(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アミノ基含有化合物およびハイドロタルサイトの存在下において、クロロトリフルオロエチレンを含む単量体成分を有機溶剤中で重合させて、含フッ素重合体含有混合液を得て、次いで前記含フッ素重合体含有混合液から前記ハイドロタルサイトに由来する不溶解成分を除去して、フッ素樹脂含有溶液を製造する方法であって、
重合の開始時における前記アミノ基含有化合物の量が、前記単量体成分の100質量部に対して、0.1〜2.0質量部であり、
前記単量体成分の重合の開始時点において、前記アミノ基含有化合物の質量に対する前記ハイドロタルサイトの質量の割合(ハイドロタルサイトの質量/アミノ基含有化合物の質量)を1〜4とすることを特徴とするフッ素樹脂含有溶液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「単量体に基づく単位」とは、単量体1分子が重合することで直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。なお、単量体に基づく単位は、以下、単に「単位」ともいう。
含フッ素重合体が有する各単位の含有量(モル%)は、含フッ素重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められるが、各単量体の仕込量からも推算できる。
「架橋性基」とは、硬化剤と反応することにより架橋構造を形成可能な基、または架橋性基同士が反応して架橋構造を形成可能な基を意味する。
本明細書において、数平均分子量および質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によってポリスチレン換算で求めた値である。数平均分子量はMnとも記す。
「ハイドロタルサイト」とは、下式で表される層状複水酸化物を意味する。
[Mg
2+1−xAl
3+x(OH)
2]
x+[CO
32−x/2・mH
2O]
x−
ただし、xは、0.2〜0.33であり、mは、0〜2である。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
「エーテルエステル系溶媒」とは、分子内にエーテル結合とエステル結合の両方を有する化合物を意味する。
【0012】
以下、本発明のフッ素樹脂含有溶液、フッ素樹脂含有溶液の製造方法、塗料組成物および塗装物品について詳述する。
【0013】
[フッ素樹脂含有溶液]
本発明のフッ素樹脂含有溶液は、クロロトリフルオロエチレン(CF
2=CFCl、以下、「CTFE」とも称する)に基づく単位を有する含フッ素重合体からなるフッ素樹脂と、アミノ基含有化合物と、有機溶剤と、を含有するフッ素樹脂含有溶液であって、以下の塩素イオン濃度測定法によって求められる塩素イオン濃度が50質量ppm以下である。
塩素イオン濃度測定法:上記フッ素樹脂含有溶液とキシレンとを混合して試料溶液を調製し、得られた試料溶液と水とを混合した後、キシレンの相と水の相とに相分離させて水の相を回収し、回収した水中の塩素イオン濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定する。
なお、以下においては、上記の塩素イオン濃度測定法を「所定の測定法」とも称し、塩素イオン濃度とは、所定の測定法によって求められる塩素イオン濃度を意味する。
本発明のフッ素樹脂含有溶液は、貯蔵安定性に優れ、成膜直後の光沢性に優れた塗膜を形成できる。この理由の詳細は未だ明らかになっていないが、概ね以下の理由によると考えられる。
【0014】
本発明においては、CTFEに基づく単位を有する含フッ素重合体からなるフッ素樹脂を用いる。
発明者らは、特許文献1にて具体的に記載される方法に従って、CTFEに基づく単位を有する含フッ素重合体を含有するフッ素樹脂含有溶液を用いて塗料組成物を製造し、この塗料組成物を用いて得られる塗膜について光沢性を検討した(後述する比較例1参照)。その結果、本発明者らは、塗膜の成膜直後の光沢性が低下することを見出した。
そして、本発明者らは、フッ素樹脂含有溶液の塩素イオン濃度と成膜直後の塗膜の光沢性の低下とが、密接に関連することを知見した。具体的には、後述する実施例にも示すように、塩素イオン濃度を所定値以下にすれば、成膜直後の光沢性に優れた塗膜が得られることを知見した。
なお、塩素イオンが塗膜の光沢性と関連している詳細な理由は不明であるが、塗膜形成時に、酸由来成分(塩化水素に由来する塩素イオン等)が塗膜表面に局在し塗膜表面と塗膜内部とで硬化速度の差が生じたり、焼付塗装時の成膜前に、フッ素樹脂がゲル化して溶融流動性が悪化して均一な塗膜が形成されなかったり、する等の理由により、光沢性が悪化すると考えられる。
なお、「成膜直後」とは、塗膜の作製から24時間以内のことを指す。
【0015】
また、本発明のフッ素樹脂含有溶液は、アミノ基含有化合物を含有するため、フッ素樹脂が溶液中に安定的に存在できると推測される。その結果、フッ素樹脂含有溶液が経時的な増粘等が抑制され、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵安定性が優れると考えられる。
【0016】
なお、特許文献1にはアミノ基含有化合物およびハイドロタルサイトを用いて、CTFEに基づく単位を有する含フッ素重合体を含有するフッ素樹脂含有溶液を製造する具体的な態様が開示されているが、その態様における塩素イオン濃度が高いことを本発明者らは知見している。その理由は、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
まず、そのフッ素樹脂含有溶液に含まれる塩素イオンは、主に、CTFEの重合時に生じたCTFEの分解によると考えられる。
このような塩素イオンが存在する状況下にて、アミノ基含有化合物が存在すると、アミノ基含有化合物と塩素イオンとの間で塩酸塩が形成される。また、このような状況下にハイドロタルサイトが存在すると、塩素イオンはハイドロタルサイトにも吸着される。つまり、特許文献1の具体的な態様においては、塩素イオンとアミノ基含有化合物との塩形成と塩素イオンのハイドロタルサイトへの吸着との両方が進行する。
【0017】
ハイドロタルサイトは、重合後に含フッ素重合体からろ過処理等によって分離される。そのため、ハイドロタルサイトに吸着され塩素イオンは系外に除去される。一方、アミノ基含有化合物と塩形成している塩素イオンはそのまま系内に残存する。つまり、フッ素樹脂含有溶液に含まれる塩素イオンの量は、アミノ基含有化合物とハイドロタルサイトとの使用量に影響を受ける。具体的には、アミノ基含有化合物の使用量が、ハイドロタルサイトの使用量よりも多い場合、アミノ基含有化合物と塩形成した塩素イオンが系内に多く残存し、結果として、その塩素イオン濃度が高くなるため、所望の効果が得られないことを本発明者らは知見している。
本発明では、後段で詳述するように、フッ素樹脂含有溶液の製造に際して、アミノ基含有化合物の使用質量に対するハイドロタルサイトの使用質量を所定割合として、塩素イオンの系外除去量と系内残存量とを制御するため、フッ素樹脂含有溶液の塩素イオン濃度を低減でき、結果として所望の効果が得られると考えられる。
【0018】
本発明における含フッ素重合体は、CTFEに基づく単位を有しており、さらに、前記単位以外の単位(以下、他の単位とも称する)を有していることが好ましい。
他の単位は、CTFE以外のフルオロオレフィンに基づく単位、架橋性基を有する単量体(以下、「単量体1」とも称する。)に基づく単位、またはフッ素原子および架橋性基を有しない単量体(以下、「単量体2」とも称する。)に基づく単位が好ましく、単量体1に基づく単位または単量体2に基づく単位がより好ましい。含フッ素重合体は、単量体1に基づく単位と単量体2に基づく単位との両方を有することが特に好ましい。
【0019】
CTFE以外のフルオロオレフィンが有するフッ素原子数は、2以上が好ましく、2〜6がより好ましく、3〜4がさらに好ましい。該フッ素原子数が2以上であれば、得られる塗膜の耐候性に優れる。
CTFE以外のフルオロオレフィンは、CF
2=CF
2、CH
2=CF
2、または、CH
2=CFCF
3が好ましく、CF
2=CF
2が特に好ましい。
CTFE以外のフルオロオレフィンは、2種以上を用いてもよい。
【0020】
単量体1は、架橋性基を有する単量体である。
架橋性基は、活性水素を有する官能基(水酸基、カルボキシ基、アミノ基等)、または、加水分解性シリル基(アルコキシシリル基等)、エポキシ基またはオキセタニル基が好ましい。
単量体1は、式CH
2=CX
1(CH
2)
n1−Q
1−R
1−Y
1で表される単量体が好ましい。ただし、式中、X
1は水素原子またはメチル基であり、n1は0または1であり、Q
1は単結合、エーテル性酸素原子、−C(O)O−または−O(O)C−であり、R
1は炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のエーテル性酸素原子を含むアルキレン基、または、環構造を有する炭素数6〜20のアルキレン基であり、Y
1は架橋性基である。
X
1は、水素原子が好ましい。
n1は、0が好ましい。
Q
1は、酸素原子または−O(O)C−が好ましく、酸素原子が好ましい。
R
1は、直鎖状の炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。該アルキレン基の炭素数は、1〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。
Y
1は、加水分解性シリル基、水酸基、カルボキシ基またはアミノ基が好ましく、水酸基、カルボキシ基またはアミノ基がより好ましく、水酸基がさらに好ましい。
【0021】
単量体1の具体例としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル(2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシメチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等)、ヒドロキシアルキルビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル(ヒドロキシエチルアリルエーテル等)、ヒドロキシアルキルアリルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)等が挙げられる。ヒドロキシアルキルビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエステルにおけるヒドロキシアルキル基およびヒドロキシアリル基は、それぞれエステル結合のカルボニル基の炭素原子と結合していることが好ましい。
単量体1は、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、またはヒドロキシアルキルアリルエーテルが好ましく、共重合性に優れ、形成される塗膜の耐候性に優れる点から、ヒドロキシアルキルビニルエーテルがより好ましく、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルが特に好ましい。
単量体1は、2種以上を用いてもよい。
【0022】
単量体2は、フッ素原子および架橋性基を有しない単量体である。
単量体2としては、式CH
2=CX
2(CH
2)
n2−Q
2−R
2で表される単量体が好ましい。ただし、式中、X
2は水素原子またはメチル基であり、n2は0または1であり、Q
2は単結合、酸素原子、−C(O)O−または−O(O)C−であり、R
2は炭素数2〜20のアルキル基、炭素数2〜20のエーテル性酸素原子を含むアルキル基、または、環構造を有する炭素数6〜20のアルキル基である。
X
2は、水素原子が好ましい。
n2は、0が好ましい。
Q
2は、酸素原子または−O(O)C−が好ましく、酸素原子が好ましい。
R
2は、炭素数1〜10のアルキル基、または環構造を有する炭素数6〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数6〜12のシクロアルキル基がより好ましく、炭素数2〜4のアルキル基、または炭素数6〜10のシクロアルキル基が特に好ましい。
【0023】
単量体2の具体例としては、アルキルビニルエーテル、シクロアルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、アルキルアリルエーテル、アルキルアリルエステル、アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキルビニルエステルおよびアルキルアリルエステルにおけるアルキル基は、エステル結合のカルボニル基の炭素原子と結合していることが好ましい。
単量体2は、アルキルビニルエーテル、またはシクロアルキルビニルエーテルが好ましく、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、または2−エチルヘキシルビニルエーテルがより好ましく、フッ素樹脂の剛性が高く、有機溶剤に可溶で、塗料に適用した場合に施工が容易で、硬い塗膜が得られる点から、シクロヘキシルビニルエーテルが特に好ましい。
単量体2は、2種以上を用いてもよい。
【0024】
含フッ素重合体におけるCTFEに基づく単位の割合は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。該割合が40モル%以上であれば、得られる塗膜の耐候性に優れる。該割合が60モル%以下であれば、有機溶剤や希釈剤への溶解性に優れる。
【0025】
含フッ素重合体が単量体1に基づく単位および単量体2に基づく単位を有する場合において、その合計の割合は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。
したがって、CTFEに基づく単位以外の単位が単量体1に基づく単位および単量体2に基づく単位のみの場合、単量体1に基づく単位および単量体2に基づく単位の合計の割合は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。
【0026】
単量体1に基づく単位を有する場合の割合は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、5〜40モル%が好ましく、8〜35モル%がより好ましい。該割合が5モル%以上であれば、硬度の高い塗膜を得るために充分な量の架橋性基が含フッ素重合体中に導入される。該割合が40モル%以下であれば、高固形分タイプであっても、フッ素樹脂含有溶液として充分な低粘度を維持できる。
単量体2に基づく単位を有する場合の割合は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、0モル%超45モル%以下が好ましく、3〜45モル%がより好ましく、20〜45モル%がさらに好ましい。該単位を有すれば、得られる塗膜の硬度や柔軟性を適宜調整できる。前記割合が45モル%以下であれば、耐候性に優れ、硬度の高い塗膜を得るために充分な量の架橋性基を含フッ素重合体中に導入しやすくなる。
【0027】
CTFEに基づく単位、単量体1に基づく単位および単量体2に基づく単位以外の単量体に基づく単位を有する場合、該単位の割合は、含フッ素重合体が有する全単位に対して、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0028】
含フッ素重合体のMnは、3,000〜50,000が好ましく、5,000〜30,000がより好ましい。含フッ素重合体のMnが上記下限値以上であれば、塗膜の耐水性、耐塩水性などに優れる。含フッ素重合体のMnが上記上限値以下であれば、塗膜の表面平滑性に優れる。
【0029】
なお、本発明のフッ素樹脂含有溶液には、ハイドロタルサイトが実質的に含まれない。ハイドロタルサイトが実質的に含まれないは、本発明のフッ素脂含有液に含まれるハイドロタルサイト量が0.1質量%未満であることを意味し、通常は0.01質量%以下であるのが好ましい。ハイドロタルサイト量の下限は、0質量%である。
【0030】
本発明におけるアミノ基含有化合物は、アミノ基を含有する化合物であれば、特に限定されない。なお、本明細書において、上記「アミノ基含有化合物」には、塩化水素(HCl)と塩形成している態様も含める。つまり、上記「アミノ基含有化合物」には、アミノ基含有化合物の塩酸塩も含まれる。
【0031】
アミノ基としては、1級アミノ基(−NH
2)、2級アミノ基、3級アミノ基が挙げられる。
2級アミノ基は、式−NHR
N(R
Nは1価の置換基である)で示されるモノ置換アミノ基であり、R
Nの具体例としては、アルキル基、アリール基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。2級アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基等のRがアルキル基である2級アミノ基や、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等のRがアリール基である2級アミノ基等が挙げられる。また、R
N中水素原子は、さらにアセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert−ブトキシカルボニル基等で置換されていてもよい。
3級アミノ基は、式−NR
N1R
N2(R
N1およびR
N2は1価の置換基である)で示されるジ置換アミノ基であり、R
N1およびR
N2の具体例としては、R
Nと同様であり。3級アミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基等が挙げられる。
【0032】
アミノ基としては、脂環式アミノ基も挙げられる。脂環式アミノ基は、環内に少なくとも1つの窒素原子を含む脂環基である。
脂環式アミノ基としては、ピロリジル基、ピペリジル基、ピペラジル基、アゼパニル基等の5〜7員環の脂環式アミノ基が好ましく、6員環の脂環式アミノ基(ピペリジル基)が特に好ましい。また、脂環式アミノ基中の水素原子は、さらに置換基(アルキル基、アリール基等)で置換されていてもよい。
6員環の脂環式アミノ基は、ピペリジル基または置換基を有するピペリジル基が好ましく、置換基を有するピペリジル基がより好ましく、テトラ置換ピペリジル基がさらに好ましく、2,2,6,6−テトラ置換ピペリジル基が特に好ましい。
【0033】
アミノ基含有化合物は、2種以上を用いてもよい。
アミノ基含有化合物は、下式で表される化合物(2,2,6,6−テトラ置換ピペリジル基を有する化合物)が好ましい。
【0035】
R
11〜R
14は、それぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ドデシル基、ステアリル基等)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、置換アルキル基(2−ヒドロキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等)、アリール基(フエニル基、ナフチル基等)またはアラルキル基(フェネチル基、ベンジル基等)であり、R
11およびR
12、またはR
13およびR
14は、炭素数3〜6の脂肪族環を形成していてもよい。R
11〜R
14としては、価格、入手の容易さの点から、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0036】
R
15は、水素原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ドデシル基、ステアリル基等)、置換アルキル基(2−ヒドロキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−アセトキシエチル基、2−(3−メトキシカルボニルプロピオニルオキシ)エチル基、3−ヒドロキシプロピル基等)、アリール基(フェニル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基等)、アラルキル基(フェネチル基、ベンジル基、ヒドロキシフエニルアルキル基等)またはシクロアルキル基(シクロヘキシル基等)である。
【0037】
R
16は、水素原子、水酸基、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ドデシル基、ステアリル基等)、置換アルキル基(2−ヒドロキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、2−アセトキシエチル基、2−(3ーメトキシカルボニルプロピオニルオキシ)エチル基、3−ヒドロキシプロピル基等)、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基(フェネチル基、ベンジル基等)、エステル結合含有基(アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ラウロイルオキシ基、置換アルキルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等)、アミノ基含有基(アルコキシカルボニルアミノ基、N−モノアルキルカルバモイルアミノ基、N,N−ジアルキルカルバモイルアミノ基等)または2,2,6,6−テトラ置換ピペリジル基含有基である。R
16は、これらの基が2以上組み合わされていてもよい。
【0038】
アミノ基含有化合物の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルペビリジン、1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ブチル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ドデシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−フェニル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリシン、1−(6−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アセトキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1−(2−アセトキシエチル)−4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(2−ベンゾイルオキシエチル)−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルビペリジン、4−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−エチル−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−オクチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ドデシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアリル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアリル−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、メチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられる。
【0039】
R
16が2,2,6,6−テトラ置換ピペリジル基含有基であるアミノ基含有化合物としては、水酸基を有する2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等)と、多塩基酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカン−1,10−ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、マロン酸、置換マロン酸等)を反応させて得られた、1分子中に2個以上の2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル基を含有するアミノ基含有化合物が挙げられ、具体的には下式で表される化合物が挙げられる。
ただし、n3は、1〜20の整数である。
【0041】
アミノ基含有化合物の含有量は、上記フッ素樹脂100質量部に対して、0.1〜2.0質量部が好ましく、0.5〜2.0質量部がより好ましく、0.5〜1.5質量部がさらに好ましい。該含有量が0.1質量部以上であれば、単量体成分の重合中や重合後に、フッ素樹脂含有溶液がよりゲル化しにくくなり、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵安定性がより優れる。また、該含有量が2.0質量部以下であれば、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵中における溶液の変色(例えば、黄変や白濁等)や含フッ素重合体の分子量の増大がさらに抑制され、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵安定性がより優れる。
【0042】
本発明における有機溶剤は、フッ素樹脂を溶解できる有機溶剤であれば、特に限定されず、芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、エーテルエステル系溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤が好ましい。
【0043】
芳香族炭化水素系溶剤は、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、芳香族石油ナフサ、テ卜ラリン、またはテレビン油が好ましい。芳香族炭化水素系溶剤は、市販品を使用でき、ソルベッソ(登録商標)#100(エクソン化学社製)、ソルベッソ(登録商標)#150(エクソン化学社製)等を使用できる。
ケトン系溶剤は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、またはイソホロンが好ましい。
エステル系溶剤は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソブチル、または酢酸tert−ブチルが好ましい。
アルコール系溶剤は、炭素数4以下のアルコールが好ましく、エタノール、tert−ブチルアルコール、またはiso−プロピルアルコールが好ましい。
エーテルエステル系溶媒は、3−エトキシプロピオン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテー卜、または酢酸メトキシブチルが好ましい。
【0044】
有機溶剤は、2種以上を用いてもよい。また、有機溶剤は、重合溶媒として用いる有機溶剤と同一の有機溶剤であってもよく、異なる有機溶剤であってもよい。
有機溶剤の含有量は、フッ素樹脂の溶解性が良好になるという観点から、フッ素樹脂含有溶液における固形分濃度が40〜80質量%となるように含有されるのが好ましい。
【0045】
本発明のフッ素樹脂含有溶液は、本発明の効果を充分に発揮できる範囲で、上記以外の成分(例えば、アクリル樹脂やポリエステル樹脂等の汎用樹脂成分)を含有していてもよい。
【0046】
本発明のフッ素樹脂含有溶液は、所定の測定法によって求められる塩素イオン濃度が50質量ppm以下である。塩素イオン濃度は、40質量ppm以下がより好ましく、30質量ppm以下がさらに好ましく、10質量ppm以下が特に好ましい。下限値は、1質量ppmが好ましく、3質量ppmが特に好ましい。
塩素イオン濃度が50質量ppm以下であれば、本発明のフッ素樹脂含有溶液を用いて得られる塗膜は、成膜直後の光沢性に優れる。一方、上記塩素イオン濃度が50質量ppmを超えると、成膜直後の光沢性が不充分となる。
特に、塩素イオン濃度が3〜30質量ppmであると、フッ素樹脂含有溶液を用いて得られた塗料組成物のフロー性にも優れる。フッ素樹脂含有溶液を用いて得られた塗料組成物がフロー性に優れていると、基材に塗装した粉体組成物を溶融して塗膜(硬化膜)を形成する際に、塗料組成物の流動性が向上するため、平滑で均一な塗膜(硬化膜)が得られるという点で好ましい。
塩素イオン濃度が30質量ppm以下であれば、フッ素樹脂含有溶液の粉体化(脱溶媒)や焼付塗装時の熱による、塩化水素の発生を抑制できる。これにより、塗料組成物に含まれるフッ素樹脂のゲル化が抑制されて、塗料組成物のフロー性が向上すると推測される。
【0047】
本発明において、塩素イオン濃度は、所定の測定法によって測定され、つまり、本発明のフッ素樹脂含有溶液とキシレンとを混合して試料溶液を調製し、得られた試料溶液と水とを混合した後、キシレンの相と水の相とに相分離させて水の相を回収し、回収した水中の塩素イオン濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定する。
塩素イオン濃度は、より詳細には次のようにして測定される。
まず、本発明のフッ素樹脂含有溶液とキシレンとを混合および撹拌して、試料溶液を得る。なお、フッ素樹脂含有溶液の量は、キシレンの量5mLに対して、0.5gとする。
次に、試料溶液と純水とを混合および撹拌して混合液を得る。なお、純水の量は、試料溶液の添加量4.9gに対して、3mLとする。
次に、混合液を遠心分離して混合液を水の相とキシレンの相とに相分離させ、キシレンの相を除去して分離液を得る。さらに、分離液を遠心分離して残留キシレン(キシレンの相)と水(水の相)とを相分離させ、キシレンの相を除去して水の相を回収する。
次に、回収した水(水の相)に純水を加えて希釈した測定液を調製し、イオンクロマトグラフィーによって塩素イオン濃度を測定する。
なお、いずれの遠心分離においても、公知の遠心分離装置(具体的には、久保田製作所製の商品名「テーブルトップ冷却遠心機5500」に準ずる装置)を使用し、遠心分離の条件は、12000rpmにて5分間とする。
また、イオンクロマトグラフィーによる測定は、例えば、イオンクロマトグラフICS−1500(商品名、Dionex社製)に準じた装置を用いて測定される。
【0048】
イオンクロマトグラフィーによる塩素イオン濃度の具体的な測定条件は、次の通りである。なお、濃度既知の標準液に対するピーク面積比にて検出量を測定し、塩素イオン(Cl
−)の量を換算する。また、塩素イオン(Cl
−)の定量限界は、0.6ppm以下である。
<イオンクロマトグラフ条件>
装置:Dionex社製 ICS−1500 サプレッサ使用
分析カラム:Dionex IonPac AS14 内径4.0mm×長さ50mm
ガードカラム:Dionex IonPac AG14 内径4.0mm×長さ250mm
溶離液:3.5mmolNa
2CO
3、1.0mmolNaHCO
3
流量:1.5ml/min
【0049】
[フッ素樹脂含有溶液の製造方法]
本発明のフッ素樹脂含有溶液の製造方法は、アミノ基含有化合物およびハイドロタルサイトの存在下において、CTFEを含む単量体成分を有機溶剤中で重合させて、含フッ素重合体含有混合液を得て、次いで上記含フッ素重合体含有混合液から上記ハイドロタルサイトに由来する不溶解成分を除去して、フッ素樹脂含有溶液を製造する方法である。
また、単量体成分の重合の開始時点において、アミノ基含有化合物の量に対するハイドロタルサイトの量の割合(ハイドロタルサイトの量/アミノ基含有化合物の量)は、1〜4である。
さらに、所定の測定法によって求められる塩素イオン濃度は、50質量ppm以下であるのが好ましい。
本発明のフッ素樹脂含有溶液の製造方法によれば、貯蔵安定性に優れたフッ素樹脂含有溶液が得られ、成膜直後の光沢性に優れた塗膜を形成できる。
以下、重合する工程を重合工程、ろ過する工程をろ過工程と称して、各工程について詳細に説明する。
【0050】
重合工程における単量体成分は、いわゆる溶液重合法で重合させる。重合系への各成分の添加順序は、適宜選択できる。単量体成分としては、CTFEに加えて、単量体1および単量体2も使用できる。
重合工程におけるアミノ基含有化合物、CTFE、およびフッ素樹脂の詳細については、上述した通りであり、その説明を省略する。
有機溶剤としては、フッ素樹脂含有溶液の項に記載した有機溶剤と同様の有機溶剤が挙げられる。重合工程における有機溶剤は、本発明のフッ素樹脂含有溶液に含まれる有機溶剤と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
重合工程におけるハイドロタルサイトは、塩素イオンの吸着性に優れる点および入手が容易である点から、Mg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2O(上述したハイドロタルサイトを表す式において、x=0.25、m=0.5)、または、Mg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2O(上述したハイドロタルサイトを表す式において、x=0.308、m=0.538)が好ましい。
ハイドロタルサイトは、2種以上を用いてもよい。
ハイドロタルサイトの粒径は、5〜500μmが好ましく、5〜110μmがより好ましい。ハイドロタルサイトの粒径が5μm以上であれば、ろ過による除去が容易になる。ハイドロタルサイトの粒径が500μm以下であれば、単位質量あたりの表面積が大きく、ハイドロタルサイトによる効果がより発揮される。
ハイドロタルサイトの粒径は、JIS K 0069の「化学製品のふるい分け試験方法」に準じて測定される。
【0052】
重合工程では、重合開始剤の作用により、単量体成分を重合させるのが好ましい。
重合開始剤としては、アゾ系開始剤(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスシクロヘキサンカーボネートニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等)、過酸化物系開始剤{ケトンペルオキシド(シクロヘキサノンペルオキシド等)、ヒドロペルオキシド(tert−ブチルヒドロペルオキシド等)、ジアシルペルオキシド(ペンゾイルペルオキシド等)、ジアルキルパーオキサイド(ジ−tert−ブチルペルオキシド等)、ペルオキシケタール(2,2−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ブタン等)、アルキルペルエステル(tert−ブチルペルオキシピバレート等)、ペルカーボネート(ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等)}が挙げられる。
【0053】
重合工程の重合開始時点において、アミノ基含有化合物の質量に対するハイドロタルサイトの質量(ハイドロタルサイトの質量/アミノ基含有化合物の質量)の割合は、1〜4であり、1.0〜3が好ましく、1.0〜2が特に好ましい。
該割合が1以上であれば、フッ素樹脂含有溶液の項に記載したとおり、塩素イオン濃度を所定範囲に調整可能であり、成膜直後の塗膜の光沢性に優れる。また、該割合が4以下であれば、ろ過工程において不溶解成分を除去する際にろ過材のつまりを抑制しやすい。
【0054】
アミノ基含有化合物の量は、単量体成分100質量部に対して、0.1〜2.0質量部が好ましく、0.5〜2.0質量部がより好ましく、0.5〜1.5質量部がさらに好ましい。該量が0.1質量部以上であれば、単量体成分の重合中や重合後に、フッ素樹脂含有溶液がよりゲル化しにくくなり、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵安定性がより優れる。また、該量が2.0質量部以下であれば、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵中における溶液の変色(例えば、黄変や白濁等)やフッ素樹脂の分子量の増大がさらに抑えられ、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵安定性がより優れる。
【0055】
単量体成分中のCTFEの量は、全単量体成分に対して、40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。CTFEの量が40モル%以上であれば、得られる塗膜の耐候性に優れる。CTFEの量が60モル%以下であれば、有機溶剤や希釈剤への溶解性に優れる。
単量体成分として単量体1および単量体2を含む場合において、その合計量は、全単量体成分に対して、40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。
したがって、CTFE以外の単量体成分が単量体1および単量体2のみの場合、単量体1および単量体2の合計量は、全単量体成分に対して、40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。
【0056】
単量体成分中の単量体1の量は、全単量体成分に対して、5〜40モル%が好ましく、8〜35モル%がより好ましい。該量が5モル%以上であれば、硬度の高い塗膜を得るために充分な量の架橋性基が含フッ素重合体に導入される。該量が40モル%以下であれば、高固形分タイプであっても、フッ素樹脂含有溶液として低粘度を維持できる。
単量体成分中の単量体2の量は、全単量体成分に対して、0モル%超45モル%以下が好ましく、3〜45モル%がより好ましく、20〜45モル%がさらに好ましい。単量体2を用いれば、得られる塗膜の硬度や柔軟性を適宜調整できる。該量が45モル%以下であれば、耐候性に優れ、硬度の高い塗膜を得るために充分な量の架橋性基を含フッ素重合体に導入しやすくなる。
CTFE、単量体1および単量体2以外の単量体を含む単量体成分の場合、該単量体の量は、全単量体成分に対して、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0057】
本発明におけるろ過工程において、有機溶剤に溶解しない不溶解成分であり、重合工程で生じる塩素イオンが吸着したハイドロタルサイト(すなわち、ハイドロタルサイトに由来する不溶解成分)が除去される。除去は、ろ過等の固液分離処理によって行われる。
以上の本発明の製造方法により得られるフッ素樹脂含有溶液は、所定の測定法によって測定された塩素イオン濃度が、50質量ppm以下であるのが好ましい。塩素イオン濃度のより好ましい範囲および効果については、フッ素樹脂含有液の項で説明した通りであるので、その説明を省略する。
また、本発明の製造方法により得られるフッ素樹脂含有溶液は、ハイドロタルサイトを実質的に含まないのが好ましい。ハイドロタルサイトを実質的に含まないとは、フッ素脂含有液に含まれるハイドロタルサイト量が0.1質量%未満であることを意味し、通常は0.01質量%以下であるのが好ましい。ハイドロタルサイト量の下限は、0質量%である。
【0058】
本発明の製造方法においては、重合工程の後であってろ過工程の前に、含フッ素重合体含有混合液にハイドロタルサイトを添加していてもよい。さらに、ハイドロタルサイト添加後、ろ過工程の前に撹拌処理してもよい。これにより、上記塩素イオン濃度をより低くでき、得られる塗膜の成膜直後の光沢性がより優れる。また、フッ素樹脂含有溶液の貯蔵安定性がより優れる傾向もある。
添加するハイドロタルサイトの量は、生成した含フッ素重合体100質量部に対して、0.1〜3.0質量部が好ましく、0.5〜2.0質量部がより好ましい。該量が上記範囲内にあれば、上述した効果がより発現する。
【0059】
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、本発明のフッ素樹脂含有溶液を用いて得られる、塗料組成物である。本発明の塗料組成物は、液状であってもよいし、粉末状(いわゆる粉体塗料組成物)であってもよい。
【0060】
液状である塗料組成物は、上述したフッ素樹脂含有溶液を含む塗料組成物であり、フッ素樹脂含有溶液に加えて、硬化剤を含有することが好ましい。
硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤、ブロック化イソシアネート系硬化剤、またはアミノ樹脂が挙げられる。
イソシアネー卜系硬化剤は、無黄変イソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等)が好ましい。
ブロック化イソシアネー卜系硬化剤は、イソシアネー卜系硬化剤のイソシアネート基をカプロラクタム、イソホロン、β−ジケトン等でブロックした硬化剤が好ましい。
【0061】
アミノ樹脂は、アミン(メラミン、グアナミン、尿素等)と、アルデヒド(ホルムアルデヒド等)との反応生成物(メチロールメラミン等)やその誘導体(アルキルエーテル化メチロールメラミン等)である。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、スルホアミド樹脂、アニリン樹脂等が挙げられる。
【0062】
硬化剤の含有量は、塗料組成物中のフッ素樹脂100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましい。硬化剤が、1質量部以上であれば、塗膜の耐溶剤性と硬度に優れる。100質量部以下であれば、塗膜の加工性と耐衝撃性が優れる。
【0063】
液状である塗料組成物は、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。このような成分としては、着色剤、上述したフッ素樹脂以外の樹脂、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、硬化触媒等が挙げられる。
【0064】
本発明の塗料組成物は、また、本発明のフッ素樹脂含有溶液から前記有機溶剤が除去されたフッ素樹脂組成物を含む、塗料組成物であってもよい。この塗料組成物は、該フッ素樹脂組成物を溶媒に溶解または分散媒に分散させて得られる液状の塗料組成物であってもよい。好ましくは、前記有機溶剤等の液状媒体を含まないフッ素樹脂組成物を含む、塗料組成物である。液状媒体を含まないフッ素樹脂組成物を含む塗料組成物としては、粉末状の塗料組成物(いわゆる粉体塗料組成物)が好ましい。
【0065】
粉末状の塗料組成物は、本発明のフッ素樹脂含有溶液から前記有機溶剤を除去して粉末状にしたフッ素樹脂組成物を含有する。粉末状のフッ素樹脂組成物は、本発明のフッ素樹脂含有組成物に乾燥処理および粉砕処理等の公知の処理を施して製造できる。
粉末状の塗料組成物は、上記フッ素樹脂組成物に加えて、硬化剤を含有することが好ましい。硬化剤については、上述した液状の塗料組成物と同様であり、説明を省略する。
また、粉末状の塗料組成物は、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。このような成分としては、上述した液状の塗料組成物と同様であり、説明を省略する。
【0066】
[塗装物品]
本発明の塗装物品は、基材と、上記塗料組成物により上記基材上に形成された塗膜と、を有する。
塗装方法としては、例えば、スプレー塗装、エアスプレー塗装、はけ塗り、浸漬法、静電塗装法、ロールコート、フローコート等の方法が挙げられる。
塗膜は、基材への塗装後に、公知の溶融処理を施して得られた膜(溶融膜)であってもよい。
【0067】
基材の材質としては、無機物、有機物、有機無機複合材等が挙げられる。無機物としては、コンクリート、自然石、ガラス、金属(鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮、チタン等)等が挙げられる。有機物としては、プラスチック、ゴム、接着剤、木材等が挙げられる。有機無機複合材としては、繊維強化プラスチック、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリート等が挙げられる。
基材の形状、サイズ等は、特に限定はされない。
本発明の塗装物品の用途としては、輸送用機材(自動車、電車、航空機等)、土木部材(橋梁部材、鉄塔等)、産業機材(防水材シート、タンク、パイプ等)、建築部材(ビル外装、ドア、窓門部材、モニュメン卜、ポール等)、道路部材(道路の中央分離帯、ガードレール、防音壁等)、通信機材、電気機材、電子機材、太陽電池モジュール用表面シート、太陽電池モジュール用バックシート等が挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されない。
後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
フッ素樹脂含有溶液の固形分濃度は、JIS K 5601−1−2(2009年制定)によって加熱残分を測定して求めた。
フッ素樹脂含有溶液に含まれるフッ素樹脂のMnは、GPC(東ソ一社製、HLC−8220)にて測定した。展開溶媒としてテトラヒドロフラン、標準物質としてポリスチレンを用いた。
【0069】
[フッ素樹脂含有溶液]
実施例および比較例の各フッ素樹脂含有溶液は、以下のように調製した。
【0070】
<実施例1のフッ素樹脂含有溶液の調製>
撹拌機が装着された内容積2500mLのステンレス鋼製耐圧反応器に、7.32gのアミノ基含有化合物(BASF製、商品名「TINUVIN292」、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セパケートとメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセパケートとの混合物(質量比3:1))、7.32gのハイドロタルサイト(協和化学工業社製、商品名「KW500」、粒径:45μm以下:38%、45〜7μm:35%、75〜106μm:21%、106〜500μm:6%)、746gのキシレン、153gの4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、601gのシクロヘキシルビニルエーテル、を仕込み、窒素による脱気により液中の溶存酸素を除去した。さらに、上記反応器に701gのCTFEを導入して、徐々に昇温し、温度65℃に達した時点で、4.1gのtert−ブチルペルオキシピバレート(重合開始剤)を間欠的に添加することで重合を進行させた。
24時間後、反応器を水冷して反応を停止した。反応液を室温まで冷却した後、未反応単量体をパージし、得られた反応液の不溶解成分を、珪藻土をろ材としたろ過により除去し、さらにキシレンを適量加えて、固形分濃度60.0%の実施例1のフッ素樹脂含有溶液を得た。
なお、実施例1のフッ素樹脂含有溶液に含まれる含フッ素重合体のMnは、15500であった。
【0071】
<実施例2のフッ素樹脂含有溶液の調製>
実施例1のフッ素樹脂含有溶液の調製と同様にして重合を行い、得られた反応液にハイドロタルサイトKW500をさらに加えて、1時間撹拌した後、不溶解成分を、珪藻土をろ材としたろ過により除去し、さらにキシレンを適量加えて、固形分濃度60.0%の実施例2のフッ素樹脂含有溶液を得た。
なお、実施例2のフッ素樹脂含有溶液に含まれる含フッ素重合体のMnは、15500であった。
【0072】
<実施例3〜5および比較例1のフッ素樹脂含有溶液の調製>
重合時に添加するアミノ基含有化合物およびハイドロタルサイトの少なくとも一方の添加量を第1表に記載の量に変更した以外は、実施例1のフッ素樹脂含有溶液の調製と同様の操作を行い、実施例3〜5および比較例1のフッ素含有樹脂溶液を得た。
なお、実施例3〜5および比較例1のフッ素樹脂含有溶液に含まれる含フッ素重合体のMnは、それぞれ、15100、14900、14800、15400であった。
【0073】
<実施例6〜7>
重合時に添加するアミノ基含有化合物をTINUVIN292から、TINUVIN770DF(商品名、BASF製、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート)またはジエタノールアミンに変更し、アミノ基含有化合物およびハイドロタルサイトの添加量を第1表に記載の量にした以外は、実施例1のフッ素含有溶液の調製と同様の操作を行い、実施例6〜7のフッ素含有樹脂溶液を得た。
なお、実施例6〜7のフッ素樹脂含有溶液に含まれる含フッ素重合体のMnは、それぞれ、15000、14900であった。また、以上の各例で得られたフッ素樹脂含有溶液におけるハイドロタルサイトの含有量は、0.01質量%以下であった。
【0074】
<比較例2のフッ素樹脂含有溶液の調製>
重合時にアミノ基含有化合物を添加しなかった以外は、実施例1のフッ素樹脂含有溶液の調製と同様の操作を行い、比較例2のフッ素樹脂含有溶液を得た。
なお、比較例2のフッ素樹脂含有溶液に含まれる含フッ素重合体のMnは、16400であった。
【0075】
<比較例3のフッ素樹脂含有溶液の調製>
重合時に添加するアミノ基含有化合物の添加量を第1表に記載の量に変更し、重合時にハイドロタルサイトを添加しなかった以外は、実施例2のフッ素樹脂含有溶液の調製と同様の操作を行い、比較例3のフッ素樹脂含有溶液を得た。
なお、比較例3のフッ素樹脂含有溶液に含まれる含フッ素重合体のMnは、15600であった。
【0076】
<塩素イオン濃度>
それぞれのフッ素樹脂含有溶液の塩素イオン濃度を、以下の手順により、測定した。
各フッ素樹脂含有溶液0.5gと、キシレン5mLとを、PP(ポリプロピレン)チューブに入れ、手で1分間振とうして、フッ素樹脂含有溶液がキシレンで完全に溶解されてなる試料溶液を得た。
次に、試料溶液に純水3mLを加えて、手で激しく振とうし、混合液を得た。
続いて、混合液を遠心分離して、水とキシレンとを相分離した後、マイクロピペットを用いて混合液からキシレンの相(上層)を除去した。
さらに、キシレンの相が除去された混合液の遠心分離をして、残留キシレン(キシレンの相)と、水(水の相)と、を分離させた。いずれの遠心分離も、遠心分離装置(商品名「テーブルトップ冷却遠心機5500」、久保田社製)を用いて、12000rpmで5分間行った。
次に、分離回収した水(水層)を純水で5倍または10倍に希釈した測定液を準備して、イオンクロマトグラフィーによって測定液の塩素イオン濃度を測定した。イオンクロマトグラフィーによる測定は、イオンクロマトグラフICS−3000(商品名、サーモフィッシャー社製)を用いて行った。イオンクロマトグラフフィーによる測定条件は、以下の通りである。
【0077】
具体的には、濃度既知の標準液に対するピーク面積比にて検出量を測定し、塩素イオン(Cl
−)の量を換算した。なお、定量限界は、塩素イオン(Cl
−)では0.6ppm以下であった。
(イオンクロマトグラフ条件)
装置:Dionex製 ICS−1500 サプレッサ使用
分析カラム:Dionex IonPac AS14 内径4.0mm×長さ50mm
ガードカラム:Dionex IonPac AG14 内径4.0mm×長さ250mm
溶離液:3.5mmolNa
2CO
3、1.0mmolNaHCO
3
流量:1.5mL/min
以上の塩素イオン濃度の測定結果を第1表にまとめて示す。
【0078】
[評価試験]
それぞれのフッ素樹脂含有溶液を用いて、以下の評価試験を実施した。
【0079】
<貯蔵安定性>
それぞれのフッ素樹脂含有溶液を70℃で2週間加温し、加温前後のMnを測定し、(加温後のMn)/(加温前のMn)を分子量増加率に基づいて、貯蔵安定性をそれぞれ評価した。
【0080】
<成膜直後の光沢性>
それぞれのフッ素樹脂含有溶液を蒸発乾固、粉砕し、粉末状のフッ素樹脂組成物をそれぞれ得た。得られた粉末状のフッ素樹脂組成物のそれぞれに関して、その100質量部に対して、酸化チタン(デュポン社製、Ti−Pure(登録商標) R960)67質量部、ブロック化イソシアネート系硬化剤(エボニック社製、ベスタゴン(登録商標) B1530)25質量部、硬化触媒であるジブチルスズジラウレートのキシレン溶液(10,000倍希釈品)0.012質量部、脱ガス剤であるベンゾイン0.8質量部、表面調整剤(ビックケミー社製、BYK(登録商標)−360P)2質量部を加え、高速ミキサ(佑崎有限公司社製)を用いて、10〜30分程度混合し、粉末状の混合物をそれぞれ得た。
2軸押出機(サーモプリズム社製、16mm押出機)を用いて、120℃のバレル設定温度にて、粉末状の混合物を溶融混練して、ペレットを得た。次に、ペレットを粉砕機(FRITSCH社製、ロータースピードミルP14)を用いて常温で粉砕し、150メッシュのふるいによって分級して、平均粒子径が約40μmの粉体塗料組成物を、それぞれ得た。
それぞれの粉体塗料組成物を用いて、クロメート処理を行ったアルミニウム板の一面に、静電塗装機(小野田セメント社製、GX3600C)にて静電塗装を行い、200℃雰囲気中で20分間保持した。そして、これを放置して室温まで冷却し、厚さ55〜65μmの塗膜(硬化膜)付きアルミニウム板を得た。
光沢計(日本電色工業社製、PG−1M)を用いて、塗膜を形成後24時間後に、塗膜の表面の20゜光沢度を測定した。
【0081】
<フロー性>
それぞれのフッ素樹脂含有溶液を蒸発乾固、粉砕し、粉末状のフッ素樹脂組成物をそれぞれ得た。錠剤成形機を用いて、圧力20MPa、10秒の条件で粉末状のフッ素樹脂組成物0.5gを錠剤状に成形した。
錠剤状のフッ素樹脂組成物をアルミ板に両面テープを用いて貼りつけ、60度の傾斜をつけた状態で200℃20分加温し、流動した距離を測定した。流動した距離に基づいて、以下の基準によりフロー性の評価をした。
◎:流動距離が100mm以上
○:流動距離が60mm以上100mm未満
△:流動距離が30mm以上60mm未満
×:流動距離が30mm未満
【0082】
<評価結果>
以上の評価試験の結果を第1表に示す。なお、第1表における括弧内の数値は、フッ素樹脂の含有量(固形分)100質量部に対する各成分の含有量(質量部)を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
第1表に示すように、実施例のフッ素樹脂含有溶液はいずれも、塩素イオン濃度が50質量ppm以下であるため、これを用いて得られた塗料組成物によって作製された塗膜は、成膜直後の塗膜の光沢性に優れていた。また、実施例のフッ素樹脂含有溶液はいずれも、貯蔵安定性にも優れていた。
また、実施例1〜7の対比から、塩素イオン濃度が3〜30質量ppmであれば(実施例4および5)、フロー性にも優れることが示された。
【0085】
一方、比較例1および比較例3のフッ素樹脂含有溶液は、塩素イオン濃度が50質量ppmを超えていたため、これを用いて得られた塗料組成物によって作製された塗膜は、成膜直後の塗膜の光沢性が不充分であった。
ここで、比較例1および比較例3は、フッ素樹脂を重合する際における、アミノ基含有化合物の量に対するハイドロタルサイトの量の割合が1〜4の範囲外であった。そのため、ハイドロタルサイトとともに不溶解成分としてフッ素樹脂含有溶液の系外に排出される塩素イオン量が少なくなり、塩素イオン濃度が上昇したと考えられる。
【0086】
また、比較例2のフッ素樹脂含有溶液は、塩素イオン濃度が低いものの、アミノ基含有化合物を含有しないため、貯蔵安定性が悪かった(加温後にフッ素樹脂含有溶液がゲル化して、フッ素樹脂のMnを測定できなかった)。また、比較例2のフッ素樹脂含有溶液を用いて得られた塗料組成物を作製する際にゲル化してしまい、粉体組成物を製造できず、成膜直後の光沢性の評価できなかった。
なお、2016年01月14日に出願された日本特許出願2016−005279号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。