(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の熱間埋込装置は一回の処理で樹脂包埋試料を一個作成するため、樹脂包埋試料の作成に長時間を要する。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、樹脂包埋試料の作成時間を短縮できる熱間埋込装置用モールドおよび樹脂包埋試料の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の熱間埋込装置用モールドは、熱間埋込装置に用いられるモールドであって、シリンダと、前記シリンダの上部に設けられた上部ラムと、前記シリンダの下部に設けられた下部ラムと、前記シリンダの内部に挿入され、前記上部ラムと前記下部ラムとの間の充填空間を複数に分割する一または複数の中間ラムと、を備え、前記中間ラムで分割された複数の充填空間のそれぞれに試料材料が充填され
、前記シリンダ、前記上部ラム、前記下部ラム、および前記中間ラムの素材が同一であることを特徴とする。
第2発明の熱間埋込装置用モールドは、第1発明において、前記中間ラムは、横断面が前記シリンダの内部空間の横断面と略同一形状であり、上面および下面が側面に対して直交していることを特徴とする。
第3発明の樹脂包埋試料の作成方法は、第1
または第2発明の熱間埋込装置用モールドを用いた樹脂包埋試料の作成方法であって、前記モールドの前記中間ラムで分割された複数の充填空間のそれぞれに試料材料を充填し、前記熱間埋込装置により前記上部ラムと前記下部ラムとの間を加圧するとともに、前記試料材料を加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、中間ラムで分割された複数の充填空間のそれぞれに試料材料が充填されるため、熱間埋込装置の一回の処理で複数の樹脂包埋試料を作成できる。そのため、樹脂包埋試料一個当りの作成時間を短縮できる。
また、シリンダ、上部ラム、下部ラム、および中間ラムの熱膨張率が同一であるため、熱間埋込装置の処理中にこれらが熱膨張しても、樹脂包埋試料の形状に与える影響が少ない。
第2発明によれば、中間ラムの横断面がシリンダの内部空間の横断面と略同一形状であるため、中間ラムがシリンダの内部で傾くことを抑制できる。また、中間ラムの上面および下面が側面に対して直交しているため、上面と下面とが平行な樹脂包埋試料を作成できる。
第3発明によれば、中間ラムで分割された複数の充填空間のそれぞれに試料材料が充填されるため、熱間埋込装置の一回の処理で複数の樹脂包埋試料を作成できる。そのため、樹脂包埋試料一個当りの作成時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(樹脂包埋試料)
まず、
図4に基づき樹脂包埋試料1を説明する。
樹脂包埋試料1は顕微鏡観察などに用いられる試料である。樹脂包埋試料1は、固化ペレット11と、固化ペレット11の周囲を覆う充填用樹脂12とが一体化したものである。固化ペレット11はペレット用樹脂13の内部に粒状試料14が分散したものである。固化ペレット11は板状であり、一方の面を除く周囲が充填用樹脂12により覆われている。固化ペレット11の露出面は研磨されており、顕微鏡観察などに供される。
【0010】
図4に示す樹脂包埋試料1は全体として円柱形であるが、多角柱形など他の形状でもよい。ペレット用樹脂13および充填用樹脂12の種類は特に限定されないが、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などが用いられる。
【0011】
樹脂包埋試料1はつぎの手順で作成される。
まず、粒状試料14とペレット用樹脂13との混合物を成形用型に充填し、加圧装置で加圧成形することでペレット成形体を得る。つぎに、ペレット成形体と充填用樹脂12とをモールドに充填し、熱間埋込装置で加圧しながら加熱して樹脂包埋試料1を得る。熱間埋込装置で処理することで、ペレット成形体に含まれるペレット用樹脂13が溶融固化し、固化ペレット11となる。
【0012】
なお、本明細書において「ペレット成形体」とは、粒状試料14とペレット用樹脂13とが固形化されたペレットであって、ペレット用樹脂13が溶融固化する前のペレットを意味する。また、「固化ペレット」とは、ペレット成形体に含まれるペレット用樹脂13が溶融固化して形成されるペレットを意味する。
【0013】
(熱間埋込装置用モールド)
本発明の一実施形態に係る熱間埋込装置用モールド2(以下、単に「モールド」と称する。)は、前記の熱間埋込装置に用いられるモールドである。
【0014】
図1に示すように、モールド2は、シリンダ21と、上部ラム22と、下部ラム23と、中間ラム24とからなる。シリンダ21は円筒形の部材であり、内部空間が円柱形である。
【0015】
上部ラム22はシリンダ21内部の上部に嵌め込まれる部材である。上部ラム22は円柱形であり、その横断面はシリンダ21の内部空間の横断面と略同一形状である。上部ラム22がシリンダ21の内部を上下に摺動できるように、シリンダ21の内壁と上部ラム22の側面との間には若干のクリアランス(例えば0.05mm)が設けられている。また、上部ラム22は、少なくとも下面が側面に対して直交している。
【0016】
下部ラム23はシリンダ21内部の下部に嵌め込まれる部材である。下部ラム23は円柱形であり、その横断面はシリンダ21の内部空間の横断面と略同一形状である。下部ラム23がシリンダ21の内部を上下に摺動できるように、シリンダ21の内壁と下部ラム23の側面との間には若干のクリアランス(例えば0.05mm)が設けられている。また、下部ラム23は、少なくとも上面が側面に対して直交している。
【0017】
中間ラム24はシリンダ21内部の上部ラム22と下部ラム23との間に挿入される部材である。中間ラム24は円板形であり、その横断面はシリンダ21の内部空間の横断面と略同一形状である。中間ラム24がシリンダ21の内部を上下に摺動できるように、シリンダ21の内壁と中間ラム24の側面との間には若干のクリアランス(例えば0.05mm)が設けられている。また、中間ラム24は、上面および下面が側面に対して直交しており、互いに平行である。
【0018】
シリンダ21、上部ラム22、下部ラム23、および中間ラム24は、同一の素材、例えばダイス鋼で形成されている。したがって、これらの部材の熱膨張率は同一である。
【0019】
後述のごとく、シリンダ21の内部には、上部ラム22と下部ラム23との間に試料材料を充填する充填空間が形成される。上部ラム22と下部ラム23との間に中間ラム24を挿入することで、その充填空間が複数に分割される。したがって、熱間埋込装置の一回の処理で複数の樹脂包埋試料1を作成できる。
【0020】
(樹脂包埋試料の作成方法)
つぎに、本発明の一実施形態に係る樹脂包埋試料1の作成方法を説明する。
本実施形態の方法は、ペレット成形体を形成する固形化工程と、熱間埋込装置を用いてペレット成形体を溶融固化させる溶融固化工程とからなる。
【0021】
(固形化工程)
まず、粒状試料14と粉状のペレット用樹脂13とを準備する。つぎに、粒状試料14とペレット用樹脂13とを所定量秤量し混合して粉状の混合物を得る。混合物を成形用型に充填し、公知の加圧装置(プレス装置、万力等)を用いて加圧成形することで、粉状の混合物が固形化されたペレット成形体を得る。
【0022】
(溶融固化工程)
つぎに、熱間埋込装置を用いて樹脂包埋試料1を作成する。
図2に示すように、まず、モールド2に試料材料を充填する。ここで、試料材料とは樹脂包埋試料1の材料であり、ペレット成形体15および充填用樹脂12を意味する。
【0023】
具体的には、まず、シリンダ21の下部に下部ラム23を挿入する。つぎに、下部ラム23の上面にペレット成形体15を置き、その周囲に粉状の充填用樹脂12を充填する。つぎに、シリンダ21の上部開口から中間ラム24を挿入する。つぎに、中間ラム24の上面に別のペレット成形体15を置き、その周囲に粉状の充填用樹脂12を充填する。最後に、シリンダ21の上部開口から上部ラム22を挿入する。以上のように操作することで、中間ラム24で分割された複数の充填空間のそれぞれに試料材料を充填できる。
【0024】
つぎに、
図3に示すように、熱間埋込装置により上部ラム22と下部ラム23との間を加圧するとともに、シリンダ21の周囲から試料材料を加熱する。そうすると、ペレット用樹脂13および充填用樹脂12が溶融固化して樹脂包埋試料1が形成される。
【0025】
熱間埋込装置としては公知の装置を用いることができる。なお、モールド2のうちシリンダ21および下部ラム23は予め熱間埋込装置に組み込まれており、その状態で試料材料の充填が行われる。モールド2を熱間埋込装置から取り外した状態で試料材料の充填を行った後、モールド2を熱間埋込装置に設置してもよい。
【0026】
下部ラム23をシリンダ21に対して固定し、上部ラム22を下方に押すことで加圧してもよいし、上部ラム22をシリンダ21に対して固定し、下部ラム23を上方に押すことで加圧してもよい。また、下部ラム23を上方に押すとともに、上部ラム22を下方に押すことで加圧してもよい。
【0027】
樹脂包埋試料1を冷却した後、シリンダ21から取り出す。そして、樹脂包埋試料1の固化ペレット11の露出面を研磨する。
【0028】
以上のように、中間ラム24で分割された複数の充填空間のそれぞれに試料材料が充填されるため、熱間埋込装置の一回の処理で複数の樹脂包埋試料1を作成できる。そのため、樹脂包埋試料1の一個当りの作成時間を短縮できる。
【0029】
また、シリンダ21、上部ラム22、下部ラム23、および中間ラム24の熱膨張率が同一であるため、熱間埋込装置の処理中にこれらが熱膨張しても、樹脂包埋試料1の形状に与える影響が少ない。
【0030】
なお、本実施形態では中間ラム24を一つ用いているが、複数用いてもよい。中間ラム24の数を増やせば、充填空間をより多くに分割できるため、熱間埋込装置の一回の処理でより多くの樹脂包埋試料1を作成できる。そのため、樹脂包埋試料1の一個当りの作成時間をより短縮できる。
【0031】
シリンダ21、上部ラム22、下部ラム23、および中間ラム24の高さ寸法は、樹脂包埋試料1の作成に必要な高さ寸法の充填空間を形成できるよう調整される。
【0032】
シリンダ21の内部空間は円柱形に限定されず、多角柱形でもよい。そうすれば、多角柱形の樹脂包埋試料1を得られる。この場合、上部ラム22、下部ラム23、および中間ラム24も多角柱形に形成される。
【0033】
モールド2に充填される試料材料を粒状試料14およびペレット用樹脂13としてもよい。この場合、全体に粒状試料14が分散した樹脂包埋試料1が得られる。しかし、このような樹脂包埋試料1は、研磨面に露出した粒状試料14しか観察に供されないのにも関わらず、多量の粒状試料14が必要となる。固化ペレット11の周囲を充填用樹脂12で覆う構造の方が、粒状試料14の使用量を低減できるので好ましい。
【0034】
ところで、樹脂包埋試料1の上面と下面とに高い平行度が求められる場合がある。例えば、正立顕微鏡は、試料台に樹脂包埋試料1の下面を接するように置き、樹脂包埋試料1の上面を対物レンズで観察する。樹脂包埋試料1の上面と下面との平行度が悪い場合、観察視野を変更するために試料台を移動させると、樹脂包埋試料1の上面と対物レンズとの距離が変化して、ピントがズレる恐れがある。
【0035】
本実施形態では、中間ラム24の横断面がシリンダ21の内部空間の横断面と略同一形状であるため、中間ラム24がシリンダ21の内部で傾くことを抑制できる。また、中間ラム24の上面および下面が側面に対して直交しているため、上面と下面とが平行な樹脂包埋試料1を作成できる。なお、中間ラム24の高さ寸法を大きくするほうが、中間ラム24がシリンダ21の内部で傾くことを抑制できる。
【0036】
また、倒立顕微鏡は、樹脂包埋試料1の試料台と接する面と、対物レンズで観察される面とが同一である。そのため、樹脂包埋試料1の上面と下面とに高い平行度が求められない。中間ラム24を挿入することで、樹脂包埋試料1の上面と下面との平行度が悪くなったとしても、観察に悪影響を及ぼさない。
【実施例】
【0037】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
粒状試料14として鉱石粒子、ペレット用樹脂13としてフェノール樹脂を準備した。粒状試料14とペレット用樹脂13との混合物を成形用型に充填し、加圧装置を用いて加圧成形することでペレット成形体を得た。ペレット成形体は円板形であり、直径21mm、高さ5mmである。
【0038】
図1に示すモールド2を用いた。シリンダ21は内径25.1mm、高さ100mmである。上部ラム22は直径25mm、高さ20mmである。下部ラム23は直径25mm、高さ20mmである。中間ラム24は直径25mm、高さ5mmである。シリンダ21、上部ラム22、下部ラム23、および中間ラム24は、すべてダイス鋼で形成されている。
【0039】
モールド2にペレット成形体と充填用樹脂12とを充填した。充填用樹脂12としてフェノール樹脂(丸本ストルアス社製マルチファスト)を用いた。具体的には、下部ラム23の上面にペレット成形体を置き、その周囲に充填用樹脂12を充填した。試料材料の高さを20mmとした。つぎに、中間ラム24の上面に別のペレット成形体を置き、その周囲に粉状の充填用樹脂12を充填した。試料材料の高さを20mmとした。最後に、シリンダ21の上部開口から上部ラム22を挿入した。
【0040】
モールド2が組み込まれた熱間埋込装置(丸本ストルアス社製CitoPress-20)を用いて予熱、加圧、冷却を行った。予熱の条件は、加圧力0bar、温度90℃、保持時間4分とした。加圧の条件は、加圧力75bar、温度180℃、保持時間5分とした。冷却の条件は、無加圧、無加熱で保持時間5分とした。なお、下部ラム23をシリンダ21に対して固定し、上部ラム22を下方に押すことで加圧した。
【0041】
以上の操作により、高さ9mmの樹脂包埋試料1が二個得られた。熱間埋込装置の一回の処理に要した時間は25分であった。樹脂包埋試料1の一個当りの作成時間は12.5分である。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同様の条件でペレット成形体を得た。
図1に示すモールド2を用いた。ただし、中間ラム24は用いなかった。モールド2にペレット成形体と充填用樹脂12とを充填した。充填用樹脂12としてフェノール樹脂(丸本ストルアス社製マルチファスト)を用いた。具体的には、下部ラム23の上面にペレット成形体を置き、その周囲に充填用樹脂12を充填した。試料材料の高さを40mmとした。つぎに、シリンダ21の上部開口から上部ラム22を挿入した。
【0043】
モールド2が組み込まれた熱間埋込装置(丸本ストルアス社製CitoPress-20)を用いて、実施例1と同様の条件で樹脂包埋試料1を作成した。
【0044】
以上の操作により、高さ16mmの樹脂包埋試料1が一個得られた。熱間埋込装置の一回の処理に要した時間は20分であった。
【0045】
以上より、実施例1は比較例1に比べて、樹脂包埋試料1の一個当りの作成時間を約38%短縮できることが確認できた。