特許第6753310号(P6753310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧
特許6753310粘性分散液およびその製造方法、並びに、多孔質半導体電極基板および色素増感型太陽電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753310
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】粘性分散液およびその製造方法、並びに、多孔質半導体電極基板および色素増感型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/047 20060101AFI20200831BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C01G23/047
   H01G9/20 111C
   H01G9/20 111B
   H01G9/20 113A
   H01G9/20 113B
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-532434(P2016-532434)
(86)(22)【出願日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】JP2015003390
(87)【国際公開番号】WO2016006227
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-140227(P2014-140227)
(32)【優先日】2014年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】木暮 英雄
(72)【発明者】
【氏名】青山 孝介
(72)【発明者】
【氏名】岸本 伸三
(72)【発明者】
【氏名】池上 和志
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−083363(JP,A)
【文献】 特開2006−076855(JP,A)
【文献】 特開2006−179444(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0234395(US,A1)
【文献】 河野正教 ほか,プラスチック色素増感太陽電池の開発(14)粒子結合における酸化チタン結晶形の影響,電気化学秋季大会講演要旨集,2007年 9月19日,p.234
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00− 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を分散媒体とする粘性分散液であって、
二酸化チタンナノ粒子を含み、
固形分濃度が30質量%以上60質量%以下であり、
前記二酸化チタンナノ粒子が、平均粒径10nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子と、平均粒径5nm以上15nm以下のブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子とを含み、
前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子が、平均粒径30nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(a)と、平均粒径10nm以上25nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(b)とを含み、
前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子中の、前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(a)の割合が60質量%以上であり、
25℃での粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下である、粘性分散液。
【請求項2】
請求項1に記載の粘性分散液の製造方法であって、
前記ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の水分散液に前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を添加する工程を含む、粘性分散液の製造方法。
【請求項3】
前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を添加する工程が、平均粒径30nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(a)を添加する工程(a)と、平均粒径10nm以上25nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(b)を添加する工程(b)とを含む、請求項に記載の粘性分散液の製造方法。
【請求項4】
導電性基板と、前記導電性基板上に形成した多孔質半導体層とを備える多孔質半導体電極基板の製造方法であって、
請求項1に記載の粘性分散液を導電性基板上に塗布し、塗布した粘性分散液を乾燥することにより多孔質半導体層を形成する工程を含む、多孔質半導体電極基板の製造方法
【請求項5】
多孔質半導体電極基板を用いた色素増感型太陽電池の製造方法であって、
請求項4に記載の多孔質半導体電極基板の製造方法用いて前記多孔質半導体電極基板を製造する工程を含む、色素増感型太陽電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性分散液、粘性分散液の製造方法、多孔質半導体電極基板および色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンナノ粒子を代表とする半導体ナノ粒子は、光触媒分野、コンデンサ、キャパシタ、電池などのエレクトロニクス素子分野、燃料電池や太陽電池などのエネルギー分野において、超薄膜あるいは多孔質膜の形成材料として広く用いられている。光触媒分野においては、光触媒材料として、二酸化チタンのナノ粒子を含む成膜材料がコーティングペーストまたはスプレー用ペーストの形で実用化されており、当該成膜材料は、塗装材や表面改質材として利用されている。また、エネルギー分野においても、比表面積の大きい半導体ナノ粒子を電極材料に用いた蓄電素子や色素増感型太陽電池の開発が活発化している。色素増感型太陽電池は、シリコンのp−n接合や化合物半導体のヘテロ接合を光発電層とする固体接合型太陽電池に代わる低コストの太陽電池であり、半導体ナノ粒子の多孔膜を活用した技術として特に重要である。
【0003】
色素増感型太陽電池の基本技術は、非特許文献1及び特許文献1に開示されている。この色素増感型太陽電池は、800nmまでの可視光に応答し、既に10%以上のエネルギー変換効率に達したものが実現している。そして、色素増感型太陽電池については、アモルファスシリコン太陽電池を凌駕する15%以上のエネルギー変換効率の実現に向けて精力的な研究が続けられている。
【0004】
なかでも、シリコン太陽電池とは異なる特徴を有するものとして、カラフルで透明性に優れた色素増感型太陽電池の研究、特にプラスチックを基板とするフィルム型の色素増感型太陽電池の研究が活発である。これまでのガラス型の色素増感型太陽電池では、増粘用のバインダーを含む半導体ナノ粒子含有粘性分散液を基板に塗布した後、バインダーを焼き飛ばす高温(450℃以上)の焼成工程によって半導体多孔膜を基板上に成膜していた。しかし、プラスチックを基板とするフィルム型の色素増感型太陽電池では、低温下での成膜工程が必要となる。このようなフィルム型太陽電池の製造に必要な半導体多孔膜の低温成膜法としては、電気泳動を用いる方法が提案されている(非特許文献2、特許文献2)。また、その他にも、半導体微粒子の分散体を電極支持体にコーティングし、加圧して成膜する、いわゆるプレス法も提案されている(特許文献3)。これらの方法においては、プラスチック基板の耐熱性の範囲内である150℃以下の低温で半導体多孔膜を形成することができ、且つ、印刷分野で用いているロール式生産方式が適用可能なので、低コストで太陽電池を製造しうる利点はある。
【0005】
しかしながら、上述した増粘用のバインダーを含む半導体ナノ粒子含有粘性分散液を使用し、且つ、低温成膜法により製造した電極を用いた太陽電池は、エネルギー変換効率が1〜3%程度であって、従来の焼成法で製造されたガラス電極に比べて低効率になるという欠点がある。
これは、従来の高温の焼成工程では、原料に由来する不純物が完全に除かれるが、プレス法などの低温成膜法では、これらの不純物が完全には除去されないためである。即ち、低温成膜法では、半導体粒子の分散溶媒中に存在する不純物(多くは有機物)や、成膜用に少量添加されるバインダー等の有機物が半導体多孔膜中に絶縁性物質として混入してくるため、太陽電池のエネルギー変換効率が低下する。従って、低温成膜法において、バインダー材料として用いられたポリマーや有機性不純物の混入を一定水準以下に低減して、実質的にバインダーを含有しない高純度の色素増感半導体膜を形成させ、軽量で大面積のフィルム型太陽電池を製造することが、強く要望されている。
【0006】
低温成膜に用いる、バインダーを含まない半導体ナノ粒子含有分散液(以下、「バインダーフリー低温成膜ペースト」ということがある。)については、コーティング用ペースト(特許文献4、5)、スプレー用ペースト(特許文献6)が開示されている。一方で、半導体多孔膜を精度よく形成するためには、スクリーン印刷法、メタルマスク法、グラビア印刷法などの塗工方法、特にはスクリーン印刷法を用いることが望ましい。しかし、半導体多孔膜を精度よく形成し得るこれらの塗工方法に適したバインダーフリー低温成膜ペーストについては、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4927721号明細書
【特許文献2】特開2002−100416号公報
【特許文献3】国際公開第2000/072373号
【特許文献4】特開2006−076855号公報
【特許文献5】特開2006−172722号公報
【特許文献6】特開2012−253004号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ネイチュア(Nature)」、第353巻、p.737−740、1991年
【非特許文献2】「ケミストリー・レターズ(Chemistry letters)」、2002年、p.1250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バインダーフリー低温成膜ペースト、特に低温成膜法により半導体多孔膜(以下、「多孔質半導体層」ということがある。)を精度よく形成するためのペーストとその簡易な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、本発明を特定する以下の事項及びその好ましい態様により解決できる。
【0011】
(1)水を分散媒体とする粘性分散液であって、二酸化チタンナノ粒子を含み、固形分濃度が30質量%以上60質量%以下であり、前記二酸化チタンナノ粒子が、平均粒径10nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子と、平均粒径5nm以上15nm以下のブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子とを含み、25℃での粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下である、粘性分散液。
(2)前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子が、平均粒径30nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(a)を含む、前記(1)に記載の粘性分散液。
(3)前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子が、平均粒径10nm以上25nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(b)をさらに含む、前記(2)に記載の粘性分散液。
(4)前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子中の、前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(a)の割合が60質量%以上である、前記(2)または(3)に記載の粘性分散液。
(5)前記ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の水分散液に、前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を添加することにより調製した、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の粘性分散液。
【0012】
(6)前記(1)に記載の粘性分散液の製造方法であって、前記ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の水分散液に前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を添加する工程を含む、粘性分散液の製造方法。
(7)前記アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を添加する工程が、平均粒径30nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(a)を添加する工程(a)と、平均粒径10nm以上25nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(b)を添加する工程(b)とを含む、前記(6)に記載の粘性分散液の製造方法。
【0013】
(8)導電性基板と、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘性分散液を前記導電性基板上に塗布し、塗布した粘性分散液を乾燥することにより形成した多孔質半導体層とを備える、多孔質半導体電極基板。
【0014】
(9)前記(8)に記載の多孔質半導体電極基板を備える、色素増感型太陽電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粘性分散液によれば、低温成膜法により多孔質半導体層を精度よく形成することが可能になる。その結果、導電性基板上に多孔質半導体層が精度よく形成された多孔質半導体電極基板を得て、エネルギー変換効率に優れたフィルム型の色素増感光電池の組み立てが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の粘性分散液は、バインダーフリー低温成膜ペーストであり、二酸化チタン等の半導体粒子を含む。そして、粘性分散液は、多孔質半導体層を低温下で基板上に成膜する目的で有効に用いられるものであり、なかでも、低温での成膜を必要とするプラスチックフィルム電極の作製に特に有効に用いることができる。本発明の粘性分散液は、半導体の結晶性ナノ粒子が主たる成分として分散された粘性を有する液体であり、通常、白色で不透明である。そして、本発明の粘性分散液は、分散液の粘度を高める目的もしくは成膜時に基板との密着性を高める目的で通常添加される樹脂やラテックスなどのバインダー材料を実質的に含まないため、粘性分散液を用いて形成される多孔質半導体層は、導電性が高いレベルに保たれる。
なお、「バインダー材料を実質的に含まない」とは、圧力1atmにおける沸点が150℃以上の有機物の含有量が固形分換算で1質量%以下であることを指す。なお、圧力1atmにおける沸点が150℃以上の有機物の含有量は、固形分換算で0.5質量%以下であることが好ましく、0質量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明の粘性分散液に含まれる半導体の結晶性ナノ粒子は、特に限定されることなく、公知の方法を用いて製造することができる。結晶性ナノ粒子の製造法としては、例えば「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)に記載されているゾル−ゲル法や、金属塩化物を鉱酸塩中で高温加水分解して酸化物微粒子を作製する方法や、金属化合物を気相中において高温で熱分解して超微粒子とする噴霧熱分解法などが挙げられる。これらの方法によって作られる二酸化チタン等の半導体の超微粒子およびナノ粒子については、柳田博明監修、微粒子工学大系第II巻、応用技術、フジテクノシステム(2002年)に解説されている。
【0018】
本発明の粘性分散液に含まれ得る半導体粒子としては、金属酸化物及び金属カルコゲニドの粒子が挙げられる。これら酸化物及びカルコゲニドの金属元素としては、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、カドミウム、鉛、アンチモン、ビスマスなどが挙げられる。また、金属酸化物としては、ペロブスカイト構造を有するものも挙げられ、当該ペロブスカイト構造を有する金属酸化物として好ましいのは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムなどである。
中でも、半導体粒子の好ましい材料としては、n型の無機半導体、例えばTiO2、TiSrO3、ZnO、Nb23、SnO2、WO3、Si、CdS、CdSe、V25、ZnS、ZnSe、SnSe、KTaO3、FeS2、PbSなどが挙げられる。これらの中でも、より好ましい半導体粒子の材料は、TiO2、ZnO、SnO2、WO3、Nb23などの金属酸化物である。なかでも特に好ましいのは、二酸化チタン(TiO2)である。
【0019】
そして、本発明の粘性分散液が含有する半導体粒子には、半導体の結晶性ナノ粒子である結晶性の二酸化チタンナノ粒子が主成分として含まれる。
なお、「主成分」とは、含有割合が50質量%以上であることを指す。そして、半導体粒子中の結晶性の二酸化チタンナノ粒子の含有割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0020】
二酸化チタンの製造方法には、四塩化チタンや硫酸チタニルを加水分解する液相法と、四塩化チタンと酸素または酸素含有ガスとを混合燃焼する気相法とがある。液相法では、アナターゼ型の結晶構造を主相として有する二酸化チタンを得ることができる。しかし、液相法で得られる二酸化チタンは、ゾルまたはスラリー状であり、粉末として使用するためには乾燥が必要であると共に、乾燥により凝集(二次粒子化)が進むという問題がある。一方、気相法は、溶媒を使用しないため液相法に比べて得られる二酸化チタンが分散性に優れており、また、合成時の温度が高いため得られる二酸化チタンの結晶性が優れているという特徴がある。ところで、二酸化チタンナノ粒子の結晶形には、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型がある。酸化チタンを気相法により製造するとき、最も低温で生成し安定な酸化チタンはアナターゼ型であり、熱処理を加えるに従い、ブルッカイト型、ルチル型へと変化する。二酸化チタンナノ粒子の結晶構造は、X線回折法による回折パターンの測定により判断できる。また、二酸化チタンナノ粒子の平均粒径は、レーザー光散乱法による光相関法や走査型電子顕微鏡観察法による粒径分布測定から算出できる。具体的には、二酸化チタンナノ粒子の平均粒径は、例えば、二酸化チタンナノ粒子が液中に分散している場合にはレーザー光散乱法による光相関法を用いて測定することができ、二酸化チタンナノ粒子が乾燥状態で存在している場合には走査型電子顕微鏡観察法を用いて測定することができる。
【0021】
本発明の粘性分散液に用いる結晶性の二酸化チタンのナノ粒子は、アナターゼ型の結晶構造を有する粒子と、ブルッカイト型の結晶構造を有する粒子とを含む。即ち、本発明の粘性分散液は、アナターゼ型結晶の粒子と、ブルッカイト型結晶の粒子との混合物を含む。二酸化チタンのナノ粒子の形状は、無定形、球体、多面体、ファイバー状、ナノチューブ状など様々な形であってよいが、多面体ならびにナノチューブ状のものが好ましく、特に多面体が好ましい。
【0022】
本発明の粘性分散液に含まれるアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子の粒子サイズについては、その平均粒径が、10nm以上100nm以下であることが好ましい。そして、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子の平均粒径は、良好な多孔質半導体層を精度よく形成する観点からは、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、90nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましい。
また、本発明の粘性分散液に含まれるアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、平均粒径30nm以上100nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(以下、「アナターゼ型(a)」という。)を含むことが好ましい。そして、アナターゼ型(a)の平均粒径は、良好な多孔質半導体層を精度よく形成する観点からは、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、90nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましい。
更に、本発明の粘性分散液に含まれるアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、アナターゼ型(a)に加えて、平均粒径10nm以上25nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子(以下、「アナターゼ型(b)」という。)を含むことが更に好ましい。平均粒径10nm以上25nm以下のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を含ませれば、粘性分散液をスクリーン印刷等を用いた高精度の成膜に最適な粘度として成膜性を向上させ、また塗膜の耐剥離性も向上させることができるからである。なお、アナターゼ型(b)の平均粒径は、良好な多孔質半導体層を精度よく形成する観点からは、13nm以上であることが好ましく、20nm以下であることが好ましく、17nm以下であることがより好ましい。
そして、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子中のアナターゼ型(a)の割合は、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上90質量%以下であることが更に好ましい。また、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子全体に対するアナターゼ型(b)の割合は、0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。アナターゼ型(b)の割合が40質量%を超えると、スクリーン印刷等を用いた高精度の成膜に最適な粘度を超えるため成膜性が低下し、また塗膜の耐剥離性も低下するからである。
本発明の粘性分散液に含まれるアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、気相法により得られたものであることが好ましい。また、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、ルチル型結晶とアナターゼ型結晶の混合物であってもよいが、ルチル化率(ルチル型結晶の割合)は50%未満である。ルチル化率が50%以上になると光触媒としての機能が低下し、光起電力が低下するため色素増感型太陽電池として十分な性能を得られないからである。ただし、粘性分散液には、ルチル化率が80%を超え、平均粒径も100nmを超える結晶性二酸化チタンナノ粒子を光散乱粒子として少量加えてもよい。
【0023】
一方、本発明の粘性分散液に含まれるブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の粒子サイズについては、その平均粒径が、5nm以上15nm以下であることが好ましく、7nm以上13nm以下であることがより好ましい。ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、例えば、液相法により、ブルッカイト型結晶を含む二酸化チタンナノ粒子を分散した酸性ゾル水溶液として調製することができる。ブルッカイト型の二酸化チタンは、粒子の凝縮力が強く、接着性に優れるが、単独では成膜性に劣る。このため、ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子と混合することで、成膜時にアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子の結着性を高める核となる役割を果たす。液相法により製造したブルッカイト型結晶性二酸化チタン、特に四塩化チタンまたは三塩化チタンの加水分解により製造されたブルッカイト型結晶性二酸化チタンが好ましい。
ここで、本発明の粘性分散液は、多孔質半導体層の形成に使用するため、粘性分散液の調製に用いるブルッカイト型結晶性二酸化チタンは分散ゾルの状態で問題がない。また、ブルッカイト型結晶性二酸化チタンは、分散ゾルの状態の方が分散状態も安定しており塗工性に優れる。なお、ブルッカイト型結晶性二酸化チタンの分散ゾル(分散液)は、分散性を高めるために酸性に調整してあることが好ましく、分散液のpHは好ましくは1〜6、より好ましくは2〜5である。分散安定性の観点からは、ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の分散液の固形分濃度は、好ましくは1質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
そして、粘性分散液を用いて良好な多孔質半導体層を精度よく形成する観点からは、粘性分散液中のアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子とブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子との合計に対するアナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子の割合は、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の粘性分散液に含まれる固形分は、通常、結晶性二酸化チタンナノ粒子を含む半導体粒子や、後述する添加剤である。なお、固形分中、半導体粒子の含有量は、通常、90質量%以上であり、95質量%以上が好ましく、通常、100質量%以下である。そして、粘性分散液の固形分濃度は、30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。固形分濃度が30質量%未満では、スクリーン印刷等を用いた高精度の成膜に適した分散液粘度が得られず、塗膜の耐剥離性も劣るからである。また、固形分濃度が60質量%を超えると、スクリーン印刷等を用いた高精度の成膜が困難になるからである。
【0025】
本発明の粘性分散液には、半導体以外の各種無機化合物を添加剤として混合することができる。無機化合物としては、各種の酸化物や、導電材料を挙げることができる。無機酸化物としては、金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類、ランタノイドの酸化物、及びSi、P、Seなどの非金属の酸化物が含まれる。ここで、金属の例としては、Al、Ge、Sn、In、Sb、Tl、Pb、Biなどが挙げられ、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の例としては、Li、Mg、Ca、Sr、Baなどが挙げられる。また、遷移金属の例としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、Zr、Nb、Mo、Ru、Pd、W、Os、Ir、Pt、Auなどが挙げられる。また、導電材料の例としては、金属、貴金属、炭素系材料(例えば、カーボンナノチューブ等)などが挙げられる。
【0026】
本発明の粘性分散液は、塗工に必要な十分に高い粘度をもつ粘性液体組成物であり、その粘度が、25℃において、好ましくは10Pa・s以上500Pa・s以下であり、より好ましくは、50Pa・s以上300Pa・s以下である。本発明の粘性分散液は、スクリーン印刷用に好適に用いることができる。ペーストの粘度は振動式粘度計によって計測することができる。
【0027】
本発明の粘性分散液は、通常、分散媒体として水を用いる。ただし、粘度調整、乾燥性向上の観点から、炭素原子数が3〜10の直鎖状または分岐状のアルコールを少量に添加することを妨げるものではない。具体的には、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、tert−ペンチルアルコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、tert−ブチルセロソルブ、シクロヘキサノール、4−tert−ブチルヘキサノール、α−テルピネオールが挙げられる。
なお、分散媒体中の水の割合は、95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。
【0028】
本発明の粘性分散液は、液相法により製造したブルッカイト型結晶性二酸化チタン、特に四塩化チタンまたは三塩化チタンの加水分解により調製されたブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の水性ゾル(水分散液)に、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子を添加して作製することが好ましい。これは、ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子は、水性ゾルとして容易に調製し得るからである。
なお、アナターゼ型結晶性二酸化チタンナノ粒子として上述したアナターゼ型(a)とアナターゼ型(b)とを用いる場合、アナターゼ型(a)とアナターゼ型(b)とは、ブルッカイト型結晶性二酸化チタンナノ粒子の水性ゾルに対して別々のタイミングで添加してもよいし、同時に添加してもよい。
【0029】
本発明の粘性分散液は、3本ロールミル、ペイントコンディショナー、ホモジナイザー、超音波撹拌装置、高速ディスパー、自転・公転併用式のミキシングコンディショナーなどの公知の分散装置を用いて分散媒体中に上述した成分を分散させることにより調製できる。
【0030】
本発明の粘性分散液を、導電性基板上に塗工し、例えば低温の加熱処理を施すことによって、導電性基板上に多孔性の半導体層が被覆されてなる多孔質半導体電極基板を作製することができる。すなわち、本発明のペーストを例えば1μm以上20μm以下の厚みで導電性基板上に塗工し、得られた塗膜を乾燥した後、例えば室温以上150℃以下の低温下で加熱処理を施すことによって基板と良く密着した多孔性の半導体層(多孔質半導体層)が得られる。この低温下の加熱処理は120℃以上150℃以下の範囲で行うことが好ましい。このようにして作製した多孔質半導体層は、ナノサイズの細孔を有するメソポーラス膜である。本発明の粘性分散液の塗工には、スクリーン印刷法、メタルマスク法、グラビア印刷法を用いることが好ましく、スクリーン印刷法を用いることが特に好ましい。ただし、本発明の粘性分散液は、希釈してから、ドクターブレード法、スキージ法、スプレー法などで塗工することもできる。
【0031】
本発明の粘性分散液を塗工する導電性基板としては、例えばチタン、ステンレス等の金属からなる金属基板などのそれ自身が導電性を有する基板や、無機物(例えば、ガラス)、有機物(例えば、プラスチック)などの材料からなる基材(支持体)上に導電層を設けてなる基板を用いることができる。なお、導電性基板の材料は、多孔質半導体電極基板の用途に応じて適宜選択することができ、例えば多孔質半導体電極基板に光透過性が求められる場合には透明性を有する材料を用いればよい。
中でも、好ましいものは、可撓性プラスチック支持体を用いた導電性基板である。そして、導電性基板として更に好ましいものは、透明導電性プラスチックフィルムであり、表面抵抗が20Ω/□以下の透明導電性プラスチックフィルムを用いることが特に好ましい。本発明の粘性分散液を用いて作製される多孔質半導体電極基板として好ましいものは、表面抵抗が20Ω/□以下の透明導電性プラスチックフィルムの表面に多孔質半導体層が被覆されたプラスチック電極基板である。プラスチック電極基板の厚みは、多孔質半導体層を含めて50μm以上250μm以下の範囲にあることが好ましい。透明導電性プラスチックフィルム単独の厚みは、30μm以上200μm以下が好ましい。
なお、本発明の粘性分散液を使用すれば、多孔質半導体層を低温成膜することができる。従って、本発明の粘性分散液を使用すれば、導電性基板として透明導電性プラスチックフィルムなどのプラスチック支持体を用いた導電性基板を使用し得る。
【0032】
透明導電性プラスチックフィルムは、導電層とそれを担持するプラスチック支持体とによって構成される。透明導電性プラスチックフィルムのプラスチック支持体には、無着色で透明性が高く、耐熱性が高く、耐薬品性ならびにガス遮断性に優れ、かつ低コストの材料が好ましい。この観点から、プラスチック支持体の好ましい材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、透明ポリイミド(PI)などが用いられる。これらの中で耐薬品性やコストの点で特に好ましいものは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)である。
【0033】
透明導電性プラスチックフィルムの導電層には、導電材料として、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウムなどの金属、カーボンナノチューブ等の炭素系材料、又はインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズなどの導電性金属酸化物などを用いることができる。この中で光学的透明性をもつ点で導電性金属酸化物が好ましく、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)ならびに酸化亜鉛が特に好ましい。また、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)の透過率は、光電変換効率及びディスプレーなどの視認性の観点から、そのピークが500〜600nmのものが好ましい。導電層は、その表面抵抗(あるいはシート抵抗)が低いことが必要であり、表面抵抗値は20Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗値は、好ましくは10Ω/□以下、さらに好ましくは3Ω/□以下である。この導電層には集電のための補助リードをパターニングなどにより配置させることができる。このような補助リードは、通常、銅、銀、アルミニウム、白金、金、チタン、ニッケルなどの低抵抗の金属材料によって形成される。このような補助リードがパターニングされた透明導電層においては、表面抵抗値は補助リードを含めた表面の抵抗値として測定され、その値は好ましくは10Ω/□以下、さらに好ましくは3Ω/□以下である。このような補助リードのパターンは透明プラスチック支持体上に形成することができ、さらにその上にITO膜などからなる透明導電層を設けるのが好ましい。
【0034】
粘性分散液を用いて上記のように作製される多孔質半導体層を導電性基板に担持させてなる多孔質半導体電極基板は、多孔質半導体層に色素を吸着させて色素増感型太陽電池の色素増感電極(光電極)として用いることができる。また、多孔質半導体電極基板は、多孔質半導体層に後述する光吸収材を吸着させて光電極として用いることもできる。色素増感電極の作製のためには、多孔質半導体層の表面を、色素の吸着によって増感することが必要である。増感に用いる色素分子としては、色素増感半導体にこれまで用いられてきた既知の増感材料が広く用いられる。このような増感材料としては、例えばシアニン系、メロシアニン系、オキソノール系、キサンテン系、スクワリリウム系、ポリメチン系、クマリン系、リボフラビン系、ペリレン系などの有機色素、Ru錯体や金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン誘導体、クロロフィル誘導体などの錯体系色素などがある。そのほか「機能材料」、2003年6月号、第5〜18ページに記載されている合成色素と天然色素や、「ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(J.Phys.Chem.)」、B.第107巻、第597ページ(2003年)に記載されるクマリンを中心とする有機色素を用いることもできる。
【0035】
本発明では上述した色素(増感色素)の代わりに下記一般式(1)または(2)で示す有機無機混成ペロブスカイト化合物を光吸収材として使用し、多孔質半導体層に光吸収材を吸着させた光電極を形成しても良い。
CH3NH313 ・・・(1)
(式中、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iから選択される少なくとも1種である。)
(R1NH3214 ・・・(2)
(式中、R1は、炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基または芳香族複素環基であり、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iから選択される少なくとも1種である。)
上記有機無機混成ペロブスカイト化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、(CH3(CH2nCHCH3NH32PbI4[n=5〜8]、(C6524NH32PbBr4などがある。
有機無機混成ペロブスカイト化合物は、有機溶剤に溶解した後、ディップ法、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ダイコート法等の塗布方法によって多孔質半導体層に吸着させることができる。
【0036】
多孔質半導体電極基板を用いた光電極において、導電性基板上に形成された、多孔質半導体層に色素(または光吸収材)を吸着させてなる光電極層は、実質的に半導体を含む無機化合物材料と色素(または光吸収材)のみから構成される。実質的に半導体を含む無機化合物材料と色素(または光吸収材)のみから構成されるとは、半導体を含む無機化合物材料と色素(または光吸収材)とが該光電極層の主たる構成要素であり、これらの構成要素の合計の質量が該光電極層の全固形分の質量にほぼ等しいことを意味する。なお、「主たる構成要素」とは、半導体を含む無機化合物材料と色素(または光吸収材)とが光電極層の90質量%以上を占めることを指し、光電極層は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%が半導体を含む無機化合物材料と色素(または光吸収材)とで構成されている。
【0037】
本発明において半導体を含む無機化合物が光電極層の全質量に占める割合は、例えば次の方法によって計測することができる。すなわち、該光電極層を導電性基板より剥離し、光電極層に含まれる層構成成分以外の物質として、電解液などに由来する液体成分や固形成分を、電解液を構成する溶媒を用いて洗い落とすことにより光電極層の単体のみとし、次に、光電極層を乾燥して質量を計量する。この質量が全固形分の質量である。
【0038】
次いで、全固形分をアルコールやアセトニトリルなどの極性有機溶媒ならびにトルエンやクロロホルムなどの非極性有機溶媒によって十分に洗浄し有機物質を除去する。次に、酸素雰囲気下もしくは空気中で光電極層を400℃以上で1時間以上加熱し、加熱後の残留分の質量を計量する。この残留分の乾燥質量を全固形分の質量で除したものが半導体を含む無機化合物の質量が光電極層(色素または光吸収材を吸着させた多孔質半導体層)の全質量に占める割合である。
【0039】
色素増感電極において色素(または光吸収材)の質量が占める割合は、例えば次の方法によって計測することができる。すなわち光電極層を導電性基板より剥離し、全質量を計量したのち、該色素(または光吸収材)が吸着している光電極層を、水、メタノール、アセトニトリルなどの色素(または光吸収材)の溶出に有効な溶媒によって十分に洗浄し、色素(または光吸収材)を光電極層から脱離させ、光電極層を色素(または光吸収材)の色がほとんど残らない程度まで洗浄する。色素(または光吸収材)を含む洗浄溶液からエバポレーションによって溶媒を除去した後、残留する色素(または光吸収材)の乾燥質量を計量する。色素(または光吸収材)の乾燥質量を全固形分の質量で除した値が目的の色素(または光吸収材)の割合である。
【0040】
本発明の粘性分散液を塗工して作る多孔質半導体層において、空孔が占める体積分率である空孔率は、30体積%以上85体積%以下の範囲にあることが好ましい。この空孔率は40体積%以上70体積%以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0041】
本発明の粘性分散液を導電性基板上に塗工して作られる多孔質半導体電極基板を用いて、色素増感型太陽電池(光電池)を作製することができる。多孔質半導体電極基板の多孔質半導体層としては特に二酸化チタン層が優れた性能を発揮する。そして、例えば、透明導電性プラスチックフィルム上に設けた多孔性の二酸化チタンからなる多孔質半導体層に色素を吸着して得られる色素増感電極を光電極とし、これにイオン導電性電解質層と対極を積層させた多層体により、機械的にフレキシブルなフィルム型の太陽電池(光電変換素子)を作製することができる。
【0042】
フィルム型太陽電池に用いるイオン導電性電解質層としては、水系電解液、有機溶媒電解液、イオン性液体電解液(溶融塩電解液)などを用いることができる。これらの電解液に含ませる酸化還元剤としては、I2とヨウ化物の組合せ(ヨウ化物としてはLiI、NaI、KIなどの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど第四級アンモニウム化合物のヨウ素塩など)を含む電解液、Br2と臭化物の組合せ(臭化物としてはLiBr、NaBr、KBrなどの金属臭化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど第四級アンモニウム化合物の臭素塩など)を含む電解液のほか、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオンなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィドなどの硫黄化合物、などを用いることができる。この中でもI2と、LiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどの第四級アンモニウム化合物のヨウ素塩とを組み合わせた電解質が光電池として高い性能を出す点で好ましい。
【0043】
また、上述した電解液のほかに、ヨウ素とヨウ化物との組み合わせからなる酸化還元対(I-/I3-)を含まない電解液(以下、「ヨウ素フリー電解液」という。)を用いることもできる。色素増感型太陽電池の電解質であるヨウ化物は、電解液溶媒に溶解するときに、極微量のヨウ素が発生する。そして、電解液中に発生したヨウ素の酸化腐食反応によって、電池の劣化が進むからである。さらに、プラスチックフィルムを導電性基板として用いた色素増感型太陽電池においては、ヨウ素の昇華による導電性基板の着色が問題となるからである。
具体的には、ヨウ素フリー電解液は、基本的に、無機塩とイオン液体であるヨウ化物塩(例えば、イミダゾリウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、4級窒素原子をスピロ原子に持つ化合物の塩)の単一物または混合物を溶質とし、グリコールエーテルと5員環環状エーテルの一方または両方を溶媒とするものである。
【0044】
さらに、本願発明では液体電解液の代わりに、下記式(3)で表される無機ペロブスカイト化合物および/または下記式(4)で表される有機無機混成ペロブスカイト化合物からなるP型半導体を用いて固体型光電変換素子を作製することも可能である。具体的には、P型半導体を溶剤に溶解した後、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等の塗布方法により、N型半導体である二酸化チタンを含む多孔質半導体層に含浸させ、その後乾燥させて、多孔質半導体層を包み込むようにP型半導体を被覆吸着させることにより、固体型光電変換素子を作製してもよい。
CsM23 ・・・(3)
(式中、M2は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iから選択される少なくとも1種である。)
CH3NH3SnX3 ・・・(4)
(式中、Xは、F,Cl,Br,Iから選択される少なくとも1種である。)
なお、上記無機ペロブスカイト化合物(3)の具体例としては、CsSnI3、CsSnBr3がある。また、有機無機混成ペロブスカイト化合物(4)の具体例としては、CH3NH3SnI3がある。
【0045】
太陽電池の対極の導電層の導電材料としては、白金、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、マグネシウム、インジウムなどの金属、カーボンナノチューブなどの炭素系材料、又はインジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)などの導電性金属酸化物を用いることができる。この中でも白金、チタン、ITO、ならびに炭素系材料が耐腐食性に優れる点で好ましい。
【0046】
本発明の粘性分散液を用いて作る色素増感型太陽電池には、上記の基本的層構成に加えて所望に応じさらに各種の層を設けることができる。例えば導電性プラスチック支持体などを用いた導電性基板と、多孔質半導体層との間に緻密な半導体の薄膜層を下塗り層として設けることができる。
【0047】
下塗り層として好ましいのは金属酸化物であり、金属酸化物としては例えばTiO2、SnO2、Fe23、WO3、ZnO、Nb25などが挙げられる。下塗り層は、例えばElectrochim.Acta 40、643−652(1995)に記載されているスプレーパイロリシス法の他、スパッタ法、対応する酸化物のアルコキシドやアルコキシオリゴマーなどを用いて塗設することができる。下塗り層の好ましい膜厚は5〜100nmである。また、光電極と対極の一方又は両方には、外側表面、導電層と基板の間又は基板の中間に、保護層、反射防止層、ガスバリアー層などの機能性層を設けてもよい。これらの機能性層は、その材質に応じて塗布法、蒸着法、貼り付け法などによって形成することができる。
【実施例】
【0048】
次に本発明を実施するための最良の形態を実施例として示す。また、評価結果一覧を表1に示す。
【0049】
(1)粘性分散液としてのバインダーフリー低温成膜ペースト(以下、「ペースト」という。)の調製
平均粒径50nmのアナターゼ型二酸化チタンナノ粒子粉末(アナターゼ型(a))18.4gを、平均粒径10nmのブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子分散水性ゾル(昭和タイタニウム社製、NTB−1;固形分濃度15質量%)81.6gに添加し、固形分換算比率(アナターゼ型二酸化チタンナノ粒子:ブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子)で60:40となるように混合した。この混合物を卓上型3本ロールミルに10パス通過させることにより分散させて、スクリーン印刷用ペースト(質量100g)を作成した。ペーストの固形分濃度は30.6質量%、粘度は11Pa・s(25℃)であった。
なお、ペーストの粘度は、振動式粘度計(CBC株式会社製、VISCOMATE VM−10A−H型)で測定した。このペーストは二酸化チタンと水のみからなり、バイイダーを全く含まない粘性の高いバインダーフリーペーストである(実施例1)。
次に、同様の調製法で表1の実施例2〜5、13〜15のスクリーン印刷用ペーストを作製した。
【0050】
また、平均粒径50nmのアナターゼ型二酸化チタンナノ粒子粉末(アナターゼ型(a))29.5gと、平均粒径15nmのアナターゼ型二酸化チタンナノ粒子粉末(アナターゼ型(b))1.6gとを、平均粒径10nmのブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子分散水性ゾル(昭和タイタニウム社製、NTB−1;固形分濃度15質量%)68.9gに添加し、アナターゼ型二酸化チタンナノ粒子とブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子の固形分換算比率(アナターゼ型二酸化チタンナノ粒子:ブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子)が75:25となるように混合した。平均粒径15nmのアナターゼ型二酸化チタンナノ粒子粉末(アナターゼ型(b))の割合は、アナターゼ型二酸化チタンナノ粒子の総量(a+b)に対し5質量%に相当する。この混合物を卓上型3本ロールミルに10パス通過させることにより分散させて、スクリーン印刷用ペースト(質量100g)を作成した。ペーストの固形分濃度は41.4質量%、粘度は65Pa・s(25℃)であった。
なお、ペーストの粘度は、振動式粘度計(CBC株式会社製、VISCOMATE VM−10A−H型)で測定した。このペーストは二酸化チタンと水のみからなり、バイイダーを全く含まない粘性の高いバインダーフリーペーストである(実施例6)。
次に、同様の調製法で表1の実施例7〜12、16〜19のスクリーン印刷用ペーストを作製した。
【0051】
一方、アナターゼ型(a)、アナターゼ型(b)、ブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子の配合比を変えて、実施例1または6に準じた調製法で比較例1〜9のペーストを作製した(表1参照)。
【0052】
(2)ペーストを用いた色素増感型太陽電池の作製
(2−1)多孔性半導体フィルム電極基板の作製
透明導電性プラスチックフィルムとして、ITOを導電膜として担持したフィルム厚み200μm、表面抵抗15Ω/□のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。この透明導電性プラスチックフィルムの表面抵抗を下げるために、銀分散ペーストをスクリーン印刷する方法で、ITO膜上に線幅100μm、厚さ20μmの銀の集電用補助リード線を10mmの間隙で平行線状にパターニングした。これらの銀パターンの上に、ポリエステル系樹脂を保護膜として幅250μmで塗布して銀線を完全に保護した。得られたパターン入り導電性ITO−PETフィルムの実用シート抵抗は3Ω/□となった。
この導電性ITO−PETフィルムを2cm×10cmに切断して得た導電性基板のITO側の面に、表1の実施例、比較例のペーストと200メッシュのスクリーンとを用いて、直径6mmの円形を1.5cm間隔で6個配列したパタ−ンを印刷した後に、加熱乾燥(150℃×10分間)することで、膜厚8.2μmの多孔性半導体フィルム電極基板(多孔質半導体電極基板)を作製した。
【0053】
(2−2)色素増感型太陽電池の作製
Ruビピリジル錯体色素としてのビスイソシアネートビスビピリジルRu錯体のテトラブチルアンモニウム塩(N719)を、アセトニトリル:tert−ブタノール(1:1(体積比))の混合溶媒に濃度3×10-4モル/リットルとなるように溶解して得た色素溶液に、上記の多孔性半導体フィルム電極基板を浸漬して、撹拌下40℃で60分放置して、色素吸着を完了し、色素増感二酸化チタンITO−PETフィルム電極(光電極)を作製した。
【0054】
対向電極として、ITOを導電膜として担持した厚み200μm、表面抵抗15Ω/□のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムのITO面に、厚さ100nmの白金膜をスパッタリング法で被覆したシート抵抗0.8Ω/□の導電性フィルムを用いた。
【0055】
光電極として、色素吸着した上記の色素増感二酸化チタンITO−PETフィルム電極を、直径6mmの二酸化チタン電極部分が中心となるように、2cm×1.5cmに切断した。この電極に対して、対向電極として、2cm×1.5cmに切断し、さらに電解液の注液口(直径1mm)をあけた上記導電性フィルム(白金蒸着ITO−PETフィルム)を、厚み25μmのアイオノマー樹脂フィルム(三井デュポンポリケミカル製、ハイミラン1652)をスペーサーとして重ね合わせ、110℃で5分間硬化処理を行った。注液口より毛管効果によってγ−ブチロラクトン、テトラブチルアンモニウムヨージド、ブチルメチルイミダゾリウムヨージドおよびN−メチルベンゾイミダゾールから成る非水有機電解液を注入した。最後に、UV硬化樹脂(スリーボンド製、3035B)を塗布したカバーガラスを注液口に重ね、UV光をスポット照射することで、注液口をふさいだ。このような方法によりふさぐことで、評価用の色素増感型太陽電池セルを作製した。
【0056】
(3)太陽電池の光電変換特性の評価
500Wのキセノンランプを装着した太陽光シミュレータ用を用いて、上記の色素増感型太陽電池セルに対し、入射光強度が100mW/cm2のAM1.5擬似太陽光を、光電極側から照射した。電流電圧測定装置を用いて、素子に印加するDC電圧を10mV/秒の定速でスキャンし、素子の出力する光電流を計測することにより、光電流−電圧特性を測定した。これにより求められた上記の各種素子の光電変換効率(η)を、ペーストの組成とともに、表1に示す。
【0057】
(4)ペーストの耐剥離性評価
上記の導電性ITO−PETフィルムのITO面に表1の実施例、比較例のペーストを200メッシュのスクリーンを用いてパターン印刷した後に加熱乾燥(150℃×10分間)して、膜厚5.2μmの半導体膜を作成した。この半導体膜を曲率1.0cm-1まで機械的に10回曲げる疲労試験を行い、半導体膜の剥離の状態を目視によって判定した。これらの評価の結果を、AA:極めて良い、A:良い、B:悪いが許容内、C:悪い、の四段階で判定し、結果を表1に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の結果から、多孔質半導体層形成用ペーストとしての実用性について以下のことが明らかである。
1.アナターゼ型の二酸化チタンナノ粒子とブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子の混合系でないと、耐剥離性と光電変換率が共に悪化する(実施例1〜5と比較例3〜6の比較)。
2.アナターゼ型の二酸化チタンナノ粒子とブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子の総固形分濃度が30〜60質量%で、分散液の粘度が10〜500Pa・Sでないと、耐剥離性や光電変換率が悪化する(実施例1〜5と比較例1〜2の比較)
3.本発明のアナターゼ型二酸化チタンナノ粒子が、平均粒径10〜25nmの粒子[アナタ−ゼ型(b)]を、総アナターゼ型二酸化チタンナノ粒子の40%以下含む場合は、耐剥離性が非常に良化するため特に好ましい(実施例3と実施例6〜12、16〜19及び比較例7の比較)
4.アナターゼ型(a)の二酸化チタンナノ粒子の平均粒径が100nmを超える大サイズ粒子の場合は、分散液粘度も低下し、耐剥離性が非常に悪化して光電変換率も低くなる(実施例3、13〜15と比較例8の比較および実施例8、16〜18と比較例9の比較)
5.アナターゼ型(b)の二酸化チタンナノ粒子の平均粒径が10〜25nm、ブルッカイト型二酸化チタンナノ粒子の平均粒径が5〜15nmなら、分散液粘度、耐剥離性、光電変換率が非常に良い特性を有する(実施例8と実施例19の比較)
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の粘性分散液によれば、低温成膜法により多孔質半導体層を精度よく形成することが可能になる。その結果、導電性基板上に多孔質半導体層が精度よく形成された多孔質半導体電極基板を得て、エネルギー変換効率に優れたフィルム型の色素増感光電池の組み立てが可能となる。