特許第6750819号(P6750819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6750819
(24)【登録日】2020年8月17日
(45)【発行日】2020年9月2日
(54)【発明の名称】NMR試料管
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20200824BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20200824BHJP
【FI】
   G01N24/00 510A
   G01N24/08 510S
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-81242(P2018-81242)
(22)【出願日】2018年4月20日
(65)【公開番号】特開2019-190900(P2019-190900A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2019年11月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム「超高感度スピン相関高分解能NMR装置開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敏道
(72)【発明者】
【氏名】松木 陽
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由宇生
(72)【発明者】
【氏名】根本 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 新治
【審査官】 嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−089861(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0108561(US,A1)
【文献】 実開平02−093777(JP,U)
【文献】 特開2013−219224(JP,A)
【文献】 特開2002−286311(JP,A)
【文献】 特開平11−322956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00−24/14
G01R 33/00−33/64
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMR測定の対象となる試料が収容され、測定時に回転させられるNMR試料管において、
少なくとも一方の端部が開口した筒状の形状を有し、前記試料が収容される本体と、
前記本体の前記端部の開口に嵌め込まれて、前記端部の開口を塞ぐキャップと、
前記キャップ内に配置され、負の線膨張係数を有するインサート部材と、
を含むことを特徴とするNMR試料管。
【請求項2】
請求項1に記載のNMR試料管において、
前記インサート部材は、樹脂によってコーティングされた繊維材料によって構成されている、
ことを特徴とするNMR試料管。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のNMR試料管において、
温度の低下に伴って前記インサート部材が前記本体の内面に向けて膨張するように、前記インサート部材が前記キャップ内に配置されている、
ことを特徴とするNMR試料管。
【請求項4】
請求項3に記載のNMR試料管において、
前記本体は円筒状の形状を有し、
前記インサート部材は、繊維方向に負の線形膨張係数を有する繊維が前記本体の周方向に沿って柱状に巻かれたことで成形された部材である、
ことを特徴とするNMR試料管。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のNMR試料管において、
前記キャップにおいて前記本体の内面に対向する面の少なくとも一部は、前記本体の内面に向けて突起した形状を有し、
前記インサート部材は、前記キャップ内において、少なくとも前記突起した部分に対応する位置に配置されている、
ことを特徴とするNMR試料管。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のNMR試料管において、
前記キャップは、正の線膨張係数を有する、
ことを特徴とするNMR試料管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR)測定に用いられる試料管に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴測定装置として、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)測定装置が知られている。NMRは、静磁場中におかれた原子核が固有の周波数をもった電磁波と相互作用する現象である。その現象を利用して原子レベルで試料の測定を行う装置がNMR測定装置である。
【0003】
固体試料に対するNMR測定においては、通常、MAS(Magic Angle Spinning)法が採用される。MAS法においては、固体試料が収容された試料管を、静磁場方向に対して所定角度(マジック角(概ね54.7°))をもって傾けつつ高速で回転させ、その状態において、試料管を取り囲む送受信コイルによって高周波磁場を生成し、送受信コイルによってNMR信号を検出する。
【0004】
上記の試料管は、一般的に、ローターと2つのキャップとを含む。ローターは、試料管の本体を構成する部材であり、円筒状の形状を有し、試料を収容する部材である。一方のキャップは、ローターの一方端に嵌め込まれてその一方端を塞ぎ、タービンとして機能する部材である。他方のキャップは、ローターの他方端に嵌め込まれてその他方端を塞ぎ、スラスト軸受として機能する部材である。試料管に軸受用ガスが供給されることで、気体軸受によって試料管が保持され、更に、試料管に回転制御用ガスが供給されることで、試料管が高速に回転させられる。
【0005】
一般的に、キャップはローターに着脱可能な部材である。ローターからキャップを取り外した状態で、ローターへの試料の充填や、ローターからの試料の取り出しが行われる。
【0006】
特許文献1には、試料管本体と密封栓との間の密封力を増大させるための構成として、内側に硬質中子が挿入された密封栓が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5544616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、キャップは気体軸受として機能する部材であるため、特に精密な加工が要求される。その要求を満たすために、キャップの材料として、強度に優れたエンジニアリング・プラスチックを用いることが考えられる。例えば、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等を用いることが考えられる。一般的に、ローターの材料としてセラミックスが用いられる。上記の材料は、セラミックスに比べて一桁程度大きい正の線膨張係数を有する。従って、試料管の温度低下に伴ってローターやキャップが収縮すると、キャップがローターから抜けてしまう場合がある。
【0009】
キャップの抜けを防止するために、キャップの熱収縮を予め考慮して、キャップの嵌め合い部分の直径(ローターに嵌められる部分の直径)を大きくし、そのキャップをローターに嵌め込むことが考えられる。しかし、この場合、キャップが不可逆的に変形してキャップの復元力が失われるため、キャップの抜けを防止することは困難である。また、キャップの直径が大きくなった分、キャップの着脱に大きな力を要するので、再利用性が劣る。
【0010】
また、キャップの材料として、繊維強化プラスチックを用いることが考えられる。繊維強化プラスチックは、エンジニアリング・プラスチックと比べて小さい線膨張係数を有するので、キャップの抜けを防止することができるとも考えられる。しかし、繊維強化プラスチックを精密に加工して、気体軸受として機能するキャップを作製することは困難である。従って、繊維強化プラスチックをキャップの材料として用いることは現実的ではない。また、繊維強化プラスチックの弾性率は非常に大きいため、繊維強化プラスチックからなるキャップをローターに嵌め込むためには、大きな力を要する。従って、再利用性が、エンジニアリング・プラスチックを用いた場合と比べて大きく劣る。
【0011】
本発明の目的は、NMR測定に用いられる試料管において、試料管の本体に嵌め込まれたキャップが、試料管の温度の低下に伴って抜けることを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様は、NMR測定の対象となる試料が収容され、測定時に回転させられるNMR試料管において、少なくとも一方の端部が開口した筒状の形状を有し、前記試料が収容される本体と、前記本体の前記端部の開口に嵌め込まれて、前記端部の開口を塞ぐキャップと、前記キャップ内に配置され、負の線膨張係数を有するインサート部材と、を含むことを特徴とするNMR試料管である。
【0013】
上記の構成によれば、インサート部材は負の線膨張係数を有しているので、温度の低下に伴って、キャップ内にてインサート部材が膨張する。温度の低下に伴ってキャップは収縮するが、インサート部材が膨張することで、キャップの収縮が抑制される。それ故、試料管の本体に嵌め込まれたキャップが、その本体から抜け難くなり、温度の低下に伴うキャップの抜けを防止することができる。その結果、インサート部材を用いない場合よりも低い温度でNMR測定を行うことができる。このように、上記の構成によれば、測定温度の範囲を拡大させることができる。上記構成において、例えば、インサート部材は、本体の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する。その一例として、インサート部材は、負の線膨張係数を有する。温度の低下に伴って、キャップに比べて本体がより収縮すれば、キャップは本体から抜け難くなり、キャップの抜けを防止することができる。
【0014】
前記インサート部材は、樹脂によってコーティングされた繊維材料によって構成されてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、液体の性質を有する試料がNMR試料管に収容された場合であっても、インサート部材による液体の吸収を防止することができる。
【0016】
温度の低下に伴って前記インサート部材が前記本体の内面に向けて膨張するように、前記インサート部材が前記キャップ内に配置されていてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、キャップが本体の内面から離れる方向に収縮した場合であっても、インサート部材がその収縮を抑制し、その結果、本体からのキャップの抜けを防止することができる。
【0018】
前記本体は円筒状の形状を有し、前記インサート部材は、繊維方向に負の線形膨張係数を有する繊維が前記本体の周方向に沿って柱状に巻かれたことで成形された部材であってもよい。
【0019】
前記キャップにおいて前記本体の内面に対向する面の少なくとも一部は、前記本体の内面に向けて突起した形状を有し、前記インサート部材は、前記キャップ内において、少なくとも前記突起した部分に対応する位置に配置されてもよい。
【0020】
前記キャップは、正の線膨張係数を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、NMR測定に用いられる試料管において、試料管の本体に嵌め込まれたキャップが、試料管の温度の低下に伴って抜けることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係るNMR試料管を示す断面図である。
図2】インサート部材を示す斜視図である。
図3】ボトムキャップとインサート部材を示す断面図である。
図4】変形例1に係るNMR試料管を示す断面図である。
図5】ローターを示す断面図である。
図6】第2実施形態に係るタービンキャップを示す断面図である。
図7】第2実施形態に係るボトムキャップを示す断面図である。
図8】インサート部材を示す断面図である。
図9】第2実施形態に係るNMR試料管の一部を示す断面図である。
図10】第2実施形態に係るボトムキャップとインサート部材を示す断面図である。
図11】第2実施形態に係るNMR試料管の一部を示す断面図である。
図12】ローターの内径とキャップの外径と温度との関係を示すグラフである。
図13】比較例1に係るNMR試料管を示す断面図である。
図14】比較例2に係るNMR試料管を示す断面図である。
図15】比較例3に係るNMR試料管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係るNMR試料管について説明する。図1は、第1実施形態に係るNMR試料管の一例を示す断面図である。NMR試料管10は、NMR測定に用いられる試料管であり、NMR測定時には、回転軸Oaを中心として回転させられる。
【0024】
NMR試料管10は、試料管の本体としてのローター12と、タービンキャップ14と、ボトムキャップ16とを含む。ローター12は、円筒状の形状を有し、内部に試料を収容する部材である。ローター12は、ラジアル軸受の軸部分を構成する。ローター12の一方端12aと他方端12bは開口している。ローター12は、例えばセラミックスや単結晶サファイアによって構成されており、正の線膨張係数を有する部材である。従って、ローター12は、温度低下に伴って収縮する。セラミックスとして、例えば、ジルコニアや窒化珪素等が用いられる。ジルコニアの線膨張係数(×10−6/℃)は10.5であり、窒化珪素の線膨張係数は2.4である。また、単結晶サファイアの線膨張係数は7.0〜7.7である。
【0025】
ローター12の一方端12aには、タービンキャップ14が嵌め込まれている。これによって、一方端12aの開口がタービンキャップ14によって塞がれている。つまり、一方端12aにおいて、ローター12の内周面とタービンキャップ14との間に隙間無く、タービンキャップ14が一方端12aに挿入されている。タービンキャップ14には羽根車が形成されている。その羽根車を構成する複数の羽根にジェット流が吹き付けられることで、NMR試料管10を駆動する推進力が生成され、NMR試料管10が回転させられる。このように、タービンキャップ14はタービンとして機能する。
【0026】
ローター12の他方端12bには、ボトムキャップ16が嵌め込まれている。これによって、他方端12bの開口がボトムキャップ16によって塞がれている。つまり、他方端12bにおいて、ローター12の内周面とボトムキャップ16との間に隙間無く、ボトムキャップ16が他方端12bに挿入されている。ボトムキャップ16は、スラスト軸受として機能する。
【0027】
タービンキャップ14とボトムキャップ16は、例えば樹脂によって構成されており、正の線膨張係数を有する部材である。従って、タービンキャップ14とボトムキャップ16は、温度低下に伴って収縮する。その樹脂として、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)が用いられる。PEEKの線膨張係数(×10−6/℃)は、50である。もちろん、これ以外の樹脂が用いられてもよい。
【0028】
また、ローター12内に、スペーサ18,20が設けられている。スペーサ18,20は、ローター12内において、試料が収容される領域を制限するための部材である。スペーサ18とスペーサ20は互いに離れて配置されており、スペーサ18とスペーサ20との間に形成された領域内に試料22が収容される。試料22は、例えば固体試料である。もちろん、試料22は溶液試料であってもよい。スペーサ18,20は、例えば樹脂によって構成されている。なお、スペーサ18,20は設けられなくてもよい。この場合、ローター12内において、タービンキャップ14とボトムキャップ16との間に形成された領域内に、試料22が収容される。
【0029】
また、タービンキャップ14においてローター12に嵌め込まれる部分(挿入される部分)、つまり、タービンキャップ14の内側には、凹部24が形成されている。同様に、ボトムキャップ16においてローター12に嵌め込まれる部分(挿入される部分)、つまり、ボトムキャップ16の内側には、凹部26が形成されている。凹部24,26は、例えば円筒状の形状を有する。もちろん、凹部24,26は、矩形状の形状を有していてもよい。凹部24,26は、例えばザグリ加工によって形成される。もちろん、ザグリ加工以外の手法によって凹部24,26が形成されてもよい。
【0030】
凹部24,26には、インサート部材28が配置されている。インサート部材28は、例えば樹脂によって構成されており、負の線膨張係数を有する部材である。インサート部材28の材料として、例えば、高密度ポリエチレン繊維(例えばダイニーマ(登録商標))やポリアクリレート繊維(例えばベクトラン(登録商標))やアラミド繊維(例えばケブラー(登録商標))等が用いられる。これらの繊維材料は、繊維方向に負の線膨張係数を有する。ダイニーマの線膨張係数(×10−6/℃)は−12であり、ケブラーの線膨張係数は−4である。この繊維材料を巻くことでインサート部材28が成形される。そのようにして成形されたインサート部材28は、温度の低下に伴って、繊維方向に膨張する性質を有する。例えば、温度の低下に伴ってインサート部材28がローター12の内周面に向けて膨張するようにインサート部材28の向きが定められて、インサート部材28が凹部24,26内に配置されている。
【0031】
温度低下に伴って、タービンキャップ14とボトムキャップ16が収縮し、インサート部材28が繊維方向に膨張したときに、インサート部材28が凹部24,26の内周面に接触するように、インサート部材28の大きさと形状が定められる。図1に示す例では、例えば室温(例えば300K)下において、インサート部材28と凹部24,26の内周面との間に若干の隙間が形成されているが、インサート部材28が凹部24,26の内周面に接触して、インサート部材28と凹部24,26の内周面との間に隙間が形成されていなくてもよいし、インサート部材28が凹部24,26の内周面に部分的に接触していてもよい。隙間が形成されている場合であっても、その隙間は、温度低下に伴ってインサート部材28が凹部24,26の内周面に接触する程度の隙間である。
【0032】
上記の構成を有するNMR試料管10は、図示しないNMRプローブのヘッドに設置され、NMRプローブと共に静磁場発生装置のボア内に挿入される。NMRプローブのヘッドには、NMR試料管10を回転させるための試料管回転装置と、送受信コイルを含むNMR検出回路が設置されている。送受信コイルは、ローター12を取り囲むように配置されている。送受信コイルは、高周波磁場を生成し、また、観測対象としての核種からのNMR信号を検出する。
【0033】
NMR試料管10は、気体軸受によって非接触でNMRプローブのヘッドに保持されている。図示しないポンプから供給されたジェット流が、タービンキャップ14に形成された羽根車に吹き付けられ、これによって、NMR試料管10が回転させられる。例えば、固体試料のNMR測定が行われる場合、NMR試料管10の回転軸Oaが静磁場方向に対してマジック角度をもって傾斜され、その角度が維持された状態でNMR試料管10が高速で回転させられる。NMR試料管10が回転させられている状態で、送受信コイルによって高周波磁場が生成され、その後の受信期間において送受信コイルによってNMR信号が検出される。NMR信号を解析することで、分光スペクトルが生成される。例えば、ローター12の直径は、数mm〜数十mm程度、又は、1mm以下である。そのような直径を有するNMR試料管10が、例えば、数〜数十kHzの回転周波数で回転させられる。
【0034】
以下の説明では、円筒状の形状を有するローター12(NMR試料管10)の軸方向をZ1方向と称し、ローター12(NMR試料管10)の周方向をθ1方向と称し、ローター12(NMR試料管10)の回転軸Oaからの半径方向をr1方向と称することとする。
【0035】
以下、図2を参照して、インサート部材28について詳しく説明する。図2は、インサート部材28を示す斜視図である。インサート部材28は、例えば、凹部24,26の形状に適合する形状を有する。例えば、凹部24,26が円筒状の形状を有する場合、円柱状又は円筒状の形状を有するインサート部材28が用いられる。凹部24,26が矩形状の形状を有する場合、矩形状の形状を有するインサート部材28が用いられる。もちろん、凹部24,26が矩形状の形状を有する場合であっても、円柱状又は円筒状の形状を有するインサート部材28が用いられてもよい。
【0036】
ここでは、凹部24,26が円筒状の形状を有するものとする。この場合、円柱状又は円筒状の形状を有するインサート部材28が用いられる。例えば、負の線膨張係数を有する繊維材料30を円柱状に巻くことで、円柱状の形状を有するインサート部材28が成形される。そのようにして成形されたインサート部材28は、温度低下に伴って、円柱の径方向r2に膨張し(矢印A1で示す方向に膨張し)、円柱の軸方向Z2に収縮する(矢印A2で示す方向に収縮する)。つまり、繊維材料30は、温度低下に伴って繊維方向に膨張する性質を有し、周方向θ2に沿って円柱状に巻かれているので、温度低下に伴って繊維材料30が繊維方向(繊維材料30が巻かれている方向)に膨張すると、インサート部材28は、径方向r2に膨張し、軸方向Z2に収縮することとなる。更に換言すると、円柱状のインサート部材28は、側面28aと底面28bを有しており、インサート部材28は側面28aに直交する方向に膨張し、底面28bに直交する方向に収縮する。なお、繊維材料30の巻き方によって、インサート部材28は、円柱状の形状を有していてもよいし、円筒状の形状を有していてもよい。また、インサート部材28は、完全な円柱状又は円筒状の形状を有していなくてもよい。例えば、繊維材料30の巻き方によっては、インサート部材28の表面に多少の凹凸が形成される場合があるが、インサート部材28は、このような形状を有していてもよい。
【0037】
以下、図3を参照して、ボトムキャップ16とインサート部材28について更に詳しく説明する。図3は、ボトムキャップ16とインサート部材28を示す断面図である。
【0038】
ボトムキャップ16は、基部16aと、その基部16aから突出した肉薄部16bとを含む。肉薄部16bは、例えば円筒状の形状を有し、その肉薄部16bの内側に凹部26が形成されている。例えば、径方向r1に沿って肉薄部16bの外側から内側に向けて力が加えられた場合に、肉薄部16bは、内側(矢印Bの方向)に曲げられ、その力が肉薄部16bに加えられていない場合、肉薄部16bは、曲げられる前の状態に戻る。肉薄部16bは、このような弾性力を有している。例えば、肉薄部16bが内側に曲げられ、その状態で、肉薄部16bがローター12の他方端12bに挿入される。挿入後、肉薄部16bは、曲げられる前の状態に戻ろうとするので(外側に広がろうとするので)、肉薄部16bはローター12の内周面に押し当てられる。このようにして、肉薄部16bが、ローター12の他方端12bに隙間無く嵌め込まれる。肉薄部16bの外径は、ローター12の内径よりも若干大きくても、このような取り付け作業によって、ボトムキャップ16が他方端12bに嵌め込まれる。タービンキャップ14も、ボトムキャップ16と同様の構成を有し、ボトムキャップ16と同様の取り付け作業によって、ローター12の一方端12aに嵌め込まれる。
【0039】
インサート部材28は、凹部26内に配置される。円柱状のインサート部材28は、側面28aと底面28bを有しており、その側面28aが肉薄部16bと対向するように、インサート部材28が凹部26内に配置される。つまり、ローター12の軸方向Z1とインサート部材28の軸方向Z2とが互いに平行となるように、インサート部材28が凹部26内に配置される。なお、軸方向Z1と軸方向Z2は互いに完全に平行でなくてもよく、インサート部材28の側面28aが、肉薄部16bと対向していればよい。同様にして、タービンキャップ14に形成された凹部26にも、インサート部材28が配置される。このようにインサート部材28を凹部24,26内に配置することで、繊維材料30はローター12の周方向θ1に沿って巻かれていることになる。
【0040】
また、インサート部材28の直径(径方向r2におけるインサート部材28の幅)は、凹部26の直径(径方向r1における凹部26の幅)よりも小さい。それ故、室温(例えば300K)の下では、インサート部材28を凹部26内に容易に挿入することができる。もちろん、インサート部材28を凹部26内に押し込むことができるのであれば、インサート部材28の直径は、凹部26の直径と等しくてもよいし、凹部26の直径よりも大きくてもよい。
【0041】
凹部26内にインサート部材28が挿入された状態で、ボトムキャップ16の肉薄部16bがローター12の他方端12bに嵌め込まれる。同様に、凹部24内にインサート部材28が挿入された状態で、タービンキャップ14がローター12の一方端12aに嵌め込まれる。
【0042】
NMR試料管10が冷却され、NMR試料管10の温度が低下すると、正の線膨張係数を有するボトムキャップ16は、径方向r1に沿って矢印Bの方向(内側の方向)に収縮する。ボトムキャップ16の凹部26内にインサート部材28が設けられていない場合、その収縮によって、ローター12の内周面と肉薄部16bとの間に隙間が形成され、ボトムキャップ16がローター12から抜け易くなる。タービンキャップ14も同様である。
【0043】
一方、NMR試料管10の温度が低下すると、負の線膨張係数を有するインサート部材28は膨張する。インサート部材28の側面28aが肉薄部16bと対向するように配置されているため、つまり、繊維材料30が周方向θ1に沿って巻かれているため、インサート部材28は、肉薄部16bに向けて膨張する。つまり、インサート部材28は、径方向r1に沿って矢印A1の方向(外側の方向)に膨張する。この膨張によって、ボトムキャップ16の収縮が抑制され、ローター12の内周面と肉薄部16bとの間に隙間が形成され難くなり、ローター12からのボトムキャップ16の抜けが防止される。タービンキャップ14についても同様である。
【0044】
以上のように、第1実施形態によれば、温度の低下に伴ってタービンキャップ14とボトムキャップ16が収縮しても、インサート部材28の膨張によってその収縮を抑制することができるので、タービンキャップ14とボトムキャップ16の抜けを防止することができる。その結果、インサート部材28を用いない場合と比べて、NMR測定の可能な温度を低下させることができる。例えば、20K以下の温度においても、NMR測定を行うことができる。
【0045】
また、インサート部材28は円柱状又は円筒状の部材(例えば塊の部材)であり、肉薄部16bは薄い部材である。それ故、肉薄部16bの収縮によってインサート部材28が外側から内側に押されても、インサート部材28の膨張が肉薄部16bの収縮に勝り、インサート部材28は収縮せずに、肉薄部16bの収縮が抑制される。また、肉薄部16bの厚さやインサート部材28の大きさによっては、インサート部材28の膨張によって肉薄部16bが外側に押されることもあり得る。この場合、インサート部材28によって、肉薄部16bがローター12の内周面に押し付けられ、ボトムキャップ16の密封性が高くなる。タービンキャップ14についても同様である。
【0046】
NMR測定後、NMR試料管10の温度が室温に戻される。インサート部材28の熱変形は可逆的であるため、室温の下では、インサート部材28のサイズは元のサイズ(冷却前の室温時のサイズ)に戻る。従って、インサート部材28が用いられていない場合と同様の力で、タービンキャップ14とボトムキャップ16をローター12から取り外すことができる。このように、NMR試料管10によれば、タービンキャップ14とボトムキャップ16の着脱が容易である。これにより、試料を容易に交換することができる。また、タービンキャップ14とボトムキャップ16の再利用性が高くなる。
【0047】
なお、インサート部材28を凹部24,26から取り外してもよいし、取り外さなくてもよい。
【0048】
(変形例1)
以下、図4を参照して、第1実施形態の変形例1について説明する。図4は、変形例1に係るNMR試料管を示す断面図である。変形例1に係るNMR試料管32には、室温下で、液体試料が収容される。NMR試料管32は、上記のNMR試料管10と同様に、ローター12、タービンキャップ14及びボトムキャップ16を含む。また、タービンキャップ14の凹部24とボトムキャップ16の凹部26には、インサート部材28が配置されている。
【0049】
NMR試料管32においては、ローター12内に、試料容器34とキャップ36が配置されている。試料容器34は、一方端が開口し、他方端が閉じている円筒状の容器である。その一方端にはキャップ36が嵌め込まれている。試料容器34とキャップ36とによって、液体試料用の封入容器が構成される。試料容器34内の空間38には、室温下で、液体試料が封入される。
【0050】
変形例1においても、上記の第1実施形態と同様に、温度の低下に伴ってタービンキャップ14とボトムキャップ16が収縮しても、インサート部材28の膨張によってその収縮を抑制することができるので、タービンキャップ14とボトムキャップ16の抜けを防止することができる。
【0051】
液体試料として、例えば、温度の低下に伴って凝固する試料が用いられる。例えば、その試料は、室温下で液体の性質を有し、低温下で固体の性質を有してもよいし、低温下で固体と液体との間の性質を有してもよい。
【0052】
(変形例2)
変形例2では、試料容器34とキャップ36を用いずに、室温下で液体の性質を有する試料が、図1に示されているNMR試料管10に収容される。インサート部材28を構成する繊維材料は、液体を吸収しやすい性質を有する。試料容器34とキャップ36を用いない場合、液体の性質を有する試料が、インサート部材28によって吸収される可能性がある。これを防ぐために、変形例2に係るインサート部材28は、樹脂によってコーティングされている。こうすることで、インサート部材28による液体試料の吸収が防止される。
【0053】
<第2実施形態>
以下、図5から図8を参照して、第2実施形態に係るNMR試料管について説明する。図5は、ローターを示す断面図である。図6は、第2実施形態に係るタービンキャップを示す断面図である。図7は、第2実施形態に係るボトムキャップを示す断面図である。図8は、インサート部材を示す断面図である。図5に示すように、第2実施形態に係るローター12は、第1実施形態に係るローター12と同じ構成を有する。また、図8に示すように、第2実施形態に係るインサート部材28は、第1実施形態に係るインサート部材28と同じ構成を有する。また、各部の材料は、第1実施形態に係る各部の材料と同じである。
【0054】
図6を参照して、第2実施形態に係るタービンキャップ40について詳しく説明する。タービンキャップ40は、基部40aと、その基部40aから突出した肉薄部40bとを含む。肉薄部40bは、概ね円筒状の形状を有し、その肉薄部40bの内側に凹部42が形成されている。また、肉薄部40bの外周面40cは、外側に向けて突起している。例えば、基部40aに直交する方向を基準として、外周面40cは、基部40aから離れるにつれて、肉薄部40bの外側に向けて傾斜し、その途中から内側に向けて傾斜し、その後の位置では、基部40aに直交している。なお、タービンキャップ40には、第1実施形態に係るタービンキャップ14と同様に、羽根車が形成されている。
【0055】
図7を参照して、第2実施形態に係るボトムキャップ44について詳しく説明する。ボトムキャップ44は、基部44aと、その基部44aから突出した肉薄部44bとを含む。肉薄部44bは、概ね円筒状の形状を有し、その肉薄部44bの内側に凹部46が形成されている。また、肉薄部44bの外周面44cは、外側に向けて突起している。例えば、基部44aに直交する方向を基準として、外周面44cは、基部44aから離れるにつれて、肉薄部44bの外側に向けて傾斜し、その途中から内側に向けて傾斜し、その後の位置では、基部44aに直交している。
【0056】
ここで、各部のサイズを定義する。図5に示すように、内径R1は、ローター12の内径(直径)である。外径D1は、ローター12の外径(直径)である。
【0057】
図6に示すように、内径R2は、肉薄部40bの内径(直径)、つまり、凹部42の径方向r1の幅である。外径D2,D3は、肉薄部40bの外径(直径)である。外径D2は、外周面40cにおいて外側に向けて突起していない部分の外径である。外径D3は、外周面40cにおいて最も突起している部分の外径である。長さL1は、基部40aを基準としたときの肉薄部40bの全体の高さに相当する。長さL1は、凹部42の深さに相当する。長さL2は、基部40aから、外周面40cにおいて最も突起している部分までの距離に相当する。
【0058】
図7に示すように、内径R2は、肉薄部44bの内径(直径)、つまり、凹部46の径方向r1の幅である。外径D2,D3は、肉薄部44bの外径(直径)である。外径D2は、外周面44cにおいて外側に向けて突起していない部分の外径である。外径D3は、外周面44cにおいて最も突起している部分の外径である。長さL1は、基部44aを基準としたときの肉薄部44bの全体の高さに相当する。また、長さL1は、凹部46の深さに相当する。長さL2は、基部44aから、外周面44cにおいて最も突起している部分までの距離に相当する。
【0059】
図8に示すように、径D4は、円柱状のインサート部材28の直径、つまり、径方向r2の幅である。長さL3は、インサート部材28の高さ、つまり、軸方向Z2の幅である。
【0060】
以下に、各部のサイズの一例を示す。
外径D1:3.20mm
外径D2:2.19mm
外径D3:2.23〜2.26mm
径D4:1.60mm
内径R1:2.21mm
内径R2:1.60mm
長さL1:2.5mm
長さL2:1.0mm
長さL3:2.4mm
【0061】
タービンキャップ40とボトムキャップ44の外径D3は、ローター12の内径R1よりも大きくてもよい。この場合も、第1実施形態と同様に、肉薄部40b,44bを内側に押し曲げることで、タービンキャップ40とボトムキャップ44をローター12に嵌め込むことができる。
【0062】
例えば、図9に示すように、ボトムキャップ44の肉薄部44bを内側に押し曲げることで、ボトムキャップ44がローター12の他方端12bに挿入される。肉薄部44bは、ローター12内において、曲げられる前の状態に戻ろうとするので(外側に広がろうとするので)、肉薄部44bにおいて突起している部分がローター12の内周面に押し当てられる。このようにして、ボトムキャップ44がローター12の他方端12bに嵌め込まれる。つまり、肉薄部44bにおいて、ローター12の内周面に対向する外周面44cが、ローター12の内周面に向けて突起した形状を有し、その突起している部分がローター12の内周面に押し当てられることで、ボトムキャップ44がローター12の他方端12bに嵌め込まれる。タービンキャップ40も同様にしてローター12の一方端12aに挿入され、肉薄部40bにおいて突起している部分がローター12の内周面に押し当てられ、これによって、タービンキャップ40がローター12の一方端12aに嵌め込まれる。
【0063】
図10に示すように、インサート部材28は、ボトムキャップ44の凹部46内において、少なくとも外周面44cの最も突起している部分に対応する位置に配置されている。例えば、長さL2以上の長さL3を有するインサート部材28が用いられる。そのような長さL3を有するインサート部材28が凹部46内に配置されることで、外周面44cの最も突起している部分に対応する位置に、インサート部材28が配置される。
【0064】
図11に示すように、温度の低下に伴って、肉薄部44bが内側に(矢印Cの方向に)収縮しても、インサート部材28が外側に(矢印Dの方向に)膨張して、肉薄部44bを内側から外側に押す。このように、肉薄部44bの収縮が抑制されるので、肉薄部44bにおいて最も突起している部分は、ローター12の内周面に押し当てられ、その結果、ボトムキャップ44の抜けを防止することができる。タービンキャップ40についても同様である。
【0065】
以下、図12を参照して、ローター12の内径R1と、タービンキャップ40又はボトムキャップ44の外径D3との関係について説明する。図12には、温度変化に伴う内径R1と外径D3との間の定性的な関係を示すグラフが示されている。横軸は温度T(K)を示し、縦軸は径の大きさを示す。
【0066】
破線48は、ローター12の内径R1を示す。実線50は、インサート部材28が用いられていない場合の外径D3を示す。実線52,54は、インサート部材28が用いられている場合の外径D3を示す。温度の低下に伴って、ローター12、タービンキャップ40及びボトムキャップ44は収縮する。従って、破線48で示すように、内径R1は、温度の低下に伴って小さくなる。また、実線50,52,54で示すように、外径D3は、温度の低下に伴って小さくなる。インサート部材28が用いられていない場合、実線50で示すように、外径D3が内径R1よりも小さくなり、その結果、タービンキャップ40とボトムキャップ44がローター12から抜ける。一方、インサート部材28が用いられている場合、実線52,54で示すように、外径D3が内径R1よりも小さくならず、その結果、タービンキャップ40とボトムキャップ44の抜けを防止することができる。また、インサート部材28に用いられる繊維材料の線膨張係数によっては、実線52,54で示すように、外径D3の変化に差が生じる。例えば、繊維材料の線膨張係数によっては、実線54で示すように、温度の低下に伴って、外径D3の収縮が抑制され、更に、外径D3が膨張する場合がある。この場合、肉薄部40b,44bをローター12の内周面に押し付ける力がより強くなるため、タービンキャップ40とボトムキャップ44がより抜け難くなる。
【0067】
なお、温度の低下に伴って、ローター12の内周面とタービンキャップ40の肉薄部40bとの間の摩擦係数が低下すると考えられる。ローター12の内周面と肉薄部40bとの間の摩擦によっては、外径D3が内径R1よりも大きい場合であっても、ローター12からタービンキャップ40が抜ける可能性がある。そのような場合であっても、インサート部材28の膨張によって肉薄部40bがローター12の内周面に押し付けられることで、タービンキャップ40がローター12に強固に嵌め込まれ、ローター12からのタービンキャップ40の抜けを防止することができる。ボトムキャップ44についても同様である。また、第1実施形態に係るNMR試料管10においても同様である。
【0068】
<比較例>
以下、第1及び第2実施形態に対する比較例について説明する。
【0069】
図13には、比較例1に係るNMR試料管100が示されている。NMR試料管100は、第1実施形態に係るNMR試料管10と同様に、タービンキャップ14に凹部24が形成され、ボトムキャップ16に凹部26が形成されている。凹部24は、タービンキャップ14をローター12に圧入するときの力を軽減するために形成されている。同様に、凹部26は、ボトムキャップ16をローター12に圧入するときの力を軽減するために形成されている。タービンキャップ14とボトムキャップ16は正の線膨張係数を有する部材である。比較例1では、インサート部材28が用いられない。つまり、凹部24,26内には、インサート部材28が設置されていない。従って、温度の低下に伴って、タービンキャップ14とボトムキャップ16が収縮してローター12から抜けてしまう。
【0070】
図14には、比較例2に係るNMR試料管110が示されている。比較例2では、タービンキャップ14の代わりにタービンキャップ112が用いられ、ボトムキャップ16の代わりにボトムキャップ114が用いられる。タービンキャップ112とボトムキャップ114には、凹部は形成されていない。タービンキャップ112とボトムキャップ114は正の線膨張係数を有する部材である。また、比較例2では、インサート部材28が用いられない。比較例2においても、温度の低下に伴って、タービンキャップ112とボトムキャップ114が収縮してローター12から抜けてしまう。なお、タービンキャップ112とボトムキャップ114のそれぞれの径を大きくすることで、タービンキャップ112とボトムキャップ114をローター12に対してより強く嵌め合わせることができるが、温度の低下に伴ってタービンキャップ112とボトムキャップ114が収縮するので、タービンキャップ112とボトムキャップ114がローター12から抜けてしまう。
【0071】
図15には、比較例3に係るNMR試料管120が示されている。比較例3に係るNMR試料管120は、変形例1に係るNMR試料管32と同様に、試料容器34とキャップ36を含む。また、タービンキャップ14に凹部24が形成され、ボトムキャップ16に凹部26が形成されているが、インサート部材28は、凹部24,26内に設置されていない。従って、温度の低下に伴って、タービンキャップ14とボトムキャップ16が収縮してローター12から抜けてしまう。
【0072】
以上のように、比較例1−3では、インサート部材が用いられていないので、タービンキャップとボトムキャップがローターから抜けてしまうが、第1及び第2実施形態のように、インサート部材を用いることで、タービンキャップとボトムキャップの抜けを防止することができる。第1及び第2実施形態によれば、比較例1−3と比べて、より低い温度でもタービンキャップとボトムキャップの抜けを防止することができるので、より低い温度にてNMR測定を行うことができる。例えば、20K以下の温度域でもNMR測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
10,32 NMR試料管、12 ローター、14,40 タービンキャップ、16,44 ボトムキャップ、24,26 凹部、28 インサート部材、30 繊維材料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15