特許第6753315号(P6753315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753315エチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体およびエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753315
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】エチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物、ペレット、多層構造体およびエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/00 20060101AFI20200831BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20200831BHJP
   C08F 216/06 20060101ALI20200831BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C08F6/00
   C08L29/04 S
   C08K3/10
   C08F216/06
   B32B27/28 102
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-575984(P2016-575984)
(86)(22)【出願日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2016089123
(87)【国際公開番号】WO2017115848
(87)【国際公開日】20170706
【審査請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-255784(P2015-255784)
(32)【優先日】2015年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸昭
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕司
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−222102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00
B32B 27/28
C08F 216/06
C08K 3/10
C08L 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体と鉄化合物とを含有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物であって、
上記エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、重合開始剤として60℃での半減期が10〜300分間である有機化合物を用いたエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化物であり、
上記鉄化合物の含有量がエチレン−ビニルアルコール共重合体組成物の重量あたり金属換算にて0.001〜2ppmであることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物。
【請求項2】
請求項1記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物からなることを特徴とするペレット。
【請求項3】
請求項1記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物を含有する層を少なくとも1層有することを特徴とする多層構造体。
【請求項4】
有機化合物を重合開始剤としてエチレン−ビニルエステル系共重合体を得る工程、当該エチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化してエチレン−ビニルアルコール系共重合体を得る工程、および当該エチレン−ビニルアルコール系共重合体の鉄化合物の含有量を調整し、エチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物を得る工程を備えるエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法であって、
上記有機化合物が、60℃での半減期が10〜300分間であり、
上記エチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の鉄化合物の含有量が、当該エチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の重量あたり金属換算にて0.001〜2ppmであることを特徴とするエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法。
【請求項5】
上記エチレン−ビニルアルコール系共重合体の鉄化合物の含有量を調整し、エチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物を得る工程の調整が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を、抽剤に接触させることを特徴とする請求項4記載のエチレン−ビニルアルコール系共重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH樹脂」と略記することがある。)を主成分とするEVOH樹脂組成物、それを用いたペレット、多層構造体およびEVOH樹脂組成物の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、微小なフィッシュアイが極めて少ない成形物を得ることができるEVOH樹脂組成物、かかるEVOH樹脂組成物を用いたペレット、EVOH樹脂組成物を含有する層を少なくとも一層有する多層構造体およびEVOH樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は、エチレンとビニルエステル系モノマーの共重合物であるエチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化することによって得られる熱可塑性樹脂であり、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度などに優れていることから、フィルム、シート、ボトルなどに成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
これらの用途はいずれも着色異物の混入や、フィッシュアイなどが問題視される用途であるが、EVOH樹脂は熱劣化しやすく、例えば、熱溶融成形時に成形機内に滞留した場合に熱劣化物となりやすく、それが成形物中に混入すると着色異物やフィッシュアイの原因となる。
【0004】
かかる課題の解決策はこれまでも種々検討されているが、その一つとしてEVOH樹脂のケン化前原料であるエチレン−ビニルエステル系共重合体の製造時に用いられる重合開始剤として、60℃における半減期が2時間以下であるラジカル開始剤を用いることが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−222102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術を用いることによって、目視可能な大きさのフィッシュアイの発生はかなり抑制できるが、近年では包装材により高度な透明性が求められるようになってきたため、直径が0.2mm未満の微小フィッシュアイの存在が問題視されるようになり、かかる課題に対してはまだまだ改良の余地があるものであった。
【0007】
すなわち本発明は、熱溶融成形によって得られた成形物中の微小フィッシュアイが極めて少ないEVOH樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実情に鑑み鋭意検討した結果、60℃での半減期が10〜300分間である有機化合物を重合開始剤として得られたエチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化してなるEVOH樹脂組成物が、EVOH樹脂組成物の重量あたり金属換算で2ppmを超える量の鉄化合物を含有することを確認し、それが直径0.2mm未満の微小フィッシュアイの原因であることを見出した。
なお、かかる鉄化合物が上記のようにEVOH樹脂に含有される詳細な理由は不明であるが、低温での活性が高い有機化合物を重合開始剤として用い、かつステンレス鋼製のコラム弁を有するポンプを用いる場合に、かかるコラム弁より溶出し不可避的に含有されるものと推測される。
本発明は、かかる特定の重合開始剤を用いて得られたEVOH樹脂組成物において、その鉄化合物の含有量を、EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.001〜2ppmとすることで、熱溶融成形物中の微小フィッシュアイの低減が可能となることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、EVOH樹脂と鉄化合物とを含有するEVOH樹脂組成物であって、上記EVOH樹脂が、重合開始剤として60℃での半減期が10〜300分間である有機化合物を用いたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化物であり、上記鉄化合物の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.001〜2ppmであることを第1の要旨とする。
【0010】
また、本発明は、有機化合物を重合開始剤としてエチレン−ビニルエステル系共重合体を得る工程、当該エチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化してEVOH樹脂を得る工程、および当該EVOH樹脂の鉄化合物の含有量を調整し、EVOH樹脂組成物を得る工程を備えるEVOH樹脂組成物の製造方法であって、上記有機化合物が60℃での半減期が10〜300分間であり、上記EVOH樹脂組成物の鉄化合物の含有量が、当該EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.001〜2ppmであるEVOH樹脂組成物の製造方法を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH樹脂が、重合開始剤として60℃での半減期が10〜300分間である有機化合物を用いたエチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化物であり、鉄化合物の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.001〜2ppmであるため、熱溶融成形による成形物中の微小フィッシュアイの量が極めて少なく、高度な透明性が要求される包装材として好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明のEVOH樹脂組成物を含有する層を少なくとも1層有する多層構造体である場合は、微小フィッシュアイの量が極めて少ないため、高度な透明性が要求される医薬品用の包装材料として有用である。
【0013】
さらに、有機化合物を重合開始剤としてエチレン−ビニルエステル系共重合体を得る工程、当該エチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化してEVOH樹脂を得る工程、および当該EVOH樹脂の鉄化合物の含有量を調整し、EVOH樹脂組成物を得る工程を備えるEVOH樹脂組成物の製造方法であって、上記有機化合物が60℃での半減期が10〜300分間であり、上記EVOH樹脂組成物の鉄の含有量が、当該EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.001〜2ppmであることを特徴とするEVOH樹脂組成物の製造方法により得られたEVOH樹脂組成物は、熱溶融成形による成形物中の微小フィッシュアイの量が極めて少なく、高度な透明性が要求される包装材として好適に用いることができる。
【0014】
また、上記EVOH樹脂の鉄化合物の含有量を調整し、EVOH樹脂組成物を得る工程の調整が、EVOH樹脂を、抽剤に接触させることである場合は、簡便に鉄化合物の含有量を調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0016】
本発明のEVOH樹脂組成物は、特定の製造法によって得られたEVOH樹脂、および特定量の鉄化合物を含有するものである。
以下、詳細に説明する。
【0017】
本発明で用いられるEVOH樹脂は、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。本発明のEVOH樹脂組成物は、ベース樹脂がEVOH樹脂である。すなわち、EVOH樹脂組成物におけるEVOH樹脂の含有量は、通常90重量%以上であり、好ましくは95重量%以上であり、好ましくは97重量%以上である。
かかるEVOH樹脂の製造法について、順を追って説明する。
【0018】
[エチレン−ビニルエステル系共重合体]
本発明のEVOH樹脂組成物の製造では、まず、エチレンとビニルエステル系モノマーを、重合溶媒中、特定の重合開始剤の存在下で重合(反応)させてエチレン−ビニルエステル系共重合体を得る。
その他の重合法として、例えば、懸濁重合、エマルジョン重合、バルク重合などを挙げることができるが、工業的には溶液重合が用いられる。また、重合方式は、連続式、回分式のいずれであってもよい。
【0019】
ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率が良い点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0020】
共重合体中にエチレンを導入する方法としては、通常、エチレンによる加圧重合が行われ、その導入量はエチレンの圧力によって制御することが可能であり、通常は2〜8MPaの範囲から選択される。
【0021】
なお、本発明では、エチレンとビニルエステル系モノマー以外に、EVOH樹脂に要求される特性を阻害しない範囲、例えば10モル%以下であれば、共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよい。かかる不飽和単量体としては、公知のものを用いることができるが、具体例としては、プロピレン、イソブテン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のα−オレフィン、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、2−メチレン−1,3−プロパンジオール等のヒドロキシアルキル基含有αオレフィン、3−ブテン−1、2−ジオール等の1,2−ジオール基含有αオレフィン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などのヒドロキシ基含有α−オレフィン誘導体、2−メチレンプロパン−1,3−ジオール、3−メチレンペンタン−1,5−ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2−メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類、不飽和カルボン酸またはその塩・部分アルキルエステル・完全アルキルエステル・ニトリル・アミド・無水物、不飽和スルホン酸またはその塩、ビニルシラン化合物、塩化ビニル、スチレン等のコモノマーなどを挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0022】
重合溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
重合溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、重合溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、重合溶媒がメタノールの時は、S(重合溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.05〜7(重量比)程度の範囲から選択される。
【0023】
本発明のEVOH樹脂組成物は、上記ビニルエステル系モノマーとエチレンを共重合して得られるエチレン−ビニルエステル系共重合体を主成分とするものである。また、本発明のEVOH樹脂組成物は、上記エチレン−ビニルエステル系共重合体を得るための重合開始剤として、特定のものを用いることを特徴とするものである。
【0024】
かかる特定の重合開始剤とは、60℃での半減期が10〜300分間である有機化合物であり、特に半減期が20〜250分間、殊に30〜200分間であるものが好ましく用いられる。かかる60℃での半減期が短すぎるものを用いると、重合反応が暴走的に進み制御困難となる傾向があり、逆に半減期が長すぎるものを用いると、重合開始剤を過剰に添加する必要があり、未反応の開始剤が後重合を引き起こしてゲルやフィッシュアイの原因となる場合がある。
【0025】
かかる有機化合物としては、有機過酸化物又はアゾ化合物が挙げられる。具体的には1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−iso−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル) パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル類、ジイソブチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類等の有機過酸化物、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物を挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらのなかでも、生産性の点で好ましくは有機過酸化物であり、特に好ましくはパーオキシエステル類、殊に好ましくはt−ブチルパーオキシネオデカノエートである。
【0026】
重合開始剤の使用量は、通常、ビニルエステル系モノマー100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好ましく、0.005〜0.1重量部がより好ましい。かかる使用量が少なすぎると、重合反応の進行が著しく遅くなり生産性が悪くなる傾向があり、多すぎると重合反応が暴走的に進み制御困難となる傾向がある。
【0027】
共重合反応の反応温度は、使用する重合溶媒や圧力により一概にはいえないが、通常は重合溶媒の沸点以下で行われ、40〜80℃が好ましく、特には55〜80℃が好ましい。かかる温度が低すぎると重合に長時間を要し、重合時間を短縮しようとすると重合開始剤が多量に必要となり、逆に高すぎると重合制御が困難となり好ましくない。
【0028】
また、重合時間は、回分式の場合、4〜10時間、さらには6〜9時間が好ましい。該重合時間が短すぎると重合温度を高くしたり、重合開始剤の量を多く設定しなければならず、逆に重合時間が長すぎると生産性の面で問題があり好ましくない。連続式の場合、重合缶内での平均滞留時間は2〜8時間、さらには2〜6時間が好ましい。該滞留時間が短すぎると重合温度を高くしたり、重合開始剤の量を多く設定しなければならず、逆に滞留時間が長すぎると生産性の面で問題があり好ましくない。
【0029】
ビニルエステル系モノマーの重合率は生産性の面から重合制御が可能な範囲で、できるだけ高く設定され、好ましくは30〜60%である。該重合率が低すぎると、生産性の面や未重合のビニルエステル系モノマーが多量に存在する等の問題があり、逆に高すぎると、重合制御が困難となり好ましくない。
【0030】
[EVOH樹脂]
このようにして得られたエチレン−ビニルエステル共重合体は、必要に応じて、未反応のビニルエステル系モノマーが除去された後、次いでケン化することで、エチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化物すなわち、EVOH樹脂が得られる。
なお、上記未反応のビニルエステル系モノマーの除去により、残存ビニルエステル系モノマーの含有量を0.1重量%以下、さらには0.05重量%以下にすることが好ましい。
【0031】
上記ケン化は、通常一般的に行われる方法であればよく、例えば、メタノール等のアルコール類溶媒中における均一系、またはメタノールやエタノール等のアルコール類と必要に応じて水を加えた混合溶媒中における不均一系において、ナトリウムやカリウムの水酸化物、アルコキシド等のアルカリ金属化合物または塩酸、硫酸、酢酸等の酸触媒をケン化触媒としてケン化が行われる。
また、不均一ケン化の際は、必要に応じてアセトン、ヒドラジン、長鎖のアルキルアミン類等を着色防止のため配合しても良い。
【0032】
本発明において、上記ケン化によって得られるEVOH樹脂のケン化度は、通常、80〜100モル%であり、特には90〜100モル%、さらには95〜100モル%であることが好ましい。ケン化度が低すぎるとEVOH樹脂を溶融成形する場合の熱安定性が低下するとともに、得られる成形物の機械的強度やガスバリア性が低下する傾向がある。
【0033】
EVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは25〜35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0034】
また、本発明に用いるEVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)については、通常0.1〜100g/10分間であり、特に好ましくは0.5〜50g/10分、さらに好ましくは1〜30g/10分である。該メルトフローレートが小さすぎると成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難となる傾向にあり、大きすぎると加熱延伸成形時の外観性やガスバリア性が低下する傾向にある。
かかるMFRの調整にあたっては、EVOH樹脂の重合度を調整すればよく、さらには架橋剤や可塑剤を添加して調整することも可能である。
【0035】
[EVOH樹脂組成物およびEVOH樹脂組成物ペレット]
本発明のEVOH樹脂組成物は、鉄化合物の含有量がEVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて0.001〜2ppmであることを特徴とするものである。かかる鉄化合物の含有量は、金属換算にて好ましくは0.01〜1.5ppm、特に0.1〜1ppm、殊に0.2〜0.6ppmであり、鉄化合物の含有量が多すぎると熱溶融成形物中の微小フィッシュアイの量が増加する傾向がある。
【0036】
ここで、鉄化合物の含有量とは、原子吸光法により測定することにより求めることができる。具体的には、白金皿にEVOH樹脂組成物ペレットを秤量し、かかる白金皿をマイクロウェーブ式マッフル炉に入れて試料を完全に灰化させ、塩酸で処理する。得られた試料を原子吸光分析装置で鉄標準液を基準として分析する方法が挙げられる。
【0037】
なお、かかる鉄化合物は、EVOH樹脂組成物中で、例えば、酸化第二鉄、四三酸化鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、水酸化第一鉄、水酸化第二鉄、亜酸化鉄、硫酸鉄、リン酸鉄等の鉄塩として、存在する場合の他、イオン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
【0038】
本発明のEVOH樹脂組成物において、鉄化合物の含有量を本発明の範囲に調整する方法としては、特に限定されるものではない。かかる鉄化合物の樹脂組成物における存在状態は詳らかでないが、EVOH樹脂製造時に上記のように特定の重合開始剤を用い、かつステンレス鋼製のコラム弁を有するポンプを用いる場合に、かかるコラム弁より溶出して不可避的に含有されるものと推測される。このようなEVOH樹脂組成物の鉄化合物の含有量は、通常、EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて2ppmを超えることから、かかる鉄化合物を除去することが必要となる。
【0039】
かかる鉄化合物の含有量が、EVOH樹脂組成物の重量あたり、金属換算にて2ppmを超えるEVOH樹脂組成物から鉄化合物を除去する方法としては、(i)EVOH樹脂組成物ペレットを、鉄化合物を含まない、あるいは鉄化合物を除去した抽剤に接触させ、EVOH樹脂組成物ペレット中の鉄化合物を溶出させた後、乾燥する方法、(ii)EVOH樹脂組成物を均一溶液(水/アルコール溶液等)とし、キレート剤を用いて鉄化合物を捕捉・分離した後、ペレットにする方法等を挙げることができる。
中でも、工程が簡便であることから、通常は(i)の方法が用いられる。
【0040】
なお、これらの方法において、EVOH樹脂組成物ペレットの製造法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、EVOH樹脂組成物の水とアルコールの混合溶液等を凝固液中にストランド状もしくはシート状に押出した後、得られるストランドやシートをカットしてペレット状にすればよい。また、EVOH樹脂を溶融状態で切断する方法や、EVOH樹脂組成物の溶液を同様に孔から押出し、カッターで切断した後、凝固液の中で凝固させる方法も挙げられる。
【0041】
かかるEVOH樹脂組成物ペレットの形状としては、円柱状、球状等のものが好ましく、円柱状の場合は直径が1〜10mm、長さが1〜10mmが好ましく、球状の場合は直径が1〜10mmが好ましい。
【0042】
上記(i)の方法について詳述する。(i)の方法におけるEVOH樹脂組成物のペレットは、直径が0.1〜10μm程度の細孔が均一に分布したミクロポーラスな内部構造をもつ多孔性EVOH樹脂組成物含水ペレットであることが好ましい。かかる多孔性EVOH樹脂組成物含水ペレットは、通常、EVOH樹脂組成物の水とアルコールの混合溶液等を凝固液中にストランド状もしくはシート状に押出すときにEVOH樹脂溶液の濃度(20〜80重量%)、押し出し温度(45〜70℃)、溶媒の種類(水/アルコール混合重量比=80/20〜5/95等)、凝固浴の温度(1〜20℃)、滞留時間(0.25〜30時間)、凝固浴中でのEVOH樹脂量(0.02〜2重量%)などを適宜調節することで、該構造のEVOH樹脂を得ることが可能となる。かかる凝固液として代表的には水である。
かかる多孔性EVOH樹脂含水ペレットは、抽剤に接触させる工程において、EVOH樹脂中の鉄化合物の溶出を効率的に行うことができる。
【0043】
上記の抽剤としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、水/アルコール混合用液等を使用することができる。なお、水/アルコール混合溶液において、水/アルコール(重量比)は通常99/1〜1/99である。これらは通常鉄化合物を含まない、あるいは鉄化合物を除去したものである。抽剤中の鉄化合物を除去する方法としては例えばリン酸化合物やキレート化合物を用い、抽剤中の鉄化合物を析出させて除去する方法や、蒸留、イオン交換樹脂等を用いてイオン交換する方法等が挙げられる。
【0044】
上記抽剤に接触する工程における抽剤の温度は、通常15〜40℃、好ましくは25〜30℃である。かかる温度が高すぎる場合、製品ペレットが白化する傾向があり、低すぎる場合、抽出効率が低下する傾向がある。浴比(抽剤/ペレット:重量比)は通常0.5〜10、好ましくは1.5〜3である。かかる浴比が大きすぎる場合は生産性が低下する傾向があり、小さすぎる場合は抽出効率が低下する傾向がある。また、多孔性EVOH樹脂含水ペレットと抽剤とを接触させる時間は通常1〜24時間であり、特に好ましくは2〜16時間である。かかる時間が長すぎる場合、生産性が低下する傾向があり、低すぎる場合、抽出効率が低下する傾向がある。
【0045】
上記抽剤に接触させる工程により得られた多孔性EVOH樹脂組成物含水ペレットは、乾燥工程に供される。かかる乾燥方法としては、種々の乾燥方法を採用することが可能である。例えば、実質的にペレット状のEVOH樹脂組成物が、機械的にもしくは熱風により撹拌分散されながら行われる流動乾燥や、実質的にペレット状のEVOH樹脂組成物が、撹拌、分散などの動的な作用を与えられずに行われる静置乾燥が挙げられ、流動乾燥を行うための乾燥器としては、円筒・溝型撹拌乾燥器、円管乾燥器、回転乾燥器、流動層乾燥器、振動流動層乾燥器、円錐回転型乾燥器等が挙げられ、また、静置乾燥を行うための乾燥器として、材料静置型としては回分式箱型乾燥器が、材料移送型としてはバンド乾燥器、トンネル乾燥器、竪型乾燥器等を挙げることができる。また、流動乾燥と静置乾燥を組み合わせて行うことも可能である。
【0046】
該乾燥処理時に用いられる加熱ガスとしては空気または不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)が用いられ、該加熱ガスの温度としては、40〜150℃が、生産性とEVOH樹脂組成物ペレットの熱劣化防止の点で好ましい。該乾燥処理の時間としては、EVOH樹脂組成物ペレットの含水量やその処理量にもよるが、通常は15分〜72時間程度が、生産性とEVOH樹脂組成物ペレットの熱劣化防止の点で好ましい。
【0047】
このようにして得られる本発明のEVOH樹脂組成物ペレットの含水率は、通常、0〜0.5重量%であり、好ましくは、0.1〜0.3重量%、特に好ましくは、0.1〜0.2重量%である。かかるEVOH樹脂組成物ペレットは通常公知の溶融成形に供される。かかる含水率が高すぎる場合、溶融成型時の発泡する傾向があり、低すぎる場合、過乾燥により熱劣化する傾向がある。
【0048】
なお、本発明におけるEVOH樹脂組成物ペレットにおける含水率は以下の方法により測定・算出されるものである。
EVOH樹脂組成物ペレットを電子天秤にて秤量(W1)し、150℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥させ、デシケーター中で30分間放冷後の重量を秤量(W2)し、下記式より算出する。
含水率(重量%)=[(W1−W2)/W1]×100
【0049】
かくして、本発明のEVOH樹脂組成物およびペレットが得られる。
【0050】
さらに、本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲に(通常、5重量%以下、好ましくは1重量%以下)において、一般にEVOH樹脂に配合する配合剤や、他の熱可塑性樹脂が含有されていてもよい。
【0051】
本発明のEVOH樹脂組成物は、熱溶融成形による成形物中の微小フィッシュアイの量が極めて少ないという効果を有する。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物を単軸押出機にて厚み30μmのフィルムとした場合に、かかるフィルムにおける10cm×10cm範囲の直径0.2mm未満のフィッシュアイの個数が通常0〜5個であり、さらには0.01〜3個であり、特には0.1〜1個である。
【0052】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、上記本発明のEVOH樹脂組成物を含む層を少なくとも1層有するものである。本発明のEVOH樹脂組成物を含む層(以下、単に「樹脂組成物層」という)は、本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、基材に用いられる樹脂を「基材樹脂」と略記することがある。)と積層することで、さらに強度を付与したり、樹脂組成物層を水分等の影響から保護したり、他の機能を付与することができる。
【0053】
上記「基材樹脂」としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。
【0054】
これらのうち、疎水性樹脂である、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0055】
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明のEVOH樹脂組成物と本発明のEVOH樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2〜15、好ましくは3〜10層である。
上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介層してもよい。
【0056】
また、接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらから選ばれた1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0057】
多層構造体において、本発明の樹脂組成物層と基材樹脂層との間に、接着性樹脂層を用いる場合、接着性樹脂層が樹脂組成物層の両側に位置する少なくとも1つの層となることから、疎水性に優れた接着性樹脂を用いることが好ましい。
【0058】
上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいても良い。
【0059】
本発明のEVOH樹脂組成物を上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物のフィルム、シート等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明のEVOH樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、EVOH樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、EVOH樹脂組成物(層)と基材樹脂(層)とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上にEVOH樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出しする方法が好ましい。
【0060】
上記の如き多層構造体は、次いで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0061】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸フィルムを緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で通常2〜600秒間程度熱処理を行う。
また、本発明の樹脂組成物から得られた多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定するなどの処理を行えばよい。
【0062】
また、場合によっては、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0063】
多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10〜5000μm、好ましくは30〜3000μm、特に好ましくは50〜2000μmである。樹脂組成物層は通常1〜500μm、好ましくは3〜300μm、特に好ましくは5〜200μmであり、基材樹脂層は通常5〜3000μm、好ましくは10〜2000μm、特に好ましくは20〜1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5〜250μm、好ましくは1〜150μm、特に好ましくは3〜100μmである。
【0064】
さらに、多層構造体における樹脂組成物層と基材樹脂層との厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99〜50/50、好ましくは5/95〜45/55、特に好ましくは10/90〜40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層と接着性樹脂層の厚みの比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90〜99/1、好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは50/50〜90/10である。
【0065】
上記の如く得られたフィルム、シート、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
特に、本発明のEVOH樹脂組成物を含有する層は、微小フィッシュアイの量が極めて少ないため、高度な透明性が要求される医薬品用の包装材料(例えば、輸液用バッグ)として特に有用である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
なお、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0067】
<実施例1>
重合開始剤としてt−ブチルパーオキシデカノエート(60℃での半減期時間100分間)を用い、系内にステンレス鋼製のコラム弁を有するポンプを有する装置を用いて得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られたEVOH樹脂〔エチレン構造単位の含有量29モル%、ケン化度99.7モル%、MFR8g/10分(210℃、荷重2160g)〕の水/メタノール溶液(水/メタノール=40/60(重量比)、EVOH樹脂分36重量%)を得た。かかる溶液を、孔を有するダイスから凝固浴中にストランド状に押出して凝固させ、かかるストランドをカッターで切断して含水ペレット(水分量60%)を得た。かかる含水ペレットを、予めリン酸化合物にて処理し鉄化合物をリン酸鉄として析出除去した水中に、浴比(抽剤/含水ペレット:重量比)2、30℃で240分間浸漬し、これを120℃の熱風乾燥器中に10時間静置し、EVOH樹脂組成物ペレットを得た。
【0068】
得られたEVOH樹脂ペレットを灰化後、原子吸光法で金属分析し、EVOH樹脂組成物の重量あたりの鉄化合物の含有量を金属換算にて分析した。まず、白金皿にEVOH樹脂組成物ペレットを秤量し、白金皿をマイクロウェーブ式マッフル炉に入れて試料を完全に灰化させた。次に、塩酸2mLをピペットで加え、得られた試料を原子吸光分析装置で鉄標準液を基準として分析した。結果を下記表1に示す。
【0069】
得られたEVOH樹脂組成物ペレットを、下記条件で製膜(厚み30μm)した。
押出機:直径(D)40mm、L/D=28
スクリュ:フルフライトタイプ 圧縮比=3.5
スクリーンパック:90/120/90メッシュ
ダイ:幅450mm、コートハンガータイプ
設定温度:C1/C2/C3/C4/A/D=190/210/230/230/220/220℃
スクリュ回転数:10rpm
引取速度:3m/分
ロール温度:80℃
【0070】
得られた単層フィルムについて、直径0.2mm未満のフィッシュアイの個数を目視で数え、10cm×10cm範囲の個数をn=10の平均値として算出した。
結果を下記表1に示す。
【0071】
<実施例2>
重合開始剤としてt−ブチルパーオキシデカノエート(60℃での半減期時間100分間)を用い、系内にステンレス鋼製のコラム弁を有するポンプを有する装置を用いて得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られたEVOH樹脂〔エチレン構造単位の含有量32モル%、ケン化度99.7モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)〕の水/メタノール溶液(水/メタノール=35/65(重量比)、EVOH樹脂分39重量%)を得た。かかる溶液を、孔を有するダイスから凝固浴中にストランド状に押出して凝固させ、かかるストランドをカッターで切断して含水ペレット(水分量58%)を得た。かかる含水ペレットを、予めリン酸化合物にて処理し鉄化合物をリン酸鉄として析出除去した水中に、浴比(抽剤/含水ペレット:重量比)2、30℃で240分間浸漬し、これを120℃の熱風乾燥器中に10時間静置し、EVOH樹脂組成物ペレットを得た。得られたEVOH樹脂組成物ペレットを、実施例1と同様に単層フィルムとして評価した。
結果を下記表1に示す。
【0072】
<比較例1>
重合開始剤としてt−ブチルパーオキシデカノエート(60℃での半減期時間100分間)を用い、系内にステンレス鋼製のコラム弁を有するポンプを有する装置を用いて得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られたEVOH樹脂〔エチレン構造単位の含有量44モル%、ケン化度99.7モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)〕の水/メタノール溶液(水/メタノール=20/80(重量比)、EVOH樹脂分36重量%)を得た。かかる溶液を、孔を有するダイスから凝固浴中にストランド状に押出して凝固させ、かかるストランドをカッターで切断して含水ペレット(水分量60%)を得た。かかる含水ペレットを、リン酸化合物処理を施していない水中に、浴比(抽剤/含水ペレット:重量比)2、30℃で240分間浸漬し、これを118℃の熱風乾燥器中に10時間静置し、EVOH樹脂組成物ペレットを得た。得られたEVOH樹脂組成物ペレットを、実施例1と同様に単層フィルムとして評価した。
結果を下記表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例の結果から、鉄化合物の含有量が所定量以下である本発明のEVOH樹脂組成物は、直径0.2mm未満の微小フィッシュアイの数が極めて少ないものであった。
【0075】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のEVOH樹脂組成物は、熱溶融成形による成形物中の微小フィッシュアイの量が極めて少ないことから、高度な透明性が要求される包装材として好適に用いることができる。