特許第6755378号(P6755378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6755378ターゲット材の研磨方法、ターゲット材の製造方法及びリサイクル鋳塊の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6755378
(24)【登録日】2020年8月27日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】ターゲット材の研磨方法、ターゲット材の製造方法及びリサイクル鋳塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20200907BHJP
   B24B 23/06 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   B24B23/06
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-225389(P2019-225389)
(22)【出願日】2019年12月13日
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2019-63154(P2019-63154)
(32)【優先日】2019年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】西岡 宏司
(72)【発明者】
【氏名】塚田 洋行
(72)【発明者】
【氏名】徳永 真喜
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−120155(JP,A)
【文献】 特表2005−533670(JP,A)
【文献】 特開平05−253852(JP,A)
【文献】 特開平06−015571(JP,A)
【文献】 特開平08−206964(JP,A)
【文献】 特開昭58−223567(JP,A)
【文献】 特開昭57−083350(JP,A)
【文献】 特開2018−172796(JP,A)
【文献】 特開2017−007088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B24D 3/00−99/00
B24B 3/00−3/60
B24B 21/00−39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット材と支持部材とを接合材によって接合して構成されるスパッタリングターゲットから分離されたターゲット材を研磨する方法であって、
前記ターゲット材における、前記支持部材と接合していた接合面を、砥石からなる複数のブロック体を含むと共に、前記複数のブロック体が隣接するブロック体と隙間を介して離隔するように同一面に配列されている研磨材を用いて、研磨することを含み、
前記ターゲット材のビッカース硬度は、10以上40以下であり、
前記研磨材の前記ブロック体の表面粗さRaは、5μm以上50μm以下である、ターゲット材の研磨方法。
【請求項2】
ターゲット材と支持部材とを接合材によって接合して構成されるスパッタリングターゲットから分離されたターゲット材を研磨する方法であって、
前記ターゲット材における、前記支持部材と接合していた接合面を、砥石からなる複数のブロック体を含むと共に、前記複数のブロック体が隣接するブロック体と隙間を介して離隔するように同一面に配列されている研磨材を用いて、研磨することを含み、
前記ターゲット材のビッカース硬度は、40以上120以下であり、
前記研磨材の前記ブロック体の表面粗さRaは、12μm以上50μm以下である、ターゲット材の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨材の前記ブロック体の表面粗さRaは、10μm以上30μm以下である、請求項1に記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項4】
前記ターゲット材の主成分は、銅である、請求項2に記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項5】
前記ターゲット材の主成分は、アルミニウムである、請求項1または3に記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨材は、ベルト状に形成され、前記研磨材を回転させながら前記ターゲット材の前記接合面を研磨する、請求項1から5の何れか一つに記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項7】
前記ベルト状の研磨材は、ローラーに掛け回され、前記ローラーを用いて前記研磨材を前記ターゲット材に押し当てながら前記ターゲット材の前記接合面を研磨する、請求項6に記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項8】
前記ローラーは、ゴムローラーである、請求項7に記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項9】
前記接合材は、スズ、亜鉛、インジウム、鉛又はそれらの金属の合金を含むハンダ材である、請求項1から8の何れか一つに記載のターゲット材の研磨方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の研磨方法によりターゲット材を処理することを含む、ターゲット材の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により得られる前記ターゲット材を原料として鋳造してリサイクル鋳塊を製造することを含む、リサイクル鋳塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット材の研磨方法、該研磨方法で処理するターゲット材の製造方法及び該製造方法により得られる該ターゲット材を原料とする鋳塊(以下、リサイクル鋳塊とも言う)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングターゲットは、一般に酸化物等のセラミックス、金属、又は合金から構成されるターゲット材と、金属及び合金等で構成されるバッキングプレートやバッキングチューブ等の支持部材とがハンダ等の接合材で接合(ボンディング)されてなるものである。このようなスパッタリングターゲットをスパッタリングに付すことによって、基板上に金属又は酸化物等の薄膜を形成することができる。ターゲット材は、その種類によらず、スパッタリングによって完全に消費されるものではなく、その使用後において回収される。例えば、アルミニウム及び銅等の金属は溶解して鋳造することにより鋳塊(スラブ、インゴット)として再使用することができる。
【0003】
回収されたターゲット材を再使用するには、ターゲット材に付着した接合材等の表面付着物を除去する必要があり、例えば、酸処理等の薬剤処理や研削による除去方法が知られている。従来、使用済みのターゲット材の研磨、研削方法としては、特開2002−120155号公報(特許文献1)に記載されたものがある。このターゲット材の研磨方法では、使用済みのスパッタリングターゲットから支持部材を外し、ターゲット材に付着する接合材を、砥粒率が30〜48%、結合剤率が7〜15%、気孔率が45〜63%であるアルミナ系砥石またはダイヤモンド系砥石で除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−120155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のようなターゲット材の研磨方法では、砥石や研磨材に目詰まりが生じ、かかる目詰まりを十分に低減することができず、また、ターゲット材の接合材を十分に除去することができない。砥石や研磨材の交換を頻繁に行う必要があり、手間と時間がかかる。特にサイズの大きなフラットパネルディスプレイ用のターゲット材においては顕著である。
【0006】
そこで、本発明の課題は、接合材による研磨材の目詰まりを低減できると共に、ターゲット材から接合材及び支持部材由来の不純物を低減、除去することができるターゲット材の研磨方法、該研磨方法で処理するターゲット材の製造方法、及び該製造方法により得られるターゲット材を原料とするリサイクル鋳塊の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のターゲット材の研磨方法は、
ターゲット材と支持部材とを接合材によって接合して構成されるスパッタリングターゲットから分離されたターゲット材を研磨する方法であって、
前記ターゲット材における、前記支持部材と接合していた接合面を、砥石からなる複数のブロック体を含むと共に、前記複数のブロック体が隣接するブロック体と隙間を介して離隔するように同一面に配列されている研磨材を用いて、研磨することを含む。
【0008】
本発明のターゲット材の研磨方法によれば、複数のブロック体を含む研磨材を用いてターゲット材の接合面を研磨することで、ターゲット材から接合材を除去することができ、また、除去された接合材を隣接するブロック体の間の隙間から外部に排除して、研磨材の目詰まりを低減できる。
【0009】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、前記研磨材は、ベルト状に形成され、前記研磨材を回転させながら前記ターゲット材の前記接合面を研磨する。
【0010】
前記実施形態によれば、ベルト状の研磨材を回転させながらターゲット材の接合面を研磨するので、除去された接合材をより確実に外部に排除できる。
【0011】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、前記ベルト状の研磨材は、ローラーに掛け回され、前記ローラーを用いて前記研磨材を前記ターゲット材に押し当てながら前記ターゲット材の前記接合面を研磨する。
【0012】
前記実施形態によれば、ローラーを用いて研磨材をターゲット材に押し当てながらターゲット材の接合面を研磨するので、ターゲット材の接合面から接合材を一層確実に除去することができる。
【0013】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、前記ローラーは、ゴムローラーである。
【0014】
前記実施形態によれば、ローラーはゴムローラーであるので、ゴムローラーの硬質性により研磨材がターゲット材の接合面に噛み込むように研磨することができ、ターゲット材の接合面から接合材を一層確実に除去することができる。
【0015】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、前記ターゲット材のビッカース硬度は、150以下である。
【0016】
前記実施形態によれば、ビッカース硬度が150以下であるターゲット材の接合面から接合材を除去することができる。
【0017】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、前記ターゲット材の主成分は、アルミニウムまたは銅である。
【0018】
前記実施形態によれば、アルミニウムまたは銅から構成されるターゲット材の接合面から接合材を除去することができる。
【0019】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、
前記ターゲット材のビッカース硬度は、10以上40以下であり、
前記研磨材の前記ブロック体の表面粗さRaは、10μm以上30μm以下である。
【0020】
前記実施形態によれば、ビッカース硬度が10以上40以下の金属もしくは合金から構成されるターゲット材の接合面から接合材を一層確実に除去することができる。
【0021】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、
前記ターゲット材のビッカース硬度は、40以上120以下であり、
前記研磨材の前記ブロック体の表面粗さRaは、12μm以上50μm以下である。
【0022】
前記実施形態によれば、ビッカース硬度が40以上120以下である金属もしくは合金から構成されるターゲット材の接合面から接合材を一層確実に除去することができる。
【0023】
また、ターゲット材の研磨方法の一実施形態では、前記接合材は、スズ、亜鉛、インジウム、鉛又はそれらの金属の合金を含むハンダ材である。
【0024】
また、ターゲット材の製造方法の一実施形態では、前記研磨方法によりターゲット材を処理することを含む、ターゲット材(又は使用済みターゲット材)の製造方法が提供される。
【0025】
前記実施形態によれば、不純物(接合材)の少ない使用済みターゲット材を製造できる。
【0026】
また、リサイクル鋳塊の製造方法の一実施形態では、前記製造方法により得られる前記ターゲット材を原料として鋳造してリサイクル鋳塊を製造することを含む。
【0027】
前記実施形態によれば、不純物(接合材)の少ないリサイクル鋳塊を製造できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のターゲット材の研磨方法によれば、研磨材の目詰まりを低減できると共にターゲット材から接合材を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の使用済みのスパッタリングターゲットの一実施形態を示す説明図である。
図2】本発明のターゲット材が平板型の場合の使用済みのスパッタリングターゲット材をターゲット材と支持部材とに分離する方法の一実施形態を示す説明図である。
図3】本発明のターゲット材の研磨方法の一実施形態を示す説明図である。
図4A】本発明の研磨材の一実施形態を示す平面図である。
図4B図4AのX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0031】
(実施形態)
図1から図3は、本発明のターゲット材の研磨方法の一実施形態を示す説明図である。図1から図3に示すように、この方法は、使用済みのスパッタリングターゲット1から分離されたターゲット材2を研磨する方法である。
【0032】
本発明において、「スパッタリングターゲット」は、ターゲット材と、支持部材とが接合材で接合されてなるものであり、スパッタリングに使用され得るものであれば、ターゲット材や支持部材等の形状及び材料等は、特に限定されない。スパッタリングターゲットが平板型の場合、支持部材として、平板状のバッキングプレートが用いられ得る。また、スパッタリングターゲットが円筒型の場合、支持部材として、円筒状のバッキングチューブが用いられ得る。ここで、円筒型ターゲット材の内部には、円筒状のバッキングチューブを挿入することができ、円筒型ターゲット材の内周部とバッキングチューブの外周部とが接合材にて接合され得る。
【0033】
図1に示すように、スパッタリングターゲット1は、ターゲット材2と支持部材3が接合材によって接合された構成である。
【0034】
ターゲット材2は、上面のスパッタ面2aと下面の接合面2bとを有する。ターゲット材2のスパッタリング時に、スパッタリングによりイオン化された不活性ガスがスパッタ面2aに衝突する。イオン化された不活性ガスが衝突したスパッタ面2aからは、ターゲット材2中に含まれるターゲット原子が叩き出される。その叩き出された原子は、スパッタ面2aに対向して配置される基板上に、堆積され、この基板上に薄膜が形成される。
【0035】
ターゲット材2は、主として、金属から構成され得るものである。例えば、ターゲット材2は、アルミニウム、銅、クロム、鉄、タンタル、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、ニオブ、銀、コバルト、ルテニウム、白金、パラジウム、金、ロジウム、インジウム及びニッケル等の金属、並びにそれらの群から選択される金属を含む合金からなる群から選択される材料から作製することができる。ターゲット材2を構成する材料は、これらに限定されるものではない。
【0036】
ターゲット材2のビッカース硬度は、好ましくは150以下、より好ましくは10以上100以下、さらにより好ましくは12以上90以下である。このようなビッカース硬度の範囲のターゲット材2に本実施形態の研磨方法を適用すると、より好適に接合材等を除去することができる。ビッカース硬度は、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244:2003)により確認することができる。
【0037】
ターゲット材2の主成分は、好ましくは、アルミニウム(純度99.99%(4N)以上、好ましくは純度99.999%(5N)以上)又は銅(純度99.99%(4N)以上)である。ターゲット材2の主成分がアルミニウムである場合、ターゲット材2のビッカース硬度は、好ましくは10以上40以下、より好ましくは12以上35以下、さらに好ましくは14以上30以下である。ターゲット材2の主成分が銅である場合、ターゲット材2のビッカース硬度は、好ましくは40以上120以下、より好ましくは60以上100以下、さらに好ましくは80以上95以下である。ターゲット材2の寸法、形状及び構造に特に制限はない。ターゲット材2は、平板型や円筒型が用いられ得る。
【0038】
ターゲット材2が平板型である場合、ターゲット材2の長手方向の寸法は、例えば500mm以上4000mm以下、好ましくは1000mm以上3200mm以下、より好ましくは1200mm以上2700mm以下である。幅方向(長手方向に対して垂直な方向)の寸法は、例えば50mm以上1200mm以下、好ましくは150mm以上750mm以下、より好ましくは170mm以上300mm以下である。ターゲット材2は、長尺に形成されていてもよいし、短辺と長辺が同一の長さであってもよい。厚みは、例えば5mm以上35mm以下、好ましくは10mm以上30mm以下、より好ましくは12mm以上25mm以下である。
【0039】
ターゲット材2が円筒型である場合、ターゲット材2の長手方向の寸法は、例えば1000mm以上5000mm以下、好ましくは1500mm以上4500mm以下、より好ましくは2000mm以上4000mm以下、更に好ましくは2200mm以上3500mm以下、更により好ましくは2500mm以上3000mm以下である。ターゲット材2の外径寸法は、75mm以上400mm以下、好ましくは100mm以上350mm以下、より好ましくは120mm以上300mm以下、更に好ましくは140mm以上250mm以下、更により好ましくは150mm以上200mm以下である。ターゲット材2の内径寸法は、50mm以上250mm以下、好ましくは70mm以上200mm以下、より好ましくは80mm以上180mm以下、更に好ましくは100mm以上160mm以下、更により好ましくは110mm以上150mm以下である。本発明では、例えば、大型のフラットパネルディスプレイ用のターゲット材2であっても簡便に処理することができる。
【0040】
支持部材3がバッキングプレートの場合、バッキングプレートの寸法、形状及び構造は、ターゲット材2を配置することができる板状ものであれば、特に限定されない。バッキングプレートの長辺方向の長さは、例えば、700mm以上4500mm以下、好ましくは1200mm以上4000mm以下、より好ましくは1500mm以上3500mm以下であり、バッキングプレートの短辺方向の長さは、例えば、100mm以上1500mm以下、好ましくは180mm以上1000mm以下、より好ましくは200mm以上350mm以下である。バッキングプレートは、長尺に形成されていてもよいし、短辺と長辺が同一の長さであってもよい。バッキングプレートは、導電性の材料から構成され、銅、クロム、アルミニウム、チタン、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、鉄、コバルト及びニッケルからなる群から選択される金属または前記群から選択される金属を少なくとも1種含む合金などからなり、好ましくは銅(無酸素銅)、クロム銅合金又はアルミニウム合金である。一方、支持部材が、バッキングチューブの場合、バッキングチューブの寸法は、円筒型ターゲット材の内部に挿入して接合するため、円筒型ターゲット材よりも通常長く、バッキングチューブの外径は、円筒型ターゲット材の内径よりも僅かに小さいことが好ましい。構成する金属または合金は、上記のバッキングプレートの場合と同様であるが、なかでも、ステンレス鋼(SUS)、チタン、チタン合金などであることが好ましい。
【0041】
支持部材3は、上面の接合面3aを有する。支持部材3の接合面3aは、接合材を介して、ターゲット材2の接合面2bと接合される。接合材は、例えば、ハンダ材やろう材などを含む。
【0042】
ハンダ材は、低融点(例えば723K以下)の金属又は合金を含有する材料であり、ハンダの材料は、例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)及びアンチモン(Sb)からなる群から選択される金属、または前記群から選択される金属を少なくとも1種含む合金が挙げられる。ハンダ材は、これらのうち、好ましくは、スズ、亜鉛、インジウム、鉛又は、Sn、Zn、In、及びPbからなる群より選択される金属を少なくとも1種含む合金を含むハンダであり、より具体的には、In、In−Sn、Sn−Zn、Sn−Zn−In、In−Ag、Sn−Pb−Ag、Sn−Bi、Sn−Ag−Cu、Pb−Sn、Pb−Ag、Zn−Cd、Pb−Sn−Sb、Pb−Sn−Cd、Pb−Sn−In、Bi−Sn−Sb等が挙げられる。
【0043】
ろう材としては、ターゲット材2と支持部材3とを接合することができ、ターゲット材2および支持部材3よりも融点の低い金属または合金であれば、特に制限なく使用することができる。
【0044】
接合材は、一般に低融点であるInやIn合金、SnやSn合金などのハンダ材が使用されるが、これらハンダ材は柔らかく、研磨材や砥石表面の凹凸に入り込んだり、表面に付着しやいため、研磨材や砥石の目詰まりを引き起こしやすい。前述したようなハンダ材が接合材として用いられている場合に本実施形態の研磨方法を適用すると、より顕著な効果が得られ、より好適に接合材等を除去することができる。
【0045】
例えば、ハンダ材は、加熱によって、ターゲット材2との接合面において、ターゲット材2に含まれる金属と拡散層(合金層)を形成し、それによりターゲット材2とハンダ材とを接合することができる。或いは、接合材は、支持部材3との接合面においても、同様に支持部材3に含まれる金属と拡散層(合金層)を形成し、それにより支持部材3とハンダ材とを接合することができる。従って、このようなハンダ材を使用することによってターゲット材2と支持部材3の間に接合層としてハンダ層を形成し、ターゲット材2と支持部材3とを接合することができる。
【0046】
ターゲット材2の接合面2bや支持部材3の接合面3aには、メタライズ層が形成される場合がある。一般に、ターゲット材2や支持部材3にハンダ材を乗せて溶融させるだけでは、ターゲット材2や支持部材3の表面に存在し得る酸化膜が影響して、十分な接合強度が得られないことがある。そのため、まずはそれらの表面に対するハンダ材の濡れ性を向上させるためにメタライズ層が設けられ得る。この場合、ターゲット材2と支持部材3との間に形成される接合層は、ハンダ層、ターゲット材2の接合面2b上に形成されたメタライズ層、支持部材3の接合面3a上に形成されたメタライズ層とを備える。
【0047】
「メタライズ」とは、一般に非金属の表面を金属膜化するために使用され得る処理方法である。メタライズ層は、ターゲット材2や支持部材3が酸化膜を有する場合などにおいて、例えばメタライズ用のハンダ材を用いてターゲット材2や支持部材3に形成される。メタライズ層は、例えば、超音波はんだごてを使用して、超音波の振動エネルギー(キャビテーション効果)によってターゲット材2や支持部材3の酸化膜を破壊しながら、加熱によって、酸化膜中の酸素原子と共に、メタライズ用のハンダ材に含まれる金属原子と、ターゲット材2や支持部材3に含まれる金属原子とを化学的に結合させることによって形成され得るものである。
【0048】
メタライズに使用することのできるハンダは、例えば、In、Sn、Zn、Pb、Ag、Cu、Bi、Cd及びSbからなる群から選択される金属、又は前記群から選択される金属を少なくとも1種含む合金を含む材料などであり、より具体的には、In、In−Sn、Sn−Zn、Sn−Zn−In、In−Ag、Sn−Pb−Ag、Sn−Bi、Sn−Ag−Cu、Pb−Sn、Pb−Ag、Zn−Cd、Pb−Sn−Sb、Pb−Sn−Cd、Pb−Sn−In、Bi−Sn−Sbなどが挙げられる。ターゲット材2又は支持部材3と親和性の高い材料を適宜選択すればよい。
【0049】
メタライズ層は、ハンダ層とも結合することができ、各々、ターゲット材2とハンダ層層との間又は支持部材3とハンダ層との間に位置して、ターゲット材2と接合層及び支持部材3と接合層を強固に結合する役割を果たすことができる。
【0050】
本明細書において、接合層とは、ハンダ、ろう材等の接合材から構成される層の場合だけでなく、ターゲット材2の接合面2b上に形成されたメタライズ層及び支持部材3の接合面3a上に形成されたメタライズ層の少なくとも一方を含む層の場合も包含する。
【0051】
ハンダ層の厚みは、支持部材3が平板型の場合は例えば50μm以上500μm以下の範囲内であり得、支持部材3が円筒型の場合は例えば250μm以上1500μm以下の範囲内であり得る。メタライズ層の厚みは、支持部材3が平板型及び円筒型の両方の場合において、例えば1μm以上100μm以下の範囲内であり得る。
【0052】
図1に示すように、ターゲット材2のスパッタ面2aをスパッタリングして、スパッタリングターゲット1を使用した後、図2に示すように、使用済みのスパッタリングターゲット1からターゲット材2を分離(又は剥離)する。ターゲット材2を支持部材3から分離する方法については、特に限定されない。例えば、接合層に熱(例えば180℃以上300℃以下)を加えて、接合層を軟化又は溶融しながら、必要に応じて物理的に接合層を破壊してターゲット材2をスパッタリングターゲット1から分離することができる。
【0053】
ターゲット材2が平板型の場合、分離した後のターゲット材2において、バッキングプレートと接合していた面(接合面2b、「接合面」と称する場合もある)には、前述したメタライズ層を含め、接合層の少なくとも一部が付着して残存している。場合によっては、接合層だけでなく、バッキングプレート由来の不純物も、接合層やターゲット材2の接合面側の表面に拡散して残存している場合もある。
【0054】
好ましくは、ターゲット材2の研磨を実施する前に、分離後の接合面2bに付着している接合層を、例えばヘラ(例えばシリコーン製のヘラ)等を用いて予めできる限り掻き落としておく。なお、ヘラ等による事前の掻き落としでは、分離後の接合面2bに付着した接合材を完全に除去することは困難であり、特にターゲット材2と強固に結合したメタライズ層の除去はできない。また、ターゲット材2のスパッタ面2aや側面においても接合材が付着して残存する場合がある。その原因としては、例えば、ターゲット材2の分離の際に溶融した接合材がスパッタ面2aや側面に付着することや、分離した使用済みのターゲット材2を互いに積み重ねて保管したために、接合面2bとスパッタ面2aや側面とが接触し、接合面2bの接合材がスパッタ面2aや側面に付着すること等が挙げられる。従って、スパッタ面や側面においても本発明の研磨方法を適用してもよい。
【0055】
ターゲット材が円筒型の場合、円筒型のターゲット材が円筒型のバッキングチューブの外周部に接合材を用いて接合され得る。そのため、前述の平板型のターゲット材の場合と同様に、分離後のターゲット材の接合面(内周部)には接合材が付着し、その接合材の除去は平板型のターゲットよりも困難である。また、平板型のターゲット材の場合と同様に、円筒型のターゲット材のスパッタリング面においても接合材が付着して残存する場合がある。更には、バッキングチューブに由来する成分も不純物として混入し得る場合もある。従って、円筒型のターゲット材においても、分離後のターゲット材の接合面である内周部やスパッタリング面である外周部に対して当該研磨方法を適用することができる。なお、ターゲット材の接合面である内周部の処理を行う場合には、例えば、ターゲット材の円筒における円周を2等分するように(即ち、円筒の長手方向に平行に円筒型のターゲット材を2等分するように)切断し、接合面である内周部が露出するように加工してから当該研磨方法を適用することが好ましい。
【0056】
分離後のターゲット材における接合材の存在は、例えば、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDXRF:Energy Dispersive X-ray Fluorescence Analysis)によって確認することができる。更に、支持部材からターゲット材へと金属元素が拡散する場合も、該金属元素についても同様にEDXRFによって確認することができる。他にも、波長分散型蛍光X線分析(WDXRF:Wavelength Dispersive X-ray Fluorescence Analysis)、電子線プローブマイクロアナリシス(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)、X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)、レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析(LA−ICP−MS:Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、X線回折法(XRD:X-ray Diffraction Analysis)等の分析方法でも、接合材、支持部材に由来する不純物は確認可能であるが、分析の簡便さ、分析範囲の広さから、EDXRF、WDXRFでの確認が好ましい。
【0057】
後続のリサイクル処理において、接合材が付着した分離後のターゲット材をそのまま溶解及び鋳造することにより、鋳塊(以下、「スラブ」又は「インゴット」と称する場合もある)を製造し、この鋳塊から再びターゲット材を製造すると、付着した接合材の成分に由来する不純物がターゲット材に混入してしまう。更に、支持部材からターゲット材へと金属元素が拡散して不純物として混入する場合も、該金属元素が不純物として鋳塊中に混入する場合がある。
【0058】
少なくとも、ターゲット材におけるターゲット材2と支持部材3とが接合していた接合面2bに対して、研磨を行うことで、ターゲット材を洗浄することができる。
【0059】
図4Aは、研磨材13の平面図であり、図4Bは、図4AのX−X断面図である。図4A図4Bに示すように、研磨材13は、シート体20と、シート体20の一面に設けられた複数のブロック体21とを有する。シート体20は、例えば、ゴムからなり、ベルト状に形成されている。複数のブロック体21は、同一面であるシート体20の一面に配列されている。
【0060】
ブロック体21は、図4Aにおいては、平面視にて平行四辺形状に形成されているが、特に形状に制限はなく、長方形、正方形、菱形、真円形、楕円形等であってもよく、これら形状を組み合わせたものであってもよい。また、ブロック体21は、半球体、円錐形、角錐形等、被処理面に対し凸となる様な形状であればよいが、ハンダ材に対する研磨力を保持する上で、被処理面に対向する面が平面である形状であることが好ましく、またブロック体21を密に配置できる観点から、対向する被処理面の側から見た平面視にて平行四辺形、長方形、正方形、菱形であることがより好ましい。ブロック体21の研磨面のサイズは、1辺や直径が5mm以上30mm以下、好ましくは7mm以上25mm以下、より好ましくは10mm以上20mm以下、さらに好ましくは12mm以上18mm以下である。ブロック体21の研磨面のサイズが前記範囲内であると、ハンダ材に対する研磨力を保持でき、また研磨材の研磨面の目詰まりを防ぐことができる。
複数のブロック体21は、図4Aにおける矢印Rに示す研磨方向に沿って、好ましくは千鳥状に配列される。これにより、被処理面に隙間なくブロック体21が当たり、効率よくハンダ材を除去できる。さらに、複数のブロック体21は、好ましくは矢印R方向に対して所定角度θで交差する矢印A方向に沿って、直線状に配列される。所定角度θは、10°以上90°未満、好ましくは30°以上85°以下、より好ましくは45°以上80°以下、さらに好ましくは60°以上75°以下であり、複数のブロック体21が、矢印R方向に直交する方向に対して傾斜して、直線状に配列されるとよい。前記所定角度θとなるように配置することで、ブロック体21の欠けやハンダ材による目詰まりを防ぐことができる。
隣接するブロック体21は、隙間23を介して、離隔している。ブロック体21は、砥石からなる。砥石は、例えば、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、ジルコン、ダイヤモンド、窒化ホウ素、アルミナ等の砥粒を樹脂からなる結合剤で結合させた混合物からなる。結合剤としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ユリア樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。砥粒組成や砥粒サイズ、結合剤種は、ターゲット材やハンダ材の組成に応じて選択することができ、複数種選択されたものであってもよい。砥粒によるターゲット材の汚染を低減するには、ターゲット材2の組成と近しい組成の研磨材を選択することが好ましい。
接合材や支持部材由来の不純物を効率よく除去する観点から、ブロック体21の高さは一様であることが好ましく、ブロック体21の平均高さは、例えば、1mm以上10mm以下、好ましくは1.5mm以上6mm以下、より好ましくは2mm以上5mm以下である。ブロック体21の平均高さが前記下限値以上であると、研磨材の寿命が延び、研磨材の交換頻度を下げることができる。
ブロック体21の平均高さが前記上限値以下である場合、接合材を効率よく放出する観点から、ブロック体21の平均離間距離(図4AのX−X断面である図4Bにおける隙間23の幅)は、例えば、0.1mm以上1mm以下、好ましくは0.2mm以上0.8mm以下、より好ましくは0.3mm以上0.7mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上0.6mm以下である。ここで、図4AのX−X断面とは、矢印A方向と交差する方向に隣り合うブロック体21の断面であり、さらに言い換えると、矢印A方向に直線状に配列された第1列のブロック体21と、この第1列のブロック体21と隣り合う第2列のブロック体21と交差する断面である。
ブロック体21の平均離間距離(隙間23の幅)が前記下限値以上であると、ハンダのような柔らかく、粘りのある金属、合金を含む研磨くずであっても、効率よく隙間23から排出することができ、研磨材の目詰まりを防ぐことができる。ブロック体21の平均離間距離(隙間23の幅)が前記上限値以下であると、ブロック体21のシート体20からの脱離のリスクを低減できる。図4Bにおいて、複数のブロック体21は完全に離間しているが、目詰まりに影響のない範囲であれば、シート体20の直上付近、つまりブロック体21の下部においては連結された構造であってもよい。これにより、ブロック体21とシート体20の接着工程を容易にすることができる。ブロック体21の上面の周縁は、0.5mm以上3mm以下、好ましくは0.7mm以上2mm以下、より好ましくは1mm以上1.5mm以下の範囲で、C面取りもしくはR面取りされていることが好ましい。ブロック体21の周縁が前記範囲で面取りされていると、ブロック体21の欠けを防止でき、またブロック体21の角部がハンダ層へ突き刺さることにより生じる角部へのハンダの堆積を防止することができる。
【0061】
研磨材13のブロック体21の研磨面における表面粗さ、例えば算術平均粗さRaは、砥粒のサイズや砥粒の配合量によって調整可能であり、ターゲット材2のビッカース硬度に応じて適宜選定される。例えば、ビッカース硬度が10以上40以下の金属または合金からなるターゲット材や主成分がアルミニウムであるターゲット材においては、ブロック体21の研磨面における表面粗さRaが3μm以上150μm以下、好ましくは3μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上50μm、さらに好ましくは7μm以上30μm以下、さらにより好ましくは10μm以上27μm以下、特に好ましくは15μm以上25μm以下である。また、ビッカース硬度が40以上120以下の金属または合金からなるターゲット材や主成分が銅であるターゲット材においては、ブロック体21の研磨面における表面粗さRaが5μm以上150μm以下、好ましくは8μm以上120μm以下、より好ましくは10μm以上100μm、さらに好ましくは12μm以上50μm以下、さらにより好ましくは12μm以上45μm以下、特に好ましくは15μm以上40μm以下である。研磨材13のブロック体21の研磨面における表面粗さRaが前記下限値以上であると、ハンダ材やターゲット材2に対して十分な研磨力を有することができ、また表面粗さRaが前記上限値以下であると、ターゲット材2の処理面に大きな溝や凹みが発生し、その溝や凹みに研磨くずが引っかかったり、ハンダ材がターゲット材2の処理面に押し込まれるというリスクを低減でき、ハンダ材や支持部材に由来する不純物を効率よく除去することができる。
【0062】
研磨材の操作方法は、特に限定されない。具体的には、対象とする面、例えばターゲット材2の接合面2bに対して、研磨材表面のブロック体21が、好ましくは密着しながら研磨することができる方法であれば、当業者に公知であるどのような方法を用いても構わないが、前記研磨材を取り付けた研磨装置を使用することが好ましい。例えば、市販されているオービタルサンダ、デルタサンダ、ランダムサンダ、ディスクグラインダ、ベルトサンダ、ストレートグラインダ、電動ポリッシャー等の携帯式の電動工具やエアー工具、平面研削盤(例えば、黒田精工株式会社や株式会社岡本工作機械製作所製)やバリ取り機(例えば、株式会社エステーリンク製)等の大型の設置型の装置を利用することができる。更に、研磨は、同一箇所において、複数回、好ましくは1回以上10回以下、より好ましくは2回以上5回以下重ねて行ってもよい。
【0063】
研磨装置に取り付けた研磨材の運動方向は特に限定されない。具体的には、被処理面に対して水平方向への直線的な往復運動、回転方向が被処理面に対して水平方向である回転運動(回転軸が被処理面に対して垂直方向)、回転方向が被処理面に対して垂直方向である回転運動(回転軸が被処理面に対して水平方向)等が挙げられる。本発明の研磨材がより効果を奏するためには、取り付けた研磨材が回転運動を行う研磨装置を使用することが好ましく、回転方向が被処理面に対して垂直方向である回転運動(回転軸が被処理面に対して水平方向)を行う研磨装置がより好ましい。
【0064】
図3は本発明のターゲット材の研磨方法の一実施形態であり、研磨装置として研磨工具10、つまりはベルトサンダ(回転方向が被処理面に対して垂直方向である回転運動を行う研磨装置)を使用した例である。研磨工具10は、本体部11と、本体部11に取り付けられた研磨部12とを有する。本体部11は、作業者が把持する把持部と、研磨部12を駆動するモータとを有する。研磨部12は、駆動側の第1ローラー15と、従動側の第2ローラー16と、第1ローラー15と第2ローラー16とに掛け回されたベルト状の研磨材13とを有する。第1ローラー15は、モータに連結されている。そして、モータの駆動により、第1ローラー15が回転して、研磨材13が矢印R方向に回転する。つまり、研磨方向は矢印Rの向きとなる。
【0065】
図3に示すように、ターゲット材2の接合面2bを研磨工具10により研磨するとき、第1ローラー15および第2ローラー16の少なくとも第1ローラー15を用いて研磨材13をターゲット材2に押し当て研磨材13を回転させながら、ターゲット材2の接合面2bを研磨材13により研磨する。このとき、研磨材13は、研磨材13におけるブロック体21の表面(シート体20に接している面と対向する面)がターゲット材2の接合面2bと接する向きとなるように、研磨工具10に取り付けられる。作業者は、ターゲット材2の接合面2bに沿って研磨工具10を移動させながら、ターゲット材2の接合面2bの全面を研磨する。
【0066】
前記ターゲット材2の研磨方法によれば、複数のブロック体21を含む研磨材13を用いてターゲット材2の接合面2bを研磨することで、ターゲット材2から接合材を除去することができ、また、除去された接合材を隣接するブロック体21の間の隙間23から外部に排除して、研磨材13の目詰まりを低減できる。
【0067】
また、ベルト状の研磨材13を回転させながらターゲット材2の接合面2bを研磨するので、除去された接合材をより確実に外部に排除できる。
【0068】
また、第1ローラー15を用いて研磨材13をターゲット材2に押し当てながらターゲット材2の接合面2bを研磨するので、ターゲット材2の接合面2bから接合材を一層確実に除去することができる。
【0069】
第1ローラー15は、スポンジやゴム等の樹脂や金属製のものを使用できるが、好ましくは樹脂製であり、より好ましくは、ゴムローラーである。これによれば、ゴムローラーの硬質性と可撓性により、研磨材13とターゲット材2の接合面2bとをより密着させて、さらにはより負荷を与えながら研磨することができ、ターゲット材2の接合面2bから接合材を一層確実に除去することができる。
【0070】
ターゲット材2上の接合材が十分に除去できた後であれば、研磨材の目詰まりのリスクは格段に低下しているため、公知の研磨材を用いた仕上研磨工程を行ってもよい。例えば、砥粒による汚染を改善することを目的に、ターゲット材2の組成に近い砥粒を有する研磨材により、仕上研磨を行うこと等が挙げられる。
【0071】
本実施形態のターゲット材の研磨方法によると、使用済みのターゲット材2から接合層(存在する場合はメタライズ層も含む)を構成する接合材及び支持部材3由来の不純物を簡便且つ十分に除去することができる。本明細書において、「十分に除去する」とは、ターゲット材2と支持部材3とが接合していた接合面2bにおいて、EDXRF測定で検出される各元素の量が0.5wt%以下、好ましくは0.2wt%以下、より好ましくは0.1wt%以下にまで、接合層を構成する接合材(存在する場合はメタライズ層も含む)由来の不純物に含まれる元素の量及び支持部材3由来の不純物に含まれる元素の量が除去されることを意味する。
【0072】
<ターゲット材(又は使用済みターゲット材)の製造方法>
本発明の1つの実施形態のターゲット材(又は使用済みターゲット材)の製造方法は、前述の実施形態のターゲット材の研磨方法によりターゲット材を処理することを含む。かかる処理が行われたターゲット材は、後述するリサイクル鋳塊の製造に使用され得る。該ターゲット材(又は使用済みターゲット材)の製造方法は、前述のターゲット材の研磨方法により処理することだけでなく、他の処理を含んでも構わない。例えば、研磨後の使用済みターゲット材に付着した研磨くずを取り除くための処理(例えば、高圧エアーの吹き付けや流水での洗浄)等を含んでいてもよい。研磨くずを取り除くことで、洗浄後の使用済みターゲット材を原料として溶解、鋳造を行う際に、原料に付着した研磨くずが原因で生じる異物混入等の不具合を防ぐことができる。
【0073】
<リサイクル鋳塊の製造方法>
本発明の1つの実施形態のリサイクル鋳塊の製造方法は、前記ターゲット材の研磨方法を用いて洗浄したターゲット材を、原料として鋳造して、リサイクル鋳塊を製造するようにしてもよい。これにより、不純物(接合材)の少ないリサイクル鋳塊を製造できる。リサイクル鋳塊は、スラブまたはインゴットとも称され、この鋳塊から再びターゲット材2を製造することができる。
【0074】
リサイクル鋳塊を製造する方法としては、当業者に公知の方法を使用すればよい。例えば、溶解及び鋳造の工程を経て製造することができる。溶解方法としては、電気炉又は燃焼炉にて、洗浄したターゲット材を大気中又は真空中で溶解させればよい。鋳造方法としては、連続鋳造法、半連続鋳造法、金型鋳造法、精密鋳造法、ホットトップ鋳造法、重力鋳造法等を採用することができる。また、溶解及び鋳造工程の間に、脱ガス処理、介在物除去処理を行ってもよい。
【0075】
リサイクル鋳塊の製造条件、特に温度は、ターゲット材に主として含まれる金属に応じて適宜決定すればよい。例えば、ターゲット材に主成分として含まれる金属がアルミニウムである場合、まず、前述の実施形態の方法を用いて洗浄したターゲット材を、真空下(例えば0.03Torr)又は大気下、670℃以上1200℃以下、好ましくは750℃以上850℃以下において、カーボン又はアルミナ等の坩堝中で溶解させる。次いで、必要に応じて大気中にて撹拌してドロスを除去した後、大気中で冷却することによって、リサイクル鋳塊を製造することができる。
【0076】
例えば、ターゲット材に主成分として含まれる金属が銅である場合、洗浄後のターゲット材を真空下(例えば、0.03Torr)或いは大気下、1100℃以上1500℃以下、好ましくは1150℃以上1200℃以下においてカーボンやアルミナなどの坩堝中で溶解し、必要に応じて大気中にて撹拌してドロスを除去した後、大気中で冷却することによって、リサイクル鋳塊を製造することができる。
【0077】
リサイクル鋳塊の製造には、前述の実施形態の方法を用いて洗浄したターゲット材のみで製造してもよいし、元の原料金属と洗浄後のターゲット材との混合物を使用してもよい。原料金属と洗浄後のターゲット材とを混合する場合、洗浄後のターゲット材の混合割合は、通常20質量%以上であり得る。製造コストにおける原料費の割合を抑えることができるという観点からは、50質量%以上であることが好ましい。
【0078】
<リサイクル鋳塊>
本実施形態のリサイクル鋳塊は、前述の実施形態の方法を用いて洗浄したターゲット材を原料として鋳造して製造しているため、前述した通り、接合層を構成する接合材及び支持部材由来の不純物は十分に除去されており、即ち、これらに由来する不純物に含まれる元素を実質的に含まず、元の(未使用の)ターゲット材と実質的に同一の組成を有する。そのため、このようなリサイクル鋳塊から、元のターゲット材と実質的に同一の組成を有するターゲット材を再び製造することができる。
【0079】
本明細書において、「元の(未使用の)ターゲット材と実質的に同一の組成を有する」とは、主成分の金属が同一であり、元のターゲット材に元々含まれる不純物と同程度の量の不純物を含み得ることを意味する。例えば、接合層やメタライズ層を構成する接合材及び支持部材由来の不純物の合計量が、質量基準で、10ppm未満、好ましくは0.1ppm以上8ppm以下、より好ましくは0.1ppm以上6ppm以下、更に好ましくは0.1ppm以上5ppm以下であり、更により好ましくは0.1ppm以上4ppm以下である場合が挙げられ、なお且つ全不純物合計量(即ち、元のターゲット材に元々含まれる不純物量と、接合材及び支持部材由来の不純物の合計量の和)が、50ppm未満、好ましくは0.1ppm以上20ppm以下、より好ましくは0.1ppm以上10ppm以下、さらに好ましくは8ppm以下(又は8ppm未満)、さらにより好ましくは0.1ppm以上8ppm以下である場合が挙げられる。
【0080】
なお、元のターゲット材に元々含まれる不純物及びその量は、そのターゲット材に主成分として含まれる金属の種類及び元のターゲット材の製造方法に依存し得る。また、リサイクル鋳塊は、ターゲット材以外の用途に使用してもよい。例えば、アルミ電解コンデンサー、ハードディスク基板、耐食性材料、高純度アルミナ等の高い純度が求められる製品の原料としても使用することができる。
【0081】
例えば、ターゲット材がアルミニウムを主成分として含む場合、本実施形態のリサイクル鋳塊に含まれる、接合層を構成する接合材及び支持部材由来の不純物の合計量は、質量基準で10ppm未満であり、好ましくは0.1ppm以上8ppm以下、より好ましくは0.1ppm以上6ppm以下、更に好ましくは0.1ppm以上5ppm以下であり、更により好ましくは0.1ppm以上4ppm以下、特に好ましくは0.3ppm以上2ppm以下である。例えば、Cu、In、Sn、及びZnの合計量が上記範囲内であると、リサイクル鋳塊の導電率の低下を生じさせずに、リサイクル鋳塊の結晶粒を微細化することができる。その結果、リサイクル鋳塊より製造されるターゲット材も結晶粒が微細となるため、スパッタリング特性に優れたターゲット材が製造できる。また、アルミニウムよりも原子量の大きなCu、In、Sn、又はZnを上記範囲内で含有すると、リサイクル鋳塊を経て製造されたターゲット材をスパッタリングして製造されるアルミニウム薄膜のエレクトロマイグレーション耐性を高くすることもできる。
【0082】
本実施形態のリサイクル鋳塊に含まれる接合材及び支持部材由来の不純物の量は極めて微量であるため、グロー放電質量分析法(GDMS)を用いて測定される。具体的には、本明細書では、かかる不純物の量はVG Elemental社製のVG9000を用いて測定される量とする。GDMSの定量下限は、ターゲット材の主元素及び検出対象である元素によって異なるが、例えばターゲット材の主成分として含まれる金属がアルミニウムの場合、通常、質量基準で0.001ppm以上0.1ppm以下であり、例えばInでは0.01ppmである。
【0083】
用途によるものの、例えばフラットディスプレイ用のアルミニウム製のターゲット材は、通常、質量基準で50ppm以下、好ましくは0.1ppm以上20ppm以下、より好ましくは0.1ppm以上10ppm以下の不純物を含み得ることが知られている。従って、本実施形態のリサイクル鋳塊の不純物の量が前述した程度であれば、スパッタリングに特に支障はない。
【0084】
また、本発明においては、研磨によってターゲット材を洗浄するため、研磨材の砥粒をターゲット材に意図的に残存させることもできる。ターゲット材の主成分とは異なる組成の砥粒を有する研磨材を用いてターゲット材を研磨することで、ターゲット材を溶融させたときに微量の添加元素となる砥粒を表面に付着したターゲット材を製造することができる。ターゲットが高純度な金属、好ましくは純度99.99%(4N)以上、より好ましくは純度99.999%(5N)以上のアルミニウム、又は好ましくは純度99.99%(4N)以上の銅である場合、洗浄後のターゲット材からリサイクル鋳塊を得る際、ターゲット材に含まれる砥粒由来の極微量の添加元素は、純金属の導電率を悪化させずに、リサイクル鋳塊の結晶粒径を微小化でき、ひいてはリサイクル鋳塊より製造されるターゲット材の結晶粒の微細化を達成でき、スパッタリング特性に優れたターゲット材を得ることができる。リサイクル鋳塊の導電率の悪化を防ぎ、リサイクル鋳塊の結晶粒径を微細化しやすい観点から、リサイクル鋳塊中に含まれる研磨材の砥粒由来の元素の含有量は、好ましくは0.5ppm以上10ppm未満、より好ましくは1ppm以上10pp未満、さらに好ましくは2ppm以上8ppm以下、特に好ましくは2.5ppm以上6ppm以下である。例えば、ターゲット材が純度99.999%(5N)以上のアルミニウムであり、研磨材の砥粒由来の元素がSiであった場合、Siを微量に含むアルミニウムのリサイクル鋳塊を得ることができる。そのリサイクル鋳塊より製造されるターゲット材をスパッタリングしてシリコンウェハーやガラス基板上に成膜したアルミニウム薄膜は、基板から薄膜へのSiの拡散が抑制され、過度のSiの拡散によるアルミニウム薄膜の特性の低下を防止できる。
また、特性に優れた金属薄膜、特にアルミニウム薄膜を形成する観点から、リサイクル鋳塊は、Cu、In、Sn、及びZnの合計の含有量が0.1ppm以上8ppm以下であり、Siの含有量が2ppm以上8ppm以下であることが好ましい。
【0085】
このように、本発明によると、使用済みのターゲット材を簡便且つ十分に洗浄することができ、且つ洗浄後のターゲット材は接合材及び支持部材由来の不純物を実質的に含まないことから、リサイクル鋳塊を製造してターゲット材を簡易にリサイクルすることができる。
【0086】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
【0087】
前記実施形態では、研磨材をベルト状として研磨材を回転させながらターゲット材の接合面を研磨しているが、研磨材を平面状として研磨材を水平方向に移動させながらターゲット材の接合面を研磨するようにしてもよい。つまり、研磨材は、砥石からなる複数のブロック体を含み、隣接するブロック体が隙間を介して離隔するように複数のブロック体が同一面に配列されていればよい。
【0088】
(実施例1)
使用済みのスパッタリングターゲットの接合層を加熱(280℃)することによって、スパッタリングターゲットをターゲット材と支持部材(バッキングプレート)とに分離した。
【0089】
なお、該スパッタリングターゲットは、使用前の状態で、アルミニウム製の平板型ターゲット材(純度:99.999%、ビッカース硬度:16、寸法:2000mm×200mm×15mm)と、無酸素銅製の支持部材(純度:99.99%、寸法:2300mm×250mm×15mm)とをInのハンダ材(ハンダ層の厚み:350μm)で接合(ターゲット材のメタライズには、Sn−Zn−Inのハンダ材を使用)してなる。
【0090】
更に、分離したターゲット材の接合面に付着しているハンダ材をシリコーン製のヘラで掻き落として、可能な限りハンダ材を除去した。スパッタリングターゲットから分離後、ターゲット材を200mm×100mm×15mm程度になるように切断した。
【0091】
研磨面の表面粗さRaが20μm、平均高さ3mm、長辺の平均長さ16mm、短辺の平均長さ14mmの平行四辺形状(平面図において)のブロック体(JIS R 6001−1:2017におけるF120に相当する粒度の炭化ケイ素をフェノール樹脂で結合させたレジノイド砥石)を、平均離間距離が0.5mm、研磨方向(ベルトサンダの回転方向)に対して72°の傾斜となるように、混合ゴムによって研磨布用布体(綿-ポリエステル混紡布、樹脂硬化物、カーボンブラック混合物)に接着した研磨材を準備した。ブロック体の角部(周縁部)は1.25mmC面取りされた形状であり、研磨材のサイズは60mm×260mmとした。研磨材の両端を固定してベルト状にした後、ベルトサンダ((株)オフィスマイン社製、RMB−E、コンタクトホイール(ローラー)は(株)オフィスマイン社製のスポンジコンタクトM(φ50mm×幅60mm))に取り付け、切断したターゲット材の接合面全面を30秒間均等に研磨した(処理速度400cm/分)。研磨材の表面粗さRa(算術平均粗さ)は、JIS B0601:2001に準拠して、株式会社ミツトヨ製の小型表面粗さ計サーフテストSJ−301(Raの測定範囲0.01〜100μm)により測定した。
【0092】
島津製作所製のEDXRF分析装置(EDX−700L、検出限界:Inで約0.01重量%)を用いて、下記条件にて研磨による洗浄後の使用済みターゲット材の接合面を分析(半定量分析)した。
【0093】
<分析条件>
X線照射径:10mmφ
励起電圧:10kV(Na〜Sc)、50kV(Ti〜U)
電流:100μA
測定時間:200秒(各励起電圧において100秒測定)
雰囲気:He
管球:Rhターゲット
フィルター:無し
測定方法:ファンダメンタルパラメータ法
検出器:Si(Li)半導体検出器
【0094】
なお、洗浄前の使用済みターゲット材の接合面を上記と同様にEDXRFで分析すると、ハンダ材に由来するSn、Zn、及びInは、それぞれ10重量%以下、10重量%以下、1重量%〜70重量%で存在し、支持部材に由来するCuは1重量%〜50重量%で存在していた。この洗浄前の分析結果と比較し、研磨処理による洗浄後の接合面の分析結果と、研磨処理後の研磨材表面の目視による目詰まりの有無を処理結果として、A(不純物を顕著に除去且つ研磨材の目立った目詰まり無し)とB(不純物を十分に除去且つ研磨材の目立った目詰まり無し)、E(検出されるハンダ材や支持部材に由来する各不純物の量が0.5wt%を超える、もしくは研磨材の目詰まりが確認される)に分類して評価した。評価結果を以下の表1に示す(単位:質量%(wt%))。また、検出されなかった接合材や支持部材の成分の元素については、X線ピークの検出有無についても確認した。
【0095】
(実施例2)
研磨材に、番手#220のスラッシュリング(三共理化学(株)社製、硬度M、主な砥粒はアルミナ)を用いた以外は実施例1と同様にして研磨作業を行った。なお、用いた研磨材については、角は面取りされておらず、研磨面が1辺12mmの菱形であり、研磨面の表面粗さRaが10μm、ブロック体の平均高さが9mm、ブロック体間の平均離間距離は0.7mmであった。また、研磨方向(ベルトサンダの回転方向)に対して砥石の傾きが75°となるようにベルトサンダに取り付けた。評価結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
研磨材に、番手#240の研磨布ベルト((株)オフィスマイン社製、研磨布ベルトWA、主な砥粒はアルミナ)を用いた以外は実施例1と同様にして研磨作業を行った。なお、用いた研磨材については、ブロック体状ではなく、研磨面の表面粗さRaが17μmであった。評価結果を表1に示す。
【0097】
(比較例2)
研磨材に、番手#320のHLベルト((株)オフィスマイン社製、主な砥粒はアルミナ)を用いた以外は実施例1と同様にして研磨作業を行った。なお、用いた研磨材については、ブロック体状ではなく、不織布に砥粒が結合した研磨材であった。評価結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1からわかるように、ブロック体状の砥石を有する研磨材を用いた実施例1及び2においては、研磨材の目詰まりが確認されず、またハンダ材や支持部材に由来する不純物が十分に除去されていた。これに対して、ブロック体状の砥石を有さない研磨材を用いた比較例1及び2においては、研磨材の目詰まりが確認され、さらにはハンダ材や支持部材に由来する不純物が十分には除去できていなかった。なお、実施例1では、比較例1に比べて、Alの含有率が低いが、実質的に問題のない範囲である。
【0100】
さらに、表1中には記していないが、実施例1の研磨材を使用した場合では、繰り返し研磨作業を行ってもハンダ材等の不純物が除去できていた。一方で、実施例2の研磨材を用いる場合では、繰り返し研磨作業を行った場合に、研磨材の研磨面中央には目詰まりは確認されなかったが、尖った角部にハンダ材が付着していく様子が観察された。このことから、研磨材の角部が面取りされていると、比較的柔らかく、粘りのあるInであっても、研磨材への付着が抑制され、繰り返し使用時に有益であるということがわかった。本発明の好適な研磨材の使用は、処理面積が大きい大型のフラットパネルディスプレイ用のターゲット材を研磨により洗浄する場合や、大量のターゲット材を処理する場合には、非常に有効である。
【0101】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、スパッタリングターゲットを支持部材(バッキングプレート)とターゲット材とに分離して、200mm×100mm×15mm程度のアルミニウム製のターゲット材を得た。
研磨材として、以下の条件1〜4の研磨材を用いた以外は、実施例1と同様の方法にてターゲット材の接合面を研磨により洗浄し、洗浄後の使用済みターゲット材の接合面をEDXRF分析した。評価結果を表2に示す。
【0102】
(条件1)
研磨面の表面粗さRaが100μmより大きく、平均高さ3mm、長辺の平均長さ16mm、短辺の平均長さ14mmの平行四辺形状(平面図において)のブロック体(JIS R 6001−1:2017におけるF36に相当する粒度の炭化ケイ素をフェノール樹脂で結合させたレジノイド砥石)を、平均離間距離が0.5mm、研磨方向の垂直方向(ベルトサンダの回転方向に対して垂直な方向)に対して15°の傾斜となるように混合ゴムによって研磨布用布体(綿-ポリエステル混紡布、樹脂硬化物、カーボンブラック混合物)に接着した研磨材を準備した。ブロック体の角部は1.25mmC面取りされた形状であり、研磨材のサイズは60mm×260mmとした。研磨材の両端を固定してベルト状にしたものを研磨材として用いた。
【0103】
(条件2)
研磨面の表面粗さRaが31μm、平均高さ3mm、長辺の平均長さ16mm、短辺の平均長さ14mmの平行四辺形状(平面図において)のブロック体(JIS R 6001−1:2017におけるF60に相当する粒度の炭化ケイ素をフェノール樹脂で結合させたレジノイド砥石)を、平均離間距離が0.5mm、研磨方向の垂直方向(ベルトサンダの回転方向に対して垂直な方向)に対して15°の傾斜となるように混合ゴムによって研磨布用布体(綿-ポリエステル混紡布、樹脂硬化物、カーボンブラック混合物)に接着した研磨材を準備した。ブロック体の角部は1.25mmC面取りされた形状であり、研磨材のサイズは60mm×260mmとした。研磨材の両端を固定してベルト状にしたものを研磨材として用いた。
【0104】
(条件3)
実施例1と同様の研磨材を用いた。
【0105】
(条件4)
研磨面の表面粗さRaが7.7μm、平均高さ3mm、長辺の平均長さ16mm、短辺の平均長さ14mmの平行四辺形状(平面図において)のブロック体(JIS R 6001−2:2017におけるF400に相当する粒度の炭化ケイ素をフェノール樹脂で結合させたレジノイド砥石)を、平均離間距離が0.5mm、研磨方向の垂直方向(ベルトサンダの回転方向に対して垂直な方向)に対して15°の傾斜となるように混合ゴムによって研磨布用布体(綿-ポリエステル混紡布、樹脂硬化物、カーボンブラック混合物)に接着した研磨材を準備した。ブロック体の角部は1.25mmC面取りされた形状であり、研磨材のサイズは60mm×260mmとした。研磨材の両端を固定してベルト状にしたものを研磨材として用いた。
【0106】
【表2】
【0107】
いずれの条件においても、研磨終了後の研磨材に目詰まりは確認されなかった。表2から分かるように、いずれの条件においてもハンダ材や支持部材に由来する不純物が十分に除去されており、研磨材の表面粗さRaが100μm以下のときには、ハンダ材や支持部材由来の不純物が0.1wt%未満のレベルにまで低減され、特に研磨材の表面粗さRaが20μmのときには、ハンダ材や支持部材に由来する不純物が確認されなかった。ターゲット材がアルミニウムの場合には、研磨材の表面粗さが31μm以上、特に100μmを超えた場合に、ターゲット材の表面への研磨材の食い込みによる溝や凹みが発生し、その溝や凹みにハンダ材等が押し込まれることで一部ハンダ材及び支持部材由来の不純物が残存したものと思われる。また、研磨材の表面粗さRaが7.7μmであるときは、研磨力が小さかったため、一部ハンダ材由来の不純物がターゲット材上に残存したものと考えられる。
【0108】
(実施例4)
使用済みのスパッタリングターゲットの接合層を加熱(280℃)することによって、スパッタリングターゲットをターゲット材と支持部材(バッキングプレート)とに分離した。
なお、該スパッタリングターゲットは、使用前の状態で、無酸素銅製の平板型ターゲット材(純度:99.99%、ビッカース硬度:90、寸法:2000mm×200mm×15mm)と、無酸素銅製の支持部材(純度:99.99%、寸法:2300mm×250mm×15mm)とをInのハンダ材(ハンダ層の厚み:350μm)で接合(ターゲット材のメタライズには、Sn−Zn−Inのハンダ材を使用)してなる。
更に、分離されたターゲット材の接合面に付着しているハンダ材をシリコーン製のヘラで掻き落として、可能な限りハンダ材を除去した。支持部材から分離後、ターゲット材を100mm×45mm×15mm程度になるように切断した。
ターゲット材に無酸素銅製のものを用い、処理速度を15cm/分とした以外は、実施例3と同様の方法にてターゲット材の接合面を研磨し、洗浄後の使用済みターゲット材の接合面をEDXRF分析した。評価結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
いずれの条件においても、研磨終了後の研磨材に目詰まりは確認されなかった。表3から分かるように、いずれの条件においてもハンダ材や支持部材に由来する不純物が低減されており、研磨材の表面粗さRaが10μm以上のときには、ハンダ材や支持部材由来の不純物が0.5wt%未満のレベルにまで低減され、特に研磨材の表面粗さRaが20μm、31μmのときには、ハンダ材や支持部材に由来する不純物が確認されなかった。ターゲット材が純銅の場合には、研磨材の表面粗さが100μmを超えた場合に、ターゲット材の表面への研磨材の食い込みによる溝や凹みが発生し、その溝や凹みにハンダ材等が押し込まれることで一部ハンダ材及び支持部材由来の不純物が残存したものと思われる。また、研磨材の表面粗さRaが7.7μmであるときは、研磨力が小さかったため、ハンダ材由来の不純物がターゲット材上に残存したものと考えられる。
【0111】
(実施例5)
実施例1と同様の方法により、スパッタリングターゲットを支持部材(バッキングプレート)とターゲット材とに分離して、200mm×100mm×15mm程度のアルミニウム製のターゲット材を得た。
処理速度を480cm/分にしたこと以外は実施例1と同様の方法(実施例5−1)、コンタクトホイール(ローラー)に(株)オフィスマイン社製のゴムコンタクト(硬度55°、φ55mm×幅60mm))を用い、処理速度を480cm/分にしたこと以外は実施例1と同様の方法(実施例5−2)にてターゲット材の接合面を研磨し、洗浄後の使用済みターゲット材の接合面をEDXRF分析した。評価結果を表4に示す。「評価位置」の「中央」とは、ターゲット材の中央の位置をいい、「評価位置」の「端」とは、ターゲット材の端の位置をいう。
【0112】
【表4】
【0113】
いずれの条件においても、研磨終了後の研磨材に目詰まりは確認されなかった。表4から分かるように、いずれの条件においてもハンダ材や支持部材に由来する不純物が十分に除去されており、特にゴムローラーを用いると(実施例5−2)、処理速度が速くてもハンダ材や支持部材に由来する不純物が完全に除去されていた。軟質素材であるスポンジローラーとは異なり、ゴムローラーは硬質素材であるため、より荷重をかけて研磨することができ、研磨材がターゲット材の接合面に噛み込むように研磨される。よって、一層ハンダ材を除去するものと考えられる。
【0114】
(実施例6)
処理速度を200cm/分とした以外は実施例1と同様の方法によりターゲット材の接合面を研磨し、洗浄後の使用済みターゲット材の接合面をEDXRF分析した。評価結果を表5に示す。
【0115】
(実施例7)
実施例1と同様の方法によりターゲット材の接合面を研磨したターゲット材を作成した。その後、実施例1で取り付けたベルトサンダに、番手#180の研磨布ベルト((株)オフィスマイン社製、研磨布ベルトWA、主な砥粒はアルミナ)を取り付け、研磨後のターゲット材を処理速度400cm/分でさらに研磨した。洗浄後の使用済みターゲット材の接合面をEDXRF分析した。評価結果を表5に示す。
【0116】
実施例6、7で得られた洗浄後の使用済みターゲット材の一部を採取し、真空下(約0.03Torr)、850℃において溶解し、大気中で冷却することにより、リサイクル鋳塊を製造した。
【0117】
リサイクル鋳塊に含まれる不純物の量を、それぞれGDMS(VG Elemental社製、VG9000)を用いて、In、Sn、Zn、及びCuについての微量分析を行った。参考例である未使用のターゲット材と、使用済みターゲット材(洗浄前)から同様の方法で作製した鋳塊の分析結果と共に、以下の表6に分析結果を示す(単位:質量ppm(wt ppm))。
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
表6に示す通り、実施例6、7において製造されたリサイクル鋳塊中に含まれるハンダ材(In、Sn、Zn)や支持部材(Cu)に由来する不純物の合計量が質量基準で4ppm未満となることが分かった。また、不純物の合計量も10ppm未満であった。また、表5、表6から分かるように、研磨材の砥粒として、ターゲット材組成に近い粒子を用いることにより、研磨材による汚染のリスクもより低減できる。
【0121】
上記実施例及び比較例については、平板型ターゲット材について説明したが、バッキン
グチューブに接合材を用いて接合される円筒型ターゲット材についても、同様の処理を行
うことにより、同結果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のターゲット材の研磨方法によると、砥石や研磨材の目詰まりを低減することができ、さらにはターゲット材から接合層を構成する接合材及び支持部材由来の不純物を低減、除去することができる。よって、使用済みのターゲット材の洗浄やリサイクルには有益である。
【符号の説明】
【0123】
1 スパッタリングターゲット
2 ターゲット材
2a スパッタ面
2b 接合面
3 支持部材
3a 接合面
10 研磨工具
11 本体部
12 研磨部
13 研磨材
15 第1ローラー
16 第2ローラー
20 シート体
21 ブロック体
22 隙間
【要約】
【課題】ターゲット材から接合材を除去することができると共に研磨材の目詰まりを低減できるターゲット材の研磨方法を提供する。
【解決手段】ターゲット材の研磨方法は、ターゲット材と支持部材とを接合材によって接合して構成されるスパッタリングターゲットから分離されたターゲット材を研磨する方法であって、前記ターゲット材における、前記支持部材と接合していた接合面を、砥石からなる複数のブロック体を含むと共に、前記複数のブロック体が隣接するブロック体と隙間を介して離隔するように同一面に配列されている研磨材を用いて、研磨することを含む。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4A
図4B