【文献】
LIU,Jing et al.,Cascade Extraction and Separation of the Active Constituentsfrom Jatropha Curcas L. Seeds,Solvent Extraction Research andDevelopment,Japan,(2015), Vol.22, No1,pp. 109-117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非食用の油糧種子が、クロヨナ(Pongamia pinatta)、南洋アブラギリ(Jatropha curcas)、広東アブラギリ(Vernicia montana)、パラゴム(Hevea brasiliensis)およびテリハボク(Calophyllum inophyllum)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
工程(A)、工程(B)および工程(C)(i)から選択される少なくとも1つの工程における抽出が、マイクロ波および超音波の少なくとも1つを照射して実施される請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
非食用の油糧種子から、水、炭素数1〜4のアルコールおよび炭素数5〜8の飽和炭化水素を順次抽出溶媒として、それぞれ糖類、薬効成分および植物油を抽出するための装置であって、
粉砕した非食用の油糧種子を充填するための抽出槽と、
該抽出槽に溶媒を供給する溶媒供給口と、
該抽出槽から抽出液を排出する排出口と、
排出した抽出液を貯留する貯留部と
を備えた装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施態様によれば、(A)粉砕した非食用の油糧種子を水で抽出し、抽出液と固形物を分離する工程、(B)工程(A)で得られた固形物を炭素数1〜4のアルコールで抽出し、抽出液と固形物を分離する工程、および(C)(i)工程(B)で得られた固形物を炭素数5〜8の飽和炭化水素で抽出し植物油を得る工程、または(ii)工程(B)で得られた固形物を搾油し植物油を得る工程により植物油を製造する。抽出カスケードの順番を、水、炭素数1〜4のアルコール、そして炭素数5〜8の飽和炭化水素とすることで、前後の抽出溶媒間の親和性が高く、固形物に抽出溶媒がなじみやすいため、スムーズな抽出が可能となる。
【0012】
本発明に用いる非食用の油糧種子としては、特に限定されるものではないが、クロヨナ(Pongamia pinatta)、南洋アブラギリ(Jatropha curcas)、広東アブラギリ(Vernicia montana)、パラゴム(Hevea brasiliensis)、テリハボク(Calophyllum inophyllum)、ローゼリ草(Hibiscus sabdariffa)トウゴマ(Ricinus communis)、アマ(Linum usitatissimum)、シロゴチョウ(Sesbania grandiflora)などが挙げられる。なかでも、糖類、ビタミン類、薬効成分などの含有量が多く、また食用にならないことから、クロヨナ(Pongamia pinatta)、南洋アブラギリ(Jatropha curcas)、広東アブラギリ(Vernicia montana)、パラゴム(Hevea brasiliensis)およびテリハボク(Calophyllum inophyllum)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
油糧種子の粉砕は、南洋アブラギリやクロヨナのように比較的薄い殻の種子の場合は、直接、粉砕機(例えば、ラボネクト社製のハイスピードミルHS20など)で約70〜130メッシュに粉砕することが好ましく、100メッシュに粉砕することがより好ましい。広東アブラギリ、テリハボク、ゴムなどのように比較的堅い殻の種子に対しては、粉砕機で粉砕する前に、破砕機(例えば、フジテックス社製、ALI−miniなど)で殻を壊すことが好ましい。
【0014】
本明細書において、「v/v%」は容量/容量%を意味する。また、本明細書において「約」は、±1%の誤差を許容する意味である。
【0015】
<水による抽出(A工程)>
粉砕した油糧種子の水による抽出は、抽出液から糖類を得ることができる。この糖類としては単糖類や二糖類が挙げられ、スクロースが主な成分である。得られた糖類は、常法のエタノール発酵などによりバイオエタノールに変換することができる。
【0016】
水の油糧種子に対する割合は、総量として約1〜20mL/g用いることが好ましく、約1.5〜15mL/g用いることがより好ましく、約2〜9mL/g用いることがさらに好ましい。また、抽出回数は、特に制限されるものではないが、抽出効率の観点から2〜5回が好ましく、工程の簡略化の観点からは2〜3回がより好ましい。
【0017】
水による抽出温度は、特に限定されるものではないが、糖類の抽出効率の点から25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましいが、エネルギー消費の観点からは、40℃より高くしてもエネルギー消費に見合った抽出効率の向上は望めない傾向がある。このため、もちろん夏季であれば通常常温で問題なく行うことができる。
【0018】
水による抽出は、外部から種々のエネルギーを加えて行うことが抽出効率の点から好ましい。具体例としては、特に限定されるものではないが、マグネチックスターラーなどによる撹拌、振とう器などによる振とう、超音波照射、マイクロ波照射などが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせても良い。
【0019】
水による抽出には、特に限定されるものではないが、糖類の抽出時間の短縮という観点から、超音波照射を併用することが好ましい。超音波の照射時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましい。超音波の照射時間が10分未満では、十分な抽出効率を得ることができない傾向がある。また、超音波の照射時間は、40分以下が好ましく、30分以下がより好ましい。超音波の照射時間を40分より長くしても、それ以上抽出効率の向上は望めない傾向がある。なお、超音波を照射しない場合であっても、抽出時間を長くすることにより、十分な収量を得ることができる。
【0020】
水による抽出に超音波照射を用いる場合、超音波の周波数は特に限定されるものではないが、抽出効率の点から下限は10kHz以上が好ましく、上限は50kHzが好ましく、約20kHzで行うことが最も好ましい。
【0021】
水による抽出には、特に限定されるものではないが、糖類の抽出時間の短縮という観点から、また、エネルギー効率の観点から、マイクロ波照射を用いることが好ましい。マイクロ波の照射時間は、抽出効率の観点から適用する抽出混合物の温度が溶媒の沸点に到達する程度とすることが好ましい。
【0022】
なお、本発明のいずれの工程においても、マイクロ波を用いる場合は、通常、国際規格である2.45GHzのものを使用する。
【0023】
また、水による抽出には、マイクロ波照射と超音波照射を組み合わせることも好ましい態様である。その場合、超音波の照射時間は、超音波単独で使用する場合と比較してより短時間とすることができる。また、マイクロ波照射により上昇した温度を効率的に使用するため、組み合わせる超音波照射についても上述の抽出温度よりも高温とすることが好ましく、例えば40℃以上で行うことが好ましい。
【0024】
得られた水抽出液は、エバポレーター等により減圧乾燥することにより水を蒸発させると固体が得られる。得られた固体は糖類の混合物であり、2糖類のスクロース、ラクトース、マルトース、セルビオース、3糖類以上のポリサッカロースなどを含む。糖類の組成は油糧種子の種類により異なり、多くの油糧種子、たとえばクロヨナ、広東アブラギリ、南洋アブラギリでは、その約85〜99%がスクロースである。この混合物はそのまま糖として用いたり、バイオエタノールの原料とすることもできるが、精製して純粋なスクロースを得ることもできる。
【0025】
<炭素数1〜4のアルコールによる抽出(B工程)>
粉砕した油糧種子を上述の水抽出を行った後の固形物に対する炭素数1〜4のアルコールによる抽出では、抽出液から薬効成分を得ることができる。この薬効成分としては、炭素数1〜4のアルコールで抽出可能なものが挙げられ、例えば、トコフェロールやトコトリエノールなどのビタミンEや、β−シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロールなどのフィトステロールなどが挙げられる。ビタミンEは抗酸化剤、コレステロール降下剤、抗がん剤として、フィトステロールはコレステロール降下剤として有用である。
【0026】
炭素数1〜4のアルコールの油糧種子に対する割合は、総量として約1〜20mL/g用いることが好ましく、約1.5〜15mL/g用いることがより好ましく、約2〜9mL/g用いることがさらに好ましい。また、抽出回数は、特に制限されるものではないが、抽出効率の観点から2〜5回が好ましく、工程の簡略化の観点からは2〜3回がより好ましい。
【0027】
炭素数1〜4のアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどを使用することができるが、油分の混入を最小限とするためには、メタノールまたはエタノールから選択することが好ましい。エタノールを使用する場合、水との混液とすることで油分の混入をさらに抑制することができる。このため、エタノールとしては水との混液を用いることが好ましく、特に限定されるものではないが、20%(エタノール/水=20/80(v/v))以上のエタノールを好適に使用することができる。なかでも、抽出効率の観点からは、75〜85v/v%エタノールが好ましく、約80v/v%エタノールが最も好ましい。
【0028】
炭素数1〜4のアルコールによる抽出温度は、特に限定されるものではないが、薬効成分の抽出効率の点から25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましいが、エネルギー消費の観点からは、40℃より高くしてもエネルギー消費に見合った抽出効率の向上は望めない傾向がある。このため、もちろん夏季であれば通常常温で問題なく行うことができる。
【0029】
炭素数1〜4のアルコールによる抽出は、外部から種々のエネルギーを加えて行うことが抽出効率の点から好ましい。具体例としては、特に限定されるものではないが、マグネチックスターラーなどによる撹拌、振とう器などによる振とう、超音波照射、マイクロ波照射などが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせても良い。
【0030】
炭素数1〜4のアルコールによる抽出には、特に限定されるものではないが、薬効成分の抽出時間の短縮という観点から、超音波照射を併用することが好ましい。超音波の照射時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましい。超音波の照射時間が10分未満では、十分な抽出効率を得ることができない傾向がある。また、超音波の照射時間は、40分以下が好ましく、30分以下がより好ましい。超音波の照射時間を40分より長くしても、それ以上抽出効率の向上は望めない傾向がある。なお、超音波を照射しない場合であっても、抽出時間を長くすることにより、十分な収量を得ることができる。
【0031】
炭素数1〜4のアルコールによる抽出に超音波照射を用いる場合、超音波の周波数は特に限定されるものではないが、抽出効率の点から下限は10kHz以上が好ましく、上限は50kHzが好ましく、約20kHzで行うことが最も好ましい。超音波の周波数が50kHzを超えると、薬効成分の分解が生じる可能性がある。
【0032】
炭素数1〜4のアルコールによる抽出には、特に限定されるものではないが、薬効成分の抽出時間の短縮という観点から、また、エネルギー効率の観点から、マイクロ波照射を用いることが好ましい。マイクロ波の照射時間は、抽出効率の観点から適用する抽出混合物の温度が溶媒の沸点に到達する程度とすることが好ましい。
【0033】
また、炭素数1〜4のアルコールによる抽出には、マイクロ波照射と超音波照射を組み合わせることも好ましい態様である。その場合、超音波の照射時間は、超音波単独で使用する場合と比較してより短時間とすることができる。また、マイクロ波照射により上昇した温度を効率的に使用するため、組み合わせる超音波照射についても上述の抽出温度よりも高温とすることが好ましく、例えば40℃以上で行うことが好ましい。
【0034】
得られた炭素数1〜4のアルコール抽出液は、エバポレーター等により減圧乾燥することにより溶媒を蒸発させると固体が得られる。得られた固体は薬効成分の混合物であり、主な成分は上述のビタミンEやフィトステロールである。ビタミンEとフィトステロールは、抽出溶媒のメタノールまたはエタノールを蒸発させて、水酸化カルシウムまたは水酸化カリウムを少量加えて、微アルカリ性にして、水を加えると、フェノール性の強いビタミンEは水に溶けて、フィトステロールはそのまま固体として残り、分離することができる。これらは、それぞれビタミンEの混合物として、またはフィトステロールの混合物として用いることもできるが、ビタミンEの各成分、またはフィトステロールの各成分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた分子量分割または限外ろ過法などの一般的な方法により単離して用いることもできる。
【0035】
<植物油の抽出(C(i)工程)>
油糧種子を水抽出し、次いで炭素数1〜4のアルコールで抽出した後の固形物からの植物油の抽出には、炭素数5〜8の飽和炭化水素を抽出溶媒として用いる。炭素数5〜8の飽和炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンが挙げられ、いずれの溶媒でも植物油の抽出を同様に行うことができるが、溶媒の回収という点から沸点のある程度高い、例えばヘキサンの沸点以上の沸点を有するヘキサン以上の炭素数を有する炭化水素を用いることが好ましい。さらにコストの点からもヘキサンを用いることが最も好ましい。
【0036】
炭素数5〜8の飽和炭化水素の油糧種子に対する割合は、総量として約1〜20mL/g用いることが好ましく、約1.5〜15mL/g用いることがより好ましく、約2〜9mL/g用いることがさらに好ましい。また、抽出回数は、特に限定されるものではないが、抽出効率の観点から2〜5回が好ましく、工程の簡略化の観点からは2〜3回がより好ましい。
【0037】
植物油の抽出温度は、特に限定されるものではないが、収率の点から25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましいが、エネルギー消費の観点からは、40℃より高くしてもエネルギー消費に見合った抽出効率の向上は望めない傾向がある。このため、もちろん夏季であれば通常常温で問題なく行うことができるが、冬季に温度が低すぎると、植物油の成分であるステアリンおよびパルミチン鎖のトリグリセリドが凝固し(トリステアリンの融点:72℃、トリパルミチンの融点:65.5℃)、抽出効率が低下する傾向があるため、冬季には25℃以上に加温することが好ましい。
【0038】
植物油の抽出は、外部から種々のエネルギーを加えて行うことが抽出効率の点から好ましい。具体例としては、特に限定されるものではないが、マグネチックスターラーなどによる撹拌、振とう器などによる振とう、超音波照射、マイクロ波照射などが挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせても良い。
【0039】
植物油の抽出には、特に限定されるものではないが、抽出時間の短縮という観点から、超音波照射を併用することが好ましい。超音波の照射時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましい。超音波の照射時間が10分未満では、十分な収率を得ることができない傾向がある。また、超音波の照射時間は、40分以下が好ましく、30分以下がより好ましい。超音波の照射時間を40分より長くしても、それ以上コストに見合った収率の向上は望めない傾向がある。なお、超音波を照射しない場合であっても、抽出時間を長くすることにより、十分な収量を得ることができる。
【0040】
本発明において植物油の抽出に超音波照射を用いる場合、超音波の周波数は特に限定されるものではないが、10kHz以上が好ましく、20kHz以上がより好ましく、比較的低周波数の超音波である約50kHzまではほぼ同程度の抽出効率が得られる。超音波の周波数は、100kHz以下が好ましく、50kHz以下がより好ましい。超音波の周波数が100kHzを超えると、抽出された化合物の分解反応が進行し、コストに見合った収率の向上は望めない傾向がある。
【0041】
植物油の抽出には、特に限定されるものではないが、抽出時間の短縮という観点から、また、エネルギー効率の観点から、マイクロ波照射を用いることが好ましい。炭素数5〜8の飽和炭化水素である抽出溶媒は水酸基を有さないため、マイクロ波照射は、溶媒以外の成分に作用して影響すると考えられる。マイクロ波の照射時間は、抽出効率の観点から適用する抽出混合物の温度が溶媒の沸点に到達する程度とすることが好ましい。
【0042】
また、植物油の抽出には、マイクロ波照射と超音波照射を組み合わせることも好ましい態様である。その場合、超音波の照射時間は、超音波単独で使用する場合と比較してより短時間とすることができる。また、マイクロ波照射により上昇した温度を効率的に使用するため、組み合わせる超音波照射についても上述の抽出温度よりも高温とすることが好ましく、例えば40℃以上で行うことが好ましい。
【0043】
得られた植物油の抽出液は、エバポレーター等により減圧乾燥することにより溶媒を蒸発させることにより、油状物として植物油を得ることができる。
【0044】
<植物油の搾油(C(ii)工程)>
搾油は、油糧種子を水抽出し、次いで炭素数1〜4のアルコールで抽出した後の固形物を搾油機(例えば、サン精機社製のKT50−160など)に投入し、4〜5kg/時間のスピードで行うことができる。さらに多量の搾油は、KT100−200を用いれば、12kg/時間で可能である。
【0045】
<カスケードでの実施>
本発明を実施する場合、油糧種子を含有する槽に抽出溶媒を順次適用し、上述の工程(A)、(B)および(C)(i)を連続的に実施することができる。その場合の各工程には、上述した抽出条件をそれぞれ適用することができる。
【0046】
本発明を実施する場合、油糧種子を含有する槽を各抽出溶媒で連続的に抽出することができる。この場合、抽出温度や超音波の照射時間さらには超音波の周波数すべてを同一の条件等とすることにより、各抽出工程ごとに設定変更を行う必要がなく、より簡便に実施することができる。そのような抽出条件としては、温度が25〜40℃が好ましく、超音波照射時間は15〜30分が好ましく、周波数は20kHzが好ましい。なお、マイクロ波照射を超音波照射と併用する場合には、超音波照射の温度は、40℃以上が好ましい。
【0047】
このようにして、本発明によれば、非食用の油糧種子から、バイオエタノールの原料となる糖類、薬効成分、バイオディーゼル燃料の原料となる植物油脂そしてメタンガスの原料となる残渣およびバイオマスを一連のカスケードで製造することができ、石油系燃料と比較しても経済的に有利なバイオマス総合利用システムを構築することができる。
【0048】
<糖類、薬効成分および植物油を順次抽出するための装置>
本発明においては、油糧種子から、抽出溶媒を変更することにより順次糖類、薬効成分および植物油を抽出することができるため、1つの抽出槽のみを備えた装置で各成分を順次抽出分離することができる。具体的には、非食用の油糧種子から、水、炭素数1〜4のアルコールおよび炭素数5〜8の飽和炭化水素を順次抽出溶媒として、それぞれ糖類、薬効成分および植物油を抽出するための装置であって、粉砕した非食用の油糧種子を充填するための抽出槽と、該抽出槽に溶媒を供給する溶媒供給口と、該抽出槽から抽出液を排出する排出口と、排出した抽出液を貯留する貯留部とを備えた装置を用いることができる。抽出槽への溶媒供給口は1つであっても溶媒ごとに複数備えていてもよく、当該装置は、必要に応じ、抽出槽の撹拌手段、抽出槽の加温部、超音波照射部、マイクロ波照射部を備えていてもよい。
【0049】
具体的には、抽出槽に粉砕した油糧種子を投入し、溶媒供給口から水を加える。所定時間攪拌またはマイクロ波照射および/または超音波照射を行い、抽出液排出口から水溶液を分離する。この操作を所定回数行う。次に、溶媒供給口から炭素数1〜4のアルコールを抽出槽に加える。所定時間攪拌またはマイクロ波照射および/または超音波照射を行い、抽出液排出口からアルコール溶液を分離する。この操作を所定回数行う。最後に溶媒供給口から炭素数5〜8の飽和炭化水素を抽出槽に加える。所定時間攪拌またはマイクロ波照射および/または超音波照射を行い、抽出液排出口から飽和炭化水素溶液を分離する。この操作を所定回数行う。このようにして、糖類、薬効成分および植物油を含む各溶液を分離し、溶媒を蒸発させ、目的の糖類、薬効成分および植物油を得ることができる。当該装置は、必要に応じ、抽出液の排出を加圧下で行うことができるように加圧手段を備えていてもよい。
【0050】
その他、本実施態様である糖類、薬効成分および植物油を順次抽出するための装置には、上記本発明の植物油の製造方法について説明した内容を同様に適用することができる。
【0051】
<本発明の別の実施形態>
本発明の1つの実施形態は、上述したように、(A)粉砕した非食用の油糧種子を水で抽出し、抽出液と固形物を分離する工程、(B)工程(A)で得られた固形物を炭素数1〜4のアルコールで抽出し、抽出液と固形物を分離する工程、および(C)(i)工程(B)で得られた固形物を炭素数5〜8の飽和炭化水素で抽出し植物油を得る工程、または(ii)工程(B)で得られた固形物を搾油し植物油を得る工程を含む植物油を製造する方法であるが、本発明の別の実施形態として、上述の(B)工程の前に(A)で得られた固形物に対し(C)(i)工程を行う方法も提供される。このような形態は、炭素数1〜4のアルコールとして、炭素数2〜4のアルコールを用いる場合により有益に実施される。植物油の抽出を先に行うことにより、炭素数2〜4のアルコールを用いて薬効成分を抽出する際に油分の混入を懸念する必要がなくなるためである。その他の条件などは、上述の実施形態と特に異なるものではない。
【0052】
上記(C)(i)工程を(B)工程に先んじて行う本発明の1つの実施形態に合わせて、上述の糖類、薬効成分および植物油を順次抽出するための装置を、糖類、植物油および薬効成分を順次抽出するための装置とすることもできる。具体的な内容は、上述の本発明の植物油の製造方法や糖類、薬効成分および植物油を順次抽出するための装置についてした説明内容を同様に適用することができる。
【0053】
<糖類の抽出>
上述したように、本発明のカスケード抽出の一工程として水抽出を行うことにより糖類を分離することができるが、糖類の抽出は、糖類のみを目的とする場合、本発明のカスケード抽出とは独立して行うこともできる。この場合、粉砕した油糧種子を水で抽出してもよいが、後述の炭素数1〜4のアルコールによる薬効成分抽出後の固形物に対して水抽出を行ってもよい。
【0054】
その他、本実施態様である糖類の抽出方法には、上記本発明の植物油の製造方法中、水での抽出について説明した内容を同様に適用することができる。
【0055】
<薬効成分の抽出>
上述したように、本発明のカスケード抽出においては、薬効成分は水抽出を行った後の固形物に対して炭素数1〜4のアルコールによる抽出を行うことにより得ている。しかしながら、薬効成分のみを目的とする場合、このようなカスケード抽出に限定されることなく、粉砕された油糧種子を炭素数1〜4のアルコールにより直接抽出することも可能である。
【0056】
その他、本実施態様である薬効成分の抽出方法には、上記本発明の植物油の製造方法中、炭素数1〜4のアルコールによる抽出について説明した内容を同様に適用することができる。
【0057】
<バイオディーゼル燃料への変換>
本発明で得られる植物油は、特別な処理をしなければ水分を含むものであるが、アルキルエステル化してバイオディーゼル燃料にする際、たとえばアセトンを用いる共溶媒法(国際公開第2010/106985号)を使用すれば数%水分を含んでいても特段問題になることはない。またこの共溶媒法を用いることで、副生する純度の高いグリセリンも利用することができ、さらに経済競争力の高いシステムとすることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
参考例1
表1に示す各油糧種子中に含まれるスクロース、ビタミンE、フィトステロールおよび植物油の量を調べた。
(1−1)スクロースの抽出
破砕機(フジテックス社製のALI−mini;7.5kW)で堅い殻を破砕し、さらに粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕した種子10gに水30mLを加え、30℃で20kHzの超音波を15分間照射し、水層を分離した。同様の抽出操作をさらに4回繰り返し、得られた水層を合わせて減圧下、蒸発乾固して糖類を得た。得られた糖類を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した。糖類中のスクロースの含有量(質量%)およびスクロース量を表1に示す。
【0060】
(1−2)薬効成分の抽出
破砕機(フジテックス社製のALI−mini;7.5kW)で堅い殻を破砕し、さらに粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕した種子10gにメタノール30mLを加え、30℃で20kHzの超音波を15分間照射し、メタノール層を分離した。同様の抽出操作をさらに4回繰り返し、得られたメタノール層を合わせて減圧下、蒸発乾固した。固体をメタノールに溶解し、HPLCで分析した結果、3種のトコフェロール(α、β、γ)と4種のトコトリエノール(α、β、γ、δ)のビタミンE類およびフィトステロールが検出された。HPLCの分析結果から算出したビタミンEおよびフィトステロールの量を表1に示す。
【0061】
(1−3)植物油の抽出
破砕機(フジテックス社製のALI−mini;7.5kW)で堅い殻を破砕し、さらに粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕した種子10gにヘキサン30mLを加え、30℃で20kHzの超音波を15分間照射し、ヘキサン層を分離した。同様の抽出操作をさらに4回繰り返し、得られたヘキサン層を合わせて減圧下、ヘキサンを蒸発させて植物油を得た。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1〜9
粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕した南洋アブラギリの種子10gに水30mLを加え、表2に示す条件で抽出し、水層と固形物を分離した。同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、得られた水層を合わせて減圧下、蒸発乾固して糖類を得た。得られた糖類を高速液体クロマトグラフで分析し、スクロースの量を算出した。全糖類に対するスクロースの割合は、いずれもほぼ86.7質量%であった。
【0064】
つぎに固形物にメタノール30mLを加え、表2に示す条件で抽出し、メタノール層と固形物を分離した。同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、得られたメタノール層を合わせて減圧下、蒸発乾固した。得られた固体をメタノールに溶解し、HPLCで分析した。HPLCの分析結果からビタミンEとフィトステロールの量を算出した。
【0065】
その後、固形物にヘキサン30mLを加え、表2に示す条件で抽出し、ヘキサン層を分離した。同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、得られたヘキサン層を合わせて減圧下、ヘキサンを蒸発させて油状物を得た。
【0066】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例10
粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕した南洋アブラギリの種子10gに水30mLを加え、30℃で20kHzの超音波を15分間照射し、水層と固形物を分離した。同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、得られた水層を合わせて減圧下、蒸発乾固して糖類を得た。得られた糖類の全量は0.743gであった。HPLCで分析したところ、スクロースの濃度は、86.7%であり、純粋なスクロース0.644gを得た。
【0069】
つぎに固形物に80v/v%エタノール30mLを加え、30℃で20kHzの超音波を15分間照射し、エタノール層と固形物を分離した。同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、得られたエタノール層を合わせて減圧下、蒸発乾固した。固体をエタノールで溶解し、HPLCで分析した。その結果、HPLCの分析結果から算出したビタミンEとフィトステロールの量は、ビタミンE5.4mg、フィトステロール7.7mgであった。
【0070】
その後、固形物にヘキサン30mLを加え、30℃で20kHzの超音波を15分間照射し、ヘキサン層を分離した。同様の抽出操作をさらに2回繰り返し、得られたヘキサン層を合わせて減圧下、ヘキサンを蒸発させて油状物(植物油)(2.70g)を得た。
【0071】
実施例11
粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕した南洋アブラギリの種子10gに水30mLを加え、30℃で30分マグネチックスターラーで撹拌し(600rpm)、水層と固形物を分離した。得られた水層を減圧下、蒸発乾固して糖類を得た。得られた糖類を高速液体クロマトグラフで分析し、スクロースの量を算出した。全糖類に対するスクロースの割合は、いずれもほぼ86.7質量%であった。
【0072】
つぎに固形物に20%エタノール(エタノール/水=20/80(v/v))30mLを加え、30℃で30分マグネチックスターラーで撹拌し(600rpm)、20%エタノール層と固形物を分離した。得られた20%エタノール層を減圧下、蒸発乾固した。得られた固体をメタノールに溶解し、HPLCで分析した。HPLCの分析結果からビタミンEとフィトステロールの量を算出した。
【0073】
その後、固形物にヘキサン30mLを加え、30℃で30分マグネチックスターラーで撹拌し(600rpm)、ヘキサン層を分離した。得られたヘキサン層を減圧下、ヘキサンを蒸発させて油状物を得た。
【0074】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表3に示す。
【0075】
実施例12
各抽出工程における撹拌時間を3時間としたほかは、実施例11と同様に各成分を得た。
【0076】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表3に示す。
【0077】
実施例13
水による抽出工程において、マグネチックスターラーによる撹拌に代えて、マイクロ波(2.45GHz)を30秒照射し、その後、60℃で20kHzの超音波を10分間照射し、20%エタノールによる抽出工程およびヘキサンによる抽出工程において、マグネチックスターラーによる撹拌に代えて、マイクロ波(2.45GHz)を15秒照射し、その後、60℃で20kHzの超音波を10分間照射したほかは、実施例12と同様にして各成分を得た。
【0078】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例14
粉砕機(ラボネクト社製のハイスピードミルHS20)で100メッシュに粉砕したテリハボクの種子10gに水20mLを加え、30℃で30分マグネチックスターラーで撹拌し(600rpm)、水層と固形物を分離した。得られた水層を減圧下、蒸発乾固して糖類を得た。得られた糖類を高速液体クロマトグラフで分析し、スクロースの量を算出した。全糖類に対するスクロースの割合は、いずれもほぼ86.7質量%であった。
【0081】
つぎに固形物に20%エタノール(エタノール/水=20/80(v/v))20mLを加え、30℃で30分マグネチックスターラーで撹拌し(600rpm)、20%エタノール層と固形物を分離した。得られた20%エタノール層を減圧下、蒸発乾固した。得られた固体をメタノールに溶解し、HPLCで分析した。HPLCの分析結果からビタミンEとフィトステロールの量を算出した。
【0082】
その後、固形物にヘキサン20mLを加え、30℃で30分マグネチックスターラーで撹拌し(600rpm)、ヘキサン層を分離した。得られたヘキサン層を減圧下、ヘキサンを蒸発させて油状物を得た。
【0083】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表4に示す。
【0084】
実施例15
水による抽出工程において、マグネチックスターラーによる撹拌に代えて、マイクロ波(2.45GHz)を30秒照射し、その後、60℃で20kHzの超音波を10分間照射し、20%エタノールによる抽出工程およびヘキサンによる抽出工程において、マグネチックスターラーによる撹拌に代えて、マイクロ波(2.45GHz)を15秒照射し、その後、60℃で20kHzの超音波を10分間照射したほかは、実施例14と同様にして各成分を得た。
【0085】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表4に示す。
【0086】
実施例16
テリハボクの種子に代えて、広東アブラギリの種子を用いたほかは、実施例14と同様にして各成分を得た。
【0087】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表4に示す。
【0088】
実施例17
テリハボクの種子に代えて、広東アブラギリの種子を用いたほかは、実施例15と同様にして各成分を得た。
【0089】
スクロースの量、ビタミンE類とフィトステロールの量、および植物油の収量を参考例1の各量に対する百分率(%)で表4に示す。
【0090】
【表4】