特許第6750454号(P6750454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750454
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】ビスマス電解液の不純物除去方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 30/06 20060101AFI20200824BHJP
   C22B 3/46 20060101ALI20200824BHJP
   C25C 1/22 20060101ALI20200824BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   C22B30/06
   C22B3/46
   C25C1/22
   C25C7/06 301Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-211497(P2016-211497)
(22)【出願日】2016年10月28日
(65)【公開番号】特開2018-70943(P2018-70943A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】竹田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−066520(JP,A)
【文献】 特開平01−139790(JP,A)
【文献】 特開昭48−094621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスと銀を含有するケイフッ酸性溶液からなるビスマス電解液に、銀より電位的に卑な金属を添加し、
還元雰囲気下で混合撹拌する
ことを特徴とするビスマス電解液の不純物除去方法。
【請求項2】
前記卑な金属が、ビスマス金属である
ことを特徴とする請求項1記載のビスマス電解液の不純物除去方法。
【請求項3】
前記還元雰囲気が、銀塩化銀電極を参照電極とする値で、518mV以下の酸化還元電位に制御したものである
ことを特徴とする請求項1または2記載のビスマス電解液の不純物除去方法。
【請求項4】
前記還元雰囲気が、銀塩化銀電極を参照電極とする値で、10mV以上の酸化還元電位に制御したものである
ことを特徴とする請求項3記載のビスマス電解液の不純物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス電解液からの不純物を除去方法に関する。さらに詳しくは、銅電解精製工程で発生する銅電解スライムから有価金属であるビスマスを回収する精製工程の中間生成物であるビスマス電解液から不純物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅を含有する鉱石から銅を回収する方法として、銅を含有する鉱石を選鉱工程に付して銅を濃縮した銅精鉱を得、次にこの銅精鉱を炉に投入して高温で熔融する乾式製錬に付して粗銅を得、次にこの粗銅をアノードとして硫酸酸性溶液に浸漬し、同時に面対して浸漬したステンレスや銅の板を用いたカソードとの間に電流を流し、アノードから溶解した銅を選択的にカソード上に電析させる電解精製に付すことを経て、高純度な電気銅を得る方法が一般的に用いられてきた。
【0003】
上記の銅を含有する鉱石には、目的とする銅のほかに金銀などの貴金属やビスマスやヒ素やアンチモンやセレンや鉛や鉄やテルルなどの有価物でもあり不純物でもある多種多様な成分が含有されることが多い。これらの成分は、上記の乾式製錬でスラグとして分離されたり、電解精製では銅電解スライムとして貴金属とともに電解槽の底に沈積されたりするなどして銅と分離される。
上記の銅電解スライムは、前述するように多種多様な成分が含有されているため、このスライムを精製して目的とする有価物を回収する処理が必要となる。
【0004】
スライムを精製する方法としてはいくつかの方法が知られているが、その中の一つの方法として、銅電解スライムに硫酸を添加して銅電解スライムに混在する銅を溶解して除去する脱銅工程を行い、次に脱銅して得た脱銅スライムを炉に入れて高温に加熱し、セレン、アンチモンを揮発して分離し、次に酸化して鉛を酸化物として分離し、その後に貴金属とビスマスを分離する方法がある。
【0005】
上記の方法は、大量の物量を取り扱うのには適した方法であるが、一方で大掛かりな設備が必要で、処理に要するエネルギーコストも大きく、また貴金属を回収できるのが工程の後半になるので仕掛り金利がかさむなどの課題があった。
【0006】
そこで近年では、湿式方法を中心とした新しい処理プロセスが広く実用化されてきた。これら湿式処理プロセスは、セレン分離に湿式還元法を採用するか、焙焼法を採用するかにより、以下の二つの方法に大別される。
【0007】
第一の方法は、非特許文献1や特許文献1あるいは特許文献2に示される方法である。
これらの方法では、銅電解スライムに硫酸と酸素を加えて高温高圧下でテルルの一部と銅を浸出する。次に浸出して得た残渣に塩酸及び過酸化水素あるいは塩素を加えて金、白金族元素、セレン、テルルを浸出する。
【0008】
つぎに、この浸出液に有機抽出剤であるビス(2−ブトキシエチル)エーテル(以後DBCと表記する)を混合して金を抽出剤中に抽出し、その抽残液を二酸化硫黄で還元してセレン、テルル、白金族元素を回収する。セレン、テルル、白金族元素の混合物はメタル状態のまま蒸留することにより、セレンとテルル及び白金族元素とに分離される。塩素浸出残渣は、アンモニア水にて処理することにより銀を浸出し、この浸出液から銀が粉末として回収される。
【0009】
第二の方法は、非特許文献2に示す方法である。すわなち、銅電解スライムを硫酸による加圧浸出に付して、脱銅、脱テルルを行なう工程までは上記第一の方法と同じであるが、その後残渣を硫酸と混合し、焙焼してセレンを揮発分離すると同時に、残渣中の銀を硫酸銀に変換する。そして硫酸焙焼残渣は、まず、硝酸カルシウム水溶液を用いて銀を浸出し、この浸出液を電解することにより銀メタルを回収する。
【0010】
銀を浸出した残渣は、塩酸及び塩素にて金、白金族、セレン、及び残留しているテルルを浸出する。この浸出液にDBCを混合して金を抽出するが、この原理は第一の方法と同じである。更に、この抽残液をヒドラジン還元することにより、白金族元素とテルルとを金属粉として回収する。
【0011】
なお、上記の第二の方法における硫酸焙焼残渣から銀を回収する法としては、上記第一の方法と同様に、アンモニアを使用する方法、亜硫酸ナトリウムを使用する方法も提案されている。
【0012】
しかるに、上記2つの方法では、いくつかの有価物並びに不純物の分離方法として、例えばビスマスに関しては、湿式工程で回収することは示されていない。ビスマスは従来から行われてきた乾式工程を用いて熔融し、スラグから回収する方法が一般的である。しかし乾式工程を実現するためには炉を設けるための投資や使用するエネルギーなどの投資や費用が大きくなる等の問題があり好ましくなかった。
【0013】
上記の問題を解決するために銅と貴金属とビスマスと不純物とを含有する鉱物を製錬して得た粗銅を電解精製に付して銅を回収し、次に電解精製を行うことで生成した電解スライムから湿式法により貴金属を回収する工程において、貴金属を回収後に生成した酸性溶液を以下の各工程に付して金属ビスマスを得る方法が提案されている。
【0014】
1)前記酸性溶液にアルカリを添加してpHを2.0以上3.0以下の範囲に調整し、次いで固液分離して中和濾液と中和澱物を得る中和処理工程
2)前記中和澱物にアルカリを添加してアルカリ浸出液とアルカリ浸出残渣に分離するアルカリ浸出工程
3)前記アルカリ浸出残渣に硫酸を添加して硫酸浸出液と硫酸浸出残渣とに分離する硫酸浸出工程
4)前記硫酸浸出液を冷却し、硫酸ビスマスの結晶を得る冷却工程
5)前記硫酸ビスマスの結晶にアルカリを加え、酸化ビスマスを得るビスマス酸化工程
6)前記酸化ビスマスに酸溶液を添加して溶解し、得た溶解液を電解採取して金属ビスマスを得る電解工程
【0015】
上記の方法を用いた場合、電解工程の原料になる酸化ビスマス中に銀が濃縮されることから、単純に酸化物を溶解して得た電解液中には銀が不純物として多く含まれる。
金属ビスマスを得るための電解液としては、例えばケイフッ酸濃度が300〜350g/L、ビスマス濃度が50〜100g/Lの水溶液が用いられるが、銀はビスマスより貴な金属であることから、微量でも電解液中に存在した場合、銀がビスマスよりも優先的に析出し、高品位な金属ビスマス、例えば4Nグレードの金属ビスマスを得ることができない。電解始液のビスマス濃度が50g/L、電解終液のビスマス濃度が30g/Lになるように電解した場合では銀のみを不純物として考えた場合でも、計算上は2mg/L未満(全量析出するとした場合)にしなければならない。
【0016】
銀を除去する方法としてはハロゲン化銀による沈殿除去が知られているが、微量ではあるが、溶解度があるため、完全な除去はできない。例えば特許文献3では塩化銀では75mg/L程度の溶解度をもつため、リン酸系の抽出剤であるTBP(トリブチルフォスフェート)を用いた溶媒抽出によって100mg/L程度の希薄溶液からの銀の回収を試みている。しかしこの目的においても前記に理由によって沈殿法が適用できないことは同様である。
【0017】
特許文献3に示す溶媒抽出法であるが、この方法を本目的のために適用しようとした場合、別途溶媒抽出工程が必要になる。
【0018】
さらに、溶媒抽出操作を行った場合、水相中には微細な有機相の液滴が微量残るエントレイメントと呼ばれる状態が生じるため、このエントレイメントを除去するために例えば活性炭吸着装置などが必要になる。特に、酸化銅鉱石を対象とした硫酸で銅を浸出し溶媒抽出(SX)と電解採取(EW)を組み合わせたSX−EWプロセスでは、このエントレイメントが原因でカソード表面を暗褐色に変化させる「オーガニックバーン」と呼ばれる現象が知られており、カソードの品質が悪化する原因になることが知られている。
【0019】
溶媒抽出工程やエントレイメントの除去装置などにかかるコストがかかることや、品質悪化の恐れがあることから、本目的のために溶媒抽出法を適用することは難しい。以上の経緯からより簡便で効率的なビスマス電解液からの銀の除去方法が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平9−316559号公報
【特許文献2】特開平9−316561号公報
【特許文献3】特開2013−112881号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】K. E. Sutliff et al, JOM, August(1996), pp42-44、J. E. Hoffmann et al, Proceedings of COPPER 95-COBRE 95 International Conference Volume III(1995)、The Metallurgical Societyof CIM, pp41-57
【非特許文献2】J. E. Hoffmann et al, HY DROMETALLURGY ’94, the Institution of Mining andMetallurgy and the Society of Chemical Industry, CHAPMAN & HALL(1994), pp69-105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上記事情に鑑み、銀を不純物として多く含む電解液から銀を除去して高品位な金属ビスマスを得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1発明のビスマス電解液の不純物除去方法は、ビスマスと銀を含有するケイフッ酸性溶液からなるビスマス電解液に、銀より電位的に卑な金属を添加し、還元雰囲気下で混合撹拌することを特徴とする。
第2発明のビスマス電解液の不純物除去方法は、第1発明において、前記卑な金属が、ビスマス金属であることを特徴とする。
第3発明のビスマス電解液の不純物除去方法は、第1、または第2発明において、前記還元雰囲気が、銀塩化銀電極を参照電極とする値で、518mV以下の酸化還元電位に制御したものであることを特徴とする。
第4発明のビスマス電解液の不純物除去方法は、第3発明において、前記還元雰囲気が、銀塩化銀電極を参照電極とする値で、400mV以上の酸化還元電位に制御したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
第1発明によれば、不純物である銀よりも卑な金属を添加すると、添加した金属と電解液中に溶解している銀イオンとの酸化還元を利用したセメンテーション反応により、不純物である銀をメタルに還元析出させて電解液中から除去することができる。このため、純度の高い金属ビスマスを得ることができる。
第2発明によれば、酸化還元電位が518mVの上限値以下であると銀を析出をさせ電解液から除去することができる。
第3発明によれば、添加する金属の比表面積を小さくする等の手間とコストをかけずに銀を析出させ電解液から除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明によるビスマス電解液の不純物除去方法の説明図である。
図2】セメンテーション反応における還元雰囲気を示す酸化還元電位の説明図である。
図3】ビスマス精製の工程図である。
図4図3に示す各工程で得られる生成物の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明の不純物除去方法が適用される代表的な前工程として湿式法を用いたビスマス精製方法を説明する。
上記ビスマス精製方法は、銅と貴金属とビスマスと不純物とを含有する鉱物を製錬して得た粗銅を電解精製に付して銅を回収し、次に電解精製を行うことで生成した電解スライムから湿式法により貴金属を回収する工程であって、貴金属の回収後に生成した酸性溶液を以下の工程に付すことを特徴とする。
【0027】
図3はビスマス精製の各工程を示しており、図4図3に示す各工程で得られる生成物の説明図である。下記符号1)〜6)は図中のものと一致している。
1)中和処理工程
貴金属の回収後に生成した前記酸性溶液にアルカリを添加してpHを2.0以上3.0以下の範囲に調整し、次いで固液分離して中和濾液と中和澱物を得る。
2)アルカリ浸出工程
前記中和処理工程で得た中和澱物にアルカリを添加してアルカリ浸出液とアルカリ浸出残渣に分離する。
3)硫酸浸出工程
前記アルカリ浸出工程で得たアルカリ浸出残渣に硫酸を添加して硫酸浸出液と硫酸浸出残渣とに分離する。
4)冷却工程
前記硫酸浸出工程で得た硫酸浸出液を冷却し、硫酸ビスマスの結晶を得る。
5)ビスマス酸化工程
前記冷却工程で得た硫酸ビスマスの結晶にアルカリを加え、酸化ビスマスを得る。
6)電解工程
前記ビスマス酸化工程で得た酸化ビスマスに酸溶液を添加して溶解し、得た溶解液を電解採取して金属ビスマスを得る。
【0028】
本発明は上記電解工程6)で得た電解液を処理対象とする。以下詳細に説明する。
【0029】
(本発明に係る処理対象液)
上記電解工程6)では、前記ビスマス酸化工程5)で得た酸化ビスマスに酸溶液を添加して溶解する。このように酸溶液を加えると、ビスマスがイオンとして溶解する。そして、得た溶解液を電解採取すると、つまり溶解液に電極を入れて通電するとビスマスイオンが電子を受けてカソード上に単体の金属ビスマスとして電析する。
この工程における電解に用いる酸溶液は、ビスマスと共に銀などの不純物を含んでいる。これが、本発明の処理対象液である。
【0030】
電解に用いる酸溶液には、ビスマスの溶解度が十分に高く電解に好都合なビスマス濃度が確保でき、しかも共存する銀などの不純物との分離性が高いことからケイフッ酸溶液が好ましい。ケイフッ酸を含有する溶液を用いた電解浴とすることで、ケイフッ化ビスマスの形で存在する電解液中から不純物たる銀を充分に分離した金属ビスマスを得ることができる。
【0031】
(添加金属)
電解液に添加する金属は不純物として回収したい銀よりも卑な金属である。銀よりも卑な金属としては、ビスマスよりも電気化学的に卑な金属かビスマスそのものを用いることができる。銀よりも卑であっても、ビスマスより貴な金属はビスマスよりも優先的に析出して品位を低下するため、用いることはできない。ビスマス金属をセメンテーション反応に用いた場合は、電析させるビスマス金属の品位に影響を及ぼさないため、ビスマス金属を添加するのが好ましい。
【0032】
電解始液にビスマス金属を添加し、浸漬させて電解始液に含有された銀イオンをビスマス金属上に析出させるセメンテーション反応に付し、さらにその液を電解に付すとビスマス金属中の銀品位を低減することができる。
【0033】
添加する金属の形状は特に制限はないが、セメンテーションの反応性を上げるためには板やインゴット状のものよりも、比表面積が大きい粒状や粉末状のものが好ましい。
【0034】
(還元雰囲気)
セメンテーション反応を用いて不純物である銀を除去するには、還元雰囲気にすることが必要である。この目的のためにも添加する金属の形状は比表面積の大きい粒状や粉末状のものが好ましい。還元剤を別途添加する方法も考えられるが、工程が複雑になり、コストの増加を招く恐れがあることから、本発明ではセメンテーション反応において添加する金属によって還元雰囲気にしている。
【0035】
還元雰囲気を定量的に把握するには、酸化還元電位(ORP)の値を市販のORPメーターを用いて確認する方法が最も簡単である。ここでいうORP値は、混合撹拌後、平衡に達したときの値(ORPメーター指示値)である。
【0036】
ORP値と銀の除去効率は相関があるので、図2に示すように、銀塩化銀電極を参照電極とする値で518mV以下の電位に低減するように、ビスマス金属等の銀よりも卑な金属を添加すればよい。ORP値がこの上限値を超えると、銀が析出できなくなり好ましくない。
【0037】
また、銀塩化銀電極を参照電極とする値で400mVより下廻っても、セメンテーション反応を生じさせることができるが、その場合は、添加する金属の比表面積をより小さくしたり(微粉化したり)、余剰に添加する必要がある。このように、手間のコストを考慮しなければ、10mVの還元雰囲気まで利用可能である。
【0038】
ただし、手間とコストを省き現実的・工業的に採用可能な範囲を求めるなら、酸化還元電位を、400〜518mVとの間とすると手間とコストをかけず、銀を電解液から十分に除去することが可能になるので、好ましい。
【0039】
図2は、本発明において採用できる酸化還元電位を示しており、符号D1で示す範囲が下限値10mVから上限値518mVまでの使用可能範囲である。そして、符号D2で示す400mVから518mVの範囲が好適範囲である。
【0040】
反応温度は特に制限なく、常温で行うことが可能である。反応時は撹拌混合する必要があるが、強撹拌では空気を巻き込み、酸化雰囲気になるため、空気を巻き込まない程度に撹拌することが好ましい。
【0041】
(金属ビスマスの電解)
金属ビスマスを得るには電解を行う。その電解条件としては、以下を例示できる。すなわち、ケイフッ酸濃度が300〜350g/lの溶液を用いて酸化ビスマスを溶解し、ビスマス濃度が80〜100g/lの電解始液を得、この電解始液をカソードにハステロイ、アノードにカーボンを用いた電解槽に供給し、液温を40〜50℃、好ましくは50℃以下、に維持しつつ、80〜120A/mのカソード電流密度で通電することで、カソード上に金属ビスマスを電析させることができる。
電流密度が200A/mを超えると電着表面の状態が荒れて粒上析出物が生じやすく電解液が巻き込まれるなど好ましくない。
【0042】
電解の終了は、例えば電解液中のビスマス濃度が20〜30g/l程度まで低下した時点とすれば、析出するビスマスの表面状態の悪化を抑止でき、電解液の巻き込みなどの影響のない表面平滑な金属ビスマスを得ることができて好ましい。
また、電解終了後はカソードを引き上げて電着したビスマスを剥ぎ取り、水で洗浄し、ついで炉の中に入れて不活性雰囲気下でビスマスの融点(271℃)を若干上回る300℃くらいの温度で熔解することで、不純物や酸化物を取り除き、インゴット等の形状の金属ビスマスを得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例と比較例を示す。
<実施例1>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に粉末状の銀より電位的に卑な金属である金属ビスマスを1.0g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは74mV、電解液中の銀濃度は0.1mg/L未満だった。つまり、99.9%以上の銀を析出させて除去することができた。
【0044】
<実施例2>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に、粉末状の金属ビスマスを0.75g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは271mV、電解液中の銀濃度は0.1mg/L未満であった。つまり、99.9%以上の銀を析出させて除去することができた。
【0045】
<実施例3>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に粉末状の金属ビスマスを0.25g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは420mV、電解液中の銀濃度は0.1mg/L未満であった。つまり、99.9%以上の銀を析出させて除去することができた。
【0046】
<実施例4>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に粉末状の金属ビスマスを0.1g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは453mV、電解液中の銀濃度は0.1mg/L未満であった。つまり、99.9%以上の銀を析出させて除去することができた。
【0047】
<実施例5>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に粒状のビスマスショットを10g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは518mV、電解液中の銀濃度は1.2mg/Lだった。つまり、98.7%以上の銀を析出させて除去することができた。
【0048】
<比較例1>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に粒状のビスマスショットを5g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは530mVまでしか低下せず、電解液中の銀濃度は2.8mg/Lと残留した。酸化雰囲気のため銀が十分に析出できなくなったことを意味する。
【0049】
<比較例2>
ケイフッ酸濃度が336g/L、ビスマス濃度が50g/L、銀濃度が0.09g/L、ORPが611mVのビスマス電解液に粒状のビスマスショットを2.5g添加し、1時間程度混合撹拌した。混合撹拌後の電解液のORPは540mVまでしか低減せず、電解液中の銀濃度は13mg/Lも残留した。酸化雰囲気のため銀が十分に析出できなくなったことを意味する。
【0050】
上記実施例1〜5および比較例1,2のデータを表1に示す。また、表1のデータを図2に示す。
【表1】
【0051】
上記のように、セメンテーション反応時の電解液のORPを400〜518mVの範囲あるいはそれ以下の酸化還元電位に制御すればビスマス電解液中の銀濃度を2mg/l以下に抑制できる。
【0052】
電解終液中のビスマス濃度を30g/Lとして金属ビスマスを電解採取した場合、本発明を用いなければ、得られる金属ビスマスの品位は99%(2N)グレードにとどまるが、本発明を用いることで金属ビスマスの品位は99.99%(4N)のグレードが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、銅電解精製工程で発生する銅電解スライムから有価金属であるビスマスを回収する精製工程の中間生成物であるビスマス電解液から不純物を除去するのに好適であるが、これに限られず、銀を不純物として多く含む電解液から銀を除去する目的であれば、あらゆる分野から発生した電解液に対し本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
D1 使用可能な酸化還元電位
D2 好適な酸化還元電位

図1
図2
図3
図4