【実施例】
【0039】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0040】
(実施例1:PGCの分離方法)
HHステージ13〜15の横斑プリマスロック胚(祓川エッグファーム社製)から採取したPGCを含む胚血液を、500μlの10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone社製)含有KnockOut DMEM(Thermo Fisher Scientific社製)へ懸濁した。PGCの精製は、Nycodenz(商標、Axis−Shield社製)を用いた密度勾配遠心法により行った。詳細には、まず、15ml遠沈管の中に、11%Nycodenz及び10%FBSを含有する5mlのDMEM、5.5%Nycodenz及び10%FBSを含有する5mlのDMEM、続いて胚血液及び10%FBSを含有するDMEMの順に重層し、800×gで15分間、遠心操作を行った。遠心操作後、Nycodenzの濃度差で生じた界面を中心に5mlの密度勾配遠心溶液を回収し、精製PGCを回収した。
【0041】
(実施例2:PGCの培養)
まず、PGCの培養に用いるBRL−馴化培地を次のように調製した。150mmのディッシュに約80〜90%コンフルエントの状態に培養したBRLを準備し、30mlの5%KnockOut(商標)Serum Replacement(KSR、Thermo Fisher Scientific社製)、2mM GlutaMAX(商標、Thermo Fisher Scientific社製)含有DMEMにて5%CO
2、37℃の環境下で3日間培養した。この培養上清を回収し、一次バッチ馴化培地とした。新たに5%KSR、2mM GlutaMAX含有DMEMを添加しさらに培養を行い、この培養上清を回収し、二次バッチ馴化培地とした。同様に三次バッチ馴化培地まで回収を行い、一〜三次バッチ馴化培地を混合し、0.2μmのポアサイズのNalgene(商標)Rapid−Flow(商標)PESメンブレンフィルターユニット(Thermo Scientific社製)でろ過した後、PGCの培養に使用した。
【0042】
PGCの培養には、50倍希釈マトリゲル(商標)基底膜マトリックス(Corning社製)又は0.1%ゼラチン(Sigma Aldrich社製)水溶液でコートした培養器を用いた。密度勾配遠心法により精製したPGCを、96ウェルプレートの1ウェル当たりに100個加え、培養を開始した。培養は、表1に示す基本培地を用いて38℃、5%CO
2、3%O
2環境下で行った。細胞の増殖に合わせて2〜4日おきに継代培養を行った。アポトーシス阻害剤として、ブレビスタチン、Y−27632、H1152及びZ−VAD−FMK(すべて和光純薬工業社製)を添加した培地を用いて培養した。
【0043】
【表1】
【0044】
(結果)
密度勾配遠心法で精製したPGCの培養開始直後の観察像を
図1(A)に示す。矢印がPGCを指している。観察されたPGCは、球形で、細胞質の一部にグリコーゲン顆粒を有するという典型的なPGCの特徴を有していた。また、継代19回、45日間培養後のPGCの観察像を
図1(B)に示す。一部の細胞は接着細胞へ変化しているものの、長期培養後でも多くの細胞が上述したPGCの特徴を有したまま増殖していることが確認された。なお、
図1(A)、(B)中のスケールバーは、それぞれ100μmに相当する。
【0045】
(実施例3:PGCの増殖活性の評価)
培養したPGCの増殖活性を次のように測定することで各アポトーシス阻害剤の効果を比較した。ファルコン96ウェルホワイトプレート(Corning社製)で、1ウェル当たり5000個のPGC(継代18回、46日間培養)の培養を、38℃、5%CO
2、3%O
2環境下で開始した。培地には、ブレビスタチン、Y−27632、H1152及びZ−VAD−FMKをそれぞれ0.16〜10μMで添加した。各アポトーシス阻害剤存在下で培養したPGCについて、培養3日後にCellTiter−Glo(商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を用いて増殖活性を測定した。本キットで得られる化学発光の検出には、2030Multilabel Reader ARVO X4(PerkinElmer社製)を用いた。
【0046】
(結果)
各アポトーシス阻害剤存在下での増殖活性を比較した結果を
図2に示す。全てのアポトーシス阻害剤がPGCの増殖活性に影響した。各アポトーシス阻害剤の至適濃度(ブレビスタチンが5又は10μM、Y−27632が5μM、H1152が1.25μM及びzVAD−FMKが10μM)の条件では、アポトーシス阻害剤を添加していない培地での培養に比べ、高い増殖活性を示した。最も増殖活性が高かったブレビスタチンにおいてはアポトーシス阻害剤を添加していない培地での培養に比べ、3.6倍高い増殖活性を示した。
【0047】
5μMのブレビスタチン存在下での上記実施例2に係る培養方法と、Lavoirらにより確立された上記非特許文献1に記載の従来法とで、ダブリングタイムを比較した。ダブリングタイムは、Cell Calculator Doubling Time(http://www.doubling−time.com/compute.php)で算出した。
【0048】
BRLを支持細胞として用いて、かつアポトーシス阻害剤を培地に加えない従来法のダブリングタイムは6.25日で、約100個の細胞が40日間で8.4×10
3個まで増殖した。一方、実施例2に係る培養方法のダブリングタイムは4.01日で、約100個の細胞が48日間で4.0×10
5個まで増殖した。したがって、上記実施例2に係る培養方法は、従来法より約1.6倍速くダブリングすることが示された。
【0049】
(実施例4:培養PGCの特性評価)
上記実施例3で選定した培養条件で培養したPGCの特性を、免疫染色及び生殖腺への移動能アッセイにより評価した。5×10
5個のPGC(継代19回、48日間培養)を15mlチューブに回収し、200×g、5分間遠心した後、1%ウシ血清アルブミン(BSA、Thermo Fisher Scientific社製)含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS、日水製薬社製)で3回洗浄した(以降、各操作の間に同様に遠心操作を行った)。洗浄したPGCを4%パラホルムアルデヒド(和光純薬工業社製)含有PBSで30分間、室温で固定し、1mMグリシン(和光純薬工業社製)及び1%BSA含有PBSで3回洗浄後、0.1%Triton−X 100(ナカライテスク社製)含有PBSを加え5分間、室温で透過処理を行った。
【0050】
透過処理したPGCを1%BSA含有PBSにて3回洗浄後、50倍希釈抗ニワトリNanogウサギポリクローナル抗体を含む抗ニワトリvasa homolog(Cvh)マウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ培養上清を加え1時間、37℃にて一次抗体反応を行った。
【0051】
なお、上記抗ニワトリNanogウサギポリクローナル抗体は、ニワトリNanog組換え体(rchNanog)をウサギに免疫することで取得した。より詳細には、まず、rchNanogを、メルトース結合タンパク質(MBP)遺伝子を含むpMAL−c2Xプラスミド(New England Biolabs社製)及びグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)遺伝子を含むpGEX−6P−1プラスミド(GE Healthcare社製)で、製造者の説明書に従って、融合タンパク質であるMBP−rchNanog又はGST−rchNanogとして発現させた。300μgのMBP−rchNanogを、同量の完全フロイントアジュバントとともに雌NZWウサギの皮下に2週おきに計4回注射した。ウサギから採取した抗血清を、GST−rchNanog結合アガロースビーズを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することで抗ニワトリNanogウサギポリクローナル抗体を得た。
【0052】
また、抗Cvhマウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマに関しては、Cvh組換え体(rCvh)をrchNanogと同様にMBP−rCvh又はGST−rCvhとして発現させた。次に50μgのGST−rCvhを、同量の完全フロイントアジュバントとともに8週齢の雌BALB/cマウスの腹腔内に注射した。2週おきに計3回、同じ抗原を含む0.1mlのPBSでブーストした。当該マウスに50μgのGST−rCvhを含むPBSを静脈内投与することでブーストし、3日後に、当該マウスの脾細胞をSP2/9 Ag14骨髄腫細胞と融合させ、抗Cvhマウスモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得た。当該ハイブリドーマを無血清培地又は10%FBS−IMDMで培養し、コンフルエントになった段階で培養上清を回収した。回収した培養上清を、孔径が0.45μmのフィルターで濾過し、上述の一次抗体反応に用いた。
【0053】
一次抗体反応後のPGCを1%BSA含有PBSで3回洗浄し、200倍希釈Alexa594標識抗ウサギIgG(H+L)ヤギ抗体、Alexa488標識抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗体及び1%BSA含有PBS(共にThermo Fisher Scientific社製)を添加し、1時間、37℃にて二次抗体反応を行った。二次抗体反応後のPGCを1%BSA含有PBSで3回洗浄し、10μl DAPI含有VECTASHIELD(商標)Mounting Medium(Vector Laboratories社製)へ懸濁してスライド標本化した。得られたスライド標本を蛍光顕微鏡BX51(Olympus社製)で観察した。
【0054】
生殖腺への移動能アッセイを次の方法で行った。ZsGreen1レンチウイルスベクターを、Lenti−X(商標)Expression System(タカラバイオ社製)を利用して作製し、PGCへの感染に用いた。PGCへのZsGreen1レンチウイルスベクターの感染は、本ベクターを含む4μg/mlポリブレン溶液(タカラバイオ社製)を用いて4時間、37℃でインキュベートすることで行った。ZsGreen1にて蛍光標識したPGCを、1000個ずつステージX白色レグホン胚(アキタ社製)の胚盤葉下腔へインジェクションし、Perry及びNaitoらにより確立された全胚培養系を用いて7日胚まで培養した。培養した7日胚より生殖腺を回収し、蛍光実体顕微鏡SZX12(Olympus社製)にてZsGreen1により蛍光標識されたPGCの局在を観察した。
【0055】
(結果)
多能性マーカーであるNanog及び生殖細胞マーカーであるCvhの発現を、長期培養したPGCにおいて免疫染色によって確認した結果を
図3に示す。
図3において核の位置を示すDAPIの位置とNanogの位置とが重なっているため、PGCは、核でNanogを発現し、細胞質でCvhを発現していることが観察された。この結果、長期培養したPGCは生体内でのPGCの特性を維持している可能性が示された。なお、図中のスケールバーは、それぞれ50.0μmを示す。
【0056】
長期培養したPGCの生殖腺への移動能アッセイの結果を
図4に示す。回収した生殖腺の中で緑色蛍光タンパク質であるZsGreen1により標識されたPGCが生殖腺の中に散在していることが観察された(
図4右)。この結果、培養したPGCも本来PGCが持つ生殖腺への移動能を保持している可能性が示唆された。
【0057】
(実施例5:ニワトリ肝細胞−馴化培地を用いたPGCの培養)
まず、上記実施例2のBRL−馴化培地のBRLの代わりにレグホン雄肝細胞(leghorn−male hepatoma、LMH)を用いて、LMH−馴化培地を調製した。LMHとして医薬基盤・健康・栄養研究所の細胞番号JCRB0237を用いた。
【0058】
PGCの培養には、50倍希釈マトリゲル(商標)基底膜マトリックス(Corning社製)又は0.1%ゼラチン(Sigma Aldrich社製)水溶液でコートした培養器を用いた。HHステージ13〜15の横斑プリマスロック胚(祓川エッグファーム社製)から採取したPGCを含む胚血液を、リン酸緩衝液にて洗浄した。表1のBRL−馴化培地の代わりに、LMH−馴化培地を9.2〜54.6%とした基本培地を用いて、24ウェルプレートの1ウェル当たりに、洗浄した胚血液から1胚を加え、38℃、5%CO
2、3%O
2環境下で培養した。細胞の増殖に合わせて2〜4日おきに継代培養を行った。
【0059】
Falcon 96ウェルホワイトプレート(Corning社製)の1ウェル当たり1000個のPGC(継代15回、45日間培養)を、LMH−馴化培地を9.2〜54.6%とした表
1に示す基本培地において、38℃、5%CO
2、3%O
2環境下で培養開始した。培養したPGCは、培養3日後にCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を用いて増殖活性を測定した。本キットで得られる化学発光の検出には、2030Multilabel Reader ARVO X4(PerkinElmer社製)を用いた。
【0060】
(結果)
図5は、様々な濃度のLMH−馴化培地を含む基本培地におけるPGCの増殖活性を示す図である。LMH−馴化培地を、9.2%から22.4%の濃度で用いた場合に、PGCの増殖活性が亢進した。LMH−馴化培地を、11.4%の濃度で用いた時に最も高い増殖活性を示した。増殖活性を比較すると、LMH−馴化培地は約10%と比較的低濃度で、40%BRL−馴化培地と同等の増殖活性を示した。
【0061】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。