度域[17]まで0.1〜20℃/分の昇温速度[16]で加熱[工程5−7]し、さらに該温度域[17]に所定時間[18]保持[工程5−8]するまでの、[工程5−4]から[工程5−8]までを少なくとも1回、好ましくは少なくとも4回繰り返して行う([工程5−9])。この後、最後に急冷[工程5−10]する。
【0038】
好ましくは、次のような製造工程が挙げられる。
常法によって溶解・鋳造[工程1]と熱間圧延または熱間鍛造の熱間加工[工程2]を行った後、400〜680℃[3]で1〜120分[4]の中間焼鈍[工程3]と、その後に、加工率30%以上[5]の冷間圧延または冷間伸線の冷間加工[工程4−1]とを行う。ここで、中間焼鈍[工程3]と冷間加工[工程4−1]とはこの順で1回ずつ行ってもよく、この順で2回以上の繰り返し回数[6]で繰り返して[工程4−2]行ってもよい。その後、記憶熱処理[工程5−1]〜[工程5−10]を行う。
【0039】
前記記憶熱処理[工程5−1]〜[工程5−10]は、(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[8]からβ単相になる温度域(例えば、900℃)[11]までを0.1〜20℃/分、好ましくは0.1〜10℃/分、さらに好ましくは0.1〜3.3℃/分の昇温速度[10](以下、除昇温という。)で加熱[工程5−3]して、該加熱温度[11]に5分〜480分、好ましくは10〜360分[12]保持[工程5−4]してなり、さらにβ単相になる温度域(例えば、900℃)[11]から(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[14]までを0.1〜20℃/分、好ましくは0.1〜10℃/分、さらに好ましくは0.1〜3.3℃/分の降温速度[13]で(以下、除降温という。)冷却[工程5−5]して、該温度[14]に20〜480分、好ましくは30〜360分[15]保持[工程5−6]する。その後、再び(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[14]からβ単相になる温度域(例えば、900℃)[17]まで上記徐昇温の昇温速度[16]で加熱[工程5−7]して、該温度[17]に5分〜480分、好ましくは10〜360分[18]保持[工程5−8]する。このような徐降温[13][工程5−5]と徐昇温[16][工程5−7]を繰り返す[工程5−9]ことを少なくとも1回、好ましくは少なくとも4回の繰り返し回数[19]で行う。その後、急冷[工程5−10]、例えば水冷の各工程を有してなる。
α+β単相になる温度域でかつ本発明で定める温度域は400〜650℃、好ましくは450〜550℃とする。
β単相になる温度域は700℃以上、好ましくは750℃以上、さらに好ましくは900〜950℃とする。
【0040】
前記記憶熱処理[工程5−1]〜[工程5−10]の後には、100〜200℃[21]で5〜120分[22]の時効熱処理[工程6]を施すことが好ましい。時効温度[21]が低すぎるとβ相は不安定であり、室温に放置しているとマルテンサイト変態温度が変化することがある。逆に時効温度[21]がやや高いとベイナイト(金属組織)、高すぎるとα相の析出が起こる。特にα相の析出は形状記憶特性や超弾性を著しく低下させる傾向がある。
【0041】
中間焼鈍[工程3]と冷間加工[工程4−1]を繰り返し行う[工程4−2]ことで、結晶方位をより好ましく集積させることができる。中間焼鈍[工程3]と冷間加工[工程4−1]の繰り返し数[6]は、1回でも良いが、好ましくは2回以上、さらに好ましくは3回以上である。前記中間焼鈍[工程3]と前記加工[工程4−1]の繰り返し回数[6]が多いほど特性が向上するためである。
【0042】
(各工程の好ましい条件)
中間焼鈍[工程3]は、400〜680℃[3]で1分〜120分[4]とする。この中間焼鈍温度[3]はより低い温度とすることが好ましく、好ましくは400〜550℃とする。
冷間加工[工程4−1]は加工率30%以上[5]とする。ここで、加工率は次の式で定義される値である。
加工率(%)={(A
1−A
2)/A
1}×100
A
1は冷間加工(冷間圧延もしくは冷間伸線)前の試料の断面積であり、A
2は冷間加工後の試料の断面積である。
【0043】
この中間焼鈍[工程3]と冷間加工[工程4−1]とを2回以上繰り返し行う場合の累積加工率([6])は30%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは45%以上である。累積加工率の上限値には特に制限はないが、通常95%以下である。
前記記憶熱処理[工程5−1]〜[工程5−10]においては、まず[工程5−1]では、前記冷間加工後に室温から昇温速度[7](例えば、30℃/分)で(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[8]まで昇温する。その後、(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[8]で2〜120分、好ましくは10〜120分[9]保持[工程5−2]する。その後、(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[8]からβ単相になる温度域(例えば、900℃)[11]まで加熱[工程5−3]する際には、昇温速度[10]を前記徐昇温の0.1〜20℃/分、好ましくは0.1〜10℃/分、さらに好ましくは0.1〜3.3℃/分とする。その後、この温度域[11]に5〜480分、好ましくは10〜360分[12]保持[工程5−4]する。その後、β単相になる温度域(例えば、900℃)[11]から(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[14]まで0.1〜20℃/分、好ましくは0.1〜10℃/分、さらに好ましくは0.1〜3.3℃/分の降温速度[13]で冷却[工程5−5]し、この温度域[14]で20〜480分、好ましくは30〜360分[15]保持[工程5−6]する。その後、再び(α+β相)になる温度域(例えば、450℃)[14]からβ単相になる温度域(例えば、900℃)[17]まで前記徐昇温の昇温速度[16]で加熱[工程5−7]し、この温度域[17]に5〜480分、好ましくは10〜360分[18]保持[工程5−8]する。このような[工程5−4]〜[工程5−8](条件[11]〜[18])を繰り返し[工程5−9]少なくとも1回、好ましくは少なくとも4回[19]行う。
急冷[工程5−10]時の冷却速度[20]は、通常30℃/秒以上、好ましくは100℃/秒以上、さらに好ましくは1000℃/秒以上とする。
最後の任意の時効熱処理[工程6]は、通常100〜200℃[21]で5〜120分[22]、好ましくは120〜200℃[21]で5〜120分[22]行う。
【0044】
また、本発明の外反母趾矯正装具は、超弾性プレート(矯正具、10)を出し入れ可能な収納袋(矯正具収納部)(6)に収納することによって、初期には板厚薄め(荷重弱め)、中期には板厚が若干厚め(適度な荷重)、完了期には板厚厚め(荷重強め)、と段階的に快適に着実に矯正することも可能である。
さらに、本発明の外反母趾矯正装具によれば、長時間・長期間装着可能なことから保存療法にも適用可能である。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0046】
実施例としては、
図1〜
図3に示した本発明の外反母趾矯正装具を用いた。具体的には、本発明の外反母趾矯正装具1は、矯正具10とヒンジ11、締結帯2、第2の環状包帯(取付具)3、第1の環状包帯(取付具)4、緩衝部材5、および矯正具収納袋6を備えている。
【0047】
本発明の外反母趾矯正装具の矯正具(超弾性合金製板)10は以下の方法で作成した。8.1質量%Al、11.1質量%Mn、残部Cuの配合材料を高周波真空溶解炉にて溶解鋳造し、800℃で熱間鍛造、600℃で熱間圧延、520℃の中間焼鈍と冷間加工率40%冷間圧延を繰り返し、板厚0.4mmの板材を作製した。板材を所定の形状に打ち抜き、電気炉内で昇温速度10℃/minで500℃にし、500℃で1時間保持後、昇温速度1.0℃/minで900℃に達した後、900℃で10分保持、その後降温速度1.0℃/minで500℃にし、500℃で1時間保持後、昇温速度1.0℃/minで900℃に達した後、1時間保持後に、水中急冷した。その後130℃、熱処理時間30分の時効処理を行い、超弾性を発現させた。このようにして矯正具(超弾性合金製板)を得た。
締結帯2は、ネオプレーン社製のベルトであり、片面に面ファスナーのループを敷き詰めた織ゴムの一端に面ファスナーのフックを通すための金具を取り付け、他端に面ファスナーのループを取り付けたものとした。
第2の環状包帯3は、片面に極細ポリエステルファイバー(帝人社製、ナノフロント(商品名))の生地を敷き詰めた幅50mm〜100mmのテープ状の織ゴムを使用し、個々のモニターの中足周径を計り、中足円周方向に伸びる向きで、周径の5%程度短くなるように縫い合わせる。縫い合わせ時に、環状包帯と矯正具収納袋を取付けるための面ファスナーのループを縫い付けたものとした。テープ幅はモニターの中足の大きさに合わせ適宜調整した。
第1の環状包帯4は、片面に極細ポリエステルファイバー(帝人社製、ナノフロント)の生地を敷き詰めた幅20〜40mmのテープ状の織ゴムを使用し、母趾のモニター個々の母趾太さに適用出来るよう、方端に面ファスナーのフックを、逆の方端に面ファスナーのループを取り付けたものとした。
緩衝部材(母指付根内側突出部緩衝パッド)5は、ネオプレーン製のものとした。
矯正具収納袋6は、ネオプレーン製であり、片面に面ファスナーのフックを敷き詰めた織ゴムを面ファスナーが表面に出るように袋状にした。袋の開口部突端内側には矯正具が抜けないように面ファスナーのフックとループが縫い込んでいる。
【0048】
また、比較例としては、
図5に示した従来の外反母趾矯正装具、及び
図6に示した従来の外反母趾矯正装具(Hallufix社製)をそれぞれ用いた。
【0049】
これらの実施例、比較例の外反母趾矯正装具をそれぞれ用いて、14人の外反母趾患者モニターに適用し、以下の項目について評価した。
・痛み、および快適性
・就寝時と日中時の装着時間、および装着期間
・夜間及び昼間での装着安定性
・MTP関節の軟化に要する期間
・外反母指角度の改善度
・フットプリンターによるアーチ形成状態(改善度)
それぞれ優「◎」、良「○」、可「△」、不可「×」として示した。1つでも△又は×があると、外反母趾矯正装具として不適当である。
以上の結果を下記表に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示した結果から以下のことが明らかである。
比較例1、2の外反母趾矯正装具を用いると、総合評価に劣った。特に夜間の装着性が劣り、具体的には、蒸れたり、ずれたりした。すなわち、装着時の軽微な違和感(不快感)により、夜間(就寝時)に長時間(例えば、8時間以上)装着することが困難であった。
一方、本発明の実施例では、全ての評価において優れ、しかもモニター14人中7人は外反母指角度が5°以上改善した(本発明の外反母趾矯正装具使用前の
図4(A)に対して、使用後の
図4(B)では改善が認められた)。