特許第6754928号(P6754928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6754928
(24)【登録日】2020年8月27日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】播種畝成形直播機
(51)【国際特許分類】
   A01C 5/06 20060101AFI20200907BHJP
   A01B 49/06 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   A01C5/06 K
   A01B49/06
   A01C5/06 L
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-245340(P2014-245340)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2016-106552(P2016-106552A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】深見 公一郎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 史紀
(72)【発明者】
【氏名】河原 幸成
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博人
(72)【発明者】
【氏名】三池 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】川村 富輝
【審査官】 小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】 実開平07−011102(JP,U)
【文献】 特開2003−169501(JP,A)
【文献】 特開2000−333503(JP,A)
【文献】 特開2010−045995(JP,A)
【文献】 特開昭63−313505(JP,A)
【文献】 実開昭55−056512(JP,U)
【文献】 特開2014−200235(JP,A)
【文献】 実開昭55−023042(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 3/00−31/00
A01B35/00−49/06
A01C 5/00− 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後方に装着され、高土壌水分状態の圃場を進行しながら播種畝成形と直播を同工程で行う播種畝成形直播機であって、
進行方向に直交する駆動軸に装備される畝成形部と、
該畝成形部の進行方後方に配備される直播作業部とを備え、
前記畝成形部は、台形断面形状の播種畝の側面を成形する側面成形部と播種畝の天面を成形する天面成形部を、隣接する前記側面成形部が連続するように複数備え、
前記側面成形部と前記天面成形部は、前記駆動軸の回転で播種畝の側面或いは天面を繰り返し圧塗りする圧塗り体を備え、
前記直播作業部は、前記畝成形部が成形した播種畝の天面に溝を開ける作溝体と該作溝体が開けた溝内に種を播く播種口を備え、成形される播種畝の天面部に播種を行うことを特徴とする播種畝成形直播機。
【請求項2】
前記畝成形部の前方に前記走行機体の車輪痕を均す畝成形補助部を設けことを特徴とする請求項1記載の播種畝成形直播機。
【請求項3】
前記直播作業部は、前記作溝体が開けた溝内に施肥する施肥口を備え、その後方に覆土鎮圧器を備えることを特徴とする請求項2記載の播種畝成形直播機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の後方に装着され、高土壌水分状態の圃場を進行しながら播種畝成形と種子の直播を同工程で行う播種畝成形直播機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
稲作や麦作などでの直播栽培は、生産コストの低減を図る上で有効な栽培技術である。直播栽培において生産性を向上させるには、播種畝の成形が効果的である。従来、畝成形と播種を同工程で行う作業機が知られている(下記特許文献1参照)。この従来技術は、トラクタの3点リンク機構に装着されてPTO駆動される作業機であり、ロータリ耕耘体、畝成形体、種子繰出機構、覆土ローラが連設されている。この従来技術によると、ロータリ耕耘体で耕耘砕土された圃場面に、畝成形体の排水溝成形体と播種溝成形体で畝と播種溝を成形し、畝上の播種溝内に種子繰出機構の播種口から種子が繰り出され、その後覆土ローラによる覆土がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−276812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術は、ロータリ耕耘体の後方に畝成形体を設けることで、耕耘砕土された土壌に畝成形して、その畝上に播種を行うものであり、排水性が良い畝を作ることはできるが、発芽初期に多くの水分を必要とする水稲などの直播では水分不足で発芽不良になり易い問題がある。また、発芽初期段階で雑草が生えやすく、雑草害による生育不良を起こしやすい問題もある。
【0005】
これに対しては、湛水直播栽培が考えられるが、酸欠防止のために種子に対してのカルパー(酸素発生剤)コーティングや鉄コーティングが不可欠になり、コスト増が避けられない問題がある。また、九州地域では、湛水直播栽培を行う場合に、スクミリンゴ貝の食害が深刻な問題になっており、これに対する対策が生産性向上のためには不可欠になっている。
【0006】
一方、麦作や大豆作などにおいて、降雨時や降雨直後における高い土壌水分状態の圃場では精度の高い直播作業を行うことができない問題がある。前述した従来技術においても、高い土壌水分状態の圃場では、耕耘砕土自体が困難であるため、良好な畝成形を行うことができない。
【0007】
そして、土壌水分状態が低い圃場で従来技術のように畝成形と播種作業を行った場合にも、播種後に降雨があり圃場に滞水する状態になると、特に麦作や大豆作の場合には、水分過剰で発芽不良になる懸念がある。特に、大豆作の場合には、播種後の乾燥が続くと出芽不良が生じ易くなり、開花期に乾燥が続くと莢数が減る場合がある。このように、麦作や大豆作の場合には播種の前後における天候が生産性低下に影響しやすい問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、播種畝成形と直播を同工程で行う新たな乾田直播栽培を行うことで、生産コストを低減し、発芽初期段階における漏水の防止や雑草害の防止を図り、九州地域で深刻な問題になっているスクミリンゴ貝の食害回避を図ること、麦作や大豆作などにおいて、降雨時や降雨直後における高い土壌水分状態での圃場でも良好な畝成形と精度の高い播種作業を可能にすること、播種前後の天候による生産性の低下を抑制すること、などを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
走行機体の後方に装着され、高土壌水分状態の圃場を進行しながら播種畝成形と直播を同工程で行う播種畝成形直播機であって、進行方向に直交する駆動軸に装備される畝成形部と、該畝成形部の進行方後方に配備される直播作業部とを備え、前記畝成形部は、台形断面形状の播種畝の側面を成形する側面成形部と播種畝の天面を成形する天面成形部を、隣接する前記側面成形部が連続するように複数備え、前記側面成形部と前記天面成形部は、前記駆動軸の回転で播種畝の側面或いは天面を繰り返し圧塗りする圧塗り体を備え、前記直播作業部は、前記畝成形部が成形した播種畝の天面に溝を開ける作溝体と該作溝体が開けた溝内に種を播く播種口を備え、成形される播種畝の天面部に播種を行うことを特徴とする播種畝成形直播機。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を備えた本発明の播種畝成形直播機によると、高土壌水分状態の圃場において、圧塗りされた硬い表面を有する台形断面形状の播種畝を形成することができる。これにより、発芽初期段階における漏水の防止や雑草害の防止を図ることができ、成形される台形断面形状の播種畝の天面部に播種を行うことで、スクミリンゴ貝の食害を回避することができる。また、播種畝の天面部に播種をすることで、降雨による種子の酸欠を回避することもできる。
【0011】
そして、高土壌水分状態の圃場において、良好な畝成形と精度の高い播種作業を行うことができるので、特に、麦作や大豆作において、降雨時や降雨直後の圃場での播種作業が可能になる。また、播種畝間の畝溝の表面が硬く締め固められていることで、畝溝を使って積極的な表面排水を行うことができるので、播種後に降雨があっても滞水を防ぎ湿害の軽減が可能になる。更には、畝溝を使って湛水を行い、乾燥害を軽減することができるので、麦作や大豆作の場合などで、播種前後の天候による生産性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機の全体構成を示した説明図(側方視)である。
図2】本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機の全体構成を示した説明図(平面視)である。
図3】本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機における畝成形部を示した説明図である((a)が天面成形部の断面図、(b)が側面成形部の正面図)。
図4】本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機によって成形・播種された播種畝を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機1は、走行機体Tの後方に装着され、高土壌水分状態の圃場を矢印Sで示した進行方向に進行しながら播種畝の成形と直播を同工程で行う作業機である。走行機体として、3点リンク機構を備えるトラクタを用いる場合には、3点リンク機構に連結する連結枠20(ロアリンク連結枠20Aとトップリンク連結枠20B)を備えており、トラクタPTOの動力が入力される入力軸10と、入力軸10に入力された動力を駆動軸2に伝動する伝動部11,伝動軸12,伝動ケース13を備えている。
【0014】
この播種畝成形直播機1は、伝動軸12から伝動ケース13を介して伝達される動力で駆動する駆動軸2を備え、駆動軸2は、走行機体Tに装着されて進行する進行方向(矢印S方向)に直交するように配備されており、駆動軸2に畝成形部3が装備されている。畝成形部3は、台形断面形状の播種畝の側面を成形する側面成形部30と播種畝の天面を成形する天面成形部31を備えている。
【0015】
また、播種畝成形直播機1は、畝成形部3の前方又は後方に配備される直播作業部4を備えている。直播作業部4は、図示のように畝成形部3の後方に配備して、畝成形部3が台形断面形状に成形した播種畝の天面部に播種を行うものであってもよいし、畝成形部3の前方に配備して、播種された後の圃場面の土を畝成形部3が台形断面形状の播種畝に成形するものであってもよい。直播作業部4による播種後に畝成形部3による畝成形を行う場合にも成形された畝の天面部に播種がなされることになる。以下の説明は図示の例に従って説明する。
【0016】
直播作業部4は、畝成形部3を支持する支持枠21に支持され、複数列設けられる畝成形部3の天面成形部31に対応する位置に配備されており、畝成形部3が成形した播種畝の天面に溝を開ける作溝体40と作溝体40が開けた溝内に種を播く播種口41とを備える。また、播種と同時に施肥を行う場合には、図示のように、播種口41の後方に施肥口42を設ける。
【0017】
播種口41と施肥口42は、種子容器43と肥料容器44の底部から下に伸びる播種管41Aと施肥管42Aの下端に形成される。直播作業部4における播種・施肥機構は、接地輪46の回転によって繰り出し機構を動作させる周知の接地輪駆動などを採用することができる。直播作業部4は、必要に応じて、施肥口42の後方に覆土鎮圧器45を備える。覆土鎮圧器45は、鎮圧ローラや篦型の鎮圧片などを用いることができる。
【0018】
走行機体Tが車輪式のトラクタの場合で、不耕起直播を行う場合、或いはロータリ耕耘などの耕耘工程を別工程で前もって行う場合には、畝成形部3の前方に走行機体Tの車輪痕を均す畝成形補助部5を設ける必要がある。図示の例の畝成形補助部5は、走行機体Tの車輪に対応する位置に一対の反転ディスク50を配備したものであり、反転ディスク50は支持枠21に装着される。この畝成形補助部5は、走行機体Tがクローラ式の場合には敢えて設ける必要がない。また、ロータリ耕耘機の後方に播種畝成形直播機1を連設する場合には、トラクタの車輪痕がロータリ耕耘機で均されるため、畝成形補助部5は不要になる。
【0019】
図3は、本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機1の畝成形部3の詳細例を示している。(a)は天面成形部31の例を示している。図示のように、天面成形部31は、円筒状ドラム31Aの外表面に間隔を設けて羽根状の圧塗り体31Bが複数設けられている。(b)は側面成形部30の例を示している。図示のように、側面成形部30は、円錐台状ドラム30Aの外表面に鱗状の圧塗り体30Bを設けている。圧塗り体30B,31Bは、成形される播種畝の側面及び天面を繰り返し圧迫して塗りつける機能を有しており、高土壌水分状態の圃場で播種畝成形を行う際に、表面が硬く締まった播種畝を成形することができる。
【0020】
このような構成を備えた播種畝成形直播機1によると、駆動軸2を回転駆動しながら播種畝成形を行うことで、図4に示すように、播種畝Wの天面W1及び側面W2が硬く締まった状態になり、その天面部Rに播種或いは施肥がなされる。これによって、硬く締まった表面で畝内部の水分が閉じ込められ、発芽初期段階における漏水の防止や雑草害の防止を図ることができる。また、このような播種畝成形を行う乾田直播を行うことで、湛水直播を行う場合に九州地域で深刻な問題になっているスクミリンゴ貝の食害防止を回避することができる。更には、表面が硬く締まった播種畝は、降雨の場合に天面部への雨水の浸入を防ぐ作用があるので、降雨による種子の酸欠を回避する機能も合わせて得ることができる。
【0021】
本発明の実施形態に係る播種畝成形直播機1によると、特に、麦作や大豆作において、降雨時や降雨直後の高土壌水分状態の圃場での播種作業が可能になる。また、播種畝間の畝溝の表面が硬く締め固められていることで、畝溝を使って積極的な表面排水を行うことができるので、播種後に降雨があっても滞水を防ぎ湿害の軽減が可能になる。更には、畝溝を使って湛水を行い、乾燥害を軽減することもできる。このように締め固められた播種畝間の畝溝を水分調整に利用することで、麦作や大豆作の場合などにおいて、播種前後の天候による生産性の低下を抑制することができる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1:播種畝成形直播機,
2:駆動軸,
3:畝成形部,30:側面成形部,30A:円錐台状ドラム,
31:天面成形部,31A:円筒ドラム,30B,31B:圧塗り体,
4:直播作業部,40:作溝体,
41:播種口,41A:播種管,42:施肥口,42A:施肥管,
43:種子容器,44:肥料容器,45:覆土鎮圧器,46:接地輪,
5:畝成形補助部,50:反転ディスク,
10:入力軸,11:伝動部,12:伝動軸,13:伝動ケース,
20:連結枠(20A:ロアリンク連結枠,20B:トップリンク連結枠),
21:支持枠,
T:走行機体,W:播種畝,W1:天面,W2:側面,R:天面部
図1
図2
図3
図4