【文献】
第4章 冷媒・冷凍機油・ブライン,上級標準テキスト冷凍空調技術冷凍編,社団法人日本冷凍空調学会,1988年,p.73-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不飽和フッ化炭化水素化合物としてトリフルオロエチレンおよびトリフルオロエチレン以外のヒドロフルオロオレフィンを含む熱サイクル用作動媒体(不飽和フッ化炭化水素化合物として、トリフルオロエチレンならびに2,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび/または1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、飽和フッ素炭化水素化合物としてジフルオロメタンを含む熱サイクル用作動媒体を除く)と、
エーテル系冷凍機油とエステル系冷凍機油から選ばれる少なくとも一種であり、絶縁破壊電圧が25kV以上で、水酸基価が0.1mgKOH/g以下であり、かつアニリン点が−100℃以上0℃以下である冷凍機油と、
を含むことを特徴とする熱サイクルシステム用組成物。
前記トリフルオロエチレン以外のヒドロフルオロオレフィンとして、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2−ジフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、1,1,2−トリフルオロプロペン、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
前記飽和フッ化炭化水素化合物として、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロヨードメタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、およびヘプタフルオロシクロペンタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項5に記載の熱サイクルシステム用組成物。
前記不飽和フッ化炭化水素化合物がトリフルオロエチレンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対するトリフルオロエチレンの含有量が、20〜80質量%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
前記飽和フッ化炭化水素化合物がジフルオロメタンを含み、前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する前記ジフルオロメタンの含有量が、20〜80質量%である請求項5〜7のいずれか一項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機から選ばれる少なくとも一種である請求項9に記載の熱サイクルシステム。
前記熱サイクルシステムが圧縮機構を有し、該圧縮機構の前記熱サイクルシステム用組成物と接触する接触部が、エンジニアリングプラスチック、有機膜、および無機膜から選ばれる少なくとも一種から構成される、請求項9または10に記載の熱サイクルシステム。
前記エンジニアリングプラスチックが、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、およびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも一種である、請求項11に記載の熱サイクルシステム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[熱サイクルシステム用組成物]
熱サイクルシステム用組成物は、不飽和フッ化炭化水素化合物を含む熱サイクル用作動媒体と、冷凍機油とを含む。
【0021】
本発明の熱サイクルシステム用組成物が適用される熱サイクルシステムとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルシステムが特に制限なく用いられる。熱サイクルシステム、例えば、冷凍サイクルにおいては、気体の作動媒体を圧縮機で圧縮し、凝縮器で冷却して圧力が高い液体をつくり、膨張弁で圧力を下げ、蒸発器で低温気化させて気化熱で熱を奪う機構を有する。
【0022】
このような熱サイクルシステムに不飽和フッ化炭化水素化合物を作動媒体として用いると、温度条件、圧力条件によって、不飽和フッ化炭化水素化合物が不安定化し、自己分解が生じて熱サイクル用作動媒体の機能が低下する場合がある。本発明の熱サイクルシステム用組成物においては、冷凍機油を共存させることで、不飽和フッ化炭化水素化合物の熱サイクル作動媒体としての潤滑性を高め、効率的なサイクル性能を発揮することが可能となる。
以下、本発明の熱サイクルシステム用組成物が含有する各成分を説明する。
【0023】
<作動媒体>
本発明の熱サイクルシステム用組成物は作動媒体として、下記一般式(I)で表され、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1個以上有する化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を含有する。
C
xF
yR
z …………(I)
(式中、RはHまたはClであり、xは2〜6の整数、yは1〜12の整数、zは0〜11の整数であり、2x≧y+z≧2である。)
【0024】
上記一般式(I)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(I)は、炭素原子Cの数xが2〜6の含フッ素有機化合物を表している。炭素数が2〜6の含フッ素有機化合物であれば、作動媒体として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。
該一般式(I)において、C
xで表されるx個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合などが含まれ、炭素−炭素の不飽和結合を1以上有する。炭素−炭素二重結合等の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1であるものが好ましい。
また、一般式(I)において、Rは、HまたはClを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊するおそれが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。 また、上記一般式(I)において、y+zの範囲は4以上であることが好ましい。
【0025】
[不飽和フッ化炭化水素化合物]
本発明において、熱サイクルシステム用作動媒体として用いられる不飽和フッ化炭化水素化合物としては、上記一般式(I)で表される化合物が挙げられ、例えば、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を好ましいものとして挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン類、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン類、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン類、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンなどが挙げられる。
【0026】
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物が好ましく、炭素数2のエチレンのフッ化物がより好ましい。この炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、トリフルオロエチレン(HFO−1123)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明に係る作動媒体は、上記一般式(I)の不飽和フッ化炭化水素化合物に加えて、必要に応じて、後述する任意成分を含んでいてもよい。作動媒体の100質量%に対する上記一般式(I)の不飽和フッ化炭化水素化合物の含有量は、10質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜80質量%がより一層好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0028】
(HFO−1123)
以下、上記一般式(I)の不飽和フッ化炭化水素化合物としてHFO−1123を必須の成分として含有する作動媒体を例に説明するが、ここで、HFO−1123をHFO−1123以外の上記一般式(I)の不飽和フッ化炭化水素化合物に置き換えることもできる。
まず、HFO−1123の作動媒体としての特性を、特に、R410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の擬似共沸混合物)との相対比較において表1に示す。サイクル性能は、後述する方法で求められる成績係数と冷凍能力で示される。HFO−1123の成績係数と冷凍能力は、R410Aを基準(1.000)とした相対値(以下、相対成績係数および相対冷凍能力という)で示す。地球温暖化係数(GWP)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)に示される、または該方法に準じて測定された100年の値である。本明細書において、GWPは特に断りのない限りこの値をいう。作動媒体が混合物からなる場合、後述するとおり温度勾配は、作動媒体を評価する上で重要なファクターとなり、値は小さい方が好ましい。
【0030】
[任意成分]
本発明に用いる作動媒体は、本発明の効果を損なわない範囲でHFO−1123以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を任意に含有してもよい。このような任意の化合物(任意成分)としては、例えば、HFC、HFO−1123以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)、これら以外のHFO−1123とともに気化、液化する他の成分等が挙げられる。任意成分としては、HFC、HFO−1123以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)が好ましい。
【0031】
任意成分としては、HFO−1123と組み合わせて熱サイクルに用いた際に、上記相対成績係数、相対冷凍能力をより高める作用を有しながら、GWPや温度勾配を許容の範囲にとどめられる化合物が好ましい。作動媒体がHFO−1123との組合せにおいてこのような化合物を含むと、GWPを低く維持しながら、より良好なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配による影響も少ない。
【0032】
(温度勾配)
作動媒体が任意成分を含有する場合、HFO−1123と任意成分が共沸組成である場合を除いて相当の温度勾配を有する。作動媒体の温度勾配は、任意成分の種類およびHFO−1123と任意成分との混合割合により異なる。
【0033】
作動媒体として混合物を用いる場合、通常、共沸またはR410Aのような擬似共沸の混合物が好ましく用いられる。非共沸組成物は、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際に組成変化を生じる問題点を有している。さらに、冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合、冷凍空調機器内の冷媒組成が変化する可能性が極めて大きく、初期状態への冷媒組成の復元が困難である。一方、共沸または擬似共沸の混合物であれば上記問題が回避できる。
【0034】
混合物の作動媒体における使用可能性をはかる指標として、一般に「温度勾配」が用いられる。温度勾配は、熱交換器、例えば、蒸発器における蒸発の、または凝縮器における凝縮の、開始温度と終了温度が異なる性質、と定義される。共沸混合物においては、温度勾配は0であり、擬似共沸混合物では、例えばR410Aの温度勾配が0.2であるように、温度勾配は極めて0に近い。
【0035】
温度勾配が大きいと、例えば、蒸発器における入口温度が低下することで着霜の可能性が大きくなり問題である。さらに、熱サイクルシステムにおいては、熱交換効率の向上をはかるために熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体を対向流にすることが一般的であり、安定運転状態においては該熱源流体の温度差が小さいことから、温度勾配の大きい非共沸混合媒体の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、混合物を作動媒体として使用する場合は適切な温度勾配を有する作動媒体が望まれる。
【0036】
(HFC)
任意成分のHFCとしては、上記観点から選択されることが好ましい。ここで、HFCは、HFO−1123に比べてGWPが高いことが知られている。したがって、HFO−1123と組合せるHFCとしては、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに加えて、特にGWPを許容の範囲にとどめる観点から、適宜選択されることが好ましい。
【0037】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0038】
HFCとしては、炭素数1〜5のアルカンのフッ化物等が挙げられ、例えば、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン(HFC−32)、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、トリフルオロヨードメタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が好ましいものとして挙げられる。
【0039】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、HFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、および1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)が好ましく、HFC−32、HFC−152a、HFC−134a、およびHFC−125がより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
作動媒体(100質量%)中のHFCの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFC−32からなる作動媒体の場合、HFC−32の含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数および冷凍能力が向上する。HFO−1123とHFC−134aからなる作動媒体の場合、HFC−134aの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0041】
また、上記好ましいHFCのGWPは、HFC−32については675であり、HFC−134aについては1430であり、HFC−125については3500である。得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、任意成分のHFCとしては、HFC−32が最も好ましい。
【0042】
また、HFO−1123とHFC−32とは、質量比で99:1〜1:99の組成範囲で共沸に近い擬似共沸混合物を形成可能であり、両者の混合物はほぼ組成範囲を選ばずに温度勾配が0に近い。この点においてもHFO−1123と組合せるHFCとしてはHFC−32が有利である。
【0043】
本発明に用いる作動媒体において、HFO−1123とともにHFC−32を用いる場合、作動媒体の100質量%に対するHFC−32の含有量は、具体的には、20質量%以上が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0044】
(HFO−1123以外のHFO)
HFO−1123以外のHFOについても、上記HFCと同様の観点から選択されることが好ましい。なお、HFO−1123以外であってもHFOであれば、GWPはHFCに比べて桁違いに低い。したがって、HFO−1123と組合せるHFO−1123以外のHFOとしては、GWPを考慮するよりも、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに特に留意して、適宜選択されることが好ましい。
【0045】
HFO−1123以外のHFOとしては、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、(E)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、(Z)−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、(E)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、(Z)−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
【0046】
なかでも、HFO−1123以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、耐久性、成績係数が優れる点から、HFO−1234yf(GWP=4)、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)((E)体、(Z)体共にGWP=6)が好ましく、HFO−1234yfがより好ましい。HFO−1123以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
作動媒体(100質量%)中のHFO−1123以外のHFOの含有量は、作動媒体の要求特性に応じ任意に選択可能である。例えば、HFO−1123とHFO−1234yfまたはHFO−1234zeとからなる作動媒体の場合、HFO−1234yfまたはHFO−1234zeの含有量が1〜99質量%の範囲で成績係数が向上する。
【0048】
本発明に用いる作動媒体が、HFO−1123およびHFO−1234yfを含む場合の、好ましい組成範囲を組成範囲(S)として以下に示す。
なお、組成範囲(S)を示す各式において、各化合物の略称は、HFO−1123とHFO−1234yfと他の成分(HFC−32等)の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
【0049】
<組成範囲(S)>
HFO−1123+HFO−1234yf≧70質量%
95質量%≧HFO−1123/(HFO−1123+HFO−1234yf)≧35質量%
【0050】
組成範囲(S)の作動媒体は、GWPが極めて低く、温度勾配が小さい。また、成績係数、冷凍能力および臨界温度の観点からも従来のR410Aに代替し得る冷凍サイクル性能を発現できる。
【0051】
組成範囲(S)の作動媒体において、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合は、40〜95質量%がより好ましく、50〜90質量%がさらに好ましく、50〜85質量%が特に好ましく、60〜85質量%がもっとも好ましい。
【0052】
また、作動媒体100質量%中のHFO−1123とHFO−1234yfの合計の含有量は、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%がさらに好ましく、95〜100質量%が特に好ましい。
【0053】
また、本発明に用いる作動媒体は、HFO−1123とHFCとHFO−1123以外のHFOとの組合せであってもよい。この場合、作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234yfからなることが好ましく、作動媒体全量における各化合物の割合は以下の範囲が好ましい。
10質量%≦HFO−1123≦80質量%
10質量%≦HFC−32≦75質量%
5質量%≦HFO−1234yf≦60質量%
【0054】
さらに、本発明に用いる作動媒体が、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を含有する場合、好ましい組成範囲(P)を以下に示す。
なお、組成範囲(P)を示す各式において、各化合物の略称は、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。組成範囲(R)、組成範囲(L)、組成範囲(M)においても同様である。また、以下に記載の組成範囲では、具体的に記載したHFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量が、熱サイクル用作動媒体全量に対して90質量%を超え100質量%以下であることが好ましい。
【0055】
<組成範囲(P)>
70質量%≦HFO−1123+HFO−1234yf
30質量%≦HFO−1123≦80質量%
0質量%<HFO−1234yf≦40質量%
0質量%<HFC−32≦30質量%
HFO−1123/HFO−1234yf≦95/5質量%
【0056】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、この作動媒体は、GWPが極めて低く抑えられ、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、一定の能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。ここで、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対する、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量は70質量%以上であることが好ましい。
【0057】
また、本発明に用いる作動媒体のより好ましい組成としては、HFO−1123とHFO−1234yfとHFC−32の合計量に対して、HFO−1123を30〜70質量%、HFO−1234yfを4〜40質量%、およびHFC−32を0〜30質量%の割合で含有し、かつ、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下である組成が挙げられる。前記範囲の作動媒体は、上記の効果が高まるのに加え、HFO−1123の自己分解反応が抑制され、耐久性の高い作動媒体である。相対成績係数の観点からは、HFC−32の含有量は5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。
【0058】
また、本発明に用いる作動媒体がHFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32を含む場合の、別の好ましい組成を示すが、作動媒体全量に対するHFO−1123の含有量が70モル%以下であれば、HFO−1123の自己分解反応が抑制され、耐久性の高い作動媒体が得られる。
さらに好ましい組成範囲(R)を、以下に示す。
<組成範囲(R)>
10質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦50質量%
30質量%<HFC−32≦75質量%
【0059】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が小さく、高い能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0060】
上記組成範囲(R)を有する本発明の作動媒体において、好ましい範囲を、以下に示す。
20質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦40質量%
30質量%<HFC−32≦75質量%
【0061】
上記組成を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配がより小さく、より高い能力と効率を有することで良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0062】
上記組成範囲(R)を有する本発明の作動媒体において、より好ましい組成範囲(L)を、以下に示す。組成範囲(M)がさらに好ましい。
<組成範囲(L)>
10質量%≦HFO−1123<70質量%
0質量%<HFO−1234yf≦50質量%
30質量%<HFC−32≦44質量%
【0063】
<組成範囲(M)>
20質量%≦HFO−1123<70質量%
5質量%≦HFO−1234yf≦40質量%
30質量%<HFC−32≦44質量%
【0064】
上記組成範囲(M)を有する作動媒体は、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32がそれぞれ有する特性が特にバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。すなわち、この作動媒体は、GWPの上限が300以下に低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、熱サイクルに用いた際に、温度勾配が5.8未満と小さく、相対成績係数および相対冷凍能力が1に近く良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
この範囲にあると温度勾配の上限が下がり、相対成績係数×相対冷凍能力の下限が上がる。相対成績係数が大きい点から8質量%≦HFO−1234yfがより好ましい。また、相対冷凍能力が大きい点からHFO−1234yf≦35質量%がより好ましい。
【0065】
(他の任意成分)
本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を含有してもよい。他の任意成分としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0066】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
上記作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1〜5質量%が好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0068】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0070】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記作動媒体がHCFOを含む場合、作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%未満であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。HCFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0072】
本発明の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体が上記のような他の任意成分を含有する場合、作動媒体における他の任意成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%未満であり、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0073】
<冷凍機油>
本発明の熱サイクルシステム用組成物には、上記作動媒体に加え、該作動媒体の潤滑特性を改善可能な冷凍機油を含んでなる。
【0074】
本発明における冷凍機油の絶縁破壊電圧は、25kV以上である。絶縁破壊電圧が25kV以上の冷凍機油を使用することで、駆動のための電磁石と冷凍機油が直接接する熱サイクルシステムにおいても絶縁を維持し、安定した運転ができる。絶縁破壊電圧は30kV以上がより好ましく、40kV以上がさらに好ましい。なお、本明細書における絶縁破壊電圧は、JIS C 2101に準拠して測定されたものである。なお、本明細書における絶縁破壊電圧は、冷凍機油の絶縁破壊電圧はカタログ値か、JIS C 2101に基づく簡易確認で25kVまたは50kV以上か以下かを判定した。
【0075】
さらに、この冷凍機油の水酸基価は、0.1mgKOH/g以下である。冷凍機油中の水酸基価が0.1mgKOH/g以下と十分に低いものとしておくことで、冷凍機油や熱サイクル用作動媒体の重合、分解反応による劣化を引き起こす原因となるヒドロキシラジカルの発生を抑制できる。ヒドロキシラジカルは、炭素−炭素二重結合を有する作動媒体を使用した系においては、該二重結合を攻撃して分解させ、その際に酸が発生すると推測される。酸が発生すると、熱サイクルシステム内において、システムを構成する部材等が腐食や劣化等が生じるおそれがある。そのため、上記のように水酸基価を低くした本発明においては、酸の発生を有意に抑制でき熱サイクルシステムの安定した運転ができる。この水酸基価は、0.05mgKOH/g以下がより好ましい。なお、本明細書における水酸基価は、JIS K 2501に準拠して測定されたものである。
【0076】
さらに、この冷凍機油のアニリン点は、−100℃以上0℃以下である。「アニリン点」は、例えば炭化水素系溶剤等の溶解性を示す数値であり、試料(ここでは冷凍機油)を等容積のアニリンと混合して冷やしたときに、互いに溶解し合えなくなって濁りがみえ始めたときの温度を表すものであり、JIS K 2256に準じて測定した値である。なお、これらの値は、熱サイクル用作動媒体が溶解していない状態の冷凍機油自体の値である。
【0077】
本発明の一般式(I)で表される熱サイクル用作動媒体を含む熱サイクルシステム用組成物を用いる熱サイクルシステムにおいては、該作動媒体が炭素−炭素二重結合を有するため、後述するように、通常、熱サイクルシステムを構成する部材として使用される銅等の金属製の部材の代わりに、熱サイクルシステムの説明中で記載しているような耐酸性の樹脂材料等を適用することがある。ところで、このような樹脂材料であっても、使用する冷凍機油の種類によっては、樹脂材料が冷凍機油に起因して収縮や膨潤等による不具合が生じる場合がある。そこで、冷凍機油のアニリン点を上述した所定の範囲(−100℃以上0℃以下)とすることで、樹脂材料の膨潤/収縮変形を防止することができ、特に、圧縮機の有する、圧縮機構における摺動部材、電動機の絶縁材料や、熱サイクルシステム内部のシール部材、等において劣化や損傷が生じて、システムが機能しなくなったり、停止したりすることを回避できる。
【0078】
具体的には、アニリン点が低すぎると、冷凍機油が摺動部材や絶縁材料を構成する樹脂材料に浸透し易くなり、摺動部材や絶縁材料が膨潤し易くなる。摺動部材が膨潤変形してしまうと、摺動部での隙間(ギャップ)を所望とする長さに維持することができない。その結果、摺動抵抗の増大を招くおそれがある。一方、アニリン点が高すぎると、冷凍機油が摺動部材や絶縁材料に浸透し難くなり、摺動部材や絶縁材料が収縮し易くなる。摺動部材が収縮変形してしまうと、摺動部材の硬度が高くなり、摺動部の剛性が低下する。その結果、圧縮機の振動によって摺動部材が破損するおそれがある。
【0079】
また、電動機の絶縁材料(絶縁被覆材料や絶縁フィルム等)が膨潤変形してしまうと、その絶縁材料の絶縁性が低下してしまう。絶縁材料が収縮変形してしまうと、上述した摺動部材の場合と同様に絶縁材料が破損するおそれがあり、この場合もまた絶縁性が低下してしまう。ところが、上記のように冷凍機油のアニリン点を所定の範囲とすることで、摺動部材や絶縁材料の膨潤/収縮変形を抑制できるため、このような不具合を回避することができる。
【0080】
冷凍機油の40℃における動粘度は、潤滑性や圧縮機の密閉性が低下せず、低温条件下で作動媒体に対して相溶性が満足にあり、冷凍機圧縮機の潤滑不良の抑制や蒸発器における熱交換を十分に行うという観点から、5〜200mm
2/sが好ましく、5〜100mm
2/sがより好ましい。また、100℃における動粘度は、消費電力および耐摩耗性を適正な範囲に維持できる観点から、1〜100mm
2/sが好ましく、2〜30mm
2/sであることがより好ましい。なお、本明細書における動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定されたものである。
【0081】
本発明に使用する冷凍機油として具体的には、含酸素系合成油(エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油、ポリグリコール系冷凍機油等)等が挙げられる。
その中でも、本発明の必須の作動媒体成分であるフッ化炭化水素化合物との相溶性の観点からエステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油が適している。さらに、エステル系冷凍機油としてはポリオールエステル系冷凍機油が、エーテル系冷凍機油としてはポリビニルエーテル系冷凍機油が好ましいものとして挙げられる。
【0082】
なお、特に、エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油の場合には、冷凍機油を構成する原子として炭素原子と酸素原子が代表的に挙げられる。この炭素原子と酸素原子の比率(炭素/酸素モル比)により、小さすぎると吸湿性が高くなり、大きすぎると作動媒体との相溶性が低下する問題がある。この観点より、冷凍機油の炭素原子と酸素原子の比率はモル比で2〜7.5が適している。
【0083】
〈エステル系冷凍機油〉
エステル系冷凍機油としては、化学的な安定性の面で、二塩基酸と1価アルコールとの二塩基酸エステル系冷凍機油、ポリオールと脂肪酸とのポリオールエステル系冷凍機油、またはポリオールと多価塩基酸と1価アルコール(または脂肪酸)とのコンプレックスエステル冷凍機油、ポリオール炭酸エステル冷凍機油等が基油成分として挙げられる。
【0084】
(二塩基酸エステル系冷凍機油)
二塩基酸エステル系冷凍機油としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸、特に、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分岐アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。この二塩基酸エステル系冷凍機油としては、具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0085】
(ポリオールエステル系冷凍機油)
ポリオールエステル系冷凍機油とは、多価アルコールと脂肪酸(カルボン酸)とから合成されるエステルである。
【0086】
ポリオールエステル系冷凍機油を構成する多価アルコールとしては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等)、水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜3量体)、1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物等)が挙げられ、エステルを構成する多価アルコールとしては、上記の1種でもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0087】
ポリオールエステル系冷凍機油を構成する脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。直鎖の脂肪酸、分岐を有する脂肪酸が好ましい。直鎖の脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、カルボキシ基に結合する炭化水素基は、全て飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素を有していてもよい。さらに、分岐を有する脂肪酸としては、2−メチルプロパン酸、2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、2,2−ジメチルプロパン酸、2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸、2−メチルヘキサン酸、3−メチルヘキサン酸、4−メチルヘキサン酸、5−メチルヘキサン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2,4−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、3,4−ジメチルペンタン酸、4,4−ジメチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2,3−トリメチルブタン酸、2,3,3−トリメチルブタン酸、2−エチル−2−メチルブタン酸、2−エチル−3−メチルブタン酸、2−メチルヘプタン酸、3−メチルヘプタン酸、4−メチルヘプタン酸、5−メチルヘプタン酸、6−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸、4−エチルヘキサン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2,3−ジメチルヘキサン酸、2,4−ジメチルヘキサン酸、2,5−ジメチルヘキサン酸、3,3−ジメチルヘキサン酸、3,4−ジメチルヘキサン酸、3,5−ジメチルヘキサン酸、4,4−ジメチルヘキサン酸、4,5−ジメチルヘキサン酸、5,5−ジメチルヘキサン酸、2−プロピルペンタン酸、2−メチルオクタン酸、3−メチルオクタン酸、4−メチルオクタン酸、5−メチルオクタン酸、6−メチルオクタン酸、7−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、2,3−ジメチルヘプタン酸、2,4−ジメチルヘプタン酸、2,5−ジメチルヘプタン酸、2,6−ジメチルヘプタン酸、3,3−ジメチルヘプタン酸、3,4−ジメチルヘプタン酸、3,5−ジメチルヘプタン酸、3,6−ジメチルヘプタン酸、4,4−ジメチルヘプタン酸、4,5−ジメチルヘプタン酸、4,6−ジメチルヘプタン酸、5,5−ジメチルヘプタン酸、5,6−ジメチルヘプタン酸、6,6−ジメチルヘプタン酸、2−メチル−2−エチルヘキサン酸、2−メチル−3−エチルヘキサン酸、2−メチル−4−エチルヘキサン酸、3−メチル−2−エチルヘキサン酸、3−メチル−3−エチルヘキサン酸、3−メチル−4−エチルヘキサン酸、4−メチル−2−エチルヘキサン酸、4−メチル−3−エチルヘキサン酸、4−メチル−4−エチルヘキサン酸、5−メチル−2−エチルヘキサン酸、5−メチル−3−エチルヘキサン酸、5−メチル−4−エチルヘキサン酸、2−エチルヘプタン酸、3−メチルオクタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2−エチル−2,3,3−トリメチル酪酸、2,2,4,4−テトラメチルペンタン酸、2,2,3,3−テトラメチルペンタン酸、2,2,3,4−テトラメチルペンタン酸、2,2−ジイソプロピルプロパン酸などが挙げられる。脂肪酸は、これらの中から選ばれる1種または2種以上の脂肪酸とのエステルでも構わない。
【0088】
エステルを構成するポリオールは1種類でもよく、2種以上の混合物でもよい。また、エステルを構成する脂肪酸は、単一成分でもよく、2種以上の脂肪酸とのエステルでもよい。および脂肪酸は、各々1種類でもよく、2種類以上の混合物でもよい。また、ポリオールエステル系冷凍機油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0089】
なかでも、特に好ましいポリオールエステル系冷凍機油としては、下記化合物(a)〜(c):
(a)水酸基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体、
(b)カルボキシ基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体、ならびに
(c)カルボキシ基を1個有する化合物またはその誘導体、および/または、水酸基を1個有する化合物またはその誘導体
を用いて得られるエステルを含有し、上記一般式(I)に記載の作動媒体と共に用いられることを特徴とするものであり、潤滑性、シール性、作動媒体との相溶性、熱・化学的安定性、電気絶縁性等をバランスよく十分に満足し、圧縮機の潤滑不良や冷凍効率の低下を十分に防止することが可能なものである。
【0090】
このエステルを構成する化合物(a)は、水酸基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体である。適正な粘度を確保すること、および上記一般式(I)に記載の作動媒体との相溶性の点から、水酸基の個数は2〜6個であることが好ましい。また、アルコール成分として水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体のみを用いると、得られるエステルにおいて十分な粘度が得られず、潤滑不良や冷凍効率の低下が起こりやすくなり、熱・化学安定性や低温流動性が不十分となる。
【0091】
化合物(a)としては、具体的には、多価アルコール、多価フェノール、多価アミノアルコールおよびこれらの縮合物、ならびにこれらの化合物の水酸基が酢酸等のカルボン酸でエステル化された化合物等が挙げられるが、中でも、多価アルコールもしくはその縮合物またはその誘導体を用いると、作動媒体との相溶性、電気絶縁性および熱安定性がより高められる傾向にあるので好ましい。
【0092】
かかる多価アルコールの炭素数は特に制限されないが、炭素数2〜12の多価アルコールが好ましく用いられる。このような多価アルコールとしては、2価アルコール(ジオール)としては、具体的には例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2ーメチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。また、3価以上のアルコールとしては、具体的には例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜3量体)、1,3,5ーペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物などが挙げられる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0093】
また、このエステルにおいては、上述の通り、化合物(a)として水酸基がカルボン酸でエステル化されたものを用いることができる。このような誘導体としては、水酸基が低級カルボン酸でエステル化された化合物が好ましく、具体的には、上記の多価アルコールの説明において例示された化合物の酢酸エステルまたはプロピオン酸エステルが好ましく用いられる。
【0094】
上記エステルを構成する化合物(b)は、カルボキシ基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体である。カルボキシ基の個数は2〜6個であることが好ましい。酸成分としてカルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体のみを用いると、得られるエステルにおいて粘度が不十分となり、潤滑不良や冷凍効率の低下が起こりやすくなったり、熱・化学的安定性や低温流動性が不十分となる。
【0095】
化合物(b)としては、具体的には、2〜6価カルボン酸、ならびにその酸無水物、エステル、酸ハロゲン化物等のカルボン酸誘導体が挙げられる。
【0096】
かかる2〜6価カルボン酸の炭素数は特に制限されないが、炭素数2〜10の2価カルボン酸が好ましく用いられる。このような2〜6価カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2−エチル−2−メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、3−メチルアジピン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、等が挙げられるが、これらの中でも2価カルボン酸が好ましく、さらには、酸化安定性の点から飽和脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0097】
また、このエステルにおいては、上述の通り、化合物(b)としてカルボキシ基を2個有する化合物の誘導体を用いることができる。かかる誘導体としては、エステル、酸無水物、酸ハロゲン化物等が挙げられるが、中でも、上記の2価カルボン酸と低級アルコール(より好ましくはメタノールまたはエタノール)とのエステルが好ましく用いられる。
【0098】
上記エステルを構成する化合物(c)は、カルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体および/または水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体である。この化合物(c)として、カルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体と、水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体とのうちのいずれか一方を単独で用いてもよく、双方の混合物として用いてもよい。なお、酸成分としてカルボキシ基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体のみを用い、かつアルコール成分として水酸基を2個以上有する化合物もしくはその誘導体のみを用いた場合には、熱・化学的安定性が不十分となる。
【0099】
このカルボキシ基を1個有する化合物もしくはその誘導体としては、具体的には、1価脂肪酸、ならびにその酸無水物、エステルおよび酸ハロゲン化物が挙げられる。かかる1価脂肪酸の炭素数は特に制限されず、通常、炭素数1〜24のものが用いられるが、1価脂肪酸の炭素数は3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましく、8以上のものが特に好ましい。1価脂肪酸の炭素数が3未満であると、得られるエステルが本来的に有する潤滑性が不十分となると共に、上記一般式(I)に記載の作動媒体との相溶性が過剰に高くなり、作動媒体により希釈されて粘度が低下して、シール性の低下による冷凍効率の低下や潤滑不良が起こりやすくなる傾向にある。
【0100】
また、当該1価脂肪酸の炭素数は、22以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。1価脂肪酸の炭素数が22を超えると、得られるエステルと作動媒体との相溶性が不十分となり、油戻り性の低下による圧縮機の潤滑不良や冷凍効率の低下が起こりやすくなる傾向にある。
【0101】
化合物(c)としての1価脂肪酸は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよいが、潤滑性の点からは直鎖状の1価脂肪酸が好ましく、また、熱・加水分解安定性の点からは分岐鎖状の1価脂肪酸が好ましい。また、当該1価脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
【0102】
この化合物(c)としての1価脂肪酸としては、具体的には、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分岐のもの、あるいはα炭素原子が4級炭素原子であるもの(ネオ酸)等が挙げられるが、これらの中でも、吉草酸(n−ペンタン酸)、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、エナント酸(n−ヘプタン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、ペラルゴン酸(n−ノナン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、ラウリン酸(n−ドデカン酸)、ミリスチン酸(n−テトラデカン酸)、パルミチン酸(n−ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(n−オクタデカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸が好ましく用いられる。
【0103】
また、この水酸基を1個有する化合物もしくはその誘導体としては、具体的には、1価アルコール、1価フェノール、1価アミノアルコール、ならびにこれらの化合物の水酸基が酢酸等のカルボン酸によりエステル化された化合物等が挙げられる。これらの化合物の炭素数は特に制限されないが、得られるエステルにおいて潤滑性と作動媒体との相溶性との双方がより高められる点から、炭素数1〜24のものが好ましく、中でも、炭素数3〜18の直鎖状の1価アルコール、炭素数3〜18の分岐状の1価アルコールおよび炭素数5〜10の1価シクロアルコールが好ましい。
【0104】
炭素数が上記の好ましい範囲内である1価アルコールとしては、具体的には、直鎖状または分岐状のプロパノール(n−プロパノール、1メチルエタノール等を含む)、直鎖状または分岐状のブタノール(n−ブタノール、1−メチルプロパノール、2−メチルプロパノール等を含む)、直鎖状または分岐状のペンタノール(n−ペンタノール、1−メチルブタノール、2−メチルブタノール、3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状または分岐状のヘキサノール(n−ヘキサノール、1−メチルペンタノール、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール等を含む)、直鎖状または分岐状のヘプタノール(n−ヘプタノール、1−メチルヘキサノール、2−メチルヘキサノール、3−メチルヘキサノール、4−メチルヘキサノール、5−メチルヘキサノール、2,4−ジメチルペンタノール等を含む)、直鎖状または分岐状のオクタノール(n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−メチルヘプタノール、2−メチルヘプタノール等を含む)、直鎖状または分岐状のノナノール(n−ノナノール、1−メチルオクタノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、1−(2’−メチルプロピル)−3−メチルブタノール等を含む)、直鎖状または分岐状のデカノール(n−デカノール、イソデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のウンデカノール(n−ウンデカノール、イソウンデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のドデカノール(n−ドデカノール、イソドデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のトリデカノール(n−トリデカノール、イソトリデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のテトラデカノール(n−テトラデカノール、イソテトラデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のペンタデカノール(n−ペンタデカノール、イソペンタデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のヘキサデカノール(n−ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のヘプタデカノール(n−ヘプタデカノール、イソヘプタデカノール等を含む)、直鎖状または分岐状のオクタデカノール(n−オクタデカノール、イソオクタデカノール等を含む)、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール等が挙げられる。
【0105】
また、この化合物(c)として、水酸基がカルボン酸でエステル化された誘導体を用いることもできる。かかる誘導体としては、上記1価アルコールの説明において例示された化合物の酢酸エステル、プロピオン酸エステル等が好ましく使用される。
【0106】
このエステルの中でも、下記化合物(a’)、(b’)および(c’):
(a’)エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチレングリコールおよびジブチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種、
(b’)シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、からなる群より選ばれる少なくとも1種、ならびに
(c’)吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール、n−ペンタデカノール、n−ヘキサデカノール、n−ヘプタデカノール、n−オクタデカノール、イソブタノール、イソペンタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソテトラデカノールおよびイソヘキサデカノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いて得られるエステルが特に好ましい。上記化合物(a’)〜(c’)を用いて得られるエステルを冷凍機油に含有させると、潤滑性、シール性、作動媒体との相溶性、熱・化学的安定性、電気絶縁性等がよりバランスよく満たされる傾向にある。
【0107】
ここで、上記化合物(a)〜(c)の組成比は特に制限されないが、潤滑性、シール性、作動媒体との相溶性、熱・化学安定性、電気絶縁性等がより高水準でバランスよく満たされる傾向にあることから、化合物(a)〜(c)の合計量を基準としてそれぞれ以下に示す範囲内であることが好ましい。
化合物(a):3〜55mol%、好ましくは5〜50mol%、より好ましくは10〜45mol%
化合物(b):3〜55mol%、好ましくは5〜50mol%、より好ましくは10〜45mol%
化合物(c):3〜90mol%、好ましくは5〜80mol%、より好ましくは10〜70mol%。
【0108】
ここで説明したエステルは、上記化合物(a)〜(c)を、常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気下、エステル化触媒の存在下もしくは無触媒下で加熱しながらエステル化することによって調製される。
【0109】
また、化合物(a)、(c)としてアルコールの酢酸エステル、プロピオン酸エステル等を用いる場合や、化合物(b)、(c)としてカルボン酸の低級アルコールエステル等を用いる場合は、エステル交換反応によりこのエステルを得ることが可能である。
【0110】
上記のエステル化反応において用いられるエステル化としては、具体的には、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等のルイス酸類;ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属塩;パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等のスルホン酸類、等が例示されるが、これらの中でも、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体等のルイス酸類を用いると、得られるエステルの熱・加水分解安定性がより高められるので好ましく、さらには、反応効率の点からスズ誘導体が特に好ましい。上記のエステル化触媒の使用量は、例えば、原料である化合物(a)〜(c)の総量に対して0.1〜1質量%程度である。
【0111】
上記のエステル化反応における反応温度としては、150〜230℃が例示され、通常、3〜30時間で反応は完結する。
【0112】
また、エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下または常圧下において留去し、引き続いて慣用の精製方法、例えば液液抽出、減圧蒸留、活性炭処理等の吸着精製処理等を行うことにより、エステルを精製することができる。
【0113】
なお、ここでは、特定の化合物(a)〜(c)を用いたエステル化反応について説明したが、その他の場合であっても、得られる反応生成物は混合物であってもよい。さらには、このエステルが2種以上の化合物の混合物である場合、作動媒体との相溶性と各種性能とのバランス、ならびに製造容易性の点から、化合物(a)と化合物(b)とが直接結合したエステルの含有量は、混合物全量を基準として、10〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、25〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0114】
(コンプレックスエステル系冷凍機油)
コンプレックスエステル系冷凍機油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0115】
脂肪酸としては、上記ポリオールエステルの脂肪酸で示したものが挙げられる。
二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0116】
ポリオールとしては、上記ポリオールエステルの多価アルコールとして示したものが挙げられる。コンプレックスエステルは、これらの脂肪酸、二塩基酸、ポリオールのエステルであり、各々単一成分でもよいし、複数成分からなるエステルでもよい。
【0117】
(ポリオール炭酸エステル系冷凍機油)
ポリオール炭酸エステル系冷凍機油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、ジオール(上述と同様のもの)を単独重合または共重合したポリグリコール(ポリアルキレングリコール、そのエーテル化合物、それらの変性化合物等)、ポリオール(上述と同様のもの)、ポリオールにポリグリコールを付加したもの等が挙げられる。
【0118】
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものであってもよい。ポリアルキレングリコール中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。また、ポリオール炭酸エステル系冷凍機油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0119】
〈エーテル系冷凍機油〉
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル系冷凍機油、ポリアルキレングリコール系冷凍機油等が挙げられる。
【0120】
(ポリビニルエーテル系冷凍機油)
ポリビニルエーテル系冷凍機油としては、ビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られたもの、およびポリビニルエーテルと、アルキレングリコールもしくはポリアルキレングリコール、またはそれらのモノエーテルとの共重合体がある。
【0121】
このポリビニルエーテル系冷凍機油の好ましいものとしては、次の一般式(1)で表される構造を有し、分子量が300〜3,000のポリビニルエーテル系化合物
【化1】
(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ水素原子または炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらは互いに同一でも異なってもよく、R
bは炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R
aは、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数1〜20の置換基を有してもよい芳香族基、炭素数2〜20のアシル基または炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基、R
4は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R
a、R
b、R
4はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、mはその平均値が1〜50、oは1〜50、pは2〜25の数を示し、oおよびpはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。)が挙げられる。
ここで、R
1〜R
3のうちの炭素数1〜8の炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基のアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基のアリールアルキル基を示す。なお、これらのR
1、R
2およびR
3の各々としては、特に水素原子が好ましい。
【0122】
一方、R
bで示される炭素数2〜4の二価の炭化水素基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基などの二価のアルキレン基がある。
なお、一般式(1)におけるmは、R
bOの繰り返し数を示し、その平均値が1〜50、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜5の範囲の数である。R
bOが複数ある場合には、複数のR
bOは同一でも異なっていてもよい。
また、oは1〜50、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1、pは2〜25、好ましくは5〜15の数を示し,oおよびpはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。
R
aのうち炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基としては、好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基もしくは炭素数5〜10のシクロアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基、シクロペンチル基,シクロヘキシル基,各種メチルシクロヘキシル基,各種エチルシクロヘキシル基,各種プロピルシクロヘキシル基,各種ジメチルシクロヘキシル基などである。
【0123】
R
aのうち炭素数1〜20の置換基を有していてもよい芳香族基としては、具体的には、フェニル基、各種トリル基、各種エチルフェニル基、各種キシリル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基、ベンジル基,各種フェニルエチル基,各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基のアリールアルキル基などが挙げられる。
また、R
aのうち炭素数2〜20のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基などを挙げることができる。
さらに、R
aのうち炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、1,1−ビスメトキシプロピル基、1,2−ビスメトキシプロピル基、エトキシプロピル基、(2−メトキシエトキシ)プロピル基、(1−メチル−2−メトキシ)プロピル基などを好ましく挙げることができる。
【0124】
一般式(1)において、R
4で示される炭素数1〜10の炭化水素基とは、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシルのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基のアリールアルキル基などを指す。
なお、R
1〜R
3、R
a、R
bおよびmならびにR
1〜R
4は、それぞれ構成単位毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0125】
当該ポリビニルエーテル系化合物は、例えば下記一般式(2)で表されるビニルエーテル化合物と下記一般式(3)で表されるビニルエーテル化合物とを共重合させることにより得ることができる。
【化2】
上記式において、R
a、R
b、mおよびR
1〜R
4は前記で説明した通りである。
【0126】
一般式(2)で表されるビニルエーテル系化合物としては、アルキレングリコールモノビニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールモノビニルエーテル、アルキレングリコールアルキルビニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。具体的には、エチレングリコールモノビニルエーテル、エチレングリコールメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールメチルビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル、プロピレングリコールメチルビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールメチルビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールメチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0127】
一方、一般式(3)で表されるビニルエーテル系化合物としては、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル等のビニルエーテル類;1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン等のプロペン類;1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−イソブトキシ−2−ブテン、2−sec−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテンなどのブテン類が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマーは公知の方法により製造することができる。
【0128】
上記ビニルエーテル系化合物は、対応するビニルエーテル系化合物および所望により用いられるオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーをラジカル重合、カチオン重合、放射線重合などによって製造することができる。例えばビニルエーテル系モノマーについては、以下に示す方法を用いて重合することにより、所望の粘度の重合物が得られる。重合の開始には、ブレンステッド酸類、ルイス酸類または有機金属化合物類に対して、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を組み合わせたものを使用することができる。ブレンステッド酸類としては、例えばフッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられる。ルイス酸類としては、例えば三フッ化ホウ素、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、四塩化スズ、二塩化亜鉛、塩化第二鉄などが挙げられ、これらのルイス酸類の中では、特に三フッ化ホウ素が好適である。また、有機金属化合物としては、例えばジエチル塩化アルミニウム、エチル塩化アルミニウム、ジエチル亜鉛などが挙げられる。
【0129】
これらと組み合わせる水、アルコール類、フェノール類、アセタール類またはビニルエーテル類とカルボン酸との付加物は任意のものを選択することができる。ここで、アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、各種ペンタノール、各種ヘキサノール、各種ヘプタノール、各種オクタノールなどの炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール、アリルアルコールなどの炭素数3〜10の不飽和脂肪族アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルキレングリコールのモノエーテルなどが挙げられる。ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用する場合のカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、2−メチル酪酸、ピバリン酸、n−カプロン酸、2,2−ジメチル酪酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、エナント酸、2−メチルカプロン酸、カプリル酸、2−エチルカプロン酸、2−n−プロピル吉草酸、n−ノナン酸、3,5,5−トリメチルカプロン酸、カプリル酸、ウンデカン酸などが挙げられる。
【0130】
また、ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用する場合のビニルエーテル類は重合に用いるものと同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。このビニルエーテル類と該カルボン酸との付加物は、両者を混合して0〜100℃程度の温度で反応させることにより得られ、蒸留などにより分離し、反応に用いることができるが、そのまま分離することなく反応に用いることもできる。
ポリマーの重合開始末端は、水,アルコール類,フェノール類を使用した場合は水素が結合し、アセタール類を使用した場合は水素または使用したアセタール類から一方のアルコキシ基が脱離したものとなる。またビニルエーテル類とカルボン酸との付加物を使用した場合には、ビニルエーテル類とカルボン酸との付加物からカルボン酸部分由来のアルキルカルボニルオキシ基が脱離したものとなる。
【0131】
一方、停止末端は、水、アルコール類、フェノール類、アセタール類を使用した場合には、アセタール、オレフィンまたはアルデヒドとなる。またビニルエーテル類とカルボン酸との付加物の場合は、ヘミアセタールのカルボン酸エステルとなる。このようにして得られたポリマーの末端は、公知の方法により所望の基に変換することができる。この所望の基としては、例えば飽和の炭化水素、エーテル、アルコール、ケトン、ニトリル、アミドなどの残基を挙げることができるが、飽和の炭化水素、エーテルおよびアルコールの残基が好ましい。
【0132】
本発明で使用される冷凍機油に、それぞれ含有されるポリビニルエーテル系化合物は、炭素/酸素モル比が4以下であることが好ましく、このモル比が4を超えると、上記一般式(I)に記載の作動媒体との相溶性が低下する。該モル比の調整については、原料モノマーの炭素/酸素モル比を調節することにより、該モル比が前記範囲にあるポリマーを製造することができる。すなわち、炭素/酸素モル比が大きいモノマーの比率が大きければ、炭素/酸素モル比の大きなポリマーが得られ、炭素/酸素モル比の小さいモノマーの比率が大きければ、炭素/酸素モル比の小さなポリマーが得られる。また、炭素/酸素モル比の調整は、上記ビニルエーテル系モノマーの重合方法で示したように、開始剤として使用する水、アルコール類、フェノール類、アセタール類およびビニルエーテル類とカルボン酸との付加物と、モノマー類との組合せによっても可能である。重合するモノマーより炭素/酸素モル比が大きいアルコール類、フェノール類などを開始剤として使用すれば、原料モノマーより炭素/酸素モル比の大きなポリマーが得られ、一方、メタノールやメトキシエタノールなどの炭素/酸素モル比の小さなアルコール類を用いれば、原料モノマーより炭素/酸素モル比の小さなポリマーが得られる。
【0133】
さらに、ビニルエーテル系モノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合させる場合には、ビニルエーテル系モノマーの炭素/酸素モル比より炭素/酸素モル比の大きなポリマーが得られるが、その割合は、使用するオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーの比率やその炭素数により調節することができる。
【0134】
(ポリアルキレングリコール系冷凍機油)
ポリアルキレングリコール系冷凍機油としては、炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものであってもよい。ポリアルキレングリコール系冷凍機油中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0135】
具体的なポリオキシアルキレングリコール系冷凍機油としては、例えば次の一般式(4)
R
101−[(OR
102)
k−OR
103]
l …(4)
(式中、R
101は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、R
102は炭素数2〜4のアルキレン基、R
103は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数2〜10のアシル基、lは1〜6の整数、kはk×lの平均値が6〜80となる数を示す。)で表される化合物が挙げられる。
【0136】
上記一般式(4)において、R
101、R
103におけるアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。このアルキル基の炭素数が10を超えると作動媒体との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアルキル基の炭素数は1〜6である。
【0137】
また、R
101、R
103における該アシル基のアルキル基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。該アシル基の炭素数が10を超えると作動媒体との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアシル基の炭素数は2〜6である。
【0138】
R
101およびR
103が、いずれもアルキル基またはアシル基である場合には、R
101とR
103は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
さらにlが2以上の場合には、1分子中の複数のR
103は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0139】
R
101が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基である場合、この脂肪族炭化水素基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。また、結合部位3〜6個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール;1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン;1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
【0140】
この脂肪族炭化水素基の炭素数が10を超えると作動媒体との相溶性が低下し、相分離が生じる場合がある。好ましい炭素数は2〜6である。
【0141】
上記一般式(4)中のR
102は炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
【0142】
上記一般式(4)中のlは1〜6の整数で、R
101の結合部位の数に応じて定められる。例えばR
101がアルキル基やアシル基の場合、lは1であり、R
101が結合部位2,3,4,5および6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、lはそれぞれ2,3,4,5および6となる。また、kはk×lの平均値が6〜80となる数であり、k×lの平均値が前記範囲を逸脱すると本発明の目的は十分に達せられない。
【0143】
ポリアルキレングリコールの構造は、下記一般式(5)で表されるポリプロピレングリコールジメチルエーテル、ならびに下記一般式(6)で表されるポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジメチルエーテルが経済性および前述の効果の点で好適であり、また、下記一般式(7)で表されるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、さらには下記一般式(8)で表されるポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、下記一般式(9)で表されるポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールモノメチルエーテル、下記一般式(10)で表されるポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールモノブチルエーテル、下記一般式(11)で表されるポリプロピレングリコールジアセテートが、経済性等の点で好適である。
【0144】
CH
3O−(C
3H
6O)
h−CH
3 …(5)
(式中、hは6〜80の数を表す。)
CH
3O−(C
2H
4O)
i−(C
3H
6O)
j−CH
3 …(6)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり且つiとjとの合計が6〜80となる数を表す。)
C
4H
9O−(C
3H
6O)
h−H …(7)
(式中、hは6〜80の数を示す。)
CH
3O−(C
3H
6O)
h−H …(8)
(式中、hは6〜80の数を表す。)
【0145】
CH
3O−(C
2H
4O)
i−(C
3H
6O)
j−H …(9)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり且つiとjとの合計が6〜80となる数を表す。)
C
4H
9O−(C
2H
4O)
i−(C
3H
6O)
j−H …(10)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり且つiとjとの合計が6〜80となる数を表す。)
CH
3COO−(C
3H
6O)
h−COCH
3 …(11)
(式中、hは6〜80の数を表す。)
このポリオキシアルキレングリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0146】
これらの冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの冷凍機油は、作動媒体と混合して熱サイクルシステム用組成物として使用することが好ましい。このとき、冷凍機油の配合割合は、熱サイクルシステム用組成物全量に対して5〜60質量%が望ましく、10〜50質量%がより好ましい。
【0147】
また、この冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、最も好ましくは100ppm以下である。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、作動媒体の分解安定性や、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。なお、本明細書において、水分含有量は、JIS K 2275に準拠して測定した。
【0148】
また、この冷凍機油の残存空気分圧は特に限定されないが、10kPa以下が好ましく、さらには5kPa以下が好ましい。
【0149】
また、ここで使用する冷凍機油の灰分は特に限定されないが、冷凍機油の熱・化学的安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するため、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。なお、本明細書において、灰分とは、JIS K 2272に準拠して測定した灰分の値を意味する。
【0150】
<その他任意成分>
熱サイクルシステム用組成物は、その他、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の任意成分を含有できる。この任意成分としては、例えば、熱サイクルシステム用組成物中において冷凍機油を安定して含有させる添加剤が挙げられ、このような添加剤として、銅不活性化剤、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、重合防止剤等が挙げられる。各添加剤は必要に応じて添加すればよく、個々の添加剤の配合量は、熱サイクルシステム用組成物100質量%中に0.01質量%以上5質量%以下になるように設定すればよい。なお、酸捕捉剤の配合量および酸化防止剤の配合量は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲が好ましい。
【0151】
また、銅不活性化剤としては、ベンゾトリアゾールやその誘導体等を用いることができる。消泡剤としては、ケイ素化合物を用いることができる。油性剤としては、高級アルコール類を用いることができる。
【0152】
なお、極圧剤には、リン酸エステル類を含むものを用いることができる。リン酸エステル類としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステル等を用いることができる。また、極圧剤には、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび酸性亜リン酸エステルのアミン塩を含むものを用いることもできる。
【0153】
リン酸エステルには、トリアリールホスフェート、トリアルキルホスフェート、トリアルキルアリールホスフェート、トリアリールアルキルホスフェート、トリアルケニルホスフェート等がある。さらに、リン酸エステルを具体的に列挙すると、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート等がある。
【0154】
また、亜リン酸エステルの具体例としては、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイト等がある。
【0155】
また、酸性リン酸エステルの具体例としては、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアシッドホスフェート等がある。
【0156】
また、酸性亜リン酸エステルの具体例としては、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト等がある。以上のリン酸エステル類の中で、オレイルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェートが好適である。
【0157】
また、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステルまたは酸性亜リン酸エステルのアミン塩に用いられるアミンのうちモノ置換アミンの具体例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン等がある。また、ジ置換アミンの具体例としては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリル・モノエタノールアミン、デシル・モノエタノールアミン、ヘキシル・モノプロパノールアミン、ベンジル・モノエタノールアミン、フェニル・モノエタノールアミン、トリル・モノプロパノール等がある。また、トリ置換アミンの具体例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイル・モノエタノールアミン、ジラウリル・モノプロパノールアミン、ジオクチル・モノエタノールアミン、ジヘキシル・モノプロパノールアミン、ジブチル・モノプロパノールアミン、オレイル・ジエタノールアミン、ステアリル・ジプロパノールアミン、ラウリル・ジエタノールアミン、オクチル・ジプロパノールアミン、ブチル・ジエタノールアミン、ベンジル・ジエタノールアミン、フェニル・ジエタノールアミン、トリル・ジプロパノールアミン、キシリル・ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等がある。
【0158】
また、上記以外の極圧剤を添加することも可能である。例えば、モノスルフィド類、ポリスルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、チオスルフィネート類、硫化油脂、チオカーボネート類、チオフェン類、チアゾール類、メタンスルホン酸エステル類等の有機硫黄化合物系の極圧剤、チオリン酸トリエステル類等のチオリン酸エステル系の極圧剤、高級脂肪酸、ヒドロキシアリール脂肪酸類、多価アルコールエステル類、アクリル酸エステル類等のエステル系の極圧剤、塩素化炭化水素類、塩素化カルボン酸誘導体等の有機塩素系の極圧剤、フッ素化脂肪族カルボン酸類、フッ素化エチレン樹脂、フッ素化アルキルポリシロキサン類、フッ素化黒鉛等の有機フッ素化系の極圧剤、高級アルコール等のアルコール系の極圧剤、ナフテン酸塩類(ナフテン酸鉛等)、脂肪酸塩類(脂肪酸鉛等)、チオリン酸塩類(ジアルキルジチオリン酸亜鉛等)、チオカルバミン酸塩類、有機モリブデン化合物、有機スズ化合物、有機ゲルマニウム化合物、ホウ酸エステル等の金属化合物系の極圧剤を用いることが可能である。
【0159】
また、酸化防止剤には、フェノール系の酸化防止剤やアミン系の酸化防止剤を用いることができる。フェノール系の酸化防止剤には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DBPC)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール等がある。また、アミン系の酸化防止剤には、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N,N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等がある。なお、酸化防止剤には、酸素を捕捉する酸素捕捉剤も用いることができる。
【0160】
酸捕捉剤には、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を用いることができる。なお、これらの中で相溶性の観点から好ましい酸捕捉剤は、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドである。アルキルグリシジルエーテルのアルキル基およびアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよい。これらの炭素数は、3以上30以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であればさらに好ましい。また、α−オレフィンオキシドは、全炭素数が4以上50以下であればよく、4以上24以下であればより好ましく、6以上16以下であればさらに好ましい。酸捕捉剤は、1種だけを用いてもよく、複数種類を併用することも可能である。
【0161】
また、重合防止剤には、4−メトキシ−1−ナフトール、ヒドロキノン、ヒドロキノンメチルエーテル、ジメチル−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ベンゾトリアゾール等の重合防止剤を用いることができる。
【0162】
また、本実施形態の熱サイクルシステム用組成物には、必要に応じて、耐荷重添加剤、酸素捕捉剤、塩素捕捉剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、安定剤、腐食防止剤および流動点降下剤等を添加することも可能である。酸素捕捉剤は、酸素を捕捉する添加剤である。個々の添加剤の配合量は、熱サイクルシステム用組成物100質量%中に0.01質量%以上5質量%以下であればよく、0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましい。
【0163】
さらに、熱サイクルシステム用組成物に配合する任意成分としては、例えば、漏れ検出物質が挙げられ、この任意に含有する漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
【0164】
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0165】
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0166】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0167】
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0168】
熱サイクルシステム用組成物における、漏れ検出物質の含有量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0169】
[熱サイクルシステム]
本発明の熱サイクルシステムは、本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いたシステムである。本発明の熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0170】
本発明の熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも効率的に熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0171】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0172】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0173】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0174】
以下、本発明の実施形態の熱サイクルシステムの一例として、冷凍サイクルシステムについて、上記で大枠を説明した
図1に概略構成図が示される冷凍サイクルシステム10を例として説明する。冷凍サイクルシステムとは、蒸発器で得られる冷熱を利用するシステムである。
【0175】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0176】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0177】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、
図2に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0178】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、
図2においてAB線で示される。
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、
図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点T
1が凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点T
2が凝縮沸点温度である。ここで、作動媒体が単一の化合物または共沸混合物の場合T
1とT
2は等しい。非共沸混合物である場合、T
1とT
2に差が生じる。本発明においては、この場合、T
1とT
2のうち高い温度を「凝縮温度」とする。なお、非共沸混合媒体である場合の温度勾配はT
1とT
2の差として示される。
【0179】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、
図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をT
3で示せば、T
2−T
3が(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(以下、必要に応じて「SC」で示す。)となる。
【0180】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、
図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点T
6は「蒸発温度」である。作動媒体蒸気Aの温度をT
7で示せば、T
7−T
6が(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(以下、必要に応じて「SH」という。)となる。なお、T
4は作動媒体Dの温度を示す。ここで、作動媒体が単一の化合物または共沸混合物の場合T
4とT
6は等しい。非共沸混合物である場合、T
4とT
6に差が生じる。本発明においては、この場合、T
4とT
6のうち低い温度を「蒸発温度」とする。
【0181】
ここで、作動媒体のサイクル性能は、例えば、作動媒体の冷凍能力(以下、必要に応じて「Q」で示す。)と成績係数(以下、必要に応じて「COP」で示す。)で評価できる。作動媒体のQとCOPは、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h
A、h
B、h
C、h
Dを用いると、下式(A)、(B)からそれぞれ求められる。
【0182】
Q=h
A−h
D …(A)
COP=Q/圧縮仕事=(h
A−h
D)/(h
B−h
A) …(B)
【0183】
なお、COPは冷凍サイクルシステムにおける効率を意味しており、COPの値が高いほど少ない入力、例えば圧縮機を運転するために必要とされる電力量、により大きな出力、例えば、Qを得ることができることを表している。
【0184】
一方、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0185】
本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いた本発明の熱サイクルシステムによれば、例えば、
図1に示される冷凍サイクルシステム10において、従来から空調機器等で一般的に使用されているR410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合媒体)を用いた場合に比べて、地球温暖化係数を格段に低く抑えながら、QとCOPをともに高いレベル、すなわち、R410Aと同等またはそれ以上のレベルに設定することが可能である。
【0186】
さらに、用いる熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体の温度勾配を一定値以下に抑える組成とすることも可能であり、その場合、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際の組成変化や冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合の冷凍空調機器内の冷媒組成の変化を低いレベルに抑えることができる。また、本発明の熱サイクルシステム用組成物によれば、作動媒体として含有するフッ化炭化水素化合物の潤滑特性を向上できることから、該組成物を用いた熱サイクルシステムは従来よりも作動媒体の効率的な循環状態を維持でき、システムの安定した稼働が可能である。
【0187】
なお、この熱サイクルシステム内においては、上記したように、本発明で使用する作動媒体が炭素−炭素二重結合を有するため、システム運転時において作動媒体が分解して酸が発生する可能性がある。本発明では、この作動媒体と組み合わせて使用する冷凍機油において、酸発生を抑制するような構成としているが、さらに何らかの原因で酸が発生した場合においても、熱サイクルシステムを安定的に運転できる構成とすることが好ましい。
【0188】
すなわち、上記熱サイクルシステム用組成物と接触する接触部が、エンジニアリングプラスチック、有機膜、および無機膜から選ばれる少なくとも1種から構成されていることが好ましい。この接触部としては、特に、圧縮機構を有する場合におけるその摺動部分や熱サイクルシステム内部のシール部分等が保護すべきものとして挙げられる。より具体的には、圧縮機の摺動部に設けられる摺動部材(軸受等)、圧縮機の隙間での作動媒体の漏れを防止するためのシール部材、電動機に配設される絶縁材料等が挙げられる。
【0189】
ここで使用するエンジニアリングプラスチックは、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0190】
また、ここで使用する有機膜は、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、およびポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂と架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜、から選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0191】
また、ここで使用する無機膜は、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜、およびモリブデン膜から選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0192】
なお、上記接触部が摺動部材である場合には例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドの何れかを用いることが好ましく、シール部である場合には例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、クロロプレンゴム、シリコンゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、ヒドリンゴムから選ばれる少なくとも1種の材料であることが好ましい。
【0193】
また、電動機の絶縁材料としては、ステータの巻き線の絶縁被覆材料や絶縁フィルム等がある。これら絶縁被覆材料および絶縁フィルムは、高温高圧の作動媒体に接触した場合でも、作動媒体により物理的や化学的に変性を受けない樹脂で、特に耐溶剤性、耐抽出性、熱的・化学的安定性、耐発泡性を有する樹脂が用いられている。
【0194】
具体的に、ステータの巻き線の絶縁被覆材料には、ポリビニルフォルマール、ポリエステル、THEIC変性ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミドの何れかが用いられている。なお、好ましいのは、上層がポリアミドイミド、下層がポリエステルイミドの二重被覆線である。また、上記物質以外に、ガラス転移温度が120℃以上のエナメル被覆を用いてもよい。
【0195】
また、絶縁フィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテフタレート(PBT)の何れかが用いられている。なお、絶縁フィルムに、発泡材料が冷凍サイクルの作動媒体と同じ発泡フィルムを用いることも可能である。インシュレーター等の巻き線を保持する絶縁材料には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)または液晶ポリマー(LCP)が用いられている。ワニスには、エポキシ樹脂が用いられている。
【0196】
本発明の熱サイクルシステムにおいては、熱サイクルシステム用組成物に含まれる冷凍機油のアニリン点が−100℃以上0℃以下であるため、樹脂材料の膨潤/収縮変形を防止することができる。特に、上記したような圧縮機構における摺動部材、電動機の絶縁材料、熱サイクルシステム内部のシール部材等が劣化や損傷して、熱サイクルシステムが機能しなくなったり、停止したりすることを回避することができる。
【0197】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0198】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール系冷凍機油、ポリオールエステル系冷凍機油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0199】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の熱サイクルシステム用組成物と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、熱サイクルシステム用組成物と接触させることが好ましい。
【0200】
乾燥剤としては、乾燥剤と熱サイクルシステム用組成物との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0201】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(C)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
M
2/nO・Al
2O
3・xSiO
2・yH
2O …(C)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0202】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体や冷凍機油の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体や冷凍機油が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体や冷凍機油と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0203】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体や冷凍機油の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体や冷凍機油を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体や冷凍機油の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0204】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0205】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
熱サイクルシステム用組成物に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0206】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
【0207】
不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【0208】
以上説明した本発明の熱サイクルシステムにあっては、本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いることで、潤滑特性が良好で、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用上充分なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配に係る問題も殆どない。
【実施例】
【0209】
以下、本発明について、実施例、従来例および比較例を参照しながら、さらに詳細に説明する。各例においては、以下に示した作動媒体1〜64と冷凍機油A〜Iとからそれぞれ1つずつ選択して組み合わせ、作動媒体50gに冷凍機油50gを混合、溶解して熱サイクルシステム用組成物を576種類製造した。したがって、本例における熱サイクルシステム用組成物は、作動媒体50質量%と冷凍機油50質量%とから構成されたものである。なお、後述するが使用する作動媒体によっては、酸化防止剤を添加して熱サイクルシステム用組成物を構成している。
【0210】
ここで、作動媒体、冷凍機油としては、以下に示すものを使用した。なお、作動媒体については、それを構成する化合物と混合割合について表2に、冷凍機油については表3にまとめて示した。
【0211】
【表2】
【0212】
冷凍機油A:ポリオールエステル系冷凍機油(商品名:ユニスター RH−208BRS、日油株式会社製品)
冷凍機油B:ポリオールエステル系冷凍機油(商品名:ユニスター RH−481R、日油株式会社製品)
冷凍機油C:ポリオールエステル系冷凍機油(商品名:ユニスター RHR−32、日油株式会社製品)
冷凍機油D:ポリオールエステル系冷凍機油(商品名:ユニスター RHR−64、日油株式会社製品)
冷凍機油E:ポリオールエステル系冷凍機油(商品名:ユニスター RHR−200、日油株式会社製品)
冷凍機油F:ポリオールエステル系冷凍機油(商品名:ユニスター RHR−609BR、日油株式会社製品)
冷凍機油G:ポリオールエステルを主成分とする冷凍機油(商品名:Ze−GLES RB−68、JX日鉱日石エネルギー株式会社製品)
冷凍機油H:ポリビニルエーテルを主成分とする冷凍機油(商品名:ダフニーハーメチックオイルFVC68D、出光興産株式会社製品)
冷凍機油I:ナフテン系高級冷凍機油(商品名:スニソ4GS、出光興産株式会社製品)
【0213】
【表3】
【0214】
なお、冷凍機油A〜Fには添加剤として、冷凍機油と酸化防止剤の合計量を100質量%としたとき、酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)を0.5質量%となるように添加して冷凍機油組成物とし、これを用いて製造、評価を行った。以下、試験例においては、冷凍機油組成物を用いた場合も「冷凍機油」と表記した。
【0215】
〔試験項目〕
(冷凍機油のアニリン点)
上述した冷凍機油を用いて、JIS K 2256「石油製品」の「アニリン点及び混合アニリン点の求め方」に準拠して、各試料油のアニリン点を評価した。アニリンおよび冷凍機油がそれぞれ50質量%になるように配合し、得られた混合液を0℃から−100℃まで冷却し、相分離状態を目視で確認して、以下の基準で評価した。
○:−100〜0℃の範囲に、アニリン点がある。
×:−100〜0℃の範囲に、アニリン点がない。
【0216】
(浸せき試験による重量変化)
JIS K 7114に記された「プラスチック−液体薬品への浸せき効果を求める試験方法」に準拠して実施した。内部に150mlのガラス筒を入れた200mlのステンレス製の耐圧容器に、熱サイクルシステム用組成物を投入し、さらに約10gのナイロン−11の試験片を入れ、密閉した。次いで、密閉した耐圧容器を恒温槽(パーフェクトオーブンPHH−202、エスペック株式会社製)中に175℃で14日間保存し、試験片の重量変化を確認し、以下の基準で評価した。
○:1%以上の質量変化なし
×:1%以上の質量変化あり
質量変化ありの場合は、上記浸せき試験により樹脂が膨潤したことを示す。
【0217】
(冷凍機油の循環状態)
図1に示した熱サイクルシステム10に、各熱サイクルシステム用組成物を入れ、熱サイクルシステムの連続運転を行った。熱サイクルシステム用組成物の循環状態を評価するために、熱サイクルシステムにおける蒸発器14から圧縮機11への流路の一部をガラス配管とした。このガラス配管から内部を観察して熱サイクルシステム内の熱サイクルシステム用組成物の循環状態を評価した。循環状態は、目視にて以下の基準により評価した。
○:冷凍機油の循環が確認できた
△:冷凍機油の循環は見られるが循環量がやや少ない
×:冷凍機油の循環が確認できない
【0218】
(安定性試験)
JIS K 2211に記された「冷媒と冷凍機油の化学的安定性試験方法(オートクレーブ)」に準拠して実施した。内部に150mlのガラス筒を入れた200mlのステンレス製の耐圧容器に、熱サイクルシステム用組成物を投入し、さらに触媒として、1つの耐圧容器に鉄、銅およびアルミニウムの試験片を入れ、密閉した。次いで、密閉した耐圧容器を恒温槽(パーフェクトオーブンPHH−202、エスペック株式会社製)中に175℃で14日間保存し、次のように作動媒体の酸分量測定、冷凍機油の色相観察および触媒の外観変化観察を行った。
なお、触媒となる金属片は,次のものを用いた。
a)鉄一般用冷間圧延鋼板(JIS G3141に定められたもの、記号の種類SPCC−SB)の試験片,30mm×25mm×厚さ3.2mm
b)銅 タフピッチ銅(JIS H3100に定められたもの、合金番号C1100、記号C1100P)の試験片、30mm×25mm×厚さ2mm
c)アルミニウム 純アルミニウム(JIS H4000に定められたもの、合金番号1050、記号A1050P)の試験片、30mm×25mm×厚さ2mm
【0219】
(冷凍機油の色相)
安定性試験後、作動媒体を抜き出した圧力容器に残った冷凍機油を取り出し、ASTM−D156に準拠して冷凍機油の色相を評価した。
○:変化なし
×:着色が進行した
着色が進行した場合は、上記安定性試験により熱サイクルシステム用組成物が劣化したことを示す。
【0220】
(触媒の外観変化)
触媒の外観変化は、安定性試験後の触媒金属の外観を目視で確認し、以下の基準により評価した。
○:変化なし
×:光沢なしまたは黒く変色
光沢なしまたは黒く変色の場合は、上記安定性試験により熱サイクルシステム用組成物が劣化したことを示す。
【0221】
(スラッジ有無)
スラッジ有無は、安定性試験後の容器を目視で確認し、以下の基準により評価した。
○:スラッジなし
×:スラッジあり
スラッジありの場合は、上記安定性試験により熱サイクルシステム用組成物が何らかの分解、または重合反応を起こしたことを示す。
【0222】
〔試験結果〕
(冷凍機油のアニリン点確認)
結果を表4に示す。冷凍機油Iのみが80℃にアニリン点を有し、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油と明確な違いが確認された。
【0223】
【表4】
【0224】
(浸せき試験による重量変化)
結果を表5、6に示す。−100〜0℃にアニリン点を有しない冷凍機油Iのみで重量変化が発生し、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油と明確な違いが確認された。一方、作動媒体種による顕著な差はみられず、市販される組成である作動媒体11(R−410A)と同様の結果が得られた。
【0225】
【表5】
【0226】
【表6】
【0227】
(冷凍機油の循環状態)
結果を表7,8に示す。冷凍機油Iのみが十分な流量を確保できず、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油と明確な違いが確認された。一方、作動媒体種による顕著な差はみられず、市販される組成である作動媒体11(R−410A)と同様の結果が得られた。ただし、ポリオールエステル系冷凍機油であっても、動粘度の高い冷凍機油E、Fは循環量がやや少なくなる傾向がみられた。
【0228】
【表7】
【0229】
【表8】
【0230】
〔安定性試験〕
安定性試験は十分な流量を確保できなかった冷凍機油I以外の冷凍機油について実施した。
【0231】
(冷凍機油の色相)
結果を表9,10に示す。作動媒体11(R−410A)以外の作動媒体において、冷凍機油A、C〜E、G〜Hとの組み合わせではすべて良好であった。冷凍機油B、Fとの組み合わせにおいて顕著な着色の進行が確認された。
【0232】
【表9】
【0233】
【表10】
【0234】
(触媒の外観変化)
結果を表11,12に示す。色相試験同様、作動媒体11(R−410A)以外の作動媒体において、冷凍機油A、C〜E、G〜Hとの組み合わせではすべて良好であった。冷凍機油B、Fとの組み合わせにおいて、触媒の外観に顕著な変化が確認された。
【0235】
【表11】
【0236】
【表12】
【0237】
(スラッジ有無)
結果を表13,14に示す。色相試験同様、作動媒体11(R−410A)以外の作動媒体において、冷凍機油A、C〜E、G〜Hとの組み合わせではすべて良好であった。冷凍機油B、Fとの組み合わせにおいて顕著なスラッジの発生が確認された。
【0238】
【表13】
【0239】
【表14】
【0240】
〔結論〕
不飽和フッ化炭化水素化合物を含む作動媒体とポリオールエステル系冷凍機油、あるいはポリビニルエーテル系冷凍機油を含む熱サイクル用組成物は、循環状態の観測結果より、市販される組成である作動媒体11(R−410A)と同様の十分な循環量を確保することができることが確認された。しかし、安定性試験の結果から、不飽和フッ化炭化水素化合物を含む作動媒体と、水酸基価が高い冷凍機油B、Fの組み合わせで特異的に冷凍機油の着色、触媒の変色およびスラッジの発生が確認された。これは水酸基を起点に、作動媒体11以外の作動媒体に含有される二重結合が何らかの分解、重合反応を発生させたと推測される。したがって、所定の構造を有する不飽和フッ化炭化水素化合物を含む作動媒体と組み合わせて使用する冷凍機油としては、水酸基価が低いものとすることで、良好な特性の熱サイクルシステム用組成物が得られることがわかった。
【0241】
また、40℃における動粘度が200mm
2/s以下の冷凍機油を用いた熱サイクル用組成物は、市販される組成である作動媒体11(R−410A)と同様の十分な循環量を確保することができることが、循環状態の観測結果より確認された。
【0242】
−100〜0℃にアニリン点を有するポリオールエステル系冷凍機油、あるいはポリビニルエーテル系冷凍機油を含む熱サイクル用組成物はナイロン−11を例に樹脂の膨潤量が小さいことが確認された。また、循環状態の観測結果より、市販される組成である作動媒体11(R−410A)と同様の十分な循環量を確保することができることが確認された。
【0243】
以上の結果から、本発明の実施例である作動媒体9と、冷凍機油A、C〜D、G〜Hとを組み合わせた熱サイクルシステム用組成物では、全ての熱サイクルシステム用組成物において循環状態が良好で安定性にも優れた特性を有し、熱サイクルシステム用組成物として適していることが明らかになった。