特許第6747658号(P6747658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6747658アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉の除臭及び食味及び食感の改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747658
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉の除臭及び食味及び食感の改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20200817BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20200817BHJP
【FI】
   A23L17/00 A
   A23L17/00 D
   A23L17/00 E
   A23L5/20
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-136410(P2015-136410)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-18009(P2017-18009A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年7月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、農林水産省、食料生産地域再生のための先端技術展開事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】石崎 松一郎
(72)【発明者】
【氏名】久田 孝
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−005057(JP,A)
【文献】 特公昭50−019617(JP,B1)
【文献】 特開2011−193849(JP,A)
【文献】 特開2009−273452(JP,A)
【文献】 特開2004−024003(JP,A)
【文献】 特開2001−157563(JP,A)
【文献】 特開平11−308983(JP,A)
【文献】 油化学, 1980年,第29巻, 第7号,p.469-488 (p.29-48)
【文献】 [7]トリメチルアミン,保険・化学物質対策報告書, 化学物質の環境リスク評価 第12巻, 2014年,p.1-15,https://www.env.go.jp/chemi/report/h26-01/index.html, 検索日:2019年12月27日
【文献】 静岡県工業技術センター研究報告, 1986年,第30号,p.101-106
【文献】 African Journal of Biotechnology, 2011年,Vol.10, No.1,p.42-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−17/00
A23L 17/10−17/50
A23L 5/00−5/30
A23L 29/00−29/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することを特徴とするアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を維持、向上させたアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法。
【請求項2】
アンモニア臭を発生する魚類が、サメ又はエイであることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法。
【請求項3】
Lactobacillus属に属する乳酸菌が、Lactobacillus plantarumであり、Saccharomyces属又はCandida属に属する酵母が、Saccharomyces cerevisiae又はCandida lactisであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法。
【請求項4】
糖質及び食塩を含有させた水溶液中の糖質及び食塩の含有割合が、水溶液に対して、糖質2〜10w/v%、食塩2〜6w/v%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法。
【請求項5】
Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体が、乳を含む培地を乳酸菌を用いて発酵した乳酸菌の培養液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法。
【請求項6】
糖質が、ショ糖、グルコース及びフルクトースから選択される1又は2以上の糖質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法。
【請求項7】
サメのフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することを特徴とするアンモニア臭発生魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を改善する方法。
【請求項8】
Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液からなる、アンモニア臭発生魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を改善するための浸漬液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と
、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することにより、サメのフィレ肉のアンモニア臭等の臭い成分の除去と、フィレ肉の食味及び食感の維持・向上されたサメのフィレ肉を製造し、提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
サメやエイは、軟骨魚類の一種であり、一般にサメやエイの肉は、普通の魚に比べて柔らかく、低脂肪、高タンパクで、DHAのような高級不飽和脂肪酸を豊富に含むことが知られている。また、筋肉中には、タウリン、アラニン、バリン、メチオニン、グルタミン酸等の遊離アミノ酸を豊富に含むことも知られている。しかし、サメやエイの肉には、他の魚類に比較して、非蛋白態の窒素化合物である尿素及びトリメチルアミンオキサイド(TMA−O)が多量に含まれており、これが、死後ウレアーゼ等の酵素作用により分解されて、アンモニアを発生することから、その異臭のために、古来より、サメやエイの肉を食用に消費する習慣は限られていた。
【0003】
サメを食用に供する習慣としては、サメのひれを乾燥して、中華料理に用いることや、肝臓から肝油を採取することが行われてきたが、食肉の利用としては、鮮度の高いうちに、肉の部分をかまぼこ、ちくわ、はんぺんなどの水産練り製品の原料の一部として利用することが行われてきた。サメ肉を、食用に利用するに際しては、サメ肉に含まれる尿素や、TMA−Oを除去し、アンモニア等の発生を防止し、アンモニア臭のような異臭を防止するために各種の方法が開示されている。
【0004】
従来より、サメ肉を食用に利用するに際して、異臭の原因となる尿素等を除去して、アンモニア臭の発生を防止する方法として、すり身製造業界等で行われている、サメ肉を水に晒す、水晒法が知られている。また、該水晒を利用する各種の方法も開示されている。例えば、特開2001−157563号公報には、サメ肉の切り身を、凍結し、流水中に浸漬して、解凍しながら水晒を行った後、脱水する方法が、特開2001−128648号公報には、サメ肉をフィレ、又はブロック状に切断後、水或いはアルカリ塩類水溶液等の水性媒質に浸漬し、サメ肉中の尿素等を溶出した後、脱水処理する方法が、特開2001−245637号公報には、サメ肉を小片にして、水晒を行った後、食用結着材を加えて結着し凍結する方法が開示されている。
【0005】
また、特開2001−95471号公報には、サメ肉の水晒による旨味の消失を防止するサメ肉の異臭発生の防止方法として、サメ肉を圧搾脱水して、異臭発生の原因となる尿素等を除去する方法が、特開2002−51740号公報には、圧搾脱水したサメ肉切身を水中で晒す工程に付す方法が、特開2005−270080号公報には、サメ肉をミンチ状にして水洗し、水切りする方法が開示されている。
【0006】
また、サメ肉を食塩水に浸漬し、サメ肉の細胞及び細胞組織間に内蔵されている尿素や、TMA−O等のアンモニア発生の原因物質を浸透圧の差によって組織外に排出する方法も開示されている。例えば、特開昭55−150878号公報には、約3cm以下に切断したサメ肉を、食塩25〜40g/Lの食塩水に浸漬し、約5〜10℃で、10〜15時間浸漬することにより、浸透圧によって、サメ肉のアンモニア発生の原因物質を除去する方法が、特開2004−24003号公報には、サメ肉等を、2000Pa以上の加圧下で塩水中に保持することにより、アンモニア等の不快臭を除去する方法が、特開2011−193849号公報には、細断したサメ肉を、食塩水等に浸漬し、尿素等のアンモニア発生の原因物質を溶出し、更に、蒸煮して、生豆乳を加え、酵素反応させる方法が、開示されている。
【0007】
更に、サメ肉から、アンモニア等の不快臭を除去する方法として酵素作用等を利用する方法も開示されている。例えば、特開平7−31420号公報には、サメ肉をウレアーゼや発泡剤とともに擂潰して膨化した後、60〜110℃で加熱することにより、脱臭する方法が、特開2000−157158号公報には、サメ肉のアンモニア等の不快臭の発生を除去する方法として、ウツボグサの花穂の水抽出物、ダイオウの根のアルコール抽出物及び紅茶の水抽出物を、ウレアーゼ阻害活性物質として、サメ肉に浸透させることにより、サメ肉のアンモニアの発生を抑制する方法が開示されている。
【0008】
また、サメ肉の臭気の発生を抑制するために、乳酸菌を用いる方法も開示されている。例えば、特開2009−273452号公報、及び、特開2009−297009号公報には、豆乳に乳酸菌を作用させて得られる乳酸菌生成エキスと、食塩を含む水溶液に、サメ肉を浸漬し、サメ肉の臭気の発生を抑制する方法が開示されている。更に、特開2005−160304号公報には、サメ肉をシソの葉入りの水に浸漬させ、該浸漬させたサメ肉を乾燥させることにより、サメ肉から、特有の臭みを脱臭させる方法が開示されている。
【0009】
上記のように、従来より、サメ肉を食用に利用するに際して、異臭の原因となる尿素等を除去し、アンモニア臭の発生を防止する方法として、各種の方法が開示されている。しかし、異臭の原因となる尿素等を完全に除去し、アンモニア臭の発生を抑えることは難しく、また、異臭の原因となる尿素等を効果的に除去するために、サメ肉を砕片にしたり、ミンチ状にして、水に晒す等の処理をすると、サメ肉自体の食感を損ねるだけでなく、サメ肉の味覚成分を排出して、旨味のないサメ肉になってしまうという不都合がある。したがって、従来のサメ肉の処理方法では、フィレのような形で、サメ肉自体の食感、食味を維持し、しかも、アンモニア臭等の臭い成分発生を効果的に除去して、食味、食感の維持・向上されたサメのフィレ肉を製造し、提供することはできなかった。
【0010】
一方で、魚介類の臭いの除去方法として、乳酸菌や、酵母を用いる方法が知られている。例えば、特開昭54−5057号公報には、カキエキス、オキアミエキス、イワシエキス、カニエキス、カツオエキス等の魚介類エキスの生臭み(主として、多価不飽和脂肪酸による)の除去に、魚介類エキスに、糖質を添加し、これに乳酸菌又は酵母を添加して生育せしめる方法が開示されている。しかし、この方法は、魚介類エキスの生臭みの除去を目的としているもので、サメ肉の異臭の発生の防止に宛てられたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭54−5057号公報。
【特許文献2】特開昭55−150878号公報。
【特許文献3】特開平7−31420号公報。
【特許文献4】特開2000−157158号公報。
【特許文献5】特開2001−95471号公報。
【特許文献6】特開2001−128648号公報。
【特許文献7】特開2001−157563号公報。
【特許文献8】特開2001−245637号公報。
【特許文献9】特開2002−51740号公報。
【特許文献10】特開2004−24003号公報。
【特許文献11】特開2005−270080号公報。
【特許文献12】特開2009−273452号公報。
【特許文献13】特開2009−297009号公報。
【特許文献14】特開2011−193849号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉のアンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去し、しかもフィレ肉の食味及び食感の維持と向上が図られた、鮮度により生食も適用可能な、サメのフィレ肉を製造し、提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類の肉をフィレ肉の状態で、臭い成分の除去を効果的に行い、しかも、該フィレ肉の食感と旨味を維持し、生食にも適用可能なフィレ肉の処理方法について鋭意検討する中で、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、特定の乳酸菌及び特定の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することにより、該フィレ肉のアンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去することが可能であり、しかも、フィレ肉の旨味の排出等を抑制して、食味及び食感の維持と向上が図られたフィレ肉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の
培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することにより、該フィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を維持、向上が図られたフィレ肉を製造し、提供することからなる。
【0015】
本発明においては、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類の肉をフィレ肉として利用するに際しても、アンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去する方法として、乳酸菌等の微生物を用いる方法について検討する中で、Lactobacillus属に属する乳酸菌と
、Saccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体とを併用し、該培養菌体を含有させた水溶液でサメフィレ肉を処理することにより、フィレ肉のような形態においても、効果的に臭い成分を除去することができることを見出した。そして、該フィレ肉の臭い成分を除去処理するに際して、食塩水による臭い成分の浸出処理を併用することにより、より効果的に臭い成分を除去することが可能であることを見出した。更に、該食塩水による臭い成分の浸出処理に際して、糖質を含有させることにより、フィレ肉の旨味成分の排出を抑えることができ、更に、糖質によって、フィレ肉へ味覚の付与がなされて、フィレ肉の食味及び食感の維持と向上が図られたサメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を製造することに成功した。
【0016】
本発明のアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉の製造方法において、Lactobacillus
属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することによるフィレ肉の臭い成分の除去と、食味及び食感の維持、向上のメカニズムについては、明確ではないが、浸漬液中における乳酸菌の乳酸発酵によるpHの低下と食塩、糖による浸透圧上昇により、フィレ肉からのアンモニア、尿素の拡散等による低減を促進し、溶出した窒素成分、添加した糖は、乳酸菌及び酵母生育促進に繋がって、乳酸菌及び酵母の活性を更に増進するものと考えられる。加えて、浸漬液における発酵は、フィレ肉の蛋白質のペプチド化にも寄与しているものと考えられる。また、乳酸菌は発酵成分(乳酸、アミノ酸)、酵母は発酵成分(エタノール、アミノ酸、有機酸等)を産生し、発酵液に溶出し、食味及び食感の維持、向上に寄与しているものと考えられる。また、酵母は臭気成分のマスキング効果もあると考えられる。本発明においては、上記のような浸漬液中における培養菌体及び各成分の総合的な作用により、効果的な臭い成分の除去と食味及び食感の維持と向上とが図られているものと考えられる。
【0017】
本発明のアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉の製造方法において、Lactobacillus
属に属する乳酸菌としては、Lactobacillus plantarumを挙げることができ、Saccharomyces属又はCandida属に属する酵母としては、Saccharomyces cerevisae又はCandida lactis-condensiを挙げることができる。
【0018】
本発明のアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉の製造方法において、糖質及び食塩を含有させた水溶液中の糖質及び食塩の含有割合は、水溶液に対して、糖質2〜10w/v%、食塩2〜6w/v%の含有割合を挙げることができる。また、本発明のサメのフィレ肉の製造方法において、Lactobacillus属に属する乳酸菌の菌体培養液としては、乳を含む培地に乳酸菌を用いて発酵した乳酸菌の培養液を用いることもできる。更に、本発明のサメのフィレ肉の製造方法において、糖質及び食塩を含有させた水溶液中の糖質としては、ショ糖、グルコース及びフルクトースがら選択される1又は2以上の糖質を挙げることができる。
【0019】
本発明は、アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することにより、培養菌体の培養と共に、サメのフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を改善する方法の発明を包含する。また、本発明は、本発明のサメのフィレ肉の製造方法によって製造されたサメのフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を維持、向上させたサメのフィレ肉の発明を包含する。更に本発明は、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液からなる、アンモニア臭発生魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を改善するための浸漬液の発明を包含する。
【0020】
すなわち具体的には本発明は、[1]アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することを特徴とするアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を維持、向上させたアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法や、[2]アンモニア臭を発生する魚類が、サメ又はエイであることを特徴とする上記[1]に記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法や、[3]Lactobacillus属に属する乳酸菌が、Lactobacillus plantarumであり、Saccharomyces属又はCandida属に属する酵母が、Saccharomyces cerevisae又はCandida lactisであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法や、[4]糖質及び食塩を含有させた水溶液中の糖質及び食塩の含有割合が、水溶液に対して、糖質2〜10w/v%、食塩2〜6w/v%であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかにに記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法からなる。
【0021】
また、本発明は、[5]Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体が、乳を含む培地を乳酸菌を用いて発酵した乳酸菌の培養液であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法や、[6]糖質が、ショ糖、グルコース及びフルクトースから選択される1又は2以上の糖質であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載のアンモニア臭発生魚類のフィレ肉の製造方法や、[7]サメのフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することを特徴とするアンモニア臭発生魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を改善する方法や、[]Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液からなる、アンモニア臭発生魚類のフィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を改善するための浸漬液からなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類の肉を、フィレ肉のような形態においても、アンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去し、しかもフィレ肉の食味及び食感の維持と向上されたサメやエイ等のフィレ肉を製造し、提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1における、脱臭に有効な乳酸菌及び酵母の選抜のための試験において、予め行った培養試験において、アンモニア臭低減能が良好であったC. lactis-condensi 14−7及びLb. plantarum 9−4、更に、S. cereviciae Misaki−1及びLb. plantarum S−SU1株を使用して、サメ肉の浸漬実験を行った結果のサメ肉中のアンモニア含量について示す図である。
図2】本発明の実施例1における、乳酸菌及び/又は酵母培養液に、ショ糖及び食塩を含有させた水溶液からなる浸漬液を用いたサメフィレ肉の除臭及び形状の維持についての試験において、該乳酸菌及び/又は酵母培養液に、6%スクロース(ショ糖)、6%NaClを含有させた水溶液に、試料(サメのフィレ肉等)を浸漬処理(2日間)した場合のサメ肉(ネズミザメ筋肉)の外観を示す写真である。
図3】本発明の実施例2における、サメ(ネズミザメ)フィレ肉を用い、乳酸菌及び/又は酵母培養液に、ショ糖及び食塩を含有させた水溶液に懸濁した浸漬液を用いたサメフィレ肉の除臭試験において、10℃、7日間浸漬したネズミザメ肉の浸漬液中及びサメ肉中のアンモニアの含量(アンモニアの低減)について示すグラフである。
図4】本発明の実施例3における、サメ(ネズミザメ)のフィレ肉(10×10×20cm、約500g)を用い、それぞれショ糖2,6,10%あるいは食塩、2,6,10%を含有させた水溶液からなる浸漬液を用い、4℃、6日間浸漬した場合のサメフィレ肉の除臭(アンモニアの低減)効果について示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理することにより、該フィレ肉のアンモニア臭の除去と、食味及び食感を維持、向上させたサメのフィレ肉を製造し、提供することからなる。
【0025】
本発明において、アンモニア臭を発生する魚類において、サメのフィレ肉を調製するサメ類としては、ヨシキリザメ、ネズミザメ(モウカザメ)、アオザメ、アブラザメ、ホシザメ、シュウモクザメ、ヨゴレザメ、メジロザメ、マオナガ、ハチワレ、ニタリ、アカエイ等各種のサメ類を挙げることができるが、特に、代表的なサメ類としては、ヨシキリザメ、ネズミザメ(モウカザメ)等を挙げることができる。本発明で、「フィレ肉」とは、「魚を三枚におろし、骨などを除去した切り身」をいい、「該切り身を数枚程度に分割したもの」も含める。
【0026】
本発明のアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉の製造方法において、サメのフィレ肉のアンモニア臭の除去のために用いるLactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体としては、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体としては、Lactobacillus plantarumの培養菌体を、Saccharomyces属に属する酵母の培養菌体としては、Saccharomyces cerevisae又はCandida lactisの培養菌体を挙げることができる。該乳酸菌の培養菌体及び酵母の培養菌体としては、予め、該乳酸菌、及び、該酵母を培養し、その濃厚菌液を調製しておくことが好ましい。該乳酸菌の培養、或いは、酵母の培養に用いる培地としては、例えば、MRS培地(乳酸菌用)或いはGYP培地(酵母用)等、通常、乳酸菌或いは酵母の培養に用いられている培地を適宜用いることができる。Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養液は、乳を含む培地を乳酸菌を用いて発酵した乳酸菌の培養液として調製することができる。該培養液としては、ヨーグルトのような形態のものを用いることができる。
【0027】
本発明のフィレ肉の製造方法においては、アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体を、糖質及び食塩を含有させた水溶液に浸漬処理し、菌体培養することにより行われる。かかる場合の、糖質及び食塩を含有させた水溶液中の糖質及び食塩の含有割合としては、水溶液に対して、糖質2〜10w/v%、食塩2〜6w/v%の範囲が採用される。該糖質としては、ショ糖、グルコース及びフルクトースがら選択される1又は2以上の糖質を挙げることができる。乳酸菌や酵母の培養に際しては、0.5〜3.0w/v%程度の糖質を添加することが行われているが、上記、糖質の添加は、該乳酸菌や酵母の培養のための糖質の添加とは別の目的で添加される。また、フィレ肉からの臭い成分の浸出のために添加される食塩は、2〜10w/v%の割合で添加することができるが、フィレ肉からの旨味成分の排出或いはフィレ肉への塩味の付与を避けるために、食塩2〜6w/v%の範囲が採用される。該糖質及び食塩濃度の調整により、アンモニア臭を発生する魚類の肉を、フィレ肉のような形態においても、アンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去するとともに、フィレ肉の食味及び食感の維持と向上が図られたフィレ肉を製造し、提供することができる。
【0028】
本発明のフィレ肉の製造方法において、アンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、Lactobacillus属に属する乳酸菌の培養菌体及びSaccharomyces属又はCandida属の酵母の培養菌体と、糖質及び食塩を含有させた水溶液浸漬処理、培養する時間は、例えば、5〜20℃の液温で、5〜48時間の範囲で浸漬することにより行うことができる。
【0029】
本発明のアンモニア臭を発生する魚類の肉は、フィレ肉のような形態においても、アンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去し、しかもフィレ肉の食味及び食感の維持と向上を図ることができるから、従来適用することが困難であった、生食にも適用可能なサメのフィレ肉を製造し、提供することができる。また、本発明のアンモニア臭を発生する魚類のフィレ肉を、食品素材として利用することができ、例えば、ステーキ、カツ、煮込み、中華食材、燻製、餃子、シュウマイ、ハンバーガーの具材や、さつま揚げ、粕漬け、味噌漬け等の食材として利用して、食味の良い食品を提供することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
[サメフィレ肉の浸漬・除臭試験I]
サメ(ネズミザメ)フィレ肉を用い、乳酸菌及び/又は酵母培養液に、ショ糖及び食塩を含有させた水溶液からなる浸漬液を用いたサメフィレ肉の除臭試験及び官能評価(臭気、形状の維持)を行った。
【0032】
<試験方法>
予め行った培養試験において、アンモニア臭低減能が良好であったC. lactis-condensi 14−7及びLb. plantarum 9−4、更に、S. cereviciae Misaki−1及びLb. plantarum S−SU1株を使用して、サメ肉の浸漬実験を行った。GYP(酵母用)或いはMRS(乳酸菌用)3mlにおいて各菌株を30℃、1日間前培養液した。前培養液0.4mlを同様の培地40mlに加え、30℃で2日間培養した。得られた培養液を6000rpm、8分間遠心で菌体をとり、6%スクロース(ショ糖)、6%NaCl水溶液30mlで洗浄処理後、6%スクロース(ショ糖)、6%NaCl水溶液40mlに懸濁した。ネズミザメ(モウカザメ肉)は、5gを50ml遠沈管にとり、10ml菌培養液を加え、30℃で2日間静置した(n=2)。
【0033】
pHを測定後、6000rpm、3分遠心し、肉の外観を目視で観察後に写真をとり、写真のL*,a*,b*値を測色色彩計で計測した。得られた上清及び肉について、アンモニア濃度を上記と同様に測定した。対照として、浸漬前の肉、浸漬なしで2日静置後の肉、蒸留水に浸漬した肉及び浸漬液、菌体を加えていない6%スクロース、6%NaCl水溶液で浸漬した場合の、それぞれのアンモニア濃度も測定した(図1)。
【0034】
<結果>
結果を、表1(酵母菌、乳酸菌培養液含有、6%ショ糖(スクロース)−6%NaCl水溶液で浸漬処理したネズミザメ筋肉(フィレ)の色調、臭気、及びガス発生の有無)に示す。結果、表1のように2日間静置後、浸漬なしではpHは7.2まで上昇し、蒸留水浸漬で6.3、ショ糖(Suc) +NaCl液(Control)で5.7とわずかに低く、乳酸菌を加えた場合、pHは4前後まで低下した。外観は、図2(酵母菌、乳酸菌含有6%ショ糖(スクロース)−6%NaCl浸漬処理したネズミザメ筋肉の外観)の画像のとおり、浸漬なしでは赤みがかった色が(色調は図示せず)、浸漬により薄くなり、菌体が入ることにより、更に白色を呈し、この結果はL*,a*,b*値でも認められた。浸漬なしの肉中のアンモニア濃度は約3倍に増加したが、蒸留水浸漬では浸漬液中にアンモニアが移行していた。菌体なしのショ糖(Suc) +NaCl(Control)でもアンモニア減少の傾向が認められたが、各乳酸菌と酵母14−7株の共存で特に、浸漬液、肉中とも減少していた。また、ガス発生は、アルコール発酵等が行われていることを示している。
【0035】
官能評価を、5人のパネラー(実験実施者)によって、「アンモニア臭の有無、魚臭の有無」について評価した。「アンモニア臭の有無、魚臭の有無」については、L2(Lb.plantarum 9-4) + Y2(C. lactis-condensi 14-7)、L2(Lb.plantarum 9-4) + 酵母混合(Ymix)、乳酸菌混合(Lmix) +Y2(C. lactis-condensi 14-7)の組み合わせで良好であった。また、選抜した乳酸菌と酵母を含むショ糖とNaClの液に浸漬しても、かたくずれは無く、フィレ肉としての形状が維持されていた。
【0036】
浸漬なしの肉中のアンモニア濃度は約3倍に増加したが、蒸留水浸漬では浸漬液中にアンモニアが移行していた。菌体なしのショ糖(Suc) +NaCl液(Control)でもアンモニア減少の傾向が認められたが、各乳酸菌と酵母14-7(C. lactis-condensi 14-7)株の共存で特に、浸漬液、肉中とも減少していた。
【0037】
【表1】
【0038】
外観は、図2の画像のとおり、浸漬なしでは赤みがかった色が(色調は図示せず)、浸漬により薄くなり、菌体が入ることにより、更に白色を呈し、この結果はL*,a*,b*値でも認められた。この試験区における浸漬処理したネズミザメ肉の浸漬液中(□)及びサメ肉中(■)のアンモニアの低減について、図1に示す。選抜した乳酸菌並びに酵母を併用して行った結果は、サメ肉のアンモニア減少の傾向が認められた。
【実施例2】
【0039】
[サメフィレ肉の浸漬・除臭試験II]
サメ(ネズミザメ)フィレ肉を用い、乳酸菌及び/又は酵母培養液に、ショ糖及び食塩を含有させた水溶液に懸濁した浸漬液を用いたサメフィレ肉の除臭及び官能検査を行った。
【0040】
<試験方法>
予め行った培養試験において、アンモニア臭低減能が良好であったC. lactis-condensi-14−7及びLb. plantarum 9−4、更に、S. cereviciae Misaki−1及びLb. plantarum S−SU1株を使用して、サメ肉の浸漬実験を行った。GYP(酵母用)或いはMRS(乳酸菌用)3mlにおいて各菌株を30℃、1日間前培養液した。前培養液0.4mlを同様の培地40mlに加え、30℃で2日間培養した。得られた培養液を6000rpm、8分間遠心で菌体をとり、6%スクロース(ショ糖)、6%NaCl水溶液で洗浄処理後、6%スクロース(ショ糖)、6%NaCl水溶液に懸濁した。ネズミザメ肉(モウカザメ肉)は、5g(2×2×2cm程度のフィレ)を10℃で7日間静置した。pHを測定後、肉の外観を目視で観察後に写真をとり、写真のL*,a*,b*値を測色色彩計で計測し、外観、臭いを官能検査により評価した。また、得られた肉について、アンモニア濃度を測定した。対照として、浸漬前の肉、浸漬なしで7日静置後の肉、蒸留水に浸漬した肉、菌体を加えていない6%スクロース、6%NaCl水溶液で浸漬した場合についても、測定した。
【0041】
<結果>
結果を表2(食塩、ショ糖(砂糖)、乳酸菌及び酵母懸濁液浸漬液に浸漬したサメ(もうかざめ)肉のpH、色調、臭い)に示す。表2には、酵母菌、乳酸菌培養菌体含有、6%ショ糖(スクロース)−6%NaCl液で浸漬処理したネズミザメ筋肉(フィレ肉)の色調、臭いを示す。また浸漬液のpH、ガス発生の有無を示す。結果、表2のように10℃、7日間静置後、浸漬.なしではpHは7.2まで上昇し、蒸留水浸漬で6.3、ショ糖(Suc)+ NaCl液(Control)で5.7とわずかに低く、乳酸菌(及び酵母)を加えた場合、pHは4.5前後まで低下した。サメ肉中のアンモニア濃度は、蒸留水浸漬では浸漬液中にアンモニアが移行していた。菌体なしのショ糖(Suc) +NaCl(Control)でもサメ肉のアンモニア減少の傾向が認められたが、乳酸菌と酵母の共存でも、特に、乳酸菌Lb. plantarum 9-4株(L2)と酵母S. cereviciae Misaki−1(Y1)株で、減少していた。この試験区における10℃、7日間浸漬したネズミザメ肉の浸漬液中(□)及びサメ肉中(■)のアンモニアの低減について、図3に示している。
【0042】
官能評価を、5人のパネラー(実験実施者)によって、色調、臭気(フレーバー)、食感について、行った。色調は乳酸菌、酵母懸濁液に浸漬したものは、白色を帯び、食材として好ましいものであり、臭気(フレーバー)については、Lb. plantarum 9-4株(L2) + S. cereviciae Misaki-1(Y1)、Lb.plantarum S-SU-1(L1) +S. cereviciae Misaki-1(Y1)の組み合わせで良好であった。なお、今回のフィレ肉は小片(5g)であるが、大きな片(フィレ)でも同等の結果を確認している。
【0043】
【表2】
【実施例3】
【0044】
[サメフィレ肉の浸漬・除臭試験III]
この実施例では、500gのサメフィレ肉を用い、浸漬・除臭試験を行った。
【0045】
<試験方法>
サメ(ネズミザメ)のフィレ肉(10×10×20cm、約500g)を用い、それぞれショ糖2,6,10%あるいは食塩、2,6,10%を含有させた水溶液からなる浸漬液を用い、4℃、6日間浸漬した場合のサメフィレ肉の除臭(アンモニアの低減)効果を見た。
【0046】
<結果>
結果を図4(ショ糖及びNaClの2ファクターのサメ肉中の尿素(urea)含量に及ぼす影響)に示す。食塩2,6,10%、ショ糖2,6,10%ともに、アンモニアを低レベルに維持できた。食塩10%は、塩味、甘味が強すぎるので、食材として限定される。本処理したサメのフィレ肉について、加熱処理後、官能検査を行ったところ、崩れもなく、肉の弾力性のある食感であった。
【実施例4】
【0047】
[サメフィレ肉の浸漬・除臭試験IV]
この実施例では、サメ肉(ネズミサメ、ヨシキリサメ)中の臭いに及ぼすS. cerevisiae Misaki-1, Lb. plantarum S-SU8混合液浸漬の影響(24h浸漬肉のpH及び臭い)について試験を行った。
【0048】
<試験方法>
S. cerevisiae Misaki-1およびLb. plantarum S-SU8を1:2で混合した懸濁液を6%NaCl+6%Suc液でOD660nmが2.25、0.675及び0.225となるように調製した液10mlに各肉5gを10℃で24h浸漬した。
【0049】
<結果>
結果を、表3(菌濃度に及ぼすサメ肉の臭いに及ぼす影響)に示す。若干魚臭が残るが、乳酸発酵臭、アルコール発酵臭が感じられる。しかし、アンモニア臭は抑制されている。浸漬時間を長くすると発酵がすすむのでより好ましいフレーバーになると考えられる。
【0050】
【表3】
【実施例5】
【0051】
[サメのフィレ肉の調理・加工への適用I]
処理したサメ肉について、実際のさめの調理・加工に用いられる味噌漬け(塩分6%、Brix48%)において、選抜菌(Lb. plamtarum 9-4株)、選抜菌(Saccharomyces cereviseae Misaki-1株)で処理したサメ肉が使用できるか検討した。
【0052】
<試験方法>
市販味噌(殺菌処理)48g、砂糖9g、みりん18g、酒15g、ショウガ0.5gで調製した味噌だれに、OD660=10に調製した該乳酸菌(Lb. plamtarum 9-4株)及び酵母菌(Saccharomyces cereviseae Misaki-1株)を1%(v/w)加えた。ポリエチレン袋のモウカサメのフィレ肉50gに対して25gを加え、手もみの後、10℃で一晩静置し、加熱前後のにおい、加熱調理後の味を、官能検査により評価した。
【0053】
<結果>
加熱前の臭いは、選抜菌を加えていない対照では喉にかかるえぐみのような感じがあったが、選抜菌を加えたものでは認められなかった。加熱後の味でも対照にえぐみがあったが、選抜菌を加えたものでは、えぐみはなく、ふわりとした食感であった。
【実施例6】
【0054】
[サメのフィレ肉の調理・加工への適用II]
【0055】
<試験方法>
下記の食塩及び砂糖の濃度の組合わせの溶液にS. cerevisiae Misaki1 及びLb. plantarum S-SU8の菌液を加えた液に10mlにサメ(ネズミザメ、ヨシキリザメ)肉5gを浸漬した。10℃で48時間貯蔵後、軽く焼いて臭いと味を観察した。浸漬液の組合わせは、(1):6%食塩+6%砂糖、(2):5.25%食塩+10%砂糖、(3):(1)+Misaki 1 +S-SU-8、(4):(2)+Misaki 1 + S-SU-8である。
【0056】
<結果>
各試験区とも、焼いた後の臭いに大きな違いは認められなかった。食、食味としてはネズミサメ(モウカザメ)、ヨシキリザメとも6%食塩+6%砂糖では塩味が強く感じられ、5.25%食塩+10%砂糖で味が良かった。Misaki-1+S-SU-8を加えることにより、ネズミサメ(モウカザメ)の肉質は多少固くなり、風味はやわらかになった。一方、ヨシキリザメの肉質も多少固くなったが、もともとかなりやわらかい肉質のため、一般の魚よりはまだやわらかく、酸味が感じられた。本実験の10℃、48時間の浸漬では、とくにネズミザメ肉では5.25%食塩+10%砂糖でMisaki-1、S-SU-8の組み合わせが効果的と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、サメやエイのようなアンモニア臭を発生する魚類の肉を、フィレ肉のような形態においても、アンモニア臭等の臭い成分を効果的に除去し、しかもフィレ肉の食味及び食感の維持と向上により、鮮度により生食も適用可能な、サメやエイ等のフィレ肉を製造し、提供する。
図1
図2
図3
図4