特許第6754313号(P6754313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6754313絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物及び該樹脂組成物を含む絶縁被覆を有する電線・ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754313
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物及び該樹脂組成物を含む絶縁被覆を有する電線・ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/44 20060101AFI20200831BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20200831BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20200831BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20200831BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20200831BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   H01B3/44 B
   C08L27/06
   C08L73/00
   C08K5/12
   C08L67/00
   H01B3/44 M
   H01B7/02 Z
   H01B3/44 P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-49568(P2017-49568)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-152312(P2018-152312A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 倫正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕
(72)【発明者】
【氏名】押野 貴志
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰治
(72)【発明者】
【氏名】岸原 俊介
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−059239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/44
C08K 5/12
C08L 27/06
C08L 67/00
C08L 73/00
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)塩化ビニル単独重合体及び/又はエチレン・塩化ビニル共重合体からなる塩化ビニル樹脂100質量部に対して、
(B)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体10以上30質量部未満、
(C)可塑剤0〜20質量部、及び
(D)アクリル加工助剤0.5〜5質量部、
を含む絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)可塑剤がトリメリット系、ピロメリット系、又はポリエステル系である請求項1に記載の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)アクリル加工助剤が質量平均分子量50万未満である請求項1又は2に記載の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を含む絶縁被覆を有する電線・ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物及び該樹脂組成物を含む絶縁被覆を有する電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に環境問題に注目が集まる中、自動車関連製品の小型化・軽量化は重要課題の1つである。ワイヤーハーネスに関しても、車両の安全性、快適性向上などのニーズから回路数も増大するため、軽量化・細径化の要求が高まっている。
現在、車体内では、JASO、ISO等の自動車電線規格を満足する難燃性、機械特性に優れた塩化ビニル樹脂組成物により被覆した電線が使用されてきたが、更なる細径化、軽量化を目的として導体面積0.08sq以下の超極細電線などの開発が進みつつある。
一方、自動車、電気・電子機器分野の電線・ケーブルの被覆材料として、塩化ビニル樹脂組成物は、機械特性に優れ、コスト的にも有利であることから、盛んに検討がなされている。特に、種々の可塑剤が検討され、フタル酸エステルやトリメリット酸エステルのような通常の低分子の可塑剤に加えて、高分子の可塑剤も知られている。
例えば、特許文献1には、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体が提案されている。さらに、特許文献2には、環境負荷の低減、難燃性などの観点における電線・ケーブルの被覆に用いる塩化ビニル樹脂組成物が記載されている。具体的には、高分子可塑剤と低分子可塑剤、非鉛系安定剤および難燃剤を特定量配合した塩化ビニル樹脂組成物を、電線・ケーブルの被覆に用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−113637号公報
【特許文献2】特開2013−231134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、塩化ビニル系樹脂、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体および塩素化ポリエチレンからなる塩化ビニル系樹脂組成物が記載されている。
塩素化ポリエチレンは、組成物に所望される風合いを保ちながら混練特性を改善させるために用いられているが、塩化ビニル系樹脂に対する相溶性や可塑化能力がエチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体より劣る。そのため、塩素化ポリエチレンを配合した組成物を自動車用電線の被覆材料として適用した場合、耐摩耗性および耐外傷性が低下するという問題がある。
一方、特許文献2の高分子可塑剤と低分子可塑剤、非鉛系安定剤および難燃剤を特定量配合した塩化ビニル樹脂組成物を電線・ケーブルの被覆に用いる技術では、耐摩耗性および耐外傷性が要求される自動車用電線として使用するには、耐摩擦性をさらに高めることが必要であった。
【0005】
本発明は、機械的特性を向上させることによって耐久性に優れるとともに、耐寒性を有し、かつ成形性に優れた絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を提供すること及び当該樹脂組成物を含む絶縁被覆を有する電線・ケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記の課題は、下記の手段によって達成される。
<1>
(A)塩化ビニル単独重合体及び/又はエチレン・塩化ビニル共重合体からなる塩化ビニル樹脂100質量部に対して、
(B)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体10以上30質量部未満、
(C)可塑剤0〜20質量部、及び
(D)アクリル加工助剤0.5〜5質量部、
を含む絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
<2>
前記(C)可塑剤がトリメリット系、ピロメリット系、又はポリエステル系である<1>に記載の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
<3>
前記(D)アクリル加工助剤が質量平均分子量50万未満である<1>又は<2>に記載の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物。
<4>
<1>〜<3>のいずれか一つに記載の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を含む絶縁被覆を有する被覆した電線・ケーブル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的特性(引張特性、耐摩耗性、硬度)、及び耐寒性など電線特性並びに成形性を向上させることによる電線加工性を両立させた絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物は、(A)塩化ビニル単独重合体及び/又はエチレン・塩化ビニル共重合体からなる塩化ビニル樹脂、(B)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体及び(D)アクリル加工助剤を含む。
【0009】
(A)塩化ビニル樹脂
ベース樹脂として用いられる塩化ビニル樹脂は、通常のものを使用できる。塩化ビニル樹脂として、塩化ビニル単独重合体およびエチレン・塩化ビニル共重合体が挙げられる。とりわけ、エチレン・塩化ビニル共重合体は、(B)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体との相溶性に優れ、脆化温度を高めることなく、成形性を向上させる。
エチレン・塩化ビニル共重合体の形態は特に限定されず、ブロック共重合体、グラフト共重合体及びランダム共重合体のいずれでもよい。
【0010】
本発明に係る塩化ビニル樹脂はエチレン・塩化ビニル共重合体を20モル%以上含有するものが好ましく、40モル%以上含有するものがより好ましく、100モル%であってもよい。また塩化ビニル単独重合体を80モル%以下含有するのが好ましく、40〜60モル%含有するのがより好ましく、塩化ビニル単独重合体を含有しなくともよい。
塩化ビニル単独重合体においては、耐外傷性を向上させる効果が低下するのを抑えるなどの観点から、塩化ビニル単独重合体の平均重合度が800以上であることが好ましい。また、他の成分との混合性が低下するのを抑えるなどの観点から、塩化ビニル単独重合体の平均重合度が2800以下であることが好ましい。より好ましくは塩化ビニル単独重合体の平均重合度が1000〜2500の範囲内である。
本発明においては、これら塩化ビニル系樹脂を単独または二種以上併用してもよい。
【0011】
(B)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルと一酸化炭素との共重合体である。その(メタ)アクリル酸エステルにおけるアルコール部のアルキル基(−C(=O)ORのRに相当するアルキル基)は、直鎖状又は分岐状であって、その炭素数は好ましくは1〜18である。アルキル基として、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチルなどが挙げられる。そして具体的にはエチレン・(メタ)アクリル酸ブチル・一酸化炭素共重合体、エチレン・アクリル酸エチル・一酸化炭素共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル・一酸化炭素共重合体が挙げられる。
【0012】
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体中の、構成成分中、エチレン成分の含有量は40〜80質量%、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は15〜60質量%、一酸化炭素成分の含有量は5〜30質量%の量が含まれていることが好ましい。また必要に応じて更に他の単量体を共重合させることも可能である。
【0013】
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体の配合量は、塩化ビニル樹脂(A)100質量部に対して、10以上30質量部未満であり、好ましくは10〜28質量部であり、より好ましくは12〜25質量部である。
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体の配合量が10質量部未満であると、樹脂組成物の低温特性や柔軟性が低下することがある。一方、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体の配合量が30質量部以上であると、引張強度の機械的特性が低下し、硬度や耐摩耗性等が低くなって耐外傷性が低下することがある。
【0014】
またエチレン・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等を配合することができ、これらの配合量は上記(B)樹脂の配合量以下にすることが好ましい。
上記(B)の共重合体は、高分子量ポリマーでありながらポリ塩化ビニル系樹脂と均一に分散して、フタル酸エステル系可塑剤を含まなくても塩化ビニル系樹脂を軟質にすることができる。
【0015】
(C)可塑剤
可塑剤は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0〜20質量部含むことが好ましい。可塑剤としては、特に耐熱性の観点から、トリメリット系、ピロメリット系、ポリエステル系の可塑剤を用いることが好ましい。トリメリット系可塑剤としては、トリメリット酸トリ2‐エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルアルキル(C,C10)、トリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。さらに、トリメリット酸2‐エチルへキシルエステル、トリメリット酸混合直鎖アルキルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル等が挙げられる。ピロメリット系可塑剤としては、ピロメリット酸2‐エチルヘキシルエステル、ピロメリット酸混合直鎖アルキルエステル、ピロメリット酸テトラオクチル、ピロメリット酸テトラn‐デシル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。ポリエステル系可塑剤としては、アジピン酸ポリエステル、フタル酸ポリエステル等が挙げられる。さらに溶融粘度の向上には、25℃における可塑剤の粘度が500mPa・s以下のものが好ましく、300mPa・s以下のものがより好ましい。
【0016】
可塑剤の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0〜20質量部であり、より好ましくは1〜15質量部であり、さらに好ましくは2.5〜10質量部である。可塑剤の配合量が多過ぎると脆化温度が高くなり過ぎることがある。
【0017】
(D)アクリル加工助剤
本発明の組成物は、アクリル加工助剤を含有する。アクリル加工助剤とは、機能がその名称に限定されるものでなく、広義の意味である。したがって、例えば滑剤として機能してもよい。本発明の組成物は、(A)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、アクリル加工助剤を0.5〜5質量部含み、好ましくは0.5〜3質量部含み、より好ましくは1〜2.5質量部含む。
アクリル加工助剤の配合量が少なすぎると溶融伸びが不十分になることがあり、アクリル加工助剤の配合量が多すぎると溶融粘度が高くなり過ぎることがある。
【0018】
アクリル系加工助剤とは、(メタ)アクリル酸またはそのエステルの単独重合体または(メタ)アクリル酸とそのエステルとの共重合体である。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。また、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n‐ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
なお、アクリル加工助剤は1種単独にて用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の組成物に用いられるアクリル加工助剤は、例えば、市販品のメタブレン(登録商標:三菱レイヨン社製)やカネエース(登録商標:カネカ社製)がある。メタブレンとしては、メタブレンP531A、メタブレンP530A、メタブレンP551A、メタブレンP550A、メタブレンP501A、メタブレンP570A、メタブレンP700、メタブレンP710、メタブレンL−1000(いずれも商品名)が挙げられる。又カネエースとしては、カネエースPA−10、カネエースPA−20、カネエースPA−30、カネエースPA−40、カネエースPA−60、カネエースPA−100、カネエースPA−101(いずれも商品名)が挙げられる。
【0019】
アクリル加工助剤の質量平均分子量は、50万未満であり、40万以下が好ましく、30万以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、5万以上が好ましく、20万以上がより好ましい。アクリル加工助剤の質量平均分子量が上記範囲内にあることにより、本発明の組成物は、絶縁電線を作製する際の押出し被覆工程に好適な溶融粘度(押し出し性)を有することができる。
本発明の説明において、化合物の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によってポリスチレン換算の分子量として計測することができる。
【0020】
(E)非鉛系安定剤
本発明の組成物は、(E)非鉛系安定剤を含んでもよい。(E)非鉛系安定剤の使用は、安全性および環境負荷低減の観点から好ましい。
非鉛系安定剤は、鉛を含有しない安定剤であり、鉛を含まない通常の安定剤を使用できる。このような安定剤として、特に限定はされないが、水酸化カルシウム系、バリウム亜鉛系、カルシウム亜鉛系、マグネシウム亜鉛系、有機錫系(オクチル錫系、ブチル錫系、メチル錫系等)、ハイドロタルサイト系、エポキシ系、亜リン酸エステル系等が挙げられる。
【0021】
ここで、バリウム亜鉛系、カルシウム亜鉛系、マグネシウム亜鉛系は、好ましくは、炭素原子数8以上の脂肪酸のバリウム、カルシウム、マグネシウムまたは亜鉛塩の混合物からなるものが好ましい。バリウム塩としてはラウリン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、リシノレイン酸バリウムが挙げられる。カルシウム塩としてはラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、が挙げられる。マグネシウム塩としてはラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。亜鉛塩としてはオクチル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。これらは、一例として、アデカ社製のアデカスタブシリーズが挙げられる。
【0022】
有機錫系としては、代表的には、モノアルキル、ジアルキルタイプのオクチル錫系、ブチル錫系、メチル錫系が挙げられ、それぞれには、さらにラウレート系、マレート系およびメルカプト系が存在する。これらは、例えば、東京ファインケミカル社や日東化成社から購入することができる。
これらの非鉛系安定剤は単独または二種以上併用してもよい。
【0023】
非鉛系安定剤の配合量は、(A)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは2〜10質量部である。
非鉛系安定剤の配合量が少なすぎると、樹脂組成物の熱安定性が得られないおそれがある。一方、非鉛系安定剤の配合量が多すぎても樹脂組成物の特性に変化が見られないため、上限は20質量部にしてある。
【0024】
本発明の組成物において、上記成分に加えて更に適宜必要に応じて、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、着色剤、加工性改良剤、その他の改質剤などを単独または二種以上併用することができる。
【0025】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述の(A)塩化ビニル樹脂、(B)エチレン・アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体、(C)可塑剤、(D)アクリル加工助剤及び必要に応じて(E)非鉛安定剤のそれぞれの所望の量を、ロール、バンバリーミキサー等のバッチ式混練機もしくは二軸押し出し機などの連続混練機を用いて、溶融混合することにより得ることができる。
【0026】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、機械特性(引張特性、耐摩耗性、硬度)や耐寒性、かつ成形性が要求される電線やケーブルの被覆用材料として好適に用いることができる。特に自動車極細超薄肉電線用として、好適に用いることができる。また上記塩化ビニル樹脂組成物は導体周囲に直接に被覆してもよい。さらに、通常の絶縁電線周囲にシース材として被覆してもよく、また光ファイバケーブル等の非導電性ケーブルのシース材として被覆してもよい。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の実施例に基づき、さらに詳細に説明する。
本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0028】
[材料]
(A)塩化ビニル樹脂
(A−1)平均重合度1300の塩化ビニル単独重合体(PVC)(商品名:TH−1300、大洋塩ビ社製)
(A−2)平均重合度1300のエチレン・塩化ビニル共重合体(PVC)(商品名:TE−1300、大洋塩ビ社製、エチレン含有量1.6質量%)
【0029】
(B)エチレン・アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体(EAECO)(商品名:エルバロイHP661、三井デュポンポリケミカル社製)
【0030】
(C)トリメリット酸エステル可塑剤(商品名:トリメックスN−08:トリメリット酸トリノルマルアルキル(C,C10)、(粘度115mPa・S)、花王社製)
【0031】
(D)アクリル加工助剤
(D−1)アクリル加工助剤(商品名:メタブレンL−1000(質量平均分子量23万)、三菱レイヨン社製)
(D−2)アクリル加工助剤(商品名:メタブレンP−570A(質量平均分子量25万)、三菱レイヨン社製)
(D−3)アクリル加工助剤(商品名:メタブレンP−530A(質量平均分子量310万)、三菱レイヨン社製)
【0032】
(E)非鉛安定剤:(商品名:アデカスタブRUP109、ADEKA社製)
【0033】
[製造方法]
下記表1に示す質量部にて配合した混合物を、180℃に設定したオープンロール(西村マシナリー社製)にて5分間混練して塩化ビニル樹脂組成物を製造した。その後、180℃に設定した圧縮成型機(北川精機社製)を用いて5分間圧縮成形することによって、下記物性評価に用いる、実施例1〜10および比較例1〜5の評価用試料を作製した。
【0034】
[評価方法、判定基準]
各塩化ビニル樹脂シートの物性を下記の方法によって評価し、その結果を下記表1に示す。
(1)引張特性
圧縮成形シートの引張試験によって評価した。試験方法はJISK7162−2に準拠して、引張破断強度(引張強度)(MPa)及び引張破断伸度(%)を測定した。ただし試験片形状はJISK6251−5号ダンベル、試料厚さ1mm、試験速度200mm/minとした。
<引張強度の判定基準>
A:引張強度25MPa以上
C:引張強度25MPa未満
「A」が合格である。
<引張破断伸度の判定基準>
A:引張破断伸度200%以上
B:引張破断伸度100%以上200%未満
C:引張破断伸度100%未満
「A」及び「B」が合格である。
【0035】
(2)耐寒性
圧縮成形シートの低温脆化試験によって評価した。試験方法はJISK7216に準拠し、全試験片が未破壊である最低温度を脆化温度として求めた。
<脆化温度の判定基準>
A:脆化温度−40℃以下
B:脆化温度−40℃より高く−20℃未満
C:脆化温度−20℃以上
「A」及び「B」が合格である。
【0036】
(3)硬度
圧縮成形シートのショアD硬度を評価した。試験方法はJISK7215に準拠し、圧子の押し込み時間10秒後の値を求めた。
<硬度(ショアD)の判定基準>
A:硬度(ショアD)60以上
C:硬度(ショアD)60未満
「A」が合格である。
【0037】
(4)耐摩耗性
JASOD618に準拠したスクレープ摩耗試験機を用いて評価した。ただし試料は0.1mm厚の圧縮成形シートを直径10mmの丸棒に固定し、試験荷重7N、摩耗針直径0.45mm、試験速度60mm/分の条件にて、試料を貫通するまでの摩耗針の往復回数を求めた。
<耐摩耗性の判定基準>
A:耐摩耗性500回以上
B:耐摩耗性100回以上500回未満
C:耐摩耗性100回未満
「A」及び「B」が合格である。
【0038】
(5)押し出し成形性(溶融伸び、溶融粘度)
溶融粘度は、JISK7199に準拠したキャピラリーレオメーターにて測定した。ただし、キャピラリーダイは、孔径D:1mm、長さL:10mm、設定温度180℃、押出速度50mm/minとした。溶融伸びはダイから押し出されたストランドを引取機によって引取、破断するまでの最大引取速度(m/min)を溶融伸びとして求めた。<溶融伸びの判定基準>
A:溶融伸び20m/min以上
B:溶融伸び15m/min以上20m/min未満
C:溶融伸び10m/min以上15m/min未満
D:溶融伸び10m/min未満
「A」及び「B」が合格である。
<溶融伸びの判定基準>
A:溶融粘度700Pa・s未満
B:溶融粘度700Pa・s以上800Pa・s未満
C:溶融粘度800Pa・s以上1000Pa・s未満
D:溶融粘度1000Pa・s以上
「A」及び「B」が合格である。
【0039】
(6)成形性
成形性は、電線の高速成形性を評価した。温度を160℃〜180℃に設定した電線押出機を用いて、素線径0.12mmの銅線を7本撚りした断面積0.08sqの銅導体に、被覆厚さ0.1mmに被覆した場合に、電線外観不良や断線が発生しない最大線速を求めた。
<成形性の判定基準>
A:最大線速200m/分以上
B:最大線速100m/分以上200m/分未満
C:最大線速50m/分以上100m/分未満
D:最大線速50m/分未満
「A」及び「B」が合格である。
【0040】
【表1】
【0041】
なお、表1において、各実施例及び比較例における各成分の行に記載の数値は質量部を表し、「−」は当該物質が含まれないことを意味する。また、D−1〜3における分子量は質量平均分子量を表す。さらに、引張強度、引張破断伸度、脆化温度、硬度、耐摩耗性、溶融伸び及び溶融粘度の各項目において、上段に測定値を記載し、下段に判定結果を記載した。
【0042】
上記表1から明らかなように、(B)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素共重合体、(C)可塑剤及び(D)アクリル加工助剤の含有量が本発明の規定を満たさない組成物から作製した樹脂シートは、いずれも、引張強度、引張破断伸度、脆化温度、硬度(ショアD)、耐摩耗性、溶融伸び及び溶融粘性のいずれかが、評価「C」であり、基準値を満たさなかった。これに対し、本発明の絶縁電線被覆用塩化ビニル樹脂組成物を用いて作製した樹脂シートは、引張強度、引張破断伸度、脆化温度、硬度(ショアD)、耐摩耗性、成形性のいずれの評価においても、評価「A」又は「B」であり、基準値を満たしており、合格であった。また、可塑剤は、塩化ビニル樹脂(PVC)の分子間に入り込み、PVCの持つ極性による凝集力を弱める働きをする。そのため、本発明で使用する可塑剤として好ましいトリメリット系可塑剤と同様に、溶融粘度を満たすピロリメリット系可塑剤またはポリエステル系可塑剤を用いて実施例1〜10と同様にして調製した樹脂組成物も、実施例1〜10と同様に良好な結果を示した。