特許第6750496号(P6750496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750496
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】匍匐性カンゾウの育成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/25 20180101AFI20200824BHJP
【FI】
   A01G22/25 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-245571(P2016-245571)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-99038(P2018-99038A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】末松 優
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−170344(JP,A)
【文献】 実開昭60−017662(JP,U)
【文献】 実開昭56−021932(JP,U)
【文献】 特開2003−289724(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/039159(WO,A1)
【文献】 実開昭49−031843(JP,U)
【文献】 実開昭62−068553(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0135385(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畝に根を活着させた匍匐性カンゾウの育成方法において、
上記畝を間に挟む畝間に支柱を立設するとともに、上記支柱の上部間に上記畝の上方を跨ぐようにして誘引用ネットを張り、生育する上記匍匐性カンゾウの主枝を、上記誘引用ネットの開口に挿通させるとともに、当該主枝から生長する茎葉を上記誘引用ネット上に沿わせて生育させることを特徴とする匍匐性カンゾウの育成方法。
【請求項2】
上記匍匐性カンゾウの主枝および茎葉の上部に、上記誘引用ネットとの間で上記主枝および茎葉を間に挟む挟持用ネットを配置することを特徴とする請求項1に記載の匍匐性カンゾウの育成方法。
【請求項3】
上記誘引用ネットの下方に散水管を配置し、当該散水管から上記匍匐性カンゾウの上記主枝および茎葉の裏側に向けて農薬または水を散布することを特徴とする請求項1または2に記載の匍匐性カンゾウの育成方法。
【請求項4】
上記畝の上面には、マルチシートが敷設され、当該マルチシートに形成された開口に、匍匐性カンゾウが定植されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の匍匐性カンゾウの育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生育に伴って茎葉が地面を這うようにして伸長する匍匐性カンゾウの育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カンゾウ属植物は、その根や根茎を乾燥することによって得られる甘草が肝臓障害やアレルギー等に有効であるとともに消炎作用も有するグリチルリチンを多く含有することから、治療用の内服薬や輸液等の医薬の原料として広く用いられている。また、上記グリチルリチンに加えて、ブドウ糖やショ糖も含まれるために甘味料の原料としても用いられている。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、育苗用栽培容器にてカンゾウ属植物を予備栽培して所定の大きさまでカンゾウ根を生育させ、所定高さの畝に被せた水を通さないシートに栽培用孔を開け、カンゾウ根を、その上部にある茎・葉及びストロンの成長点が畝の表面より上方に位置するように、栽培用孔を通して畝に植えることにより、カンゾウ根のストロンの生育を抑制しつつ、カンゾウ属植物の根部を、水分をコントロールした畝にて生育させて根部を主に肥大化させるようにしたカンゾウ属植物の育成方法が提案されている。
【0004】
ところで、上記カンゾウ属植物の一種として、生育に伴って主枝や茎葉が地面を這うようにして伸長する匍匐性カンゾウが知られている。
図4および図5は、予備育成用容器内等において匍匐性カンゾウの苗を発育させて定植苗とした後に、この定植苗の根を畝20に活着させて生育させた従来の匍匐性カンゾウの育成状態を示すものである。
【0005】
この際に、畝20の上面には、当該畝20の水分保持、保温および雑草防除のためのマルチシート21が敷設されており、このマルチシート21に形成された開口22に、匍匐性カンゾウの定植苗が植えられている。そして、匍匐性カンゾウは、生育に伴って主枝24aが畝20の上面から下方の畝間23に沿って伸長してゆく。
【0006】
このような従来の匍匐性カンゾウの育成方法においては、マルチシート21の表面が日射により約70℃程度にまで昇温するために、図5に示すように、マルチシート21上に接する茎葉24bが枯死してしまうという問題点があった。
【0007】
また、畝間23に伸長した主枝24aや茎葉24bが、降雨等による土壌の跳ね返りによって汚れたり、畝間23に生長した雑草に覆われたりして、光合成が抑制され、収穫量が減少してしまうとともに、上記畝間23に生長した主枝24aおよび茎葉24bが存在することによって中耕除草管理における機械操作が難しくなるという問題点もあった。
【0008】
さらに、降雨によって畝間23に水が溜まった際にも、茎葉24bが冠水することによって光合成が阻害されるとともに、病害虫に攻撃にされ易くなり、同様に収穫量に大きな影響を及ぼすという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5567511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、茎葉の光合成を向上させて収量を増加させることができるとともに、ひいては畝間の雑草管理が容易になる匍匐性カンゾウの育成方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、畝に根を活着させた匍匐性カンゾウの育成方法において、上記畝を間に挟む畝間に支柱を立設するとともに、上記支柱の上部間に上記畝の上方を跨ぐようにして誘引用ネットを張り、生育する上記匍匐性カンゾウの主枝を、上記誘引用ネットの開口に挿通させるとともに、当該主枝から生長する茎葉を上記誘引用ネット上に沿わせて生育させることを特徴とするものである。ここで、上記誘引用ネットは、紐を複数本張ってネット状に形成したものも含む。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記匍匐性カンゾウの主枝および茎葉の上部に、上記誘引用ネットとの間で上記主枝および茎葉を間に挟む挟持用ネットを配置することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記誘引用ネットの下方に散水管を配置し、当該散水管から上記匍匐性カンゾウの上記主枝および茎葉の裏側に向けて農薬または水を散布することを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記畝の上面には、マルチシートが敷設され、当該マルチシートに形成された開口に、匍匐性カンゾウが定植されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、自然の状態において生育に伴って地面を這うようにして伸長する匍匐性カンゾウの主枝を、上方の誘引用ネットに導いて当該誘引用ネットの開口に挿通させ、これから生長する茎葉を上記誘引用ネット上に沿わせて生育させているために、上記主枝および茎葉が降雨等による土壌の跳ね返りによって汚れたり、畝間に生長した雑草に覆われたりして、光合成が抑制されることがない。
【0016】
また、畝間に主枝および茎葉が伸長しないために、降雨によって畝間に溜まった水への冠水や病害虫に攻撃されるといったおそれもなく、さらに主枝および茎葉が日照を受けやすい畝の上方に張設した誘引用ネット上に配置されているために、主枝および茎葉の光合成を大幅に向上させて収量を増加させることができる。
【0017】
この際に、請求項2に記載の発明によれば、上記誘引用ネットとの間で主枝および茎葉を間に挟む挟持用ネットを配置しているために、主枝および茎葉を紐等によって誘引用ネットに拘束する手間を省くことができるとともに、強風対策としても有効に機能させることができる。
【0018】
ところで、従来からカンゾウの栽培においては、10a当たりの全作業時間のうち除草作業が約47%、農薬散布が約27%を占めると言われている。一方、近年においては、総合的病害虫管理(IPM)という考え方が推奨されつつある。これは、病害虫(雑草)の防除に関し、利用可能な全ての防除技術を利用し、経済性を考慮しつつ、適切な手段を組み合わせて総合的に防除手法を講じようとするものである。
【0019】
これに対して、本願発明においては、畝間に茎葉が伸長しないために、雑草管理の観点からは中耕除草管理における機械操作が容易になることに加えて、上記IPM管理においても、雑草の草丈を上げて切除管理の回数を軽減することが可能になる。
【0020】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、誘引用ネットの下方に散水管を配置し、この散水管から誘引用ネット上の主枝および茎葉の裏側に向けて農薬を散布して殺虫することができるため、効率的な病害虫の防除を行うことが可能になる。また、散水管から誘引用ネット上の主枝および茎葉の裏側に向けて水を散布して除虫および虫を飛散させることもできるため、上述したIPM管理の観点からも、効率的な病害虫の防除を行うことが可能になる。
【0021】
この結果、特に請求項4に記載の発明のように、畝の上面にマルチシートが敷設され、当該マルチシートに形成された開口に匍匐性カンゾウが定植されている場合に、高温となったマルチシート上を茎葉が伸長することによる茎葉の枯死を確実に防止することができ、顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態を説明するための斜視図である。
図2】本発明の第2の実施形態を説明するための斜視図である。
図3】本発明の第3の実施形態を説明するための斜視図である。
図4】従来の匍匐性カンゾウの育成状態を示す斜視図である。
図5図4の要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、図面に基づいて本発明に係る匍匐性カンゾウの育成方法の第1の実施形態について説明する。
図1に示すように、この育成方法においては、先ず土壌を、間隔(30〜80cm程度)をおいて筋状に高く(10〜40cm程度)盛り上げることにより複数条の畝1を形成し、各々の畝1の上面(幅40〜80cm程度)から両側面にわたってマルチシート2を敷設する。
【0024】
次いで、畝1を間に挟む畝間3に支柱4を立設し、さらに支柱4の上部間に畝1の上方を跨ぐようにして誘引用ネット5を張る。ここで、支柱4および誘引用ネット5としては、耐候性が高く、温度が上がり難く、かつ延び難い材質のものが好ましく、例えば支柱4としては、木材やプラスチックが好適であり、誘引用ネット5としては、プラスチックや紐で構成したものを用いることが好ましい。
【0025】
これと前後して、畝1の上面に位置するマルチシート2に形成した開口6に、図示されない予備育成用容器等において匍匐性カンゾウの種を蒔いて発芽させ、所定の大きさまで生育させた苗を定植する。
【0026】
そして、生育する匍匐性カンゾウの主枝7aを誘引用ネット5の開口に挿通させるとともに、主枝7aから生長する茎葉7bを誘引用ネット5上に沿わせて生育させる。この際に、複数箇所において主枝7aおよび茎葉7bを誘引用ネット5に紐等によって固定することにより、誘引用ネット5上に安定的に、かつ太陽光を受光し易いように配置する。
【0027】
以上の構成からなる匍匐性カンゾウの育成方法によれば、自然の状態において生育と共に地面を這うようにして伸長する匍匐性カンゾウの主枝7aを、上方の誘引用ネット5に導いてその開口に挿通させ、これから生長する茎葉7bを誘引用ネット上5に沿わせて生育させているために、主枝7aおよび茎葉7bが降雨等による土壌の跳ね返りによって汚れたり、畝間に生長した雑草に覆われたりして、光合成が抑制されることがない。
【0028】
また、従来のように畝間3に主枝7aおよび茎葉7bが伸長しないために、降雨によって畝間3に溜まった水への冠水や病害虫に攻撃されるといったおそれもなく、さらに主枝7aおよび茎葉7bが日照を受けやすい畝1の上方に張設した誘引用ネット5上に配置されているために、主枝7aおよび茎葉7bの光合成を大幅に向上させて収量を増加させることができる。
【0029】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態を示すもので、図1に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この匍匐性カンゾウの育成方法においては、誘引用ネット5上の匍匐性カンゾウの主枝7aおよび茎葉7bの上部に、誘引用ネット5との間で主枝7aおよび茎葉7bを間に挟む挟持用ネット9を配置する。
【0030】
この結果、本実施形態の匍匐性カンゾウの育成方法によっても、第1の実施形態に示したものと同様の作用効果が得られることに加えて、さらに誘引用ネット5との間で主枝7aおよび茎葉7bを間に挟む挟持用ネット9を配置しているために、主枝7aおよび茎葉7bを紐等によって誘引用ネット5に拘束する手間を省くことができるとともに、強風等に対しても、安定的に主枝7aおよび茎葉7bを誘引用ネット5上に配置させておくことができる。
【0031】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態を示すもので、同様に図1および図2に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してある。
この匍匐性カンゾウの育成方法においては、誘引用ネット5の下方に散水管10を配置し、この散水管10に穿設した複数の噴射口11から誘引用ネット5上の匍匐性カンゾウの主枝7aおよび茎葉7bの裏側に向けて農薬または水を散布し、主枝7aおよび茎葉7bの裏側に付着した害虫を殺虫もしくは除虫し、または飛散させる。
【0032】
したがって、この匍匐性カンゾウの育成方法によっても、第1および第2の実施形態に示したものと同様の作用効果を得ることができるとともに、さらに誘引用ネット5の下方に散水管10を配置し、この散水管10の噴射口11から誘引用ネット5上の主枝7aおよび茎葉7bの裏側に向けて農薬または水を散布して除虫することができるために、効率的な病害虫の防除を行うことができるといった効果も得られる。
【符号の説明】
【0033】
1 畝
2 マルチシート
3 畝間
4 支柱
5 誘引用ネット
6 開口
7a 主枝
7b 茎葉
図1
図2
図3
図4
図5