特許第6749152号(P6749152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6749152
(24)【登録日】2020年8月13日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】アルコールアミン含有電解液の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/06 20060101AFI20200824BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20200824BHJP
   C22B 34/36 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   C25C7/06 301A
   C22B3/44 101A
   C22B34/36
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-123748(P2016-123748)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-226875(P2017-226875A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 毅
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−036111(JP,A)
【文献】 特開昭56−163227(JP,A)
【文献】 特開昭59−080737(JP,A)
【文献】 特表2001−521018(JP,A)
【文献】 特開2011−037805(JP,A)
【文献】 特開2011−179038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00− 7/08
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液の一部或いは全部を抜出す工程1A、
前記工程1Aで抜出した電解液にアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上をタングステンとのモル比で1〜5倍で添加し固液混合状態で撹拌混合し、pHを9〜13に調整する工程1C、
前記工程1Cの後に前記電解液をろ過してろ液を回収する工程1D、及び、
前記工程1Dで得られたろ液を電解液として再利用し、且つ、前記工程1Dで生じた残渣を洗浄して洗浄液を回収する工程1E
を含むアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項2】
前記工程1Dで得られたろ液に活性炭処理を行う工程1Fをさらに含む請求項1に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項3】
前記工程1Eで回収した洗浄液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの濃縮を行う工程1Gをさらに含む請求項1または2に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項4】
前記工程1Gの前段または後段において洗浄液に活性炭処理を行う工程1Hをさらに含む請求項3に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項5】
タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液からタングステンを回収する前の液またはタングステンを回収した後の液に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上をタングステンとのモル比で1〜5倍で添加して撹拌混合し、pHを9〜13に調整する工程2A、
前記工程2Aの後に前記電解液をろ過してろ液を回収する工程2B、及び、
前記工程2Bで得られた液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの蒸留回収を行う工程2C
を含むアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項6】
前記工程2Cの前段または後段においてろ液に活性炭処理を行う工程2Dをさらに含む請求項5に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項7】
前記工程2Cの減圧蒸留処理における液の加熱温度は、沸点が120℃までの成分を除く場合60〜120℃であり、アルコールアミンを回収する場合120℃〜200℃である請求項5または6に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項8】
タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液の一部或いは全部を抜出す工程3A、
前記工程3Aで得られた液をイオン交換法で処理してタングステン酸及び/またはポリタングステン酸をイオン交換樹脂に吸着させ、タングステンを除いたアルコールアミンを含む液を回収する工程3C、
前記工程3Cで得られた液に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上をタングステンとのモル比で1〜5倍で添加して混合・撹拌し、pHを9〜13に調整する工程3E、及び、
前記工程3Eで得られた液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの蒸留回収を行う工程3F
を含むアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項9】
前記工程3Aで抜出した電解液に必要に応じて水を添加して粘度を調節する工程3Bをさらに含み、
前記粘度を調節した後の電解液を前記工程3Cにおけるイオン交換法で処理する液として用いる請求項8に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項10】
前記工程3Cで得られたタングステン酸及び/またはポリタングステン酸を吸着したイオン交換樹脂を水で洗浄して洗浄液を回収する工程3Dをさらに含み、
前記回収した洗浄液を前記工程3Eにおける減圧蒸留処理を行う液として用いる請求項8または9に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項11】
前記工程3Fの前段または後段において液に活性炭処理を行う工程3Gをさらに含む請求項8〜10のいずれか一項に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項12】
前記工程3Fの減圧蒸留処理における液の加熱温度は、沸点が120℃までの成分を除く場合60〜120℃であり、アルコールアミンを回収する場合120℃〜200℃である請求項8〜11のいずれか一項に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項13】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウムであり、アルカリ土類金属酸化物が酸化カルシウムである請求項8〜12のいずれか一項に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項14】
前記アルコールアミンが、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン及びジエチルメタノールアミンからなる群から選択される1種以上である請求項1〜13のいずれか一項に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項15】
前記アルコールアミンが、トリエタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン及びブチルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上である請求項1〜13のいずれか一項に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【請求項16】
前記アルコールアミンが、ヘプタノールアミン、デカノールアミン、ノナノールアミン、デカノールアミン、メチルヘキサノールアミン、メチルオクタノールアミン、エチルペンタノールアミン、ヘキシルジエタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ベンジルエタノールアミン及びフェニルエタノールアミンからなる群から選択される1種以上である請求項1〜13のいずれか一項に記載のアルコールアミン含有電解液の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールアミン含有電解液の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンを含む有価物を含有する原料からタングステンを回収する方法において、本発明者は、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行うことで、タングステンを効率良くタングステン酸アルコールアミン溶液として回収できることを見出している(特許文献1)。
アルコールアミン(アルカノールアミン)を蒸留精製する方法としては、特許文献2の方法が知られている。比較的純度の高いアルカノールアミンの精製方法であるため、タングステンを含むようなアルコールアミンの電解液に直接応用することはできないが、減圧で蒸留することにより分解を抑制でき、効率良く生成可能である。
また、特許文献3には、酸性ガスを吸収する目的で使用された有機アミンを一旦加熱して酸性ガスを追い出した後に、イオン交換樹脂による処理で再生する方法が開示されている。しかし、タングステン酸が溶解している液にそのまま適用することは困難と予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5329615号公報
【特許文献2】特表2001−521018号公報
【特許文献3】特許第5585025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タングステンを含む有価物を含有する原料をアルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行うと、タングステンはタングステン酸及び/またはポリタングステン酸の形で溶解する。これによりアルコールアミンが中和され、液のpHが低下していく。
一方、タングステンを含む有価物を含有する原料からアルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行う場合、電解開始時や電解中は電解液がpH6以上となっている必要がある。このようにしないとタングステン酸或いはポリタングステン酸が沈殿することがある。そのため、電解後液を長時間使用する場合はpHを監視し、pHが所定範囲よりも低下した場合はアルコールアミンを追加する必要がある。
タングステンを含む原料の電解処理が終了したり、電解液中のタングステン濃度が上昇したりして一定濃度以上になれば、抜出してタングステンを回収することになる。抜出した電解液にはアルコールアミンも含まれているため、タングステン酸及び/またはポリタングステン酸と分離して回収し、再利用する必要がある。
しかし、アルコールアミンを回収することが難しかったり、多額のコストを必要としたりすればタングステンの回収工程が成り立たなくなることが考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、タングステンを含む有価物を含有する原料からアルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行うことでタングステンを回収するにあたって、タングステンを回収した後の電解液に含まれるアルコールアミンを効率良く回収する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、タングステンを回収するために一部或いは全部を抜出した電解液にアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を添加し、固液混合状態で撹拌し、その後ろ過することでタングステンをタングステン酸のアルカリ土類金属塩として分離でき、アルコールアミンはろ液として回収できることを見いだした。すなわち、アルコールアミンを含む電解液であっても、電解液に溶解しているタングステンは、タングステン酸のアルカリ土類金属塩、具体例としてはタングステン酸カルシウム或いはタングステン酸ストロンチウムとして分離できることが分かった。タングステン回収工程の中間体の一つであるタングステン酸カルシウム等のタングステン酸のアルカリ土類金属の塩の形にできてしまえば、今まで知られている常法により処理することでタングステンを効率的に回収することが可能となる。
【0007】
電解液中の不純物濃度が低い場合は、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上と混合撹拌し、タングステンをタングステン酸のアルカリ土類金属の塩としてろ過などの方法で分離回収し、残った液をそのまま電解液として再利用することができる。
ろ過後のタングステン酸のアルカリ土類金属塩を含む残渣には、アルコールアミンを含む電解液が残っているため、水で洗浄する。洗浄液も必要に応じて回収し、濃度が高い部分については純化・濃縮工程に回すことになる。
【0008】
また、抜出した電解液をイオン交換処理などでタングステン酸及び/またはポリタングステン酸を回収する場合は、イオン交換処理の過程でアルコールアミンに塩酸などの酸が混入する可能性があり、pHが低下することがある。さらに、イオン交換樹脂にタングステン酸及び/またはポリタングステン酸を吸着させた後の洗浄処理などにより水が加わることになり、アルコールアミンの濃度が低下する。
以上のことから、イオン交換法などの工程を経て希釈された電解液は濃縮操作が必要となる。
【0009】
タングステンを含む原料を電気分解した場合は、もう一つの問題がある。電解液にはタングステン酸及び/またはポリタングステン酸とアルコールアミンの他に、原料から混入してくる不純物や、電気分解の過程でアルコールアミンが分解して生成する物質が含まれる場合がある。これらのことから、電解液中の不純物の除去とアルコールアミンの濃縮が必要になることが多い。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液の一部或いは全部を抜出す工程1A、前記工程1Aで抜出した電解液にアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上をタングステンとのモル比で1〜5倍で添加し固液混合状態で撹拌混合し、pHを9〜13に調整する工程1C、前記工程1Cの後に前記電解液をろ過してろ液を回収する工程1D、及び、前記工程1Dで得られたろ液を電解液として再利用し、且つ、前記工程1Dで生じた残渣を洗浄して洗浄液を回収する工程1Eを含むアルコールアミン含有電解液の再生方法である。
【0011】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は一実施形態において、前記工程1Dで得られたろ液に活性炭処理を行う工程1Fをさらに含む。
【0012】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は別の一実施形態において、前記工程1Eで回収した洗浄液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの濃縮を行う工程1Gをさらに含む。
【0013】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程1Gの前段または後段において洗浄液に活性炭処理を行う工程1Hをさらに含む。
【0014】
本発明は別の一側面において、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液からタングステンを回収する前の液またはタングステンを回収した後の液に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上をタングステンとのモル比で1〜5倍で添加して撹拌混合し、pHを9〜13に調整する工程2A、前記工程2Aの後に前記電解液をろ過してろ液を回収する工程2B、及び、前記工程2Bで得られた液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの蒸留回収を行う工程2Cを含むアルコールアミン含有電解液の再生方法である。
【0015】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程2Cの前段または後段においてろ液に活性炭処理を行う工程2Dをさらに含む。
【0016】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程2Cの減圧蒸留処理における液の加熱温度は、沸点が120℃までの成分を除く場合60〜120℃であり、アルコールアミンを回収する場合120℃〜200℃である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液の一部或いは全部を抜出す工程3A、前記工程3Aで得られた液をイオン交換法で処理してタングステン酸及び/またはポリタングステン酸をイオン交換樹脂に吸着させ、タングステンを除いたアルコールアミンを含む液を回収する工程3C、前記工程3Cで得られた液に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上をタングステンとのモル比で1〜5倍で添加して混合・撹拌し、pHを9〜13に調整する工程3E、及び、前記工程3Eで得られた液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの蒸留回収を行う工程3Fを含む。
【0018】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程3Aで抜出した電解液に必要に応じて水を添加して粘度を調節する工程3Bをさらに含み、前記粘度を調節した後の電解液を前記工程3Cにおけるイオン交換法で処理する液として用いる。
【0019】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程3Cで得られたタングステン酸及び/またはポリタングステン酸を吸着したイオン交換樹脂を水で洗浄して洗浄液を回収する工程3Dをさらに含み、前記回収した洗浄液を前記工程3Eにおける減圧蒸留処理を行う液として用いる。
【0020】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程3Fの前段または後段において液に活性炭処理を行う工程3Gをさらに含む。
【0021】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記工程3Fの減圧蒸留処理における液の加熱温度は、沸点が120℃までの成分を除く場合60〜120℃であり、アルコールアミンを回収する場合120℃〜200℃である。
【0022】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウムであり、アルカリ土類金属酸化物が酸化カルシウムである。
【0023】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記アルコールアミンが、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン及びジエチルメタノールアミンからなる群から選択される1種以上である。
【0024】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記アルコールアミンが、トリエタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン及びブチルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上である。
【0025】
本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法は更に別の一実施形態において、前記アルコールアミンが、ヘプタノールアミン、デカノールアミン、ノナノールアミン、デカノールアミン、メチルヘキサノールアミン、メチルオクタノールアミン、エチルペンタノールアミン、ヘキシルジエタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ベンジルエタノールアミン及びフェニルエタノールアミンからなる群から選択される1種以上である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、タングステンを含む有価物を含有する原料からアルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行うことでタングステンを回収した後の電解後液から、効率良くアルコールアミン含有電解液を再生する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一側面におけるアルコールアミン含有電解液の再生方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の別の一側面におけるアルコールアミン含有電解液の再生方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の更に別の一側面におけるアルコールアミン含有電解液の再生方法を示すフローチャートである。
図4】タングステンを含む原料を電解する電解槽の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、タングステンを溶解したアルコールアミンを含有する電解液からアルコールアミンを回収し、再生する方法を提供する。
タングステンを含む有価物を含有する原料を、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、原料の処理が終わった後や、電解液に含まれるタングステンが所定濃度以上になった場合は、その一部を抜き出して、タングステンの回収を行う。タングステンを回収した後の電解液にはアルコールアミンが含まれているため、再利用する。
【0029】
まず、処理対象となる電解後液について説明する。当該電解後液は、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行った液である。また、電解液からイオン交換処理などによりタングステン成分を回収した後の電解液も対象とする。
【0030】
タングステンを含む有価物を含有する原料としては、タングステンを含む鉱物やスクラップ(超硬材)等が挙げられる。また、より具体的には、タングステンスクラップを粉砕した、いわゆるタングステンリサイクル材等が挙げられる。本発明の処理対象となるタングステンを含む有価物を含有する原料は、例えば、Coを0〜15mass%、Niを0〜5mass%、Feを0〜5mass%、Tiを0〜5mass%、Taを0〜15mass%含有し、タングステンの純度は3〜95mass%である。また、本発明の処理対象となるタングステンを含む有価物を含有する原料は、タングステン以外の有価物を1〜30mass%含有してもよく、タングステン以外の有価物を1〜10mass%含有してもよく、タングステン以外の有価物を3〜10mass%含有してもよい。
【0031】
アノード及びカソード、アルコールアミンを含有する電解液を備えた電解槽を用いてタングステンを含む有価物を含有する原料の電気分解を行い、タングステン酸アルコールアミン溶液を得ることができる。電解槽は、特に限定されないが、例えば、図4に示す構成であってもよい。図4は、アノードとしてチタンバスケットを用いており、このチタンバスケットの中にタングステンを含む有価物を含有する原料が設けられている。チタンバスケットは、高電圧、高電流及び高温の電解処理条件で安定である点で好ましい。
【0032】
当該タングステン酸アルコールアミン溶液中のタングステン濃度は特に限定されないが、10〜140g/Lであるのが好ましい。タングステン酸アルコールアミン溶液中のタングステン濃度が10g/L未満である場合、水等の溶媒の量が多過ぎるという問題が生じることがあり、また、140g/Lを超える場合は結晶が析出してしまうという問題が生じるおそれがある。本発明においてタングステン酸イオンは、WO42-等のモノタングステン酸イオン、または、HW6215-、H212406-及びW124110-等のポリタングステン酸イオンを示す。
【0033】
アルコールアミンは、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン及びジエチルメタノールアミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0034】
また、アルコールアミンは、トリエタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン及びブチルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0035】
さらに、アルコールアミンは、ヘプタノールアミン、デカノールアミン、ノナノールアミン、デカノールアミン、メチルヘキサノールアミン、メチルオクタノールアミン、エチルペンタノールアミン、ヘキシルジエタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ベンジルエタノールアミン及びフェニルエタノールアミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0036】
この場合、電解液の電気伝導度を高く維持して電槽電圧を必要以上に高くしないことも必要である。電槽電圧は電解液中のタングステン濃度に大きく影響されるため、タングステン濃度を一定以上に維持することも考慮しなければならない。アルコールアミンを添加したり、電解液を抜出してアルコールアミンを添加した場合は、電槽電圧が設定電圧を上回らないようにアルコールアミンの添加量、電解液の抜出量を調節すればよい。
【0037】
電解液中のアルコールアミンの濃度は、1〜80mass%であるのが好ましい。電解液中のアルコールアミンの濃度が1mass%未満であると、導電性が低くなり過ぎて電気分解が不安定になり、錯体形成が困難となるおそれがある。電解液中のアルコールアミンの濃度が80mass%超であると、電解液の種類によっては水への溶解度を超えてしまうし、必要以上に濃度が高くなり、コストの面で不利となる。電解液中のアルコールアミンの濃度は、より好ましくは2〜50mass%、更により好ましくは5〜40mass%、更により好ましくは5〜20mass%である。
【0038】
電気分解の際の電解液の温度は20〜80℃に調整して電気分解を行うのが好ましい。電解液の温度が20〜80℃であれば、アルコールアミンが安定化し、アルコールアミンの揮発が良好に抑制される。このため、電解反応において、電解液が揮発せず、安定であり、且つ、不純物が少ないという利点がある。また、電解液の温度は、電解速度の観点から60℃以上の高温に設定することがより好ましい。例えば、アンモニアでは50℃以上は揮発が激しく補給量が大量だが、アルコールアミン系は沸点が高く揮発しづらいため、60℃以上でも問題無く使用可能である。
【0039】
電解液に用いるアルコールアミンは、耐電圧性・耐電流密度性が高く、生産性のためには電気分解における設定電圧及び設定電流密度はそれぞれ高い方が好ましいが、設備の制約やカソード側へのダメージを考えると、設定電圧は20V以下とし、設定電流密度は500A/dm2以下とするのが実用的であるため好ましい。
【0040】
電解液のpHは、7以上であることが好ましい。pHが6未満であると、生成したタングステン酸イオンが溶解していられなくなり、WO3若しくはH2WO4などの形で析出し、結果として電解溶解を阻害してしまう可能性がある。電解液は、より好ましくは、例えばpH10以上の弱アルカリ性となるように調整される。
【0041】
上記のように電気分解を行った後に、タングステンを回収し、タングステンを除いた電解液をアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を用いて電解液に含まれるアルコールアミンを再利用できるように処理する。本発明のアルコールアミン含有電解液の再生方法、具体的には、図1図2及び図3に示すことができる。以下それぞれ詳述する。
【0042】
本発明の一側面におけるアルコールアミン含有電解液の再生方法は、図1のフローチャートで示される。当該アルコールアミン含有電解液の再生方法は、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液の一部或いは全部を抜出す工程1A、前記工程1Aで抜出した電解液にアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を添加し固液混合状態で撹拌混合する工程1C、前記工程1Cの後に前記電解液をろ過してろ液を回収する工程1D、及び、前記工程1Dで得られたろ液を電解液として再利用し、且つ、前記工程1Dで生じた残渣を洗浄して洗浄液を回収する工程1Eを含む。
タングステンを含む有価物を含有する原料からアルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行う場合、電解開始時や電解中は電解液がpH6以上となっている必要があるが、本発明の構成により、電解中にアルカリ領域から低下してしまったpH値を再びタングステンが沈殿しない高pHにして戻すことができ、さらに電解に不要な成分を分離除去することができる。このため、タングステンを回収した後の電解液に含まれるアルコールアミンを効率良く回収することができる。
【0043】
前記工程1Dで得られたろ液に活性炭処理を行う工程1Fをさらに含んでもよい。
前記工程1Eで回収した洗浄液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの濃縮を行う工程1Gをさらに含んでもよい。
前記工程1Gの前段または後段において洗浄液に活性炭処理を行う工程1Hをさらに含んでもよい。
このような構成により、工程1Cの処理で必要な液の添加等によって処理液の濃度が希薄になった場合に、処理液を濃縮させることができる。また、本発明ではタングステン電解用に再利用可能な範囲のpH領域にするために、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を添加しているが、このときタングステンをタングステン酸のアルカリ土類金属の塩としてろ過などの方法で分離回収し、残った液をそのまま電解液として再利用することができる。
【0044】
工程1Cのアルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を電解液と混合する場合、添加するアルカリ土類金属はタングステンとのモル比で1〜5倍、好ましくは1.5〜3倍とするのが好ましい。この値が1を切ると、タングステンの分離が不完全になることがあるばかりでなく、アルコールアミンの再生も不完全になりやすい。一方、5を超えるとアルカリ土類金属の消費量が増えてしまい、余分な処理コストが必要になるおそれがある。これは後述の工程2Aについても同様である。
【0045】
前記活性炭処理の工程1Hであるが、活性炭とアルコールアミンを含む液に活性炭を加えて撹拌し、ろ過する処理でもよい。しかし、大量に処理する場合は活性炭を充填した充填塔を使用することが好ましい。この処理は、比較的簡単に済むため処理条件に制約は少なく、単に通液するだけで済む場合が多く特に限定されないが、空間速度SVが10〜100hr-1であるのが好ましく、10〜60hr-1であるのがより好ましい。これは後述の工程2D、工程3Gについても同様である。
【0046】
本発明の別の一側面におけるアルコールアミン含有電解液の再生方法は、図2のフローチャートで示される。当該アルコールアミン含有電解液の再生方法は、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液からタングステンを回収する前の液またはタングステンを回収した後の液に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を添加して撹拌混合する工程2A、前記工程2Aの後に前記電解液をろ過してろ液を回収する工程2B、及び、前記工程2Bで得られた液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの蒸留回収を行う工程2Cを含む。
このような構成により、原料、水、周辺環境から意図的である無しに拘わらず混入するハロゲン、硝酸、硫酸などを分離除去することができる。ハロゲン、硝酸、硫酸などは、アルカリ金属、アルカリ土類金属と水に可溶な無機塩を作るものがあり、これらとアルコールアミンを分離する方法はアルコールアミンの蒸留回収が最も有効である。
無機塩は、電解液の電気伝導度を上げるために加える場合があるが、この濃度が管理範囲を超えてしまったときはこの工程処理によって除去することが可能となる。
また、この処理方法により、長期間放置したことによりpHが低下してしまった電解液や、アルコールアミンを含有しているものの液組成が不明な液からも電解に不要な成分を分離除去することができる。
さらに、工程2Aの処理で必要な液の添加等によって処理液の濃度が希薄になった場合に、処理液を濃縮させることができる。
以上の処理により、電解液などに含まれる無機塩など電解に不要な成分を除去し、アルコールアミンを効率良く回収することができる。
【0047】
前記工程2Cの前段または後段においてろ液に活性炭処理を行う工程2Dをさらに含んでもよい。
前記工程2Cの減圧蒸留処理における液の加熱温度は、沸点が120℃までの成分を除く場合60〜120℃であり、アルコールアミンを回収する場合120℃〜200℃であってもよい。
【0048】
アルカリ金属水酸化物或いはアルカリ土類金属水酸化物処理後の電解液のpHは、9〜13、好ましくは9〜12となるように調整する。水酸化カルシウム或いは酸化カルシウムを添加した場合は、水酸化カルシウムの溶解度が低いために12を超える可能性が低い。しかし、アルカリ金属が共存する場合は、炭酸イオンのイオン交換などによってアルカリ金属の濃度が高まる場合がある。この場合でも、pHが13を超えないように調整するのが好ましい。
pHが13を超えるような条件では、蒸留処理でアルコールアミンを精製するときにスケールの量が増えてしまい、処理が煩雑になることがある。一方、9を切るとアルコールアミンの塩が生成して、アルコールアミンの再生が不完全になる場合がある。
【0049】
減圧蒸留による蒸留回収工程2Cであるが、工程2Bで得られる液に含まれる金属塩などの不揮発分が少ない場合は、最初に留出してくるアンモニア、水など、沸点が120℃以下の低沸点成分を除いてアルコールアミンを濃縮する操作のみで再利用することもできる。濃縮処理した液は、必要に応じて活性炭処理を行い、アルコールアミンの濃度を調節した後に電解液に戻して再利用することができる。
この場合、加熱温度は60℃〜120℃とする。水、アンモニア、アミンなどを除去すればよい場合は、加熱温度を60℃〜100℃とする。加熱温度であるが加熱に用いる熱媒体の温度である。
【0050】
金属塩などや、高沸点の不純物の量が多い場合は、アルコールアミンを更に高純度化する必要がある。特許文献2に記載の方法などにより、アルコールアミンの蒸留を行い、回収する。この場合の加熱温度は100℃〜300℃であるが、アルコールアミンの種類により最適温度が異なるので、適宜調整する。通常は、アルコールアミンの沸点の40℃程度下から沸点を20℃程度超える範囲で加熱する。
【0051】
処理量が少ない場合は、ロータリーエバポレータとオイルバスを使用し、オイルバスの温度を100〜180℃程度にしてアルコールアミンを回収する。真空ポンプは水流ポンプを用いるのが好ましい。これは、処理する液が水や低沸点のアミンなどの成分を含み、これらの成分によって劣化が起こりにくく安価なためである。もちろん、通常のロータリーポンプを用いてもよいが、水分を含む液を処理するためにオイルの劣化やポンプの腐食が問題になることが多い。このため、コールドトラップを用いて水分などをトラップする必要がある。
【0052】
本発明の更に別の一側面におけるアルコールアミン含有電解液の再生方法は、図3のフローチャートで示される。当該アルコールアミン含有電解液の再生方法は、タングステンを含む有価物を含有する原料に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行い、前記電気分解を行った後の前記電解液の一部或いは全部を抜出す工程3A、前記工程3Aで得られた液をイオン交換法で処理してタングステン酸及び/またはポリタングステン酸をイオン交換樹脂に吸着させ、タングステンを除いたアルコールアミンを含む液を回収する工程3C、前記工程3Cで得られた液に、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を添加して混合・撹拌する工程3E、及び、前記工程3Eで得られた液に減圧蒸留処理を行うことで、不純物の分離及びアルコールアミンの蒸留回収を行う工程3Fを含む。
このような構成により、イオン交換処理工程で混入するハロゲン、硝酸、硫酸などを分離除去することができる。ハロゲン、硝酸、硫酸などは、アルカリ金属、アルカリ土類金属と水に可溶な無機塩を作るものがあり、これらとアルコールアミンを分離する方法はアルコールアミンの蒸留回収が最も有効である。
さらに工程3A〜3Cの処理で必要な液の添加等によって処理液の濃度が希薄になった場合に、処理液を濃縮することができる。
以上の処理により、電解液などに含まれる無機塩など電解に不要な成分を除去し、アルコールアミンを効率良く回収することができる。
【0053】
前記工程3Aで抜出した電解液に必要に応じて水を添加して粘度を調節する工程3Bをさらに含み、前記粘度を調節した後の電解液を前記工程3Cにおけるイオン交換法で処理する液として用いてもよい。
前記工程3Cで得られたタングステン酸及び/またはポリタングステン酸を吸着したイオン交換樹脂を水で洗浄して洗浄液を回収する工程3Dをさらに含み、前記回収した洗浄液を前記工程3Eにおける減圧蒸留処理を行う液として用いてもよい。
前記工程3Fの前段または後段において液に活性炭処理を行う工程3Gをさらに含んでもよい。
前記工程3Fの減圧蒸留処理における液の加熱温度は、沸点が120℃までの成分を除く場合60〜120℃であり、アルコールアミンを回収する場合120℃〜200℃であってもよい。
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、アルカリ土類金属水酸化物が水酸化カルシウムであり、アルカリ土類金属酸化物が酸化カルシウムであってもよい。
【0054】
工程3Cのイオン交換樹脂へタングステン酸イオンを吸着させる操作を具体的に記すと以下のようになる。
まず、タングステンが溶解しているアルコールアミン電解液を陰イオン交換樹脂に通液することでタングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させる。当該タングステン酸アルコールアミン溶液中のタングステン濃度は特に限定されないが、10〜140g/Lであるのが好ましい。タングステン酸アルコールアミン溶液中のタングステン濃度が10g/L未満である場合、水等の溶媒の量が多過ぎるという問題が生じることがあり、また、140g/Lを超える場合は陰イオン交換樹脂を充填する樹脂充填塔を長くする必要があり設備コストの面で問題が生じることがある。また、このように樹脂充填塔が長いとタングステン酸などの結晶が析出してしまうおそれがある。
【0055】
上述のように、タングステンを含む超硬材に対し、アルコールアミンを含有する電解液で電気分解することでタングステン酸アルコールアミン溶液を得るとき、タングステン酸はポリ酸として生成するため、特別な処理をすること無く単分子のタングステン酸よりも樹脂への吸着容量が増大している。このため、陰イオン交換樹脂に良好に吸着させることができ、タングステン酸イオンをアルコールアミンから良好に分離することができる。
【0056】
本発明においてタングステン酸イオンは、WO42-等のモノタングステン酸イオン、または、HW6215-、H212406-及びW124110-等のポリタングステン酸イオンを示す。アルコールアミン溶液中で電解しているタングステン酸のアルコールアミンを生成させるときは、アルコールアミンの濃度がモノタングステン酸の当量よりも少ない場合であっても、安定的に溶液として存在している。このため、大部分がポリタングステン酸として生成していることがわかる。
【0057】
陰イオン交換樹脂としては、I型、II型のどちらであってもよいが、効率的にタングステン酸を吸着させるためには、強塩基であるI型を用いることが好ましい。また、アルコールアミン溶液を使用するため、有機溶媒で安定的に使用できるイオン交換樹脂が好ましい。具体的には、ダウ・ケミカル社製アンバーライトIRA900JまたはアンバーライトIRA904等が挙げられる。
【0058】
陰イオン交換樹脂を充填する樹脂充填塔は、単独であってもよく、2つ以上を連続して用いるものであってもよい。また、そのような樹脂充填塔は、例えば、内径2〜500cmの管に陰イオン交換樹脂を15〜1000cmの高さ(長さ)で充填したものとしてもよい。タングステン酸アルコールアミン溶液の通液速度は、特に限定されないが、空間速度SVが0.5〜10hr-1であるのが好ましく、0.8〜5hr-1であるのがより好ましい。
【0059】
また、タングステン酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させる工程において、タングステン酸アルコールアミン溶液を陰イオン交換樹脂に通液することで得られた通液後液を、陰イオン交換樹脂に戻して再度通液させてもよい。タングステン酸アルコールアミン溶液を陰イオン交換樹脂に通液させて得られた通液後液には、陰イオン交換樹脂に吸着されなかったポリタングステン酸イオンが残存していることがある。このため、上述の構成によって通液後液を再度陰イオン交換樹脂に通液させて、ポリタングステン酸イオンをより多く回収することができる。
【0060】
イオン交換処理によりタングステンを吸着させたイオン交換樹脂は、水で洗浄する。タングステンを回収した後の電解液と、イオン交換樹脂を水で洗浄した液は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上による処理を行う。
【0061】
前記アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上であるが、前述したように水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム或いは酸化カルシウムを用いるのが好ましい。
水酸化リチウム、水酸化ルビジウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化マグネシウムのアルカリ土類金属水酸化物も使用可能ではあるが、価格、入手の容易さの点で高価になりやすい。このため、水酸化カルシウム或いは酸化カルシウムを用いるのが好ましい。
【0062】
アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びアルカリ土類金属酸化物から成る群から選択される1種以上を用いた処理後の電解液のpHは、9〜13、好ましくは9〜12となるように調整する。水酸化カルシウム或いは酸化カルシウムを添加した場合は、水酸化カルシウムの溶解度が低いために12を超える可能性が低い。しかし、アルカリ金属が共存する場合は、炭酸イオンのイオン交換などによってアルカリ金属の濃度が高まる場合がある。この場合でも、pHが13を超えないように調整するのが好ましい。
pHが13を超えるような条件では、蒸留処理でアルコールアミンを精製するときにスケールの量が増えてしまい、処理が煩雑になることがある。一方、9を切るとアルコールアミンの塩が生成して、アルコールアミンの再生が不完全になる場合がある。
【0063】
水酸化カルシウム或いは酸化カルシウムを用いると、電解後液中に空気中の二酸化炭素等が溶け込んで生じた炭酸塩の除去も可能となる。このため、長期間使用した電解液の再生に好適に使用できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0065】
(実施例1)
電解槽のアノードとして、表1に示す品位の超硬材スクラップ10kgをチタンバスケットに入れたものを用いた。
電解槽のカソードとして、チタン板を用いた。
電解液に200gのモノエタノールアミンを用いて純水で10Lとした。次に、整流器を接続し、電流密度を5A/dm2として、100Aの定電流で、温度を70℃にて電解溶解を10時間行った。タングステンの溶解量は600gであり、電解液のpHは7.1とした。
【0066】
【表1】
【0067】
この電解液を1L採取し、50℃の温度で撹拌しながら酸化カルシウムの粉末を少しずつ添加して行き、最終的に50gの酸化カルシウムを添加した。カルシウムとタングステンのモル比:Ca/Wは2.7である。その後、撹拌を2時間継続し、温度を維持したままろ過して、ろ液とケーキに分離した。ケーキはアルコールアミンの濃度が所定濃度よりも低下しない範囲でかつ蒸発により減少した水分を補う少量の水で洗浄して洗浄液とろ液を合わせた。冷却後の液のpHは11であった。
続いて、ろ液に活性炭を10g加えて10分間撹拌し、ろ過した。
このろ液に含まれるタングステン濃度はほぼゼロであった。この液を電解槽に戻して電解を始めたところ、特に問題なく電解することができた。
【0068】
(比較例1)
酸化カルシウムの添加量を15gとした以外は、実施例1と同様の条件で表1に示す品位の超硬材スクラップを電気分解し、電解後液からタングステン酸を回収した。カルシウムとタングステンのモル比:Ca/Wは0.8である。得られた液のpHは10.5であった。活性炭処理無しでは液が濃く着色したままであるが、活性炭処理によりタングステン酸のロスが生じるため、活性炭処理せずに再利用した。同様の再生処理を10回繰り返したところ、電流効率が徐々に低下し、10回目の液では85%になった。
【0069】
(実施例2)
電解槽のアノードとして、表1に示す品位の超硬材スクラップ10kgをチタンバスケットに入れたものを用いた。
電解槽のカソードとして、チタン板を用いた。
電解液に2kgのモノエタノールアミンを用いて純水で20Lとした。次に、整流器を接続し、電流密度を5A/dm2として、100Aの定電流で、温度を70℃にて電解溶解を10時間行った。
【0070】
その結果、カソードのチタン板表面に金属コバルトが析出した。また、電解液にはタングステンが溶解してタングステン酸アルコールアミン溶液となっており、且つ、電解液中に残渣が生じた。また、タングステンの溶解量は0.6kgで電流効率はほぼ100%であった。
【0071】
次に、内径5cm、高さ20cmの管に陰イオン交換樹脂を充填した樹脂充填塔を準備した。続いて、当該樹脂充填塔内に、上記タングステン酸アルコールアミン溶液を通液し、液は容器Aに受けた。通液の空間速度SVは10hr-1とした。陰イオン交換樹脂は、あらかじめ塩酸を流して塩化物イオンに置換したものを使用した。
続いて樹脂充填塔内に純水5Lを流して洗浄し、この液も容器Aに受けた。
【0072】
この液を3L採取して5Lの回転フラスコに入れ、ロータリーエバポレータで減圧蒸留を行った。加熱はオイルバスを使用し、水流ポンプで減圧した。第一段階ではオイルバスの温度を90℃として水分と低沸点の不純物を蒸発させ受けフラスコに受けた。受けフラスコの液が一杯になったら蒸留操作を停止して廃棄する操作を行い、再び蒸留を継続する。蒸留を続けて回転フラスコの液量が20%程度になったら回転フラスコ内の液を容器Bに移した。同様の操作を繰り返し、容器Aの液を体積比率で5倍程度に濃縮した液約5Lを得た。
続いて、オイルバスの温度を150℃とし、容器Bの液約3Lを回転フラスコに入れて減圧し、モノエタノールアミンを主成分とする部分を回収した。電解液の濃縮が進んで塩が析出したり、液の残量が200ML程度になったら蒸留を停止した。同様にして、容器Bの残りの液も処理し、モノエタノールアミンを主成分とする液を回収した。
得られた液をガスクロマトグラフを用いて測定した結果、モノエタノールアミンを90%含んでいた。
この回収した液を用いてモノエタノールアミンが10(V/V)%になるように電解液を調製し、電解槽に戻して電解を始めたところ、特に問題なく電解することができた。
図1
図2
図3
図4