特許第6752507号(P6752507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6752507
(24)【登録日】2020年8月21日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】光反応性モノマー及び重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/34 20060101AFI20200831BHJP
   C08F 20/60 20060101ALI20200831BHJP
   C08F 20/62 20060101ALI20200831BHJP
   C08F 20/70 20060101ALI20200831BHJP
   C07C 247/16 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C08F20/34
   C08F20/60
   C08F20/62
   C08F20/70
   C07C247/16CSP
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-72995(P2016-72995)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179289(P2017-179289A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茉由加
(72)【発明者】
【氏名】東郷 英一
(72)【発明者】
【氏名】常藤 透朗
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗宣
(72)【発明者】
【氏名】潮崎 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】貴志 礼文
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102140075(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102964546(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103130958(CN,A)
【文献】 特開昭56−139515(JP,A)
【文献】 特開2010−059346(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103408692(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C07C247/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される光反応性モノマー。
【化1】
(式中、Zは−O−又は−N(R)−で示される基を表し、Aは−O−で示される基を表し、R及びRは互いに独立して水素原子又はC〜Cの炭化水素基を表し、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表し、Rはフッ素原子を表し、nは0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
記一般式(2)で示される光反応性モノマー。
【化2】
(式中、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
下記一般式(3)で示される繰り返し単位を含む重合体。
【化3】
(式中、Zは−O−又は−N(R)−で示される基を表し、Aは−O−で示される基を表し、R及びRは互いに独立して水素原子又はC〜Cの炭化水素基を表し、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表し、Rはフッ素原子を表し、nは0〜4の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に機能を付与することが可能な光反応性ポリマーの原料として利用することが可能なモノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族アジド基を光反応性基として用いることは一般的に知られている(特許文献1参照)。しかし、上記特許文献で開示されている芳香族アジド基は光反応性が低く、高強度かつ比較的長時間の紫外線照射が必要であり、基材が紫外線に弱い場合、紫外線照射により基材がダメージを受けるといった問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−59346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、基材へのダメージを少なくすることが可能な、光反応性に優れたポリマーの製造を可能にする光反応性の高い新規なモノマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、一般式(1)で示される光反応性モノマーを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]下記一般式(1)で示される光反応性モノマー。
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、Zは−O−又は−N(R)−で示される基を表し、Aは−O−又は−CH−で示される基を表し、R及びRは互いに独立して水素原子又はC〜Cの炭化水素基を表し、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表し、Rはフッ素原子を表し、nは0〜4の整数を表す。)
[2]
一般式(1)が下記一般式(2)で示される光反応性モノマー。
【0009】
【化2】
【0010】
(式中、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表す。)
[3]下記一般式(3)で示される繰り返し単位を含む重合体。
【0011】
【化3】
【0012】

(3)(式中、Zは−O−又は−N(R)−で示される基を表し、Aは−O−又は−CH−で示される基を表し、R及びRは互いに独立して水素原子又はC〜Cの炭化水素基を表し、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表し、Rはフッ素原子を表し、nは0〜4の整数を表す。)
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
及びRは互いに独立して水素原子またはC〜Cの炭化水素基であり、それらの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられる。光反応性が高い点で、Rはメチル基が好ましく、Rは水素原子が好ましい。
【0014】
はC〜Cの2価の炭化水素基であり、それらの例としては、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、フェニレン基等が挙げられる。また好ましい光反応性モノマーとしては、一般式(4)に示すモノマーが挙げられる。
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、RはC〜Cの2価の炭化水素基を表す)
一般式(1)で示される光反応性モノマーの例としては、(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)メタクリレート、(4−(4−アジドフェノキシ)ブチル)メタクリレート、(5−(4−アジドフェノキシ)ペンチル)メタクリレート、(6−(4−アジドフェノキシ)ヘキシル)メタクリレート、(3−(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)プロピル)メタクリレート、(4−(4−アジドフェニル)ブチル)メタクリレート、(4−(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)ブチル)メタクリレート、(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)アクリレート、(4−(4−アジドフェニル)ブチル)アクリレート、(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)メタクリルアミド、(3−(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)プロピル)メタクリルアミド、(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)アクリルアミド、(4−(4−アジドフェニル)ブチル)メタクリルアミド、(4−(4−アジドフェニル)ブチル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(1)で示される光反応性モノマーの製造方法は特に限定はなく、公知の反応を組み合わせて製造することができる。例えば、下記スキームにより製造することができる。
【0018】
【表1】
【0019】
(式中、R、R、R、A、Z及びnは前記と同じ意味を表す。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
工程−1は、ハロベンゼン誘導体(4)をアジド化剤と反応させて、アジドベンゼン誘導体(5)を製造する工程である。
【0020】
工程−1の原料であるハロベンゼン誘導体(4)は、文献記載の方法(特開2013−10750号公報)で調製することができる。
【0021】
工程−1で用いることのできるアジド化剤としては、アジ化ナトリウム−ヨウ化銅、アジ化ナトリウム−N,N’−ジメチルエチレンジアミン−ヨウ化銅−(S)−アスコルビン酸ナトリウム、アジ化ナトリウム−水酸化ナトリウム−ヨウ化銅−プロリン、アジ化ナトリウム−ジイソプロピルアミン−銅−プロリン、アジ化ナトリウム−N,N’−ジメチルエチレンジアミン−ヨウ化銅等を例示することができる。
【0022】
工程−1は、反応を阻害しない溶媒であれば溶媒中で行なってもよい。本工程で用いることのできる溶媒として、具体的には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、へプタン、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、水等を例示することができ、これらの溶媒の中から2種類以上を混合して用いてもよい。
【0023】
工程−1の反応温度は、−78℃から180℃の範囲から適宜選ばれた温度で行なうことができる。本発明において中でも収率が良い点で室温から150℃の範囲が好ましい。
【0024】
工程−1は収率の点から、不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。本発明において用いることが出来る不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンなどの希ガスや窒素ガスなどを例示することが出来、窒素ガスまたはアルゴンが好ましい。
【0025】
工程−1で得られるアジドベンゼン誘導体(5)は、必要に応じて反応終了後、反応溶液から精製することができる。精製する方法には特に限定は無いが、溶媒抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、薄層分取クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー、再結晶または昇華等の汎用的な方法で目的物を精製することができる。
【0026】
工程−2は、アジドベンゼン誘導体(5)とアクリル酸誘導体(6)を縮合剤及び塩基存在下反応させて、本発明の一般式(1)で示される光反応性モノマーを製造する工程である。
【0027】
工程−2の原料であるアクリル酸誘導体(6)は、一部は市販されているが、文献記載の方法(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2008年,18巻,6568−6572頁)で調製することができる。
【0028】
工程−2で用いることのできる縮合剤としては、シアノリン酸ジエチル(DEPC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,3−ジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、クロロ炭酸エステル類、ヨウ化2−クロロ−1−メチルピリジニウム等を例示することができる。
【0029】
工程−2で用いることのできる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基類、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸塩類、カリウム−t−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド類、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の第三級アミン類、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物等を例示することができる。
【0030】
工程−2は、反応を阻害しない溶媒であれば溶媒中で行なってもよい。本工程で用いることのできる溶媒として、具体的には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、へプタン、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等を例示することができ、これらの溶媒の中から2種類以上を混合して用いてもよい。
【0031】
工程−2は収率を向上させるため、不活性ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。用いることが出来る不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンなどの希ガスや窒素ガスなどを例示することが出来る。例示として窒素ガスまたはアルゴンが好ましい。
【0032】
工程−2の反応温度は、−78℃から150℃の範囲から適宜選ばれた温度で行なうことができる。中でも収率が良い点で室温から120℃の範囲が好ましい。
【0033】
工程−2で得られる本発明の一般式(1)で示される光反応性モノマーは、必要に応じて反応終了後、反応溶液から精製することができる。精製する方法には特に限定は無いが、溶媒抽出、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、薄層分取クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー、再結晶または昇華等の汎用的な方法で目的物を精製することができる。
【0034】
一般式(1)で表される光反応性モノマーを重合して、一般式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体を製造する際、公知の方法を用いて重合できるが、なかでもラジカル重合を用いると簡便に且つ効率よく重合体を得ることができる。より具体的なラジカル重合法として、フリーラジカル重合を利用したバルク重合、溶液重合、乳化重合などの公知の方法をあげることができる。ラジカル重合をより効率よく開始させるために、任意の量のラジカル開始剤を添加できる。
【0035】
反応に好適に用いられるラジカル開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物を例示でき、重合促進剤と呼ばれるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルパラトルイジンなどのアミン化合物と組み合わせて用いることによって低温で迅速な重合が可能である。さらに、ラジカル開始剤としてジラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物、またα,α−アゾビスイソブチロニトリルやアゾビスシクロヘキサンカルボニトリルなどのアゾ化合物を例示することができる。
【0036】
また、公知のリビングラジカル重合法を用いることも可能であり、例えばニトロキシド媒介ラジカル重合、原子移動ラジカル重合、可逆的付加−解裂連鎖移動重合、二硫化炭素−ホスフィン錯体を用いた連鎖移動重合などを利用することができる。これらの重合法の詳細については株式会社エヌ・ティー・エス発行、“ラジカル重合ハンドブック”、p.161〜225(2010年)を参照すると良い。
【0037】
ラジカル重合反応に利用できる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、ヘキサノール、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピコリン等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒を二種以上混合して用いることもできる。反応は通常0℃〜150℃の範囲内で円滑に進行する。
【0038】
一般式(1)で表される光反応性モノマーを重合する際、ラジカル重合が可能な他のビニルモノマーと任意の割合で混合してランダム共重合することが可能である。このとき用いることのできるビニルモノマーとしては、ラジカル共重合できれば特に制限はないが、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート、メタクリル酸、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、NIPAAM、N’−[3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ビニルアセテート、スチレン、クロロメチルスチレン、2−ビニルピリジン、アクリロニトリルなどを例示できる。これらのラジカル共重合法の詳細については株式会社エヌ・ティー・エス発行、“ラジカル重合ハンドブック”、p.242〜333(2010年)を参照すると良い。
【0039】
一般式(1)で表される光反応性モノマーを重合して、一般式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体を製造する際、前述のラジカル重合以外にもカチオン重合などによっても該重合体(3)を製造可能である。反応に用いることのできるカチオン重合開始剤としては、塩化水素、臭化水素、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、クロロスルホン酸、過塩素酸などのプロトン酸や、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化錫、塩化第二鉄、臭化第二鉄、エチル二塩化アルミニウムなどのルイス酸と先に挙げたプロトン酸や水、アルコール、ハロゲン化アルキル、エーテルなどのカチオン源との組み合わせを用いることができる。また、公知のスルホニウム塩やヨードニウム塩などの光酸発生剤なども用いることができる。カチオン重合反応に利用できる溶媒としては、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒を二種以上混合して用いることもできる。
【0040】
反応は通常、−100℃〜50℃の範囲内で円滑に進行する。カチオン重合法の詳細については共立出版株式会社発行、“新高分子実験学2 高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成”、p.237〜276(1995年)を参照すると良い。
【0041】
一般式(3)で表される繰り返し単位を含む重合体の分子量に特に制限はなく、重合体の分子量としては重量平均分子量、数平均分子量、粘度平均分子量など測定方法に応じて用いることができる。重量平均分子量(Mw)に関しては1,000〜1,000,000であることが好ましく、重合体の性質の制御および加工性などの観点から5,000〜500,000であることがさらに好ましい。分子量分布(PD)に特に制限はないが、概ね1〜20の範囲であることが好ましく、重合体の均一性の観点から1〜5の範囲であることがさらに好ましい。分子量の算出方法として、ポリスチレンやポリエチレングリコールなどの標準試料を基準に換算するゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)法、粘度法、光散乱法など公知の方法をあげることができる。基材表面にグラフト重合した場合は重合体の分子量を直接求めることが困難であるが、例えば基材表面の反応点の密度と重合転化率からグラフト鎖の数平均分子量(Mn)を見積もることができる。
【0042】
本発明の一般式(1)で示される光反応性モノマーは、基材表面に機能を付与することが可能な光反応性ポリマーの原料として利用可能であり、高い光反応性を活かして基材にダメージを与えることなく基材表面への機能付与が可能となる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、光反応性の高い新規なモノマー化合物を提供することができる。
【0044】
本発明の光反応性モノマーは光反応性が高いため、該光反応性モノマーを重合させた光反応性ポリマーも光反応性に優れ、基材へのダメージを抑えて基材表面の機能化を行うことができる。
本発明の一般式(1)で示される光反応性モノマーは、基材表面に機能を付与することが可能な光反応性ポリマーの原料として利用できる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を更に詳細に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、一般式(1)で示される光反応性モノマーの同定および重合体(3)の分子量測定は以下の方法で行った。
【0046】
(1)一般式(1)で示される光反応性モノマーの同定
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、JNM−ECZ400S)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析により求めた。重溶媒としてd−クロロホルムを用いて測定した。
【0047】
(2)重合体(3)の分子量測定
重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)と多分散度(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては東ソー製 HLC−8320GPCを用い、カラムとしては、東ソー製 TSKgel GMHHR−Lを用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液としてTHFを用いて測定した。標準サンプルとして東ソー製 単分散ポリスチレンを用いて、ポリスチレン換算にて分子量換算を行った。
【0048】
実施例1 [(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)メタクリレートの合成]
3−(4−ブロモフェノキシ)−1−プロパノールの合成
500mLナス型フラスコに4−ブロモフェノール(51.9g,0.30mol) と炭酸カリウム(97.6g,0.75mol)を入れアルゴン置換した。脱水DMF (300mL)を加え、80℃で30分間加熱撹拌した。そこに3−ブロモ−1−プロパノール(50.0g,0.36mol)を加え80℃で20時間加熱撹拌した。TLC(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で4−ブロモフェノールの消費を確認後、室温まで冷却した。水(400mL)を加え、有機相を酢酸エチルで抽出した(300mLx3)。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去することで3−(4−ブロモフェノキシ)−1−プロパノールを茶色オイルとして得た(66.4g,0.29mol,96%)。H−NMR(400MHz,CDCl,r.t.): δ 1.72(s,1H)、2.00−2.07(m,2H)、3.83−3.89(m,2H)、4.09(t,2H,J=6.0Hz)、6.75−6.81(m,2H)、7.35−7.39(m,2H)。
【0049】
3−(4−アジドフェノキシ)−1−プロパノールの合成
500mLナス型フラスコに3−(4−ブロモフェニル)−1−プロパノール(68.6g,0.30mol)、ヨウ化銅(5.64g,29.6mmol)、L−アスコルビン酸ナトリウム(2.95g 14.9mmol)、N,N’−ジメチルエチレンジアミン(4.80mL,44.7mmol)を加え、エタノール(210mL)、水(90mL)に溶解させた。反応容器をAr置換後、アジ化ナトリウム(34.6g,0.54mol)を加え5時間加熱還流した。TLC(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で3−(4−ブロモフェノキシ)−1−プロパノールの消費を確認後、室温まで冷却した。飽和食塩水(200mL)加えた後にエバポレーターで有機溶媒を留去した。有機相を酢酸エチルで抽出した(200mLx3)。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた黒色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製することで3−(4−アジドフェノキシ)−1−プロパノールを茶色オイルとして得た(42.3g, 0.22mol,73%)。H NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ 1.69(brs,1H)、2.05(quint like tt,2H,J=6.0,6.0Hz)、3.83--3.91(m,2H)、4.11(t、2H、J=6.0Hz)、6.87−6.92(m,2H)、6.93−6.98(m,2H)。
【0050】
3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)メタクリレートの合成
500mLナス型フラスコに3−(4−アジドフェノキシ)−1−プロパノール(42.3g,0.22mol)、メタクリル酸(22.7g,0.26mol)、4−ジメチルアミノピリジン(26.8g,0.22mol)を加え、アルゴン置換後に塩化メチレン(400mL)に溶解させた。反応容器を氷浴中0℃で30分間撹拌した後に、DCC(56.2g,0.27mol)を加え、そのまま0℃で30分間撹拌した。氷浴を取り除き、室温で21時間撹拌した。TLC(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で3−(4−アジドフェニル)−1−プロパノールの消費を確認後、セライトろ過によって、析出したジシクロヘキシル尿素を取り除き、固体を酢酸エチル(500mL)で洗浄した。ろ液を濃縮後、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製することで(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)メタクリレートを茶色オイルとして得た(29.9g,0.11mol,52%)。H−NMR(400MHz,CDCl,r.t.): δ 1.94(s,3H)、2.16(quint like tt,2H,J=6.0,6.0 Hz)、4.04(t,2H,J=6.0Hz)、4.34(t,2H,J=6.0 Hz)、5.57(t,1H,J=1.6Hz)、6.10(brs,1H)、6.85−6.91(m,2H)、6.92−6.97(m,2H)。
【0051】
実施例2 [(3−(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)プロピル)メタクリレートの合成]
4−ブロモフェノールに代えてペンタフルオロフェノール(55.2g、0.3mol)を用いたことを除いて、実施例1と同様に反応を行い、(3−(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)プロピル)メタクリレートを黄色オイルとして得た(30.1g,0.09mol,総収率30%)。H−NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ 1.94(s,3H)、2.16(quint like tt,2H,J=6.0,6.0 Hz)、4.04(t,2H,J=6.0Hz)、4.34(t,2H,J=6.0 Hz)、5.57(t,1H,J=1.6Hz)、6.10(brs,1H)。
【0052】
実施例3 [(4−(4−アジドフェニル)ブチル)メタクリレートの合成]
4−(4−ブロモフェニル)−1−ブタノールの合成
4−ブロモベンジルマグネシウムブロミドの0.25Mジエチルエーテル溶液(300ml、0.075mol)を500mlナス型フラスコに窒素下で注入し、−30℃に冷却後オキセタン(13.1g、0.225mol)とヨウ化銅(I)(1.5g、0.008mol)を加えた。その後徐々に昇温し、室温にて20時間反応させた。反応終了後水を加え、有機層を酢酸エチルで抽出し、抽出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、有機層を留去して茶色オイル状の目的物を得た(8.9g,0.039mol,52%)。H−NMR(400MHz,CDCl,r.t.):δ 1.56−1.68(m,5H)、2.62(m,2H)、3.62(m,2H)、6.75−6.81(m,2H)、7.35−7.39(m,2H)。
【0053】
4−(4−アジドフェニル)−1−ブタノールの合成
3−(4−ブロモフェニル)−1−プロパノールに代えて4−(4−ブロモフェニル)−1−ブタノールを用いたことを除いて、実施例1と同様に反応を行い、茶色オイル状の目的物を得た(5.5g,0.029mol,75%)。H−NMR(400MHz, CDCl,r.t.):δ 1.56−1.68(m,5H)、2.62(m,2H), 3.62(m,2H)、6.87−6.92(m,2H)、6.93−6.98(m,2H)。
【0054】
(4−(4−アジドフェニル)ブチル)メタクリレートの合成
3−(4−アジドフェノキシ)−1−プロパノールに代えて4−(4−アジドフェニル)−1−ブタノールを用いたことを除いて、実施例1と同様に反応を行い、茶色オイル状の目的物を得た(4.1g、0.016mol、55%)。H−NMR(400MHz, CDCl,r.t.):δ 1.2−1.85(m,4H)、1.94(s,3H)、2.62(m,2H)、4.14(m,2H)、5.57(t,1H,J=1.6Hz)、6.10(brs,1H)、6.85−6.91(m,2H)、6.92−6.97(m,2H)。
【0055】
実施例4 ポリ[(3−(4−アジドフェノキシ)プロピル)メタクリレート]の合成
ガラス製のシュレンクフラスコに実施例1で製造した3−(4−アジドフェノキシ)プロピルメタクリレート(5.5g)、重合開始剤として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(15mg)を秤量した。テトラヒドロフラン(THF)を用いてモノマー濃度0.8mol/Lとなるように希釈した。十分に溶液中の酸素を窒素で除去後、反応はウォーターバスを用いて60℃で8時間行った。反応終了後、メタノールを用いて再沈殿法により未反応のモノマーを除去し、減圧乾燥によりTHF、メタノールを除去し重合体を得た。得られた重合体は、数平均分子量(Mn)45,000、Mw/Mn=2.5であった。