特許第6754357号(P6754357)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サノフイの特許一覧

特許6754357駆動スリーブ、薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法
<>
  • 特許6754357-駆動スリーブ、薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法 図000002
  • 特許6754357-駆動スリーブ、薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法 図000003
  • 特許6754357-駆動スリーブ、薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法 図000004
  • 特許6754357-駆動スリーブ、薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754357
(24)【登録日】2020年8月25日
(45)【発行日】2020年9月9日
(54)【発明の名称】駆動スリーブ、薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20200831BHJP
   A61M 5/24 20060101ALI20200831BHJP
【FI】
   A61M5/315 550P
   A61M5/315 550N
   A61M5/315 550X
   A61M5/315 550C
   A61M5/24 500
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-518860(P2017-518860)
(86)(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公表番号】特表2017-534362(P2017-534362A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2015073428
(87)【国際公開番号】WO2016055623
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2018年9月27日
(31)【優先権主張番号】14306589.4
(32)【優先日】2014年10月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・マーシュ
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・ポール・モーリス
【審査官】 田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/033195(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/170392(WO,A1)
【文献】 特表2012−528633(JP,A)
【文献】 特表2014−502530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチインターフェース(42)を第1の端部に有する中空本体と、該本体の外面に延びるねじ山(41)とを有する薬物送達デバイス用駆動スリーブであって、
クラッチインターフェースは、第1の外径を有するクラウン歯(42)のリングを含み、 ねじ山(41)は大径と小径とを有し、
ここで、当該薬物送達デバイス用駆動スリーブは、薬物送達デバイス内で力および/またはトルクを伝達するのに適した細長中空チューブであ
クラウン歯(42)は軸方向に向けられ、第1の端部で本体の内面から本体の外面へ半径方向に延び、そして、
各クラウン歯(42)は、第1の回転方向を向いた第1のランプ角と、第2の反対側回転方向を向いた第2のより急なランプ角とを有していて、
クラウン歯(42)のリングは、本体の外面で第1の端部からねじ山(41)へ延び、かつねじ山の大径よりも小さい第2の外径を画成する少なくとも2つのキャビティ(43
)を有することを特徴とする前記薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項2】
キャビティ(43)により画成された第2の外径は、ねじ山(41)の小径以下である、請求項1に記載の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項3】
キャビティ(43)は、本体の外面で本体の軸方向に延びるスロットである、請求項1または2に記載の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項4】
4つの等間隔でないキャビティ(43)を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項5】
キャビティ(43)の少なくとも1つはねじ山(41)の開始部で終端する、請求項1〜のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項6】
ねじ山(41)は、キャビティ(43)の1つがねじ山(41)の各開始部で終端する二重開始部ねじ山である、請求項に記載の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項7】
クラウン歯(42)のリングと反対側のねじ山(41)の端部に位置する少なくとも1つの回転ハードストップをさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項8】
中空本体は、軸方向を向いたスプラインが本体の内面または外面に位置する、少なくと
も1つのさらなるクラッチインターフェースを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載 の薬物送達デバイス用駆動スリーブ。
【請求項9】
薬剤のいくつかのユーザ可変用量を選択し投薬するための薬物送達デバイスであって、
請求項1〜のいずれか1項に記載の駆動スリーブ(40)と、
ハウジング(10)と、
該ハウジング(10)内に位置する用量設定部材(60、70、80)と、
駆動スリーブ(40)に係合するピストンロッド(30)と、
駆動スリーブ(40)と用量設定部材(60、70、80)と駆動スリーブ(40)のねじ山(41)に係合するための少なくとも1つの螺旋内側リブ(51)を有するナット(50)とを回転方向に連結またはデカップリングするさらなるクラウン歯のリングを有するクラッチ(120)とを含み、
螺旋内側リブ(51)の幅は、駆動スリーブ(40)のキャビティ(43)の1つの幅以下である前記薬物送達デバイス。
【請求項10】
薬剤を含むカートリッジ(100)をさらに含む、請求項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項11】
請求項または10に記載の薬物送達デバイスを組み立てる方法であって、
a)ハウジング(10)、ピストンロッド(30)、駆動スリーブ(40)、ナット(50)、用量設定部材(60、70、80)、およびクラッチ(120)を設ける工程と、
b)ナット(50)を駆動スリーブ(40)上に軸方向運動で挿入することにより、少なくとも1つの螺旋内側リブ(51)が駆動スリーブ(40)のキャビティ(43)の1つに係合する工程と、
c)少なくとも1つの螺旋内側リブ(51)が駆動スリーブ(40)のねじ山(41)に係合するまで、駆動スリーブ(40)とナット(50)との相対回転運動を行う工程とを含む前記方法。
【請求項12】
ピストンロッド(30)、駆動スリーブ(40)、ナット(50)、用量設定部材(60、70、80)、およびクラッチ(120)をハウジング(10)に組み付けた後に試験投薬を行う工程を含み、工程c)の相対回転運動が試験投薬中に行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ナット(50)を用量設定部材(60、70、80)に係合させて、ナット(50)が軸方向に変位可能に案内され、用量設定部材(60、70、80)に回転方向に拘束されるようにするさらなる工程を含む、請求項11または12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、たとえば、薬剤のいくつかのユーザ可変用量を選択し投薬するための薬物送達デバイス用の駆動スリーブを対象とする。さらに、本発明は、そのような駆動スリーブを有する薬物送達デバイス、および薬物送達デバイスを組み立てる方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ペン型薬物送達デバイスは、正式な医療訓練を受けていない人による定期的な注射が行われる場合に利用される。これは、糖尿病患者の間でますます一般的になっており、自己治療により、このような患者が自身の疾病の効果的な管理を行うことが可能になる。実際に、このような薬物送達デバイスにより、ユーザが薬剤のいくつかのユーザ可変用量を個々に選択し投薬することができるようになる。本発明は、単に所定の用量を投薬できるようにするだけで設定用量を増加または減少させる可能性のない、いわゆる固定用量デバイスは対象としない。
【0003】
基本的に2つのタイプの薬物送達デバイス、すなわち:リセット可能なデバイス(すなわち、再使用可能な)およびリセット不可能なデバイス(すなわち、使い捨て)がある。たとえば、使い捨てペン送達デバイスは独立型デバイスとして供給される。このような独立型デバイスには、着脱可能な充填済みカートリッジがない。というより、その充填済みカートリッジは、デバイス自体を壊さなければこれらのデバイスから取り出し、交換することができない。したがって、このような使い捨てデバイスは、リセット可能な用量設定機構を有する必要がない。本発明は、デバイスのリセットおよびカートリッジの交換を可能にする再利用可能なデバイスを対象とする。デバイスのリセットは通常、ピストンロッドまたは親ねじを伸長(遠位)位置、すなわち用量投薬後の位置から、より後退した(近位)位置へ動かすことを伴う。
【0004】
これらのタイプのペン送達デバイスは(大きくした万年筆に似ていることが多いのでこのように名づけられた)、一般に3つの主要素、すなわち:多くの場合ハウジングまたはホルダ内に含まれるカートリッジを含むカートリッジセクションと;カートリッジセクションの一端に連結されたニードルアセンブリと;カートリッジセクションの他端に連結された用量投入セクションとを含む。カートリッジ(アンプルと呼ばれることが多い)は通常、医薬品(たとえば、インスリン)が充填されているリザーバと、カートリッジリザーバの一端にある可動ゴム型の栓またはストッパと、多くはくびれている他端にある穿孔可能なゴム封止を有する上部とを含む。圧着環状金属バンドが通常、ゴム封止を適所に保持するために使用される。カートリッジハウジングは通常、プラスチックで作ることができるが、カートリッジリザーバは従来ガラスで作られてきた。
【0005】
ニードルアセンブリは通常、交換可能な両頭針アセンブリである。注射の前に、交換可能な両頭針アセンブリがカートリッジアセンブリの一端に取り付けられ、用量が設定されてから、設定用量が投与される。このような着脱可能なニードルアセンブリは、カートリッジアセンブリの穿孔可能な封止端にねじ留めする、または押し付ける(すなわち、カチッと留める)ことができる。
【0006】
用量投入セクションまたは用量設定機構は通常、ペンデバイスの、用量を設定(選択)するために使用される部分である。注射中、用量設定機構内に含まれるスピンドルまたはピストンロッドが、カートリッジの栓またはストッパを押す。この力により、カートリッジ内に含まれる医薬品が、取り付けられたニードルアセンブリを通して注射される。注射後、ほとんどの薬物送達デバイスおよび/またはニードルアセンブリの製造業者および納入業者によって一般に推奨されるように、ニードルアセンブリは取り外され廃棄される。
【0007】
薬物送達デバイスのタイプをさらに区別するには、駆動機構に言及する。すなわち:たとえばユーザが注射ボタンに力を加えることにより手動で駆動されるデバイス、ばねなどにより駆動されるデバイス、およびこれら2つの概念を組み合わせたデバイス、すなわち、ユーザが注射力を及ぼす必要のあるばね式デバイスがある。ばね型デバイスは、予圧されるばねと、用量選択中にユーザが負荷を加えるばねとを含む。一部の蓄積エネルギーデバイスは、ばね予圧と、たとえば用量設定中にユーザにより与えられる追加のエネルギーとの組合せを使用する。
【0008】
特許文献1は、駆動スリーブを含む薬物送達デバイスに言及しており、この駆動スリーブは、クラウン歯のリングが近位端にあるクラッチインターフェースを有する中空本体を含む。歯は、駆動スリーブ本体の近位端を形成するフランジの凹部に位置する。ねじ付部分が、駆動スリーブ本体の外面で近位端のフランジ近くから延びる。駆動スリーブの近位端におけるフランジの直径は、ねじ付部分の直径よりも大きい。デバイスの中心軸周りに180°延びるハーフナットが、駆動スリーブのねじ山に係合する。ハーフナットの代わりに完全ナットを使用するつもりである場合、ナットを組み立てるために駆動スリーブを2つの構成部材に分けなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】PCT/EP2014/056989(未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、クラッチインターフェースを一端に有して、完全ナットによる容易な組立てを可能にする駆動スリーブを提供することである。本目的は、請求項1に記載の駆動スリーブ、請求項11に記載の薬物送達デバイス、および請求項13に記載の方法によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による駆動スリーブは、クラッチインターフェースを第1の端部に有する中空本体と、本体の外面に延びるねじ山とを有する。クラッチインターフェースは、好ましくは、第1の外径を有するクラウン歯のリングを含む。ねじ山は大径(major diameter)と小径(minor diameter)とを有する。駆動スリーブ上へのフルナットの挿入を容易にするために、クラウン歯のリングは、本体の外面で第1の端部からねじ山へ延びる少なくとも2つのキャビティ(切欠き)を有する。キャビティは、ねじ山の大径よりも小さい第2の外径を画成する。言い換えると、キャビティにより、クラッチインターフェースに干渉することなくねじ山に係合するように、フルナットまたはさらにはスリーブを取り付けることができる。キャビティまたは切欠きを設けることにより、駆動スリーブ本体の比較的小さいセクションのみにおいてクラッチインターフェースの外径を小さくし、クラッチインターフェースの残りの部分は比較的大きい外径を引き続き有することができる。クラッチインターフェースのこの大きい外径は、トルクを伝達するための最も効果的な領域である。さらに、クラッチインターフェースの表面積を最大化することにより、クラッチ表面の摩耗率も低下させる。
【0012】
本発明による駆動スリーブは、好ましくは、薬剤のいくつかのユーザ可変用量を選択し投薬するための薬物送達デバイス内で力および/またはトルクを伝達するのに適した細長中空チューブである。駆動スリーブを、任意の適切なプラスチック材料から、たとえば射出成形により作ってもよい。駆動スリーブは、一般的に、少なくとも薬剤投薬中に回転方向および/または軸方向に可動であるため、ピストンロッドおよび/またはカートリッジの栓などのさらなる構成部材を駆動する。駆動スリーブは、1つまたはそれ以上の他の構成部材を、たとえばクラッチインターフェースを介して駆動してもよい。
【0013】
好ましくは、キャビティにより画成された第2の外径は、ねじ山の小径以下である。たとえば、キャビティは、本体の外面で本体の軸方向に延びるスロットである。これにより、純粋な軸方向運動によってナットを駆動スリーブ上に、かつクラッチインターフェースを覆って挿入することができるため、組立てプロセスが容易になる。
【0014】
好ましい実施形態において、駆動スリーブは4つのキャビティまたは切欠きを有する。キャビティまたは切欠きは、好ましくは、駆動スリーブ本体の外面の周りにおいて等間隔ではない。したがって、ナットなどを、1つまたは2つの所定の相対回転位置のみで駆動スリーブ上に挿入することができる。加えてまたは代わりに、キャビティまたは切欠きが異なる幅を有してもよい。
【0015】
クラウン歯は、軸方向に向けられ、第1の端部で本体の内面から本体の外面へ半径方向に延びてもよい。言い換えると、クラウン歯は、駆動スリーブ本体の一端、好ましくは近位端を形成する。これにより、駆動スリーブ本体の端面の使用可能な直径をクラッチインターフェースのために使用することができ、したがってトルクを伝達するために使用可能な表面を最大化する。クラウン歯の軸方向の向きは、これらの歯が第2の部材の対応するクラウン歯に軸方向に噛み合うように構成され、または特に方向付けられるものと理解することができる。場合により、これを本体の内面から本体の外面に放射状に広がる外形によって達成してもよい。
【0016】
クラッチインターフェースは、トルクを一方向に伝達し、トルクに反対方向に打ち勝つ、すなわちスリップするのに適したものであってよい。これは、ばね駆動デバイスにおいて、ばねトルクに反作用するため、かつ/または回転方向に応じて異なるトルク抵抗をもたらすために望ましい。そのようなクラッチインターフェースは、クラウン歯を含んでよく、各歯は、第1の回転方向を向いた第1のランプ角と、第2の反対側回転方向を向いた第2のより急なランプ角とを有する。
【0017】
好ましくは、キャビティまたは切欠きの少なくとも1つはねじ山の開始部で終端する。たとえば、ねじ山は、キャビティの1つがねじ山の各開始部で終端する二重開始部ねじ山(double−start thread)である。これにより、純粋な軸方向運動によってナットを駆動スリーブ上に、かつクラッチインターフェースを覆って挿入することができ、ナットと駆動スリーブとが相対回転するときナットが直ちにねじ山に係合するようになっている。したがって、ナットを駆動スリーブ上に軸方向に置くことを除いて、さらなる組立工程は必要ない。
【0018】
過少量の投与(underdosage)または誤動作を防ぐために、薬物送達デバイスは、カートリッジ内に残った液体の量を超える用量の設定を防ぐための最終用量保護機構をさらに含んでもよい。好ましい実施形態において、この最終用量保護機構は、カートリッジが最大用量(たとえば120IU)未満の用量を含むときのみ、カートリッジ内に残っている薬剤を検出する。たとえば、最終用量保護機構は、駆動スリーブと、用量設定中に駆動スリーブに対して回転し、用量投薬中に駆動スリーブに対して回転しない部材との間に置かれたナット部材を含む。そのような最終用量機構について、駆動スリーブは、クラウン歯のリングと反対側のねじ山の端部に位置する少なくとも1つの回転ハードストップをさらに含んでよい。この回転ハードストップは、好ましくは、ナットと相互作用して、用量設定中に部材、たとえば数字スリーブと駆動スリーブとの相対回転を防ぐ。
【0019】
さらに、駆動スリーブの中空本体は、たとえば軸方向を向いたスプラインが本体の内面または外面に位置する、少なくとも1つのさらなるクラッチインターフェースを含んでよい。たとえば、駆動スリーブは、駆動スリーブをピストンロッドに回転方向に連結するための内側スプラインを含んでよい。さらに、スプライン連結インターフェースをクラウン歯と反対側の端部、すなわち好ましくは遠位端に設けて、たとえば用量設定中に駆動スリーブをハウジングに回転方向に連結してもよい。さらに、駆動スリーブと用量設定部材および/または数字スリーブとを回転方向に連結またはデカップリングするためのスプライン連結インターフェースが、駆動スリーブの外面にあってもよい。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、前述の駆動スリーブは、薬剤のいくつかのユーザ可変用量を選択し投薬するための薬物送達デバイスの構成部材である。そのようなデバイスは、駆動スリーブに加えて、ハウジング、ハウジング内に位置する用量設定部材、駆動スリーブに係合するピストンロッド、駆動スリーブと用量設定部材および/または駆動スリーブのねじ山に係合するための少なくとも1つの螺旋内側リブを有するナットとを回転方向に連結またはデカップリングするさらなるクラウン歯のリングを有するクラッチを含んでよい。薬物送達デバイスは、薬剤を含むカートリッジをさらに含んでよい。
【0021】
好ましくは、螺旋内側リブの幅は、駆動スリーブのキャビティの1つの幅以下である。これにより、リブを有するナットを駆動スリーブのキャビティまたは切欠き上に挿入することができる。最終用量ナットの小さいねじ山セクションを使用することにより、駆動スリーブクラッチインターフェースの切欠きのサイズを最小化する。これらの切欠きは、トルクを伝達するための最も効果的な領域である、クラッチインターフェースの外径から延びる。したがって、切欠きのサイズを最小化することにより、クラッチインターフェースの強度が最大化される。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、(最終用量)ナットは一般にリング状で、好ましくは360°未満で延びるねじ山リブの形の内ねじ山と、たとえばリング形状から好ましくは遠位方向に突出する翼の形の軸方向に延びるスプラインとを含む。スプラインを、さらなる構成部材、たとえば軸方向に延びる内溝を有する数字スリーブ内でナットを軸方向に案内して、軸方向運動を可能にするが相対回転を防ぐように設計してもよい。翼に加えて、さらなるスプラインをナットの外面に設けてもよい。
【0023】
薬物送達デバイスを組み立てる方法は、好ましくは、ハウジング、ピストンロッド、駆動スリーブ、ナット、用量設定部材、およびクラッチを設ける工程と;ナットを駆動スリーブ上に軸方向運動で挿入することにより、少なくとも1つの螺旋内側リブが駆動スリーブのキャビティの1つに係合する工程と;少なくとも1つの螺旋内側リブが駆動スリーブのねじ山に係合するまで、駆動スリーブとナットとの相対回転運動を行う工程とを含む。これにより、ナットを駆動スリーブに取り付ける簡単な方法を提供する。相対回転を、他の組立工程と比べて後の時点で、たとえば使用中に行ってもよい。
【0024】
好ましくは、方法は、ピストンロッド、駆動スリーブ、ナット、用量設定部材、およびクラッチをハウジングに組み付けた後に試験投薬を行う工程を含み、駆動スリーブとナットとの相対回転運動が試験投薬中に行われる。
【0025】
方法は、ナットを用量設定部材に係合させて、ナットが軸方向に変位可能に案内され、用量設定部材に回転方向に拘束されるようにするさらなる工程を含んでもよい。
【0026】
本明細書で使用する用語「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、および/または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモンもしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病関連の合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチの処置および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に関連する合併症の処置および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体を含む。
【0027】
インスリン類似体は、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28−B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0028】
インスリン誘導体は、たとえば、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−ミリストイルヒトインスリン;B29−N−パルミトイルヒトインスリン;B28−N−ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン;B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリン、およびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0029】
エキセンジン−4は、たとえば、H−His−Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Lys−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−NH2配列のペプチドであるエキセンジン−4(1−39)を意味する。
【0030】
エキセンジン−4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H−(Lys)4−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)5−desPro36,desPro37エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39);または
desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン−(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン−4(1−39)、
(ここで、基−Lys6−NH2が、エキセンジン−4誘導体のC−末端に結合していてもよい);
【0031】
または、以下の配列のエキセンジン−4誘導体:
desPro36エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2(AVE0010)、
H−(Lys)6−desPro36[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
desMet(O)14,Asp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2;
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Lys6−desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−Lys6−NH2、
H−desAsp28,Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2、
H−(Lys)6−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(S1−39)−(Lys)6−NH2、
H−Asn−(Glu)5−desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン−4(1−39)−(Lys)6−NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン−4誘導体の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和化合物
から選択される。
【0032】
ホルモンは、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストである。
【0033】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。
【0034】
抗体は、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり、分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0035】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2つの同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」字型の分子である。それぞれの重鎖は約440アミノ酸長であり、それぞれの軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含む。それぞれの鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは約70〜110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリン折り畳み構造を有する。
【0036】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0037】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(CH)と可変領域(VH)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリン・ドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0038】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を有し、哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0039】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)に3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0040】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH−H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0041】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩としては、たとえば、HClまたはHBr塩がある。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1〜R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1〜C6アルキル基、場合により置換されたC2〜C6アルケニル基、場合により置換されたC6〜C10アリール基、または場合により置換されたC6〜C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0042】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0043】
以下で、添付図面を参照しながら、本発明の非限定的な例示的実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明による薬物送達デバイスの上面図である。
図2図1のデバイスの部材の分解図である。
図3】ナットが取り外された状態の、図1のデバイスの駆動スリーブの遠位端を示す図である。
図4】ナットが取り付けられた状態の、図1のデバイスの駆動スリーブの遠位端を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、注射ペンの形の薬物送達デバイスを示す。デバイスは、遠位端(図1の左端)と近位端(図1の右端)とを有する。薬物送達デバイスの構成部材が図2に示される。薬物送達デバイスは、本体またはハウジング10、カートリッジホルダ20、親ねじ(ピストンロッド)30、駆動スリーブ40、ナット50、用量インジケータ(数字スリーブ)60、ボタン70、ダイヤルグリップまたは用量セレクタ80、ねじりばね90、カートリッジ100、ゲージ要素110、クラッチ板120、クラッチばね130、および支承部140を含む。ニードルハブおよびニードルカバーを有するニードル配置(図示せず)を追加の部材として設けてもよく、これを前述したように交換してもよい。すべての部材が、機構の共通主軸の周りに同心に位置する。
【0046】
ハウジング10または本体は、拡径した近位端を有する全体として管状の要素である。ハウジング10は、液体医薬品カートリッジ100およびカートリッジホルダ20、数字スリーブ60およびゲージ要素110上の用量数字を見るための窓、ならびに用量セレクタ80を軸方向に保持するための、外面上の機能、たとえば周方向溝のための位置を提供する。インサートが、ピストンロッド30に係合する内ねじ山を含む。ハウジング10は、ゲージ要素110を軸方向に案内するための少なくとも1つの軸方向を向いた内側スロットなどをさらに有する。図示した実施形態において、遠位端は、カートリッジホルダ20に部分的に重なる軸方向に延びるストリップを備える。図はハウジング10を単一ハウジング部材として示す。しかしながら、ハウジング10は、デバイスの組立て中に恒久的に互いに取り付けられる2つ以上のハウジング部材を含んでもよい。駆動ばね90はハウジング10に一端で取り付けられる。
【0047】
カートリッジホルダ20は、ハウジング10の遠位側に位置し、そこに恒久的に取り付けられる。カートリッジホルダは、カートリッジ100を受けるための管状の透明または半透明の部材であってよい。カートリッジホルダ20の遠位端は、ニードル配置を取り付けるための手段を備えてもよい。着脱可能なキャップ(図示せず)を、カートリッジホルダ20に適合するように設けてもよく、ハウジング10のクリップ機能を介して保持してもよい。
【0048】
ピストンロッド30は、スプライン連結インターフェースを介して駆動スリーブ40に回転方向に拘束される。回転時に、ピストンロッド30は、ハウジング10のインサートとのねじ付インターフェースを通して、駆動スリーブ40に対して軸方向に動かされる。親ねじ30は、外ねじ山がハウジング10のインサートの対応するねじ山に係合する細長部材である。インターフェースは、少なくとも1つの長手方向溝またはトラックと、ドライバ40の対応する突起またはスプラインとを含む。親ねじ30は、その遠位端に、支承部140のクリップ取付けのためのインターフェースを備える。
【0049】
駆動スリーブ40は、親ねじ30を囲み、かつ数字スリーブ60内に配置された中空部材である。駆動スリーブ40は、クラッチ板120とのインターフェースからクラッチばね130との接触部へ延びる。駆動スリーブ40は、ハウジング10、ピストンロッド30、および数字スリーブ60に対して、クラッチばね130の付勢に対抗して遠位方向へ、かつクラッチばね130の付勢により反対の近位方向へ軸方向に可動である。ドライバ40の少なくとも1つの長手方向スプラインが、親ねじ30の対応するトラックに係合する。
【0050】
ハウジング10とのスプライン連結歯インターフェースにより、用量設定中の駆動スリーブ40の回転を防ぐ。このインターフェースは、駆動スリーブ40の遠位端で半径方向に延びる外歯のリングと、ハウジング部材10の、半径方向に延びる対応する内歯とを含む。ボタン70が押されると、これらの駆動スリーブ40とハウジング10とのスプライン歯が係合解除されて、駆動スリーブ40がハウジング10に対して回転できるようになる。数字スリーブ60とのさらなるスプライン連結歯インターフェースは、ダイヤル設定中に係合せず、ボタン70が押されたときに係合して、投薬中の駆動スリーブ40と数字スリーブ60との相対回転を防ぐ。好ましい実施形態において、このインターフェースは、数字スリーブ60の内面のフランジ上にある内方を向いたスプラインと、駆動スリーブ40の半径方向に延びる外側スプラインのリングとを含む。これらの対応するスプラインが数字スリーブ60および駆動スリーブ40のそれぞれに位置して、(軸方向に固定された)数字スリーブ60に対する駆動スリーブ40の軸方向運動により、スプライン同士を係合または係合解除して、駆動スリーブ40と数字スリーブ60とを回転方向に連結またはデカップリングするようになっている。
【0051】
ドライバ40は、ナット50の螺旋トラックを提供するねじ付セクション、すなわち小径と大径とを有するねじ山41を有する。加えて、最終用量当接部または止め具が設けられ、これはねじ山のトラックの端部、または好ましくはナット50の対応する最終用量止め具と相互作用するための回転ハードストップであってよく、これにより、ドライバのねじ山上でのナット50の動きを限定する。
【0052】
駆動スリーブ40のさらなるインターフェースは、駆動スリーブ40の近位端面に位置するラチェットクラッチ歯42のリングと、クラッチ板120の対応するラチェット歯のリングとを含む。歯42は、駆動スリーブ40の中空本体の外径を画成する。
【0053】
最終用量ナット50は、数字スリーブ60と駆動スリーブ40との間に位置する。最終用量ナット50は、スプライン連結インターフェースを介して数字スリーブ60に回転方向に拘束される。数字スリーブ60と駆動スリーブ40との相対回転が行われるとき(ダイヤル設定中のみ)に、最終用量ナット50は、ねじ付インターフェースを介して駆動スリーブ40に対して螺旋経路に沿って動く。代替案として、ナット50をドライバ40にスプライン連結し、数字スリーブ60にねじ留めしてもよい。最終用量止め具がナット50に設けられ、これは、カートリッジ100内の薬剤の残りの投薬可能な量に対応する用量が設定されたときに駆動スリーブ40の止め具に係合する。
【0054】
組立て中、最終用量ナット50はドライバ40上に軸方向に挿入される。これは図3に示される。最終用量ナット50は、4つの小さい螺旋リブまたはねじ山セクション51をその内径に有する。ドライバ40のクラッチは、4つの対応する切欠き43を有して、これらのねじ山セクション51が通過できるようにする。キャビティまたは切欠き43を設けることにより、駆動スリーブ40の本体の外径を小さくする。言い換えると、駆動スリーブ40の外径は、キャビティのない領域と比べて、キャビティ43のある領域で変化する。キャビティまたは切欠き43の深さは、ねじ山41の大径よりも小さく、ねじ山セクション51が駆動スリーブ40の本体の(小さくした)外径上を通過できるようになっている。図示した実施形態において、キャビティまたは切欠き43の深さはねじ山41の小径に対応する。
【0055】
機械的サブアセンブリが完了すると、たとえば3単位の試験投薬が行われる。これにより、最終用量ナット50が回転して、図4に示すようにドライバ40のねじ山4に係合し、組立て中の別の回転運動の必要をなくす。
【0056】
最終用量ナット50の小さいねじ山セクション51を使用することにより、ドライバ40のクラッチインターフェース42の切欠き43のサイズを最小化する。これらの切欠き43は、トルクを伝達するための最も効果的な領域である、クラッチインターフェース42の外径から延びる。したがって、切欠き43のサイズを最小化することにより、クラッチインターフェース42の強度が最大化される。クラッチインターフェース42の表面積を最大化することにより、クラッチ表面の摩耗率も低下させる。
【0057】
最終用量ナット50の小さいねじ山セクション51をペン注射器に組み込んでもよく、この場合、ねじ山セクション51の小さいサイズが機構の別のセクションに利点をもたらす。試験投薬を使用して最終用量ナット50を完全に組み立てる方法を、他のペン注射器に適用してもよい。
【0058】
用量インジケータまたは数字スリーブ60は管状要素である。数字スリーブ60は、用量設定中(用量セレクタ80を介して)、用量修正中、および用量投薬中にねじりばね90によって回転する。数字スリーブ60は、たとえばハウジング内面のビードを数字スリーブ外面の溝にスナップ係合することによりハウジング10に軸方向に拘束されるが、ハウジング10に対して自由に回転する。駆動ばね90は、数字スリーブ60に一端で取り付けられる。さらに、数字スリーブ60は、ゲージ要素110にねじ係合して、数字スリーブの回転によりゲージ要素110の軸方向変位を生じさせるようになっている。ゲージ要素110と共に、数字スリーブ60はゼロ位置(「静止」)および最大用量位置を画成する。したがって、数字スリーブ60を用量設定部材と考えてもよい。数字スリーブ60は、組立て中に、たとえばスナップ係合により数字スリーブ上部60bにしっかりと固定されて数字スリーブ60を形成する数字スリーブ下部60aを含む。
【0059】
スプラインのリングの形を有するクラッチ機能は、数字スリーブ上部60bに内方を向いて設けられて、用量設定中および用量修正中にボタン70のスプラインに係合する。クリッカアームは、数字スリーブ60の外面に設けられ、駆動スリーブ40およびゲージ部材110と相互作用してフィードバック信号を生成する。加えて、数字スリーブ下部60aは、少なくとも1つの長手方向スプラインを含むスプライン連結インターフェースを介して、ナット50およびクラッチ板120に回転方向に拘束される。さらに、数字スリーブ下部60aは、ねじりばね90を取り付けるためのインターフェースを含む。
【0060】
デバイスの近位端を形成するボタン70は、用量セレクタ80に恒久的にスプライン連結される。中心ステムが、ボタン70の近位作動面から遠位に延びる。ステムは、数字スリーブ上部60bのスプラインと係合するためのスプラインを担持するフランジを備える。したがって、ボタン70が押されないときにも、ステムはスプラインを介して数字スリーブ上部60bにスプライン連結されるが、このスプラインインターフェースは、ボタン70が押されると連結解除される。ボタン70は、スプラインを有する不連続環状スカートを有する。ボタン70が押されると、ボタン70のスプラインがハウジング10のスプラインに係合し、投薬中のボタン70(およびしたがって用量セレクタ80)の回転を防ぐ。これらのスプラインは、ボタン70が解放されるときに係合解除して、用量をダイヤル設定できるようにする。さらに、ラチェット歯のリングが、クラッチ板120と相互作用するようにボタンのフランジの内側に設けられる。
【0061】
用量セレクタ80は、ハウジング10に軸方向に拘束される。用量セレクタ80は、スプライン連結インターフェースを介してボタン70に回転方向に拘束される。ボタン70の環状スカートにより形成されるスプライン機能と相互作用する溝を含むこのスプライン連結インターフェースは、用量ボタン70の軸方向位置にかかわらず係合されたままとなる。用量セレクタ80または用量ダイヤルグリップは、鋸歯状の外側スカートを有するスリーブ状部材である。
【0062】
ねじりばね90がその遠位端でハウジング10に取り付けられ、他端で数字スリーブ60に取り付けられる。ねじりばね90は数字スリーブ60内に位置し、駆動スリーブ40の遠位部分を囲む。用量セレクタ80を回転させて用量を設定する動作により、数字スリーブ60をハウジング10に対して回転させ、ねじりばね90をさらにチャージする。
【0063】
カートリッジ100は、カートリッジホルダ20内に受けられる。カートリッジ100は、可動ゴム栓をその近位端に有するガラスアンプルであってよい。カートリッジ100の遠位端は、圧着環状金属バンドにより適所に保持される穿孔可能なゴム封止を備える。図示した実施形態において、カートリッジ100は標準的な1.5mlカートリッジである。デバイスは、カートリッジ100をユーザまたは医療従事者が交換できないという点で使い捨てであるように設計される。しかしながら、カートリッジホルダ20を着脱可能にし、親ねじ30の巻戻しおよびナット50のリセットを可能にすることにより、再利用可能なデバイスの変形形態を提供してもよい。
【0064】
図1および2のゲージ要素110は拘束されて、回転を防ぐが、スプライン連結インターフェースを介したハウジング10に対する並進運動を可能にする。ゲージ要素110は、数字スリーブ60の螺旋ねじ山切込みに係合する螺旋機能を内面に有して、数字スリーブ60の回転によりゲージ要素110の軸方向並進運動を生じさせるようになっている。このゲージ要素110の螺旋機能は、数字スリーブ60の螺旋切込みの端部に対抗する止め具当接部も作成して、設定可能な最小用量および最大用量を限定する。
【0065】
ゲージ要素110は、中心アパーチャまたは窓とアパーチャの両側に延びる2つのフランジとを有する全体として板状またはバンド状の部材を有する。フランジは、好ましくは、不透明であるため、数字スリーブ60を遮蔽し、または覆うが、アパーチャまたは窓により、数字スリーブ下部60aの一部を見ることができる。さらに、ゲージ要素110は、用量投薬終了時に数字スリーブ60のクリッカアームと相互作用するカムおよび凹部を有する。
【0066】
クラッチ板120はリング状部材である。クラッチ板120は、スプラインを介して数字スリーブ60にスプライン連結される。クラッチ板120はまた、ラチェットインターフェースを介して駆動スリーブ40に連結される。ラチェットは、数字スリーブ60と駆動スリーブ40との間に、各用量単位に対応する戻り止め位置を提供し、時計方向および反時計方向の相対回転中に異なるランプ歯角に係合する。ボタン70のラチェット機能に相互作用するように、クリッカアームがクラッチ板120に設けられる。
【0067】
クラッチばね130は圧縮ばねである。駆動スリーブ40、クラッチ板120、およびボタン70の軸方向位置は、駆動スリーブ40に力を近位方向へ加えるクラッチばね130の作用によって画成される。このばね力は、駆動スリーブ40、クラッチ板120、およびボタン70を介して反作用し、「静止」時に、用量セレクタ80を通してハウジング10にさらに反作用する。ばね力により、駆動スリーブ40とクラッチ板120との間のラチェットインターフェースが常に係合することが確実になる。「静止」位置において、ボタンスプラインが数字スリーブスプラインに係合し、駆動スリーブ歯がハウジング10の歯に係合することも確実になる。
【0068】
支承部140はピストンロッド30に軸方向に拘束され、液体薬剤カートリッジ内で栓に作用する。支承部140は、親ねじ30に軸方向にクリップ留めされるが、自由に回転する。
【0069】
デバイスが図1に示す「静止」状況にあると、数字スリーブ60は、ゲージ要素110とのゼロ用量当接部に対抗して位置し、ボタン70は押し下げられない。数字スリーブ60の用量マーキング「0」が、ハウジング10およびゲージ要素110のそれぞれの窓を通して見える。
【0070】
デバイスの組立て中に施されたいくつかの予め巻かれた巻きを有するねじりばね90は、トルクを数字スリーブ60に加え、ゼロ用量当接部により回転が防止される。
【0071】
ユーザは、用量セレクタ80を時計方向に回転させて、数字スリーブ60の同一の回転を生じさせることにより、液体薬剤の可変用量を選択する。数字スリーブ60の回転により、ねじりばね90がチャージされ、ねじりばね90に蓄積されるエネルギーが増加する。数字スリーブ60が回転すると、ゲージ要素110はそのねじ係合により軸方向に並進運動して、ダイヤル設定用量の値を示す。ゲージ要素110は、窓領域の両側にフランジを有し、これらはダイヤル設定用量に隣接する、数字スリーブ60に印刷された数字を覆って、設定用量の数字のみがユーザに確実に見えるようになっている。
【0072】
本発明の特定の機能は、このタイプのデバイスに一般的な個々の用量数字表示に加えて視覚フィードバック機能を含むことである。ゲージ要素110の遠位端は、ハウジング10の窓を通るスライドスケールを作成する。代替案として、スライドスケールを、異なる螺旋トラックで数字スリーブ60に係合する別個の部材を使用して形成してもよい。
【0073】
ユーザにより用量が設定されると、ゲージ要素110は軸方向に並進運動し、設定された用量の大きさに比例して距離が動く。この機能により、設定された用量のおおよそのサイズに関する明確なフィードバックをユーザに与える。自動注射器機構の投薬速度は手動注射器デバイスより高くなり得るため、投薬中に数字用量表示を読むことができない場合がある。ゲージ機能により、投薬中に、用量数字自体を読む必要なく投薬の進行に関するフィードバックをユーザに提供する。たとえば、ゲージ表示をゲージ要素110の不透明要素により形成して、その下にある対比着色部材を見せてもよい。あるいは、見せることのできる要素に粗い用量数字または他の指標を印刷して、より正確な解決をもたらしてもよい。加えて、ゲージ表示が、用量設定および投薬中のシリンジ動作をシミュレートする。
【0074】
駆動スリーブ40は、用量が設定され数字スリーブ60が回転されるときに、そのスプライン連結歯がハウジング10の歯に係合することによって回転が防止される。したがって、ラチェットインターフェースを介して、クラッチ板120と駆動スリーブ40との間で相対回転が行われなければならない。
【0075】
用量セレクタ80を回転させるのに必要なユーザトルクは、ねじりばね90を巻くのに必要なトルクと、ラチェットインターフェースを緩めるのに必要なトルクとの合計である。クラッチばね130は、軸方向力をラチェットインターフェースに与え、クラッチ板120を駆動スリーブ40上に付勢するように設計される。この軸方向負荷は、クラッチ板120と駆動スリーブ40とのラチェット歯係合を維持するように作用する。ラチェットを用量設定方向に緩めるのに必要なトルクは、クラッチばね130により加えられる軸方向負荷、ラチェット歯の時計方向ランプ角、嵌合面間の摩擦係数、およびラチェットインターフェースの平均半径によって決まる。
【0076】
ユーザが用量セレクタ80を十分に回転させて機構を1増分増加させると、数字スリーブ60は、駆動スリーブ40に対して1つのラチェット歯だけ回転する。この時点で、ラチェット歯は次の戻り止め位置に再係合する。ラチェット再係合によって可聴クリックを発生させ、必要なトルク入力の変更によって触覚フィードバックを与える。
【0077】
数字スリーブ60と駆動スリーブ40との相対回転が可能になる。この相対回転によっても、最終用量ナット50がそのねじ付経路に沿って、駆動スリーブ40の最終用量当接部に向かって移動する。
【0078】
ユーザトルクが用量セレクタ80に加えられないと、数字スリーブ60は、クラッチ板120と駆動スリーブ40との間のラチェットインターフェースのみによって、ねじりばね90により加えられるトルク下で回転して戻ることが防止される。ラチェットを反時計方向に緩めるのに必要なトルクは、クラッチばね130により加えられる軸方向負荷、ラチェットの反時計方向のランプ角、嵌合面間の摩擦係数、およびラチェット機能の平均半径によって決まる。ラチェットを緩めるのに必要なトルクは、ねじりばね90により数字スリーブ60(およびしたがってクラッチ板120)に加えられるトルクよりも大きくなければならない。したがって、ラチェットランプ角は反時計方向に増加して、このトルクが確実に大きくなるようにしつつ、ダイヤルアップトルクが確実にできるだけ小さくなるようにする。
【0079】
ユーザは、用量セレクタ80を時計方向に回転させ続けることにより、選択用量を増加させることを選ぶことができるようになる。数字スリーブ60と駆動スリーブ40との間のラチェットインターフェースを緩めるプロセスが、用量増分ごとに繰り返される。用量増分ごとに追加のエネルギーがねじりばね90内に蓄積され、ラチェット歯の再係合によりダイヤル設定された増分ごとに、可聴および触覚フィードバックが提供される。ねじりばね90を巻くのに必要なトルクが増加すると、用量セレクタ80を回転させるのに必要なトルクが増加する。したがって、ラチェットを反時計方向に緩めるのに必要なトルクは、最大用量に到達したときにねじりばね90により数字スリーブ60に加えられるトルクよりも大きくなければならない。
【0080】
ユーザが最大用量限界に到達するまで選択用量を増加させ続けると、数字スリーブ60は、その最大用量当接部でゲージ要素110の最大用量当接部に係合する。これにより、数字スリーブ60、クラッチ板120、および用量セレクタ80のさらなる回転を防ぐ。
【0081】
用量の選択中にどのくらいの増分が機構により送達されたかに応じて、最終用量ナット50は、その最終用量当接部を駆動スリーブ40の止め具面に接触させることができる。当接部により、数字スリーブ60と駆動スリーブ40とのさらなる相対回転を防ぎ、したがって、選択可能な用量を限定する。最終用量ナット50の位置は、ユーザが用量を設定するたびに行われた数字スリーブ60と駆動スリーブ40との相対回転の総数によって決定される。
【0082】
用量が選択された状態に機構があると、ユーザは、この用量から任意の数の増分を選択解除することができる。用量の選択解除は、ユーザが用量セレクタ80を反時計方向に回転させることによって達成される。ユーザにより用量セレクタ80に加えられるトルクは、ねじりばね90により加えられるトルクと組み合わせたときに、クラッチ板120と駆動スリーブ40との間のラチェットインターフェースを反時計方向に緩めるのに十分なものである。ラチェットが緩められると、反時計方向の回転が数字スリーブ60内で(クラッチ板120を介して)行われ、これにより数字スリーブ60をゼロ用量位置に戻し、ねじりばね90を巻き出す。数字スリーブ60と駆動スリーブ40との相対回転により、最終用量ナット50がその螺旋経路に沿って、最終用量当接部から離れて戻る。
【0083】
用量が選択された状態に機構があると、ユーザは機構を起動して用量の送達を開始することができる。ユーザがボタン70を軸方向に遠位方向へ押し下げることにより、用量の送達が開始される。
【0084】
ボタン70が押し下げられると、ボタン70と数字スリーブ60との間のスプラインが係合解除され、ボタン70と用量セレクタ80とを送達機構から、すなわち数字スリーブ60、ゲージ要素110、およびねじりばね90から回転方向に連結解除する。ボタン70のスプラインがハウジング10のスプラインに係合して、投薬中のボタン70(およびしたがって用量セレクタ80)の回転を防ぐ。投薬中にボタン70が不動であると、ボタン70を投薬クリッカ機構で使用することができる。ハウジング10の止め具機能がボタン70の軸方向移動を限定し、ユーザにより加えられる軸方向の誤用負荷に反作用して、内部部材に損傷を与える危険を減らす。
【0085】
クラッチ板120および駆動スリーブ40は、ボタン70と共に軸方向に移動する。これにより、駆動スリーブ40と数字スリーブ60との間のスプライン連結歯インターフェースを係合させ、投薬中の駆動スリーブ40と数字スリーブ60との相対回転を防ぐ。駆動スリーブ40とハウジング10との間のスプライン連結歯インターフェースが係合解除するため、駆動スリーブ40は回転できるようになり、数字スリーブ60およびクラッチ板120を介してねじりばね90により駆動される。
【0086】
駆動スリーブ40が回転すると、ピストンロッド30が、これらのスプライン連結係合によって回転し、その後、ピストンロッド30がハウジング10とのねじ係合によって前進する。数字スリーブ60の回転によっても、ゲージ要素110が軸方向に横切ってゼロ位置へ戻ることにより、ゼロ用量当接部が機構を停止させる。
【0087】
用量投薬中の触覚フィードバックは、クラッチ板120に組み込まれた柔軟なカンチレバークリッカアームを介して提供される。このアームがボタン70の内面のラチェット機能に半径方向に界接することにより、ラチェット歯間隔は1増分の投薬に必要な数字スリーブ60の回転に対応する。投薬中、数字スリーブ60が回転し、ボタン70がハウジング10に回転方向に連結されると、ラチェット機能はクリッカアームに係合して、送達される各用量増分と共に可聴クリックを発生させる。
【0088】
ユーザがボタン70を押し下げ続けている間、前述の機械的相互作用を介して用量の送達が続く。ユーザがボタン70を解放すると、クラッチばね130が駆動スリーブ40をその「静止」位置に戻し(クラッチ板120およびボタン70と共に)、駆動スリーブ40とハウジング10との間のスプラインを係合させて、さらなる回転を防ぎ、用量送達を停止させる。
【0089】
用量送達中、駆動スリーブ40と数字スリーブ60とは共に回転するため、最終用量ナット50内で相対運動は行われない。したがって、最終用量ナット50は、ダイヤル設定中にのみ駆動スリーブ40に対して軸方向に移動する。
【0090】
数字スリーブ60がゼロ用量当接部に戻ることにより用量の送達が停止されると、ユーザはボタン70を解放することができ、これにより、駆動スリーブ40とハウジング10との間でスプライン歯を再係合させる。機構は「静止」状況に戻る。
【0091】
用量投薬終了時に、追加の可聴フィードバックは、投薬中に提供される「クリック」とは異なる「クリック」の形で提供されて、デバイスが数字スリーブ60のクリッカアームと、駆動スリーブ40のランプならびにゲージ要素110のカムおよび凹部との相互作用を介してゼロ位置に戻ったことを、ユーザに知らせる。本実施形態により、用量送達終了時にのみフィードバックを生み出すことができ、デバイスがゼロ位置に戻る、またはゼロ位置から離れるようにダイヤル設定される場合にはフィードバックを生み出すことができない。
【符号の説明】
【0092】
10 ハウジング(ケーシング)
20 カートリッジホルダ
30 ピストンロッド(親ねじ)
40 駆動スリーブ
41 ねじ山
42 歯
43 切欠き(キャビティ)
50 ナット
51 ねじ山セクション(螺旋リブ)
60 用量設定要素
60a 数字スリーブ下部
60b 数字スリーブ上部
70 ボタン
80 用量セレクタ
90 ねじりばね
100 カートリッジ
110 ゲージ要素
120 クラッチ板
130 クラッチばね
140 支承部
図1
図2
図3
図4