特許第6754170号(P6754170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754170
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】電力ケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 9/00 20060101AFI20200831BHJP
   H01B 7/282 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   H01B9/00 Z
   H01B7/282
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-31149(P2015-31149)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-152228(P2016-152228A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年11月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096035
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】佐合 隆志
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−139715(JP,U)
【文献】 特開平06−168638(JP,A)
【文献】 特開平06−060733(JP,A)
【文献】 特開2005−019392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 9/00
H01B 7/282
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割導体を有する電力ケーブルの製造方法において、
(1)絶縁を施していない複数本の断面円形の素線を束ね撚り合せた素線撚合体に電気絶縁性を有する熱可塑性樹脂を周囲を覆うように充填して複数本のセグメント導体を形成する工程と、
(2)形成された複数本の前記セグメント導体を前記熱可塑性樹脂同士が接する状態で撚り合わせて前記分割導体を形成する工程と、
(3)前記分割導体に絶縁層を被覆する工程と、
を有し、
前記絶縁層の被覆時に受ける温度で前記熱可塑性樹脂を軟化させ、前記素線間が電気絶縁性を有するように前記素線間の隙間を埋める、
ことを特徴とする電力ケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記(1)の工程の後に、前記セグメント導体を断面略扇形に圧縮成形する工程を有する、
ことを特徴とする請求項に記載の電力ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力ケーブル及びその製造方法に関し、特に、海底敷設ケーブル、浮遊式海中ケーブル(ライザーケーブル)、大電流送電向けの直流及び交流XLPE(架橋ポリエチレン)ケーブル等の分割導体を用いた電力ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海底敷設ケーブル、浮遊式海中ケーブル(ライザーケーブル)、大電流送電向けの直流及び交流XLPE(架橋ポリエチレン)ケーブル等のような導体断面積の大きい電力ケーブルでは、その導体として分割導体を用いることが多い。
【0003】
分割導体は、銅又はアルミニウム等の複数本の素線を撚り合わせて扇形状に圧縮成形してセグメント導体を形成し、複数本(通常は4〜7本)のセグメント導体を撚り合わせることにより製造される。
【0004】
従来の電力ケーブルでは、分割導体に電気絶縁性能をもたせるため、素線単体に絶縁材料を被覆したり、酸化皮膜を形成させていた(以下、この技術を従来例1という)。
【0005】
他の従来の電力ケーブルでは、絶縁層中にボイドや水トリーが発生しないように、分割導体に止水性能や吸水性能をもたせるため、セグメント導体間に止水性能や吸水性能を備えたテープを介在させていた(以下、この技術を従来例2という)。
【0006】
特許文献1には、円形圧縮導体及び丸撚り導体に止水性能をもたせるため、素線間にゴム等の止水材料を入れて、物理的に止水する構造が開示されている(以下、この技術を従来例3という)
【0007】
特許文献2には、介在物が存在しない分割導体を用いた架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルが開示されている(以下、この技術を従来例4という)。
【特許文献1】特開平1−217803号公報
【特許文献2】特開平9−106713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4はセグメント導体に成形される前の従来例1の素線絶縁構造を示す断面図である。図4に示すように、従来例1の素線絶縁構造では、絶縁を施していない素線50と絶縁を施している素線51とが隣り合わないように配列するため、素線の配列や使用量に配慮する必要があり、作業ミス等のリスクがあるという課題があった。
【0009】
また、絶縁を施している素線51だけで配列した場合には、製造コストの増大を伴うだけでなく、製造に係るリードタイムが長くなり、生産性が低下するという課題があった。
【0010】
従来例2では、止水性能や吸水性能を備えたテープが素線間の隙間を物理的に埋めることができないため、例えば高水圧の環境下で使用することが困難であるという課題があった。
【0011】
従来例3では、止水材料を用いるため、部品点数が増えて製造コストの増大を招くという課題があった。
【0012】
従来例4では、素線間の隙間を物理的に埋めることができないため、例えば高水圧の環境下で使用することが困難であるという課題があった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、素線間の電気絶縁性能及び止水性能の両方を兼ね備え、作業ミスや製造コストを低減させ、生産性を向上させ、高水圧の環境下でも使用可能な電力ケーブル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の電力ケーブルの製造方法は、分割導体を有する電力ケーブルの製造方法において、
(1)絶縁を施していない複数本の断面円形の素線を束ね撚り合せた素線撚合体に電気絶縁性を有する熱可塑性樹脂を周囲を覆うように充填して複数本のセグメント導体を形成する工程と、
(2)形成された複数本の前記セグメント導体を前記熱可塑性樹脂同士が接する状態で撚り合わせて前記分割導体を形成する工程と、
(3)前記分割導体に絶縁層を被覆する工程と、
を有し、
前記絶縁層の被覆時に受ける温度で前記熱可塑性樹脂を軟化させ、前記素線間が電気絶縁性を有するように前記素線間の隙間を埋める、
ことを特徴とするものである。
【0018】
前記(1)の工程の後に、前記セグメント導体を断面略扇形に圧縮成形する工程を有してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電力ケーブルによれば、複数本の素線を撚り合せた素線撚合体に電気絶縁性を有する熱可塑性樹脂を充填してセグメント導体を形成した分割導体を有するので、熱可塑性樹脂を所定温度で軟化させることにより、素線間の隙間を埋めることができ、素線間の電気絶縁性能及び止水性能の両方を兼ね備えることができる。
【0020】
また、絶縁を施していない素線だけを用いることができるので、素線の配列や使用量に配慮する必要がなくなり、作業ミスや製造コストを低減させ、素線単体に絶縁材料を被覆したり、酸化皮膜を形成させる必要がないので、製造に係るリードタイムを短縮させて生産性を向上させることができる。
【0021】
さらに、素線間を熱可塑性樹脂で隙間なく充填させることができるので、高水圧の環境下など幅広い用途に使用することができる。
【0022】
本発明の実施形態例に係る電力ケーブルの製造方法によれば、上記効果を奏する電力ケーブルを提供できるとともに、絶縁層の被覆時に受ける温度で分割導体に充填された熱可塑性樹脂を軟化させるので、絶縁層の被覆工程と熱可塑性樹脂の軟化工程とを同時に行うことができ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態例に係る電力ケーブルの構造を示す断面図である。
図2】(A)〜(C)は本発明の実施形態例に係る電力ケーブルの製造方法を説明するための説明図である。
図3】セグメント導体の素線撚合体を扇形状に圧縮成形する成形機を説明するための説明図である。
図4】セグメント導体に成形される前の従来例1の素線絶縁構造を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施形態例に係る電力ケーブルの構造を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、本発明の実施形態例に係る電力ケーブル1は、海底敷設ケーブル、浮遊式海中ケーブル(ライザーケーブル)、大電流送電向けの直流及び交流XLPE(架橋ポリエチレン)ケーブル等のような分割導体2を有する電力ケーブルである。
【0026】
分割導体2は、複数本の銅又はアルミニウムなどからなる素線3を撚り合せた素線撚合体4に電気絶縁性を有する熱可塑性樹脂5を充填して形成された4〜7本の複数本(図1では4本)のセグメント導体6を撚り合わせて形成されている。
【0027】
熱可塑性樹脂5としては、製造工程間のハンドリングや現地まで運搬の際に、曲げる必要があるので弾性を有することが好ましく、例えば熱可塑性エラストマーが好ましい。スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系などがあるが特に限定するものではない。
【0028】
分割導体2に充填された熱可塑性樹脂5は、所定温度で軟化され、これによって、素線3間の隙間が埋められることになる。
【0029】
分割導体2上には内部半導電層7が被覆され、内部半導電層7上には架橋ポリエチレンからなる絶縁層8が被覆される。絶縁層8上には、半導電性樹脂や半導電性布テープ等よりなる外部半導電層9が被覆され、外部半導電層9上には、銅テープ等よりなる金属遮蔽層10が被覆されている。さらに、金属遮蔽層10上に、塩化ビニル樹脂よりなる防食層11が被覆されている。
【0030】
図2(A)〜(C)は本発明の実施形態例に係る電力ケーブル1の製造方法を説明するための説明図である。
【0031】
まず、複数本の素線3を撚り合せた素線撚合体4に電気絶縁性を有する熱可塑性樹脂5を充填してセグメント導体6を形成する(図2(A)参照)。熱可塑性樹脂5は取り扱いやすいように、テープ状或いはひも状のような固体状態で素線撚合体4に入れられる。
【0032】
次いで、例えば図3に示す成形機12によって、セグメント導体6を断面略扇形に圧縮成形する(図2(B)参照)。
【0033】
図3はセグメント導体の素線撚合体4を扇形状に圧縮成形する成形機を説明するための説明図である。
【0034】
図3に示すように、成形機12は一対の成形ロール13,14からなる。一方の成形ロール13の外周面にはV形状の凹溝13aが形成され、他方の成形ロール14の外周面には内側に緩くカーブを描いて凹んだ弧状の凹溝14aが形成されている。成形ロール13,14のそれぞれの回転軸13b,14bが平行で、且つ、両外周面同士が接触するように組み合わされて両凹溝13a,14aにより扇形状の成形穴15が形成され、回転軸13b,14b及び成形穴15の中心軸線の回りを矢印方向へ回転(自転、公転)する。成形ロール13,14の少なくとも成形穴15の回りの回転(公転)は、モータ等の駆動源(図示省略)の駆動により行われる。
【0035】
断面略円形状のセグメント導体6を成形機12の成形ロール13,14の成形穴15内に挿通させ、成形ロール13,14から半径方向内側へ圧縮力を加えることにより、成形ロール13,14の回転(自転)に伴って扇形状に圧縮成形する。
【0036】
次いで、成形された複数本(図2では4本)のセグメント導体6を撚り合わせて断面略円形状の分割導体2を形成する(図2(C)参照)。
【0037】
その後、分割導体2上に内部半導電層7を被覆し、内部半導電層7上に架橋ポリエチレンからなる絶縁層8を被覆する。
【0038】
次いで、絶縁層8上に半導電性樹脂や半導電性布テープ等よりなる外部半導電層9を被覆し、外部半導電層9上に銅テープ等よりなる金属遮蔽層10を被覆する。さらに、金属遮蔽層10上に塩化ビニル樹脂よりなる防食層11を被覆する。
【0039】
絶縁層8の被覆時に受ける温度(約150℃)で分割導体2に充填された熱可塑性樹脂5を軟化させ、これによって、素線3間の隙間を埋めることになる。
【0040】
以上の工程によって、本発明の実施形態例に係る電力ケーブル1が製造される。
【0041】
本発明の実施形態例に係る電力ケーブル1によれば、複数本の素線3を撚り合せた素線撚合体4に電気絶縁性を有する熱可塑性樹脂5を充填してセグメント導体6を形成した分割導体2を有するので、熱可塑性樹脂5を所定温度で軟化させることにより、素線3間の隙間を埋めることができ、素線3間の電気絶縁性能及び止水性能の両方を兼ね備えることができる。
【0042】
また、絶縁を施していない素線3だけを用いることができるので、素線3の配列や使用量に配慮する必要がなくなり、作業ミスや製造コストを低減させ、素線単体に絶縁材料を被覆したり、酸化皮膜を形成させる必要がないので、製造に係るリードタイムを短縮させて生産性を向上させることができる。
【0043】
さらに、素線3間を熱可塑性樹脂5で隙間なく充填させることができるので、高水圧の環境下など幅広い用途に使用することができる。
【0044】
本発明の実施形態例に係る電力ケーブル1の製造方法によれば、上記効果を奏する電力ケーブルを提供できるとともに、内部半導電層7、絶縁層8、外部半導電層9の被覆時に受ける温度で分割導体2に充填された熱可塑性樹脂5を軟化させるので、絶縁層8の被覆工程と熱可塑性樹脂5の軟化工程とを同時に行うことができ、生産性を向上させることができる。
【0045】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の電力ケーブル及びその製造方法は、海底敷設ケーブル、浮遊式海中ケーブル(ライザーケーブル)、大電流送電向けの直流及び交流XLPE(架橋ポリエチレン)ケーブル等のような分割導体を有するものに利用される。
【符号の説明】
【0047】
1:電力ケーブル
2:分割導体
3:素線
4:素線撚合体
5:熱可塑性樹脂
6:セグメント導体
7:内部半導電層
8:絶縁層
9:外部半導電層
10:金属遮蔽層
11:防食層
12:成形機
13:成形ロール
14:成形ロール
15:成形穴
図1
図2
図3
図4