特許第6747690号(P6747690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6747690パイプラインによる流体移送方法及び流体移送装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6747690
(24)【登録日】2020年8月11日
(45)【発行日】2020年8月26日
(54)【発明の名称】パイプラインによる流体移送方法及び流体移送装置
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/00 20060101AFI20200817BHJP
【FI】
   F16L55/00 G
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-220178(P2016-220178)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2018-76936(P2018-76936A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相澤 望
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】岩本 薫
【審査官】 八木 敬太
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02647844(EP,A1)
【文献】 特許第5105292(JP,B2)
【文献】 特開平11−315999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/00
F15D 1/02
F17D 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された配管長を有するパイプライン内で流体を移送するパイプラインの流体移送方法であって、
前記パイプラインの一端側に前記パイプライン内の流体の流れに脈動を付与する脈動付与部を設け、前記脈動付与部は、前記配管長から求められる前記パイプラインの固有周期以上の周期でパイプライン内の流れに脈動を付与して乱流を層流化する脈動を付与することを特徴とするパイプラインの流体移送方法。
【請求項2】
前記脈動付与部が付与する脈動の流体加速度は、乱流を層流化する閾値より小さく、前記パイプラインの他端側に生じる脈動の流体加速度は、乱流を層流化する閾値より大きいことを特徴とする請求項1に記載されたパイプラインの流体移送方法。
【請求項3】
前記脈動付与部が付与する脈動は、1周期内の加速時間が減速時間より長いことを特徴とする請求項1又は2に記載されたパイプラインの流体移送方法。
【請求項4】
設定された配管長を有するパイプライン内で流体を移送するパイプラインの流体移送装置であって、
前記パイプラインの一端側に前記パイプライン内の流体の流れに脈動を付与する脈動付与部を備え、前記脈動付与部は、前記配管長から求められる前記パイプラインの固有周期以上の周期でパイプライン内の流れに脈動を付与して乱流を層流化する脈動を付与することを特徴とするパイプラインの流体移送装置。
【請求項5】
前記脈動付与部は、圧力調整器であることを特徴とする請求項4に記載されたパイプラインの流体移送装置。
【請求項6】
前記脈動付与部は、コンプレッサであることを特徴とする請求項4に記載されたパイプラインの流体移送装置。
【請求項7】
前記脈動付与部が付与する脈動の流体加速度は、乱流を層流化する閾値より小さく、前記パイプラインの他端側に生じる脈動の流体加速度は、乱流を層流化する閾値より大きいことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載されたパイプラインの流体移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプラインによって流体を移送する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスや液体の移送に用いられるパイプラインは、都市ガスパイプラインや水道などのライフライン、石油など流体燃料などを輸送する工業用ライン、空調設備における冷媒輸送、温水輸送などの排熱利用ラインなど、各種分野で利用されている。このようなパイプラインは、流体移送時のエネルギー消費の大半を占めている乱流摩擦抵抗によるエネルギー損失の抑制が大きな課題になっている。
【0003】
この課題に対して、流体の流れを加速することで乱流を層流化できること、この層流化によって乱流摩擦抵抗によるエネルギー損失の低減が可能になることが知られており、管路内の流体に速度変化を加えるポンプを設け、流れを脈動させて加速時間と減速時間を周期的に発生させることの有効性が検討されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
また、下記特許文献2には、流体輸送管において、流体の断面平均流速を増加する流路と減少する流路とを直列に複数配することで、これら流路内での流れを脈動させて乱流を層流化することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/044764号
【特許文献2】特開2015−21547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載された従来技術は、流体を動的に駆動することなく、管内での流れを脈動させることができる利点はあるものの、流路の断面形状を管軸方向に沿って変化させる必要があるので、既設のパイプラインには採用し難い問題がある。これに対して、既設のパイプライン内の流れに層流化が可能な脈動を付与するには、特許文献1に記載されるように、流体を動的に駆動することが必要になり、駆動に要するエネルギー消費が不可欠になる。
【0007】
本発明は、このような問題に対処するために提案されたものである。すなわち、本発明は、パイプライン内の流れに脈動を付与して乱流を層流化するに際して、既設のパイプラインへの適用を可能にすると共に、流体を動的に駆動する際のエネルギー消費を抑えることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
【0009】
設定された配管長を有するパイプライン内で流体を移送するパイプラインの流体移送方法であって、前記パイプラインの一端側に前記パイプライン内の流体の流れに脈動を付与する脈動付与部を設け、前記脈動付与部は、前記配管長から求められる前記パイプラインの固有周期以上の周期でパイプライン内の流れに脈動を付与して乱流を層流化する脈動を付与することを特徴とするパイプラインの流体移送方法。
【0010】
設定された配管長を有するパイプライン内で流体を移送するパイプラインの流体移送装置であって、前記パイプラインの一端側に前記パイプライン内の流体の流れに脈動を付与する脈動付与部を備え、前記脈動付与部は、前記配管長から求められる前記パイプラインの固有周期以上の周期でパイプライン内の流れに脈動を付与して乱流を層流化する脈動を付与することを特徴とするパイプラインの流体移送装置。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るパイプラインの流体移送方法及び装置を示した説明図である。
図2】パイプラインの流体移送方法及び装置の実施形態を示す説明図((a)が脈動付与部として圧力調整器を用いた例、(b)が脈動付与部としてコンプレッサを用いた例、(c)が脈動付与部としてバルブを用いた例)である。
図3】パイプラインの流体移送方法及び装置の実施形態を示す説明図((a)が脈動付与部として圧力調整器を用いた例、(b)が脈動付与部としてコンプレッサを用いた例、(c)が脈動付与部としてバルブを用いた例)である。
図4】パイプラインの流体移送方法及び装置の実施形態を示す説明図((a)が脈動付与部として圧力調整器を用いた例、(b)が脈動付与部としてコンプレッサを用いた例、(c)が脈動付与部としてバルブを用いた例)である。
図5】パイプラインの流体移送方法及び装置の実施例となる試験装置(a)とその気柱振動モデル(b)を示した説明図である。
図6】試験結果を示した説明図((A)が周期1sの脈動を付与した例、(B)が周期2s(固有周期)の脈動を付与した例)である。
図7】他の実施例の試験結果を示した説明図である。
図8】試験結果を示した説明図である。
図9】試験結果を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0013】
図1によって、本発明の実施形態に係るパイプラインの流体移送方法及び流体移送装置の概要を説明する。パイプラインPは、設定された配管長(延長)Lを有している。パイプラインPの一端には、パイプラインP内を流れる流体に脈動を付与する脈動付与部1が設けられている。脈動付与部1は、パイプラインPの配管長Lにおける上流側に設けてもよいし、下流側に設けてもよい。
【0014】
脈動付与部1がパイプラインPを流れる流体に付与する脈動は、略一定の脈動周期T、脈動振動数f(=1/T)を有しており、脈動周期Tが、パイプラインPの配管長Lによって求められる固有周期T0以上に設定されている。このように脈動周期Tを固有周期T0以上に設定することで、パイプラインPの一端側に設けられる脈動付与部1の直近で生じる流体の脈動(入力流速)に対して、パイプラインPの他端側で生じる脈動(出力流速)を増幅(振幅増加)させることができる。
【0015】
図1に示すように、固有周期T0以上の脈動周期Tで脈動付与部1を動作させた場合、脈動付与部1の直近であるパイプラインPの一端側での脈動は、加速時間Δtにおける流速差がΔv1であるとすると、パイプラインPの他端側では、加速時間Δtにおける流速差はΔv2となり、(Δv1/Δt)<(Δv2/Δt)となる振幅増加が得られる。このような振幅増加は、気柱振動によるものであり、脈動付与部1の動作エネルギーを抑えながら、パイプラインPの他端側で大きな振幅(加速度)の脈動を得ることができる。
【0016】
パイプラインP内での乱流を層流化するには、流体加速度を閾値以上にすることが必要になる。この閾値をFrとすると、(Δv1/Δt)<Fr<(Δv2/Δt)の関係にすることで、(Δv1/Δt)を得る脈動付与部1の作動エネルギーを抑えながら、閾値Frを超える流体加速度の脈動をパイプラインP内に生じさせることができる。これによると、乱流摩擦抵抗によるエネルギー損失の抑制を、比較的小さな脈動付与部1の作動エネルギーで実現することができる。ここでの閾値Frは、実験的に求めることができる。
【0017】
脈動付与部1は、図2図3図4に示すように、圧力調整器1P、コンプレッサ1C、バルブ1Vなどで構成することができる。圧力調整器1Pで脈動付与部1を構成する場合には、圧力の増減を前述した固有周期T0以上の脈動周期T(脈動振動数f)で行う。コンプレッサ1Cで脈動付与部1を構成する場合には、コンプレッサ1Cの出力変動を前述した固有周期T0以上の脈動周期T(脈動振動数f)で行う。バルブ1Vで脈動付与部1を構成する場合には、バルブ1Vの開閉動作を固有周期T0以上の脈動周期T(脈動振動数f)で行う。
【0018】
図2の(a)〜(c)は、パイプラインPの一端側に圧力調整器1P、コンプレッサ1C、バルブ1Vによる脈動付与部1を設け、パイプラインPの他端側を需要家2とした例である。この場合には、パイプラインPの両端が固定端になるので、パイプラインPの固有振動数f0(固有周期T0)は、f0=(v0・n)/(2L)=1/T0となる(ここでのv0は音速、Lは配管長、nはモード数(ここでは1とする))。
【0019】
図3及び図4の(a)〜(c)は、パイプラインPの一端側に圧力調整器1P、コンプレッサ1C、バルブ1Vによる脈動付与部1を設け、パイプラインPの他端側を大容量タンク(或いは大口径パイプ)3とした例である。図3の例では上流側に脈動付与部1を設けており、図4の例では下流側に脈動付与部1を設けている。これらの場合には、パイプラインPの一端側が固定端になり、他端側が自由端になるので、パイプラインPの固有振動数f0(固有周期T0)は、f0=v0・(2n−1)/(4L)=1/T0となる(ここでのv0は音速、Lは配管長、nはモード数(ここでは1とする))。
【0020】
以下、図5及び図6によって、本発明の実施例を説明する。図5(a)は、実施例となる試験装置の配管構成を示している。試験条件としては、流体:空気/1.293[kg/m3]、平均流速:0.9〜1.8[m/s]、Re数:3000〜6000、圧力:5.0[kPaG]、口径:52.9[mm]、配管長(延長):177mであり、図5(b)に示すように、サーボバルブユニットを脈動付与部1とする一端側を固定端と仮定し、タンクに連通する他端側を自由端と仮定した気柱振動のモデルを想定している。
【0021】
この試験装置における固有振動数f0は、音速を340m/sとすると、f0=340/(4×177)=0.48[Hz]であり、固有周期T0は、T0(=1/f0)≒2[s]である。
【0022】
図6は、図5に示した試験装置による試験結果を示している。(A)は、脈動付与部1であるサーボバルブユニットを周期1sの圧力変動で作動した場合の入力流速a(サーボバルブ中心流速)と出力流速b(流速計測箇所での中心流速)を示しており、(B)は、脈動付与部1であるサーボバルブユニットを固有周期T0に略等しい周期2sの圧力変動で作動した場合の入力流速a(サーボバルブ中心流速)と出力流速b(流速計測箇所での中心流速)を示している。
【0023】
図から明らかなように、(A)においては、入力流速aと出力流速bの間で振幅増加はみられないが、(B)においては、入力流速aと出力流速bの間で約3倍の振幅増加が表れている。ここでは、脈動付与部1の脈動周期Tを固有周期T0と等しく設定したが、脈動周期Tを固有周期T0以上に設定することで、(B)と同様の振幅増加を得ることができる。
【0024】
このように、パイプラインPの一端側に脈動付与部1を設けて、パイプラインPを流れる流体に脈動を付与する場合には、気柱振動を利用することで、小さな入力脈動で、大きな出力脈動を得ることができ、乱流を層流化するのに要する加速度の閾値より小さい加速度となる入力流速に対して、前述の閾値より大きい加速度となる出力流速を得ることができる。このように気柱振動を利用して乱流を層流化することで、乱流摩擦抵抗によるエネルギー損失の抑制を、比較的小さな脈動付与部1の作動エネルギーで実現することができる。
【0025】
図7は、他の実施例を示している。この実施例では、脈動付与部1が付与する脈動が、1周期Tの減速時間より加速時間を長くしている。このように1周期内で加速時間を減速時間より長くすることで、乱流を層流化する加速時間を長くとれるので、効果的に層流化を進めることができ、乱流摩擦抵抗によるエネルギー損失の抑制を、より効果的に行うことができる。
【0026】
図8は、図5に示した試験装置による試験結果を1周期分抜き出して、入力流速と計測流速vcを重ねて示している(横軸のTは、経過時間をt、入力流速の周期をTとすると、T=t/T)。図示のように、入力流速の周期Tを、1.0s,2.0s,3.0s,5.0s,7.0sと変化させた場合、計測流速vcの増幅がT=2.0s(=T0)以上で確認できており、特に、固有周期T0に近いT=2.0S或いはT=3.0sで大きな増幅が確認できる。
【0027】
図9は、計測流速の乱れ強さ(RMS値)を、下記の式(1)で示されるut’で求め、これを各入力周期に対応して示している。
【0028】
【数1】

図9から明らかなように、入力流速の周期Tが2.0s(固有周期)以上の場合には、矢印の範囲で示すように、乱れ強さ(RMS値)が低くなる時間が存在し、その時間範囲内で再層流化が進んでいることが確認できる。
【0029】
以上説明したように、本発明は、パイプラインP内の流れに脈動を付与して乱流を層流化するに際して、既設のパイプラインへの適用が可能であり、更には、脈動を付与するために流体を動的に駆動する際のエネルギー消費を抑えることができる。本発明によると、パイプラインPによる流体移送を省エネルギー化が可能になる。
【符号の説明】
【0030】
1:脈動付与部,2:需要家,3:大容量タンク(大口径パイプ),
1P:圧力調整器,1C:コンプレッサ,1V:バルブ,
P:パイプライン,L:配管長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9