(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750293
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】プラスチック表面の処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/24 20060101AFI20200824BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20200824BHJP
C25B 1/30 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
C23C18/24
C25B15/08 302
C25B1/30
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-91178(P2016-91178)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-197831(P2017-197831A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕都喜
【審査官】
▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03597336(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02853619(EP,A1)
【文献】
特表2015−518083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/24
C25B 1/30
C25B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックを、硫酸を電気分解した溶液で処理するプラスチック表面の処理方法であって、
前記溶液の硫酸濃度が50〜92wt%で、過硫酸濃度が3g/L以上であり、前記処理温度が100〜130℃であることを特徴とするプラスチック表面の処理方法。
【請求項2】
前記溶液の過硫酸濃度が3〜20g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック表面の処理方法。
【請求項3】
硫酸含有処理液を貯留するための処理槽と、該処理槽内の硫酸含有処理液が循環される、過硫酸生成用電解セルとを備えた処理装置の該処理槽に前記プラスチックを浸漬し、該プラスチックの表面を処理することを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック表面の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック表面の金属化に先立って行われるプラスチック(樹脂成形品)表面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材料や部品材料として金属が用いられている部位において、軽量化、低コスト化、形状の自由さ、大量生産が容易等のメリットを生かし、プラスチックが代替されている。現在では、装飾用のみならず、自動車の外装や内装部品、家電製品等に広く使用されている。その際、剛性、耐摩耗性、耐候性、耐熱性等を向上させるため、プラスチック表面にめっきを施すことが多い。
【0003】
プラスチックは非導電性のため、めっきを施すにはまず導体となる金属皮膜をプラスチック上に形成する必要がある。その方法を大きく分類すると、CVD、PVDといった乾式法、無電解ニッケルめっきの湿式法である。乾式法は真空状態での成膜がほとんどで、大量生産や大型部品への適用に向かず、湿式法がこれまで採用されてきた。
【0004】
これまでABS樹脂及びPEEK樹脂の前処理が難しいとされ、そのエッチング工程にクロム酸−硫酸溶液を使用することで目的を達してきた。
【0005】
クロム酸はH
2CrO
4であり、濃硫酸との混合液である本エッチング液中では
2CrO
42−+2H
3O
+→Cr
2O
72−+3H
2O
の平衡が存在するものの、Crはいずれにせよ6価である。6価CrはREACH規制及びRoHS規制の対象ではあるものの、製品内に6価Crが残留するわけでなく、規制を受けるわけではないが、近年環境問題への関心が強くなり、6価Crを使用しない環境調和型技術が強く要望されている。
【0006】
クロム酸に代わる環境調和型技術として、特許文献1には、過マンガン酸塩及び無機塩の混合液でエッチングすることが記載されている。しかし、この特許文献1の方法では、PEEK樹脂やABS樹脂の表面処理は難しく、金属との密着性に問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−31513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Crフリーのプラスチック表面の処理方法であって、プラスチック表面に十分に密着しためっきをすることができるめっき前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、硫酸を電気分解して得られる過硫酸(酸化剤)を含む硫酸溶液でプラスチック表面を処理することにより、その後のめっき処理を行っても十分に密着しためっきを得ることができる本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、次を要旨とする。
【0011】
[1] プラスチックを、硫酸を電気分解した溶液で処理することを特徴とするプラスチック表面の処理方法。
【0012】
[2] 前記溶液の硫酸濃度が50〜92wt%であることを特徴とする[1]に記載のプラスチック表面の処理方法。
【0013】
[3] 処理温度が80〜140℃であることを特徴とする[1]または[2]に記載のプラスチック表面の処理方法。
【0014】
[4] 前記溶液の過硫酸濃度が3〜20g/Lであることを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載のプラスチック表面の処理方法。
【0015】
[5] 硫酸含有処理液を貯留するための処理槽と、該処理槽内の硫酸含有処理液が循環される、過硫酸生成用電解セルとを備えた処理装置の該処理槽に前記プラスチックを浸漬し、該プラスチックの表面を処理することを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載のプラスチック表面の処理方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプラスチック表面の処理方法によると、プラスチック表面上に十分に密着しためっきを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のプラスチック表面の処理方法において、対象となるプラスチックとしては特に限定されないが、クロム酸−硫酸溶液でなければエッチングできない難エッチング性の高いプラスチック、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等が挙げられる。
【0019】
本発明においては、まず上記プラスチックを脱脂し、その後硫酸を電気分解した硫酸溶液に浸漬することによりプラスチック表面を処理する。この硫酸溶液の硫酸濃度は50〜92wt%特に70〜85wt%、過硫酸濃度は3g/L以上、例えば3〜20g/L特に3〜10g/L、処理温度は80℃以上、例えば80〜140℃特に100〜130℃であることが好ましい。この硫酸溶液に1〜10分間浸漬することにより、プラスチックの表面には親水性の官能基が露出する。PEEK樹脂の場合ヒドロキシル基及びカルボキシル基がプラスチック表面に現れる。
【0020】
図1は、このような硫酸の電気分解を行うのに好適な電解装置の一例を示す模式的断面図である。
【0021】
処理槽1の外周に恒温ヒータ2が設けられている。槽1内には、被処理プラスチックとしてプラスチック板5が板面を上下方向として配置されている。処理槽1内には、液を撹拌するための散気管等の撹拌手段を設置してもよい。
【0022】
処理槽1内の液は、配管7、ポンプ8、電解セル9及び配管10を介して循環される。電解セル9内にダイヤモンド電極よりなる陽極9a及び陰極9bと、両者間に配置されたバイポーラ電極9cとが設置されている。陽極9a及び陰極9bに電源ユニットから所定の電流が通電され、硫酸が電解されてペルオキソ二硫酸等の過硫酸が生成する。
【0023】
プラスチック板5の表面処理は、
図1に示す装置を用い、処理槽1内に硫酸を収容し、ポンプ8及び電解セル9を作動させ、処理槽1内に硫酸及び過硫酸濃度が上記範囲となった硫酸及び過硫酸含有処理液を生じさせた後、ポンプ8及び電解セル9を作動させながら、所定時間プラスチック板5を処理槽1内の処理液に浸漬することにより行われる。
【0024】
処理槽1から取り出したプラスチック板5は、水洗及び乾燥後、めっき処理される。めっき処理方法としては、自己触媒性のある無電解めっき、自己触媒性のない無電解めっきがあるが、そのいずれでもよい。めっきする金属は、ニッケル、銅、コバルト、及びそれらの合金などのいずれでもよい。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、過硫酸濃度測定及び付着性試験は次のようにして行った。
【0026】
<過硫酸濃度測定方法>
まず、ヨウ素滴定により処理液中に含まれる全酸化剤濃度を測定する。このヨウ素滴定とは、Klを加えてl
2を遊離させ、そのl
2をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定してl
2の量を求め、そのl
2の量から酸化剤濃度を求めるものである。次に、過酸化水素濃度のみを過マンガン酸カリウム滴定により求め、ヨウ素滴定値から過マンガン酸カリウム滴定値を差し引くことにより過硫酸濃度を求めた。
<付着性試験>
表面に2mm間隔で垂直に両方向6本のPEEK樹脂まで貫通する切込みを入れ、既定の透明感圧で付着テープではがれ具合をチェックする。はがした部分を図例と比較し、分類0から5までの6段階で評価する。分類0は全くはがれない最も優れた付着性を有することを意味する。また、切込みを入れるのは3箇所である。
【0027】
[実施例1]
図1に示す装置を用いて、PEEK樹脂板の表面処理を行った。処理槽の仕様及び条件は次の通りである。
【0028】
<処理槽>
処理槽1の容積:40L
PEEK樹脂板の大きさ:500mm×500mm×厚さ5mm
<過硫酸生成用電解セル>
セル容積:0.5L
陽極及び陰極:ダイヤモンド電極(直径150mm)
バイポーラ電極材質:陽極、陰極と同じ
電流密度:50A/dm
2
液流量:52L/h
<表面処理条件>
硫酸濃度:85wt%
過硫酸濃度:10g/L
処理温度:120℃
処理時間:51分
【0029】
まず、処理槽1内に85wt%の硫酸溶液を収容し、ポンプ8及び電解セル9を作動させて過硫酸濃度が3g/L以上となった後、PEEK樹脂板を浸漬した。5分間浸漬した後、処理槽1から取り出し、純水で洗浄した後乾燥し、触媒付与工程及び活性化工程を経て無電解ニッケルめっきを施した。各工程の処理条件を表1に示す。
【0030】
無電解ニッケルめっきした板より150mm×100mmのサンプルを切り出し、上記方法にて付着性を調べた。
【0031】
【表1】
【0032】
[実施例2〜比較例5]
表面処理条件を表2に示すように設定したこと以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表2に示す。表2には実施例1の結果も併記している。
【0033】
【表2】
【0034】
表2の通り、実施例方法によると優れた付着性が得られることが認められる。
【符号の説明】
【0035】
1 処理槽
2 恒温ヒータ
5 プラスチック板
9 過硫酸生成用電解セル