特許第6755705号(P6755705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6755705
(24)【登録日】2020年8月28日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/064 20140101AFI20200907BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20200907BHJP
【FI】
   B23K26/064 A
   B23K26/53
   B23K26/064 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-93576(P2016-93576)
(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公開番号】特開2017-202488(P2017-202488A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】桐原 直俊
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−213927(JP,A)
【文献】 特開2015−030040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、から少なくとも構成されるレーザー加工装置であって、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したパルスレーザー光線を集光し、該保持手段に保持されたウエーハに照射する集光器と、から少なくとも構成され、
該集光器は、該集光器の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置を、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より該保持手段側に延在するように位置付ける球面収差の機能を備え、
該集光器の最も内側を通るレーザー光線によって形成される集光点が保持手段側のウエーハ裏面近傍に位置付けられ、該集光器の最も外側を通るレーザー光線によって形成される集光点がウエーハの表面近傍に位置付けられて、該集光器によって形成されるレーザー光線によって形成される集光点が、ウエーハの裏面から表面まで延在するようにウエーハの内部に位置付けられて細孔と、該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを形成するレーザー加工装置。
【請求項2】
該球面収差の機能は、集光レンズにより備えられる請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該球面収差の機能は、集光レンズと、該集光レンズに対して保持手段側に配置され該集光レンズによって集光されるレーザー光線の集光点位置を補正する集光点補正板とで備えられる請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
該外側のレーザー光線によって形成される集光点から該内側のレーザー光線によって形成される集光点まで延在する長さは50μm〜2000μmである請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シリコン、サファイア、炭化珪素、窒化ガリウム等からなるウエーハにレーザー加工を施すレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、LED、SAWデバイス、パワーデバイス等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、レーザー加工装置によって分割起点が形成されると共に、個々のデバイスに分割され、携帯電話、パソコン、照明機器等の電気機器に利用される(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
レーザー加工装置は、被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された被加工物にレーザー光線を照射する集光器を備えたレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、から概ね構成されていて、ウエーハの分割予定ラインに沿って高精度にレーザー光線を照射することにより、個々のデバイスに分割するための分割起点を形成する分割加工を施すことができる。
【0004】
該分割起点を形成するレーザー加工装置としては、該特許文献1に開示されているが如く被加工物に対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してアブレーション加工を施すタイプのものと、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を被加工物の内部に位置付けて照射して改質層を形成するタイプ(例えば、特許文献2を参照)に分けられる。しかし、いずれのタイプにおいてもウエーハを完全切断するためには、分割予定ラインに沿って複数回レーザー光線を照射する必要があり、生産性が悪いという問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は、被加工物であるウエーハに対して透過性を有するレーザー光線を集光して照射する集光レンズの開口数を、ウエーハを形成する材料の屈折率に応じて適宜設定することにより、分割予定ラインの表面から裏面に至る細孔と該細孔を囲繞する非晶質とからなるいわゆるシールドトンネルを形成し、該シールドトンネルを分割予定ラインに沿って形成し分割起点とする技術を開発し、既に提案している(例えば、特許文献3を参照。)。なお、特許文献1〜3に開示された技術では、レーザー光線照射手段の集光器に配設される集光レンズとして、非球面レンズを採用し凹凸面の形状を調整したり、或いは、複数枚のレンズの組み合わせにより構成したりする等して、ウエーハにおける被加工点を通る光軸上の1点にレーザー光線が集光されるように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−305420号公報
【特許文献2】特許第3408805号公報
【特許文献3】特開2014−221483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、該特許文献3に開示されたレーザー加工装置により形成される従来のシールドトンネルによれば、同一の加工点に複数回レーザー光線を照射することなく、脆弱な分割起点を形成することが可能であるものの、ウエーハの材料や厚みの変化に対応しつつ分割予定ラインに沿って所望の均質なシールドトンネルを形成することは容易ではない。特に、分割予定ラインに沿って形成される該シールドトンネルの強度(=脆弱性)は、ウエーハに照射するレーザー光線のパワーに大きく影響を受けるため、形成されるシールドトンネルが分割予定ラインに沿って所定の一定の強度になるようにレーザー光線のパワーを適切に調整することが必要になる。しかし、薄化されたウエーハの内部の1点に集光点を設定することによってシールドトンネルを形成する場合、分割予定ラインの全体にわたって均質なシールドトンネルを形成することが難しく、結果として、シールドトンネルを形成した後、外力を付加することによって基板を個々のデバイスに分割するには、比較的大きな力(例えば、40N)が必要であるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、大きな力を要することなく基板を分割することができるシールドトンネルを形成可能なレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、から少なくとも構成されるレーザー加工装置であって、該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したパルスレーザー光線を集光し、該保持手段に保持されたウエーハに照射する集光器と、から少なくとも構成され、該集光器は、該集光器の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置を、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より該保持手段側に延在するように位置付ける球面収差の機能を備え、該集光器の最も内側を通るレーザー光線によって形成される集光点が保持手段側のウエーハ裏面近傍に位置付けられ、該集光器の最も外側を通るレーザー光線によって形成される集光点がウエーハの表面近傍に位置付けられて、該集光器によって形成されるレーザー光線によって形成される集光点が、ウエーハの裏面から表面まで延在するようにウエーハの内部に位置付けられて細孔と、該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを形成するレーザー加工装置が提供される。
【0010】
該球面収差の機能は、集光レンズにより、又は、集光レンズと、該集光レンズに対して保持手段側に配置され該集光レンズによって集光されるレーザー光線の集光点位置を補正する集光点補正板とにより備えられるようにすることができる。さらに、該外側のレーザー光線によって形成される集光点から該内側のレーザー光線によって形成される集光点まで延在する長さは50μm〜2000μmで設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるレーザー加工装置は、レーザー光線照射手段が、パルスレーザー光線を発振する発振器と、該発振器が発振したパルスレーザー光線を集光し、該保持手段に保持されたウエーハに照射する集光器と、から少なくとも構成され、該集光器は、該集光器の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置を、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より該保持手段側に延在するように位置付ける球面収差の機能を備え、該集光器の最も内側を通るレーザー光線によって形成される集光点が保持手段側のウエーハ裏面近傍に位置付けられ、該集光器の最も外側を通るレーザー光線によって形成される集光点がウエーハの表面近傍に位置付けられて、該集光器によって形成されるレーザー光線によって形成される集光点が、ウエーハの裏面から表面まで延在するようにウエーハの内部に位置付けられて細孔と、該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを形成することから、ウエーハに照射されたレーザー光線のエネルギーが有効に使用されて、良好なシールドトンネルを形成することに寄与する。したがって、照射するレーザー光線の出力を格別に大きくすることなく、均質なシールドトンネルが形成されて分割起点として形成されるシールドトンネルの強度を低下させることができるため、従来に比して弱い力で基板を個々のデバイスに分割することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に基づき構成されたレーザー加工装置の全体斜視図。
図2図1に記載されたレーザー加工装置に配設されたレーザー光線照射手段の概略を説明するための説明図。
図3図2に記載されたレーザー光線照射手段によりシールドトンネルを形成する際の集光点位置を説明するための説明図。
図4図1に開示された本発明のレーザー加工装置によりシールドトンネルを形成する工程を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に基づいて構成されるウエーハのレーザー加工装置について添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1には、本発明のレーザー加工装置40の全体斜視図が示されている。該レーザー加工装置40は、基台41と、該被加工物を保持する保持機構42と、保持機構42を移動させる移動手段43と、保持機構42に保持される被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段44と、撮像手段45と、コンピュータにより構成される図示しない制御手段を備え、制御手段により各手段が制御されるように構成されている。
【0015】
保持機構42は、X方向において移動自在に基台41に搭載された矩形状のX方向可動板51と、Y方向において移動自在にX方向可動板51に搭載された矩形状のY方向可動板53と、Y方向可動板53の上面に固定された円筒状の支柱50と、支柱50の上端に固定された矩形状のカバー板52とを含む。カバー板52にはY方向に延びる長穴52aが形成されている。長穴52aを通って上方に延びる円形状の被加工物を保持する保持手段としてのチャックテーブル54の上面には、多孔質材料から形成され実質上水平に延在する円形状の吸着チャック56が配置されている。吸着チャック56は、支柱50を通る流路によって図示しない吸引手段に接続されている。チャックテーブル54の周縁には、周方向に間隔をおいて複数個のクランプ58が配置されている。なお、X方向は図1に矢印Xで示す方向であり、Y方向は図1に矢印Yで示す方向であってX方向に直交する方向である。X方向、Y方向で規定される平面は実質上水平である。
【0016】
移動手段43は、X方向移動手段60と、Y方向移動手段65と、図示しない回転手段とを含む。X方向移動手段60は、基台41上においてX方向に延びるボールねじ60bと、ボールねじ60bの片端部に連結されたモータ60aとを有する。ボールねじ60bの図示しないナット部は、X方向可動板51の下面に固定されている。そしてX方向移動手段60は、ボールねじ60bによりモータ60aの回転運動を直線運動に変換してX方向可動板51に伝達し、基台41上の案内レール43aに沿ってX方向可動板51をX方向において進退させる。Y方向移動手段65は、X方向可動板51上においてY方向に延びるボールねじ65bと、ボールねじ65bの片端部に連結されたモータ65aとを有する。ボールねじ65bの図示しないナット部は、Y方向可動板53の下面に固定されている。そして、Y方向移動手段65は、ボールねじ65bによりモータ65aの回転運動を直線運動に変換し、Y方向可動板53に伝達し、X方向可動板51上の案内レール51aに沿ってY方向可動板53をY方向において進退させる。回転手段は、支柱50に内蔵され支柱50に対して吸着チャック56を回転させる。
【0017】
レーザー光線照射手段44は、基台41の上面から上方に延び、次いで実質上水平に延びる枠体46に内蔵されている。図2(a)にその概略をブロック図で示すように、本実施形態のレーザー光線照射手段44は、被加工物であるウエーハ10の分割予定ラインに沿って細孔と該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを形成するための波長(例えば、1030nm)のレーザー光線を発振するレーザー発振器44bと、レーザー発振器44bから発振されたレーザー光線の出力を調整するためのアッテネータ44cと、アッテネータ44cで出力が調整されたレーザー光線LBを、集光レンズ44dを備えた集光器44aに向けて反射させる反射板44fを含んでいる。
【0018】
本実施形態におけるレーザー加工装置40は、図示しない制御手段を備えており、該制御手段は、コンピュータにより構成され、制御プログラムに従って演算処理する中央演算処理装置(CPU)と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)と、検出した検出値、演算結果等を一時的に格納するための読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)と、入力インターフェース、及び出力インターフェースとを備えている。該制御手段の入力インターフェースには、撮像手段45からの画像信号の他、保持機構42の図示しないX方向、Y方向の位置検出手段からの信号等が入力される。また、該出力インターフェースからは、レーザー発振器44b、X方向移動手段60、Y方向移動手段65等に向けて作動信号が送信される。
【0019】
撮像手段45は、枠体46の先端下面に付設されており、案内レール43aの上方に位置し、チャックテーブル54を案内レール43aに沿って移動させることによりチャックテーブル54に載置された被加工物を撮像することが可能になっている。なお、本実施形態の撮像手段45は、可視光線によって撮像する図示しない撮像素子(CCD)によって構成されているが、この他に被加工物に赤外線を照射するための赤外線光源と、赤外線に対応した電気信号を出力する赤外線用撮像素子(赤外線CCD)を備えていてもよい。
【0020】
ここで、本発明の集光器44aについて、図3も参照しながら、さらに説明する。集光器44aは、少なくとも集光レンズ44dを備えており、当該集光レンズ44dは、本発明の技術思想に基づき、該集光器44aの内側(光軸O側)を通過したレーザー光線LB1によって光軸O上に形成される集光点P1の位置を、外側を通過したレーザー光線LBnによって光軸O上に形成される集光点Pnの位置よりチャックテーブル54(保持手段)側に延在するように位置付ける球面収差の機能を備えている。該球面収差の機能は、一般的に知られた球面レンズにより構成することが可能であるが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではなく、非球面レンズ、或いは複数の球面、非球面レンズの組み合わせによっても構成することが可能であり、ウエーハ10の内部においてレーザー光線が入射される方向に該集光点P1〜Pnが延在するように位置づけることが可能であれば、どのような構成であってもよい。さらに、該集光点P1〜Pnまで集光点が延在する長さは、50μm〜2000μmの間で設定されることが好ましい。当該長さは、必ずしも被加工物であるウエーハ10の厚みよりも大きく設定する必要はないが、例えばウエーハ10の厚みが300μmの場合は、表面から裏面までの全体、すなわち300μmにわたって集光点P1〜Pnが延在するように設定されることで、より良好にシールドトンネルを形成することが可能となる。
【0021】
本発明に基づいて構成されるレーザー加工装置40の作用について、図1〜4を参照しながら、順を追って説明する。先ず、格子状に形成された複数の分割予定ライン12で区画された各領域にSAWデバイス14が形成され、粘着テープTを介して環状のフレームFに保持されたリチウムタンタレート(LiTaO)からなるウエーハ10を用意する。
【0022】
チャックテーブル54の吸着チャック56上に、粘着テープT側を下にして該ウエーハ10を載置し、クランプ58によりその環状のフレームFを保持すると共に、図示しない吸引手段を作動して負圧を吸着チャック56に作用させてウエーハ10を吸引保持する。
【0023】
吸着チャック56上にウエーハ10を吸引保持したならば、X方向移動手段60、Y方向移動手段65を作動して、チャックテーブル54を移動してウエーハ10を撮像手段45の直下に位置付ける。チャックテーブル54が撮像手段45の直下に位置付けられると、撮像手段45、および図示しない制御手段によって、ウエーハ10のレーザー加工すべき領域を検出するアライメント工程を実行する。即ち、撮像手段45、および図示しない制御手段は、ウエーハ10の所定方向に形成されている分割予定ライン12と、分割予定ライン12に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段44の集光器44aとの位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行してレーザー光線照射位置のアライメントを行う。なお、該所定方向と直交する方向に形成される分割予定ライン12に沿っても同様のアライメント工程を遂行する。
【0024】
上記したアライメント工程を実行したならば、チャックテーブル54を、集光器44aが位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定の方向に形成された分割予定ライン12の一端が集光器44aの直下になるように位置付ける。そして、図示しない集光点位置調整手段を作動して集光器44aを光軸方向に移動し、ウエーハ10を構成するリチウムタンタレート基板の内部の所定位置に集光点を位置付ける。このとき、集光器44aの最も内側を通るレーザー光線LB1によって形成される集光点P1の位置を、ウエーハ10の内部であって、ウエーハ10のチャックテーブル54側、すなわち、裏面近傍に位置付け、集光レンズ44dの最も外側を通るレーザー光線LBnによって形成される集光点Pnの位置を、ウエーハ10のデバイスが形成された表面側に位置付けるように設定する。これにより、集光器44aの集光レンズ44dを通過するレーザー光線LBによって形成される集光点は、ウエーハ10の裏面から表面まで延在するようになっている。なお、図3、4には、便宜上、レーザー光線LBをLB1〜LBnに、集光点PをP1〜Pnに、分解して説明しているが、実際には、このように分解された状態で見えるわけではない。
【0025】
上述した集光点の位置付けを行ったならば、図4(a)に示すように、レーザー光線照射手段44を作動し、レーザー光線発振器44bによりウエーハ10内にシールドトンネル100を形成するパルスレーザー光線を発振する。レーザー光線発振器44bから発振されたパルスレーザー光線LBはアッテネータ44cに導かれ、アッテネータ44cの作用によりその出力が所定の値に調整され、集光器44aにより集光されて、ウエーハ10の分割予定ライン12の一端部に照射される。レーザー光線LBの照射が開始されると、X方向移動手段60を作動して、チャックテーブル54を図4の矢印Xで示す方向に移動することにより、該レーザー光線LBが分割予定ライン12に沿って照射される。これにより、分割予定ライン12に沿って、上下方向に延びる細孔102と、該細孔をシールドする非晶質104とが形成されたシールドトンネル100が連続的に形成される(図4(b)を参照)。該レーザー光線照射手段44と、チャックテーブル54、X方向移動手段60、Y方向移動手段65とを作動して、ウエーハ10の表面に格子状に形成された全ての分割予定ライン12に沿って該シールドトンネル100を形成する。このようにして、シールドトンネル形成工程が完了したら、ウエーハ10に外力を付与して個々のデバイス14に分離する分離工程に搬送する。なお、当該分離工程については、本発明の要部を構成せず、また周知の分離手段を用いることができる(例えば、上述した特許文献3の図8及びその説明を参照)ため、その詳細な説明は省略する。
【0026】
上記シールドトンネル形成工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
波長 :1030nm
平均出力 :3W
繰り返し周波数 :50kHz
パルス幅 :10ps
スポット径 :φ10μm
集光レンズの開口数/ウエーハの屈折率 :0.05〜0.20
X方向加工送り速度 :500mm/秒
シールドトンネル寸法 :φ1μmの細孔、φ10μmの非晶質
【0027】
上述したように、本実施形態のレーザー加工装置における集光器は、集光器の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置を、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より該保持手段側に延在するように位置付ける球面収差の機能を備え、該集光器の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点がウエーハの内部に位置付けられ、細孔と該細孔を囲繞する非晶質とからなるシールドトンネルを形成する。これにより、レーザー光線のエネルギーがシールドトンネルの形成に有効に使用されるので、良好なシールドトンネルが分割予定ライン全体に渡って形成される。そして、該シールドトンネルが形成された分割予定ラインが、全体にわたって十分に脆弱になっているため、該分離工程において、比較的小さな外力で個々のデバイスに分割することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、該集光器44aの内側を通るレーザー光線LB1によって形成される集光点P1の位置を、外側を通るレーザー光線LBnによって形成される集光点Pnの位置より該チャックテーブル54(保持手段)側に延在するように位置付ける球面収差の機能を、集光器44aに配設された集光レンズ44dに備えさせることとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図2(b)に示すように、集光器44a´に配設された集光レンズ44eのチャックテーブル54側の位置に、集光点補正板44gを配設することとしてもよい。該集光レンズ44eは、ウエーハ10内部の1点に集光点が形成されるようにそのレンズ面が形成されているのに対し、該集光点補正板44gは、集光レンズ44eとウエーハ10との間に配設され、集光レンズ44eを通過したレーザー光線に対して、内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置を、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より該保持手段側に延在するように補正する機能を備えている。
【0029】
集光点補正板44aに対して上記した機能を持たせるためには、例えば、集光点補正板44gをガラス素材で形成し、入射面が球面形状となる凸面を形成することで実現することができる。このような集光点補正板44gを上記位置に配設することにより、集光レンズ44eを通過したレーザー光線LBにおける内側、及び外側の進行方向が、集光点補正板44gを通過することにより補正され、集光器44a´の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置を、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より該保持手段側に延在するようにする。そして、集光器の内側を通るレーザー光線による集光点がウエーハの内部に位置付けられてシールドトンネルが形成される。結果として、前述した実施形態と同様に、レーザー光線のエネルギーがシールドトンネルの形成に有効に使用され、良好なシールドトンネルが分割予定ライン全体に渡って形成される。
【0030】
なお、本発明において「球面収差の機能を備える」とは、完全な球面形状からなる凸レンズによって得られる収差を生じさせる場合のみを意味するものではない。要すれば、該集光器の内側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置が、外側を通るレーザー光線によって形成される集光点の位置より保持手段側に延在するように位置付ける機能を奏するものすべてが含まれる。また、上述した実施形態では、SAWデバイスが形成された表面側からレーザー光線を照射する例を示したが、本発明はこれに限定されず、表裏を反転して、ウエーハの裏面側からレーザー光線を照射するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
10:ウエーハ
12:分割予定ライン
14:デバイス
40:レーザー加工装置
41:基台
42:保持機構
43:移動手段
44:レーザー光線照射手段
44a:集光器
44d、44e:集光レンズ
44g:集光点補正板
45:撮像手段
100:シールドトンネル
102:細孔
104:非晶質
図1
図2
図3
図4