特許第6754687号(P6754687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754687
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】元素分析装置及び元素分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20200907BHJP
   G01N 31/12 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   G01N31/00 C
   G01N31/00 F
   G01N31/12 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-244164(P2016-244164)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-96927(P2018-96927A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】荒井 正浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 彰弘
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−250061(JP,A)
【文献】 特開昭61−090058(JP,A)
【文献】 特開昭58−048853(JP,A)
【文献】 特開2010−032264(JP,A)
【文献】 特開2000−310606(JP,A)
【文献】 米国特許第04133641(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00,31/12,
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度の硫黄を含有する測定試料を加熱溶融し、それによって得られた試料ガスに含まれる少なくとも水素を分析する元素分析装置であって、
前記試料ガスに含まれる水素を水に酸化する酸化器と、
前記酸化器を加熱する加熱部と、
前記酸化器により生成された水を検出するHO検出部とを備え、
前記酸化器は、酸化処理前の試料ガスが導入される導入口及び酸化処理後の試料ガスが導出される導出口を有し、それら導入口及び導出口の間に少なくとも酸化触媒たる酸化銅が設けられたものであり、
前記加熱部が前記酸化器を加熱することにより、前記酸化器の導入口及び導出口の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部が形成され、下流側に100℃以上300℃以下の低温部が形成されている元素分析装置。
【請求項2】
前記酸化器は、前記導入口及び前記導出口を有する収容管と、当該収容管に充填された酸化銅と、当該酸化銅を前記導入口側から押さえる上流側部材と、前記酸化銅を導出口側から押さえる下流側部材とを備えており、
前記高温部が前記酸化銅に形成され、前記低温部が前記酸化銅又は前記下流側部材により形成される請求項1記載の元素分析装置。
【請求項3】
前記試料ガスに含まれる窒素を検出するN検出部をさらに備えている請求項1又は2記載の元素分析装置。
【請求項4】
高濃度の硫黄を含有する測定試料を加熱溶融し、それによって得られた試料ガスに含まれる少なくとも水素を分析する元素分析方法であって、
前記試料ガスに含まれる水素を水に酸化する酸化器と、前記酸化器を加熱する加熱部と、前記酸化器により生成された水を検出するHO検出部とを備え、前記酸化器は、酸化処理前の試料ガスが導入される導入口及び酸化処理後の試料ガスが導出される導出口を有し、それら導入口及び導出口の間に少なくとも酸化触媒たる酸化銅が設けられたものである元素分析装置を用いて、
前記加熱部により前記酸化器を加熱して、前記酸化器の導入口及び導出口の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部を形成し、下流側に100℃以上300℃以下の低温部を形成する元素分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄鋼材料等の測定試料に含まれる水素等を分析する元素分析装置及び元素分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の元素分析装置としては、特許文献1に示すように、測定試料を収容した黒鉛るつぼをジュール発熱させて測定試料を加熱溶融(熱分解)し、それによって得られた試料ガスに含まれる元素を定量分析するように構成されたものがある。
【0003】
この元素分析装置において測定試料中の水素(H)を分析する場合には、試料ガスに含まれる水素(H)を酸化器により水(HO)に酸化して、その水を例えば非分散赤外線検出器(NDIR)等のHO検出部により検出している。なお、酸化器の酸化触媒としては、例えば650℃程度に加熱保持した酸化銅(CuO)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−250061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、650℃程度の酸化銅を用いた場合には、測定試料の還元分解により生成された二硫化炭素(CS)が触媒毒として作用すること等により、酸化能力が損なわれてしまい、元素濃度を正確に分析できない場合がある。
【0006】
このため、本願発明者は、酸化銅の温度を700℃以上に加熱して酸化銅の酸化分解能を向上させることにより二硫化炭素を分解し、触媒毒としての作用を低減することを考えた。
【0007】
しかしながら、二硫化炭素を分解することにより生じる硫酸が、酸化器及びHO検出部を接続する配管に凝集してしまう。この現象は、測定試料中に高濃度(例えば0.08質量%以上)の硫黄(S)が含まれている場合に顕著に現れる。
【0008】
また、上記のように配管に硫酸が凝集してしまうと、酸化器により生成されて凝集した水が硫酸に吸着してHO検出部における測定誤差の要因となり、水素分析の精度が低下してしまう。このHO検出部における測定誤差及び水素分析の精度の低下は、該試料を繰り返して測定して硫酸の凝集量が増えるに連れて顕著となる。図5には、硫黄含有濃度0.363質量%の鉄鋼試料1gを繰り返し測定した場合に得られた1回目の水素分析及び20回目の水素分析の測定結果を示している。ここで縦軸は水素濃度に関連した検出値である。20回目の水素分析では、水素濃度のピークの出現が遅れ、かつ高さが小さくなるとともに、測定開始から120秒を経過しても検出値がゼロにならない、いわゆるテーリングが生じていることが分かる。測定開始から120秒までの検出値を積算して水素濃度に換算した結果、1回目、20回目はそれぞれ16.2ppm,11.2ppmであった。このように、繰り返し分析により水素分析値は低値化する傾向が認められ、正しく測定できていないことが判明した。
【0009】
そこで本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、酸化器に接続された配管に硫酸が凝集することを防止して水素分析の精度の低下を抑制することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る元素分析装置は、高濃度(例えば0.08質量%以上)の硫黄を含有する測定試料を加熱溶融し、それによって得られた試料ガスに含まれる少なくとも水素を分析する元素分析装置であって、前記試料ガスに含まれる水素を水に酸化する酸化器と、前記酸化器を加熱する加熱部と、前記酸化器により生成された水を検出するHO検出部とを備え、前記酸化器は、酸化処理前の試料ガスが導入される導入口及び酸化処理後の試料ガスが導出される導出口を有し、それら導入口及び導出口の間に少なくとも酸化触媒たる酸化銅が設けられたものであり、前記加熱部が前記酸化器を加熱することにより、前記酸化器の導入口及び導出口の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部が形成され、下流側に100℃以上300℃以下の低温部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
このような元素分析装置であれば、酸化器の導入口及び導出口の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部が形成され、下流側に100℃以上300℃以下の低温部が形成されているので、酸化器により生成された硫酸は、硫酸の沸点よりも低温である低温部で凝集(液化)し、酸化器の外部に硫酸が流出することを防止できる。また、この低温部の温度が100℃以上300℃以下であるので、低温部を通過するHOは水蒸気であり、低温部に捕集された硫酸に水蒸気が吸着されることは無い。したがって、HO検出部における測定誤差を解消または大幅に低減することができ、水素分析の精度の低下を抑制することができる。
【0012】
ここで、酸化器の高温部を800℃よりも高温にしてしまうと、酸化銅が熱分解してしまい酸化能力が低下してしまう。また、高温部を700℃未満の低温にしてしまうと、試料ガスに含まれる二硫化炭素(CS)が酸化され難く酸化銅の触媒毒となり、酸化銅の劣化が顕著となってしまう。そのため、本発明では、高温部の温度を700℃以上800℃以下として、酸化銅の熱分解を抑えて酸化能力の低下を抑制しつつ、触媒毒となる二硫化炭素(CS)を酸化し易くして酸化銅の劣化を抑えている。この効果を一層顕著にするためには、高温部の温度を750℃以上800℃以下とすることが好ましい。
【0013】
具体的な酸化器の構成としては、前記酸化器は、前記導入口及び前記導出口を有する収容管と、当該収容管に充填された酸化銅と、当該酸化銅を前記導入口側から押さえる上流側部材と、前記酸化銅を導出口側から押さえる下流側部材とを備えるものが考えられる。この酸化器における高温部及び低温部の具体的な構成としては、前記高温部が前記酸化銅に形成され、前記低温部が前記酸化銅又は前記下流側部材により形成されることが望ましい。
【0014】
酸化器の高温部の温度が700℃未満の低温の場合には、試料ガスに含まれる二硫化炭素(CS)又は二硫化炭素由来の硫黄化合物が酸化銅の触媒毒となり、酸化銅の酸化能力が低下して、試料ガスに含まれる一酸化炭素(CO)の酸化効率が低下してしまう。
ここで、元素分析装置が前記試料ガスに含まれる窒素を検出するN検出部をさらに備えている場合には、酸化器を通過した一酸化炭素がN検出部における窒素測定の測定誤差の要因となってしまう。
一方、本発明では、酸化器の高温部の温度が700℃以上の高温であるため、二硫化炭素は酸化銅により酸化、分解されて触媒毒とはならず、試料ガスに含まれる一酸化炭素の酸化効率の低下を抑制することができる。これにより、N検出部における窒素測定の測定精度を向上することができる。
【0015】
また、本発明に係る元素分析方法は、高濃度の硫黄を含有する測定試料を加熱溶融し、それによって得られた試料ガスに含まれる少なくとも水素を分析する元素分析方法であって、前記試料ガスに含まれる水素を水に酸化する酸化器と、前記酸化器を加熱する加熱部と、前記酸化器により生成された水を検出するHO検出部とを備え、前記酸化器は、酸化処理前の試料ガスが導入される導入口及び酸化処理後の試料ガスが導出される導出口を有し、それら導入口及び導出口の間に少なくとも酸化触媒たる酸化銅が設けられたものである元素分析装置を用いて、前記加熱部により前記酸化器を加熱して、前記酸化器の導入口及び導出口の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部を形成し、下流側に100℃以上300℃以下の低温部を形成することを特徴とする。
このような元素分析方法であれば、上述した元素分析装置と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、酸化器の導入口及び導出口の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部を形成し、下流側に100℃以上300℃以下の低温部を形成しているので、酸化器よりも下流側で硫酸が凝集することを防止することにより水素分析の精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る元素分析装置の構成を示す模式図である。
図2】同実施形態の酸化器及びその周辺構成を示す模式図である。
図3】酸化器の高温部の各温度におけるN検出部の測定結果を示す図である。
図4】酸化触媒の温度(700℃、750℃)によるテーリング発生の有無を示す実験結果である。
図5】従来の元素分析装置における繰り返し1回目の水素分析及び繰り返し20回目の水素分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係る元素分析装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
<装置構成>
本実施形態の元素分析装置100は、例えば0.08質量%以上の硫黄(S)を含有する鉄鋼材料等の金属材料(以下、単に測定試料ともいう。)など高濃度の硫黄を含有する物質に含まれる水素(H)、酸素(O)及び窒素(N)の濃度を分析するものである。なお、測定試料としては、被削性が要求される鋼(SUS420Fなど)や快削鋼(SUM)などの0.08〜0.40質量%の硫黄を含有する鉄鋼材料のほか、製鋼原料にも用いられる硫化鉱物や、その他、高濃度の硫黄を含む無機(金属)材料などであってもよい。
【0020】
この元素分析装置100は、測定試料を収容した黒鉛るつぼRを加熱炉1内において一対の電極により挟持して、黒鉛るつぼRに直接電圧を印加することにより、黒鉛るつぼR内の測定試料を加熱溶融して、それによって生じた試料ガスを分析して測定試料に含まれる元素を分析するものである。
【0021】
具体的にこの元素分析装置100は、図1に示すように、加熱炉1内で発生した試料ガスをキャリアガス(例えばHeガス等)とともに流通させる単一ガス流路2を形成する流通管を有し、当該流通管上に、CO検出部3、酸化器4、CO検出部5、HO検出部6、CO除去部7、HO除去部8及びN検出部9が、この順に直列に設けられている。
【0022】
CO検出部3は、試料ガスに含まれる一酸化炭素(CO)を検出してその濃度を測定(検出)するものであり、非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)により構成されている。
【0023】
酸化器4は、CO検出部3の下流側に設けられ、試料ガスに含まれる一酸化炭素(CO)を二酸化炭素(CO)に酸化するとともに、水素(H)を水(HO)に酸化するものである。
【0024】
この酸化器4は、図2に示すように、酸化処理前の試料ガスが導入される導入口P1及び酸化処理後の試料ガスが導出される導出口P2を有し、それら導入口P1及び導出口P2の間に酸化触媒たる酸化銅(CuO)41が設けられたものである。
【0025】
具体的に酸化器4は、導入口P1及び導出口P2を有する収容管42と、この収容管42に充填された粉末状または粒状の酸化銅41と、この酸化銅41を導入口P1側から押さえる上流側部材43と、酸化銅41を導出口P2側から押さえる下流側部材44とを備えている。収容管42は例えば直管状をなす石英管である。また、上流側部材43及び下流側部材44には耐熱性が要求されることから例えば石英ウールを用い、収容管42に充填された酸化銅41を保持できるよう、例えば24cm程度の収容管42の軸方向に長さが例えば2cm程度ずつ充填すればよい。
【0026】
また、この酸化器4の外周には、収容管42内の充填物である酸化銅41、上流側部材43及び下流側部材44を加熱するための加熱部10が設けられている。この加熱部10は、例えば発熱抵抗体を用いて構成しており、収容管42の外周を軸方向に沿って所定範囲に亘って取り囲んでいる。
【0027】
具体的に加熱部10は、収容管42に対して軸方向における相対位置が調整されることによって、酸化器4の導入口P1及び導出口P2の間の充填物における上流側に700℃以上800℃以下の高温部4Xを形成するとともに、下流側に100℃以上300℃以下の低温部4Yを形成するものである。本実施形態では、高温部4Xが酸化銅41の上流側部分に形成され、低温部4Yが酸化銅41の下流側部分又は下流側部材44に形成されている。このように高温部4X及び低温部4Yは、単一の収容管42に充填された充填物に形成されている。具体的に加熱部10は、収容管42の上端部が加熱部10の外側に位置するように、図示しない支持構造により支持されている。つまり、酸化器4に高温部4Xのみを形成する場合に比べて、低温部4Yを形成したものは、加熱部10から上に延び出た部分が大きい。酸化器4において、試料ガスの酸化という本来の機能に加えて、水素分析の精度の低下を抑制するためには、酸化銅41の全充填量に対する高温部4X及び低温部4Yの充填量の比率をそれぞれ20質量%以上40質量%以下、15質量%以上25質量%以下とすることが望ましい。
【0028】
CO検出部5は、試料ガスに含まれる二酸化炭素(CO)を検出してその濃度を測定するものであり、非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)により構成されている。
【0029】
O検出部6は、試料ガスに含まれる水(水蒸気)を検出してその濃度を測定するものであり、非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)により構成されている。
【0030】
CO除去部7は、酸化部6を通過した試料ガスから二酸化炭素(CO)を吸着して除去するものであり、試料ガスに含まれる窒素(N)に対して反応及び吸着等しないものであり、例えばアスカライトを用いることができる。
【0031】
O除去部8は、酸化部6を通過した試料ガスから水(水蒸気)を吸着して除去するものであり、試料ガスに含まれる窒素(N)に対して反応及び吸着等しないものであり、例えば、過塩素酸マグネシウム又は塩化カルシウム等を用いることができる。
【0032】
検出部9は、試料ガスに含まれる窒素(N)を検出してその濃度を測定するものであり、熱伝導度型分析計(TCD)により構成されている。
【0033】
なお、各検出部により得られた測定信号(各ガス成分の濃度を示す測定値)は、演算部11に出力される。測定信号を取得した演算部11は、各測定信号に基づいて、試料内部に含まれる酸素(O)、水素(H)及び窒素(N)の濃度を演算する。そして、演算部11は、演算結果である酸素(O)、水素(H)及び窒素(N)の濃度を図示しない出力部(モニタ)に出力する。なお、演算部11の具体的な構成は、例えばCPU、内部メモリ、入出力インタフェース、AD変換器等からなる汎用又は専用のコンピュータであり、前記内部メモリの所定領域に格納してあるプログラムに基づいてCPUやその周辺機器等が作動することにより、酸素(O)、水素(H)及び窒素(N)の濃度を演算する。なお、演算部11は、コンピュータによることなくバッファや増幅器、比較器等を用いたディスクリートアナログ回路を用いて構成しても構わない。
【0034】
次に、本実施形態の元素分析装置100において酸化器の高温部によるN検出部の測定影響について検討した。高温部の温度は、750℃、700℃、650℃、600℃、550℃とした。また、各温度において前述の鉄鋼試料を繰り返し10回測定した。
【0035】
結果は図3に示すように、高温部の温度が750℃及び700℃の場合は、その他の低い温度の場合に比べて、窒素濃度が低値かつ安定していた。これは、高温部の温度を750℃及び700℃とした場合には、二硫化炭素は酸化銅により酸化されて触媒毒とはならず、試料ガスに含まれる一酸化炭素が二酸化炭素に酸化されてN検出部により検出されないためと考えられる。特に、750℃の場合の方が、700℃の場合に比べて窒素濃度が低値かつ安定していた。このように、高温部の温度を750℃及び700℃とした場合には、高温部は触媒機能を発揮して二硫化炭素を酸化しており、その結果、硫酸が発生してテーリングが発生する可能性があると考えられる。
【0036】
次に、酸化器の加熱温度と水素検出値のテーリングの発生との関係について検討した。
以下の(a)、(b)のそれぞれにおいて、硫黄含有濃度0.363質量%の鉄鋼試料1gを20個を準備して、1個ずつ連続して繰り返し分析した場合の20回目の測定結果における水素検出値のテーリングの有無を調べた。
(a)酸化器に高温部及び低温部を形成し、その高温部の温度を700℃にした場合
(b)酸化器に高温部及び低温部を形成し、その高温部の温度を750℃にした場合
【0037】
その結果を図4に示す。(a)及び(b)の場合は何れもテーリングは確認されなかった。これは、高温部を750℃及び700℃とした場合に硫酸が生成されるものの、その硫酸が100℃以上300℃以下の低温部で捕集されるため、酸化器の下流への硫酸の流出が抑えられたためと考えられる。
【0038】
<本実施形態の効果>
このように構成された本実施形態に係る元素分析装置100によれば、酸化器4の導入口P1及び導出口P2の間において上流側に700℃以上800℃以下の高温部4Xが形成され、下流側に100℃以上300℃以下の低温部4Yが形成されているので、酸化器4で酸化された硫酸は、硫酸の沸点よりも低温である低温部4Yで凝集し、酸化器4の外部に硫酸が流出することを防止できる。また、この低温部4Yの温度が100℃以上300℃以下であるので、低温部4Yを通過するHOは水蒸気であり、低温部4Yに捕集された硫酸に水蒸気が吸着されることは無い。したがって、HO検出部6における測定誤差を低減することができ、水素分析の精度の低下を抑制することができる。
【0039】
この元素分析装置100では、高温部4Xの温度を700℃以上800℃以下として、酸化銅の熱分解を抑えて酸化能力の低下を抑制しつつ、触媒毒となる二硫化炭素を酸化し易くして酸化銅の劣化を抑えることができる。
【0040】
また、酸化器4の高温部4Xの温度が700℃以上の高温であるため、二硫化炭素は酸化銅により酸化されて触媒毒とはならず、試料ガスに含まれる一酸化炭素の酸化効率の低下を抑制することができる。これにより、N検出部における窒素測定の測定精度を向上することができる。
【0041】
<その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0042】
例えば、前記実施形態では、元素に含まれる水素、酸素及び窒素を定量分析するものであったが、少なくとも水素を定量分析するものであれば良い。
【0043】
前記実施形態の加熱部10は単一のものであり、収容管42に対する軸方向の相対位置を調整することによって高温部4X及び低温部4Yが形成されているが、高温部4X形成用の加熱部及び低温部4Y形成用の加熱部を設ける等のように、複数の加熱部を有する構成としても良い。
【0044】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0045】
100・・・元素分析装置
1 ・・・加熱炉
2 ・・・ガス流路
3 ・・・CO検出部
4 ・・・酸化器
P1 ・・・導入口
P2 ・・・導出口
41 ・・・酸化銅
42 ・・・収容管
43 ・・・上流側部材
44 ・・・下流側部材
4X ・・・高温部
4Y ・・・低温部
5 ・・・CO検出部
6 ・・・HO検出部
7 ・・・CO除去部
8 ・・・HO除去部
9 ・・・N検出部
10 ・・・加熱部
11 ・・・演算部
R ・・・黒鉛るつぼ
図1
図2
図3
図4
図5