【実施例】
【0052】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦由来ヒト胎児付属物から、羊膜を用手的に分離した。ハンクス平衡塩液(Ca・Mg不含有)にて2回洗浄後、得られた羊膜の内1gを容器に取り、精製コラゲナーゼ (CLSPA, Worthington社, 規格>500CDU/mg)300CDU/ml (=<600μg/ml)及びサーモリシン(和光純薬、規格>7000PU/mg)0〜400PU/ml(=<60μg/ml) (No.1:0PU/ml、No.2:100PU/ml、No.3:200PU/ml、No.4:400PU/mlの4種類)を含有するハンクス平衡塩液(Ca・Mg含有)計5mlを添加し、37℃にて90分間、60rpmにてシェーカーにより震盪攪拌を行った。得られた混合物に2倍量の10%ウシ胎児血清(FBS)添加αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)を添加後、ナイロンネットフィルター(ポアサイズ:100μm)で濾過した。フィルターに残った組織をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて評価した。濾液は400 x gにて5分遠心操作を行い、上清を破棄後、10%FBS添加αMEMにて細胞を再懸濁し、細胞数をトリパンブルー染色後に測定した。得られた細胞は間葉系マーカー抗CD90-FITC抗体及び上皮系マーカー抗CD324-APC抗体(BD Bioscience社)にて4℃にて15分染色後、死細胞除去のため7-AAD色素を添加し、フローサイトメーター(FACSCanto:BD社)にて表面抗原マーカー解析を行った。結果を表1、表2,
図3及び
図4に示す。
【0054】
CDU(=collagen digestion unit):コラーゲンを基質として、37℃、pH7.5において5時間に1μmolのロイシンに相当するアミノ酸およびペプチドを生成する酵素量。
PU(=protease unit): 乳酸カゼインを基質として35℃、pH7.2において1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸及びペプチドを生成する酵素量。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、コラゲナーゼのみ(No.1)で得られるトリパンブルー染色陰性の生細胞数は0.29x10
6個であったのに対し、サーモリシンを加えることで生細胞数は増加し、サーモリシン400PU/ml(No.4)では1.99x10
6個と、約7倍まで増加した。一方トリパンブルー陽性の死細胞数に大きな変化はなく、どのサンプルでも80%以上の生細胞率が得られた。
【0057】
図3に示すように、フローサイトメーターによる結果から、コラゲナーゼのみ(No.1)のサンプルでは、目的とするCD90陽性MSCは34.6%のみであり、不要なCD324陽性上皮細胞は8.6%、それ以外の赤血球と思われる細胞が56.8%であった。表1同様、サーモリシンを添加することでCD90陽性MSCの割合は増加し、サーモリシン400PU/ml(No.4)ではCD90陽性MSC83.3%、CD324陽性上皮細胞12.8%、その他が3.9%であった。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、各サンプルから得られるMSC数は、コラゲナーゼのみ(No.1)では0.1x10
6個であったが、サーモリシン添加により得られるMSCは増加し、400PU/ml(No.4)では1.66x10
6個と、No.1の約16倍のMSCが得られた。
図4に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織をHE染色により検討を行ったところ、コラゲナーゼのみ(No.1)では細胞外基質層の構造が保たれ、消化不十分であった。サーモリシンを添加することで細胞外基質層の消化が認められ、400PU/ml(No.4)では完全に消化された。
【0060】
これら実施例1の結果から、コラゲナーゼ単独では羊膜を消化できないこと、コラゲナーゼにサーモリシンを加えることで、濃度依存的に羊膜は消化され、400PU/mlのサーモリシンでは、MSCを含む細胞外基質層が完全に消化されていたことが分かった。
【0061】
(実施例2)
上記実施例1を踏まえ、同様の方法にて、コラゲナーゼを除きサーモリシンのみを用いた検討を行った。
結果を表3,
図5及び
図6に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3に示すように、サーモリシンのみの消化により得られる、ヒト羊膜1g当たりの細胞数はサーモリシンの濃度依存的に増加した。
しかしながら、
図5に示すように、サーモリシンのみの酵素処理液に含有する細胞のフローサイトメーターによる結果からは、どの濃度においても得られる細胞はほぼ100%CD324陽性上皮細胞であり、目的とするCD90陽性MSCは得られなかった。
図6に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織のHE染色による検討では、MSCを含む細胞外基質層は全く消化されておらず、また、上皮細胞層の破綻がサーモリシンの濃度依存的に存在した。
【0064】
これら実施例2の結果から、サーモリシンのみでは、目的とするMSCは全く得られないこと、サーモリシンの濃度が800PU/ml以上の場合、上皮細胞層の破綻が認められることが分かった。
【0065】
(実施例3)
更に、従来法であるトリプシンを用いた方法との比較検討を行った(非特許文献3)。ヒト羊膜1gを容器に取り、No.41)0.05%トリプシン(0.53 mM EDTA含有)5mlにて37℃90分60rpm震盪攪拌(シェーカーにより)、No.42)0.05%トリプシン(0.53 mM EDTA含有、Invitrogen社)5mlにて37℃90分60rpm震盪攪拌(シェーカーにより)後、ナイロンネットフィルター(ポアサイズ:100μm)濾過にて残存した組織を、更に精製コラゲナーゼ (300CDU/ml)含有ハンクス平衡塩液(Ca・Mg含有)にて37℃90分60rpm震盪攪拌(シェーカーにより)、No.43)精製コラゲナーゼ(300CDU/ml)+サーモリシン(250PU/ml)含を有するハンクス平衡塩液(Ca・Mg含有)5mlにて、37℃90分震盪攪拌(シェーカーにより)を行った。以下は実施例1と同様とした。結果を表4、表5、
図7及び
図8に示す。
【0066】
表4のように、トリプシン処理に加え、残った羊膜を更にコラゲナーゼ処理を行ったサンプル(No.42)から最も多くの細胞を得ることが出来た。
しかしながら、
図7に示すように、各酵素処理液に含有する細胞のフローサイトメーターによる結果からは、トリプシンのみ(No.41)だと、目的とするCD90陽性MSCは0.6%と全く得られない、トリプシン処理後、更にコラゲナーゼ処理を加えた2段階処理(No.42)の場合、目的とするCD90陽性細胞は32.6%得られたが、不要なCD324陽性上皮細胞も65.6%含有している、コラゲナーゼ+サーモリシンの一回の処理(No.43)では、CD90陽性MSCは90.3%、CD324陽性上皮細胞は8.0%であった。
【0067】
【表4】
【0068】
図8に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織のHE染色による検討では、41トリプシン処理のみでは、上皮細胞層の基底膜の破壊に加え、上皮細胞が球状かつばらばらになっているのに対し、細胞外基質層の構造は保たれていた、トリプシン処理後、コラゲナーゼ処理(No.42)をすることで、羊膜は完全に消化された、コラゲナーゼ+サーモリシンの一括処理(No.43)によって、細胞外基質層は完全に消化されているにもかかわらず、上皮細胞層はその構造が基底膜を含め保たれていた。
【0069】
【表5】
【0070】
表5に示すように、各サンプルから得られるMSCは、トリプシンのみ(No.51)ではほとんどないこと、トリプシン後コラゲナーゼ処理(No.52)をした場合は、5.39 x10
6個と非常に多く得られること、コラゲナーゼ+サーモリシンの一括処理(No.53)では、3.25 x10
6個得られることが分かった。一方不要なCD324陽性上皮細胞に関しては、トリプシンのみ(No.51)では、2.25 x10
6個の上皮細胞が得られること、トリプシン+コラゲナーゼの一括処理(No.52)では、13.07 x10
6個と、必要なMSC以上の細胞数が得られてしまうこと、コラゲナーゼ+サーモリシンの一括処理(No.53)では、0.29 x10
6個とMSCに比べると少ない細胞数であること、が明らかとなった。
【0071】
以上のことから、従来のトリプシン処理後にコラゲナーゼにより処理する方法は、メリットとして、多くの細胞数が得られる反面、上皮細胞の混入が多く、高純度のMSCを得るには比重遠心等の手法により細胞を選別する操作が必要となること、工程がトリプシン処理に加えコラゲナーゼ処理の2段階になり、操作が煩雑になること、がデメリットとしてあげられる。特に後者のデメリットに関しては、トリプシンがCaにより不活化される反面、コラゲナーゼはCa要求性があるため、同時処理することが不可能であることがその原因である。
【0072】
(実施例4)
上記実施例1〜3を踏まえ、サーモリシン濃度を250PU/mlに固定した場合の、羊膜間葉系細胞分離に最小限必要なコラゲナーゼ濃度の検討を行った。結果を表6及び
図9に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
表6に示すように、コラゲナーゼ300CDU/ml(No.63)で得られるトリパンブルー染色陰性の生細胞数は1.53x10
6個であったのに対し、コラゲナーゼ濃度がその1/4の75CDU/ml(No.61)の場合、生細胞数は1.16 x10
6個に減少した。トリパンブルー陽性の死細胞数に大きな変化はなく、どのサンプルでも80%以上の生細胞率が得られた。また、フローサイトメーターによる結果からはどのサンプルもCD90陽性間葉系細胞は90%以上であった。
【0075】
図9に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織をHE染色により検討を行ったところ、コラゲナーゼ濃度が300および150 CDU/ml(No.63および62)では上皮細胞層のみであったのに対し、コラゲナーゼ濃度が75 CDU/ml(No.61)の場合、ごく一部であるが細胞外基質層が観察され、消化不十分であった。
これら実施例4の結果から、サーモリシン濃度を250PU/mlに固定した場合、細胞外基質層を十分に消化するには、コラゲナーゼ濃度は、好ましくは少なくとも75 CDU/ml以上であり、より好ましくは150CDU/ml以上にする必要性が分かった。
【0076】
(実施例5)
更にサーモリシン濃度を実施例3の倍である500PU/mlに固定した場合の、羊膜間葉系細胞分離に最小限必要なコラゲナーゼ濃度の検討を行った。結果を表7及び
図10に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表7に示すように、コラゲナーゼ150CDU/ml(No.73)で得られるトリパンブルー染色陰性の生細胞数は2.05x10
6個であったのに対し、コラゲナーゼ濃度がその1/4の37.5CDU/ml(No.71)の場合、生細胞数は0.82x10
6個に減少した。トリパンブルー陽性の死細胞数に大きな変化はなく、どのサンプルでも80%以上の生細胞率が得られた。また、フローサイトメーターによる結果からはどのサンプルもCD90陽性間葉系細胞は90%以上であった。
【0079】
図10に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織をHE染色により検討を行ったところ、コラゲナーゼ濃度が150および75 CDU/ml(No.73および72)では上皮細胞層のみであったのに対し、コラゲナーゼ濃度が37.5 CDU/ml(No.71)の場合、多くの細胞外基質層が観察され、消化不十分であった。
これら実施例5の結果から、サーモリシン濃度を500PU/mlに固定した場合、細胞外基質層を十分に消化するには、コラゲナーゼ濃度は、好ましくは少なくとも37.5CDU/ml以上であり、より好ましくは75CDU/ml以上にする必要性が分かった。
【0080】
(実施例6)
上記実施例1に関し、サーモリシンに代えて、同様に非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるディスパーゼを用い、これにコラゲナーゼを添加した検討を行った。
インフォームドコンセントを得た妊婦由来のヒト胎児付属物から、羊膜を用手的に分離した。ハンクス平衡塩液(Ca・Mg不含有)にて2回洗浄後、得られた羊膜の内1gを容器に取り、コラゲナーゼ (Brightase-C, ニッピ社, 規格>20万CDU/バイアル)300CDU/ml及びディスパーゼI(和光純薬、規格10000〜13000PU/バイアル)0〜400PU/ml (No.1:0PU/ml、No.2:100PU/ml、No.3:200PU/ml、No.4:400PU/mlの4種類)を含有するハンクス平衡塩液(Ca・Mg含有)計5ml添加し、37℃にて90分、60rpmにてシェーカーにより震盪攪拌を行った。得られた混合物に2倍量の10%ウシ胎児血清(FBS)添加αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)を添加後、ナイロンネットフィルター(ポアサイズ:100μm)で濾過した。フィルターに残った組織をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色にて評価した。濾液は400 x gにて5分遠心操作を行い、上清を破棄後、10%FBS添加αMEMにて細胞を再懸濁し、細胞数をトリパンブルー染色後、測定した。得られた細胞は間葉系マーカー抗CD90-FITC抗体及び上皮系マーカー抗CD324-APC抗体(BD Bioscience社)にて4℃にて15分染色後、死細胞除去のため7-AAD色素を添加し、フローサイトメーター(FACSCanto:BD社)にて表面抗原マーカー解析を行った。結果を表8、表9、
図11及び
図12に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表8に示すように、コラゲナーゼのみ(No.81)で得られるトリパンブルー染色陰性の生細胞数は0.42x10
6個であったのに対し、ディスパーゼを加えることで生細胞数は増加し、ディスパーゼ200PU/ml(No.83)では3.02x10
6個と、約7倍まで増加した。一方トリパンブルー陽性の死細胞数に大きな変化はなく、ディスパーゼを入れたどのサンプルでも80%以上の生細胞率が得られた。
【0083】
図11に示すように、フローサイトメーターによる結果では、コラゲナーゼのみ(No.81)であっても、ディスパーゼを加えても(No.82-84)、目的とするCD90陽性MSCは90%以上であり、不要なCD324陽性上皮細胞はいずれも10%以下であった。コラゲナーゼのみ(No.81)の結果が、実施例1(
図3)でのコラゲナーゼのみ(No.1)のそれと異なるが、これは用いたコラゲナーゼのメーカーが異なるためと考えられた。
【0084】
【表9】
【0085】
表9に示すように、各サンプルから得られるMSC数は、コラゲナーゼのみ(No.81)では0.39x10
6個であったが、ディスパーゼ添加により得られるMSCは増加し、200PU/ml(No.83)では2.86x10
6個と、No.81の約7倍のMSCが得られた。
図12に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織をHE染色により検討を行ったところ、コラゲナーゼのみ(No.81)では細胞外基質層の構造が保たれ、消化不十分であった。ディスパーゼを添加することで細胞外基質層の消化が認められ、200PU/ml(No.83)、400PU/ml(No.84)では完全に消化された。
【0086】
これら実施例6の結果から、コラゲナーゼ単独では羊膜消化が不十分であること、コラゲナーゼにディスパーゼを加えることで、濃度依存的に羊膜は消化され、2000PU/ml以上のディスパーゼでは、MSCを含む細胞外基質層が完全に消化されていた。
【0087】
(実施例7)
上記実施例6を踏まえ、同様の方法にて、コラゲナーゼを除きディスパーゼのみを用いた検討を行った。
結果を表10,
図13及び
図14に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10に示すように、ディスパーゼのみの消化により得られる、ヒト羊膜1g当たりの細胞数はサーモリシンの濃度依存的に増加した。
しかしながら、
図13に示すように、ディスパーゼのみの酵素処理液に含有する細胞のフローサイトメーターによる結果からは、どの濃度においても目的とするCD90陽性MSC数%と非常に少なかった。
図14に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織のHE染色による検討では、MSCを含む細胞外基質層は全く消化されておらず、また、上皮細胞層の破綻がディスパーゼの濃度依存的に存在した。
【0090】
これら実施例7の結果から、ディスパーゼのみでは、目的とするMSCは全く得られない、ディスパーゼの濃度が800PU/ml以上の場合、上皮細胞層の破綻が認められることが分かった。
【0091】
(実施例8)
上記実施例6〜7を踏まえ、ディスパーゼ濃度を250PU/mlに固定した場合の、羊膜間葉系細胞分離に最小限必要なコラゲナーゼ濃度の検討を行った。結果を表11及び
図15に示す。
【0092】
【表11】
【0093】
表11に示すように、コラゲナーゼ300CDU/ml(No.113)で得られるトリパンブルー染色陰性の生細胞数は1.57x10
6個であったのに対し、コラゲナーゼ濃度がその1/4の75CDU/ml(No.113)の場合、生細胞数は1.34 x10
6個に減少した。トリパンブルー陽性の死細胞数に大きな変化はなく、どのサンプルでも80%以上の生細胞率が得られた。また、フローサイトメーターによる結果からはどのサンプルもCD90陽性間葉系細胞は90%以上であった。
【0094】
図15に示すように、酵素処理後のフィルター上に残留した組織をHE染色により検討を行ったところ、コラゲナーゼ濃度が300CDU/ml(No.113)では上皮細胞層のみであったのに対し、コラゲナーゼ濃度が75 および150CDU/ml(No.111および112)の場合、細胞外基質層が観察され、消化不十分であった。
これら実施例8の結果から、ディスパーゼ濃度を250PU/mlに固定した場合、細胞外基質層を十分に消化するには、コラゲナーゼ濃度は少なくとも75CDU/ml以上、より好ましくは150CDU/ml以上、さらに好ましくは300CDU/ml以上にする必要性が分かった。
【0095】
(実施例9)
実施例1にて得られた細胞を10%FBS添加αMEM培養液にて希釈後、プラスチックデッシュ上に播種し、羊膜由来MSCを接着培養させた。トリプシン処理にて細胞剥離後、10%FBS添加αMEM培養液にてトリプシン中和し、遠心後上清を捨て、得られた細胞ペレットをRPMI1640にて再懸濁し、羊膜由来MSC懸濁液を作成した。得られた懸濁液に対し、最終組成が表12となるように凍結保存液を調整した。
【0096】
【表12】
【0097】
DMSO:Simga-Aldrich社製、品番D2650
HES:ニプロ社製、品番HES40
ヒトアルブミン(Alb):ベネシス社製、献血アルブミン25%静注12.5g/50ml
デキストラン40:大塚製薬工場社製、低分子デキストラン糖注
生理食塩水:大塚製薬工場社製:上記の希釈調整用液とした。
【0098】
凍結保存液は羊膜由来MSCが10
6細胞/mlとなるように調整し、それぞれ1mlをクライオチューブに移し、プログラムフリーザーにて、−1〜−2℃/分の凍結速度で−40℃まで温度を下げ、更に−90℃まで−10℃/分の速度で下げ、−150℃の超低温冷凍庫に保存した。翌日、クライオチューブを37℃恒温槽に浸して急速融解した。表13に急速解凍した細胞のトリパンブルー陰性生細胞割合を示す。
【0099】
【表13】
【0100】
この結果から、IIIのDMSOのみでは生細胞が少ないこと、HESやデキストラン、アルブミンを添加することで生細胞割合は増加することが明らかとなった。
更に、解凍した細胞懸濁液100μLを24wellプレート4ウェルに播種し、3mlの10%FBS添加αMEM培養液を添加し、24時間後および48時間後に写真撮影後、一視野当たりの細胞数の平均値を測定した。表14、
図16及び
図17に結果を示す。
【0101】
【表14】
【0102】
表13の結果同様、IIIのDMSOのみ、あるいはIVのDMSO+Albでは細胞増殖が遅かったが、HESやデキストランの添加により細胞増殖は促進した。特にDMSOの濃度を減らしたI、II、IVにおいて著明な細胞増殖を認めた。
【0103】
(実施例10)
マウスにおいて、同種他家骨髄移植および脾細胞移植を行い、急性移植片対宿主病(GVHD)を発症させ、ヒト羊膜由来MSC移植による治療効果を検討した。7-8週齢の雌B6C3F1マウスに対して、15GyのX線照射の後、同種他家であるBDF1マウス由来骨髄細胞1.0×10
7細胞および同脾細胞3×10
7細胞を経静脈的に移植した。骨髄細胞移植14日目、17日目、21日目、15日目に、実施例1と同様の手法(コラゲナーゼ300CDU/ml+サーモリシン250PU/mlの条件下)にて得られたヒト羊膜由来MSC(1×10
5細胞 )を経静脈的に移植し、体重を経時的に観察した。
図18に、骨髄細胞移植日からの体重変化率を示す。
この結果から、急性移植片対宿主病(GVHD)に伴う体重増加の遅延がヒト羊膜由来MSC移植により改善していることが明らかとなった。
【0104】
(実施例11)
ラットにおいて、デキストラン硫酸(DSS)を経口摂取させることで炎症性腸疾患を発症させ、ヒト羊膜由来MSC移植による治療効果を検討した。8週齢の雄SDラットに対し8%DSSの自由飲水での投与を開始した。DSS投与開始の翌日、実施例1と同様の手法(コラゲナーゼ300CDU/ml+サーモリシン250PU/mlの条件下)にて得られたヒト羊膜由来MSC(1×10
6細胞 )を経静脈的に移植し、DSSを計5日間投与した。
図19に疾患活動性(Disease activity index(DAI):体重の減少、便の固さ、直腸出血を観察、測定し、点数化)および相対的体重変化を示す。この結果から、腸炎の病態がヒト羊膜由来MSC移植により改善していることが明らかとなった。
尚、DAIの点数化は、下記の文献の方法に従った。Cooper, H. S.; Murthy, S. N.; Shah, R. S.; Sedergran, D. J. Clinicopathologic study of dextran sulfate sodium experimental murine colitis. Lab. Invest. 69:238-249; 1993.
【0105】
(実施例12)
マウスにおいて、プリスタン(Pristane; 2,6,10,14-tetramethyl-pentadecane)を投与することで全身性エリテマトーデスを発症させ、ヒト羊膜由来MSC移植による治療効果を検討した。13週齢雄BALB/cマウスに対しプリスタンを500μl腹腔内に投与した。同時に実施例1と同様の手法(コラゲナーゼ300CDU/ml+サーモリシン250PU/mlの条件下)にて得られたヒト羊膜由来MSC(1×10
5細胞/10g)を尾静脈に投与し、以後隔週で同数のヒト羊膜由来MSCを投与し、20週経過後に生化学的評価を行った。
図20に尿蛋白の経過を示す。この結果から、全身性エリテマトーデスに伴う蛋白尿がヒト羊膜由来MSC移植により改善していることが明らかとなった。
【0106】
(実施例13)
ラットにおいて、四塩化炭素(CCl
4)を繰り返し投与することで肝硬変を発症させ、ヒト羊膜由来MSC移植による治療効果を検討した。6週齢の雄SDラットに対し2ml/kgのCCl
4を週2回の頻度で腹腔内投与を開始した。CCl
4投与開始から3週目に実施例1と同様の手法(コラゲナーゼ300CDU/ml+サーモリシン250PU/mlの条件下)にて得られたヒト羊膜由来MSC(1×10
6細胞 )を経静脈的に移植し、CCl
4を計7週間投与し、肝臓の組織学的評価を行った。
図21に肝臓のMasson trichrome染色の結果から得られた繊維化面積率(膠原線維陽性割合)を示す。この結果から、肝硬変に伴う肝線維化がヒト羊膜由来MSC移植により改善していることが明らかとなった。
【0107】
(実施例14)
ラットにおいて、直腸に放射線照射することで放射線腸炎を発症させ、ヒト羊膜由来MSCによる治療効果を検討した。8週齢の雄SDラットに対し5Gy/日の放射線を5日間連日で下腹部に照射した。最終照射日に実施例1と同様の手法(コラゲナーゼ300CDU/ml+サーモリシン250PU/mlの条件下)にて得られたヒト羊膜由来MSC(1×10
6細胞 )を経静脈的に移植し、その3日後に直腸の組織学的評価を行った。
図22に直腸のPAS染色の結果から得られたPAS陽性杯細胞数(/HPF:強拡大視野当たり)の変化を示す。この結果から、放射線腸炎に伴う杯細胞の減少がヒト羊膜由来MSC移植により改善していることが明らかとなった。