(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754698
(24)【登録日】2020年8月26日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】食物繊維を含む補充液
(51)【国際特許分類】
A61K 33/14 20060101AFI20200907BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20200907BHJP
A61K 31/715 20060101ALI20200907BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20200907BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20200907BHJP
【FI】
A61K33/14
A61P3/02
A61K31/715
A61K9/08
!A61K45/00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-566487(P2016-566487)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086167
(87)【国際公開番号】WO2016104671
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-264747(P2014-264747)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 吾郎
【審査官】
六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/139167(WO,A1)
【文献】
特表2014−523430(JP,A)
【文献】
特開2004−123642(JP,A)
【文献】
特表2005−508984(JP,A)
【文献】
特開2012−102036(JP,A)
【文献】
特開平07−118162(JP,A)
【文献】
特開2002−265372(JP,A)
【文献】
特開平03−206046(JP,A)
【文献】
特開昭64−83021(JP,A)
【文献】
静脈経腸栄養,2003年,Vol. 18, No. 3,p. 53-57
【文献】
臨床栄養別冊 JCNセレクト6 栄養療法に必要な水・電解質代謝の知識,2011年,p. 60-64
【文献】
新薬と臨床,2009年,Vol.58,No.6,p.1025-1031
【文献】
医学のあゆみ,1988年,Vol.145,No.11,p.773-774
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00−33/44
A61K 9/08
A61P 1/00
A61P 3/00
A23L 2/00−2/84
A23L 5/40−5/49
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラル成分、水および食物繊維からなり、ミネラル成分がナトリウムを含み、ナトリウム含量が食塩換算量で0.3〜26g/100mLである、経管栄養法用の補充液。
【請求項2】
さらにビタミン成分を含んでなる、請求項1に記載の補充液。
【請求項3】
全ミネラル成分の重量に対する、ナトリウムイオンの重量と塩化物イオンの重量との合計が、80〜100重量%である、請求項1または2に記載の補充液。
【請求項4】
塩化物イオンの重量に対するナトリウムイオンの重量が、60〜200重量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の補充液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の補充液を収容した容器が加熱殺菌されてなる、容器入り補充液。
【請求項6】
容器が密閉式である、請求項5に記載の容器入り補充液。
【請求項7】
容器が流出用および/または混合用の細口部を1個または2個以上で備えている、請求項5または6に記載の容器入り補充液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経腸栄養法に用いる補充液に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養療法は、消化器機能が低下している、患者、乳幼児、高齢者および要介護者などにおいて、食事摂取が不十分もしくは不可能な場合の栄養素補給のために用いられている。この栄養療法には、経腸栄養法と経静脈栄養法があり、経腸栄養法は、経静脈栄養法と比べて、安全かつ低コストの栄養療法として広く用いられている。また、経静脈栄養法は、消化管を経由しない栄養療法であることから、糖代謝異常などの代謝性合併症、消化管粘膜の萎縮などの消化器合併症、およびカテーテルに起因する感染症などの問題がある。そのため、近年、消化器が機能していれば、経静脈栄養法ではなく、経腸栄養法を選択するという原則が確立しつつある。
【0003】
経腸栄養法用の流動食の市販品では、一般的に、必要なエネルギー量(熱量)と各種の栄養成分の濃度の観点から、その配合が設計されている。医療現場や介護現場などでは、実際に流動食を摂取する対象者の状態に応じて、一食分のエネルギー量、水分量、食塩換算量(ナトリウム量)などを調整する必要があった。例えば、経腸栄養組成物に食物繊維を添加した流動食なども試みられてきてはいるが(特許文献1〜3)、通常の市販品としては、最大多数の対象者が利用できるように、一定の組成、とりわけエネルギー量、水分量、食塩に限定して調製されているのが現状である。しかしながら、実際に流動食を摂取する対象者の状態に応じて、医師などが処方する必要なエネルギー量、水分量、食塩換算量などは千差万別であることから、それぞれの状態に応じて、これら成分の必要量を計算した上で、その不足分を流動食に補充する必要がある。
【0004】
例えば、医療現場や介護現場などでは、一般的に、水分の不足分を流動食に補充するため、流動食の容器を開封し、そこに湯冷ましを直接添加して混合する方法などが採用されている。また、食塩の不足分を補充するため、湯冷ましに食塩を溶解し、その食塩水溶液を調製した上で、流動食の投与を終了した後に、改めて食塩水溶液を投与する方法や、湯冷ましに食塩を溶解し、その食塩水溶液を調製した上で、シリンジを使用して経管栄養チューブに食塩水溶液を注入する方法などが採用されている。
【0005】
これまで本出願人らは、医療現場や介護現場などのニーズに応じて、経腸栄養法に用いることができる流動食の栄養組成物に関し、例えば、エネルギー量、水分量、食塩換算量(ナトリウム量)を容易に調整できる栄養組成物(特許文献4および5)、寝たきり患者の褥瘡を予防・治療するために銅や亜鉛を効果的に提供できる栄養組成物(特許文献6)を提供してきた。さらに、栄養組成物とともに使用する希釈液について、例えば、ミネラル成分やビタミン成分を希釈することなく、エネルギー源となる成分の濃度を希釈できる流動性食品組成物用の希釈液(特許文献7)などを提供してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−213367号公報
【特許文献2】特開平06−298650号公報
【特許文献3】特開2011−4702号公報
【特許文献4】特許第5160569号公報
【特許文献5】特許第5404558号公報
【特許文献6】特許第3871262号公報
【特許文献7】特許第5449783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが本技術分野において鋭意研究する中で、実際に流動食を摂取する対象者では、下痢や便秘などの副作用を伴うことが多いことに着目したところ、これを改善するためには、その改善に寄与できる補充液を提供することが簡便性、安全性の両面で極めて有用であるとの着想に至った。
したがって本発明は、経腸栄養法における流動食の補充液として、水分量、食塩などの簡便で迅速な補充と同時に、下痢や便秘などの副作用を低減できる経腸栄養法用の新たな補充液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、従来の流動食用補充液である、食塩などのミネラル成分、水に、さらに食物繊維を加えてなる補充液を用いることによって、不足するナトリウム量などのミネラル量と水分量を補充するばかりでなく、下痢や便秘などの副作用を、下剤などの投与を要することなく極めて簡便に安全に、低減することのできる補充液を提供することができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]ミネラル成分、水および食物繊維からなる、経腸栄養法用の補充液。
[2]ミネラル成分がナトリウムを含む、前記[1]に記載の補充液。
[3]さらにビタミン成分を含んでなる、前記[1]または[2]に記載の補充液。
[4]ナトリウム含量が食塩換算量で0.3〜26g/100mLである、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の補充液。
[5]全ミネラル成分の重量に対する、ナトリウムイオンの重量と塩化物イオンの重量との合計が、80〜100重量%である、前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の補充液。
[6]塩化物イオンの重量に対するナトリウムイオンの重量が、60〜200重量%である、前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の補充液。
[7]前記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の補充液を収容した容器が加熱殺菌されてなる、容器入り補充液。
[8]容器が密閉式である、前記[7]に記載の容器入り補充液。
[9]容器が流出用および/または混合用の細口部を1個または2個以上で備えている、前記[7]または[8]に記載の容器入り補充液。
[10] ミネラル成分および食物繊維を水に混合させる混合工程、
混合工程で得られた、ミネラル成分および食物繊維を混合した水を容器に充填する充填工程、および、
充填工程で得られた、ミネラル成分および食物繊維を混合した水を加熱殺菌する加熱殺菌工程を含む、前記[1]〜[9]のいずれか一項に記載の補充液の製造方法。
【0010】
また、本発明は、以下に関する。
[11]ミネラル成分、水および食物繊維のみからなる補充液の、経腸栄養法における使用。
[12]補充液のミネラル成分がナトリウムを含む、前記[11]に記載の使用。
[13]補充液が、さらにビタミン成分を含んでなる、前記[11]または[12]に記載の使用。
[14]補充液のナトリウム含量が、食塩換算量で0.3〜26g/100mLである、前記[11]〜[13]のいずれか一項に記載の使用。
[15]補充液において、全ミネラル成分の重量に対して、ナトリウムイオンの重量と塩化物イオンの重量との合計が、80〜100重量%である、前記[11]〜[14]のいずれか一項に記載の使用。
[16]補充液において、塩化物イオンの重量に対して、ナトリウムイオンの重量が、60〜200重量%である、前記[11]〜[15]のいずれか一項に記載の使用。
[17]補充液が容器に収容されており、補充液を収容した容器が加熱殺菌されてなる、前記[11]〜[16]のいずれか一項に記載の使用。
[18]容器が密閉式である、前記[17]に記載の使用。
[19]容器が流出用および/または混合用の細口部を1個または2個以上で備えている、前記[17]または[18]に記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、経腸栄養法において、必要なミネラル成分を、それぞれの対象者の処方に従って、それぞれ補充することができ、しかも改めて下剤などを用いることなく対象者の便秘の症状などの改善を実現することができる。また、ミネラル成分および食物繊維が補充液として、あらかじめ一体となっていることから、従来のように、湯冷ましに食塩を溶解し、食塩水溶液を調製した上で、経腸栄養法用の組成物に添加するなどといった煩雑で衛生的でない作業を必要としないし、ミネラル成分および食物繊維を、それぞれ別々に補充する作業も必要ない。したがって、対象者へ補充する回数を1回だけに設定できることから、経腸栄養法を実施するときに、その作業を省力化できるとともに、微生物などによる汚染の可能性を大幅に低減し、ミネラル成分や食物繊維を衛生的に補充することができる。
【0012】
また本発明の補充液は、構成成分が基本的にミネラル成分、水分、食物繊維の3種類であることから、実際に摂取する対象者のそれぞれの状態に応じて、補充液の構成成分の必要量のみを供給できるので、高齢者などの流動食を実際に摂取する対象者の多くに不足しがちなナトリウムと食物繊維のみを、不必要な他の成分を過剰に摂取することなく、対象者に対して汎用性をもって簡便に迅速に安全に摂取させることができる。
【0013】
また例えば、食物繊維を含む市販の飲料などを補充液として利用する場合、該飲料は通常、食味などの関係で対象者に不要な栄養成分が配合されていたり、塩分濃度が低く調整されていたりするため、所望のナトリウム量を得るためには、水分量が過剰となってしまうといった問題があるが、本発明によれば、十分なナトリウム量を適切に補充できる補充液とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における補充液とは、流動食などの投与の対象者において、必要量に不足している成分を、補充して投与するための液である。原則として、水分などの溶媒に、投与対象成分(すなわち、投与の対象者において、不足している成分)のみが配合されている状態の液をいう。本発明における補充液は、例えば、総合的に栄養を摂取することを目的として、様々な成分が配合されるように設計されている流動食や、流動食の中の特定の成分を一定濃度に希釈するために用いられる希釈液などとは、明確に区別される。
【0015】
本発明における経腸栄養法とは、対象者が口から補充液を摂取する経口摂取法と、チューブを用いて対象者へ補充液を投与する経管栄養法とを含み、典型的には、経管栄養法が好ましい。なお、経管栄養法には、経口法、経鼻法および経瘻法が含まれる。
【0016】
本発明に係る経腸栄養法に用いる補充液の性状は、液体状、流動体状(トロミ状)、ゼリー状またはペースト状などであり、典型的には、液体状または流動体状が好ましい。なお、経腸栄養法に用いる補充液を濃縮および/または乾燥して、粉末状(固体状)などに調製し、経腸栄養法を実施するときに、水などを加えて、液体状または流動体状などに調製するような使用形態でもよい。また、経腸栄養法に用いる補充液の分類は、成分栄養剤、消化態流動食もしくは消化態栄養剤、半消化態流動食もしくは半消化態栄養剤、または天然濃厚流動食などであり、典型的には、消化態流動食もしくは消化態栄養剤、または半消化態流動食もしくは半消化態栄養剤が好ましく、消化態栄養剤、または半消化態栄養剤がより好ましい。
【0017】
本発明の補充液は、経腸栄養法に用いる補充液であって、その一態様として、ミネラル成分、水分および食物繊維の3成分のみから構成される。
ここで、ミネラル成分には、ナトリウム、カルシウム、鉄、リン、マグネシウム、カリウム、銅、亜鉛、クロム、セレン、マンガン、モリブデン、ヨウ素などがあげられ、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カルシウムがより好ましく、ナトリウムがさらに好ましい。
【0018】
ナトリウムの供給源となるミネラル成分には、食塩(塩化ナトリウム)、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムおよびトリポリリン酸ナトリウムなどがあげられ、食塩、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムが好ましく、食塩がより好ましい。なお、これらナトリウムの供給源を1種または2種以上で用いてもよい。
【0019】
本発明の補充液がナトリウムを含む場合、その含量は、例えば、食塩換算量で0.3〜26g/100mLであってもよく、0.3〜10g/100mLが好ましく、0.3〜2g/100mLがより好ましい。なお、本発明において、食塩換算量とは、栄養組成物に含まれるナトリウム量を塩化ナトリウム(食塩)量に換算した数値である。
【0020】
また、本発明の補充液がナトリウムイオンおよび塩化物イオンを含む場合、当該補充液において、全ミネラル成分の重量に対する、ナトリウムイオンの重量と塩化物イオンの重量との合計は、例えば、80〜100重量%であってもよく、85〜100重量%が好ましく、90〜100重量%がより好ましい。また、塩化物イオンの重量に対するナトリウムイオンの重量は、例えば、60〜200重量%であってもよく、60〜150重量%が好ましく、60〜100重量%がより好ましい。
【0021】
本発明の補充液に用いる水分には、水道水、井水、活性炭水、純水、超純水、精製水、イオン交換水などがあげられ、全ミネラル成分の濃度が分かっているものが好適である。なお、全ミネラル成分の濃度を0として取り扱えることなどから、純水、超純水、精製水、イオン交換水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。
【0022】
本発明の補充液に用いる食物繊維には、ガラクトマンナン分解物、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、セルロースなどがあげられ、水溶性および非水溶性のいずれの食物繊維でも用いることができる。なお、本発明の補充液に安定して均一に分散しやすいことなどから、ガラクトマンナン分解物、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリンなどの水溶性の食物繊維が好ましく、ガラクトマンナン分解物がより好ましい。そして、ガラクトマンナン分解物には、ローカストビーンガム分解物、タラガム分解物、グアガム分解物、グアガム加水分解物などがあげられ、グアガム分解物、グアガム加水分解物が好ましく、グアガム加水分解物がより好ましい。本発明の補充液に用いる食物繊維の含量は、例えば、0.5〜15重量%であってもよく、1〜12重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
【0023】
本発明の補充液は、ミネラル成分、水分および食物繊維からなり、本発明の補充液を用いることで、実際に摂取する対象者の状態に応じて、水分、ミネラル成分、食物繊維の必要量を、簡便で迅速に対象者に摂取させることができる。したがって、本発明は、水分、ミネラル成分、食物繊維のみを含む補充液であり、例えば、タンパク質や脂質などの成分を含まない。また、本発明は、水分、ミネラル成分、食物繊維のみを含む補充液であるから、エネルギー量は非常に小さく、通常の流動食などの栄養組成物とは異なり、例えば、1kcal/mL未満であってもよく、0.5kcal/mL未満が好ましく、0.2kcal/mL未満がより好ましい。
【0024】
また、本発明の補充液では、構成成分であるミネラル成分、水分、食物繊維に加えて、さらにビタミン成分を構成成分とすることもできる。この態様により、対象者に対して、ミネラル成分、水分、食物繊維に加えて、さらにビタミン成分も簡便で迅速に追加で補充させることができる。ここで、ビタミン成分には、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどがあげられる。
【0025】
本発明の補充液は、ミネラル成分および食物繊維を水に混合させる混合工程、該混合工程で得られた、ミネラル成分および食物繊維を混合した水を容器に充填する充填工程、充填工程で得られた、ミネラル成分および食物繊維を混合した水を加熱殺菌する加熱殺菌工程を含む製造方法により製造することができる。
混合工程では、所定量のミネラル成分及び食物繊維を水に混合し、液状組成物を調製する。このとき、ビタミン成分を混合してもよい。また必要に応じて加熱や撹拌することで、各成分を十分に溶解させることができる。したがって、液状組成物において各成分は、混合されて、溶解、分散または懸濁している。充填工程では、液状組成物をレトルトパウチやソフトバックに充填する。加熱殺菌工程では、液状組成物を対象者に衛生的に摂取させる(投与する)ために加熱殺菌して、微生物などの汚染を必要な程度まで抑制や防止する。
【0026】
本発明の補充液の製造方法では、その液状組成物を加熱殺菌(超高温(UHT)殺菌、高温短時間(HTST)殺菌法など)してから所定の容器へ無菌的に充填(アセプティック包装法など)するか、その液状組成物を所定の容器へ充填してから加熱殺菌(レトルト殺菌(オートクレーブなど)など)することもできる。このとき、液状組成物を無菌的かつ簡便に製造しやすいことから、その液状組成物をレトルトパウチ、ソフトバッグに充填してからレトルト殺菌して滅菌することが好ましい。
【0027】
ここで、加熱殺菌法には、間接式加熱殺菌法(プレート式殺菌機(熱交換器)、チューブ式殺菌機(熱交換器)など)、直接式加熱殺菌法(スチームインジェクション式殺菌機、スチームインフュージョン式殺菌機など)、通電式加熱殺菌法(ジュール式殺菌機など)、レトルト殺菌機などを用いることができる。このとき、液状組成物を無菌的かつ簡便に製造しやすいことから、レトルト殺菌機を用いることが好ましい。
【0028】
本発明の補充液を収容した容器には、内容物である補充液と外界とを効果的に遮断できることから、密閉式の容器(クローズドパック)が好ましい。容器の形態として、典型的には、紙パック、レトルトパウチ、ソフトバッグ、定形の容器および缶容器などがあげられ、紙パック、レトルトパウチ、ソフトバッグが好ましく、レトルトパウチ、ソフトバッグがより好ましい。容器の材質として、典型的には、紙、プラスチック、ガラス、金属などがあげられ、紙、プラスチックが好ましく、プラスチックがより好ましい。
【0029】
また、本発明の補充液を収容した容器には、アルミ箔と合成樹脂(ポリエチレンなど)でラミネート加工された紙素材で形成された密閉式の紙製の容器や、軟質合成樹脂素材(可塑化塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリフルオロカーボン、ポリイミドなど)で形成された密閉式のプラスチック製の容器が好ましく、密閉式型のプラスチック製の容器がより好ましい。このとき、本発明の補充液を収容してから加熱殺菌(滅菌)できる軟質の容器が好適である。
【0030】
また、本発明の補充液を収容した容器には、流出用および/または混合用の細口部を1個または2個以上で備えた容器が好ましく、該細口部として、経腸栄養法を実施する前には、シールされており、経腸栄養法を実施するときには、チューブや他の容器の細口部などに直接接続できる機構を備えた容器がより好ましい。このとき、上記の密閉式の容器を用いることにより、容器を大きく開封せずに、または細口部のみを開封して容器を最小限で開封するだけで、本発明の補充液に栄養組成物を添加などできることとなり、内容物である補充液と外気との接触を効果的に軽減して、微生物などの汚染を必要な程度まで抑制や防止することができる。
【0031】
本発明は、一態様において、上記の補充液の、経腸栄養法における使用に関する。
前記使用において簡便なように、本発明の補充液では、構成成分であるミネラル成分、水分、食物繊維の含量を、一定の含量の整数倍の含量にすることができる。ミネラル成分、水分、食物繊維から選ばれる1種以上の成分の含量が異なる補充液を、2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の補充液のミネラル成分、水分、食物繊維の含量を自由に配合設計して同時に調整することができる。この場合、本発明の補充液を摂取させる対象者の状態に応じた処方に合わせて、ミネラル成分、水分、食物繊維の必要量を計算して別途添加する作業を無くして省力化することができる。
【0032】
本発明の補充液の上記態様において、組み合わせるとは、本発明の補充液の単体を、単体同士で組み合わせること、ならびに単体で組み合わせて混合した補充液の一部を、単体および/または単体で組み合わせて混合した補充液の一部に組み合わせることを意味する。本発明の補充液を2種以上で組み合わせることより、ミネラル成分、水分、食物繊維の含量を調整した補充液は、組み合わせる各補充液の単体を一回分として投与してもよく、また、2種以上の補充液の単体を互いに混合した後に、該混合した補充液の全部または一部を一回分として投与してもよい。
【0033】
本発明の補充液の上記態様において、組み合わされる他の1種以上の補充液の数は、組み合わせ後の補充液が様々な処方に対応できることの観点から、例えば、1〜5つであり、計算が容易であること、および調製の作業負担を考慮して、好ましくは1〜4つであり、より好ましくは1〜3つである。
【0034】
本発明の補充液の上記態様において、そのミネラル成分の含量は、組み合わせ後の補充液のミネラル成分の含量が様々な処方に対応できること、およびミネラル成分の含量の計算が容易であることの観点から、ナトリウム量を食塩量に換算した食塩換算量で、好ましくは1g、5g、10gまたは20gの整数倍であり、品種数を少なくする観点から、より好ましくは1g、5gまたは10gの整数倍であり、とくに好ましくは1gまたは5gの整数倍である。
【0035】
本発明の補充液の上記態様において、その水分の含量は、同様に組み合わせ後の補充液の水分の含量が様々な処方に対応できること、および水分の含量の計算が容易であることの観点から、好ましくは10mL、25mL、50mLまたは100mLの整数倍であり、品種数を少なくする観点から、より好ましくは25mL、50mLまたは100mLの整数倍であり、とくに好ましくは50mLまたは100mLの整数倍である。
【0036】
本発明の補充液の上記態様において、その食物繊維の含量は、同様に組み合わせ後の補充液の食物繊維の含量が様々な処方に対応できること、および食物繊維の含量の計算が容易であることの観点から、好ましくは1g、5g、10gまたは20gの整数倍であり、品種数を少なくする観点から、より好ましくは1g、5gまたは10gの整数倍であり、とくに好ましくは5gまたは10gの整数倍である。
【0037】
本発明の補充液の上記態様において、ミネラル成分、水分、食物繊維の具体的な配合例としては、同様に組み合わせ後の補充液のミネラル成分、水分、食物繊維の含量が様々な処方に対応できること、計算が容易であることおよび品種数を少なくする観点から、例えば、ミネラル成分としてナトリウム量を食塩量に換算した食塩換算量、水分および食物繊維が、それぞれ、1g、200mLおよび5g、1g、300mLおよび5g、1g、200mLおよび10g、2g、200mLおよび10g、2g、300mLおよび10g、2g、200mLおよび5gである補充液などがあげられ、好ましくは、ミネラル成分としてナトリウム量を食塩量に換算した食塩換算量、水分および食物繊維が、それぞれ、1g、200mLおよび5g、2g、200mLおよび10gである補充液などがあげられる。
【0038】
以下、本発明について実施例に基づいて、さらに詳細に説明を加えるが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0039】
(実施例1) 液状組成物(補充液)の配合例(1)
温水(60℃)の200mLに、食塩を2g、食物繊維(ガラクトマンナン分解物、「サンファイバーR」(太陽化学社製))を10gで配合(添加)して、液状組成物(1a)を調製した。この液状組成物(1a)の200mLをポリエチレン樹脂製の軟質の容器に収容(充填)した後に、オートクレーブ(レトルト殺菌(120℃、10分間))して、液状組成物(1b)を調製した。なお、ナトリウム(Na)濃度は、400mg/100mL、塩素(Cl)濃度は、600mg/100mLであった。
【0040】
このとき、この液状組成物(1b)を所定条件で保存(40℃、2月間)しても、腐敗や風味の不良は発生しなかった。また、この液状組成物(1b)にチューブを接続し、これを通液したところ、液状組成物(1b)を大気に晒すことなく、水分、食塩、食物繊維を衛生的に移送できた。
【0041】
(実施例2) 液状組成物(補充液)の配合例(2)
温水(60℃)の200mLに、食塩を1g、食物繊維(ガラクトマンナン分解物、「サンファイバーR」(太陽化学社製))を5gで配合(添加)して、液状組成物(2a)を調製した。この液状組成物(2a)の200mLをポリエチレン樹脂製の軟質の容器に収容(充填)した後に、オートクレーブ(レトルト殺菌(120℃、10分間))して、液状組成物(2b)を調製した。なお、ナトリウム(Na)濃度は、200mg/100mL、塩素(Cl)濃度は、300mg/100mLであった。
【0042】
このとき、この液状組成物(2b)を所定条件で保存(40℃、2月間)しても、腐敗や風味の不良は発生しなかった。また、この液状組成物(2b)にチューブを接続し、これを通液したところ、液状組成物(2b)を大気に晒すことなく、水分、食塩、食物繊維を衛生的に移送できた。
【0043】
(実施例3) 液状組成物(補充液)の配合例(3)
温水(60℃)の200mLに、食塩を1g、食物繊維(ガラクトマンナン分解物、「サンファイバーR」(太陽化学社製))を10gで配合(添加)して、液状組成物(3a)を調製した。この液状組成物(3a)の200mLをポリエチレン樹脂製の軟質の容器に収容(充填)した後に、オートクレーブ(レトルト殺菌(120℃、10分間))して、液状組成物(3b)を調製した。なお、ナトリウム(Na)濃度は、200mg/100mL、塩素(Cl)濃度は、300mg/100mLであった。
【0044】
このとき、この液状組成物(3b)を所定条件で保存(40℃、2月間)しても、腐敗や風味の不良は発生しなかった。また、この液状組成物(3b)にチューブを接続し、これを通液したところ、液状組成物(3b)を大気に晒すことなく、水分、食塩、食物繊維を衛生的に移送できた。
【0045】
(実施例4) 液状組成物(補充液)の配合例(4)
温水(60℃)の200mLに、食塩を2g、食物繊維(ガラクトマンナン分解物、「サンファイバーR」(太陽化学社製))を5gで配合(添加)して、液状組成物(4a)を調製した。この液状組成物(4a)の200mLをポリエチレン樹脂製の軟質の容器に収容(充填)した後に、オートクレーブ(レトルト殺菌(120℃、10分間))して、液状組成物(4b)を調製した。なお、ナトリウム(Na)濃度は、400mg/100mL、塩素(Cl)濃度は、600mg/100mLであった。
【0046】
このとき、この液状組成物(4b)を所定条件で保存(40℃、2月間)しても、腐敗や風味の不良は発生しなかった。また、この液状組成物(4b)にチューブを接続し、これを通液したところ、液状組成物(4b)を大気に晒すことなく、水分、食塩、食物繊維を衛生的に移送できた。
【0047】
(実施例5) 液状組成物(補充液)の配合例(5)
温水(60℃)の300mLに、食塩を1g、食物繊維(ガラクトマンナン分解物、「サンファイバーR」(太陽化学社製))を5gで配合(添加)して、液状組成物(5a)を調製した。この液状組成物(5a)の300mLをポリエチレン樹脂製の軟質の容器に収容(充填)した後に、オートクレーブ(レトルト殺菌(120℃、10分間))して、液状組成物(5b)を調製した。なお、ナトリウム(Na)濃度は、133mg/100mL、塩素(Cl)濃度は、200mg/100mLであった。
【0048】
このとき、この液状組成物(5b)を所定条件で保存(40℃、2月間)しても、腐敗や風味の不良は発生しなかった。また、この液状組成物(5b)にチューブを接続し、これを通液したところ、液状組成物(5b)を大気に晒すことなく、水分、食塩、食物繊維を衛生的に移送できた。
【0049】
前記実施例1〜5の液状組成物(補充液)を2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の補充液のミネラル成分、水分および食物繊維の含量を最適に調整して、医療現場において求められる、患者などの症例に合わせた様々な補充液の処方に、迅速かつ柔軟に対応することができた。従来品の栄養組成物などを使用した投与方法を比較例1〜3とし、前記実施例1〜5の液状組成物(補充液)を2種以上で組み合わせた投与方法を実施例6〜8とした。比較結果を表1に示した。
【0051】
表1に示した結果から、比較例1〜3の投与方法では、患者の処方に合わせた栄養組成物の一回分当たりの投与量に対して、食塩および食物繊維の添加作業が生じ、食塩量および食物繊維量を調整する必要があることが分かる。また、従来品の食塩換算量や食物繊維の含量が端数の場合には、患者の処方の要求量と投与量の間に誤差が生じていることが分かる。
一方、実施例6〜8の投与方法では、実施例1および実施例3〜5の補充液を2種以上で組み合わせることにより、患者の処方に完全に適合した栄養組成物を、簡便かつ迅速に調製できることが分かる。