(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6746974
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】銅系材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/119 20060101AFI20200817BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20200817BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20200817BHJP
B22D 43/00 20060101ALI20200817BHJP
B22D 21/00 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
B22D11/119
B22D11/11 B
B22D11/00 F
B22D43/00 C
B22D21/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-48607(P2016-48607)
(22)【出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2017-159356(P2017-159356A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 啓輔
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−181832(JP,A)
【文献】
特開2002−192334(JP,A)
【文献】
特開平09−248660(JP,A)
【文献】
特開平07−207355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B22D 43/00
B22D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BNと、Si3N4、SiO2、AlN、Al2O3、MgO及びCaOから選ばれる1種以上と、を用いたBN系複合材からなり、表面にB2O3+SiO2からなるガラス層を有するフィルタを使用して酸素を含む溶銅中に存在する粒径10μm以下の非金属介在物を除去する工程を備えた銅系材料の製造方法。
【請求項2】
前記BN系複合材は、BNと、Si3N4、SiO2、AlN、Al2O3、MgO、CaOから選ばれる1種以上とからなる焼結体である請求項1に記載の銅系材料の製造方法。
【請求項3】
前記焼結体は、BNを10質量%以上含有する請求項2に記載の銅系材料の製造方法。
【請求項4】
前記フィルタは、BNを含む材料からなる上流層、及びSi3N4、SiO2、AlN、Al2O3、MgO、CaOから選ばれる1種以上を含む材料からなる下流層の2層構造を有する請求項1に記載の銅系材料の製造方法。
【請求項5】
前記銅系材料は、Tiを含有し、前記非金属介在物は、Ti酸化物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅系材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅系材料の製造方法及び銅系材料製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銅中に存在する酸化物等の非金属介在物を除去する方法として、例えば、溶銅を鋳型に注ぐ前のタンディッシュ内でセラミックより成る複数の多孔体又は粒子集合体堰を通過させることにより溶銅中の酸化物等を除去する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1においては、堰を構成するセラミックとしてコーディライトが推奨されており、下流側の堰の平均孔径を上流側の堰の平均孔径よりも小さくすることで、堰の目詰まりを生じにくくしている。
【0004】
一方、幅広いニーズに応えるために種々の銅合金材料の開発が行われており、例えば、不可避不純物を含む純銅にチタン(Ti)を添加した銅合金材料(例えば、2〜12mass ppmの硫黄と、2〜30mass ppmの酸素と、4〜55mass ppmのチタンとを含む銅合金材料)が開発されている(特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に記載の銅合金材料を製造する場合、溶銅中にTi酸化物(TiO、TiO
2、TiS、Ti−O−Sなど)からなる非金属介在物が存在することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−181832号公報
【特許文献2】特開2010−265511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記Ti酸化物は粒径が小さく、こうした小さい粒径(例えば粒径10μm以下)の非金属介在物は、従来の除去方法では取り除くことが難しく、鋳型に注がれる溶銅中に残存してしまうという問題があった。非金属介在物が溶銅中に残存してしまうと、タンディッシュの流出口が非金属介在物により閉塞するため長時間の連続鋳造ができず、また、製品へ非金属介在物が混入することにより割れ等の不良を引き起こす。
【0008】
特許文献1に記載の除去方法において、更に小さい平均孔径の堰を下流側に配置することで小さい粒径(例えば粒径10μm以下)の非金属介在物を除去することができたとしても、大〜極小の平均孔径を有する複数の堰を設置する必要があり、製造コスト上の問題などがある。
【0009】
そこで、本発明は、小さい粒径(例えば粒径10μm以下)の非金属介在物を溶銅中で捕捉する能力を向上させることにより、非金属介在物によるタンディッシュの流出口の閉塞を防止して長時間の連続鋳造を可能とし、かつ製品への非金属介在物の混入を低減して割れ等の不良を防止できる銅系材料の製造方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の銅系材料の製造方
法を提供する。
【0011】
[1]BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO及びCaOから選ばれる1種以上と
、を用いたBN系複合材からな
り、表面にB2O3+SiO2からなるガラス層を有するフィルタを使用して
酸素を含む溶銅中
に存在する粒径10μm以下の非金属介在物を除去する工程を備えた銅系材料の製造方法。
[2]前記BN系複合材は、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上とからなる焼結体である前記[1]に記載の銅系材料の製造方法。
[3]前記焼結体は、BNを10質量%以上含有する前記[2]に記載の銅系材料の製造方法。
[4]前記フィルタは、BNを含む材料からなる上流層、及びSi
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上を含む材料からなる下流層の2層構造を有する前記[1]に記載の銅系材料の製造方法。
[5]前記銅系材料は、Tiを含有し、前記非金属介在物は、Ti酸化物である前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の銅系材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小さい粒径(例えば粒径10μm以下)の非金属介在物を溶銅中で捕捉する能力を向上させることにより、非金属介在物によるタンディッシュの流出口の閉塞を防止して長時間の連続鋳造を可能とし、かつ製品への非金属介在物の混入を低減して割れ等の不良を防止できる銅系材料の製造方
法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る銅系材料の製造方法を実施するための銅系材料製造装置の一部(タンディッシュ)を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係る銅系材料の製造方法を実施するための銅系材料製造装置の一部(タンディッシュ)を示す概略断面図である。
【
図3】実施例において使用したフィルタの表面部分を撮影した断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔銅系材料の製造方法〕
本発明の実施の形態に係る銅系材料の製造方法は、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO及びCaOから選ばれる1種以上とを用いたBN系複合材からなるフィルタを使用して溶銅中の粒径10μm以下の非金属介在物を除去する工程を備える。以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る銅系材料の製造方法を実施するための銅系材料製造装置の一部(タンディッシュ)を示す概略断面図である。
【0016】
原料が溶解炉で溶解されて溶銅4とされた後、溶銅4は、一般に保持炉やタンディッシュ等を経由して鋳型に流し込まれ(鋳造が行われ)、銅系材料が製造される。
【0017】
本実施の形態に係る銅系材料の製造方法は、種々の銅系材料(銅系材料には銅材料のほか銅合金材料も含まれる)の製造に適用可能であるが、上記BN系複合材からなるフィルタを通す前の段階で溶銅4中に小さな粒径の非金属介在物(酸化物や硫化物など)、特に粒径10μm以下の非金属介在物を含有する場合に有用である。粒径5μm以下の非金属介在物を含有する場合に有用性がより高く、粒径3μm以下の非金属介在物を含有する場合に有用性が更に高く、粒径1μm以下の非金属介在物を含有する場合に有用性が最も高い。
【0018】
例えば、チタン(Ti)を含有する銅系材料(例えば、前述の特許文献2に記載の2〜12mass ppmの硫黄と、2〜30mass ppmの酸素と、4〜55mass ppmのチタンとを含む銅合金材料)の製造に好適であり、当該銅系材料の場合、溶銅4中に存在する粒径の小さな非金属介在物は、Ti酸化物(TiO、TiO
2、TiS、Ti−O−Sなど)である。Ti酸化物の多くは、粒径10nm〜5μm程度である。
【0019】
フィルタ1は、図示されていない保持炉又は
図1に示すタンディッシュ10に設けられることが好ましく、タンディッシュ10に設けられることが特に好ましい。
【0020】
フィルタ1は、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO及びCaOから選ばれる1種以上とを用いたBN系複合材からなり、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN及びAl
2O
3から選ばれる1種以上とを用いたBN系複合材からなることが特に好ましい。これにより、フィルタ1の表面が溶銅4中の酸素により酸化され、B
2O
3+SiO
2等の粘度の高いB
2O
3含有ガラス層が表面に形成される。このガラス層はトリモチのような機能を持つため、粒径の小さなTi酸化物等を捕捉する能力が格段に向上する。BNは酸化すると融点480℃のB
2O
3を形成するが、これだけでは融点が低すぎるため、Si
3N
4、SiO
2等との複合材としなければならない。
【0021】
本実施の形態においては、BN系複合材は、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上とからなる焼結体(多孔質体)である。フィルタ1は、溶銅4が通過可能な、当該焼結体からなる隔壁状のフィルタである。
【0022】
フィルタ1の表面に、B
2O
3+SiO
2やB
2O
3+Al
2O
3等のガラス層が形成されるが、そこに含まれるB
2O
3量によって様々な融点のガラス層を形成できるため、ガラス層の粘度を調整できる。
【0023】
焼結体中のBN含有量は、溶銅温度や非金属介在物の種類・量によって、適宜、調整すると良い。好適なBN含有量としては、例えば、10質量%以上である。BN含有量が10質量%未満では、粘度の高いガラス層が出来にくいので、BN含有量は10質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは25質量%以上である。また、BN含有量が100質量%近くでは、形成されるガラス層の粘度が低すぎ、溶銅に流されてしまう(粘度の高いガラス層が出来にくい)ので、BN含有量は90質量%以下とすることが好ましい。BN含有量の上限は70質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましく、40質量%以下が最も好ましい。
【0024】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る銅系材料の製造方法を実施するための銅系材料製造装置の一部(タンディッシュ)を示す概略断面図である。
【0025】
本発明の第2の実施の形態に係る銅系材料の製造方法では、使用するフィルタの構成が上記第1の実施の形態に係る銅系材料の製造方法と異なる。
【0026】
具体的には、
図2に示す第2の実施形態におけるフィルタ11が、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO及びCaOから選ばれる1種以上とを用いたBN系複合材からなる点はフィルタ1と同様であるが、フィルタ1が1層構造であるのに対し、フィルタ11は、BNを含む材料からなる上流層11A、及びSi
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上を含む材料からなる下流層11Bの2層構造を有する点で相違する。
【0027】
上流層11Aは、BNのみから形成されていても、BNとその他の材料、例えば、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上とを含む材料から形成されていてもよい。BN含有量が50質量%より大であることが好ましい。
【0028】
一方、下流層11Bは、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上のみから形成されていても、これらとその他の材料、例えば、BNとを含む材料から形成されていてもよい。Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO、CaOから選ばれる1種以上の含有量が50質量%より大であることが好ましい。
【0029】
本実施形態においては、少なくとも上流層11Aと下流層11Bの界面でB
2O
3+SiO
2等の粘度の高いB
2O
3含有ガラス層が形成される。このガラス層により、粒径の小さなTi酸化物等を捕捉する能力が格段に向上する。
【0030】
BNのみから形成されたフィルタ層を下流側に配置すると、粘度の低いB
2O
3が流れてしまいやすく、流れたB
2O
3を更に下流側で捕捉するためのフィルタが必要となるため、上流側に配置することが好ましい。
【0031】
〔銅系材料製造装置〕
本発明の実施形態に係る銅系材料製造装置は、BNと、Si
3N
4、SiO
2、AlN、Al
2O
3、MgO及びCaOから選ばれる1種以上とを用いたBN系複合材からなる、溶銅4中の粒径10μm以下の非金属介在物を除去するためのフィルタ1(又はフィルタ11)が設けられたタンディッシュ10を備える。
【0032】
銅系材料製造装置は、タンディッシュ10のほかに、図示していない溶解炉、保持炉、移送樋、鋳型などを備える。これらは公知の物を使用できる。鋳造方式は、特に限定されないが、連続鋳造方式が好ましい。
【0033】
フィルタ1(第1の実施形態)及びフィルタ11(第2の実施形態)についての詳細は、前述した通りである。フィルタ1の厚さは、特に限定されないが、例えば10mm以上100mm以下とすることが好ましい。フィルタ11の厚さも、特に限定されないが、上流層11Aの厚さは、例えば10mm以上90mm以下とすることが好ましく、下流層11Bの厚さは、例えば10mm以上90mm以下とすることが好ましい。
【0034】
タンディッシュ10の上部に設けられた流入口2より溶銅4が流入され、フィルタ1又はフィルタ11を通過する際に溶銅4中の粒径10μm以下の非金属介在物が捕捉され(B
2O
3含有ガラス層に取り込まれ)、除去される。非金属介在物が除去された溶銅4は、タンディッシュ10の底部に設けられた流出口3より流出され、鋳型に流し込まれ、銅系材料が得られる。
【0035】
なお、フィルタ1又はフィルタ11の目詰まりにより溶銅4のフィルタ通過速度が落ちてきたら、適時にフィルタ交換を行なう。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
〔実験装置の準備〕
BN30質量%と、Si
3N
470質量%とからなる焼結体(BN系複合材)からなるフィルタ1(縦40cm×横60cm、厚み50mm)を作製し、
図1に示すようにタンディッシュ10に設置した。
【0038】
〔実験装置の評価〕
準備したタンディッシュ10の流入口2から、3mass ppmの硫黄と、20mass ppmの酸素と、40mass ppmのチタンとを含む銅合金原料を溶解した溶銅4を流入し、当該溶銅4を通過させた後のフィルタ1を取り出し、その断面写真を撮影し、観察を行なった。
【0039】
図3は、実施例において使用したフィルタの表面部分を撮影した断面写真である。写真の上側が
図1における上流側である。
【0040】
図3から分かるように、SiO
2+B
2O
3からなるガラス層がフィルタ1の表面に形成されており、当該ガラス層中に粒径の小さいTiO
2(粒径:約1μm)が取り込まれていた。
【0041】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10:タンディッシュ
1、11:フィルタ、11A:上流層、11B:下流層
2:流入口、3:流出口、4:溶銅