特許第6752105号(P6752105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6752105容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752105
(24)【登録日】2020年8月20日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20200831BHJP
【FI】
   A23L7/10 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-209677(P2016-209677)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-68160(P2018-68160A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年4月19日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔掲載年月日〕平成28年4月27日 〔掲載アドレス〕http://c.saladclub.jp/company/pdf/release_20160427.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔掲載年月日〕平成28年7月 〔掲載アドレス〕https://www.kewpie.co.jp/prouse/products/detail.php?p_cd=0018005
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久 一治
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−039938(JP,A)
【文献】 特開昭57−159454(JP,A)
【文献】 特開平07−255394(JP,A)
【文献】 特開2016−140278(JP,A)
【文献】 ウェブサイト「Diet Magazine」に2015年8月8日付けで掲載された記事「キヌアの1番簡単な茹で方は?便利な冷凍保存方法も紹介!」,2015年 8月 8日,[オンライン], [検索日: 2020.02.21],URL,https://dietmagazine.net/283.html
【文献】 岩手県工業技術センター研究報告,1999年,6,p.161-162
【文献】 ORGANIC PRESSが運営するレシピサイトの2014年4月25日付け記事「キヌアの茹で方・炊き方」,2014年 4月25日,[オンライン], [検索日: 2020.02.21],URL,https://recipe.organic-press.com/recipe_49/
【文献】 ウェブサイト「Lourand」の2016年10月17日付け記事「キヌア、アマランサス、カニワの違いとは?」,2014年10月17日,[オンライン], [検索日: 2020.02.21],URL,https://lourand.com/magazine/difference-of-quinoa-amaranthus-kaniwa/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L5/40−9/20,31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キヌア及び/又はアマランサスの水分量が45〜60%である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法であって、
カルシウム塩含有水溶液中のカルシウム塩濃度がカルシウムイオン換算で0.2〜3%で
あり、
キヌア及び/又はアマランサスをカルシウム塩含有水溶液で加熱する工程を含
前記加熱する工程とは別に、さらにキヌア及び/又はアマランサスを100℃以上で加熱
する工程を含む、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法。
【請求項2】
請求項記載の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法において

カルシウム塩含有水溶液中でのキヌア及び/又はアマランサスの加熱温度が50℃〜90
℃である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法。
【請求項3】
キヌア及び/又はアマランサスの水分含量が45〜60%であり、
キヌア及び/又はアマランサス全量に占める殻が外れたキヌア及び/又はアマランサスの
個数の割合が25%以下である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有レトルト穀物食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開封後加熱調理することなく、そのままサラダ等にトッピングできる容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キヌア及びアマランサスは穀物の一種であり、そのプチプチとした食感と、栄養価の高さから近年注目を浴びている穀物である。
一方、キヌア及びアマランサスは、そのままでは硬く喫食することが困難であるため、他の穀物同様に熱水等で加熱処理し、適度な食感に調整した後、喫食されている。
しかし、キヌア及びアマランサスは殻を有しているため、熱水等で加熱すると殻が外れてしまい、外観や食感を損なう問題があった。
【0003】
特許文献1には、お湯で戻したとき、穀物の粒同士の分離が良く、良好な食感及び風味の大麦・雑穀含有穀物加工食品の製造方法が記載されている。しかし、キヌア及びアマランサスの殻外れの抑制という視点はなく、解決する方法はいままで提案されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−117950
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、開封後そのままの状態で喫食できるまで加熱処理等がされているにもかかわらず、キヌア及び/又はアマランサスの殻外れが少なく、サラダ等にトッピングした際に、優れた外観、食感を呈する容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、キヌア及び/又はアマランサスを熱水で加熱処理する際に、カルシウム塩を含有する水溶液で加熱し、かつキヌア及び/又はアマランサスの水分量を調整することにより、殻外れが抑制でき、優れた外観、食感を有する容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)キヌア及び/又はアマランサスの水分量が45〜60%である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法であって、
キヌア及び/又はアマランサスをカルシウム塩含有水溶液で加熱する工程を含む、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法、
(2)(1)に記載の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法において、
カルシウム塩含有水溶液中のカルシウム塩濃度がカルシウムイオン換算で0.2〜3%である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法、
(3)(1)又は(2)に記載の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法において、
カルシウム塩含有水溶液中でのキヌア及び/又はアマランサスの加熱温度が50℃〜90℃である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法、
(4)(3)に記載の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法において、
キヌア及び/又はアマランサスを、さらに100℃以上で加熱する工程を含む、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法、
(5)キヌア及び/又はアマランサスの水分含量が45〜60%であり、
キヌア及び/又はアマランサス全量に占める殻が外れたキヌア及び/又はアマランサスの個数の割合が25%以下である、
容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、開封後そのままの状態で喫食できるまで加熱処理等がされているにもかかわらず、キヌア及び/又はアマランサスの殻外れが少なく、サラダ等にトッピングした際に、優れた外観、食感を呈する容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
<キヌア及び/又はアマランサス>
本発明で用いるキヌアは、ペルーやボリビア周辺に生息するヒユ科の植物であり、キノアとも呼ばれている。一方、アマランサスは南米を主な原産国とするヒユ科の植物であり、キヌアとともに擬似穀物と称されている。
本発明で原料として用いるキヌア及び/又はアマランサスは、一般的に市販されている殻付きのものを適宜用いることができる。
【0011】
<カルシウム塩>
本発明で用いるカルシウム塩は、一般的に食品製造に用いることができるものであれば特に限定しないが、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム等の無機のカルシウム塩、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等の有機のカルシウム塩が挙げられる。中でも、経済的な観点から、塩化カルシウムを用いるとよい。
【0012】
<容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法>
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法は、
キヌア及び/又はアマランサスをカルシウム塩含有水溶液で加熱する工程を含み、前記容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれるキヌア及び/又はアマランサスの水分量が45〜60%である。
【0013】
<カルシウム塩含有水溶液中のカルシウム塩濃度>
カルシウム塩含有水溶液中のカルシウム塩濃度は特に限定していないが、キヌア及び/又はアマランサスの殻外れを防止し、優れた外観の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品が得られやすいため、カルシウムイオン換算で0.2%以上であるとよく、さらに0.3%以上であるとよく、0.5%以上であるとよりよい。
また、カルシウム塩濃度の上限値は、濃度に応じた効果が得られ難い観点から、3%以下であるとよく、さらに2%以下であるとよく、1%以下であるとよりよい。
【0014】
<カルシウム塩含有水溶液の加熱条件>
キヌア及び/又はアマランサスを、カルシウム塩含有水溶液で加熱する際の加熱温度は、特に限定していないが、殻外れの少ない優れた外観、食感の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を調製しやすいため、50〜90℃であるとよく、さらに60〜80℃であるとよい。
また、加熱時間は、キヌア及び/又はアマランサスの水分量が後述の範囲に入るように、適宜調整することができるが、例えば、前記温度範囲に達温後1〜30分加熱することができ、さらに3〜20分加熱することができる。
【0015】
<その他工程>
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法は、キヌア及び/又はアマランサスをカルシウム塩含有水溶液で加熱する工程を含み、容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれるキヌア及び/又はアマランサスの水分量を45〜60%とする以外に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜その他の工程を取ることができる。
例えば、カルシウム塩含有水溶液で加熱後のキヌア及び/又はアマランサスを、水切り後、冷水で冷却する工程や、清水に浸漬させる工程、キヌア及び/又はアマランサス以外の穀物や、その他原料と混合する工程、容器に充填密封したキヌア及び/又はアマランサスを加熱殺菌する工程等が挙げられる。
特に、キヌア及び/又はアマランサスに付着したカルシウム塩を十分に除去し、塩味を抑えるために、加熱後のキヌア及び/又はアマランサスを、水切り後、清水に浸漬させる工程を行うとよい。
【0016】
また、本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品の製造方法は、前記キヌア及び/又はアマランサスをカルシウム塩含有水溶液で加熱する工程とは別に、キヌア及び/又はアマランサスを100℃以上、とくに110℃以上で加熱する工程を取るとよい。キヌア及び/又はアマランサスを前記温度で加熱することにより、食感に優れたキヌアがより得られやすくなる。
前記キヌア及び/又はアマランサスを100℃以上で加熱する工程を行うタイミングは特に限定していないが、キヌア及び/又はアマランサスの水分量を45〜60%に調整した後に行うとよく、さらには、前記水分量を調整したキヌア及び/又はアマランサスを容器に充填後、実質的に水を含有しない環境下で加熱するとよい。
なお、実質的に水を含有しない環境下とは、キヌア及び/又はアマランサスの表面に付着したわずかな水分以外は、容器内に水を含む液体原料を含まない状態を意味する。
【0017】
<容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品>
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品とは、キヌア及び/又はアマランサスを含有する穀物主体の容器入り食品であり、開封後、加熱等の処理をすることなく、そのままの状態で喫食することができるものである。
また、本発明において、穀物とは、白米以外の穀物を指し、例えば、玄米、発芽玄米、赤米、黒米、きび、粟、稗、小麦、大麦、ライ麦、トウモロコシ等のイネ科の穀物や、大豆、小豆、緑豆、ササゲ、インゲンマメ、ひよこ豆等のマメ科の穀物、その他、蕎麦、キヌア、アマランサス等のいわゆる擬似穀物等が挙げられる。
【0018】
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれる穀物の割合は、50%以上であるとよく、70%以上であるとよく、さらに90%以上であるとよい。
また、前記穀物に含まれるキヌア及び/又はアマランサスの割合は、10%以上であるとよく、30%以上であるとよく、さらに70%以上であるとよい。
【0019】
<殻外れのキヌア及び/又はアマランサスの割合>
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品は、前記キヌア及び/又はアマランサス全量に占める殻が外れたキヌア及び/又はアマランサスの個数の割合が25%以下であり、20%以下であるとよく、さらに15%以下であるとよりよい。前記キヌア及び/又はアマランサスの殻外れの割合を少なくすることにより、優れた外観を呈することができる。
殻外れの割合を測定する方法は、容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれるキヌア及び/又はアマランサスを無作為に10g取り出し、その内の殻が外れたものの個数を測定することで割合を計算すればよい。
【0020】
<キヌア及び/又はアマランサスの水分量>
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれるキヌア及び/又はアマランサスの水分量は45〜60%であり、47〜58%であるとよく、さらに47〜55%であるとよりよい。水分量が前記範囲より多い場合、殻外れが多くなり外観が悪くなる。また、水分量が前記範囲より少ない場合、キヌア及び/又はアマランサスが硬く、喫食に適していない。
なお、豆類の水分含量は常圧加熱乾燥法等の方法によって測定することができる。
【0021】
<容器>
本発明の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に用いる容器は、特に限定しないが、レトルト殺菌可能な耐熱性容器であるとよい。
【0022】
以下、本発明について、実施例、比較例及び試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
キヌア1kgを、塩化カルシウム濃度1.7%(カルシウムイオン換算で0.6%)の水溶液に投入した後、70℃まで15分かけて加熱した後、70℃で3分間加熱した。その後、水切りし、キヌアを15℃の冷水で15分間水さらしを行った後、再度水切りを行った。次いで、キヌアをレトルトパウチに充填し、密封後、117℃で43分間加熱を行い、実施例1の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を調製した。容器に充填入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれるキヌアの水分量は53%であった。
【0024】
[試験例1]
カルシウム塩含有水溶液のカルシウム塩濃度がキヌアの食感、外観に与える影響を検討するため、塩化カルシウム濃度を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2及び3、比較例1の容器入りキヌア含有穀物食品を調製した。
【0025】
次に、実施例1乃至3、比較例1の容器入りキヌア含有穀物食品に含まれるキヌアをランダムに10g取り出し、殻外れの割合を測定した。また、下記の評価基準により外観、食感を評価した。
【0026】
<評価基準>
[外観]
○:殻外れが少なく、見栄えが良い。
△:殻外れがやや多いが、見栄えは特に気にならない。
×:殻外れが多く、見栄えが悪い。
[食感]
○:プチプチとした食感が感じられる。
△:プチプチとした食感がやや感じられる。
×:プチプチとした食感があまり感じられない。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、塩化カルシウムを含有しない比較例1においては、殻外れの割合が多く、キヌアの見栄えが悪かった。一方、塩化カルシウムを含有する実施例1乃至3、特に塩化カルシウム濃度が1%以上の実施例1及び3においては、殻外れが抑制されており、見栄えの良い外観であった。
【0029】
[試験例2]
次に、キヌアの水分量が食感、外観に与える影響を検討するため、実施例1の塩化カルシウム水溶液での加熱時間を調整することで、容器に充填されたキヌアの水分量を表2の通りに変更した実施例4乃至7、比較例2乃至4の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を調製した。
【0030】
次に、試験例1の方法に従い、実施例1、4乃至7、比較例2乃至4の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品に含まれるキヌアの殻外れの割合を測定した。また、下記の評価基準により外観、食感を評価した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2より、容器に充填時のキヌアの水分含量を45〜60%、特に47〜58%、さらに47〜55%に調整することにより、外観、食感ともに優れたキヌアが得られることがわかる。
【0033】
[実施例8]
キヌア全量をアマランサスに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例8の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を製造した。
【0034】
[実施例9]
塩化カルシウムをカルシウムイオン換算量として同量の乳酸カルシウムに変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例9の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を製造した。
【0035】
得られた実施例8及び9の容器入りキヌア及び/又はアマランサス含有穀物食品を試験例1と同じ基準で評価した結果、外観、食感ともに優れたものであった。