特許第6753347号(P6753347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6753347ガラス基板の製造方法、ガラス基板に孔を形成する方法、およびガラス基板に孔を形成する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753347
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、ガラス基板に孔を形成する方法、およびガラス基板に孔を形成する装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20200831BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20200831BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20200831BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20200831BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   C03C23/00 D
   B23K26/382
   B23K26/00 N
   C03B33/09
   H01S3/00 B
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-61906(P2017-61906)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2017-186240(P2017-186240A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-72638(P2016-72638)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小野 元司
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−213338(JP,A)
【文献】 特開2015−229167(JP,A)
【文献】 特開2011−037707(JP,A)
【文献】 特開2013−226591(JP,A)
【文献】 特開2013−241301(JP,A)
【文献】 特開2015−054348(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0076113(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0050692(US,A1)
【文献】 特開昭60−052822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
C03B 23/00−35/26
40/00−40/04
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さd(μm)以上の孔を有するガラス基板の製造方法であって、
COレーザ発振器から発振されたレーザビームを、照射時間t(μsec)の時間で、ガラス基板に照射して、該ガラス基板に孔を形成する工程
を有し、
前記レーザビームは、集光レンズで集光されてから前記ガラス基板に照射され、
前記集光レンズに入射する直前の前記レーザビームのパワーおよびビーム断面積を、それぞれ、PおよびSとしたとき、以下の(1)式

=P/S (1)式

で表されるパワー密度P(W/cm)は、600W/cm以下であり、
前記照射時間t(μsec)は、

t≧10×d/(P1/2 (2)式

を満たす、製造方法。
【請求項2】
前記COレーザ発振器は、連続波COレーザ発振器である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記COレーザ発振器は、パルスCOレーザ発振器である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記COレーザ発振器から発振されたレーザビームの波長は、9.2μm〜9.8μmの範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記孔は貫通孔である、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
ガラス基板に、深さd(μm)以上の孔を形成する方法であって、
COレーザ発振器から発振されたレーザビームを、照射時間t(μsec)の時間で、ガラス基板に照射して、該ガラス基板に孔を形成する工程
を有し、
前記レーザビームは、集光レンズで集光されてから前記ガラス基板に照射され、
前記集光レンズに入射する直前の前記レーザビームのパワーおよびビーム断面積を、それぞれ、PおよびSとしたとき、以下の(1)式

=P/S (1)式

で表されるパワー密度P(W/cm)は、600W/cm以下であり、
前記照射時間t(μsec)は、

t≧10×d/(P1/2 (2)式

を満たす、方法。
【請求項7】
前記COレーザ発振器は、連続波COレーザ発振器である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記COレーザ発振器は、パルスCOレーザ発振器である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記孔は貫通孔である、請求項6乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
ガラス基板に深さd(μm)以上の孔を形成する装置であって、
レーザビームを発振するCOレーザ発振器と、
前記レーザビームをガラス基板に集光する集光レンズと、
を有し、
前記レーザビームが照射時間t(μsec)の時間でガラス基板に照射されることにより、該ガラス基板に孔が形成され、
前記集光レンズに入射する直前の前記レーザビームのパワーおよびビーム断面積を、それぞれ、PおよびSとしたとき、以下の(1)式

=P/S (1)式

で表されるパワー密度P(W/cm)は、600W/cm以下であり、
前記照射時間t(μsec)は、

t≧10×d/(P1/2 (2)式

を満たす、装置。
【請求項11】
前記COレーザ発振器は、連続波COレーザ発振器である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記COレーザ発振器は、パルスCOレーザ発振器である、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記レーザビームは、9.2μm〜9.8μmの範囲の波長を有する、請求項10乃至12のいずれか一つに記載の装置。
【請求項14】
さらに、前記COレーザ発振器と前記集光レンズの間に、
前記レーザビームのビーム断面積を調整するアパーチャを備える、請求項10乃至13のいずれか一つに記載の装置。
【請求項15】
さらに、前記COレーザ発振器と前記アパーチャの間にλ/4波長板を備える、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記孔は貫通孔である、請求項10乃至15のいずれか一つに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、ガラス基板に孔を形成する方法、およびガラス基板に孔を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ発振器からのレーザビームをガラス基板に照射することにより、ガラス基板に微細な孔を形成する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、パルスCOレーザ発振器、および集光レンズを含む各種光学系を備えるガラス微細穴加工用レーザ加工機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−241301号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1に記載のガラス微細穴加工用レーザ加工機では、パルスCOレーザ発振器から放射されるパルス状のCOレーザビームがガラス基板に照射される。COレーザビームの照射により、ガラス基板が局所的に加熱され、照射位置に微細な孔が形成される。
【0006】
ここで、このような従来の孔加工技術では、孔加工中または孔加工後に、ガラス基板にクラックが生じる場合がある。そのため、実際に孔加工を行う際には、COレーザビームの照射時間(すなわちCOレーザビームのパルス幅)ができるだけ短くなるように調整される。
【0007】
ただし、COレーザビームの照射時間を短くすると、今度はガラス基板に十分に深い孔を形成することは難しくなる。そのため、深い孔を形成する必要がある場合、パルス状のCOレーザビームのピークパワーをなるべく大きくしなければならない。
【0008】
しかしながら、COレーザビームのピークパワーを大きくすると、今度は照射の際にガラス基板に加わる衝撃が大きくなるため、結局、ガラス基板にクラックが生じてしまう結果となる。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、クラックの発生を有意に抑制することが可能な、所望の深さの孔を有するガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、クラックの発生を有意に抑制することが可能な、ガラス基板に所望の深さの孔を形成する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明では、クラックの発生を有意に抑制することが可能な、ガラス基板に所望の深さの孔を形成する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、深さd(μm)以上の孔を有するガラス基板の製造方法であって、
COレーザ発振器から発振されたレーザビームを、照射時間t(μsec)の時間で、ガラス基板に照射して、該ガラス基板に孔を形成する工程
を有し、
前記レーザビームは、集光レンズで集光されてから前記ガラス基板に照射され、
前記集光レンズに入射する直前の前記レーザビームのパワーおよびビーム断面積を、それぞれ、PおよびSとしたとき、以下の(1)式

=P/S (1)式

で表されるパワー密度P(W/cm)は、600W/cm以下であり、
前記照射時間t(μsec)は、

t≧10×d/(P1/2 (2)式

を満たす、製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明では、ガラス基板に深さd(μm)以上の孔を形成する方法であって、
COレーザ発振器から発振されたレーザビームを、照射時間t(μsec)の時間で、ガラス基板に照射して、該ガラス基板に孔を形成する工程
を有し、
前記レーザビームは、集光レンズで集光されてから前記ガラス基板に照射され、
前記集光レンズに入射する直前の前記レーザビームのパワーおよびビーム断面積を、それぞれ、PおよびSとしたとき、以下の(1)式

=P/S (1)式

で表されるパワー密度P(W/cm)は、600W/cm以下であり、
前記照射時間t(μsec)は、
t≧10×d/(P1/2 (2)式

を満たす、方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明では、ガラス基板に深さd(μm)以上の孔を形成する装置であって、
レーザビームを発振するCOレーザ発振器と、
前記レーザビームをガラス基板に集光する集光レンズと、
を有し、
前記レーザビームが照射時間t(μsec)の時間でガラス基板に照射されることにより、該ガラス基板に孔が形成され、
前記集光レンズに入射する直前の前記レーザビームのパワーおよびビーム断面積を、それぞれ、PおよびSとしたとき、以下の(1)式

=P/S (1)式

で表されるパワー密度P(W/cm)は、600W/cm以下であり、
前記照射時間t(μsec)は、
t≧10×d/(P1/2 (2)式

を満たす、装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、クラックの発生を有意に抑制することが可能な、所望の深さの孔を有するガラス基板の製造方法を提供することができる。また、本発明では、クラックの発生を有意に抑制することが可能な、ガラス基板に所望の深さの孔を形成する方法を提供することができる。さらに、本発明では、クラックの発生を有意に抑制することが可能な、ガラス基板に所望の深さの孔を形成する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による孔形成装置の構成を概略的に示した図である。
図2】連続波COレーザ発振器から発振されるレーザビームの出力波形の一例を模式的に示した図である。
図3】パルスCOレーザ発振器から発振されるレーザビームの出力波形の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
(本発明の一実施形態によるガラス基板の製造方法)
本発明の一実施形態では、所望の深さd(μm)以上の孔を有するガラス基板の製造方法(以下、「第1の製造方法」という)が提供される。
【0017】
第1の製造方法は、
COレーザ発振器から発振されたレーザビームを、照射時間t(μsec)以上の時間で、ガラス基板に照射して、該ガラス基板に所望の深さd(μm)以上の孔を形成する工程
を有する。
【0018】
以下、図1を参照して、第1の製造方法について詳しく説明する。
【0019】
(孔形成装置)
図1には、第1の製造方法を実施する際に使用することができる孔形成装置(以下、「第1の孔形成装置」という)の構成を概略的に示す。
【0020】
図1に示すように、第1の孔形成装置100は、レーザ発振器110と、各種光学系と、ステージ160とを備える。
【0021】
図1に示した例では、光学系は、レーザ発振器110側から順に、ビームエクスパンダー120、波長板130、アパーチャ140、および集光レンズ150と配置される。ただし、この光学系の配置は、単なる一例であって、集光レンズ150以外の光学部材は、省略されても良い。
【0022】
レーザ発振器110は、COレーザ発振器であり、ビームエクスパンダー120に向かって、COレーザビーム113を照射することができる。
【0023】
レーザ発振器110は、パルスCOレーザ発振器であっても、連続波COレーザ発振器であっても良い。前者の場合、レーザ発振器110から、パルス状のCOレーザビームが放射され、後者の場合、レーザ発振器110から、連続波のCOレーザビームが放射される。
【0024】
COレーザビーム(以下、単に「レーザビーム」と称する)113の波長は、例えば、9.2μm〜9.8μmの範囲であっても良い。この段階におけるレーザビーム113の直径はφであり、ビーム断面積はSである。
【0025】
ビームエクスパンダー120は、レーザ発振器110から照射されたレーザビーム113を、所定の割合で拡大する役割を有する。例えば、図1に示した例では、ビームエクスパンダー120は、直径φおよびビーム断面積Sの入射レーザビーム113を、直径φおよびビーム断面積Sのレーザビーム123に拡大する。ここで、φ<φおよびS<Sである。
【0026】
拡大比率は、例えば、1.5倍〜4.0倍の範囲である。
【0027】
波長板130は、ビームエクスパンダー120を介しレーザ発振器110の反対側に配置される。波長板130は、例えば、1/4波長板等で構成される。
【0028】
波長板130は、レーザビーム123が直線偏光の場合、これを円偏光のレーザビームに変換することができる。以降、波長板130から出射されるレーザビームを、「レーザビーム133」と称する。なお、ガラス基板に照射されるレーザビームを円偏光にした場合、直線偏光のレーザビームが照射される場合に比べて、ガラス基板に形成される孔の品質(例えば、孔の鉛直性および真円度など)が向上する。
【0029】
アパーチャ140は、波長板130を介しレーザ発振器の反対側に配置される。アパーチャ140は、入射されたレーザビーム133を、所定の形状に調整する役割を有する。
【0030】
例えば、図1に示した例では、アパーチャ140は、直径φおよびビーム断面積Sの入射レーザビーム133を、直径φおよびビーム断面積Sのレーザビーム143に調整する。ここで、φ<φおよびS<Sである。
【0031】
集光レンズ150は、アパーチャ140を介しレーザ発振器の反対側に配置される。
【0032】
図1に示すように、集光レンズ150は、入射されたレーザビーム143を、被加工部材、すなわちガラス基板190の所定の位置に集光する役割を有する。
【0033】
ステージ160は、ガラス基板190を支持する役割を有する。ステージ160は、XY方向に移動可能なステージであっても良い。
【0034】
なお、前述のように、ビームエクスパンダー120、波長板130、およびアパーチャ140のうち少なくとも一つの部材は、省略されても良い。
【0035】
このような構成の第1の孔形成装置100を用いて、ガラス基板190に孔を形成する場合、まず、ステージ160上に、ガラス基板190が載置される。
【0036】
ガラス基板190は、相互に対向する第1の表面192および第2の表面194を有する。ガラス基板190は、第2の表面194の側がステージ160の側となるようにして、ステージ160上に配置される。
【0037】
なお、ステージ160は、ガラス基板190を固定する手段を有しても良い。例えば、ステージ160は、吸引機構を有し、ガラス基板190は、ステージ160に吸引固定されても良い。そのようなステージ160を使用することにより、加工中のガラス基板190の位置ずれが抑制される。
【0038】
次に、レーザ発振器110から、ビームエクスパンダー120に向かって、レーザビーム113が照射される。
【0039】
ビームエクスパンダー120に照射されたレーザビーム113は、ここで拡大され、拡大レーザビーム123となり、この拡大レーザビーム123が波長板130に照射される。波長板130に照射された拡大レーザビーム123は、ここで円偏光に変換され、円偏光レーザビーム133が、アパーチャ140に照射される。アパーチャ140に照射された円偏光レーザビーム133は、ここで形状が調整され、レーザビーム143となる。
【0040】
その後、アパーチャ140を通過したレーザビーム143は、集光レンズ150に照射される。レーザビーム143は、集光レンズ150で集束され、所望の形状を有する集束レーザビーム153となり、ガラス基板190の照射位置196に照射される。
【0041】
集束レーザビーム153により、ガラス基板190の照射位置196およびその直下の部分の温度が上昇し、この領域に存在する物質が除去される。これにより、ガラス基板190の照射位置196に孔198が形成される。
【0042】
なお、図1に示すように、ガラス基板190に形成される孔198は、貫通孔であっても良い。あるいは、孔198は、非貫通孔であっても良い。
【0043】
その後、ステージ160をXY平面上で移動させ、同様の操作を行うことにより、ガラス基板190に複数の孔198を形成することができる。
【0044】
ここで、第1の製造方法は、集光レンズ150に入射する直前のレーザビーム143のパワーをP(W)とし、集光レンズ150に入射する直前のレーザビーム143のビーム面積をSとしたとき、以下の(3)式

=P/S (3)式

で表されるレーザビーム143のパワー密度P(W/cm)が、600W/cm以下であるという特徴を有する。
【0045】
パワー密度P(W/cm)は、320W/cm以下であることが好ましく、160W/cm以下であることがより好ましく、80W/cm以下であることが特に好ましい。また、パワー密度P(W/cm)は、孔加工を進めるために5W/cm以上が好ましく、10W/cm以上がより好ましい。
【0046】
また、第1の製造方法は、ガラス基板190に形成される孔の深さをd(μm)以上としたとき、集束レーザビーム153がガラス基板190に照射される時間、すなわち照射時間t(μsec)は、

t≧10×d/(P1/2 (4)式

を満たすという特徴を有する。ここで、Pは、前述のパワー密度P(W/cm)である。
【0047】
例えば、第1の製造方法では、ガラス基板190に深さd=50μm以上の孔を形成する場合、(4)式の右辺をtmin(以下、「最小照射時間」という)とすると、深さd=50μm、パワー密度P(W/cm)=600W/cmとして、最小照射時間tmin≒20μsecとなる。従って、この場合、集束レーザビーム153がガラス基板190に照射される時間tは、20μsec以上となるように選定される。
【0048】
また、例えば、ガラス基板190に深さd=100μm以上の孔を形成する場合、深さd=100μm、パワー密度P(W/cm)=600W/cmとして、最小照射時間tmin≒41μsecとなる。従って、この場合、集束レーザビーム153がガラス基板190に照射される時間tは、41μsec以上となるように選定される。
【0049】
このように、第1の製造方法では、集光レンズ150に照射される直前のレーザビーム143のパワー密度P(W/cm)が、例えば600W/cm以下まで、十分に抑制される。このため、ガラス基板190に照射される集束レーザビーム153による衝撃を十分に低減することができ、ガラス基板190にクラックが生じることを有意に抑制することができる。
【0050】
また、この集束レーザビーム153は、ガラス基板190に十分に長い時間照射される。このため、パワー密度P(W/cm)が比較的小さくても、ガラス基板190に、所望の深さd以上の孔を形成することができる。
【0051】
以上の効果により、第1の製造方法では、クラックの発生を有意に抑制した状態で、所望の深さd以上の深さを有する孔198を形成することが可能となる。
【0052】
また、第1の製造方法では、パワー密度Pd(W/cm)を比較的小さくできるため、長い時間照射してもクラックの発生を防ぐことができるともいえる。
【0053】
(レーザ発振器110)
前述のように、第1の孔形成装置は、COレーザ発振器110を有し、このレーザ発振器110は、連続波COレーザ発振器であっても、パルスCOレーザ発振器であっても良い。
【0054】
このうち、連続波COレーザ発振器は、連続波のCOレーザビームを発振することができる。
【0055】
図2には、連続波COレーザ発振器から発振されるレーザビームの出力波形の一例を模式的に示す。図2において、横軸は、時間T(sec)であり、縦軸は、レーザビームのパワーである。なお、縦軸は、レーザビームのパワーを該レーザビームのビーム断面積Sで除した、パワー密度(W/cm)で表している。ただし、縦軸をレーザビームのパワーで表しても、同様のことが言える。
【0056】
図2に示すように、連続波COレーザ発振器から発振されるレーザビーム212は、時間Tに対して実質的に変化しない、平坦な出力波形を有する。従って、レーザビーム212のパワー密度の時間平均、すなわち平均パワー密度(Paveで表す)は、レーザビーム212のピークパワー密度(Pmaxで表す)と実質的に等しくなる。
【0057】
一方、パルスCOレーザ発振器は、パルス状のCOレーザビームを発振することができる。
【0058】
図3には、パルスCOレーザ発振器から発振されるレーザビームの出力波形の一例を模式的に示す。図3において、横軸および縦軸は、図2の場合と同様である。
【0059】
図3に示すように、パルスCOレーザ発振器から発振されるレーザビーム214は、パルス状の出力波形を有する。従って、レーザビーム214の平均パワー密度(Paveで表す)は、レーザビーム214のピークパワー密度(Pmaxで表す)とは異なる値となる。
【0060】
このように、連続波COレーザ発振器から発振されるレーザビーム212では、Pave=Pmaxとなるのに対して、パルスCOレーザ発振器から発振されるレーザビーム214は、Pave≠Pmaxとなるという特徴がある。
【0061】
本願において、前述の(3)式で表されるレーザビーム143のパワー密度P(W/cm)は、出力波形の最大パワー、すなわちPmaxを意味することに留意する必要がある。従って、レーザ発振器110が連続波COレーザ発振器の場合、レーザビーム143のパワー密度P(W/cm)は、その平均パワー密度と実質的に等しいが、レーザ発振器110がパルスCOレーザ発振器の場合、レーザビーム143のパワー密度P(W/cm)は、その平均パワー密度とは異なる値を表す。
【0062】
また、前述の(4)式における照射時間t(μsec)は、例えば、集束レーザビーム153が図2に示すような連続波を有する場合、集束レーザビーム153が実際にガラス基板190に照射された総時間を意味する。一方、集束レーザビーム153が図3に示すようなパルス状の出力波形を有する場合、照射時間t(μsec)は、照射時間tがパルス幅よりも短いときは、集束レーザビーム153が実際にガラス基板190に照射された総時間を意味するが、照射時間tがパルス幅よりも長い場合は、パルス間の未発振時間も含んだ時間となる。
【0063】
以上、図1図3を参照して、本発明の一実施形態によるガラス基板の製造方法、およびガラス基板に孔を形成する装置について説明した。ただし、上記記載は、単なる一例であって、本発明は、その他の形態で実施しても良い。例えば、本発明は、ガラス基板に非貫通孔を形成する方法にも適用することができる。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の説明において、例1〜例6は、実施例であり、例7〜例12は、比較例である。
【0065】
(例1)
前述の図1に示したような第1の孔形成装置を用いて、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さ(貫通/未貫通)を評価した。孔の深さは、次のように評価した。所望の孔の深さdを、ガラス基板の厚さに設定する。ガラス基板に形成された孔は、貫通していれば所望の深さdが得られたと判定し、未貫通であれば所望の深さdが得られなかったと判定した。
【0066】
第1の孔形成装置において、レーザ発振器には、連続波COレーザ発振器(DIAMOND−GEM100L−9.6:コヒレント社製)を使用した。この連続波COレーザ発振器を用いて、ビーム直径φ=3.5mmの連続波COレーザビームを発振させた。
【0067】
この連続波COレーザビームのビーム直径φを、ビームエクスパンダーを用いて、3.5倍に拡大した(従って、ビーム直径φ=3.5mm×3.5=12.25mm)。また、波長板には、λ/4波長板を使用した。アパーチャには、該アパーチャを通過後に、レーザビームのビーム径φが9mmとなるものを使用した。
【0068】
集光レンズには、焦点距離25mmの非球面レンズを使用した。なお、アパーチャと集光レンズの間において、レーザビームのピークパワー(=平均パワー)は、50Wであった。従って、この位置におけるレーザビームのパワー密度Pは、約79W/cmである。
【0069】
ガラス基板には、50mm×50mmの無アルカリガラスを使用した。ガラス基板の厚さは、100μmとした。したがって、例1では所望の孔の深さdは100μmとなる。ガラス基板へのレーザビームの照射時間tは、120μsecとした。
【0070】
ここで、例1では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約113μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0071】
ガラス基板に形成する孔の数は、10,000個とした。
【0072】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0073】
また、孔は貫通していた。
【0074】
(例2)
例1と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0075】
ただし、この例2では、ガラス基板の厚さを300μmとした。したがって、所望の孔の深さdは300μmとした。また、照射時間tは、380μsecとした。
【0076】
ここで、例2では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約338μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0077】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0078】
また、孔は貫通していた。
【0079】
(例3)
例1と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0080】
ただし、この例3では、アパーチャと集光レンズの間において、レーザビームのピークパワー(=平均パワー)を、100Wとした。従って、この位置におけるレーザビームのパワー密度Pは、約157W/cmである。
【0081】
また、照射時間tは、80μsecとした。
【0082】
ここで、例3では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約80μsecとなる。従って、最小照射時間tmin=照射時間tである。
【0083】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0084】
また、孔は貫通していた。
【0085】
(例4)
例3と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0086】
ただし、この例4では、ガラス基板の厚さを300μmとした。したがって、所望の孔の深さdは300μmとした。また、照射時間tは、260μsecとした。
【0087】
ここで、例4では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約239μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0088】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0089】
また、孔は貫通していた。
【0090】
(例5)
例1と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0091】
ただし、この例5では、レーザ発振器として、パルスCOレーザ発振器(コヒレント社製)を使用した。このパルスCOレーザ発振器を用いて、ビーム直径φ=3.5mmのパルスCOレーザビームを発振させた。
【0092】
また、アパーチャと集光レンズの間において、レーザビームの平均パワーを67Wとし、レーザビームのピークパワーを201Wとした。従って、アパーチャと集光レンズの間におけるレーザビームのパワー密度Pは、約316W/cmである。
【0093】
また、照射時間tは、56μsecとした。
【0094】
ここで、例5では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約56μsecとなる。従って、最小照射時間tmin=照射時間tである。
【0095】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0096】
また、孔は貫通していた。
【0097】
(例6)
例5と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0098】
ただし、この例6では、ガラス基板の厚さを300μmとした。したがって、所望の孔の深さdは300μmとした。また、照射時間tは、170μsecとした。
【0099】
ここで、例6では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約169μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0100】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0101】
また、孔は貫通していた。
【0102】
(例7)
例5と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0103】
ただし、この例7では、アパーチャと集光レンズの間において、レーザビームの平均パワーを130Wとし、レーザビームのピークパワーを390Wとした。従って、アパーチャと集光レンズの間におけるレーザビームのパワー密度Pは、約613W/cmである。
【0104】
また、ガラス基板への照射時間tは、41μsecとした。
【0105】
ここで、例7では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約40μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0106】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にクラックが生じていることが確認された。孔10,000個当たりのクラックの発生率は、2%であった。
【0107】
孔は貫通していた。
【0108】
(例8)
例7と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0109】
ただし、この例8では、ガラス基板の厚さを300μmとした。したがって、所望の孔の深さdは300μmとした。また、照射時間tは、122μsecとした。
【0110】
ここで、例8では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約121μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0111】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にクラックが生じていることが確認された。孔10,000個当たりのクラックの発生率は、5%であった。
【0112】
孔は貫通していた。
【0113】
(例9)
例5と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0114】
ただし、この例9では、アパーチャと集光レンズの間において、レーザビームの平均パワーを400Wとし、レーザビームのピークパワーを1200Wとした。従って、アパーチャと集光レンズの間におけるレーザビームのパワー密度Pは、約1886W/cmである。
【0115】
また、照射時間tは、23μsecとした。
【0116】
ここで、例9では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約23μsecとなる。従って、最小照射時間tmin=照射時間tである。
【0117】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にクラックが生じていることが確認された。孔10,000個当たりのクラックの発生率は、50%であった。
【0118】
孔は貫通していた。
【0119】
(例10)
例9と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0120】
ただし、この例10では、ガラス基板の厚さを300μmとした。したがって、所望の孔の深さは300μmとした。また、照射時間tは、72μsecとした。
【0121】
ここで、例10では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約69μsecとなる。従って、最小照射時間tmin<照射時間tである。
【0122】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にクラックが生じていることが確認された。孔10,000個当たりのクラックの発生率は、80%であった。
【0123】
孔は貫通していた。

(例11)
例1と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0124】
照射時間tは、30μsecとした。
【0125】
ここで、例11では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約113μsecとなる。従って、最小照射時間tmin>照射時間tである。
【0126】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にはクラック等の異常は認められなかった。
【0127】
ただし、最小照射時間tmin>照射時間tであるため、所望の深さの孔が得られず、孔は未貫通であった。
【0128】
(例12)
例10と同様の方法により、ガラス基板に孔を形成し、孔含有ガラス基板を製造した。また、得られたガラス基板において、クラックの有無および孔の深さを評価した。
【0129】
照射時間tは、35μsecとした。
【0130】
ここで、例12では、前述の(4)式の右辺に相当する最小照射時間tminは、約69μsecとなる。従って、最小照射時間tmin>照射時間tである。
【0131】
孔形成後のガラス基板を観察した結果、ガラス基板にクラックが生じていることが確認された。孔10,000個当たりのクラックの発生率は、40%であった。
【0132】
また、最小照射時間tmin>照射時間tであるため、所望の深さの孔が得られず、孔は未貫通であった。
【0133】
以下の表1には、各例における孔含有ガラス基板の製造方法、および評価結果をまとめて示した。
【0134】
【表1】
表1に示すように、例1〜例6に示したような孔含有ガラス基板の製造方法を採用することにより、クラックの発生が有意に抑制され、所望の深さの孔が形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0135】
100 孔形成装置
110 レーザ発振器
113 レーザビーム
120 ビームエクスパンダー
123 レーザビーム
130 波長板
133 レーザビーム
140 アパーチャ
143 レーザビーム
150 集光レンズ
153 集束レーザビーム
160 ステージ
190 ガラス基板
192 第1の表面
194 第2の表面
196 照射位置
198 貫通孔
212 レーザビーム
214 レーザビーム
図1
図2
図3