特許第6753944号(P6753944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6753944
(24)【登録日】2020年8月24日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】自動車用途のためのリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20200831BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20200831BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20200831BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20200831BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200831BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20200831BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20200831BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/36 C
   H01M10/0569
   H01M10/058
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-549459(P2018-549459)
(86)(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公表番号】特表2019-509605(P2019-509605A)
(43)【公表日】2019年4月4日
(86)【国際出願番号】IB2017051376
(87)【国際公開番号】WO2017168274
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年9月20日
(31)【優先権主張番号】16163091.8
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン−レ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ギョン−オク・キム
(72)【発明者】
【氏名】シン・シア
(72)【発明者】
【氏名】ジン・ジャン
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−069958(JP,A)
【文献】 特開2014−222607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
H01M 10/0569
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質とを含む再充電式リチウムイオン電池であって、前記正極は、コアと表面層とを含む粒子を含むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末を含み、前記コアは、元素Li、M、及び酸素を含む層状の結晶構造を有し、Mは、式M=(Ni(Ni1/2Mn1/2Co1−k(0.13≦x≦0.30、0.20≦z<0.55、x+y+z=1、及び0<k≦0.1)を有し、式中、Aは少なくとも1種のドーパントでありAlを含み、前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末はモル比0.95≦Li:M≦1.10を有し、前記表面層は、前記コアLi、M、及びOの元素、並びにアルミナの混合物からなり、前記電解質は、添加剤のリチウムジフルオロホスフェートを含む、再充電式リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の前記表面層が更にLiFを含む、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項3】
前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の前記コアは、0.3〜3mol%のAl含量を有し、前記表面層は、外側界面及び内側界面により定められ、前記内側界面は前記コアと接触し、前記表面層は、前記内側界面における前記コアから、前記外側界面まで、少なくとも4mol%増加するAl含量を有し、前記Al含量はXPSにより測定される、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項4】
前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の前記コアは、0.3〜3mol%のAl含量、及び0.05mol%未満のF含量を有し、前記表面層は、外側界面及び内側界面により定められ、前記内側界面は前記コアと接触し、前記表面層は、Al含量が、前記内側界面における前記コアの前記Al含量から、前記外側界面まで、少なくとも10mol%増加するAl含量、及び、前記内側界面における0.05mol%未満から、前記外側界面における少なくとも3mol%まで増加するF含量を有し、前記Al及びF含量はXPSにより測定される、請求項2に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項5】
前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末は、CaO、TiO、MgO、WO、ZrO、Cr、及びVからなる群から選択されるいずれかの1つ以上の化合物を更に含む表面層を有する、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項6】
前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末に関して、A=Al、k=0.005−0.013、x=0.20±0.02、y=0.40±0.05、z=0.40±0.05、及び1≦Li:M≦1.10である、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項7】
前記電解質は、リチウムジフルオロホスフェートを0.5〜2重量%含む、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項8】
前記電解質は、ビニルエチレンカーボネートを2重量%以下更に含む、請求項7に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項9】
前記電解質は、リチウムビス(オキサレート)ボレート、ビニレンカーボネート、及び1,3−プロペンスルトンからなる群から選択される1種以上の添加剤を2重量%以下更に含む、請求項7に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項10】
前記電解質は、EC、DEC、及びEMCのいずれか1つ以上を含む溶媒を含む、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項11】
4.2V超の終止電圧まで充電した後に作動する、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の再充電式リチウムイオン電池の調製方法であって、
正極にリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末を組み込む工程であって、前記粉末はコアと表面層とを含む粒子からなり、前記コアは、前記元素Li、M、及び酸素を含む層状の結晶構造を有し、Mは式M=(Ni(Ni1/2Mn1/2Co1−k(0.13≦x≦0.30、0.20≦z<0.55、x+y+z=1、及び0<k≦0.1)を有し、式中、Aは少なくとも1種のドーパントでありAlを含み、前記表面層は前記コアLi、M、及びOの元素、並びにアルミナの混合物からなり、前記アルミナは、前記コアの粉末にアルミナナノ粉末を添加し、前記コアの粉末と前記アルミナナノ粉末とを混合して混合物を作製し、前記混合物を焼結することで前記表面層の中に含有され、前記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末はモル比0.95≦Li:M≦1.10を有する、工程と、
負極を提供する工程と、
前記添加剤のリチウムジフルオロホスフェートを含む電解質を提供する工程と、
前記正極、前記負極、及び前記電解質を組み立てて電池にする工程と、
を含む、方法。
【請求項13】
ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動自動車、及びエネルギー貯蔵システムのいずれか1つにおける、請求項1に記載の再充電式リチウムイオン電池の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧用途、及び自動車電池での使用の対象である、表面処理した正極材料と、非水性液体電解質とを含有する二次リチウムイオン電池に関する。更に詳細には、本正極材料は、表面修飾リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物化合物を含み、この化合物は、好適な電解質添加剤と共に使用した場合、高電圧(4.2V超)にて改善されたサイクル特性を示す。特に好適な電解質は、ジフルオロホスフェート添加剤を含有する電解質である。
【背景技術】
【0002】
再充電式リチウムイオン電池技術を、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及びプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の市場に導入することにより、改善された性質、例えば高エネルギー密度、長いサイクル寿命、低価格などを有するカソード材料の需要が急増している。従来の再充電式リチウムイオン電池は、LiCoO(LCO)を、主にポータブル電子デバイス用のカソード材料として使用する。しかし、自動車市場にLCOを適用することには制限がある。現況技術のLCOは改善されて、高エネルギー密度及び長いサイクル寿命の必要条件を満たしてきたが、コバルト資源が限定されることから、LCO材料の価格を削減することは不可能であった。したがって、LCOは、純粋な電気自動車(EV)、HEV、又はPHEVの用途に対しては、実際には持続可能ではない。
【0003】
LCOの代替物は、いわゆる「NMC」カソード材料であり、これらはLCOの誘導体である。ここでは、Coイオンは部分的に、より豊富で、かつ環境に優しい遷移金属イオン(例えばNi及びMn)により置換されている。「NMC」カソード材料は、おおよそ、化学量論のLi1+a1−a(式中、0≦a≦0.1、M=NiMnCo(x+y+z=1)である)を有し、LCOの規則的な岩塩構造と同様の結晶構造を保持し、ここで、カチオンは2次元のLi及びM層の順序となる。他の金属でMをドープして、カソード材料の電気化学的性質を改善してもまたよい。空間群は、R−3Mである。「NMC」カソード材料に関して、CoのNi及びMnによる置換度に応じて、多くの異なる組成が可能である。これらは、ニッケル、マンガン、及びコバルト含量で分類可能であり、かつこれらの含量の名をとって名付けることができる。典型的なNMCベースの材料は、「NMC111」(M=Ni1/3Mn1/3Co1/3)、「NMC532」(M=Ni0.5Mn0.3Co0.2)、「NMC622」(M=Ni0.6Mn0.2Co0.2)などである。
【0004】
NMCカソード材料は概して、LiCoO、LiNi0.5Mn0.5、及びLiNiOの固溶体(solid state solution)と理解することができる。LiNi0.5Mn0.5において、Niは二価であり、LiNiOにおいて、Niは三価である。4.3Vにおいて、公称容量は、LiCoO及びLiNi0.5Mn0.5に関しては約160mAh/g、及びLiNiOに関しては220mAh/gである。NMC化合物の可逆容量は、これらの公称容量から概算することができる。例えば、NMC622は、0.2 LiCoO+0.4 LiNi0.5Mn0.5+0.4 LiNiOとして理解することができる。したがって、期待容量は、0.2×160+0.4×160+0.4×220=184mAh/gに等しい。Ni含量と共に容量が増加するのは明らかであるため、同一電圧にて、NMC622はNMC532、NMC111、そして断然LCOよりも高いエネルギー密度を有する。これは、LCOの代わりにNMC材料を使用する際に、一定のエネルギーを達成するために必要なカソード材料の重量又は体積は少なくなることを意味する。また、コバルトと比較して、ニッケル及びマンガンの価格が低いために、エネルギー一単位あたりのNMCカソードのコストを下げることができる。したがって、Ni含量の高いNMC(NMC622など)は、EV、HEV、及びPHEVの大型電池市場により好ましい。
【0005】
カソードのエネルギー密度を向上させることは、自動車用途に関する基本である。前述のとおり、効果的なアプローチは、Ni含量が高いNMC材料(例えばNMC 622)を適用することである。現在の技術では典型的に、4.1以下の充電電圧を適用する。これは、カソード活物質中で利用可能な比較的小部分リチウムのみを利用する。一般に、業界が、電圧を更に4.2V、又はそれを超えて増加できないようにする、安定性、カレンダー寿命、及び特にサイクル安定性についてはより大きな懸念がある。例えば4.3Vに増加させることにより、カソードの質量当たりの容量が著しく増加する。したがって、コストと電池の重量は低下するが、より高いカットオフ電圧では、安定性及び安全性に関してより厳しい必要条件が必要とされる。加えて、自動車の電池は、45℃を超える高温に耐える必要がある場合があり、それ故、Ni含量の高いNMCカソード材料はこのような温度にて十分にサイクルする必要がある。しかし、現況技術のカソード材料は、高電圧(4.2V超)及び高温(45℃超)を適用した際に、満足のいかないサイクル安定性などの問題を示す。
【0006】
高NiのNMCの場合において、高電圧(例えば4.35V)まで充電した際に、良好なサイクル安定性を達成することは困難であった。高充電カットオフ電圧における操作中の、NMC/グラファイトポリマーセルの故障メカニズムは、依然として不明瞭である。先行技術では、以下のとおりに、故障挙動を分析することを試み、妥当な説明を示した:特許文献1において、電解質はNMCカソード材料の酸化表面と反応する傾向にあり、不可逆的損失、及び深刻な容量減衰をもたらすことが言及されている。非特許文献1において、遷移金属の溶解は、グラファイト/NMCフルセルの性能劣化の、鍵となる一因であると考えられている。この溶解は、NMCと電解質との副反応に起因する可能性がある。特許文献2において、充電プロセス中の、又は、充電状態(4V超)における電池の貯蔵寿命の間の、電解質の分解は、電池の故障の主原因であると指摘されている。分解は高温でかなり加速される。
【0007】
したがって、高Ni NMC/グラファイトフルセルのサイクル寿命を改善するために、高Ni NMC材料を修飾すること、又は電解質成分を変化させることのいずれかにより、効果的な解決策を見出すことができる。カソード材料に関して、先行技術はほとんどの場合は以下のように、表面修飾又はドーピングを提案している:特許文献3に関しては、著者らは、NMCカソード材料上への特別なLiF表面コーティング層を提案しており、この層は可溶性塩基の含量を著しく低下させ、NMCポリマーセルの気体発生を抑制する。可溶性塩基とは、LiCO及びLiOHなどの不純物を意味する。LiCO及びLiOHはいずれかが、残っている未反応のリチウム前駆体(通常LiCO又はLiOHである)から、あるいは、カソードと溶媒と(例えば、溶媒中でLiOHを形成する水と、カソード中のプロトンと)のイオン交換反応から発生することができる。可溶性塩基は、例えば、ポリマーセルの膨張を引き起こす、操作中にフルセルで深刻な気体が発生する原因である。非特許文献2は、カソードの効果的な表面コーティング、又は効果的な官能性電解質添加剤が電解質の酸化を抑制することにより、電池のサイクル寿命を延ばすことができることを提案している。特許文献4において、著者らは、AlF層によりコーティングされたLiCoO粉末を提供している。コーティングされたこのLiCoOは、25℃及び55℃の両方にて、4.5Vまで充電したときに、LiCoO/Liハーフセルの改善されたサイクル安定性を示す。
【0008】
電解質としては、いくつかの先行技術が以下のとおり、電解質添加剤を提案している:非特許文献3の出版物は、ビニレンカーボネート(VC)がNMC111/グラファイトセルのレート性能を改善するものの、4.4Vの充電カットオフ電圧でサイクルした場合、容量保持力に明らかな利点は有しないことについて記載している。非特許文献4において、NMC111/グラファイトパウチセル内での電解質添加剤の系統的な研究が、スルトン及び硫黄含有添加剤と組み合わせたビニレンカーボネート(VC)により、55℃にて優秀な貯蔵特性及び優れた長時間サイクルを有するセルをもたらすことができることを結論付けている。特許文献5は一般に、非水電解質中でのリチウムジフルオロホスフェートの使用について記載している。特許文献6は、LiPOを含む電解質、及びスルトンベースの化合物が、室温(RT)及び高温(HT)における電池のサイクル寿命特性を改善し、膨張を抑制することができることについて記載している。
【0009】
更なる先行技術としては、以下が挙げられる:
カソードと、アノードと、セパレータと、を含む電極アセンブリであって、上記カソードは、リチウムコバルトベースの酸化物と、その表面にコーティング層を有するリチウムニッケルベースの複合酸化物と、を含み、上記コーティング層は、リチウムニッケルベースの複合酸化物とフッ素含有ポリマーとの反応生成物である、電極アセンブリについて開示している、特許文献7(又は、特許文献8);
リチウム遷移金属酸化物Li1+αNiCOMnCaβγ(式中、−0.05≦α≦0.2、x+y+z+β+γ≒1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.4、0.1≦z≦0.4、0.0002≦β≦0.0025、0.0002≦β+γ≦0.02であり、γ>0である場合において、Mは存在しないか、又はNa、Mg、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWからなる群から選択される1つ、2つ又はそれ以上の元素を表す)を含むリチウム二次電池用のカソード活物質について開示している、特許文献9(特許文献10でも公開);
正極活物質を含む正極と、負極と、リチウム塩、有機溶媒、及び添加剤を含む電解質と、を含む再充電式リチウム電池について開示している、特許文献11。正極活物質としては、化合物LiNiCoMn(式中、0<a≦2、0.2≦x≦0.6、0.2≦y≦0.6、0.2<z≦0.6、及びx+y+z=1)が挙げられ、添加剤は、有機溶媒の100重量部を基準にして、約0.5〜約2重量部のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)と、約0.5〜約3重量部のビニレンカーボネートと、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2012/148894号
【特許文献2】米国特許第6218048号明細書
【特許文献3】国際公開第2011/054441号
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0087362号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0286135号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2012/0177818号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2015/104704号明細書
【特許文献8】欧州特許第2851988号明細書
【特許文献9】国際公開第2014/115754号
【特許文献10】米国特許出願公開第2016/006030号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2015/288033号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Mater.Chem.,2011,21,17754
【非特許文献2】Dahnら、J.Electrochem.Soc.2012 160(9):A1451〜A1456
【非特許文献3】J.Electrochem.Soc,2013,162(3),A330〜A338
【非特許文献4】J.Electrochem.Soc,2014,161(12),A1818〜A1827
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以前に引用した問題に鑑みて、高電圧用途で高Ni NMC(NMC 622など)フルセルを用いるために、高Niカソード粒子の効果的な表面修飾と、好適な電解質系を組み合わせてよい。本発明の目的は、充電電圧を4.2、4.3、4.35V、又は更にそれを超えて増加させる、自動車用途の改善されたそのような再充電式リチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様に鑑みると、本発明は、以下の製品実施形態を提供することができる:
実施形態1:正極と、負極と、電解質と、を含む再充電式リチウムイオン電池であって、上記正極は、コアと表面層とを含む粒子を含むリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末を含み、上記コアは、元素Li、M、及び酸素を含む層状の結晶構造を有し、Mは、式M=(Ni(Ni1/2Mn1/2CO1−k(0.13≦x≦0.30、0.20≦z<0.55、x+y+z=1、及び0<k≦0.1)を有し、式中、Aは少なくとも1個のドーパントでありAlを含み、上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末は、モル比0.95≦Liを有し、M≦1.10であり、上記表面層は、上記コアLi、M、及びOの元素、並びにアルミナの混合物からなり、上記電解質は、添加剤のリチウムジフルオロホスフェートを含む、再充電式リチウムイオン電池。電池は、充電前(サイクル前も)に使用可能であってもよい。別の実施形態では、AはAlの代わりに、Mg、Zr、W、Ti、Cr、及びVからなる群から1種以上の元素であることができる。ドーピング剤とも呼ばれるドーパントは、この場合、物質の電気的性質を変化させるために、物質に(非常に低密度で)挿入される微量不純物元素である。
【0014】
実施形態2:上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の上記表面層が更にLiFを含む、再充電式リチウムイオン電池。
【0015】
実施形態3:上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の上記コアは、0.3〜3mol%のAl含量を有し、上記表面層は、外側界面及び内側界面により定められ、上記内側界面は上記コアと接触し、上記表面層は、上記内側界面における上記コアから、上記外側界面まで、少なくとも4mol%増加するAl含量を有し、上記Al含量はXPSにより測定される、再充電式リチウムイオン電池。
【0016】
実施形態4:上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の上記表面層が更にLiFを含み、上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末粒子の上記コアは、0.3〜3mol%のAl含量、及び0.05mol%未満のF含量を有し、上記表面層は、Al含量が、上記内側界面における上記コアの上記Al含量から、上記外側界面まで、少なくとも10mol%増加するAl含量、及び、上記内側界面における0.05mol%未満から、上記外側界面における少なくとも3mol%まで増加するF含量を有し、上記Al及びF含量はXPSにより測定される、再充電式リチウムイオン電池。
【0017】
実施形態5:上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末は、CaO、TiO、MgO、WO、ZrO、Cr、及びVからなる群から選択されるいずれかの1つ以上の化合物を更に含む表面層を有する、再充電式リチウムイオン電池。
【0018】
実施形態6:上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末に関して、A=Al、k=0.005−0.013、x=0.20±0.02、y=0.40±0.05、z=0.40±0.05、及び1≦Li:M≦1.10である、再充電式リチウムイオン電池。
【0019】
実施形態7:上記電解質は、リチウムジフルオロホスフェートを0.5〜2重量%含む、再充電式リチウムイオン電池。
【0020】
実施形態8:上記電解質は、ビニルエチレンカーボネートを2重量%以下更に含む、実施形態7に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【0021】
実施形態9:上記電解質は、リチウムビス(オキサレート)ボレート、ビニレンカーボネート、及び1,3−プロペンスルトンからなる群から選択される1種以上の添加剤を2重量%以下更に含む、実施形態7に記載の再充電式リチウムイオン電池。
【0022】
実施形態10:上記電解質は、EC、DEC、及びEMCのいずれか1つ以上を含む溶媒を含む、再充電式リチウムイオン電池。
【0023】
実施形態11:4.2V超の終止電圧まで充電した後に作動する、前述の再充電式リチウムイオン電池。
【0024】
更なる実施形態は、本明細書で上述した個別の製品実施形態のそれぞれを、前述の1つ以上の製品実施形態と組み合わせることにより組み立てられてよい。
【0025】
様々な製品実施形態において、カソード粉末の表面層の厚さは50nm超400nm未満であってもよい。この表面層の厚さは50nm超、好ましくは150nm超;かつ400nm未満、好ましくは200nm未満である。表面層の外側界面は、粒子の実際の表面に対応することが明らかである。内側界面は、Al含量が材料のコア内の一定ドーピング量より少なくとも0.5mol%高い(こちらもまたXPSで測定される)、XPSで確立される深さとしてもまた定義することができる。表面層の厚さが50nm未満である場合、層が、可溶性塩基LiOH及びLiCOの含量を効果的に減少させない場合がある。層が400nmよりも厚い場合には、Liのインターカレーション及びデインターカレーションが大きく阻害され、その後、粉末の比容量が低下する。
【0026】
第2の態様に鑑みると、本発明は、以下の方法実施形態を提供することができる。
実施形態12:1つ以上の上記製品実施形態に従った、再充電式リチウムイオン電池を調製するための方法であって、
正極にリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末を組み込む工程であって、上記粉末はコアと表面層とを含む粒子からなり、上記コアは、元素Li、M、及び酸素を含む層状の結晶構造を有し、Mは式M=(Ni(Ni1/2Mn1/2CO1−k(0.13≦x≦0.30、0.20≦z<0.55、x+y+z=1、及び0<k≦0.1)を有し、式中、Aは少なくとも1種のドーパントでありAlを含み、上記表面層は上記コアLi、M、及びOの元素の混合物からなり、上記リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末はモル比0.95≦Li:M≦1.10を有する、工程と、
負極を提供する工程と、
上記添加剤のリチウムジフルオロホスフェートを含む電解質を提供する工程と、
上記電池内で上記正極、上記負極、及び上記電解質を組み立てる工程と、
を含む、方法。
【0027】
更なる方法実施形態は、正極に、上の製品実施形態で記載した異なるリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物ベースの粉末を組み込むことからなる。
【0028】
第3の態様に鑑みると、本発明は以下の使用法実施形態を提供することができる。
実施形態13:ポータブルコンピュータ、タブレット、携帯電話、電動自動車、及びエネルギー貯蔵システムのいずれか1つにおける、1つ以上の上の製品実施形態に従った、再充電式リチウムイオン電池の使用。EV、HEV、又はPHEV用途における、本発明に従った電池の特定の使用は、実施形態13で言及した他の用途で使用する際に、同じ電池が利点をもたらさないことにはならない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】「A−NMC622」材料の表面のXPS分析を示す図である。
図2】「AF−NMC622」材料の表面のXPS分析を示す図である。
図3】室温でのサイクル中の、セル1、2、12、13の容量保持力を示す図である。
図4】室温でのサイクル中の、セル2、4、13の容量保持力を示す図である。
図5】45℃でのサイクル中の、セル2、4、13の容量保持力を示す図である。
図6】室温でのサイクル中の、セル1、3、11、及び12の容量保持力を示す図である。
図7】45℃でのサイクル中の、セル1、3、11、及び12の容量保持力を示す図である。
図8】室温でのサイクル中の、セル3、4、12、及び13の容量保持力を示す図である。
図9】45℃でのサイクル中の、セル3、4、12、及び13の容量保持力を示す図である。
図10】室温でのサイクル中の、セル1〜3の容量保持力を示す図である。
図11】室温でのサイクル中の、セル5〜10の容量保持力を示す図である。
図12】45℃でのサイクル中の、セル5〜10の容量保持力を示す図である。
図13】室温でのサイクル中の、セル3、4、5、8、及び10の容量保持力を示す図である。
図14】45℃でのサイクル中の、セル3、4、5、8、及び10の容量保持力を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、サイクル前に、高Niベースのカソード材料と、LiPO含有電解質とを含有する再充電式リチウムイオン電池(いわゆるフルセル)を提供する。本発明に従った表面修飾カソード粉末は、高電圧サイクル下にて改善された安定性を示すため、これらの粉末が、自動車用途のためのNMCカソード材料の候補であることができる。Alドープし、Al表面富化された高Niカソード材料と、LiPOベースの電解質とを含有する、サイクルしていないフルセルは、同じカソード材料を含有するが、LiPO非含有電解質を含有するフルセルと比較した際に、室温にて3.0V〜4.35Vの電圧範囲でのサイクル中に、改善されたサイクル安定性を有することが観察される。したがって、Al処理済み高Niカソード材料と、LiPOベースの電解質との間には相乗作用が存在する。このようなNMCカソード材料を含有するフルセルは、本発明に従ったLiPOベースの電解質添加剤を添加した際にのみ、室温(RT)及び高温(HT)サイクル、並びに高温保管における高い安定性を有する。したがって、提供される本発明の再充電式リチウムイオン電池は、高電圧条件下で安定したサイクルを可能にする。
【0031】
LiPOを電解質に添加することと、カソード表面におけるAl富化層は合わさって、NMCフルセルシステムにおける副反応と気体生成を、より効率的に防止すると考えられている。LiPFなどの典型的な電解質塩は高電圧にて分解し、強酸などの副生成物を形成し、これは、NMCカソード材料の表面上の可溶性塩基内容物との反応、及び溶媒分解をもたらす。これらの酸は、例えば活性NMC622材料を腐食し、NMC粒子の表面にSEI層を形成する。LiPOを電解質系に添加することにより、LiPFの分解及び副反応を妨げる、又は低下させることができ、かつ更に、副産物が高Ni NMC粒子を腐食することが防止される。電解質がLiPOを含有することが不可欠であるが、他の電解質添加剤(VC、LiBOB、PRS、VECなど)が先行技術で既知であり、依然として更に電池性能を改善することができる。例えばDahnら、Journal of the Electrochemical Society,2014,161(4)A506では、複数の電解質添加剤の組み合わせは、単一の添加剤の肯定的な寄与の合計を上回る明白な効果を有することができ、それ故、相乗効果をもたらすことが教示されている。
【0032】
本発明は、Al処理済み高Ni NMCカソード粉末を含有する、サイクルしていないフルセルは、特に、LiPOベースの電解質を使用する場合、Caドープした、又は裸の高Ni粉末を含有するフルセルと比較した際に、高温で大きく改善した貯蔵特性を示すこともまた発見している。したがって、Al処理済み高Niカソード材料とLiPOベースの電解質との相乗効果は、高温でのフルセルの安定性を高めるという結論を出すことができる。
【0033】
本発明に従うと、Al表面処理済みの高Ni NMCカソード粉末は、リチウムイオン電池に適用した際に優れた性質を示す。これは、表面層内のAl勾配に起因し、表面層内にフッ素(fluor)勾配が存在することにより、更に高めることができる。Al勾配が存在することにより、カソード材料が4.35Vなどの高電圧まで充電された際に、サイクル安定性の改善に役立つことができる。一方、コーティング層におけるF勾配は、可溶性塩基の量を低下させるのに役立ち、最終的に、高温でのフルセルの貯蔵特性を改善する。
【0034】
本発明に従った、表面修飾NMC622粉末は、コアと、アニール処理されたコーティング層であり得る表面層とを有することができる。いくつかの実施形態において、表面層は外側界面及び内側界面により定められ、内側界面はコアと接触している。コアは、XPSにより測定した、0.3mol%超、かつ3.0mol%未満のAl含量、及び0.05mol%未満のF含量を有することができる。一実施形態では、表面層は、内側界面におけるコアのAl含量から連続的に、外側界面において4mol%超、好ましくは6mol%超まで増加するAl含量を有する。別の実施形態では、表面層は、内側界面におけるコアのAl含量から連続的に、外側界面において10mol%超、好ましくは12mol%超まで増加するAl含量を有し、かつ、内側界面において0.05mol%未満から、外側界面において少なくとも3mol%、好ましくは外側界面において少なくとも5mol%まで増加するF含量を有する。表面層と、コアの外側部分との異なる元素の濃度は、X線光電子分光法(XPS)を使用して測定することができる。
【0035】
本発明の別の実施形態において、ドーピング元素は、Alの代わりに、Ca、Mg、Zr、W、Ti、Cr、及びVの群から選択される1種以上の元素であることができる。ドーピング元素の源は、金属酸化物、例えばAlの代わりに、TiO、MgO、WO、ZrO、Cr、V、及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物であるのが好ましい。Alの好ましい源は、ナノスケールのアルミナ粉末、例えばヒュームドアルミナである。アルミナは、沈殿、スプレードライ、ミリングなどにより入手することができる。一実施形態において、ヒュームドアルミナ、又は表面処理済みヒュームドアルミナを使用する。ヒュームドアルミナナノ粒子は、高温の水素空気炎で作製され、日常使用の製品に関するいくつかの用途で使用される。
【0036】
前述したように、一実施形態において、ドーピング元素としてはAl及びFが挙げられる。Fの源は、フッ素含有ポリマーであってよい。このようなポリマーの典型的な例は、PVDFホモポリマー又はPVDFコポリマー(HYLAR(登録商標)又はSOLEF(登録商標)PVDFなど、共にSolvay SA,Belgium製)である。別の既知の、PVDFベースのコポリマーは例えば、PVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)である。このようなポリマーは多くの場合、名称「Kynar(登録商標)」で知られている。テフロン(登録商標)(即ちPTFE)もまた、ポリマーとして使用することができる。特許文献3に記載のとおり、焼結工程の間で、Li非含有のフッ素含有ポリマーは、コア材料と接触すると分解する。ポリマーは完全に分解してフッ化リチウムが形成し、これは粒子の表面層で発見された。LiFは、分解性ポリマーと、リチウム遷移金属酸化物の表面塩基を含有するリチウムとの反応に由来する。表面層中のLiFが粒子内のLiを保護することによって、Liが炭素と反応してLiCOを形成することを防止することと推測することができる。得られた表面層は以下の機能を有する:LiFを含む薄層は、反応性表面塩基層を置き換えることにより、コアの表面の塩基含量を実用的にゼロまで低下させ、全体の安全性を改善する。本発明では、表面層はコアの元素の混合物、LiF及びAlであることを確認することができる。
【0037】
本発明に従った表面修飾高Ni NMCカソード粉末を、サイクル試験の室温(RT)及び高温(HT)(それぞれ25℃及び45℃)で評価可能なフルセル構成におけるカソードに使用することができる。一実施形態では、1.5重量%のLiPO(リチウムジフルオロホスフェート)は電解質添加剤の役割を果たし、25.5:29.6:29.6の重量比のEC(エチレンカーボネート)/DEC(ジエチルカーボネート)/EMC(エチルメチルカーボネート)を溶媒として使用する。フッ素勾配を有する、又は有しない、Al処理済みNMC622が、フルセルの正極活物質であることができる。このようなフルセルのRT及びHTサイクル試験は、優れたサイクル安定性及び良好な貯蔵特性を示す。Caドープした、又は裸のNMC622をカソード材料として使用するフルセルと比較して、Al処理済みNMC622カソード材料を含有する、特に、LiPO含有電解質を共に含むフルセルは、室温にて、3.0〜4.5Vの電圧範囲のサイクル中に、より優れたサイクル寿命を有することが発見されている。
【0038】
別の実施形態では、フルセルの電解質は、1重量%のLiPO(リチウムジフルオロホスフェート)と、電解質添加剤としての1重量%のVEC(ビニルエチレンカーボネート)と、25.5:29.6:29.6の重量比の、溶媒としてのEC(エチレンカーボネート)/DEC(ジエチルカーボネート)/EMC(エチルメチルカーボネート)と、を含む。Al及びF表面修飾NMC622は、フルセルの正極活物質である。RT及びHTサイクル試験は、このフルセルのサイクル安定性が、LiPO添加剤のみを含むフルセルのサイクル安定性よりも良好であることを示す。VECと共にLiPOを添加することによりもたらされる利点は、Caドープした、又は裸のNMC622が正極活物質であるようなフルセルでは観察されない。したがって、LiPOベースの電解質にVECを更に加えることは、高電圧でのサイクル中に、Al処理済みNMC622ベースのセルの容量保持力を増加させるという利点を有する。
【0039】
本発明は、Al表面修飾NMC622カソード材料とLiPO含有電解質との相乗効果を発見し、この相乗効果により、高電圧でのRT及びHTサイクル中の、セルの優れた安定性を達成することができる。これにより、本発明に係る再充電式リチウムイオン電池装置は、特に、自動車用途に好適な性能を有し、特に、長いサイクル寿命を可能にする。
【0040】
以下の説明では、実施例におけるカソード材料の作製を詳述する:
NMC622の作製
(a)NMC622コアの作製:水酸化リチウム及び混合Ni−Mn−Coオキシヒドロキシドを、垂直の一軸ミキサ内で、ドライパウダー混合プロセスにより均一にブレンドする。ブレンド比は、Li1.01(Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.20.99を得ることを目標とし、この比は、ICPなどの分析技術により容易に確認することができる。次に、混合物を酸化雰囲気のトンネル炉で焼結する。焼結温度は900℃超であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。焼結後、サンプルを研削盤で粉砕し、約12μmの平均粒径とする。
(b)Alドープ及びアルミナ表面富化:工程(a)からのNMC 622粉末を、国際公開第2016/116862号(この同時係属出願は参照により本明細書に組み込まれている)の実施例1(工程(d))に記載のとおり、アルミニウムにより表面修飾する。工程(a)からの、1kgのLi1.01(Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.20.99粉末をミキサ(この実施例では、2Lのヘンシェル型ミキサ)に充填し、2gのヒュームドアルミナ(Al)ナノ粉末を同様に添加する。均一に混合(通常、1000rpmで30分間)した後、この混合物を箱形炉中の酸化雰囲気中で焼結する。焼結温度は700℃であり、滞留時間は約5時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。表面修飾の後、リチウム金属酸化物(コア)にAlがドープされたことを確認することができ、XPS測定は、Al含量が表面で増加する、確立された勾配、更に、アルミナ形態のアルミニウムで富化された表面層を示す。本工程後、材料は、全体式Li1.01((Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.20.996Al0.0040.99で表すことができる。
(c)アルミナ及びLiF表面修飾:プロセス(b)から入手した粉末を、同時係属出願の国際公開第2016/116862号の実施例1(工程(e))に記載されている手順に従い処理する:プロセス(b)から入手した1kgの粉末をミキサ(この実施例では、2Lのヘンシェル型ミキサ)に充填し、2gのヒュームドアルミナAlナノ粉末、及び3gのポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉末を同様に添加する。均一に混合(通常、1000rpmで30分間)した後、この混合物を箱形炉中の酸化雰囲気中で焼結する。焼結温度は375℃であり、滞留時間は約5時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。工程(b)で確立された表面層は、バリアを作製しないため、PVDFが内側面に存在するLiと反応し、LiFを形成する。第2の焼結工程の後、表面層はコアの元素の混合物、LiF及びAlであることを確認することができる。最終のAl含量は(ICPにより測定可能であるように)0.8mol%である。
【0041】
式Li1.01((Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.20.99の正極材料を、いかなる更なる処理を行わずに、プロセス(a)により作製し、以下「Bare−NMC622」と呼ぶ。式Li1.01((Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.20.996Al0.0040.99の正極材料をプロセス(a)及び(b)により作製し、以下「A−NMC622」と呼ぶ。「A−NMC622」材料の表面のXPS分析を図1に示し、ここでは、勾配、Alの表面含量及びコア含量をはっきりと確認できる。式Li1.01((Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.20.992Al0.0080.991.9910.009の正極材料をプロセス(a)、(b)、及び(c)により作製し、以下「AF−NMC622」と呼ぶ。「AF−NMC622」材料の表面のXPS分析を図2に示し、ここでは、Al及びFの勾配を、これらの表面含量及びコア含量と共にはっきりと確認できる。
【0042】
CaドープNMC622の作製
水酸化リチウム、酸化カルシウム、及び混合Ni−Mn−Coオキシヒドロキシドを、垂直の一軸ミキサ内で、ドライパウダー混合プロセスにより均一にブレンドする。ブレンド比は、Li1.01(Ni0.4(Ni1/2Mn1/20.4Co0.2Ca0.0010.99を得ることを目標とし、この比は、ICPなどの分析技術により容易に確認することができる。次に、混合物を酸化雰囲気のトンネル炉で焼結する。焼結温度は900℃超であり、滞留時間は約10時間である。乾燥空気を、酸化ガスとして使用する。焼結後、サンプルを研削盤で粉砕し、約12μmの平均粒径とする。得られる最終材料を、以下「Ca−NMC622」と呼ぶ。カソード材料にCaを添加することで、例えば特開2014−143108号公報に開示されているように、顕著な電池容量(例えば高エネルギー密度)、及び過充電時の高信頼性を実現することが知られている。
【0043】
以下の説明では、実施例のフルセルの作製を詳述する:
A)フルセルの作製
650mAhパウチ型セルを、以下の2工程:I.スラリー作製及びコーティング、並びにII.フルセルの組み立てにより作製する。
【0044】
I.スラリー作製及びコーティング
NMP溶液中で、NMPを含む700gのNMCカソード材料、47.19gのsuper P(登録商標)(Timcalの導電性カーボンブラック)、及び393.26gの10重量% PVDFベース結合剤を混合することにより、スラリーを作製する。混合物を遊星ミキサで2.5時間混合する。混合中、追加のNMPを添加する。混合物をDisperミキサに移し、更にNMPを添加しながら1.5時間混合する。使用するNMPの典型的な総量は423gである。スラリー内の最終の固形物含量は約65重量%である。スラリーをコーティングラインに移す。二重コーティングされた電極を準備する。電極表面は平滑である。電極を、ロール圧縮機によって圧縮し、約3.2g/cmの電極密度を得る。電極を使用して、後述するパウチセル型フルセルを調製する。
【0045】
II.フルセルの組み立て
フルセル試験目的のために、調製した正極(カソード)を、通常、グラファイトタイプのカーボンである負極(アノード)、及び多孔性電気的絶縁膜(セパレータ)と共に組み立てる。フルセルは、以下の主要工程により調製される。
a.電極のスリット化:NMPコーティングの後、電極活物質は、スリット化機械によりスリット化され得る。電極の幅及び長さを、電池用途に応じて決定する。
b.タブの取り付け:2種類のタブが存在する。アルミニウムタブを正極(カソード)に取り付け、銅タブを負極(アノード)に取り付ける。
c.電極の乾燥:調製した正極(カソード)及び負極(アノード)は、85℃〜120℃で8時間、真空オーブン内で乾燥される。
d.ジェリーロールに曲げる:電極を乾燥後、巻き線機を使用してジェリーロールを作製する。ジェリーロールは、少なくとも負極(アノード)、多孔性電気的絶縁膜(セパレータ)、及び正極(カソード)からなる。
e.パッケージング:調製したジェリーロールが、アルミニウム積層フィルムパッケージと共に650mAhのセルに組み込まれ、パウチセルになる。更に、ジェリーロールを本発明に従った電解質に含浸する。電解質の量は、正極及び負極、並びに多孔性セパレータの多孔性及び寸法によって計算される。最終的に、パッケージ化されたフルセルは、封止機械によって封止される。
【0046】
B)フルセルサイクル試験
以下の説明では、実施例における分析方法について詳述する:
修飾カソード粉末の様々な実施形態において、表面層の厚さは、50nm超かつ400nm未満であってよい。表面層の厚さは、XPS測定により測定される。SiOのスパッタリング速度:6.0nm/分を適用して、深さ/厚さを計算する。ここでの厚さは、スパッタリング時間に、SiOにおける(参照)スパッタリング速度乗じることにより得られる。XPS測定の間に、測定した目標のスパッタリング速度を入手するのは困難である。典型的な方法は、(ここでは、SiOにおける)標準的なスパッタリング速度を全てのサンプルに使用することにより、厚さを正規化することである。それ故、ここで計算する厚さは、他のスペクトル法(例えば走査型電子顕微鏡(SEM))により入手可能なものと同じである、ということは、必ずしも真ではない。ICPなどの既知の技術により、粉末の平均組成が得られる。ICPにより、XPSより正確な平均測定が得られるものの、表面層の性質の説明、例えば異なる層厚さにおける元素分布に関しては、XPSが、正確な質的及び定量的データをもたらすことができることが知られている。実際には、測定はULVAC−PHI(Q2)製のQuantera SXM(商標)で実施される。この測定は、単色のAl−Kα放射線、及び、1200×500μmの面積を走査する100μmのスポットサイズ(高感度モード)を使用して実施される。測定角度θは45°であり、この設定では、情報の深さは約7nmである。ワイドスキャン測定によって、表面に存在する元素を同定する。正確な狭いスキャンを行い、正確な表面組成を決定する。濃度−深さプロファイルは、代替の測定法、及びイオンボンバードメント(アルゴンイオン、Vi=4kV、ラスタ3×3mm、SiOにおけるスパッタ速度:6.0nm/分)により測定される。
【0047】
電気化学的性質:1C速度(1時間以内に、充電したセルを放電する電流に対応する)にて、CC/CV(定電流/定電圧)モード下にて3.0V〜4.35Vで、Toscat−3100コンピュータ制御定電流サイクルステーション(Toyo)を使用して、25℃(=RT)、及び45℃(=HT)にて、フルセルをサイクルする。
【0048】
本発明を次の実施例において更に例示する。
実施例1:A−NMC622及び電解質1
本実施例はフルセル(前述のとおりに調製)を示し、電解質は、
(a)電解質塩を含む非水溶媒:25.5:29.6:29.6:13.3の重量比のエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)と、
(b)電解質添加剤:0.5重量%のリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiB(C、LiBOB)、1重量%のビニレンカーボネート(VC)、0.5重量%のプロペンスルトン(PRS)、及び1重量%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)と、からなる。
【0049】
上で調製した電解質系を、電解質1と分類する。フルセルは、カソード活物質「A−NMC622」を含む。上で調製した650mAhパウチ型電池をセル1と分類する。
【0050】
対抗実施例2:A−NMC622、及びLiPO非含有の電解質1
本実施例は、1重量%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)を添加しない、セル1と同じ手順により調製したフルセルを表す。電解質は、Panax Etecにより流通されている。調製した650mAhパウチ型電池をセル2と分類する。
【0051】
実施例3:AF−NMC622及び電解質1
本実施例は、セル1と同じ手順により調製したフルセルを表すが、カソード材料が前述した「AF−NMC622」で構成される。調製した650mAhパウチ型電池をセル3と分類する。
【0052】
対抗実施例4:AF−NMC622、及びLiPO非含有の電解質1
本実施例は、セル2と同じ手順により調製したフルセルを表すが、カソード材料は「AF−NMC622」で構成される。調製した650mAhパウチ型電池をセル4と分類する。
【0053】
実施例5:AF−NMC622及び電解質2
本実施例は、電解質が、
(a)電解質塩と組み合わさった非水溶媒:25.5:29.6:29.6:13.3の重量比のエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)と、
(b)電解質添加剤:1.5重量%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)と、
からなる、前述したとおりに調製した再充電式リチウムイオンフルセルを示す。
【0054】
上で調製した電解質系を電解質2と分類する。セルは更に、カソード活物質「AF−NMC622」を含む。上で調製した650mAhパウチ型電池をセル5と分類する。
【0055】
実施例6:AF−NMC622、及びPRSを含む電解質2
本実施例は、0.5重量%の1,3−プロペンスルトン(PRS)を添加した、セル5と同じ手順により調製したフルセルを表す。調製した650mAhパウチ型電池をセル6と分類する。
【0056】
実施例7:AF−NMC622、及びLiBOBを添加した電解質2
本実施例は、0.5重量%のリチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)を添加した、セル5と同じ手順により調製したフルセルを表す。調製した650mAhパウチ型電池をセル7と分類する。
【0057】
実施例8:AF−NMC622、並びにLiBOB及びPRSを添加した電解質2
本実施例は、セル5と同じ手順により調製したフルセルを示すが、電解質添加剤は、1重量%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)、0.5重量%のリチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、及び0.5重量%の1,3−プロペンスルトン(PRS)である。調製した650mAhパウチ型電池をセル8と分類する。
【0058】
実施例9:AF−NMC622、及びVECを添加した電解質2
本実施例は、セル5と同じ手順により調製したフルセルを示すが、電解質添加剤は、1重量%のリチウムジフルオロホスフェート(LiPO)、及び1重量%のビニルエチレンカーボネート(VEC)である。調製した650mAhパウチ型電池をセル9と分類する。
【0059】
対抗実施例10:AF−NMC622、及びLiPO非含有の電解質2
本実施例は、LiPOを添加していない、セル5と同じ手順により調製したフルセルを表す。調製した650mAhパウチ型電池をセル10と分類する。
【0060】
対抗実施例11:NMC622及び電解質1
本実施例は、セル1と同じ手順により調製したフルセルを示すが、カソード材料は、上述した「Ca−NMC622」で構成される。調製した650mAhパウチ型電池をセル11と分類する。
【0061】
対抗実施例12:NMC622及び電解質1
本実施例は、セル1と同じ手順により調製したフルセルを示すが、カソード材料は、上述した「Bare−NMC622」で構成される。調製した650mAhパウチ型電池をセル12と分類する。
【0062】
対抗実施例13:Bare−NMC622、及びLiPO非含有の電解質1
本実施例は、セル2と同じ手順により調製したフルセルを表すが、カソード材料は「Bare−NMC622」で構成される。調製した650mAhパウチ型電池をセル13と分類。
【0063】
表1は、各セルの電解質添加剤及びカソード材料についての情報をまとめている。
【0064】
【表1】
【0065】
セル1、2、12、及び13の比較による、実施例の議論:この議論は、高電圧での電池のサイクル安定性を改善する、カソード材料「A−NMC622」と、LiPO含有電解質との相乗効果を証明する。セル1は、「A−NMC622」、及び、LiPOを含有する電解質系「電解質1」を含む。セル2は、同じカソード材料、及び、LiPO非含有の電解質系を使用する。セル12は、セル1と同じ電解質系を含有するが、いかなる表面処理、又はドーピング処理をも行っていないNMC622である、異なるカソード材料「Bare−NMC622」を有する。セル13は参照サンプルとして機能し、「Bare−NMC622」、及びLiPO非含有の「電解質1」を含む。図3は、室温で、4.35〜3.0Vの電圧範囲におけるサイクル(容量保持力対サイクル数のプロットとして表される)中の、これらのセルの容量保持力を示す。セル2及び12は、参照セル13よりも良好なサイクル性能を有することが観察され、これは、サイクル中ではカソード材料「A−NMC622」は「Bare−NMC622」よりも好適であり、かつまた、電解質にLiPOを添加することで、セルの安定性が向上することを証明する。更に、セル1は、セル2及び12によりも一層良好なサイクル能力を有することを観察することができ、これは、サイクル性能における、「A−NMC622」と、LiPOベースの電解質との相乗効果を示す。
【0066】
セル2、4、及び13の比較による、実施例の議論:セル2、4、及び13は、LiPOを含まない、同じ電解質系「電解質1」を含有するが、異なるカソード材料を含有する。セル2は「A−NMC622」を使用し、セル4は「AF−NMC622」を使用し、セル13は「Bare−NMC622」を使用する。図4及び5は、それぞれ、室温及び45℃で、4.35〜3.0Vの電圧範囲におけるサイクル(容量保持力対サイクル数のプロットとして表される)中における、これらのセルの容量保持力を示す。セル4の容量保持力はセル2及び13よりも高いことが観察され、これは、NMC622のAl及びF処理がサイクル安定性を改善することを証明する。
【0067】
セル1、3、11、及び12の比較による、実施例の議論:セル1、3、11、及び12は、LiPOを含有する同じ電解質系「電解質1」を含有するが、異なるカソード材料を含有する。セル1は「A−NMC622」を使用し、セル3は「AF−NMC622」を使用し、セル11は「Ca−NMC622」を使用し、セル12は「Bare−NMC622」を使用する。図6及び7は、それぞれ、室温及び45℃におけるサイクル中の、これらのセルの容量保持力を示す。セル3の容量保持力はセル1より高く、セル11及び12よりもはるかに高いことが観察され、これは、LiPOを含有するセルのサイクルの間、Al処理済みNMC622が、CaドープしたNMC622、及び裸のNMC622よりも安定していることを証明する。この結果は、LiPO非含有の「電解質1」を使用する、セル2、4、及び13の比較に類似している。
【0068】
セル3、4、12、及び13の比較による、実施例の議論:この議論は、高電圧における電池のサイクル安定性の改善における、カソード材料「AF−NMC622」と、LiPO含有電解質との相乗効果を証明する。セル3は、「AF−NMC622」、及びLiPOを含有する電解質系「電解質1」を含む。セル4は、セル3と同じカソード材料、及びLiPO非含有の、相当する電解質を使用する。セル12は、セル3と同じ電解質系を含有するが、いかなる表面処理、又はドーピング処理をも行っていないNMC622である、異なるカソード材料「Bare−NMC622」を有する。セル13は参照サンプルとして機能し、「Bare−NMC622」、及びLiPO非含有の「電解質1」を含む。図8及び9は、それぞれ、室温及び45℃におけるサイクル中の、これらのセルの容量保持力を示す。両方の温度において、セル4及び12は、セル13の参照サンプルと比較して良好なサイクル性能を示すことが観察され、これは、サイクル中ではカソード材料「AF−NMC622」は「Bare−NMC622」より安定しており、LiPOを電解質に添加することによってもまた、セルの安定性が向上することを証明する。更に、セル3は、セル4及びセル12と比較して一層良好なサイクル能力を有することも確認することができ、これは、サイクル性能における、「AF−NMC622」と、LiPOベースの電解質との相乗効果を示す。
【0069】
セル1、2、及び3の比較による、実施例の議論:
セル1〜3の電解質組成を表1にまとめている。セル1及び2において、「A−NMC622」は正極活物質である。セル3において、「AF−NMC622」を使用して正極を作製する。セル1及び3に関して、電解質はLiPOで構成され、セル2の電解質は、LiPOで構成される。図10は、室温でのサイクル試験中の、セル1〜3の容量保持力を示す。商用電解質を含有するセル(セル2)と比較して、LiPOを添加したセル(セル1及び3)は良好なサイクル性能を示し、これは、サイクル安定性におけるLiPOの明白な効果は、「AF−NMC622」ベースのフルセルだけではなく、「A−NMC622」ベースのフルセルでも得られることを示す。したがって、カソード材料にAl処理済みNMC622を使用する際、一般的に、LiPOベースの電解質は高電圧でのフルセルのサイクル性能を安定化させる。セル2と比較して、セル1は、LiPOベースの電解質の明白な効果による、改善された性能を有する。セル3の、更に一層優れた結果は、「AF−NMC622」処理と、LiPOベースの電解質の適用には相乗効果が存在することを示す。
【0070】
セル5〜10の比較による、実施例の議論:
セル5〜10は、同じ電極構成成分及び電解質溶媒を使用し、セルの唯一の違いは、電解質添加剤である。セル10は電解質添加剤を有さず、参照サンプルとして機能する。図11は、4.35〜3.0Vの電圧範囲における、セル5〜10のRTサイクル(25℃)特性を示し、容量保持力対サイクル数のプロットとして示される。セル10と比較して、別のセルは全て、サイクル中により高い容量保持力を有する。これは、フルセルのサイクル能力が、全てLiPOを含有する、セル5〜10の電解質添加剤により促進されることを証明する。この結果は、LiPO以外の添加剤を有しないセル5で既に達成されているため、LiPOは、高Niフルセルのサイクル安定性を改善する明白な効果を有するという結論を出すことができる。更に、図11において、最高のサイクル性能を有するのは、電解質添加剤LiPO及びVECを含有するセル9である。したがって、LiPO及びVECは、容量減衰を防止するのにある種の相乗効果を有する。セル6及び8の結果に基づくと、PRSをLiPOに添加することは、LiPOのみよりも酷くなる。PRSの相乗効果−米国特許出願第2012/0177818(A1)号から予想可能なLiPOは、確認されなかった。これは、そこで試験した電極活物質が純粋なLiCoOであるためである可能性がある。
【0071】
図12は、45℃での類似のサイクル試験の結果を示す。高温でのセルのサイクル能力は悪化するが、サイクル寿命における電解質添加剤の効果は維持される。セル9は依然として最大の容量保持力を示すが、セル10は最悪の性能を示す。セル6及び8の結果に基づくと、PRSをLiPOに添加すると、LiPOのみよりも酷くなる。セル5〜10のサイクル特性の上記分析に従うと、LiPOベースの電解質は、高電圧でのフルセルのサイクル特性に有益であるという結論を出すことができ、ここでは、「AF−NMC622」がカソード材料として機能する。このような電解質にVECを補充すると、サイクル安定性が更に向上する。
【0072】
セル3、4、5、8、及び10の比較による実施例の議論:図13(室温)及び図14(45℃)における、セル3、4、5、8、及び10のサイクル能力は、「電解質1」(セル3〜4)が「電解質2」(セル5及び8)よりも効果的であり、LiPOベースの電解質の使用と、追加の添加剤LiBOB、VC、及びPRS(セル3で)を含有するその電解質とには相乗効果が存在することを証明する。「電解質1」におけるVCの添加は、セル8(「電解質2」+PRS+LiBOB)の悪い結果を相殺しているように思われる。
【0073】
これら全ての議論の結論は、以下のとおりである:
LiPOを添加することによる電解質の修飾は、充電電圧を4.2、4.3、4.35V、又はそれを更に超えて増加させる、自動車用途のための改善された再充電式リチウムイオン電池をもたらすには十分ではなく、
これは、Alベースの表面富化を電池そのものに適用しても、同じく十分ではなく、
しかし驚くべきことに、本発明に従った、電解質の修飾と、活物質の表面富化には相乗作用を見出すことができる。
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