(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(B)では、前記保護フィルムの剥離面と、前記熱伝導シートの前記保護フィルムが剥離された面との為す角度が45°以上となるように前記保護フィルムを剥離する、請求項1に記載の熱伝導シートの転写方法。
前記工程(B)では、外力を加えて前記押さえ治具を前記積層体に押し付けることにより前記剥離位置の他端側に圧力を加える、請求項1または2に記載の熱伝導シートの転写方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、各図において、同一の符号を付した部分はそれぞれ同様の構成を有している。
【0020】
ここで、本発明の熱伝導シートの転写方法は、熱伝導シートと保護フィルムとを有する積層体から熱伝導シートを被着体へ転写する際に用いることができる。そして、本発明の熱伝導シートの転写方法を用いた熱伝導シートの転写は、例えば本発明の熱伝導シートの転写装置を用いて好適に実施することができる。
【0021】
(熱伝導シート)
なお、本発明の転写方法および転写装置を用いて転写される熱伝導シートとしては、特に限定されることなく、熱伝導性および粘着性を有するシートが挙げられる。
具体的には、熱伝導シートとしては、例えば、樹脂と、熱伝導性充填材とを含む複合材料よりなる熱伝導シートが挙げられる。そして、樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。また、熱伝導性充填材としては、特に限定されることなく、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの粒子状炭素材料、および、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体が挙げられる。
【0022】
中でも、本発明の転写方法または転写装置を用いて転写される熱伝導シートとしては、複合材料を加圧してシート状に成形し、複合材料シートを得る工程と、複合材料シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、複合材料シートを折畳または捲回して、積層体を得る工程と、積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、熱伝導シートを得る工程とを経て得た熱伝導シートが好ましい。上述した工程を経て製造された熱伝導シートは、積層体を構成していた複合材料シートのスライス片が並列接合されてなる構成を有しており、熱伝導性充填材が厚み方向に配向するため、厚み方向の熱伝導率に優れる。一方、上述した工程を経て製造された熱伝導シートは、複合材料シートのスライス片が並列接合されてなるため、単に複合材料を加圧してシート状に成形したものに比べて、引張強度が低くなり、ハンドリング性が低下すると共にシートの破れ等の問題が起こり易くなる。しかし、本発明の転写方法または転写装置を使用すれば、熱伝導シートが破れるのを抑制し、熱伝導シートを被着体へと良好に転写することができる。
ここで、熱抵抗を低減する観点からは、熱伝導シートの厚みは1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。一方、厚みが薄くなり過ぎると熱伝導シートの引張強度が低くなり、シートの破れ等の問題が起こり易くなるため、熱伝導シートの厚みは50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。
また、熱伝導シートは、プローブタック試験機を用いて測定した粘着力が、0.7N以上であることが好ましく、1.0N以上であることがより好ましく、1.5N以上であることが更に好ましく、2.0N以上であることが特に好ましく、10N以下であることが好ましく、8.0N以下であることがより好ましく、4.0N以下であることが更に好ましい。粘着力が上記下限値以上の熱伝導シートでは、通常、転写する際に破れ等の問題が特に起こり易くなるが、本発明の転写方法または転写装置を使用すれば、熱伝導シートが破れるのを抑制し、熱伝導シートを被着体へと良好に転写することができる(即ち、熱伝導シートの破れ抑制効果を顕著に得られる)からである。また、粘着力が上記上限値以下であれば、熱伝導シートをより良好に転写することができるからである。なお、プローブタック試験機を用いた粘着力の測定は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて行うことができる。
更に、熱伝導シートは、引張強度が、0.1MPa以上であることが好ましく、0.2MPa以上であることがより好ましく、0.4MPa以上であることが更に好ましく、6.0MPa以下であることが好ましく、4.0MPa以下であることがより好ましく、3.0MPa以下であることが更に好ましく、2.0MPa以下であることが特に好ましい。引張強度が上記上限値以下の熱伝導シートでは、通常、転写する際に破れ等の問題が特に起こり易くなるが、本発明の転写方法または転写装置を使用すれば、熱伝導シートが破れるのを抑制し、熱伝導シートを被着体へと良好に転写することができる(即ち、熱伝導シートの破れ抑制効果を顕著に得られる)からである。また、引張強度が上記下限値以上であれば、熱伝導シートをより良好に転写することができるからである。なお、熱伝導シートの引張強度は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0023】
(保護フィルム)
また、熱伝導シートの保護フィルムとしては、特に限定されることなく、紙、金属フィルム、プラスチックフィルム等を用いることができる。中でも、コストおよび加工性の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。
なお、保護フィルムとして用いるプラスチックフィルム等の表面には、必要に応じて、離型処理や粘着処理を施してもよいし、ブラスト処理を施して凹凸構造をつけてもよい。
【0024】
(積層体)
更に、熱伝導シートと保護フィルムとを有する積層体としては、例えば、両面に保護フィルムが貼り合わされた熱伝導シートから一方の保護フィルムを剥離してなる積層体が挙げられる。具体的には、積層体としては、熱伝導シートと、熱伝導シートの厚さ方向一方側に位置する保護フィルムとを有する積層体が挙げられる。
【0025】
(被着体)
そして、本発明の熱伝導シートの転写方法および転写装置を用いて熱伝導シートを転写する被着体としては、特に限定されることなく、例えば、電子部品等の発熱体、および、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体が挙げられる。
【0026】
(熱伝導シートの転写方法)
ここで、本発明の実施形態に係る熱伝導シートの転写方法は、熱伝導シートと、熱伝導シートの厚さ方向一方側に位置する保護フィルムとを有する積層体の熱伝導シートを被着体に貼り合わせる工程(A)と、被着体に貼り合わされた積層体の熱伝導シートから保護フィルムを剥離する工程(B)とを含む。そして、工程(B)における保護フィルムの剥離は、熱伝導シートの一端側から他端側に向かって行い、且つ、押さえ治具を用いて剥離位置の他端側に圧力を加えながら行う必要がある。
【0027】
このように、工程(B)において保護フィルムを剥離する際に押さえ治具を用いて剥離位置の他端側に圧力を加えれば、保護フィルムの剥離時に熱伝導シートが破れたり、剥離される保護フィルムに引っ張られて熱伝導シートの一部が被着体から剥がれたりする(所謂、浮きが発生する)のを抑制し、熱伝導シートを被着体へと良好に転写することができる。
【0028】
<工程(A)>
ここで、工程(A)では、例えば
図1(a),(b)に示すようにして、熱伝導シート11と、熱伝導シートの厚さ方向一方側(
図1では上側)に位置する保護フィルム12とを有する積層体10の熱伝導シート11を被着体20に貼り合わせる。
【0029】
具体的には、工程(A)では、まず、
図1(a)に示すように、両面に保護フィルム12,13が貼り合わされた熱伝導シート11から一方(
図1では下側)の保護フィルム13を剥離し、熱伝導シート11および保護フィルム12を有する積層体10を得る。
なお、
図1(a)では、工程(B)において保護フィルム12を剥離し易くする観点から、保護フィルム12の長さを熱伝導シート11よりも長くしているが、保護フィルム12の長さは、熱伝導シート11の長さ以上であれば図示例に限定されるものではない。また、
図1(a)では、熱伝導シート11よりも長い保護フィルム12を有する積層体の製造の容易性の観点から保護フィルム13の長さを熱伝導シート11と等しくしているが、保護フィルム13の長さは図示例に限定されるものではなく、また、保護フィルム13は最初から設けられていなくてもよい。
【0030】
次に、工程(A)では、
図1(b)に示すように、積層体10の熱伝導シート11を被着体20に貼り合わせる。具体的には、熱伝導シート11と被着体20とが接するように被着体20上に積層体10を載置し、任意に、押さえ治具30を用いて積層体10に圧力を加えることにより、積層体10の熱伝導シート11と被着体20とを密着させる。
【0031】
より具体的には、工程(A)では、例えば、積層体10上で押さえ治具30を熱伝導シート11の他端側(
図1では右側)から一端側(
図1では左側)に向かって摺動させて積層体10に圧力を加えることにより、熱伝導シート11と被着体20とを密着させる。
なお、押さえ治具30を用いた積層体10への圧力の負荷は、押さえ治具30の自重のみを用いて行ってもよいし、押さえ治具30に対して積層体10へと向かう方向の外力を加えることにより行ってもよい。中でも、熱伝導シート11と被着体20とを良好に密着させる観点からは、積層体10への圧力の負荷は、積層体10上を摺動させる押さえ治具30に外力を加えて押さえ治具30を積層体10へと押し付けつつ行うことが好ましい。
また、工程(A)において押さえ治具30を移動させる方向は、熱伝導シート11の他端側から一端側に限定されるものではない。但し、工程(A)の後に熱伝導シート11の一端側から他端側に向かって保護フィルム12を剥離する操作を連続して実施することにより熱伝導シート11を効率的に転写する観点からは、押さえ治具30は熱伝導シート11の他端側から一端側に向けて摺動させることが好ましい。
【0032】
[押さえ治具]
ここで、押さえ治具30としては、特に限定されることなく、積層体10に圧力を負荷することが可能な任意の形状の治具を用いることができる。
具体的には、押さえ治具30としては、例えば
図2(a)に正面図を示し、
図2(b)に右側面図を示すような形状の治具を用いることができる。この
図2(a),(b)に示す押さえ治具30は、積層体10の保護フィルム12に当接して積層体10に圧力を加える加圧面31と、加圧面31側とは反対側に突出する把持部32とを有し、任意に、熱伝導シート11の転写時に押さえ治具30をガイドするスライドレール等のガイド部材と係合する係合部33を更に有している。より具体的には、
図2(a),(b)に示す押さえ治具30は、底面が加圧面31となる直方体状の本体部と、本体部の両側面の上部から幅方向外方(
図2(a)では左右方向)に突出する係合部33と、本体部の上面の長さ方向一方側(
図2(b)では左側)から上方に突出する把持部32とを有している。そして、後に詳述するが、押さえ治具30の長さ方向一方側(
図2(b)では左側)の面(本体部および把持部32により形成される、加圧面31に直交する面)は、
図1(c)〜(e)に示すようにして保護フィルム12を剥離する際に保護フィルム12の剥離角度を規制する剥離角度規制面34となる。
【0033】
なお、押さえ治具の形状は、
図2(a),(b)に示す形状に限定されるものではなく、押さえ治具としては、例えば
図3(a)〜(c)に右側面図を示すような形状の押さえ治具30A〜30Cも用いることができる。因みに、押さえ治具30A〜30Cの正面視形状は、
図2(a)に示す押さえ治具30の正面視形状と同一である。
【0034】
ここで、
図3(a)に示す押さえ治具30Aは、本体部の下部が円柱を軸線方向に切断してなる形状(円弧柱状)を有しており、底面の形状が、長さ方向(押さえ治具を摺動させる方向)に沿う断面の形状が下側に向かって凸の曲線となる形状である以外は、
図2に示す押さえ治具30と同様の構成を有している。そして、押さえ治具30Aによれば、長さ方向に沿う断面の形状が下側に向かって凸の曲線であるので、積層体10上で押さえ治具30Aを摺動させて積層体10に圧力を負荷する際に、押さえ治具30Aを積層体10上で良好に摺動させることができると共に、少ない接触面積で積層体をより効果的に加圧することができる。
【0035】
また、
図3(b)に示す押さえ治具30Bおよび
図3(c)に示す押さえ治具30Cは、それぞれ、保護フィルム12を剥離する際に保護フィルム12の剥離角度を規制する剥離角度規制面34の配設角度が加圧面31に対して傾斜した角度(90°超または90°未満)である以外は、
図2に示す押さえ治具30と同様の構成を有している。そして、押さえ治具30B,30Cによれば、保護フィルム12を斜め方向に容易に剥離することができる。なお、押さえ治具30B,30Cの剥離角度規制面34の配設角度は、所望の剥離角度に応じて設定することができる。具体的には、例えば、押さえ治具30Bの剥離角度規制面34の配設角度は、加圧面31に対して90°超135°以下とすることができ、押さえ治具30Cの剥離角度規制面34の配設角度は、加圧面31に対して45°以上90°未満とすることができる。
【0036】
<工程(B)>
次に、工程(B)では、例えば
図1(c)〜(e)に示すようにして、被着体20に貼り合わされた積層体10の熱伝導シート11から保護フィルム12を剥離する。
【0037】
具体的には、工程(B)では、
図1(c),(d)に示すように、熱伝導シート11の一端側(
図1では左側)から他端側(
図1では右側)に向かって、且つ、押さえ治具30を用いて剥離位置Rの他端側に圧力を加えながら、保護フィルム12を剥離する。換言すれば、工程(B)では、例えば、熱伝導シート11の一端側から他端側に向けて、保護フィルム12を剥離する速度と等しい速度で押さえ治具30を他端側に移動させ、未剥離の保護フィルム12の剥離位置Rに隣接する領域上に押さえ治具30を位置させた状態で保護フィルム12を剥離する。そして、
図1(e)に示すように熱伝導シート11上から保護フィルム12を全て剥離することにより、積層体10から被着体20への熱伝導シート11の転写を完了させる。
このように、押さえ治具30を用いて剥離位置Rの他端側(保護フィルム12が剥離されていない領域のうちの剥離位置R側の部分)に圧力を加えながら保護フィルム12を剥離すれば、例えば粘着性の高い熱伝導シートや薄い熱伝導シートであっても、転写時に熱伝導シート10が破れるのを抑制して、熱伝導シート10を被着体20へと良好に転写することができる。
【0038】
ここで、押さえ治具30としては、上述した工程(A)で使用した押さえ治具と同じ押さえ治具を用いることが好ましい。工程(A)と工程(B)とで異なる押さえ治具を使用してもよいが、工程(A)と工程(B)とで同一の押さえ治具30を使用すれば、治具の入れ替えに要する時間を削減して、熱伝導シート11を効率的に転写することができるからである。
【0039】
また、押さえ治具30を移動させつつ保護フィルム12を剥離する方向は、熱伝導シート11の他端側から一端側としてもよいが、工程(A)において押さえ治具30を一端側まで移動させた後に保護フィルム12を剥離する操作を連続して実施することにより熱伝導シート11を効率的に転写する観点からは、熱伝導シート11の一端側から他端側にすることが好ましい。
【0040】
更に、押さえ治具30を用いた圧力の負荷は、押さえ治具30の自重のみを用いて行ってもよいし、押さえ治具30に対して積層体10へと向かう方向の外力Fを加えることにより行ってもよい。中でも、熱伝導シート10が破れるのを十分に抑制して熱伝導シート10を被着体20へと更に良好に転写する観点からは、保護フィルム12の剥離時の圧力の負荷は、積層体10上を摺動させる押さえ治具30に外力Fを加えて押さえ治具30を剥離位置Rの近傍の積層体10へと押し付けつつ行うことが好ましい。
なお、外力Fの大きさは、加圧面31を介して負荷される圧力が例えば2kPa以上200kPa以下となる大きさであることが好ましい。負荷される圧力が上記下限値以上であれば、熱伝導シート10と被着体20とを良好に密着させることができる。また、負荷される圧力が上記上限値以下であれば、熱伝導シート10が破れるのを十分に抑制して熱伝導シート10を被着体20へと更に良好に転写することができる。
【0041】
また、工程(B)における保護フィルム12の剥離角度θ(保護フィルム12の剥離面12Aと、熱伝導シート11の保護フィルム12が剥離された面11Aとの為す角度)は、例えば45°以上であることが好ましく、90°以上であることがより好ましく、135°以下であることが好ましい。剥離角度θが上記範囲内であれば、熱伝導シート10を被着体20へと更に良好に転写することができる。
なお、剥離操作の容易性の観点からは、剥離角度θは、押さえ治具30に設けた剥離角度規制面34を利用して調整することが好ましい。即ち、保護フィルム12の剥離は、押さえ治具30の剥離角度規制面34に保護フィルム12を当接させた状態で行うことが好ましい。
【0042】
(熱伝導シートの転写装置)
そして、上述した熱伝導シートの転写方法による熱伝導シートの転写は、特に限定されることなく、例えば本発明の実施形態に係る熱伝導シートの転写装置を用いて効率的に実施することができる。
【0043】
ここで、
図4(a),(b)に本発明の実施形態に係る熱伝導シートの転写装置100を示す。
図4に示す転写装置100は、押さえ治具30と、押さえ治具30をガイドするガイド部40と、ガイド部40の延在方向一方側(
図4(a)では左上側)に設けられた固定部50と、ガイド部40および固定部50を
図4(a)に示す転写位置と
図4(b)に示す退避位置との間で回動可能に支持する枠体部60とを備えている。
【0044】
<押さえ治具>
押さえ治具30は、熱伝導シート11の転写時に積層体10に圧力を加える加圧面31および加圧面31側とは反対側に突出する把持部32を有する治具である。そして、押さえ治具30としては、例えば
図2〜3に示す押さえ治具30,30A,30B,30Cなどの、上述した熱伝導シートの転写方法で使用し得るものと同様の治具を使用することができる。
【0045】
<ガイド部>
ガイド部40は、押さえ治具30の係合部33と係合して押さえ治具30を直線状にガイドする部分である。そして、
図5(a)にガイド部40および固定部50の平面図を示すように、転写装置100では、ガイド部40は互いに離隔させて平行に配置した2本のスライドレールで構成されている。そして、押さえ治具30は、
図5(b)に側面図を示すガイド部40のスライド孔41に係合部33を挿入して用いられる。
なお、ガイド部40の底面からスライド孔41までの高さH
2は、通常、押さえ治具30の底面(加圧面31)から係合部33までの高さH
1以下であり、高さH
2は高さH
1よりも低いことが好ましい。高さH
2が高さH
1以下であれば、押さえ治具30の加圧面31を介して積層体10へと圧力を容易に加えることができるからである。また、ガイド部40を構成する2本のスライドレール間の距離は、積層体10の幅以上であれば任意の長さとすることができる。更に、スライド孔41の長さ(即ち、押さえ治具30を摺動可能な範囲)は、積層体10の熱伝導シート11の長さと、押さえ治具30の摺動方向に沿う長さとの和以上であれば、任意の長さとすることができる。
【0046】
<固定部>
固定部50は、熱伝導シート11の転写時に積層体10の一方の端部を被着体20との間で固定する部分である。そして、転写装置100の固定部50は、ガイド部40と一体的に形成されている。即ち、固定部50は、ガイド部40の延在方向一端(
図5では左側端)と連結されており、
図5(a)に平面図を示すように、ガイド部40および固定部50は平面視U字状をしている。
【0047】
また、固定部50には、回転軸51が挿通される軸孔53が固定部50の幅方向(
図5(a)では上下方向)に沿って形成されている。そして、固定部50は、軸孔53と、後に詳述する枠体部60に形成された貫通孔とを同一軸線上に位置させた状態で軸孔53および貫通孔に回転軸51を挿通することにより、枠体部60に対して回動可能に取り付けられる。
【0048】
更に、
図5(c)にガイド部40および固定部50の底面図を示すように、固定部50は、底面側(熱伝導シート11の転写時に被着体20と接触する側)に積層体10の配置位置を決める位置決め機構を有している。具体的には、転写装置100の固定部50は、固定部50の底面に形成された矩形状の溝52と、溝52内に設けられた粘着部材(図示せず)とからなる位置決め機構を有している。なお、溝52は、固定部50の底面のガイド部40側の略中央に形成されており、ガイド部40を構成する2本のスライドレール間に開口している。そして、溝52の幅は、通常、積層体10の幅以上とされている。また、溝52の深さは、通常、溝52内に貼り付けられる積層体10の端部の厚みと粘着部材の厚みとの合計厚み以上とされている。
ここで、粘着部材としては、特に限定されることなく、両面テープ、粘着性をもつ有機物の塗布層、表面に微細な連結孔を有する自着性シート(例えば、製品名「ゼオンALシート」(ゼオン化成製))等が挙げられる。中でも。設置および取扱いが容易なことから、粘着部材としては両面テープが好ましい。
【0049】
そして、転写装置100は、固定部50の底面側に位置決め機構を有しているので、例えば退避位置において積層体10を固定部50に容易に取り付けて転写時の積層体10の位置決めを行うことができる。また、溝52と、溝52内に設けられた粘着部材とで位置決め機構を形成しているので、溝52内の粘着部材に積層体10を貼り付けて固定することにより、簡素な構成を用いて積層体10の位置決めを容易に行うことができる。また、溝52内に積層体10の端部を貼り付けて固定することにより、熱伝導シート11の転写時に積層体10の厚みによって固定部50が浮き上がるのを防止することができる。
【0050】
<枠体部>
枠体部60は、ガイド部40および固定部50を転写位置と退避位置との間で回動可能に軸支する部分であり、
図4に示すように、ガイド部40および固定部50と厚さが等しく、且つ、内側にガイド部40および固定部50を収容可能な平面視U字状の板状部材よりなる。そして、平面視U字状の枠体部60の開口部側には、幅方向に延在する貫通孔が設けられており、当該貫通孔と固定部50の軸孔53とを同一軸線上に位置させた状態で軸孔53および貫通孔に回転軸51を挿通することにより、固定部50が枠体部60の開口部側に回動可能に取り付けられる。また、枠体部60の底面には、任意に、被着体20に形成された孔などに挿入して被着体20の所望の位置に枠体部60を固定するための位置決めピン61が設けられている。
【0051】
<転写装置を用いた熱伝導シートの転写>
そして、上述した構成を有する転写装置100では、例えば
図6(a)〜(e)に示すようにして、積層体10から被着体20へと熱伝導シート11を転写することができる。
【0052】
具体的には、まず、両面に保護フィルムが貼り合わされた熱伝導シートから一方の保護フィルムを剥離して、熱伝導シート11および保護フィルム12を有する積層体10を準備する。そして、
図6(a)に示すように、得られた積層体10の一方の端部を固定部50の溝52内の粘着部材に貼り付けると共に、枠体部60の位置決めピン61を被着体20に形成された孔(図示せず)に挿入して枠体部60を被着体20上の所望の位置に固定する。
なお、積層体10は、保護フィルム12側の表面を溝52内の粘着部材に貼り付ける。また、転写装置100を使用する場合、通常、積層体10の保護フィルム12は熱伝導シート11よりも長尺とする。そして、粘着部材に貼り付けられる側の保護フィルム12の一端から熱伝導シート11の一端までの距離L
1は、溝52内に貼り付けられる保護フィルム12の長さと、押さえ治具30の摺動方向に沿う長さとの和以上である。また、熱伝導シート11の長さは、
図6(b)に示すようにガイド部40および固定部50を転写位置に位置させ、且つ、押さえ治具30を固定部50側に位置させた状態において、押さえ治具30、ガイド部40および枠体部60により区画形成される空間内に熱伝導シート11が収まる長さである。更に、熱伝導シート11の他端から保護フィルム12の他端までの距離L
2は、
図6(b)に示すようにガイド部40および固定部50を転写位置に位置させた状態において、少なくとも枠体部60上まで保護フィルム12が延在する長さである。
【0053】
次に、
図6(b)に示すようにガイド部40および固定部50を転写位置に移動させ、被着体20上に熱伝導シート11を載置する。なお、この際に、積層体10の保護フィルム12の一方の端部(
図6(b)では左側の端部)は、固定部50と被着体20との間で固定される。また、積層体10の保護フィルム12の他方の端部(
図6(b)では右側の端部)は、保護フィルム12を剥離する際に掴み易いように、枠体部60上を通して転写装置100の外側まで延出させる。
【0054】
その後、
図6(b)および(c)に示すように、押さえ治具30を積層体10の一方の端部側(
図6(b),(c)では左側)から他方の端部側(
図6(b),(c)では右側)へと移動させると共に、押さえ治具30の加圧面31を介して積層体10に圧力を加え、熱伝導シート11を被着体20に密着させる。なお、押さえ治具30の移動および押さえ治具30を介した積層体10への圧力の負荷は、押さえ治具30の把持部32を図示しない手やロボットアーム等で掴んで容易に行うことができる。
【0055】
そして、最後に、
図6(d)および(e)に示すように、積層体10の保護フィルム12の他方の端部を手やロボットアーム等で掴んで引っ張り上げ、保護フィルム12を熱伝導シート11から剥離して、熱伝導シート11の転写を完了させる。具体的には、押さえ治具30の加圧面31を介して
図6(d),(e)では剥離位置の左側の領域に圧力を加えつつ積層体10上で押さえ治具30を固定部50側へと摺動させると共に、保護フィルム12を押さえ治具30の剥離角度規制面34に当接させた状態で引っ張り上げることにより、保護フィルム12を所望の剥離角度θ(
図6(d),(e)では90°)で熱伝導シート11から剥離する。なお、押さえ治具30の移動および押さえ治具30を介した積層体10への圧力の負荷は、押さえ治具30の把持部32を図示しない手やロボットアーム等で掴んで容易に行うことができる。また、剥離した保護フィルム12は、転写装置100と一緒に被着体20上から除去することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態に係る熱伝導シートの転写方法および転写装置について説明したが、本発明の熱伝導シートの転写方法および転写装置は上述した実施形態に限定されるものではない。
具体的には、例えば、転写装置の位置決め機構としては、ピンやクリップ等の既知の位置決め機構を採用してもよい。また、位置決め機構を設けることなく固定部と被着体とで積層体の端部を挟んで固定してもよい。更に、ガイド部としてはガイドレール等の既知のガイド部材を採用してもよい。また、枠体部を設けることなく、ガイド部の底面に位置決めピンを設けてもよい。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、熱伝導シートの粘着力および引張強度、並びに、転写後の熱伝導シートの状態は、それぞれ以下の方法を使用して測定および評価した。
【0058】
<熱伝導シートの粘着力>
作製した熱伝導シートの上面(スライス時に刃が直接当たった面)について、プローブタック試験機(株式会社レスカ製、商品名「TAC1000」)を使用して粘着力を測定した。具体的には、温度25℃、荷重0.5Nの条件で直径10mmの平らなプローブを熱伝導シートの上面に10秒間押し付けた後、プローブを熱伝導シートから引き離すときに要する力を粘着力として測定した。
<熱伝導シートの引張強度>
作製した熱伝導シートを、JIS K6251に記載のダンベル2号にて打ち抜き、試料片を作製した。そして、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG−IS20kN」)を用い、試料片の両末端から1cmの箇所をつまみ、温度23℃で、試料片の表面から出る法線に対して垂直な方向に500mm/分の引張速度で引っ張り、破断強度(引張強度)を測定した。
<転写後の熱伝導シートの状態>
保護フィルムを剥離した後の熱伝導シートの状態を目視にて観察し、以下の基準に従って評価した。
A:熱伝導シートに浮きおよび破れがない
B:熱伝導シートに破れはないが、寸法2mm以下の浮きがある
C:熱伝導シートに破れはないが、寸法2mm超の浮きがある
D:熱伝導シートに破れがある
【0059】
(実施例1)
<熱伝導シートの作製>
スーパーグロース法を用いて調製したカーボンナノチューブ(CNT)を0.1質量部と、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−100」、平均粒子径:190μm)を50質量部と、常温で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG−101」)100質量部とを混合して得た組成物をワンダークラッシュミル(大阪ケミカル株式会社製、商品名「D3V−10」)に投入して、1分間解砕した。
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ500μmの複合材料シートを得た。そして、得られた複合材料シートを6cm×6cm×500μmに裁断し、厚み方向に120枚積層し、圧力0.1MPaの条件下、温度120℃で3分間プレスして熱圧着させ、厚さ約6cmの積層体を得た。
その後、複合材料シートの積層体の6cm×6cmの積層断面を、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いてスライスし、更に、得られたシート(厚み:150μm)をカッターナイフで5cm×1.5cmのサイズに切り出して、熱伝導シート(5cm×1.5cm×150μm)を得た。
そして、得られた熱伝導シートの粘着力および引張強度を測定した。結果を表1に示す。
<保護フィルムの貼り付け>
作製した熱伝導シートの両面に、サイズが9cm×1.5cmの保護フィルム(株式会社フジコー製、一般剥離フィルム、厚さ75μm)を貼り付けた。具体的には、熱伝導シートの全面が覆われ、且つ、保護フィルムの長手方向両端がそれぞれ約2cmずつ熱伝導シートの長手方向端からはみ出るように熱伝導シートの両面に保護フィルムを手で仮止めした後、プレス機(新東工業株式会社製、精密加熱加圧装置、商品名「CYPT−20」)を用いて、圧力0.2MPa、温度25℃にて30秒間プレスし、熱伝導シートの両面に保護フィルムを貼り付けた。
<熱伝導シートの転写>
両面に保護フィルムを貼り付けた熱伝導シートから一方の保護フィルムを剥離し、熱伝導シートと、熱伝導シートの厚さ方向一方側に位置する保護フィルムとを有する積層体を得た。
また、押さえ治具として
図3(c)に示す押さえ治具30Cを有する意外は
図4に示す転写装置と同様の構成を有する転写装置を使用し、
図6に示すようにして熱伝導シートの転写を行った。
なお、被着体としては、銅板を用いた。また、押さえ治具を摺動させて被着体に熱伝導シートを密着させる際および熱伝導シートから保護フィルムを剥離する際には、指で押さえ治具の把持部を掴み、積層体に向かう方向に外力を加えながら、押さえ治具を移動させた。更に、保護フィルムの剥離角度θは135°とした。
そして、転写後の熱伝導シートの状態を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
熱伝導シートの転写時に、押さえ治具30Cに替えて
図2に示す押さえ治具30を使用し、保護フィルムの剥離角度θを90°とした以外は実施例1と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
熱伝導シートの転写時に、押さえ治具30Cに替えて
図3(b)に示す押さえ治具30Bを使用し、保護フィルムの剥離角度θを45°とした以外は実施例1と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
熱伝導シートから保護フィルムを剥離する際に、積層体に向かう方向の外力を指で加えることなく、押さえ治具30Cの自重のみを用いて積層体に圧力を加えた以外は実施例1と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例5〜7)
熱伝導シートの作製時に、カーボンナノチューブの配合量を、それぞれ0.5質量部(実施例5)、1.0質量部(実施例6)および2.0質量部(実施例7)に変更した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例8)
熱伝導シートから保護フィルムを剥離する際に、積層体に向かう方向の外力を指で加えることなく、押さえ治具30の自重のみを用いて積層体に圧力を加えた以外は実施例2と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例9)
熱伝導シートから保護フィルムを剥離する際に、積層体に向かう方向の外力を指で加えることなく、押さえ治具30Bの自重のみを用いて積層体に圧力を加えた以外は実施例3と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
熱伝導シートから保護フィルムを剥離する際に、被着体から転写装置を取り外し、押さえ治具を用いることなく、無加圧状態の保護フィルムを手で剥離した以外は実施例1と同様にして熱伝導シートの作製、保護フィルムの貼り付けおよび熱伝導シートの転写を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、実施例1〜9では、熱伝導シートの破れを防止して熱伝導シートを被着体へと良好に転写できることが分かる。一方、比較例1では、保護フィルムの剥離時に熱伝導シートが破れてしまうことが分かる。