(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、前記取得手段が前記エンジン始動情報を取得したときに、前記二次電池から前記補機に放電するように前記スイッチ手段を制御することを特徴とする請求項4に記載の車両用電源システム。
前記制御手段は、充放電休止時に前記二次電池と前記LICとを並列接続するように前記スイッチ手段を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の車両用電源システム。
前記制御手段は、前記LICの電圧が予め設定された設定電圧V3(ただし、前記LICの使用下限電圧V4<設定電圧V3<前記設定電圧V2)未満かつ前記二次電池の電圧が前記設定電圧V3以上のときに、前記二次電池と前記LICとを並列接続するように前記スイッチ手段を制御することを特徴とする請求項6に記載の車両用電源システム。
前記制御手段は、前記LICの電圧が前記設定電圧V2未満かつ前記二次電池の電圧が前記設定電圧V2以上のときに、前記二次電池と前記LICとを並列接続するように前記スイッチ手段を制御することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の車両用電源システム。
前記二次電池は鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池およびリチウムイオン電池で構成される群から選択される1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の車両用電源システム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明を、オルタネータ回生車両に搭載可能な14V系車両用電源システムに適用した実施の形態について説明する。
【0019】
1.構成
1−1.車両側の構成
まず、本実施形態の電源システム10に言及する前に、電源システム10が搭載されるオルタネータ回生車両(μHEV)20の主要構成について簡単に説明する。なお、μHEVとは、ISS機能を有し、オルタネータから供給される回生電力を受け入れ可能かつ放電負荷(スタータおよび補機)に放電可能な蓄電デバイスを備えたガソリン車またはディーゼル車をいう。
【0020】
(1)イグニッションスイッチ(IGN)11
図1に示すように、オルタネータ回生車両20は、普通ガソリン車と同様に、イグニッションスイッチ11(以下、IGN11と略称する。)を備えている。IGN11は、ドライバにより、OFF位置、ON/ACC位置、START位置のいずれかに位置付けられる。すなわち、車両駐車時にはOFF位置、車両走行前および走行時にはON/ACC位置、エンジン始動時にはSTART位置に位置付けられる。なお、「ACC」はアクセサリ、すなわち、補機(に複合蓄電デバイス1から電力を供給するための位置)を意味する。IGN11はその位置が変更される度に車両制御部15に報知する。
【0021】
(2)車両制御部15
また、オルタネータ回生車両20は、オルタネータ回生車両20全体の動作を制御する車両制御部(ECU)15を備えている。車両制御部15は、IGN11の位置情報を把握するとともに、アクセル、ブレーキ、エンジン等の作動状態、速度、加速度その他の車両状態を把握し、把握した状態に応じた走行制御を行う。
【0022】
また、車両制御部15は、電源システム10の制御部7と通信線16を介して通信し、電源システム10を構成する複合蓄電デバイス1(以下、蓄電デバイス1と略称する。)のデバイス状態の報知を受けるとともに、制御部7に車両の状態情報を報知する。なお、車両の状態情報には、下表1に示すように、IGN位置情報、オルタネータ作動情報およびアイドリング情報が含まれる(詳細後述)。
【0024】
(3)オルタネータ12
オルタネータ回生車両20は、制動時やアクセルオフ時に図示を省略したエンジンの回転力を回生電力に変換するオルタネータ12を備えている。オルタネータ12には電磁クラッチ(不図示)を介してエンジンの(回転)駆動力が伝達される。本実施形態では、オルタネータ12の出力電圧は14.0[V]に設定されている。なお、後述するように、蓄電デバイス1のデバイス状態に応じて、回生発電時以外にもオルタネータ12による発電がなされる場合がある。
【0025】
オルタネータ12は、ステータおよびロータで構成される発電部と、発電部で発電された交流電力を直流電力に変換する整流部と、整流部で変換された直流電力の電圧を一定とするためのボルテージレギュレータとを有して構成されている。なお、オルタネータ12の一端はグランド(車両のシャーシと同電位。以下、GNDと略称する。)に接続されており、他端は後述するスタータ13および補機14の一端および後述するスイッチ6の接続点に接続されている。
【0026】
(4)スタータ13
また、オルタネータ回生車両20は、エンジンを始動するスタータ13を備えている。スタータ13は、公知のように、フィールド(励磁)コイルとアーマチュア(回転)コイルとを有する直流直巻型モータ(セルモータ)と、モータに蓄電デバイス1の電力を供給するためのメイン接点と、プランジャの周りに配されプランジャを進退・保持するプルイン(引き込み)コイルおよびホールディング(保持)コイルと、プランジャに固着した導体部材とを有して構成されている。スタータ13の他端はGNDに接続されている。
【0027】
オルタネータ回生車両20のエンジン始動時には、プルインコイルおよびホールディングコイルに蓄電デバイス1から電力が供給され、プランジャが移動する(引き込まれ保持される)ことで直流直巻型モータに接続された一方のメイン接点と、蓄電デバイス1に接続された他方のメイン接点とが上述した導体部材で導通することでモータが回転し、このモータの回転力でクランクシャフトが回転する。このため、IGN11がSTART位置に位置付けられると、蓄電デバイス1からスタータ13へ電力が供給されスタータ13が回転し、クランクシャフトを介してスタータ13の回転力がエンジンに伝達されてエンジンが始動する。
【0028】
(5)補機14
さらに、オルタネータ回生車両20には種々の補機(アクセサリ)14が搭載されている。補機14には、例えば、ランプ、ライト、パワーウインド、エンジンポンプ(スパークプラグ)、エアコン、ファン、ラジオ、テレビ、CDプレーヤ、カーナビゲーション等を挙げることができる。補機14の他端はGNDに接続されている。なお、補機14は、最低作動電圧(例えば、8[V])以上の作動電圧を蓄電デバイス1から供給されればよい。
【0029】
1−2.電源システムの構成
次に、本実施形態の電源システム10の構成について説明する。電源システム10は、例えば、オルタネータ回生車両20のエンジンルームに搭載されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
(1)複合蓄電デバイス1
図1に示すように、本実施形態の電源システム10は、オルタネータ12から供給される回生電力を受け入れ可能かつスタータ13および補機14(以下、両者を総称する場合は放電負荷という。)に放電可能な蓄電デバイス1を備えている。蓄電デバイス1は、メイン電池2(本例では鉛蓄電池)と、リチウムイオンキャパシタ3(以下、LIC3と略称する。)との複合蓄電デバイスとして構成されている。
【0031】
(1−1)メイン電池2
メイン電池2の電槽には、内部を仕切る隔壁によって6個のセル室を画定するモノブロック電槽が用いられている。モノブロック電槽の中央部の隔壁には上部側から略中央部までセンサ挿入孔が形成されている。センサ挿入孔にはメイン電池2の中央部の温度を検出するサーミスタ等の温度センサが挿入されており、温度センサは接着剤でセンサ挿入孔内に固定されている。
【0032】
メイン電池2の各セル室には、複数の正極板と負極板とをセパレータを介して積層した極板群が1組ずつ収容されており、水系電解液である希硫酸が注液されている。メイン電池2の正極活物質には二酸化鉛、負極活物質には海綿状鉛を用いることができる。また、回生電力を受け入れやすい構造とするために、負極活物質合剤には、上述した負極活物質の他にリグニンおよびカーボン等を含む負極添加剤が混入されている。
【0033】
各セル室はモノブロック電槽の開口を一体に覆う蓋で密閉化されており、各セル室間は導電性の接続部材により直列に接続されている。メイン電池2の上部対角位置には、外部出力端子となる正極端子および負極端子が立設されている。本実施形態のメイン電池2の公称電圧は12[V]である(各セルの公称電圧:2[V])。また、メイン電池2の容量は、例えば、30〜70Ahとすることができるが(本例では32Ah)、本発明はこれに制限されるものではない。なお、メイン電池2の負極端子はGNDに接続されている。
【0034】
(1−2)LIC3
一方、本実施形態のLIC3は、単体の(ユニット)リチウムイオンキャパシタ(以下、単体キャパシタと略称する。例えば、使用下限電圧2.2[V]、使用上限電圧3.5[V])を4個直列に接続したキャパシタ群(組キャパシタ)で、最上位電位側に正極端子、最下位電位側に負極端子を有して構成されている。単体キャパシタの容量は、例えば、1000F〜4000Fとすることができるが(本例では1800F)、本発明はこれに限定されるものではない。負極端子はGNDに接続されている。これら4個の単体キャパシタのうち1個の単体キャパシタの表面には、接着剤によりサーミスタ等の温度センサが固着している。なお、本実施形態のLIC3の使用上限電圧は14.0[V](3.5[V]×4個)、使用下限電圧は8.8[V](2.2[V]×4個)に設定されている。
【0035】
各単体キャパシタは、多数の貫通孔が形成されたアルミニウム箔に活性炭を含む正極活物質を塗着した正極と、多数の貫通孔が形成された銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質(例えば、非晶質炭素)を塗着した負極とを微多孔性のセパレータを介して捲回または積層した電極群を有している。電極群は、6フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)等のリチウム塩がエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の混合溶媒に溶解された非水電解液に浸潤されて円筒型、扁平円筒型または角型の容器内に収容されている。
【0036】
例えば、各単体キャパシタが円筒型の場合には、LIC3は上下位置で4本の単体キャパシタを一括して保持するための樹脂製ホルダを有しており、各ホルダにはこれらの単体キャパシタを直列接続するための導体並びに正極端子または負極端子がインサート成形で内蔵されており、各単体キャパシタはそれぞれ隣接する2本の単体キャパシタと上下方向で正負極が逆方向で対角位置に配された単体キャパシタと同方向でホルダにより保持されるようにしてもよい。
【0037】
(2)スイッチ6
図1に示すように、電源システム10は、メイン電池2およびLIC3の充放電電流を切り替えるスイッチ6を備えている。スイッチ6は、直列に接続された2つのスイッチ、スイッチSW1とスイッチSW2とで構成されている。スイッチSW1とスイッチSW2との接続点は放電負荷の一端およびオルタネータ12の他端に接続されている。スイッチSW1、SW2の他端はそれぞれメイン電池2およびLIC3の正極端子に接続されている。スイッチSW1、SW2は大電流が通電可能なスイッチング素子(例えば、パワーMOSFET)で構成されている。
【0038】
ここで、スイッチ6の機能について説明すると、オルタネータ12から供給される回生電力を蓄電デバイス1で受け入れる際に、オルタネータ12からメイン電池2およびLIC3のいずれか一方に接続するスイッチの役割を果たすとともに、蓄電デバイス1から放電負荷に放電する際に、メイン電池2およびLIC3のいずれか一方から放電負荷に接続するスイッチの役割を果たす。
【0039】
スイッチ6は、下表2に示すように、オルタネータ12および放電負荷がメイン電池2およびLIC3のいずれにも接続されない状態0、オルタネータ12および放電負荷がLIC3に接続される状態1、オルタネータ12および放電負荷がメイン電池2に接続される状態2、メイン電池2とLIC3とが並列接続される状態3のいずれかの状態を採る。
【0041】
(3)補償キャパシタC
蓄電デバイス1から補機14に放電する際、例えば状態1から状態2に切り替えるときには、メイン電池2およびLIC3のいずれからも補機14に電力が供給されない一瞬が生じるおそれがある。このため、スイッチSW1、SW2の接続点とGNDとの間には、この一瞬の電力を補機14に補償・供給する補償キャパシタC(電解キャパシタ)が挿入されている。
【0042】
(4)コントローラ4、5
また、電源システム10は、メイン電池2、LIC3の状態をそれぞれ検出するメイン電池コントローラ4、LICコントローラ5(以下、両者を総称する場合はコントローラ4、5という。)を備えている。コントローラ4、5は、充放電中(車両走行中および車両走行前)にそれぞれメイン電池2、LIC3の温度、電圧、電流等の状態を検出する。
【0043】
すなわち、本実施形態では、上述したメイン電池2の温度センサはメイン電池コントローラ4に接続されており、メイン電池コントローラ4は所定時間毎に(例えば、10ms間隔で)温度センサの電圧をサンプリングし、サンプリング結果をそのRAMに格納する。また、メイン電池2の総電圧を検出するために、メイン電池2の正極端子および負極端子はメイン電池コントローラ4に接続されている。
【0044】
さらに、メイン電池2に流れる充放電電流を検出するために、スイッチSW2およびメイン電池2の正極端子間にはホール素子またはシャント抵抗等の電流センサ8が配されており、電流センサ8はメイン電池コントローラ4に接続されている。メイン電池コントローラ4は、メイン電池2の電圧およびメイン電池2に流れる電流を所定時間毎に(例えば、2ms間隔で)サンプリングし、サンプリング結果をそのRAMに格納する。また、メイン電池コントローラ4は、充放電休止時(車両駐車時)に、メイン電池2の開回路電圧(以下、OCVと略称する。)およびそのときの温度を検出する。
【0045】
一方、LICコントローラ5も上述したメイン電池コントローラ3と同様の構成を有しているが(LIC3に流れる充放電電流をスイッチSW1とLIC3の正極端子との間に配された電流センサ9で検出)、LIC3の総電圧の検出に加え、過放電・過充電を監視するために各単体キャパシタの電圧も検出する点で、メイン電池コントローラ4が検出する以外の電圧検出も行う。また、LICコントローラ5は、LIC3を構成する各単体キャパシタの電圧を調整する(揃える)電圧調整回路を有していてもよい。
【0046】
コントローラ4、5は、制御部7(状態把握部7A)に接続されており、充放電時に、それらのRAMに一時的に格納したメイン電池2およびLIC3の温度、電圧、電流およびLIC3を構成する各単体キャパシタの電圧を制御部7に出力し、充放電休止時に、検出したOCVおよびそのときの温度を制御部7に出力する。
【0047】
(5)制御部7
さらに、電源システム10は、メイン電池2およびLIC3のデバイス状態を演算するとともに、スイッチ6による充放電電流の切り替え動作を制御する制御部7を備えている。制御部7は、マイクロコントローラ(以下、MCと略称する。)、通信IC、I/O、入力ポート、出力ポートを有するマイクロプロセッサとして構成されており、
図1では、制御部7の役割を明確にするために機能別に細部を表している。
【0048】
MCは、メイン電池2およびLIC3のデバイス状態を把握(演算)するCPU、基本制御プログラムおよびプログラムデータを記憶したROM、CPUのワークエリアとして働くとともに種々のデータを一時的に記憶するRAMおよびこれらを接続する内部バスで構成されている。内部バスは外部バスに接続されており、外部バスは入力ポートを介して上述したコントローラ4、5に接続されている。また、外部バスには、スイッチ6に信号を出力するための出力ポート、および、I/O、通信線16を介して車両制御部15と通信するための通信ICが接続されている。
【0049】
従って、制御部7のMCおよび入力ポートは
図1の状態把握部7Aに、MCおよび出力ポートはスイッチ制御部7Bに、通信ICおよびI/Oは通信部7Cにそれぞれ対応する。制御部7はその他の機能(例えば、後述する省エネモードへ移行させるための機能)も有しているが、
図1では捨象している。スイッチ6と出力ポートとは制御線で接続されており、制御部7を構成するMCの破損を防止するために制御線には抵抗が挿入されている。なお、制御線には出力ポートを介してハイレベル信号(H)またはローレベル信号(L)が出力される。
【0050】
図1に沿って制御部7の各部の機能を説明すると、状態把握部7Aは、コントローラ4、5から出力されたデータをMCのRAM(以下、RAMと略称する。)に一旦格納し、メイン電池2およびLIC3の現在のデバイス状態(充電状態(SOC)、電圧等)を演算(推定)する。通信部7Cは、状態把握部7Aが演算したメイン電池2およびLIC3の現在のデバイス状態を所定時間(例えば、2ms)毎に車両制御部15に報知するとともに、上述したように、車両制御部15から車両の状態情報の報知を受ける。スイッチ制御部7Bは、車両制御部15から報知された車両の状態情報および状態把握部7Aで演算したメイン電池2およびLIC3のデバイス状態に従ってスイッチ6を構成するスイッチSW1、SW2のオン、オフを制御する。
【0051】
なお、本実施形態では、制御系構成部材(コントローラ4、5、スイッチ6、制御部7および車両制御部15等)はメイン電池2から供給される電力で作動する。
【0052】
2.電源システム10の特色
次に、本実施形態の電源システム10の特色について説明する。
【0053】
2−1.回生充放電時
(1)蓄電デバイス1がオルタネータ12から供給される回生電力を受け入れる際、LIC3を使用上限電圧V1(
図8(A)参照、本例では14.0[V])まで充電した後、メイン電池2を充電する。
【0054】
(2)蓄電デバイス1が補機14に放電する際、LIC3からその電圧が予め設定された設定電圧V2となるまで放電した後、メイン電池2から放電する。この設定電圧V2は、LIC3からスタータ13に放電することでエンジンを始動可能な最低電圧以上の電圧値(
図8(A)参照、本例では11.8[V])に設定されている。
【0055】
すなわち、回生充放電時には、メイン電池2の充放電に先立ってLIC3が充放電され、回生放電時には、LIC3の電力でエンジンを始動するため、LIC3の電圧は設定電圧V2以上に保持される(補機14には設定電圧V2までしか放電されない。)。
【0056】
2−2.アイドリングストップ・スタートの際のエンジン始動時
(1)アイドリングストップ・スタートの際は、LIC3からスタータ13に放電することでエンジンを(再)始動する。
【0057】
(2)エンジン始動直後は、メイン電池2から補機14に放電する。なお、LIC3はその後オルタネータ12から供給される回生電力で充電される(上記2−1(1))。
【0058】
2−3.充放電休止時
充放電休止時には、メイン電池2とLIC3とを並列接続する。このような並列接続の主目的はLIC3の過放電を防止することにあるが、LIC3をエンジン始動可能な設定電圧V2以上の電圧値に保持することを目的に並列接続するようにしてもよい。
【0059】
3.動作
次に、本実施形態の電源システム10の動作(充放電制御)について、制御部7のMCのCPU(以下、CPUと略称する。)を主体として、上記「2.電源システム10の特色」の内容を中心により具体的に説明する。
【0060】
3−1.情報の共有
車両制御部15と制御部7(CPU)は協調制御を行う。すなわち、車両制御部15は車両状態および蓄電デバイス1のデバイス状態に応じて車両を制御し、制御部7(CPU)は車両状態および蓄電デバイス1のデバイス状態に応じてスイッチ6のオン、オフを制御する。このため、CPUは車両の状態情報が必要となり、車両制御部15は蓄電デバイス1のデバイス状態の把握が必要となる。車両の状態情報および蓄電デバイス1のデバイス状態は上述した通信線16を介して両者間で共有される。以下では、CPUによる充放電制御に言及する前にその前提として、共有される情報について説明する。
【0061】
(1)車両の状態情報
(1−1)IGN位置情報
車両駐車後の車両走行前には、ドライバによりIGN11にイグニッションキーが挿入され、IGN11はOFF位置からON/ACC位置に位置付けられ、さらにON/ACC位置からSTART位置に位置付けられてエンジンが始動した後、再度ON/ACC位置に位置付けられる。これにより、オルタネータ回生車両20は走行状態(車両走行中)となる。車両制御部15はIGN11が最初にON/ACC位置に位置付けられると、制御部7にその旨を報知する。この報知を受けたCPUは、コントローラ4、5および制御部7をスリープ状態(省エネモード)から作動状態に移行(アウェーク)させる。
【0062】
また、車両走行後の車両駐車開始時には、ドライバによりIGN11がON/ACC位置からOFF位置に位置付けられ、イグニッションキーがIGN11から引き抜かれる。車両制御部15はIGN11がOFF位置に位置付けられると、制御部7にその旨を報知する。この報知を受けたCPUは、コントローラ4、5および制御部7をアウェーク状態(作動状態)からスリープ状態に移行させる。
【0063】
車両制御部15はIGN11の出力を監視しており、IGN11がいずれの位置に位置付けられたかをIGN位置情報として制御部7に報知する。表1に示すように、IGN位置情報には、IGN11がOFF位置に位置付けられたことを表すOFF情報、IGN11がON/ACC位置に位置付けられたことを表すON/ACC情報およびIGN11がSTART位置に位置付けられたことを表すSTART情報が含まれる。
【0064】
(1−2)オルタネータ作動情報
オルタネータ回生車両20は回生発電機能を有しているため、車両制御部15は、ブレーキが踏まれたとき(制動時)、または、アクセルが開放されたとき(アクセルオフ時)に、上述した電磁クラッチをオン状態に移行させエンジンの駆動力を回生電力に変換して回生電力を蓄電デバイス1に供給するようにオルタネータ12を制御するとともに、CPUにその旨を報知する。また、ブレーキが開放されたとき、または、アクセルオフの結果車両の加速度が0となったときに、上述した電磁クラッチをオフ状態に移行させオルタネータ12の作動を停止させるように制御するとともに、その旨をCPUに報知する。
【0065】
すなわち、表1に示すように、電磁クラッチをオン状態に移行させるときは、回生電力の供給が開始することを表す回生開始情報をCPUに報知し、電磁クラッチを(オン状態から)オフ状態に移行させるときは、回生電力の供給が終了することを表す回生終了情報をCPUに報知する。なお、オルタネータ作動情報にはオルタネータ始動情報も含まれるが、この点については後述する。
【0066】
(1−3)アイドリング情報
また、オルタネータ回生車両20はISS機能を有しているため、車両制御部15は、ブレーキ、速度、加速度等の車両状態並びに蓄電デバイス1のデバイス状態を参照してアイドリングストップするか否かを判断する。このため、オルタネータ回生車両20は、車両走行中にIGN11がON/ACC位置に位置付けられていても(ドライバがIGN11をOFF位置やSTART位置に位置付けなくても)、車両側制御部15の制御により、車両が停止するとエンジンが停止し(アイドリングストップ)、その後アクセルが踏まれるとエンジンが(再)始動する(アイドリングストップ・スタート)。
【0067】
表1に示すように、アイドリング情報には、オルタネータ回生車両20がアイドリングストップ・スタート(以下、ISSと略称する。)することを表すISS情報、オルタネータ回生車両20がISSによりエンジンが(再)始動したことを表すエンジン始動情報が含まれる。なお、車両制御部15は、エンジン(クランクシャフト)の回転数をみてエンジンの(再)始動を確認する。
【0068】
(2)蓄電デバイス1のデバイス状態
CPUは、充放電中(車両走行前および車両走行中)は、コントローラ4、5で所定時間毎に検出されたメイン電池2およびLIC3のデータ(LIC3を構成する各単体キャパシタの電圧値を含む。)を取得するとともに、メイン電池2、LIC3の基準SOC(後述)およびメイン電池2、LIC3の容量(既知)に基づいて、コントローラ4、5で所定時間毎に検出された電流値を積算してメイン電池2およびLIC3の現在のデバイス状態を推定(演算)する。なお、電圧値、電流値は基準温度(例えば、室温)での値に温度補正される。そして、所定時間毎に、メイン電池2およびLIC3の現在のデバイス状態を車両制御部15に報知する。
【0069】
一方、この報知を受けた車両制御部15は、メイン電池2、LIC3の現在のSOC、電圧値を参照して、エンジンの駆動力をオルタネータ12に伝達させるか否かを判断する。例えば、蓄電デバイス1が使用上限SOC、使用上限電圧に近い場合には、過充電状態に陥るおそれがあるためオルタネータ12を作動させないように電磁クラッチを制御し、逆に、蓄電デバイス1の劣化が促進されるようなSOC、使用下限電圧の場合には、ドライバのブレーキ操作やアクセル操作による回生充電を待たずに、車両走行中または車両走行前にオルタネータ12を作動させて蓄電デバイス1を充電するように電磁クラッチを制御する。
【0070】
蓄電デバイス1の劣化が促進されるような状態の場合には、車両制御部15は、蓄電デバイス1の劣化を防止するために、エンジンを駆動させ(または、燃費節約のためエンジンを停止させるべきところ駆動を続行させ)上述した電磁クラッチを作動させてエンジンの駆動力をオルタネータ12に接続する。車両制御部15は、このようにオルタネータ12の発電電力を蓄電デバイス1に供給する際は、オルタネータ12を作動させるタイミングで、オルタネータ12が始動することを表すオルタネータ始動情報(表1参照)をCPUに報知する。なお、このような発電は、従来の普通ガソリン車等でも採用されている、ガソリン消費を伴う発電方式である。
【0071】
3−2.全体動作(充放電制御)
次に、フローチャートを参照して、CPUが実行する充放電制御について説明する。まず、
図2を参照してCPUが実行する充放電制御の全体像について説明する。
【0072】
図2に示すように、充放電制御ルーチンでは、まず、ステップ(以下、Sと略称する。)102でIGN位置情報を受信するまで待機し、IGN位置情報を受信すると、次のS104において、受信したIGN位置情報がON/ACC情報か否かを判断する。
【0073】
S104で肯定判断のときは、次のS106において、車両が駐車後の走行前(エンジン始動前)の状態か、走行中(エンジン始動後)の状態かを判断するために、START情報を受信済か否かを判断する。なお、START情報を受信済か否かは、例えば、後述するSTART情報受信フラグを参照して行うことができる。
【0074】
S106での判断が否定のときは、エンジン始動前(車両走行前)の蓄電デバイス1の充放電を制御するためのエンジン始動前充放電処理を実行し(S108)、肯定のときは、エンジン始動後(車両走行中)の蓄電デバイス1の充放電を制御するための回生充放電処理を実行する(S110)。
【0075】
一方、S104で否定判断のときは、S112において、受信したIGN位置情報がSTART情報か否かを判断する。S112の判断が肯定のときは、例えばエンジン始動前に「0」とされていたSTART情報受信フラグを「1」に変更し、蓄電デバイス1からスタータ13に放電することでエンジンを始動するためのエンジン始動処理を実行し(S114)、S112の判断が否定のとき、すなわち、受信したIGN位置情報がOFF情報のときは、蓄電デバイス1の充放電を休止するための充放電休止処理を実行する(S116)。
【0076】
3−3.個別動作
(1)エンジン始動前充放電処理
図3は、
図2に示した充放電制御ルーチンのS108の詳細を表すエンジン始動前充放電処理サブルーチンのフローチャートである。CPUは、S152において、LIC3の電圧が設定電圧V2(
図8(A)参照)を越えるか否かを判断し、肯定判断のときは、スイッチ6を状態1(SW1:オン、SW2:オフ)とする(S154)。これにより、車両駐車後エンジン始動前の補機14への電力供給(放電)はLIC3からなされる。なお、S152の判断は、LIC3の電圧をエンジン始動可能な電圧に保持しておくためである。次のS156ではIGN位置情報を受信したか否かを判断し、否定判断のときは、補機14への電力供給を続行するためにS152へ戻り、肯定判断のときは、エンジン始動前充放電処理サブルーチンを終了して
図2に示した充放電制御ルーチンのS104に戻る。
【0077】
一方、S152で否定判断のときは、S158において、メイン電池2のSOCがエンジンを始動可能な第1のSOC(
図8(B)参照、本例では70%)以上か否かを判断し、肯定判断のときは、スイッチ6を状態2(SW1:オフ、SW2:オン)とする(S160)。これにより、車両駐車後エンジン始動前の補機14への電力供給はメイン電池2からなされる。次のS162ではIGN位置情報を受信したか否かを判断し、否定判断のときは、メイン電池2から補機14への電力供給を続行するためにS158へ戻り、肯定判断のときは、エンジン始動前充放電処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻る。
【0078】
S158で否定判断のときは、蓄電デバイス1を充電するための充電処理を実行する(S164)。上述したように、蓄電デバイス1を充電するためにオルタネータ12を作動させるか否かの判断は車両側制御部15が行う。CPUは、この判断に供するため、所定時間毎にデバイス状態を車両側制御部15に報知しているが、S158で否定判断のときは、例えば車両制御部15と制御タイミングを同期させるために、デバイス状態に加え蓄電デバイス1の充電が必要である旨を車両制御部15に報知するようにしてもよい。
【0079】
図7は、S164の詳細を示す充電処理サブルーチンのフローチャートである。車両制御部15は、オルタネータ12を作動させるタイミングでオルタネータ始動情報をCPUに報知する。なお、以下では、このように(S164で)オルタネータ12で発電される電力を、上述した回生電力と区別するために、発電電力という。
【0080】
CPUは、車両制御部15からオルタネータ始動情報を受信するまで待機し(S302)、車両制御部15からオルタネータ始動情報を受信すると、スイッチ6を状態1とする(S304)。これにより、LIC3はオルタネータ12の発電電力で定電圧充電される。次のS306では、LIC3の電圧が使用上限電圧V1(
図8(A)参照)まで充電されたか否かを判断し、否定判断のときは、LIC3が使用上限電圧V1まで充電されるまで待機する。この間にIGN位置情報を受信すると(S308)、充電処理サブルーチンを終了し
図3に示すジャンプノードJまでジャンプしエンジン始動前充放電処理サブルーチンも終了して
図2のS104に戻る。
【0081】
一方、S306で肯定判断のときは、スイッチ6を状態2とする(S310)。これにより、メイン電池2はオルタネータ12の発電電力で定電圧充電される。次のS312では、メイン電池2が第2のSOC(
図8(B)参照、使用上限SOC>第2のSOC>第1のSOC、本例では85%)まで充電されたか否かを判断し、否定判断のときはメイン電池2が第2のSOCまで充電されるまで待機する。この間にIGN位置情報を受信すると(S314)、充電処理サブルーチンを終了し
図3に示すジャンプノードJまでジャンプしエンジン始動前充放電処理サブルーチンも終了して
図2のS104に戻る。
【0082】
後述するように、回生電力でメイン電池2を充電する際には、メイン電池2に回生電力をできるだけ多く蓄電するため、メイン電池2を使用上限SOC(
図8(B)参照、本例では97%)まで充電することが好ましい。一方、メイン電池2の劣化を防止するためにメイン電池2を充電するときは、オルタネータ12を作動させる必要がある。このオルタネータ12の作動には、上述したように、エンジンの駆動力をオルタネータ12に接続するためガソリン消費を伴う。このため、第1のSOC(70%)から使用上限SOC(97%)まで充電してもよいが、予め設定された第2のSOC(85%)まで充電すれば、その後回生電力によりメイン電池2がさらに充電されることもあるため、ガソリン消費を節約できる(燃費向上を図ることができる。)。
【0083】
S312で肯定判断のときは(メイン電池2が第2のSOCまで充電されると)、充電処理サブルーチンを終了し
図3に示すエンジン始動前充放電処理サブルーチンのS152に戻る。
【0084】
(2)エンジン始動処理
上述したように、IGN11がON/ACC位置に位置付けられた後は、START位置に位置付けられてエンジンが始動する。
図4は、
図2に示した充放電制御ルーチンのS114の詳細を示すエンジン始動処理サブルーチンのフローチャートである。
【0085】
図4に示すように、CPUは、S182において、LIC3の電圧がエンジンを始動可能な設定電圧V2以上か否かを判断し、肯定判断のときは、スイッチ6を状態1としてLIC3からスタータ13に電力を供給(放電)し(S184)、否定判断のときは、スイッチ6を状態2としてメイン電池2からスタータ13に電力を供給して(S186)、エンジンを始動させる。上述したように、ドライバは、IGN11をSTART位置に位置付けエンジンを始動した後は、IGN11をON/ACC位置に位置付ける(例外的に、OFF位置に位置付けることもある。)。次のS188では、IGN位置情報を受信するまで待機し、受信するとエンジン始動サブルーチンを終了して
図2のS104に戻る。
【0086】
従って、車両駐車後の車両走行前のエンジン始動の際は、(a)LIC3の電圧が設定電圧V2以上のときは、LIC3からスタータ13に放電することでエンジンを始動し、(b)LIC3の電圧が設定電圧V2未満、かつ、メイン電池2のSOCがメイン電池2からスタータ13に放電することでエンジンを始動可能なSOC(
図8(B)の第1のSOC、本例では70%)以上のときは、メイン電池2からスタータ13に放電することでエンジンを始動し、(c)LIC3の電圧が設定電圧V2未満かつメイン電池2のSOCが第1のSOC未満のときは、LIC3およびメイン電池2をオルタネータ12の発電電力で充電した後(
図3のS164参照)、LIC3からスタータ13に放電することでエンジンを始動する。つまり、できる限りLIC3からスタータ13に放電する。
【0087】
(3)回生充放電制御
回生充放電制御の制御内容が若干複雑なため、以下では、回生充放電制御の要点を整理した後(下記(3−1)、(3−2))、回生充放電処理(
図2のS110)について説明する(下記(3−3))。
【0088】
(3−1)回生充電制御
CPUは、車両制御部15から回生開始情報を受信すると、原則として、LIC3を使用上限電圧V1まで充電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6に状態1とする。)。これにより、LIC3は使用上限電圧V1まで定電圧充電される。ただし、LIC3が使用上限電圧V1となる前に、車両制御部15から回生終了情報を受信した場合には、回生電力が供給されないため、その時点でLIC3への充電は打ち切られ直ちにLIC3から補機14に放電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態1のままとする。)。
【0089】
CPUは、LIC3が使用上限電圧V1まで充電されると、原則として、メイン電池2を使用上限SOCまで充電するように、スイッチ6を制御する(スイッチ6を状態2とする。)。これにより、メイン電池2は使用上限SOCまで充電される。ただし、メイン電池2が使用上限SOCとなる前に、車両制御部15から回生終了情報を受信した場合には、回生電力が供給されないため、その時点でメイン電池2への充電は打ち切られ直ちにLIC3から補機14に放電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態1とする。)。
【0090】
CPUは、メイン電池2が使用上限SOCまで充電されると、メイン電池2の過充電を避けるために、メイン電池2への充電を打ち切るようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態0とする。)。
【0091】
(3−2)回生放電制御
(3−2−1)回生放電時
CPUは、車両制御部15から回生終了情報を受信すると、LIC3から補機14に、原則として、LIC3が予め設定された設定電圧V2(
図6(A)参照)となるまで放電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態1とする。)。ただし、LIC3が設定電圧V2となる前に、車両制御部15から回生開始情報を受信した場合には、回生電力が供給されるため、その時点でLIC3から補機14への放電は打ち切られ直ちに回生電力でLIC3を充電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態1のままとする。)。
【0092】
CPUは、LIC3が設定電圧V2まで放電されると、原則として、メイン電池2を第1のSOC(
図6(B)参照)まで放電するように、スイッチ6を制御する(スイッチ6を状態2とする。)。ただし、メイン電池2が第1のSOCとなる前に、車両制御部15から回生開始情報を受信した場合には、回生電力が供給されるため、その時点でメイン電池2から補機14への放電は打ち切られ直ちに回生電力でLIC3を充電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態1とする。)。なお、LIC3を設定電圧V2までしか放電しない(使用下限電圧V4まで放電しない)理由は、ISS時に備えLIC3をエンジン始動可能な電圧に保持しておくためである。
【0093】
(3−2−2)ISS時
CPUは、ISS情報を受信すると、LIC3が回生放電時でも設定電圧V2以上の電圧に保たれているため(ISSの際は、その直前のアイドリングストップの際の回生電力により、補機14への大きな放電がない限り、LIC3は使用上限電圧V1近傍の電圧となっている。)、LIC3からスタータ13に放電してエンジンを始動する。ISS情報を受信してから次にエンジン始動情報を受信するまでの間は、LIC3の電力によるエンジン始動を優先し、スイッチ6を構成するスイッチSW1、SW2の切り替え制御は行われない。従って、ISS情報はCPUにとってスイッチ6の切り替えを禁止する(スイッチ状態の状態続行を命令する)情報として機能する。
【0094】
車両制御部15は、エンジン始動に成功すると、CPUにエンジン始動情報を報知する。CPUは、エンジン始動情報を受信すると、メイン電池2から補機14へ放電するようにスイッチ6を制御する(スイッチ6を状態2とする。)。この理由は、LIC3がエンジン始動の際のスタータ13への大電流放電で電圧が低下していることからLIC3の劣化を防止するためと、補機14への放電をLIC3からメイン電池2に切り替えることでLIC3の容量を抑えコストアップを防止するためである。なお、LIC3はその後のオルタネータ12の回生電力で充電される。
【0095】
ここで、
図8(A)を参照して、ISSのエンジン始動に必要なLIC3の電力量等について説明する。
【0096】
設定電圧V2は、使用下限電圧V1に近いほど回生電力の利用効率を高めることができる。その反面、設定電圧V2を使用下限電圧V1に近づけるほどLIC3はエンジン始動のために大きな容量が必要となり電源システム10のコストアップ要因となる。このため、本実施形態の電源システム10では、ISSのエンジン始動の際のLIC3のスタータ13(および補機14)への放電による(最低電圧側での)電圧降下を3.0[V]として設計されている。上述したように、LIC3の使用下限電圧V4が8.8[V]に設定されているため、LIC3のエンジン始動に必要な最低電圧は11.8[V]となり、本実施形態ではこの11.8[V]が設定電圧V2とされている。
【0097】
ISSの際のエンジン始動時のLIC3の平均電圧を、設定電圧V2(11.8[V])と使用下限電圧V1(8.8[V])の中間値とすると、LIC3のエンジン始動時の電圧は10.3[V]となる。使用されるエンジンの排気量やスタータの仕様にも影響されるが、例えば、エンジン始動時にスタータ13に流れる電流を概ね300[A]、エンジン始動時の時間を概ね1[s]とすると、最低電圧側でエンジン始動に必要なLIC3の電力量は、300[A]×10.3[V]×(1[s]/3600)≒0.86[Wh]となる。各単体キャパシタはこの電力量を分担する(1/4の0.22[Wh])。
【0098】
また、エンジン始動時には、スイッチ6を状態1としLIC3から補機14(とりわけエンジンポンプ)にも電力が供給されるため、アローワンスも考慮する必要がある。さらに、エンジン始動に失敗しても再試行できる電力量を有することが好ましい。このような背景から、本実施形態では安全側をみて単体キャパシタが上述した容量に設定されている。
【0099】
(3−3)回生充放電処理
以上を踏まえ、
図5に示す回生充放電処理サブルーチンを参照して、CPUによる回生充放電制御について説明する。なお、上記(3−1)、(3−2)で述べた制御内容と重複する内容についてはできるだけ簡潔に説明する。
【0100】
図5に示すように、回生充放電処理サブルーチンでは、車両制御部15から回生開始情報(S202)または回生終了情報(S224)を受信するまで待機する。
【0101】
S202で肯定判断のときは(回生開始情報を受信すると)、スイッチ6を状態1とする(S204)。これにより、LIC3は回生電力で定電圧充電される。次にS206では、IGN位置情報を受信したか否かを判断し、その判断が肯定のときは、回生充放電処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻り、その判断が否定のときは、次のS208において回生終了情報を受信したか否かを判断し、肯定判断のときは、S226に進み(LIC3への充電は打ち切られ)、否定判断のときは、次のS210においてLIC3の電圧が使用上限電圧V1となったか否かを判断する。S210での判断が否定のときは、LIC3による回生電力の受け入れを続行するためにS206に戻り、肯定のときは、スイッチ6を状態2とする(S212)。これにより、メイン電池2は回生電力で定電圧充電される。
【0102】
次にS214では、IGN位置情報を受信したか否かを判断し、肯定判断のときは、回生充放電処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻り、否定判断のときは、次のS216において、回生終了情報を受信したか否かを判断し、肯定判断のときは、S226に進み(メイン電池2への充電は打ち切られ)、否定判断のときは、次のS218においてメイン電池2が使用上限SOC(
図8(B)参照)となったか否かを判断する。
【0103】
S218での判断が否定のときは、メイン電池2による回生電力の受け入れを続行するためにS214に戻り、肯定のときは、メイン電池2の過充電を防止するために、スイッチ6を状態0(SW1:オフ、SW2:オフ)とする(S222)。これにより、メイン電池2は回生電力による充電が打ち切られる。次いで、S222ではIGN位置情報を受信したか否かを判断し、否定判断のときは、S202に戻り、肯定判断のときは、回生充放電処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻る。
【0104】
一方、S224で肯定判断のときは(回生終了情報を受信すると)、スイッチ6を状態1とする(S226)。これにより、LIC3の電力が補機14に供給される。次にS228では、IGN位置情報を受信したか否かを判断し、その判断が肯定のときは、回生充放電処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻り、否定のときは、次のS230において、回生開始情報を受信したか否かを判断する。
【0105】
S230で肯定判断のときは、S204に戻り(LIC3から補機14への放電は打ち切られ)、否定判断のときは、次のS232においてISS情報を受信したか否かを判断する。S232での判断が肯定のときは、S236においてエンジン始動情報を受信するまで待機し(この間にLIC3からスタータ13に放電されエンジンが(再)始動する。)、エンジン始動情報を受信するとS238に進む。一方、S232での判断が否定のときは、次のS234においてLIC3の電圧が設定電圧V2となったか否かを判断する。否定判断のときは、LIC3から補機14に放電してもLIC3の電圧をエンジン始動可能な設定電圧V2に保つことができるため、S228に戻り、肯定判断のときは、LIC3の電圧を設定電圧V2に保つためにS238に進む(LIC3から補機14への放電を停止する。)。
【0106】
S238では、スイッチ6を状態2とする。これにより、メイン電池2の電力が補機14に供給される(補機14への電力供給がLIC3からメイン電池2に切り替わる。)。次にS214では、IGN位置情報を受信したか否かを判断し、その判断が肯定のときは、回生充放電処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻り、その判断が否定のときは、次のS242において、回生終了情報を受信したか否かを判断し、肯定判断のときはS204に戻り(メイン電池2から補機14への放電は打ち切られ)、否定判断のときは、次のS244においてメイン電池2が第1のSOC(
図8(B)参照)となったか否かを判断する。この判断が否定のときは、メイン電池2から補機14への放電を続行するためS240に戻り、肯定のときはS246において、蓄電デバイス1を充電するための充電処理を実行する。なお、このS246の詳細は
図7を参照して既に説明したとおりである。
【0107】
(4)充放電休止処理
図6は、
図2に示した充放電制御ルーチンのS116の詳細を示す充放電休止処理サブルーチンのフローチャートである。この状態でオルタネータ回生車両20は駐車しており、車両制御部15からOFF情報を受信したCPUは、スイッチ6を状態0(SW1:オフ、SW2:オフ)とし、コントローラ4、5および制御部7をスリープ状態(省エネモード)とする制御を行う(S282)。すなわち、コントローラ4、5にメイン電池2、LIC3の温度、電圧、電流等の検出・出力を停止させ、CPU自体もメイン電池2、LIC3のデバイス状態の演算および車両制御部15への報知を停止する。
【0108】
なお、蓄電デバイス1は車両駐車直前のオルタネータ12による回生電力で充電されており、LIC3は使用上限電圧V1近傍の電圧となっている。また、S282では、上述したSTART情報受信フラグを「1」から「0」に変更する。
【0109】
次に、OFF情報を受信したときから所定時間が経過するまで待機する(S284)。この所定時間は、例えば、メイン電池2の負極の分極状態が解消したとみなされる6時間に設定することができる。この間、IGN位置情報を受信すると(S286)、充放電休止処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻る。
【0110】
CPUは、所定時間が経過したと判断すると、コントローラ4、5および制御部7をアウェーク(作動状態に移行)させてメイン電池2およびLIC3のOCVおよびそのときの温度を検出・出力させる。次いで、メイン電池2およびLIC3のOCVからメイン電池2およびLIC3のSOC、電圧を演算し、プログラムデータとして予めROMに格納されRAMに展開されたテーブルまたは数式を参照して演算したSOC、電圧を基準温度(例えば、室温)におけるSOCに温度補正してメイン電池2およびLIC3の基準SOCを演算(算出)し、演算した基準SOCおよび電圧を車両制御部15に報知する(S228)。
【0111】
この場合に、メイン電池2およびLIC3の健康状態(SOH)も併せて演算し、SOHに応じてSOCを補正するようにしてもよい。なお、上述した所定時間が経過しない場合には、メイン電池2の分極状態が解消されず基準SOCが不正確となるため、このような状態でのコントローラ4、5によるOCVの検出やCPUによる基準SOCの演算は行わず、直近に把握していた基準SOCを現在のデバイス状態を把握する際の基準SOCとして取り扱う。
【0112】
次に、CPUは、LIC3の電圧が予め設定された設定電圧V3(
図8(A)参照、使用下限電圧V4<設定電圧V3<設定電圧V2、本例では9.3[V])以上か否かを判断する。肯定判断のときは、コントローラ4、5および制御部7をスリープ状態とし、S298において、IGN位置情報を受信したか否かを判断する。肯定判断のときは、充放電休止処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻り、否定判断のときはS284に戻る。
【0113】
一方、S290で否定判断のときは(厳密には、LIC3の電圧が設定電圧V3未満かつメイン電池2の電圧がV3以上であってメイン電池2がLIC3を充電可能なSOC(例えば、
図8(B)に示す第1のSOC以上のSOC)を有しているときには)、LIC3の過放電を防止するために、スイッチ6を状態3(SW1:オン、SW2:オン)とする(S292)。これにより、メイン電池2とLIC3とは並列接続され、LIC3はメイン電池2の電力で充電される。
【0114】
CPUは、メイン電池2との並列接続によりLIC3の電圧が設定電圧V3となると(S296)、コントローラ4、5および制御部7をスリープ状態としS282に戻る。この間、IGN位置情報を受信すると(S294)、充放電休止処理サブルーチンを終了して
図2のS104に戻る。
【0115】
なお、車両走行後にIGN11がOFF位置に位置付けられたときは、車両制御部15も所定の処理(データ保存等)を行った後スリープ状態となり、制御部7からのOCVおよび温度の報知時のみ作動状態となる。
【0116】
以上では、CPUによる充放電制御を簡潔に説明するために、LIC3の電圧を中心に説明したが、本実施形態では、LIC3の使用上限/下限SOC、LIC3を構成する各単体キャパシタの使用上限/下限電圧および使用上限/下限SOCも予め設定されており、LIC3が使用上限SOCに達した場合には、LIC3への充電を打ち切りメイン電池2を充電し、LIC3が使用下限SOC、各単体キャパシタの使用下限SOCに達した場合には、LIC3から補機14への放電を打ち切りメイン電池2から補機14に放電する制御も行っている。また、メイン電池2もLIC3と同様に、使用上限電圧、使用下限電圧が設定されており、LIC3と同様に、使用上限電圧、使用下限電圧に応じてメイン電池2の充放電制御も行っている。
【0117】
4.作用効果等
4−1.作用効果
次に、本実施形態の電源システム10の作用効果等について説明する。
【0118】
本実施形態の電源システム10では、回生電力受け入れの際、メイン電池2に先立って充電受入性の高いLIC3が使用上限電圧V1まで充電され(S210)、補機14への放電の際、メイン電池2に先立って大電流放電特性に優れるLIC3からその電圧がエンジン始動可能な設定電圧V2となるまで放電される(S234)。このため、オルタネータ12から供給される回生電力の利用効率を高めることができ、オルタネータ回生車両20の燃費向上を図ることができる。
【0119】
また、本実施形態の電源システム10では、エンジン始動の際、LIC3からスタータ13に放電される(S226、S232)。これに加え、上記ように、回生電力受け入れの際、メイン電池2に先立ってLIC3が充電され、補機14への放電の際、メイン電池2に先立ってLIC3から放電されるので、メイン電池2の充放電機会が少なくする。このため、メイン電池2の劣化を防止し寿命短縮を抑制することができる。
【0120】
さらに、本実施形態の電源システム10では、エンジン始動情報を受信したときに、補機14への放電をLIC3からメイン電池2に切り替える(S238)。このため、LIC3の劣化を防止するとともに、LIC3の容量を抑え電源システム10のコストアップを防止することができる。
【0121】
また、本実施形態の電源システム10では、ISSの際、大電流放電特性に優れるLIC3からスタータ13に放電する(S226、S232、S236)。このため、エンジン再始動の確実性を高めることができ、ドライバがアイドリングストップの際に抱くエンジン再始動不能に対する不安感をなくすことができる。
【0122】
さらに、本実施形態の電源システム10では、充放電休止時にメイン電池2とLIC3とを並列接続する(S292)。このため、LIC3の過放電による劣化を防止することができる。
【0123】
4−2.変形例
なお、本実施形態では、電源システム10を一体としエンジンルームに搭載した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、エンジンルームに蓄電デバイス1を構成するメイン電池2を配置し、シート下に蓄電デバイス1を構成するLIC3を分割して配置するようにしてもよい。また、このような蓄電デバイス1の配置に応じて、制御部7やスイッチ6を構成するスイッチSW1、SW2も分割して配置するようにしてもよい。
【0124】
また、本実施形態では、LIC3の過放電を防止するために、充放電休止時にメイン電池2とLIC3とを並列接続する例を示したが(S292)、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、充放電休止時に、LIC3の電圧が設定電圧V2未満かつメイン電池2の電圧がV2以上(であってメイン電池2がLIC3を充電可能なSOC(例えば、第3のSOC以上のSOC)を有しているとき)の場合には、メイン電池2でLIC3をメイン電池2の電圧となるまで充電してもよい。このような制御では、車両走行前のエンジン始動処理において、LIC3からスタータ13に放電してエンジンを始動可能なため、(メイン電池1をエンジン始動に使用しない分)メイン電池1の劣化を防止することができる。
【0125】
さらに、本実施形態では、LIC3が充電受入性が高く短時間で充電可能なことから、メイン電池2を充電する際に、LIC3がエンジン始動可能な設定電圧V2を有していてもLIC3を使用上限電圧V1まで充電する例を示したが(S164、S246におけるS306)、LIC3を充電せずメイン電池2のみ充電するようにしてもよい。
【0126】
またさらに、本実施形態では、メイン電池2に鉛蓄電池を例示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、鉛蓄電池に代えて、ニッケル水素電池、ニッケル亜鉛電池、リチウムイオン電池を用いることができる。なお、リチウムイオンキャパシタは、一般に構造的理由から、リチウムイオン電池より(ISSのエンジン始動時の)大電流放電特性に優れる。
【0127】
また、本実施形態では、メイン電池2およびLIC3のいずれからも補機14に電力供給がなされないことを防止するために補償キャパシタCを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スイッチSW1、SW2を一瞬同時にオン状態(状態3)としてもよいし、補償キャパシタCに代えて一次電池または二次電池を用いるようにしてもよい。
【0128】
さらに、本実施形態では、OCVから基準SOCを算出しこの基準SOCに対し充放電電流を積算することでメイン電池2およびLIC3の現在のSOCを推定する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、公知のSOC推定手段を用いることができる。
【0129】
また、本実施形態では、電源システム10の構成を把握しやすいように、メイン電池コントローラ4、LICコントローラ5、制御部7に分けて説明したが、これらを一体に構成するようにしてもよい。さらに、本実施形態では、コントローラ4、5から出力されたメイン電池2、LIC3のデータに応じて制御部7でメイン電池2、LIC3のデバイス状態を演算する例を示したが、このような演算は車両制御部15で行うようにしてもよい。このような態様では、制御部7の主機能はスイッチ制御部7Bと通信部7Cとになる。
【0130】
さらにまた、本実施形態では、メイン電池2を構成する鉛蓄電池に合わせてOFF情報受信の6時間後にメイン電池2やLIC3のOCVの測定を行う例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。また、本実施形態では、制御部7のCPUが6時間を計時する例を示したが、車両制御部15が計時し、制御部7、コントローラ4、5をスリープ状態からアウェークさせるようにしてもよい。
【0131】
さらに、本実施形態では、制御部7は、車両制御部15を介してオルタネータ作動情報やIGN情報を取得する例を示したが、本発明はこれに限らず、例えば、ブレーキを制御するブレーキ制御部、オルタネータを制御するオルタネータ制御部、IGN11から直接ブレーキの作動情報、オルタネータ作動情報、IGN位置情報等を取得するようにしてもよい。
【0132】
また、本実施形態では、電源システム10を構成する各部材の作動電圧等や、
図8にLIC3の設定電圧V2、V3、メイン電池2の使用上限SOCおよび第1、第2のSOCを例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0133】
そして、本実施形態では14V系電源システム10を例示したが、本発明はこれに制限されることなく、例えば、42V系電源システム等の14V系電源システム以外の電源システムにも適用可能である。