特許第6747452号(P6747452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6747452液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747452
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20200817BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20200817BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20200817BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08L79/08
   C08G73/10
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-552704(P2017-552704)
(86)(22)【出願日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】JP2016084841
(87)【国際公開番号】WO2017090691
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229489(P2015-229489)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】石川 和典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏樹
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/060366(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/060363(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08L 79/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、及び(B)成分を含有することを特徴とする液晶配向剤。
(A)成分:下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを含有するポリアミック酸エステル。
(B)成分:下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸。
【化1】
【化2】
(式(1)及び式(2)中、複数あるRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基である。複数あるRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。Yは、下記式(Y1−1)で表される2価の有機基であり、Yは下記式(Y2−1)で表される2価の有機基である。)
【化3】
(式(Y1−1)中、2つのRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−OCO−、又は−COO−である。2つのRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキレン基である。Rは酸素原子または硫黄原子である。)
【化4】
(式(Y2−1)中、A及びAは、それぞれ独立して、単結合、メチレン、炭素数2〜5のアルキレン、アゼチジンジイル、ピロリジンジイル、又はピペリジンジイルである。B及びBは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CONCH−、又は−NCHCO−である。A及びAは、それぞれ独立して、単結合、メチレン、又は炭素数2〜5のアルキレンである。Aはメチレン、又は炭素数2〜6のアルキレンである。aは0又は1である。Rは水素原子又はメチル基であり、Dは熱により水素原子に置き換わる保護基である。)
【化5】
(式(3)中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項2】
式(Y1−1が、下記の(Y1−1−1)〜(Y1−1−8)からなる群から選ばれる請求項1に記載の液晶配向剤。
【化6】
【請求項3】
式(Y2−1中、A、A、A、A、B、Bは単結合であり、Aはメチレン、又は炭素数2〜6のアルキレンであり、aが1である、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
式(3)中、Yが、下記(i)、(iii)及び(iii)からなる群より選ばれる2価の有機基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
(i) 下記(c−1)又は(c−2)で表される構造。
(ii) 下記(c−1)〜(c−4)からなる群から選ばれる構造の組合せ。
(iii) 下記(c−1)〜(c−4)からなる群から選ばれる構造の組合せの途中に下記(d−1)〜(d−3)からなる群から選ばれる結合基を含む。
【化7】
(式(c−1)中、Rは、水素原子、メチル基、又はカルボキシル基を表す。)
【請求項5】
式(3)中、Xが下記(X−1)〜(X−14)からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の有機基である、請求項4に記載の液晶配向剤。
【化8】
【化9】
【請求項6】
式(1)で表される繰り返し単位の割合、又は式(2)で表される繰り返し単位の割合は、(A)成分であるポリアミック酸エステルに含まれる全繰り返し単位のうちの1〜70モル%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
前記(A)成分のポリアミック酸エステルにおける、式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位との含有比率(モル比)が、1:10〜10:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
前記前記(A)成分及び(B)成分の合計含有量が、液晶配向剤全体に対して、0.5〜15質量%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項9】
前記(A)成分と前記(B)成分との質量含有比率が1/9〜9/1であり、前記(A)成分の100質量部に対して、前記(B)成分が100〜400質量部含有される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項10】
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミドからなる群から選ばれる有機溶媒を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項11】
さらに、シランカップリング剤、架橋剤、又はド化促進剤を含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜。
【請求項13】
請求項12に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向膜を作製するのに用いられる液晶配向剤、前記液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び前記液晶配向膜を有する液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示素子はデジタルカメラ、パソコン、携帯型端末、テレビなど、多くの機器における画像表示部分に広く使用されている。この様な液晶表示素子は、流動性がある液晶組成物を二枚の支持基板で挟み封じ込めた構造をしており、前記基板の液晶に接する面には、液晶分子を配向させるための液晶配向膜が設けられている。液晶配向膜は一般的に前記基板上に液晶配向剤を塗布する工程を経て作製される。また、液晶分子を基板の面内方向に配向させる場合は、液晶配向剤から得られた膜に対して、ラビング処理や光配向処理などが行われる。
【0003】
液晶配向膜に求められる基本的な特性は液晶分子を所定の方向に配向させることであるが、高性能な液晶表示素子を実現する為には他にも様々な特性の改善が必要とされ、更には、安定した工業生産においては液晶配向剤の塗布性や保存安定性などの特性も重要になる。例えば特許文献1には、ラビング処理による膜の削れや傷が起こりにくい液晶配向膜を提供することを目的とした液晶配向剤が開示されている。また特許文献2には、膜のラビング耐性に加えて、ラビング方向と液晶の配向方向のずれを抑制することができ、液晶表示素子にした時の電圧保持率が高く、蓄積した電荷を素早く緩和させることができる液晶配向膜の提供を目的とした液晶配向剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2010/053128号パンフレット
【特許文献2】国際公開公報WO2015/122413号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の液晶表示素子の益々の高性能化に伴い、液晶配向膜には種々の特性を今までよりも高いレベルで実現することが求められている。例えば、液晶表示素子が高精細化したことにより、ラビング耐性に関しては従来よりも小さな削れや傷が問題にされるようになってきた。加えて他の複数の特性も同時に実現することも求められている。
【0006】
以上のことから、本発明は、ラビング耐性や液晶配向の安定性に優れ、液晶表示素子の蓄積電荷の緩和が早い液晶配向膜、更には液晶表示素子を駆動させた直後のちらつき(フリッカーレベル)が小さい液晶配向膜を得ることができ、かつ、保存安定性に優れる液晶配向剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものであり、本発明は以下を要旨とする。
下記の(A)成分、及び(B)成分を含有することを特徴とする液晶配向剤。
(A)成分:下記式(1)で表される繰り返し単位と下記式(2)で表される繰り返し単位とを含有するポリアミック酸エステル。
(B)成分:下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸。
【化1】
【化2】
(式(1)及び式(2)中、複数あるRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基であり、複数あるRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Yは下記式(Y1−1)で表される2価の有機基であり、Yは下記式(Y2−1)で表される2価の有機基である。)
【化3】
式(Y1−1)中、2つのRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−OCO−、又は−COO−であり、2つのRは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキレン基であり、Rは酸素原子または硫黄原子である。
【化4】
式(Y2−1)中、A及びAはそれぞれ独立して単結合、メチレン、炭素数2〜5のアルキレン、アゼチジンジイル、ピロリジンジイル、又はピペリジンジイルであり、B及びBはそれぞれ独立して単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CONCH−、又は−NCHCO−であり、A及びAはそれぞれ独立して単結合、メチレン、又は炭素数2〜5のアルキレンであり、Aはメチレン、又は炭素数2〜6のアルキレンであり、aは0又は1であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Dは熱により水素原子に置き換わる保護基である。
【化5】

式(3)中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラビング耐性や液晶配向の安定性に優れ、液晶表示素子の蓄積電荷の緩和が早い液晶配向膜、更には液晶表示素子を駆動させた直後のちらつき(フリッカーレベル)が小さい液晶配向膜を得ることができ、かつ、保存安定性に優れる液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び該液晶配向膜を具備する高性能な液晶表示素子が提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ポリアミック酸エステル(A)>
前記(A)成分であるポリアミック酸エステルは、上記式(1)で表される繰り返し単位と、下記式(2)で表される繰り返し単位と、を含有するポリアミック酸エステルである。
式(1)及び式(2)中、複数あるRはそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基である。また、式(1)及び式(2)中、複数あるRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0010】
式(1)中、Yは、下記式(Y1−1)で表される2価の有機基である。
【化6】

式(Y1−1)中、R、R、Rは、上記に定義したとおりである、なかでも、Rは、単結合、−O−が好ましく、Rはメチレン基が好ましく、Rは酸素原子が好ましい。
【0011】
以下にYの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【化7】
【0012】
【化8】
【0013】
上記の中でも、液晶の配向安定性の観点からは(Y1−1−1)〜(Y1−1−8)が好ましい。また、式(1)で表される繰り返し単位の(含有)割合は、(A)成分であるポリアミック酸エステルに含まれる全繰り返し単位のうちの1〜70モル%であることが好ましく、より好ましくは5〜50モル%である。
【0014】
前記式(2)中、Yは、下記式(Y2−1)で表される2価の有機基である。
【化9】
【0015】
式(Y2−1)中、A、Aは、B、B、A、A、A、R,、aは、上記に定義したとおりである。なかでも、A、Aは単結合、メチレン基、エチレン基又は、プロピレン基が好ましい。また、A又はAがアゼチジンジイル、ピロリジンジイル、ピペリジンジイルなどの脂肪族複素環である場合は、アゼチジン−1,3−ジイル、ピロリジン−1,3−ジイル、又はピペリジン-1,4-ジイルが好ましく、環内の窒素原子が隣接するベンゼン環に結合するのがより好ましい。
また、B及びBは、単結合、又は−O−が好ましい。A及びAは単結合、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基が好ましい。Aはエチレン基が好ましい。aは0が好ましい。Rは水素原子が好ましい。
【0016】
式(Y2−1)中、Dは熱により水素原子に置き換わる保護基であり、液晶配向剤の保存安定性の観点から、室温では脱離せず、かつ液晶配向膜の作製工程における加熱で脱離して水素原子に置き換わる基が好適である。好ましい脱離温度としては80〜200℃、より好ましくは100〜200℃、特に好ましくは150〜200℃である。このような基の具体例としては1,1−ジメチル−2−クロロエトキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−シアノエトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、又は9−フルオレニルメトキシカルボニル基などが挙げられ、好ましくはtert−ブトキシカルボニル基、又は9−フルオレニルメトキシカルボニルV基であり、特に好ましいのはtert−ブトキシカルボニル基である。
【0017】
上記式(Y2−1)で表される2価の有機基のうち、A〜A、B、B及びaの好ましい組合せとしては、以下に示すタイプ1〜タイプ3の組合せを挙げることができ、より好ましくはタイプ1又はタイプ2であり、特に好ましいのはタイプ1である。
【0018】
タイプ1:A及びAは独立して、単結合、メチレン、炭素数2〜5のアルキレンであり、B及びBは独立して単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CONCH−、又は−NCHCO−であり、A及びAは独立してメチレン、又は炭素数2〜5のアルキレンであり、Aはメチレン、又は炭素数2〜6のアルキレンであり、aが0又は1である。
より好ましくは、A及びAは共に単結合であり、B及びBは独立して単結合又は−O−であり、A及びAは独立してメチレン、又は炭素数2〜5のアルキレンであり、Aはメチレン、又は炭素数2〜6のアルキレンであり、aが0又は1である。
【0019】
タイプ2:A及びAは独立して単結合、アゼチジンジイル、ピロリジンジイル、又はピペリジンジイルであり、B及びBは共に単結合であり、A及びAは独立してメチレン、又は炭素数2〜5のアルキレンであり、aが0である。より好ましくは、Aはアゼチジンジイル、ピロリジンジイル、又はピペリジンジイルであり、Aはメチレン、又は炭素数2〜5のアルキレンであり、A、A、B及びBは単結合であり、aが0である。
タイプ3:A、A、A、A、B、Bは単結合であり、Aはメチレン、又は炭素数2〜6のアルキレンであり、aが1である。
【0020】
以下にYの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお下記構造中のDは、式(Y2−1)の定義と同じである。
【化10】
【0021】
【化11】
【0022】
【化12】
【0023】
【化13】
【0024】
【化14】
【0025】
式(2)で表される繰り返し単位の(含有)割合は、(A)成分であるポリアミック酸エステルに含まれる全繰り返し単位のうちの1〜70モル%が好ましく、より好ましくは5〜50モル%である。
(A)成分であるポリアミック酸エステルにおいて、式(1)で表される繰り返し単位と式(2)で表される繰り返し単位の好ましい比率としては、モル比で1:10〜10:1であり、より好ましくは1:6〜6:1である。また、(A)成分であるポリアミック酸エステルに含まれる全繰り返し単位において、式(1)で表される繰り返し単位と式(2)で表される繰り返し単位の合計は、15モル%以上であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上である。
【0026】
前記(A)成分であるポリアミック酸エステルは、前記式(1)及び式(2)以外の繰り返し単位を有していてもよい。式(1)及び式(2)以外の繰り返し単位の構造は特に限定されないが、あえてその具体例を挙げるなら下記式(4)で表される繰り返し単位が好ましい。
【化15】
【0027】
式(4)中、R,Rは式(1)と同じ定義であり、Yは前記式(Y1−1)及び式(Y2−1)以外の2価の有機基を表す。式(4)中のYの構造は前記式(Y1−1)及び式(Y2−1)以外の2価の有機基であれば特に限定されない。以下に好ましい構造の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
【化16】
【0029】
【化17】
【0030】
【化18】
【0031】
【化19】
【0032】
上記構造の内でも、(Y−5)、(Y−10)〜(Y−16)、(Y−18)、(Y−24)〜(Y−29)などは特に好ましい。
以上(A)成分であるポリアミック酸エステルは、既知の合成手法で得ることができる。その例としては、下記式(1a)で表される化合物を含むテトラカルボン酸誘導体成分と下記式(1b)及び(2b)で表される化合物を含むジアミン成分とを縮重合させる手法、または、下記式(1a’)で表される化合物を含むテトラカルボン酸二無水物成分と下記式(1b)及び(2b)で表される化合物を含むジアミン成分とを付加重合させてポリアミック酸を得た後にカルボキシル基をエステル化する手法などを挙げることができる。
【0033】
【化20】
【0034】
式中、Rはヒドロキシ基又は塩素原子であり、R,R,Yは式(1)と同じ定義であり、Yは式(2)と同じ定義である。
本発明の液晶配向剤において、(A)成分であるポリアミック酸エステルの分子量は特に限定されないが、好ましくは重量平均分子量で2,000〜500,000、より好ましくは5,000〜300,000であり、さらに好ましくは10,000〜100,000である。
【0035】
<ポリアミック酸(B)>
前記(B)成分であるポリアミック酸は、下記式(3)で表される繰り返し単位を有する。なお、このポリアミック酸に含まれる式(3)の構造は1種類であっても2種類以上であってもよい。
【化21】
【0036】
式(3)中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
上記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリアミック酸は、例えば、下記式(3a)で表される少なくとも1種類の化合物と、下記式(3b)で表される少なくとも1種類の化合物との縮重合によって得ることができる。従って、式(3)における、Xは式(3a)で表される全ての化合物に対応する構造を含むことができる。同様に、式(3)におけるY及びRは式(3b)で表される全ての化合物に対応する構造を含むことができる。
【0037】
【化22】
【0038】
式(3a)及び式(3b)におけるX,Y,Rは、式(3)におけるそれぞれと同じ定義である。
以下に、式(3)におけるXの好ましい構造の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【化23】
【0039】
【化24】
【0040】
上記(X−1)において、R〜R10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。
前記式(3)におけるXは、上記(X−1)〜(X−14)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に好ましいのは上記(X−1)においてR〜R10が全て水素原子である構造、(X−2)、(X−3)、(X−5)、(X−6)、(X−7)、(X−8)、(X−10)、(X−11)、及び(X−14)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0041】
式(3)におけるYは、2価の有機基であればその構造は特に限定されないが、液晶表示素子を駆動させた直後のちらつき(フリッカーレベル)の改善効果を高めるという観点からは、Yが式(Y1−1)又は式(Y2−1)である繰り返し単位を含まないことが好ましい。
より具体的には、Yは下記(i)〜(iii)からなる群より選ばれる2価の有機基が好ましい。
【0042】
(i) 下記(c−1)又は(c−2)で表される構造。
(ii) 下記(c−1)〜(c−4)から選ばれる構造の組合せ。
(iii) 下記(c−1)〜(c−4)から選ばれる構造の組合せの途中に下記(d−1)〜(d−3)から選ばれる結合基を含む。
【0043】
【化25】
【0044】
式(c−1)中、Rは水素原子、メチル基、又はカルボキシル基を表す。
上記で、(c−1)〜(c−4)からなる群から選ばれる構造の組合せにおいては、同じ構造を複数用いた組合せであってもよい。また、(d−1)〜(d−3)からなる群から選ばれる結合基どうしが隣り合うことはない。(i)〜(iii)からなる群より選ばれる2価の有機基の分子量は1000以下であるとより好ましい。かかるYの具体例としては、前記(Y−1)〜(Y−34)などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。なかでも、(Y−5)、(Y−8)、(Y−9)、(Y−12)、(Y−17)、(Y−18)〜(Y−20)、又は(Y−29)特に好ましい。
【0045】
本発明の液晶配向剤において、(B)成分であるポリアミック酸の分子量は、好ましくは重量平均分子量で2,000〜500,000、より好ましくは5,000〜300,000であり、さらに好ましくは10,000〜100,000である。
【0046】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤に含有されるポリアミック酸エステル(A)とポリアミック酸(B)との質量(含有)比率(ポリアミック酸エステル/ポリアミック酸)は、1/9〜9/1が好ましく、より好ましくは2/8〜8/2である。
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸エステル(A)とポリアミック酸(B)とを含有する溶液の形態であると好ましい。この場合、ポリアミック酸エステル(A)及びポリアミック酸(B)の合計含有量は、形成させようとする液晶配向膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させる点から、液晶配向剤全体の0.5質量%以上が好ましく、溶液の保存安定性の点からは15質量%以下が好ましい。特に、0.5〜10質量%がより好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。
【0047】
本発明の液晶配向剤に含有される有機溶媒は、ポリアミック酸エステル(A)及びポリアミック酸(B)のポリマー成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明の液晶配向剤に含有されるポリアミック酸エステル(A)とポリアミック酸(B)との相溶性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドンの含有比率が、液晶配向剤の全重量に対して30〜80質量%であると好ましい。また、単独ではポリマー成分を均一に溶解できない溶媒であっても、ポリマーが析出しない範囲であれば、上記の有機溶媒に混合してもよい。
【0048】
本発明の液晶配向剤は、有機溶媒の他に、液晶配向剤を基板へ塗布する際の塗膜均一性を向上させるための溶媒を含有してもよい。かかる溶媒は、一般的に上記有機溶媒よりも低表面張力の溶媒が用いられる。その具体例を挙げるならば、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ブチルセロソルブアセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル等が挙げられる。これらの溶媒は2種類上を併用してもよい。
【0049】
本発明の液晶配向剤は、シランカップリング剤、架橋剤、イミド化促進剤等の各種添加剤を含有してもよい。
シランカップリング剤は、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的で添加され得る。また、シランカップリング剤は1種類でも、2種類以上組み合わせてもよい。シランカップリング剤の含有量は、ポリマー成分100質量部に対して0.01〜5.0質量部が好ましく、0.1〜2.0質量部がより好ましい。
【0050】
シランカップリング剤の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン等のアミン系シランカップリング剤;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤;3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリル系シランカップリング剤;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル系シランカップリング剤;3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド系シランカップリング剤;ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤;トリエトキシシリルブチルアルデヒド等のアルデヒド系シランカップリング剤;トリエトキシシリルプロピルメチルカルバメート、(3−トリエトキシシリルプロピル)−t−ブチルカルバメート等のカルバメート系シランカップリング剤。
【0051】
上記架橋剤は、液晶配向膜の膜強度を高める目的で使用できる。また、架橋剤は1種類であってもよく、2種類以上組み合わせてもよい。架橋剤の使用量は、ポリマー成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。
上記架橋剤としては、エポキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、シクロカーボネート基、又はヒドロキシアルキルアミド基を有する架橋性化合物、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基及び低級アルコキシアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有する架橋性化合物、又は重合性不飽和結合を有する架橋性化合物などを挙げることができる。これら置換基や重合性不飽和結合は、架橋性化合物中に2個以上有することが好ましい。
【0052】
架橋剤の具体例を以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。エポキシ基又はイソシアネート基を有する架橋性化合物としては、ビスフェノールアセトングリシジルエーテル、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルアミノジフェニレン、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビス(アミノエチル)シクロヘキサン、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、トリフェニルグリシジルエーテルエタン、ビスフェノールヘキサフルオロアセトジグリシジルエーテル、1,3−ビス(1−(2,3−エポキシプロポキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロメチル)ベンゼン、4,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)オクタフルオロビフェニル、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、2−(4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)−2−(4−(1,1−ビス(4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)エチル)フェニル)プロパン、1,3−ビス(4−(1−(4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)−1−(4−(1−(4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)−1−メチルエチル)フェニル)エチル)フェノキシ)−2−プロパノール等が挙げられる。
【0053】
オキセタン基を有する架橋性化合物としては、国際公開公報WO2011/132751号パンフレットの58〜59頁に掲載される式[4a]〜[4k]で表される架橋性化合物が挙げられる。シクロカーボネート基を有する架橋性化合物としては、国際公開公報WO2012/014898号パンフレットの76〜82頁に掲載される式[5−1]〜[5−42]で表される架橋性化合物が挙げられる。
ヒドロキシアルキルアミド基を有する架橋性化合物としては、国際公開公報WO2015/072554号パンフレットの23ページ[化35]に掲載される架橋性化合物が挙げられる。ヒドロキシル基及びアルコキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有する架橋性化合物としては、国際公開公報WO2011/132751号パンフレットの62〜66頁に掲載される、式[6−1]〜[6−48]で表される架橋性化合物が挙げられる。
【0054】
重合性不飽和結合を有する架橋性化合物としては、国際公開公報WO2015/060357号パンフレット58〜59頁の[0112]〜[0113]に掲載される架橋性化合物が挙げられる。
イミド化促進剤は、本発明の液晶配向剤の塗膜を焼成する際にポリアミック酸エステル(A)及びポリアミック酸(B)のイミド化反応を効率よく進行させる目的で使用できる。イミド化促進剤の使用量は、イミド化反応可能なアミック酸部位及びアミック酸エステル部位1モルに対して、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.05モル以上、更に好ましくは0.1モル以上である。また、焼成後の膜中に残留するイミド化促進剤自体が、液晶配向膜の諸特性に及ぼす悪影響を最小限に留めるという観点から、好ましくは2モル以下、より好ましくは1モル以下、更に好ましくは0.5モル以下である。
イミド化促進剤の具体例としては、国際公開公報WO2010/114103号パンフレットの29頁に掲載される、式(B−1)〜(B−17)で表される化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0055】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜は、上記に記載の本発明の液晶配向剤を用いて得られた液晶配向膜である。液晶配向膜を得る方法は既知の手法を用いることができる。例えば、液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成して得られた塗膜にラビング処理又は偏光紫外線を照射することにより液晶配向能が付与された液晶配向膜である。
液晶配向剤を塗布する基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができ、液晶駆動のためのITO電極等が形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の観点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミ等の光を反射する材料も使用できる。液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0056】
液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される有機溶媒を十分に除去するために50〜120℃で1分〜10分乾燥させ、その後150〜300℃で5〜120分焼成される。焼成後の塗膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5〜300nm、好ましくは10〜200nmである。
この塗膜を配向処理する方法としては、ラビング法、光配向処理法等が挙げられるが、本発明の液晶配向剤はラビング法で使用する場合に特に有用である。
【0057】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、上記の液晶配向膜を有する液晶表示素子である。より具体的には、上記した手法により本実施の形態の液晶配向剤から液晶配向膜付き基板を得た後、既知の方法で液晶セルを作製し、液晶表示素子としたものである。
液晶セル作製の一例を挙げるならば、次の通りである。まず、液晶配向膜の形成された一対の基板を用意する。次いで、液晶配向膜面が内側になるようにして、もう片方の基板を貼り合わせた後、液晶を減圧注入して封止する。または、液晶配向膜面に液晶を滴下した後に基板を貼り合わせて封止を行ってもよい。このとき、一対の基板間に液晶材料が充填される空間を確保する為に、一方の基板上に柱状の突起を設けるか、一方の基板上にスペーサーを散布するか、シール材にスペーサーを混入するか、又はこれらを組み合わせるなどの手段を取ることが好ましい。スペーサーの厚みは、好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜10μmである。
【0058】
上記の液晶材料としては、ネマティック液晶、スメクティック液晶を挙げることができ、その中でもネマティック液晶が好ましく、ポジ型液晶材料やネガ型液晶材料のいずれを用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付けることが好ましい。
なお、本発明の液晶配向膜及び液晶表示素子は、上記の記載に限定されるものでは無く、その他の公知の手法で作製されたものであっても良い。液晶配向剤から液晶表示素子を得るまでの工程は、例えば日本国特開2015−135393号公報の17頁[0074]〜19頁[0081]などの他、数多くの文献でも開示されている。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定して解釈されるものではない。以後で使用する化合物の略号、及び各特性の測定方法は、次のとおりである。
【0060】
<化合物の略号>
下記において「Boc」はtert−ブトキシカルボニル基である。
【化26】
【0061】
【化27】
<溶媒の略号>
NMP:N−メチル−2−ピロリドン、 BCS:ブチルセロソルブ
GBL:γ−ブチロラクトン、 IPA:イソプロピルアルコール
<粘度>
重合体溶液の粘度は、E型粘度計TVE−22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0062】
<分子量>
重合体の分子量はGPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として数平均分子量(以下、Mnとも言う。)と重量平均分子量(以下、Mwとも言う。)を算出した。
GPC装置:Shodex社製(GPC−101)
カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)、カラム温度:50℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o−リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)、流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw) 約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)約12,000、4,000、1,000)。測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、及び150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定した。
【0063】
<ラビング耐性評価>
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、透明電極付きガラス基板上にスピンコートし、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、230℃で20分間焼成して、膜厚100nmのポリイミド膜を得た。このポリイミド膜をレーヨン布で1回ラビング(ロール径120mm、回転数1000rpm、移動速度20mm/sec、押し込み量0.4mm)した。この膜表面を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて表面状態を観察し、倍率100倍で削れカスの有無と傷の有無を観察した。削れカスや傷がほとんど見られないものを「良好」と定義して評価し、多くの削れカスやラビング傷が見られるものは「不良」と定義して評価した。
【0064】
<液晶表示素子の作製>
初めに電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、ベタ状のパターンを備えたIZO電極が形成されている。第1層目の対向電極の上には第2層目として、CVD法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目としてIZO膜をパターニングして形成された櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素および第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により電気的に絶縁されている。
【0065】
第3層目の画素電極は、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字のくの字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0066】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では画素電極の電極要素が−10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が互いに逆方向となるように構成されている。
次に、得られた液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と対向基板として裏面にITO膜が成膜されており、かつ高さ4μmの柱状のスペーサーを有するガラス基板のそれぞれにスピンコートした。次いで、80℃のホットプレート上で5分間乾燥後、230℃で20分間焼成して膜厚60nmの塗膜として、各基板上にポリイミド膜を得た。このポリイミド膜上を、所定のラビング方向で、レーヨン布によりラビング(ロール径120mm、回転数500rpm、移動速度30mm/sec、押し込み量0.3mm)した後、純水中にて1分間超音波照射を行い、80℃で10分間乾燥した。
【0067】
その後、上記液晶配向膜付きの2種類の基板を用いて、それぞれのラビング方向が逆平行になるように組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが3.8μmの空セルを作製した。この空セルに液晶(MLC−2041、メルク社製)を常温で真空注入したのち、注入口を封止してアンチパラレル配向の液晶セルとした。得られた液晶セルは、FFSモード液晶表示素子を構成する。その後、得られた液晶セルを120℃で1時間加熱し、一晩放置してから各評価に使用した。
【0068】
<蓄積電荷の緩和特性の評価>
以下の光学系等を用いて残像の評価を行った。作製した液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でLEDバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように、液晶セルの配置角度を調整した。
次に、この液晶セルに周波数30Hzの交流電圧を印加しながらV−Tカーブ(電圧−透過率曲線)を測定し、相対透過率が23%となる交流電圧を駆動電圧として算出した。
【0069】
残像評価では、相対透過率が23%となる周波数30Hzの交流電圧を印加して液晶セルを駆動させながら、同時に1Vの直流電圧を印加し、60分間駆動させた。その後、印加直流電圧値を0Vにして直流電圧の印加のみを停止し、その状態でさらに30分駆動した。
評価は、直流電圧の印加を開始した時点から60分間が経過するまでに、相対透過率が30%以下に低下した場合に、「良好」と定義して評価を行った。相対透過率が30%以下に低下するまでに60分間以上を要した場合には、「不良」と定義して評価した。
そして、上述した方法に従う残像評価は、液晶セルの温度が23℃の状態の温度条件下で行った。
【0070】
<液晶配向の安定性評価>
この液晶セルを用い、60℃の恒温環境下、周波数30Hzで10VPPの交流電圧を168時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間を短絡させた状態にし、そのまま室温に一日放置した。
放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δとして算出した。第2画素でも同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度Δを算出した。そして、第1画素と第2画素の角度Δ値の平均値を液晶セルの角度Δとして算出した。この液晶セルの角度Δの値が0.2度を越える場合には、「不良」と定義し評価した。この液晶セルの角度Δの値が0.2度を越えない場合には、「良好」と定義し評価した。
【0071】
<駆動直後のフリッカーレベルの評価>
以下の光学系等を用いて残像の評価を行った。
作製した液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でLEDバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように、液晶セルの配置角度を調整した。
次に、この液晶セルに周波数30Hzの交流電圧を印加しながらV−Tカーブ(電圧−透過率曲線)を測定し、相対透過率が23%となる交流電圧を駆動電圧として算出した。
【0072】
フリッカーレベルの測定では、点灯させておいたLEDバックライトを一旦消灯して72時間遮光放置した後に、LEDバックライトを再度点灯し、バックライト点灯開始と同時に相対透過率が23%となる周波数30Hzの交流電圧を印加して、液晶セルを60分間駆動させてフリッカー振幅を追跡した。フリッカー振幅は、2枚の偏光板及びその間の液晶セルを通過したLEDバックライトの透過光を、フォトダイオード及びI−V変換アンプを介して接続されたデータ収集/データロガースイッチユニット34970A(Agilent technologies社製)で読み取った。フリッカーレベルは以下の数式で算出した。
フリッカーレベル(%)={フリッカー振幅/(2×z)}×100
【0073】
上記式において、zは相対透過率が23%となる周波数30Hzの交流電圧で駆動した際の輝度をデータ収集/データロガースイッチユニット34970Aで読み取った値である。
フリッカーレベルの評価は、LEDバックライトの点灯及び交流電圧の印加を開始した時点から60分間が経過するまでに、フリッカーレベルが3%未満を維持した場合に、「良好」と定義して評価を行った。60分間でフリッカーレベルが3%以上に達した場合には、「不良」と定義して評価した。
そして、上述した方法に従うフリッカーレベルの評価は、液晶セルの温度が23℃の状態の温度条件下で行った。
【0074】
<保存安定性の評価>
保存安定性の評価は、下記調整溶液の室温保管1週間前後での粘度変化が5mPa・s未満の場合に「良好」とし、5mPa・s以上の場合に「不良」として評価した。
【0075】
<合成例>
(合成例1)
撹拌子を入れた7Lセパラブルフラスコに、CE−1を119g(0.46mol)投入した後、NMPを2372g加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを146g(1.44mol)、DA−1を61g(0.26mol)、DA−3を21g(0.072mol)、及びDA−5を49g(0.14mol)加えて、撹拌して溶解させた。
この溶液を水冷下で撹拌しながら、DBOPを362g(0.94mol)添加し、更にNMPを326g加え、室温で12時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の粘度は27.3mPa・sであった。
【0076】
このポリアミド酸エステル溶液を20739gのIPA中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後、温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステルの粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=12,200、Mw=21,700であった。
得られたポリアミド酸エステルの粉末に、固形分濃度が12重量%になるようにNMPを加えて、50℃にて30hr攪拌して溶解させ、ポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を得た。
【0077】
(合成例2)
撹拌子を入れた300mL四つ口フラスコに、CE−1を6.85g(26.3mmol)投入した後、NMPを140g加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを8.5g(84.0mmol)、DA−2を4.10g(16.8mmol)、及びDA−5を3.82g(11.2mmol)加えて、撹拌して溶解させた。
この溶液を水冷下で撹拌しながら、DBOPを20.7g(54.0mmol)添加し、更にNMPを19.2g加え、室温で12時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の粘度は31.4mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液を1218gのIPA中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後、温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステルの粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=11,600、Mw=20,500であった。
得られたポリアミド酸エステルの粉末に、固形分濃度が12重量%になるようにNMPを加えて、50℃にて30hr攪拌して溶解させ、ポリアミド酸エステル溶液(PAE−2)を得た。
【0078】
(合成例3)
撹拌装置及び窒素導入管付きの5Lセパラブルフラスコに、DA−4を243.9g(1.22mol)及びDA−2を74.8g(0.31mol)取り、溶媒(NMP:GBL=50wt%:50wt%)を3154g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。
このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながらCA−2を129.0g(0.66mol)、CA−1を166.8g(0.77mol)添加し、更に固形分濃度が12重量%になるように溶媒(NMP:GBL=50wt%:50wt%)を加え、50℃で12時間撹拌してポリアミック酸溶液(PAA−1)を得た。このポリアミック酸溶液の粘度は310mPa・sであった。また、このポリアミック酸のMn=11,700、Mw=24,300であった。
【0079】
(合成例4)
撹拌装置及び窒素導入管付きの200mL四つ口フラスコに、DA−4を4.1g(20.4mmol)、DA−6を5.4g(13.6mmol)、及びDA−2を8.3g(34.0mol)取り、NMPを173g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。
このジアミン溶液を水冷下で撹拌しながらCA−2を5.3g(27.2mmol)、CA−1を7.4g(34.0mmol)添加し、更に固形分濃度が15重量%になるようにNMPを加え、50℃で12時間撹拌してポリアミック酸溶液(PAA−2)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は530mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量はMn=11,700、Mw=27,200であった。
【0080】
(実施例1)
撹拌子を入れた20mlサンプル管に、PAE−1を2.31g、PAA−1を8.31g取り、NMPを1.31g、GBLを2.38g、BCSを4.0g、AD−1を1重量%含むNMP溶液を1.2g、及びAD−2を0.60g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−1)を得た。
【0081】
(実施例2)
撹拌子を入れた20mlサンプル管に、PAE−1を3.46g、PAA−1を7.18g取り、NMPを0.73g、GBLを2.38g、BCSを4.0g、AD−1を1重量%含むNMP溶液を1.2g、及びAD−2を0.60g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−2)を得た。
【0082】
(実施例3)
撹拌子を入れた20mlサンプル管に、PAE−1を4.62g、PAA−1を6.15g取り、NMPを0.15g、GBLを2.38g、BCSを4.0g、AD−1を1重量%含むNMP溶液を1.2g、及びAD−2を0.60g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−3)を得た。
【0083】
(比較例1)
撹拌子を入れた20mlサンプル管に、PAE−2を2.40g、PAA−2を6.88g取り、GBLを4.92g、BCSを4.0g、AD−1を1重量%含むNMP溶液を1.2g、及びAD−2を0.60g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(B−1)を得た。
上記で得られた液晶配向剤を用いて、ラビング耐性、蓄積電荷の緩和特性、液晶配向の安定性、駆動直後のフリッカーレベル、及び保存安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
以上のように、本発明の液晶配向膜は、ラビング耐性評価、残像消去時間の評価、液晶配向の安定性評価、駆動直後のフリッカーレベルの評価のいずれにおいても良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜は、種々の特性を今までよりも高いレベルで実現することが求められる、IPS駆動方式やFFS駆動方式を含めた広範囲の液晶表示素子において使用できる。
なお、2015年11月25日に出願された日本特許出願2015−229489号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。