特許第6754117号(P6754117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754117
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20200831BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20200831BHJP
   C08C 19/28 20060101ALI20200831BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20200831BHJP
【FI】
   C08L67/04ZBP
   C08L9/00
   C08C19/28
   !C08L101/16
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-116010(P2016-116010)
(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-218552(P2017-218552A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】庄 錦煌
(72)【発明者】
【氏名】中澤 慶久
(72)【発明者】
【氏名】宇山 浩
(72)【発明者】
【氏名】細田 直
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102604350(CN,A)
【文献】 特開2014−231552(JP,A)
【文献】 特開平08−165353(JP,A)
【文献】 特開2016−145294(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/103788(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/110164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08L 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン、および未変性トランス型ポリイソプレンを含有する、ポリ乳酸樹脂組成物であって、
該樹脂組成物の重量を基準にして、該ポリ乳酸の含有量が70重量%から99重量%であり、該無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンの含有量が0.5重量%から5重量%であり、そして該未変性トランス型ポリイソプレンが0.5重量%から25重量%である、ポリ乳酸樹脂組成物
【請求項2】
前記無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンには、トランス型ポリイソプレンの繰り返し単位に対して0.5モル%から10モル%の割合で無水マレイン酸が導入されている、請求項1に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記未変性トランス型ポリイソプレンが、100,000から3,000,000の重量平均分子量を有する、請求項1または2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記未変性トランス型ポリイソプレンが、バイオマスに由来する成分である、請求項1からのいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載のポリ乳酸樹脂組成物から構成される、樹脂成形体。
【請求項6】
ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法であって、
ポリ乳酸と無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンとを溶融混練して、予備混練物を得る工程;および
該予備混練物に未変性トランス型ポリイソプレンを添加する工程;
を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物に関し、より詳細には、樹脂成形体の靭性および結晶性の両方が向上したポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化および化石資源の枯渇の進行が懸念される中、植物由来でありかつ生分解性を有するポリ乳酸に注目が集まっている。しかし、ポリ乳酸は、その分子構造に由来する脆性により、ポリ乳酸単独での用途は制限されている。
【0003】
このような脆性の改善(すなわち、靭性の向上)のため、例えば、ポリ乳酸に、ゴムやエラストマーを添加して改質する技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、天然ゴムおよび/またはその変性物を改質剤として用い、ポリ乳酸にブレンドしたポリ乳酸樹脂組成物が、衝撃強度を向上したことが記載されている。また、特許文献2には、エポキシ化トランス型ポリイソプレンを改質剤として用い、ポリ乳酸にブレンドしたポリ乳酸樹脂組成物が、衝撃強度を向上したことが記載されている。
【0005】
しかし、当該改質技術では、脆性の改善に伴ってポリ乳酸が本来有する結晶性が確保され難い状況にあった。ここで、ポリ乳酸の耐熱性および力学特性は、結晶性に由来するものであり、ポリ乳酸を含有する樹脂組成物の実用的価値を考慮すると、その結晶性は保持されるべき重要な特性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−084333号公報
【特許文献2】特開2012−107137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、ポリ乳酸自体が有する結晶性を保持しつつ、かつ靭性が向上したポリ乳酸樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリ乳酸、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン、および未変性トランス型ポリイソプレンを含有する、ポリ乳酸樹脂組成物である。
【0009】
1つの実施形態では、上記無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンには、トランス型ポリイソプレンの繰り返し単位に対して0.5モル%から10モル%の割合で無水マレイン酸が導入されている。
【0010】
1つの実施形態では、上記樹脂組成物の重量を基準にして、上記ポリ乳酸の含有量は70重量%から99重量%であり、上記無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンの含有量は0.5重量%から5重量%であり、そして上記未変性トランス型ポリイソプレンは0.5重量%から25重量%である。
【0011】
1つの実施形態では、上記未変性トランス型ポリイソプレンは、100,000から3,000,000の重量平均分子量を有する。
【0012】
1つの実施形態では、上記未変性トランス型ポリイソプレンは、バイオマスに由来する成分である。
【0013】
本発明はまた、上記ポリ乳酸樹脂組成物から構成される、樹脂成形体である。
【0014】
本発明はまた、ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法であって、
ポリ乳酸と無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンとを溶融混練して、予備混練物を得る工程;および
該予備混練物に未変性トランス型ポリイソプレンを添加する工程;
を包含する、方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリ乳酸が本来有する結晶性の特性を保持したまま、当該ポリ乳酸自体には不充分であった靭性を樹脂成形体に付与することができる。これにより、ポリ乳酸の工業的用途を拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例2で得られた樹脂組成物の切断面における電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2】比較例1で得られた樹脂組成物の切断面における電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】実施例1〜3ならびに比較例1および2で製造されたポリ乳酸樹脂組成物の各DSC曲線を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
(ポリ乳酸樹脂組成物)
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、および無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンを含有する。
【0019】
本発明におけるポリ乳酸は、生分解性、すなわち土壌または堆肥中、あるいは水中または海水中で、例えば、微生物等によって適切な時間をかけて分解する性質を有する。本発明におけるポリ乳酸は、構成単位としてL−乳酸および/またはD−乳酸を含むポリマーまたはコポリマーである。
【0020】
このようなポリ乳酸は、例えば、ラクチドの開環重合により得られたものであってもよく、乳酸の脱水縮合により得られたものであってもよい。さらに、ポリ乳酸は、バイオマス由来の材料から製造されたものであってもよい。当該バイオマスとしては、必ずしも限定されないが、例えば、トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、サトウキビなどの植物性材料が挙げられる。
【0021】
本発明においては、ポリ乳酸は、汎用性に富み入手が容易であるとの理由から、L−乳酸を用いて得られたポリ(L−乳酸)を用いることが好ましい。さらに、ポリ乳酸は、当該技術分野において一般的な汎用されているグレード品(例えば、押出グレードおよび射出グレード、ならびにそれらの組み合わせ)を使用することができる。
【0022】
本発明の樹脂組成物におけるポリ乳酸の含有量は、必ずしも限定されないが、例えば、樹脂組成物全体の重量を基準として、好ましくは70重量%〜99重量%、より好ましくは80重量%〜99重量%である。樹脂組成物中におけるポリ乳酸の含有量が70重量%を下回ると、得られる樹脂組成物に対し、ポリ乳酸自体の性質(例えば、引張強度)を充分に発揮することができない場合がある。樹脂組成物中におけるポリ乳酸の含有量が99重量%を上回ると、当該樹脂組成物を用いた樹脂成形体に対して充分な靭性を付与することが困難となる場合がある。
【0023】
本発明における未変性トランス型ポリイソプレンは、未処理のトランス型ポリイソプレン、すなわち、化学的変性が行われていないトランス型−1,4−ポリイソプレンであり、後述するような無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンとは区別される。未変性トランス型ポリイソプレンの例としては、バイオマス由来の(すなわち天然の)トランス型ポリイソプレン、および化学的に合成されたトランス型ポリイソプレンが挙げられる。本発明において、未変性トランス型ポリイソプレンは、カーボンニュートラル等の観点から、バイオマス由来のトランス型ポリイソプレンが好ましい。
【0024】
未変性トランス型ポリイソプレンを含有するバイオマスの例としては、トチュウ科のトチュウ(Eucommia ulmoides)、アカテツ科のバラタ(Mimusops balata)、グッタペルカノキ(Palaquim gutta)などの植物が挙げられる。高い重量平均分子量のトランス型ポリイソプレンが得られる上、その構造中に、トランス1,4−結合単位の含有率が高くかつ結合異性単位の含有率が低いとの理由からトチュウ由来のトランス型ポリイソプレンを用いることが好ましい。上記未変性トランス型ポリイソプレンは、例えば、上記植物の1種またはそれ以上を用いて、当該技術分野において公知の手法により得ることができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物を構成する未変性トランス型ポリイソプレンは、ジエン系熱可塑性エラストマーであり、上記ポリ乳酸に対する改質剤として機能し、得られる樹脂成形体に対して優れた靭性を付与することができる。
【0026】
本発明における未変性トランス型ポリイソプレンはまた、トランス型ポリイソプレンに加え、樹脂組成物の引張特性および/または結晶性に対して負の影響を及ぼさない範囲において、シス型ポリイソプレンを含有していてもよい。
【0027】
本発明における未変性トランス型ポリイソプレンは、例えば10万〜300万、好ましくは30万〜150万の重量平均分子量を有する。未変性トランス型ポリイソプレンポリイソプレンの重量平均分子量が10万を下回る場合は、得られた樹脂成形体に対して充分な靭性を付与することが困難となる場合がある。なお、重量平均分子量が300万を超えるものは成型加工性が低下する場合がある。
【0028】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における未変性トランス型ポリイソプレンの含有量は、必ずしも限定されないが、例えば、樹脂組成物全体の重量を基準として、好ましくは0.5重量%〜25重量%、より好ましくは0.5重量%〜15重量%である。樹脂組成物中における未変性トランス型ポリイソプレンの含有量が0.5重量%を下回ると、得られた樹脂成形体に充分な靭性を付与することが困難となる場合がある。樹脂組成物中における未変性トランス型ポリイソプレンの含有量が25重量%を上回ると、得られる樹脂組成物の引張強度が低下する場合がある。
【0029】
本発明における無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンは、上記未変性トランス型ポリイソプレンを構成するトランス−1,4−結合単位の少なくとも一部に無水マレイン酸基が導入されたトランス型ポリイソプレンである。
【0030】
無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンにおける無水マレイン酸変性基の導入量は必ずしも限定されないが、例えば、トランス型ポリイソプレンの繰り返し単位(未変性トランス型ポリイソプレンを構成するトランス−1,4−結合単位)に対して、好ましくは0.5モル%〜10モル%、より好ましくは2モル%〜8モル%の割合で無水マレイン酸が導入されている。無水マレイン酸の導入量が、当該トランス型ポリイソプレンの繰り返し単位に対して0.5モル%を下回ると、それにより得られる変性トランス型ポリイソプレンは相溶化剤としての機能が低下するため、樹脂組成物に対して靱性を付与することが困難となる場合がある。無水マレイン酸の導入量が、当該トランス型ポリイソプレンの繰り返し単位に対して10モル%を上回ったとしても、それにより得られる変性トランス型ポリイソプレンについて、相溶化剤としての機能をそれ以上向上することが期待できず、むしろ大量の無水マレイン酸を必要とするのみであり、製造効率を低下させる場合がある。
【0031】
無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンを得るための、トランス型ポリイソプレンへの無水マレイン酸の付加反応は、例えば、トランス型ポリイソプレンおよび無水マレイン酸を適切な溶媒に溶解した溶液中で行われる。使用され得る溶媒は、トランス型ポリイソプレンおよび無水マレイン酸のいずれをも溶解し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、ジクロロキシレン、ジクロロトルエン、ジクロロベンゼン、およびこれらの誘導体、ならびにそれらの組合せなどの有機溶媒が挙げられる。
【0032】
当該反応は、例えば、150℃〜200℃、好ましくは170℃〜190℃の反応温度で行われる。さらに、反応時間は、トランスポリイソプレンおよび無水マレイン酸の使用量によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば、0.2時間〜5時間、好ましくは0.5時間〜1.5時間である。さらに、当該反応は、例えば、不活性ガス雰囲気下にて行われる。
【0033】
反応終了後、反応溶液を、例えばC3またはC4のケトン溶媒中に再沈殿させることにより、未反応の無水マレイン酸および副生成物を除去して、トランス型ポリイソプレン鎖に無水マレイン酸がグラフト化した無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンを得ることができる。
【0034】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンは、一緒に含まれるポリ乳酸および未変性トランス型ポリイソプレンの両方に対する相溶化剤として機能し得る。これにより、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸とトランス型ポリイソプレンとの非相溶系ブレンドでありながらも、結晶性と靭性とを両立することができると考えられる。
【0035】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物における無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンの含有量は、必ずしも限定されないが、例えば、樹脂組成物全体の重量を基準として、好ましくは0.5重量%〜5重量%、より好ましくは0.5重量%〜4重量%である。樹脂組成物中における無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンの含有量が0.5重量%を下回ると、得られる樹脂組成物に対して靱性向上が困難となる場合がある。樹脂組成物中における無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンの含有量が5重量%を上回ると、多量な無水マレイン酸基がポリ乳酸に結合する可能性があり、ポリ乳酸の結晶性が低下する場合がある。
【0036】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記ポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、および無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン以外に、本発明の特徴を損なわない範囲において必要に応じて他の添加剤を含有していてもよい。
【0037】
このような他の添加剤としては、酸化防止剤;劣化防止剤;フィラー;加工助剤;架橋剤(例えば、硫黄系架橋剤、過酸化物架橋剤);および着色剤;ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
さらに、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、上記ポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、および無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン以外に、本発明の特徴を損なわない範囲において必要に応じて他のポリマーがブレンドされていてもよい。
【0039】
このような他のポリマーの含有量もまた特に限定されず、当業者が任意の含有量を設定することができる。
【0040】
(ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法)
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、例えば、上記ポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、および無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン、ならびに必要に応じて他の添加剤等を溶融混練することにより容易に製造され得る。
【0041】
溶融混練の方法は特に限定されず、例えば、二軸押出機を用いた連続混練方法、ラボプラストミルなどのバッチ式混練装置を用いた非連続混練方法のいずれも採用することができる。
【0042】
本発明において連続混練方法が採用される場合、ポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン、ならびに他の添加剤等は予め常温にて予備混合され、得られた混合物を押出機にフィードして所定の温度にて溶融混練が行われる。なお、このような溶融混練の前に、ポリ乳酸は当業者に公知の方法を用いて適切に乾燥されていることが好ましい。
【0043】
本発明において非連続混練方法が採用される場合、1つの実施形態では、ポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン、ならびに他の添加剤等がバッチ式混練装置に一括して、あるいは順次仕込まれ、その後同装置を稼働させることにより溶融混練が行われ得る。
【0044】
あるいは、1つの実施形態では、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンの相溶化剤としての性質をより充分に発揮させるために、以下の方法が行われてもよい。
【0045】
まず、ポリ乳酸と無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンとがバッチ式混練装置内で溶融混練され、予備混練物が作製される。
【0046】
混練装置内で、ポリ乳酸と無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンとの溶融混練を先に行うことにより、両者がより均一に分散した予備混練物を得ることができる。
【0047】
その後、この予備混練物に未変性トランス型ポリイソプレンが添加される。他の添加剤等は未変性トランス型ポリイソプレンの添加と一緒に添加されてもよく、または未変性トランス型ポリイソプレンを添加した後に別途添加されてもよい。
【0048】
本発明において非連続混練方法が採用される場合、上記のようにポリ乳酸と無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレンとの溶融混練を優先し、その後に未変性トランス型ポリイソプレンを添加して、さらに溶融混練を行うことにより、ポリ乳酸樹脂組成物におけるポリ乳酸および未変性トランス型ポリイソプレンのそれぞれの相溶性を一層向上させ得る。
【0049】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物の製造における溶融混練のための温度および時間は特に限定されず、使用するポリ乳酸、未変性トランス型ポリイソプレン、無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン等の量比に応じて、当業者により任意の温度および時間が採用され得る。1つの実施形態では、溶融混練の際に設定され得る温度は例えば、170℃〜200℃であり、そして混練に要する合計時間は例えば、5分間〜10分間である。
【0050】
さらに、本発明においては、ポリ乳酸樹脂組成物に他の添加剤として架橋剤を含有する場合、上記溶融混練と一緒に樹脂組成物に架橋(動的架橋)を施すこともできる。あるいは、溶融混練が完了した後、得られたポリ乳酸樹脂組成物に対して、別途熱、光または放射線を公知の手段を用いて付与または照射することにより、架橋してもよい。
【0051】
このようにして、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を製造することができる。
【0052】
(樹脂成形体)
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を加熱成形して樹脂成形体を得るには、例えば、ブロー成形、射出成形、射出ブロー成形、インフレーション成形、真空圧空成形、あるいは押出成形または紡糸などのような当業者に周知の成形方法を通じて任意の成形体を得ることができる。このようにして得られた成形体は、ポリ乳酸が本来有する結晶性の特性を保持したまま、当該ポリ乳酸自体には不充分であった靭性のような力学的特性を向上させたものであり、例えば、自動車部品、家電部品などに用いられ得る。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(合成例1:無水マレイン酸変性ポリイソプレン(無水マレイン酸変性トチュウエラストマー(M−EuTPI))の合成)
200mLの丸底フラスコに、天然トランス型ポリイソプレン(日立造船株式会社製トチュウエラストマー(登録商標))2.5g、無水マレイン酸1.8g、および1,2−ジクロロベンゼン100mLを添加し、窒素雰囲気下にて180℃で1時間撹拌しながら加熱した。その後、反応溶液を室温になるまで冷却し、1000mLのアセトンに滴下して再沈殿させた。次いで、再沈殿物を濾過により回収し、室温にて一晩真空乾燥することにより、生成物である無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン(M−EuTPI)2gを得た。
【0055】
この生成物のH−NMR測定結果より、2.65ppm〜3.25ppmにコハク酸無水物のプロトンに由来する複数のピークを検出した。これらのピークのNMR積分値により、得られた生成物における、イソプレン繰り返し単位に対する無水マレイン酸基の導入率は3.4モル%であったことを算出した。
【0056】
(実施例1)
103.55gのポリ−L−乳酸(PLLA)(Nature Works社製2003D)、4.905gの未変性トランス型ポリイソプレン(EuTPI)(日立造船株式会社製トチュウエラストマー(登録商標);重量平均分子量80万)、0.545gの合成例1で得られた無水マレイン酸変性トランス型ポリイソプレン(M−EuTPI)、および0.3phrの2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(劣化防止剤)を、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製4C−150−01およびR100ミキサー)を仕込み、180℃で3分間予熱した後、200℃にて50rpmで3分間混練し、引き続き200℃にて110rpmで5分間溶融混練を行うことにより、樹脂組成物を得た。
【0057】
(実施例2)
4.36gのEuTPIおよび1.09gのM−EuTPIを用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0058】
(実施例3)
3.815gのEuTPIおよび1.635gのM−EuTPIを用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0059】
(比較例1)
5.45gのEuTPIを用い、かつM−EuTPIを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0060】
(比較例2)
109gのPLLAを用い、かつEuTPIおよびM−EuTPIを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
【0061】
(測定用試料の作製と測定およびその評価)
実施例1〜3および比較例1および2で得られた樹脂組成物を用いて、以下の測定用試料を作製し、それぞれの試料について、引張特性およびDSC評価(結晶性評価)の測定を行った。また、実施例2および比較例1で得られた樹脂組成物について、以下のようにして切断面の電子顕微鏡(SEM)写真を得た。
【0062】
(1)板状サンプルの作製
上記実施例または比較例で得られた樹脂組成物を、180℃に設定したホットプレスに配置し、試料の厚さが2mmとなるように加工した金型を用いて30MPa〜40MPaの圧力を5分間負荷して板状体に成形した。その後、プレス圧力を保持したまま板状体を110℃まで冷却し、さらに15分間保持した。次いで、プレス装置から金型とともに板状体を取り出し、室温で2時間放置した後、プレス圧力をかけることなく110℃にて15分間加熱し、金型を取り外して、100mm×100mm×2mmの板状サンプルを得た。
【0063】
(2)引張特性
上記で得られた板状サンプルに打ち抜き加工を施すことにより、所定寸法のダンベル型引張試験片を作製し、JIS K7161に準拠した引張試験を、引張試験機(株式会社島津製作所製EZ Graph万能試験機)を用いて、室温で50mm/分の試験速度にて行うことにより、当該引張試験片の引張強度および引張破断(呼び)ひずみを測定した。得られた結果を表1に示す。
【0064】
(3)樹脂組成物の断面電子顕微鏡(SEM)写真
実施例2および比較例1で得られた樹脂組成物を液体窒素にて凍結後破断させることにより切断面を作製し、得られた切断面に金を蒸着して、走査型電子顕微鏡用の試料を作製し、この試料の金蒸着した面を電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製SU3500)を用いで観察した。得られた結果を図1および図2に示す。
【0065】
(4)DSC測定(結晶性評価)
上記で得られた測定用試料について、示差走査熱量計(DSC)(株式会社日立ハイテクサイエンス製DSC−6220)を用いてDSC測定を行った。測定温度範囲は0℃〜180℃であり、昇温速度は10℃/分であった。得られたDSC曲線を図3に示す。
【0066】
さらに、これらのDSC曲線の溶融ピーク面積のうち、比較例2の測定用試料(PLLA成分単独を含有する試料)から得られた溶融ピーク面積(100%)に対する百分率をそれぞれ算出した。算出した結果をPLLA成分に対する相対結晶化度として表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1で得られた樹脂組成物(PLLA、M−EuTPIおよびEuTPIを含有)は、PLLA成分単独を含有する比較例2の樹脂組成物と比較して約3.6倍にまで引張破断(呼び)ひずみが向上した。また、実施例2のように樹脂組成物中のM−EuTPIおよびEuTPIの含有量をさらに調整することによって、その引張破断(呼び)ひずみは、PLLA成分単独を含有する比較例2のものと比較して約6倍まで向上し、さらにPLLAおよびEuTPIを含有する比較例1のものと比較しても約2倍にまで向上した。このように、PLLAに、M−EuTPIおよびEuTPIの3元ブレンドにより、得られるポリ乳酸樹脂組成物の靭性が効果的に向上することがわかる。
【0069】
さらに、図1および図2を対比すると、実施例2および比較例1で得られた樹脂組成物はいずれも、PLLA成分を連続相とし、EuTPI成分を分散相とする2相構造を有していたものの、比較例1(図2)と比べて、実施例2(図1)の分散相サイズが小さいことがわかる。また、比較例1(図2)の分散相と連続相との界面は、比較的明瞭な相分離の状態を示していたのに対し、実施例2(図1)の分散相および連続相界面では、そのような明瞭な相分離の状態を観察することができなかった。このことから、PLLAおよびEuTPIに、M−EuTPIをさらに配合することにより(実施例2)、二相の界面状態が改善されたことがわかる。このように、実施例2(図1)と比較例1(図2)との界面状態の差異が、表1に示す引張破断(呼び)ひずみの差異に影響した原因であると考えられる。
【0070】
次いで、図3を参照すると、実施例1〜3ならびに比較例1および2で得られた樹脂組成物の各DSC曲線について、50℃付近の小さいピークはEuTPI成分由来の溶融ピークを示し、150℃付近の大きなピークはPLLA由来の溶融ピークを示していた。しかし、各実施例および比較例のDSC曲線の間にはピーク位置の変化は認められなかった。
【0071】
これに対し、表1に示す結晶性評価を参照すると、実施例1〜3で得られた樹脂組成物は、PLLAおよびEuTPIから構成される(すなわち、M−EuTPIを含有しない)比較例1の樹脂組成物よりも高い相対結晶化度を有しており、PLLA単独成分で構成される比較例2の樹脂組成物(100%)により近い結晶性を有していた。このことから、PLLAおよびEuTPIにM−EuTPIをさらに配合することにより、得られる樹脂組成物は、ポリ乳酸の結晶性を損なっていないことがわかる。
【0072】
以上の結果から、本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸が本来有する結晶性を保持したまま、当該ポリ乳酸自体を上回る靭性を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、ポリ乳酸と同等の結晶性と向上した靭性との両立を実現し得る。これにより、自動車部品、家電部品などの種々の工業製品の材料として有用である。
図1
図2
図3