【文献】
VAN ESCH Jan et al.,Cyclic Bis-Urea Compounds as Gelators for Organic Solvents,Chemistry-A European Journal,1999年,5, No3,937-950
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物(以下、樹脂組成物と呼ぶことがある)は、液状エポキシ樹脂(A)(以下、成分(A)と呼ぶことがある)、シアネート樹脂(B)(以下、成分(B)と呼ぶことがある)、及びオイルゲル化剤(C)(以下、成分(C)と呼ぶことがある)を含むものである。
【0021】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物によれば、揮発成分を低減しても取り扱い性が良好であり、且つ十分に高いガラス転移温度を有する硬化物を形成できる封止フィルムを得ることができる。
【0022】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物が、揮発成分を十分に低減できる理由については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。フィルム形成用樹脂組成物からなる樹脂ワニスを支持体に塗布、乾燥して封止フィルムを製造する場合、支持体が設けられていない側の樹脂組成物は、支持体が設けられている側の樹脂組成物に比べて、乾燥が進み易い。そのため、支持体が設けられていない側の樹脂組成物の乾燥が進み、支持体が設けられている側の樹脂組成物中の揮発成分(主に有機溶媒)の揮発が妨げられていると考えられる。本実施形態の樹脂組成物においては、液状エポキシ樹脂(A)を配合することで、支持体が設けられていない側の樹脂組成物の過度な乾燥を抑制することができ、支持体が設けられている側の樹脂組成物の揮発成分を十分に揮発させることができると考えられる。さらに、オイルゲル化剤(C)を配合することで、液状エポキシ樹脂(A)、及びシアネート樹脂(B)からなる樹脂組成物をゲル化させ、液状の樹脂に起因する過度なタックを抑制することができると考えられる。
【0023】
なお、本明細書において、封止フィルムとは、半導体チップ等の半導体素子及び電子部品などを封止又は埋め込むために用いられるフィルム状樹脂組成物のことをいう。
【0024】
成分(A)の液状エポキシ樹脂としては、25℃にて液状を示すものであれば特に限定はされず、例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビフェニル系、ノボラック系、ジシクロペンタジエン系、多官能フェノール系、ナフタレン系、アラルキル変性系、脂環式系及びアルコール系等のグリシジルエーテル、グリシジルアミン系、並びにグリシジルエステル系樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、取り扱い性付与の観点から、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0025】
本明細書において、25℃にて液状を示すエポキシ樹脂とは、E型粘度計で測定した25℃における粘度が400Pa・s以下であるものを指す。
【0026】
フィルム形成用樹脂組成物における成分(A)の配合量は、封止フィルムに良好な柔軟性を付与する観点から、硬化物を形成する成分全量を基準として((E)成分等の無機物及び揮発成分を除く成分全量を基準として)、10〜80質量%であることが好ましく、15〜75質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが更に好ましい。
【0027】
成分(B)のシアネート樹脂としては、1分子中に少なくとも2個のシアナト基を有する化合物であれば特に限定はされず、フェノールノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、ビスフェノールF型シアネート樹脂、及びテトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、誘電特性、耐熱性、難燃性、低熱膨張性、及び安価である点から、ビスフェノールA型シアネート樹脂、フェノールノボラック型シアネート樹脂が好ましい。
【0028】
シアネート樹脂の市販品としては、ビスフェノールA型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社製;商品名Primaset BADCy)、フェノールノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社製;商品名Primaset PT−30)等が挙げられる。
【0029】
成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部に対して、25〜400質量部であることが好ましく、50〜250質量部であることがより好ましく、60〜150質量部であることが更に好ましい。成分(B)の配合量を25質量部以上とすることで、フィルム形成用樹脂組成物の耐熱性、難燃性、耐薬品性が向上する傾向にあり、400質量部以下とすることで耐湿性が確保されやすくなる。
【0030】
成分(C)のオイルゲル化剤は、油溶性に効く炭化水素基と、自己集合性に効く水素結合性官能基(ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基等)とを有することができる。成分(C)のオイルゲル化剤としては、ヒドロキシステアリン酸、特に12−ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸、n−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−ジブチルアミド、ジ−p−メチルベンジリデンソルビトールグルシトール、1,3:2,4−ビス−O−ベンジリデン−D−グルシトール、1,3:2,4−ビス−O−(4−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール、ビス(2−エチルヘキサノアト)ヒドロキシアルミニウム、下記一般式(2)〜(14)で表わされる化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、12−ヒドロキシステアリン酸、n−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−ジブチルアミド、及び1,3:2,4−ビス−O−ベンジリデン−D−グルシトールの少なくとも1種がより好ましい。
【0031】
【化2】
[一般式(2)中、n1は3〜10の整数、n2は2〜6の整数、R
1は炭素数1〜20の飽和炭化水素基、X
1は硫黄原子又は酸素原子である。]
【0032】
【化3】
[一般式(3)中、R
2は炭素数1〜20の飽和炭化水素基、Y
1は結合手(単結合)又はベンゼン環(フェニレン基)である。]
【0033】
【化4】
[一般式(4)中、R
3は炭素数1〜20の飽和炭化水素基、Y
2は結合手又はベンゼン環である。]
【0034】
【化5】
[一般式(5)中、R
4は炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。]
【0036】
【化7】
[一般式(7)中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。]
【0037】
【化8】
[一般式(8)中、R
7は、炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。]
【0038】
【化9】
[一般式(9)中、R
8は、炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。]
【0039】
【化10】
[一般式(10)中、Phは、フェニル基を示す。]
【0040】
【化11】
[一般式(11)中、R
9及びR
10は、それぞれ独立に炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。]
【0043】
【化14】
[一般式(14)中、R
11は、2価の炭素数1〜10の飽和炭化水素基であり、R
12及びR
13は、それぞれ独立に炭素数1〜20の飽和炭化水素基である。R
12及びR
13の上記飽和炭化水素基は、分子骨格中に少なくとも1つの水酸基を有する炭素数1〜20の飽和炭化水素基であってもよい。]
【0044】
成分(C)の配合量は、成分(A)、及び成分(B)の総和100質量部に対して0.1〜30質量部が好ましく、0.3〜25質量部がより好ましく、0.5〜20質量部が更に好ましく、1〜10質量部であることが特に好ましく、2〜8質量部であることが極めて好ましい。成分(C)の配合量が0.1質量部以上であると、樹脂を十分にゲル化することができ、30質量部以下であるとシアネート樹脂が有する優れた耐熱性を保持できる。
【0045】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、例えば、p−(α−クミル)フェノール、モノ(α−メチルベンジル)フェノール、及びジ(α−メチルベンジル)フェノール等の単官能フェノール類、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、及びオクチル酸錫等の有機金属塩、トリエチルアミン、ピリジン、及びトリブチルアミン等のアミン類、メチルイミダゾール及びフェニルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等のリン系触媒などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物は、一般式(1)で示されるフェノール性水酸基を有するシロキサン樹脂(D)(以下、成分(D)と呼ぶことがある)を含んでもよい。
【0047】
【化15】
[一般式(1)中、Rは各々独立に炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは5〜100の整数である。]
【0048】
成分(D)のシロキサン樹脂は、上記の一般式(1)で示される構造の両末端にフェノール性水酸基を含有するシロキサン樹脂であれば特に限定されない。このようなシロキサン樹脂としては、例えば、信越化学工業株式会社製、商品名X−22−1876(水酸基価:120mgKOH/g)、商品名X−22−1875(水酸基価:60mgKOH/g)、商品名X−22−1821(水酸基価:30mgKOH/g)、商品名X−22−1822(水酸基価:20mgKOH/g)、商品名X−26−1064(水酸基価:25mgKOH/g)、東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名BY16−752A(水酸基価:30mgKOH/g)、商品名BY16−799(水酸基価:60mgKOH/g)が挙げられる。これらは、信越化学工業株式会社又は東レ・ダウコーニング株式会社等から商業的に入手できる。これらの中で、耐熱性、低熱膨張性、及び溶剤溶解性に優れる点から、信越化学工業株式会社製、商品名X−22−1876(水酸基価:120mgKOH/g)、商品名X−22−1875(水酸基価:60mgKOH/g)、商品名X−22−1821(水酸基価:30mgKOH/g)、東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名BY16−752A(水酸基価:30mgKOH/g)、商品名BY16−799(水酸基価:60mgKOH/g)が好ましい。
【0049】
成分(D)の配合量は、成分(A)、及び成分(B)の総和100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜90質量部がより好ましく、30〜80質量部が更に好ましい。成分(D)の配合量が10質量部以上であると、樹脂組成物の硬化物を十分に低弾性率化でき、樹脂の応力緩和性が向上する。100質量部以下であるとシアネート樹脂が有する優れた耐熱性を保持できる。
【0050】
成分(D)を配合する場合、成分(A)、及び成分(B)とプレ反応させることで樹脂同士の相溶性を向上させることができる。すなわち、有機溶媒中、80〜120℃で成分(A)、及び成分(D)をエーテル化反応させた後、成分(B)とイミノカーボネ−ト化反応、及びトリアジン環化反応を進行させる。この反応による成分(B)の反応率(消失率と記す場合もある)を20〜70%となるように反応を行う。
【0051】
プレ反応に使用可能な反応溶媒としては、特に限定されないが、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の窒素原子含有溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶媒などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、揮発性が高くフィルム作製時に残留溶媒が残りにくい点から、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンが好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンがより好ましい。
【0052】
成分(A)と成分(D)のエーテル化反応では、必要に応じて反応触媒を使用することができる。反応触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、及びトリブチルアミン等のアミン類、メチルイミダゾール及びフェニルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等のリン系触媒が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、成分(A)及び成分(D)に対する反応性が高い点から、トリフェニルホスフィン等のリン系触媒を用いることが好ましい。
【0053】
エーテル化反応の後のイミノカーボネ−ト化反応、及びトリアジン環化反応では、有機金属塩を反応触媒として用いることができる。有機金属塩としては、例えば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、オクチル酸錫、及びオクチル酸コバルトが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、硬化性、溶媒溶解性の観点から、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅が好ましい。
【0054】
イミノカーボネ−ト化反応、及びトリアジン環化反応では、反応率が20%以上であると樹脂が十分に相溶し、また、反応率が70%以下であると、得られる樹脂が溶媒に不溶となるのを避けられる。
【0055】
なお、イミノカーボネ−ト化反応は、水酸基とシアネート基の付加反応によりイミノカーボネ−ト結合(−O−(C=NH)−O−)が生成される反応であり、トリアジン環化反応は、シアネート基が3量化しトリアジン環を形成する反応である。また、このシアネート基が3量化しトリアジン環を形成する反応により3次元網目構造化が進行するが、これによって成分(A)、成分(B)、及び成分(D)が均一に分散された樹脂組成物が製造される。
【0056】
イミノカーボネ−ト化反応、及びトリアジン環化反応の反応率は、GPC測定により反応開始時の成分(B)のピーク面積と、所定時間反応後のピーク面積を比較し、ピーク面積の消失率から求められる。
【0057】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物は、無機充填材(E)(以下、成分(E)と呼ぶことがある)を含んでもよい。
【0058】
成分(E)の無機充填材としては、特に限定されるものではないが、シリカ、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、及びチタン酸カリウム等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
上記の中でも、誘電特性、耐熱性、低熱膨張性の点から、シリカが特に好ましい。シリカとしては、例えば、湿式法で製造され含水率の高い沈降シリカ、及び乾式法で製造され結合水等をほとんど含まない乾式法シリカが挙げられる。乾式法シリカとしては、さらに、製造法の違いにより破砕シリカ、フュームドシリカ、溶融球状シリカが挙げられる。これらの中で、低熱膨張性及び樹脂に充填した際の高流動性から、溶融球状シリカが好ましい。
【0060】
成分(E)として溶融球状シリカを用いる場合、その平均粒子径は0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜8μmであることがより好ましい。溶融球状シリカの平均粒子径を0.1μm以上にすることで、樹脂に高充填した際の流動性を良好に保つことができ、10μm以下にすることで、粗大粒子の混入確率を減らし粗大粒子起因の不良の発生を抑えることができる。ここで、平均粒子径とは、粒子の全体積を100%として粒子径による累積度数分布曲線を求めたとき、体積50%に相当する点の粒子径であり、レーザ回折散乱法を用いた粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0061】
本実施形態においては、異なる粒子径のシリカを組み合わせて充填することで、さらなる高充填化が可能となり、流動性を維持したまま充填率の向上が可能となる。
【0062】
成分(E)の配合量は、フィルム形成用樹脂組成物における硬化物を形成する成分全量を100質量部としたとき((E)成分等の無機物及び揮発成分を除く成分全量を100質量部としたとき)に、10〜300質量部であることが好ましく、50〜250質量部であることがより好ましい。無機充填材(E)の配合量を、上記範囲内にすることで、樹脂組成物の成形性と低熱膨張性を良好に保つことができる。
【0063】
本実施形態のフィルム形成用樹脂組成物には、樹脂組成物中における無機充填材(E)の分散性を向上させるために、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系、シリコーンオリゴマ等のカップリング剤を適宜添加することができる。
【0064】
また、本実施形態に係るフィルム形成用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、表面調整剤、流動調整剤、顔料、離型剤等を挙げることができる。表面調整剤としては、例えば、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル系重合物等が挙げられる。フィルム形成用樹脂組成物に表面調整剤を配合することで、フィルム形成用樹脂組成物の支持体への濡れ性が向上する傾向がある。
【0065】
本実施形態の封止フィルムは、本実施形態に係るフィルム形成用樹脂組成物を用いてなるものである。
【0066】
本実施形態の封止フィルムは、例えば、上述した成分(A)〜(C)、必要に応じて、成分(D)、(E)及びその他の成分が有機溶媒に溶解又は分散した樹脂ワニスを用いて製造することができる。
【0067】
樹脂ワニスは、成分(A)〜(C)、必要に応じて、成分(D)、(E)及びその他の成分を、有機溶媒と配合し、製造することができる。
【0068】
樹脂ワニスを製造する際に用いる有機溶媒としては、特に制限されないが、例えばエタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の窒素原子含有溶媒、ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶媒などが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも、揮発性が高くフィルム作製時に残留溶媒が残りにくい点から、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンが好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンがより好ましい。
【0069】
樹脂ワニスを製造する際の有機溶媒の配合量は、成分(A)〜(C)、並びに、必要に応じて配合される成分(D)、(E)及びその他の成分の総和を100質量部としたときに、8〜50質量部が好ましく、9〜45質量部がより好ましく、10〜40質量部が特に好ましい。有機溶媒の配合量を8質量部以上とすることで、樹脂ワニスの流動性が確保されやすくなり、50質量部以下とすることで、フィルム化において揮発させなければならない溶媒量を少なくできる。
【0070】
このようにして製造した樹脂ワニスを、支持体の片面又は両面に塗布した後、加熱乾燥させ、封止フィルムを得ることができる。
【0071】
用いる支持体としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のビニルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、アセチルセルロースフィルム、テトラフルオロエチレンフィルム、並びに、銅箔及びアルミニウム箔等の金属箔が挙げられる。これらの中でも、価格及び耐熱性の点で、ポリエステルフィルムを用いることが好ましい。
【0072】
支持体の厚みも、特に限定されるものではないが、例えば、10〜200μmであることが好ましく、20〜150μmであることがより好ましい。
【0073】
支持体の片面又は両面に樹脂ワニスを塗布する方法としては、特に限定されるわけではないが、例えば、コンマコーター、バーコーター、キスコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の塗工装置を用いることができる。
【0074】
支持体に塗布した樹脂ワニスを加熱乾燥させる方法としては、特に限定されるわけではないが、例えば、熱風吹きつけ等の方法が挙げられる。例えば、100〜140℃で、5〜20分間乾燥させることで、封止フィルムを得ることができる。
【0075】
本実施形態の封止フィルムの厚みは30〜250μmであることが好ましい。また、本実施形態の封止フィルムを複数枚積層して、250μmを超える封止用フィルムを製造することもできる。
【0076】
封止フィルムにおける揮発成分(主に有機溶媒)の含有量は、封止フィルムの全質量基準で、0.2〜1.6質量%であることが好ましく、0.3〜1質量%であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、フィルム割れ等の不具合を防止でき、良好な取扱い性が得られる。また、熱硬化時に揮発成分の揮発に伴うボイド等の不具合を防止することができる。
【0077】
本実施形態の支持体付き封止フィルムは、本実施形態の封止フィルムの少なくとも1つの面に支持体が設けられたものである。支持体としては、前述の封止フィルムを製造する際に用いられる支持体を用いることができる。
【0078】
本実施形態の半導体装置は、本実施形態の封止フィルムによって封止された半導体素子を備えるものである。封止フィルムによる半導体素子の封止には本実施形態の支持体付き封止フィルムを用いることもできる。
【0079】
図1及び
図2は、半導体装置の製造方法の一実施形態を説明するための模式断面図である。本実施形態に係る方法は、仮固定材40を有する基板30上に並べて配置された被埋め込み対象である半導体素子20に、支持体1と支持体1上に設けられた封止フィルム2とを備える支持体付き封止フィルム10を対向させ、半導体素子20に封止フィルム2を加熱下で押圧することにより、封止フィルム2に半導体素子20を埋め込む工程(
図1(a)及び(b))と、半導体素子が埋め込まれた封止フィルムを硬化させる工程(
図1(c))とを備える。本実施形態においては、ラミネート法によって、封止フィルムが熱硬化した硬化物2aに半導体素子20が埋め込まれた封止成形物が得られているが、コンプレッションモールドにより封止成形物を得てもよい。
【0080】
使用するラミネーターとしては、特に限定されるものではないが、ロール式、バルーン式等のラミネーターが挙げられる。これらの中でも、埋め込み性の観点からは、真空加圧が可能なバルーン式が好ましい。
【0081】
ラミネート温度は、通常、フィルム状の支持体の軟化点以下で行う。更に、ラミネート温度は、封止用フィルムの最低溶融粘度付近が好ましい。ラミネート時の圧力は、埋め込む半導体素子又は電子部品のサイズ、密集度によって変わるが、0.2〜1.5MPaの範囲で行うことが好ましく、0.3〜1.0MPaの範囲で行うことがより好ましい。ラミネート時間も、特に限定されるものではないが、20〜600秒が好ましく、30〜300秒がより好ましく、40〜120秒が更に好ましい。
【0082】
封止フィルムの硬化は、例えば、大気下又は不活性ガス下で行うことができる。硬化温度としては、特に限定されるものではないが、80〜280℃が好ましく、100〜240℃がより好ましく、120〜200℃が更に好ましい。硬化温度が80℃以上であれば、封止フィルムの硬化が十分に進み、不具合の発生を抑制することができる。硬化温度が280℃以下の場合は、他の材料への熱害の発生を抑制することができる。硬化時間も、特に限定されるものではないが、30〜600分が好ましく、45〜300分がより好ましく、60〜240分が更に好ましい。硬化時間がこれらの範囲であれば、封止フィルムの硬化が十分に進み、良好な生産効率が得られる。また、硬化条件は、複数を組み合わせてもよい。
【0083】
本実施形態においては、以下の絶縁層形成、配線パターン形成、ボールマウント、及びダイシングの各工程を経て、半導体装置を得ることができる。
【0084】
まず、基板30から剥離した封止成形物100の半導体素子20が露出する側に、再配線材用の絶縁層50を設ける(
図2(a)及び(b))。次に、絶縁層50に対し、配線パターン形成を行った後、ボールマウントを行い、絶縁層52、配線54、ボール56を形成する。
【0085】
次に、ダイシングカッター60により、封止成形物を個片化して、半導体装置200を得る。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
<製造例1:熱硬化性樹脂組成物(A−1)の作製>
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積500ミリリットルの反応容器に、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、JER806):90.0gと、一般式(1)で示されるフェノール性水酸基を有するシロキサン樹脂(信越化学工業株式会社製、X−22−1876):90.0gと、メチルイソブチルケトン:120.0gと、トリフェニルホスフィン:1.45gを投入した。反応容器を90℃に昇温し、同温で4時間攪拌することでエーテル化反応を完結させた。次いで、反応容器を室温(25℃)まで冷却した後に、フェノールノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社製、PT−30):120.0gを投入した。反応容器を110℃に昇温した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.06g投入した。そして、同温で反応液を4時間反応させた。その後、その反応液を室温に冷却し熱硬化性樹脂組成物の溶液を得た。
【0088】
この反応溶液を少量取り出し、GPC測定(ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)を行った。溶出時間が約12.2分付近に出現する合成原料のフェノールノボラック型シアネート樹脂のピーク面積について、反応開始時のフェノールノボッラク型シアネート樹脂のピーク面積と比較したところ、ピーク面積の消失率が33%であった。これより、フェノールノボッラク型シアネート樹脂の反応率は33%であった。さらに、反応溶液を少量取り出し、薄膜形成法によりFT−IR測定を行ったところ、重合反応によって生成されるトリアジン環の波数1560cm
−1付近に出現するピークを確認することができた。また、エポキシ基の挿入反応によって生成されるイソシアヌレート及びオキサゾリジノンの波数1670cm
−1及び1740cm
−1付近に出現するピークをそれぞれ確認することができた。その後、所定量のメチルイソブチルケトンを添加することで樹脂分を70質量%に調整し、熱硬化性樹脂組成物(A−1)を得た。
【0089】
<ゲル化性評価用樹脂組成物の作製>
表1に示した各成分の所定量をメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分70質量%の樹脂ワニスを作製した。調整した樹脂ワニスを2mlのスクリュー管に加え、乾燥炉にて120℃で15分間加熱乾燥し、ゲル化評価用樹脂組成物を得た。
【0090】
<支持体付き封止フィルムの作製>
表2に示した各成分の所定量をメチルイソブチルケトンに溶解、分散させ、固形分80質量%の樹脂ワニスを調製した。調製したフィルム形成用樹脂組成物からなる樹脂ワニスをポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に塗布して、乾燥炉にて120℃で8分間加熱乾燥し、半硬化状態の支持体付き封止フィルム(封止フィルムの厚さ:100μm)を作製した。
【0091】
表中の配合成分としては以下のものを用いた。
(1)液状エポキシ樹脂
JER806:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、JER806、商品名)
(2)シアネート樹脂
PT−30:フェノールノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社製、Primaset PT−30、商品名)
(3)オイルゲル化剤
ゲルオールD:1,3:2,4−ビス−O−ベンジリデン−D−グルシトール(新日本理化株式会社製、ゲルオールD、商品名)
HSA:12−ヒドロキシステアリン酸(和光純薬工業株式会社製、商品名)
NGB:n−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−ジブチルアミド(和光純薬工業株式会社製、商品名)
【0092】
(4)有機金属塩
ナフテン酸亜鉛:ナフテン酸亜鉛8質量%ミネラルスピリット溶液(和光純薬工業株式会社製、商品名)
(5)フェノール化合物
p−(α−クミル)フェノール:p−(α−クミル)フェノール(東京化成工業株式会社製、商品名)
(6)表面調整剤
BYK−310:ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン(BYK社製、商品名)
(7)無機充填材
球状シリカ:球状シリカ 平均粒子径0.5μm(株式会社アドマテックス製、SC−2500−SXJ、商品名)
【0093】
<評価方法>
(1)樹脂組成物のゲル化性
得られたゲル化性評価用樹脂組成物が入ったスクリュー管を約60°傾けて3分間放置し、樹脂の流動の有無からゲル化性を評価した。その結果を表1に示した。
「A」;樹脂の流動無し
「B」;樹脂の流動有り
【0094】
(2)支持体付き封止フィルムの揮発成分の含有量の測定
得られた支持体付き封止フィルムを5cm角にカットし、180℃で1時間乾燥させ、乾燥前と乾燥後の質量変化を求めることにより、下記式にしたがって、封止フィルムの全質量基準における揮発成分の含有量を求めた。その結果を表2に示した。
揮発成分の含有量(質量%)=[(乾燥前質量−乾燥後質量)/(乾燥前質量−支持体の質量)]×100
【0095】
(3)封止フィルムの耐屈曲性
得られた支持体付き封止フィルムの耐屈曲性は、屈曲試験機(JIS型タイプ1、円筒型マンドレル法)を用い以下の手順で評価した。
【0096】
試験機として、株式会社ヨシミツ精機製の屈曲試験機(JIS型タイプ1、円筒型マンドレル法、直径2mm)を用意した。支持体付き封止フィルムを5cm角にカットしたものを試験片とし、屈曲試験機に支持体をあて、試験片を180°曲げたときのクラックの発生の有無を評価した。その結果を表2に示した。耐屈曲性の評価結果が「B」である場合、封止フィルムは取り扱い性に劣る。
【0097】
(4)封止フィルムのタック性
得られた支持体付き封止フィルムに指を押し当て、封止フィルムが指に張り付いた場合は「B」、張り付かない場合は「A」として評価した。その結果を表2に示した。タック性の評価結果が「B」である場合、封止フィルムは取り扱い性に劣る。
【0098】
(5)樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)
得られた支持体付き封止フィルムの封止フィルム部分を削り取り、テフロン(登録商標)の型枠に所定量入れ、その両面に銅箔を、銅箔の光沢面が接するように配置し、240℃、2MPa、60分のプレス条件で加熱加圧成形した。成形後、銅箔をはがし、樹脂組成物の硬化物の板(厚さ:1mm)を作製した。
【0099】
得られた硬化物の板のtanδを動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム製、Rheogel−E4000)により、測定した(引張モード、周波数10Hz、昇温速度5℃/min)。そのtanδの極大値をガラス転移温度とした。その結果を表2に示した。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1には成分(C)のオイルゲル化剤を配合した実施例1〜6と、オイルゲル化剤を配合していない比較例1〜2のゲル化性を示した。オイルゲル化剤を配合することで、組成物にチクソ性を付与することができ、ワニス入りスクリュー管を傾けて3分間経過しても流動性がなく、形状を維持することができる。表1から、オイルゲル化剤(C)の配合によって、ゲル化性を付与できることが示された。
【0103】
表2の実施例7〜8、比較例3〜4には、成分(A)の液状エポキシ樹脂を共通に用いているので、封止フィルムの厚みが厚い場合でも、揮発成分の含有率を低下させることができる。揮発成分の含有率を低下させると、封止フィルムには変形による割れ又はクラックが生じやすいが、表2の実施例7、8から、フィルム中の揮発成分の含有量が0.6質量%以下でも良好な耐屈曲性を示すことが確認された。さらに、液状の樹脂を用いた場合、封止フィルムには液状の樹脂に起因する過度なタックが生じやすいが、表2の実施例7、8から、タック性も良好(べたつきのない)な100μm厚のフィルムが作製可能であることが確認された。
【0104】
一方、オイルゲル化剤(C)を含まない比較例3、4の封止フィルムは、フィルムの耐屈曲性は良好であったが、過度なタックが生じ取り扱い性が悪化した。
【0105】
実施例7、8の封止フィルムは、硬化物のガラス転移温度(Tg)が200℃以上であった。一般的に有機材料は、Tgを超える温度領域において物性が大きく損なわれるため、高いTgを有する硬化物を形成することができる本発明に係るフィルム形成用樹脂組成物によれば、良好な耐熱性、信頼性を得ることができる。
【0106】
以上より、本発明によれば、揮発成分を低減しても取り扱い性が良好であり、且つ十分に高いガラス転移温度を有する硬化物を形成できるフィルム形成用樹脂組成物、封止フィルム及び支持体付き封止フィルムを提供することができることが分かる。