(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
感圧導電性エラストマーにとって薄型化は重要な課題である。薄型化できれば、柔軟になるうえに小型化できるので、狭小部に装着することができるようになり、製品に組み込む際の形状設計の自由度が高くなるからである。また、感圧導電性エラストマーをウェアラブル端末に組み込む場合を考慮すると、薄型化することにより、装着感が少なくなるという恩恵も得られる。
【0008】
従来、硬化した感圧導電性エラストマーをスプリッティングマシーンでスライスすることで薄型化されていた。くわえて、従来の方法で成形された感圧導電性エラストマーの表面は、平滑ではなく荒れているので、これもまたスプリッティングマシーンでスライスすることで平滑にされていた。しかし、スライスするためには感圧導電性エラストマーを抑えつけて固定する必要があるにも関わらず、感圧導電性エラストマーは、抑えつけられると容易に圧縮変形してしまう。これにより、圧縮変形した状態の感圧導電性エラストマーをスライスすることになるので、得られる感圧導電性エラストマーは、目的の厚みより厚くなってしまう。この問題により、従来の感圧導電性エラストマーは、300μm以下の厚さにすることが容易ではなかった。
【0009】
また、仮に300μm以下に薄型化できたとしても、その取り扱いには難が生じる。薄型化による軽量性および柔軟性の向上と、平滑化したエラストマー表面の自己粘着性とにより、扱いを誤るとエラストマー表面同士が不意に貼り付いてしまうからである。そのうえ、薄型化により引っ張る力に弱くなっているため、貼り付いたところを剥がそうとして千切れてしまうリスクも生まれる。このリスクは、長尺のエラストマーで特に顕著であり、長尺での納入が困難になると考えると、薄型化により生じる取り扱い面での支障は大きい。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、納入時などにおいて取り扱いを容易にすることにある。また、厚みを容易により薄く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法は、ポリエチレンテレフタレート樹脂基板と、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂基板に設けられ、非導電性エラストマーと導電性充填材
としてナノスケールの炭素粒子を主成分と
し、非伝導性補強材として中空シリカ粒子を含むエラストマー層体とを備える感圧導電性エラストマーの製造方法であって、流動状の前記エラストマー層体を前記ポリエチレンテレフタレート樹脂基板に
ディッピング法により付着させて硬化させることで、前記エラストマー層体が前記ポリエチレンテレフタレート樹脂基板に接着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、流動状のエラストマー積層体を基材に付着させて硬化させることで、エラストマー積層体を基材に接着することができ、これにより、基材とエラストマー積層体とを一体化した状態で形成することができる。従って、エラストマー積層体が折り返されて表面同士が互いに貼り付いてしまう事態を防ぐことができるうえ、引っ張る力に対する強度が補強されるので、取り扱いを容易にすることができる。また、流動状のエラストマー積層体を基材に付着させて硬化させるので、ロール機を用いる従来の製造方法と比較して、エラストマー積層体の厚みを容易により薄くすることができる。なお、基材は、エラストマー積層体より硬い部材であることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、基材として、柔軟性があって曲げても割れたりしない薄い素材であるフィルムが用いられる。また、エラストマー積層体は、非導電性エラストマーと導電性充填材とが主成分とされ、厚みを薄く形成することができるので、柔軟性があって曲げても割れたりしないものである。従って、フィルムとエラストマー積層体とが一体化した状態で形成された感圧導電性エラストマーを、柔軟性があって曲げても割れたりしない感圧センサとすることができる。
【0023】
通常、感圧導電性エラストマーを感圧センサとして用いるためには、エラストマー積層体の抵抗値をモニタリングしなければならないので、エラストマー積層体を電極と組み合わせる必要がある。本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、基材に電極の役割を果たすプリント配線板が用いられるので、エラストマー積層体を電極と一体化した状態で形成することができる。従って、エラストマー積層体を形成後に、エラストマー積層体と電極とを組み合わせる作業を別途行う必要がなくなり、性能の安定化、歩留まりの改善および形成作業の効率化を図ることができる。
【0024】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、機械的強度がより高い感圧導電性エラストマーを製造することができ、また、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性、および繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が良好な感圧導電性エラストマーを製造することができる。
【0025】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、非導電性補強剤を添加することで、感圧導電性エラストマーの電気抵抗値を目的の値に調整できると共に、感圧導電性エラストマーの引っ張り強度、硬度、および耐久性をより向上させることができる。
【0026】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、非導電性エラストマー中に導電性充填材をより均一に分散させることができると共に、感圧導電性エラストマーの機械的強度をより高くすることができる。
【0027】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、セラミック粒子の少量の添加で感圧導電性エラストマーの電気抵抗値を適度な値にできると共に、感圧導電性エラストマーの引張強度および耐久性をより向上させることができる。
【0028】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、層状無機化合物粒子に有機化合物をインターカレートしているので、層状無機化合物粒子とマトリックス(母材)としての硬化後の非導電性エラストマーとの親和性が高くなる。そのため、感圧導電性エラストマー中における亀裂生成を阻害できると共に、仮に亀裂が生成されたとしても分子スケール又はナノメータースケールで亀裂の伝播を抑制でき、荷重を印加及び除加した場合や熱的な変化を受けた場合における感圧導電性エラストマーの機械的強度および耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0029】
また、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、非導電性セラミック粒子を有機化合物で表面処理しているので、非導電性セラミック粒子とマトリックスとしての非導電性エラストマーとの間の結合性および親和性が高くなる。そのため、有機化合物で表面処理した非導電性セラミック粒子を配合すれば、感圧導電性エラストマー中における亀裂生成を阻害できると共に、仮に亀裂が生成されたとしても分子スケール又はナノメータースケールで亀裂の伝播・拡大を抑制できるので、荷重を印加及び除加した場合や、これを多数回繰り返した場合、また熱的な変化を受けた場合における感圧導電性エラストマーの機械的強度および耐久性を飛躍的に向上させることができる。更に、非導電性セラミック粒子とマトリックスとしての硬化後の非導電性エラストマーとの間の高い結合性および親和性のために、エラストマー本来の柔軟性を損なうことなく強度をより向上させることができる。
【0030】
さらに、本発明に係る感圧導電性エラストマーの製造方法によれば、非導電性エラストマーおよび炭素粒子との親和性に優れているため、より良好な分散性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の感圧導電性エラストマーの一実施形態を示す概略縦断面図である。本実施形態の感圧導電性エラストマー1は、非導電性エラストマーと導電性充填材とを主成分とする流動状のエラストマー積層体2を基材3に付着させて硬化させることで、エラストマー積層体2を基材3に接着して製造される。これにより、感圧導電性エラストマー1は、基材3と、基材3に設けられるエラストマー積層体2とを備え、基材3とエラストマー積層体2とを一体化した状態で形成することができる。なお、以下においては、ナノサイズとは、粒径が1μm未満1nm以上であることを示している。また、マイクロサイズとは、粒径が1mm未満1μm以上であることを示している。
【0034】
エラストマー積層体2の主成分である非導電性エラストマーは、たとえば、シリコーンゴムとされる。シリコーンゴムとしては、1液型または2液型の、常温硬化型シリコーンゴムや加熱硬化型シリコーンゴムなどが挙げられる。例として、空気中の湿気で加水分解を起こして架橋が進行して硬化する1液型の常温硬化型シリコーンゴムや、白金触媒のもと材料内で付加反応が進行する1液型の加熱硬化型シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0035】
エラストマー積層体2の主成分である導電性充填材は、たとえば、ナノサイズの導電性の炭素粒子とされる。ナノサイズの炭素粒子としては、球状炭素粒子、針状炭素粒子、板状炭素粒子、中空シェル構造炭素粒子などが挙げられる。導電性充填材としてこれらの炭素粒子を用いた感圧導電性エラストマー1は、機械的強度が高く、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性や、繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が良好である。これは、炭素粒子がゴム内で独特な形状の粒子ネットワーク構造を形成するためである。ところで、土状黒鉛や鱗状黒鉛など、マイクロサイズの炭素粒子も存在するが、これらはナノサイズの炭素粒子と比較して、導電性を発現させるのに必要な配合量が多く、感圧導電性エラストマー1の伸びや引っ張り強度などに悪影響を及ぼしてしまい、望ましくない。
【0036】
なお、シリコーンゴムと炭素粒子とは、良好な親和性を示す。従って、非導電性エラストマーとしてシリコーンゴムを用いると共に、導電性充填材として炭素粒子を用いると、炭素粒子の分散性をさらに向上させることができる。
【0037】
炭素粒子以外の導電性充填材としては、非導電性または半導性の材料の表面を導電性物質でコーティングしたものや、金属材料などが挙げられる。導電性物質で表面がコーティングされる材料としては、セラミック材料、ガラス材料、ポリマー材料などが挙げられる。コーティング方法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition、化学的蒸着)、PVD(Physical Vapor Deposition、物理的蒸着)、焼き付け、メッキ、析出、塗布などが挙げられる。セラミック材料としては、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、サファイヤ、炭化ケイ素(SiC)などが挙げられる。ポリマー材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、エポキシ樹脂などが挙げられる。金属材料としては、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金などからなる、金属粒子や金属箔などが挙げられる。
【0038】
導電性充填材の粒径としては、5〜500nm、好ましくは10〜100nm、より好ましくは20〜50nmが好適である。これに対し、導電性充填材の粒径が5nm未満であれば導電性充填材の均一分散が困難になると共に、感圧導電性エラストマー1の電気抵抗値変化が小さくなる一方、500nmを超えれば感圧導電性エラストマー1の繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性や繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が悪くなるので、いずれの場合も望ましくない。
【0039】
導電性充填材の配合割合としては、0.5〜20wt%、好ましくは0.7〜10wt%、より好ましくは1〜5wt%が好適である。これに対し、導電性充填材の配合割合が0.5wt%未満であれば感圧導電性エラストマー1の電気抵抗値が高くなる一方、20wt%を超えれば感圧導電性エラストマー1の伸びや弾性が低下すると共に、無加圧時の感圧導電性エラストマー1の絶縁性が保たれないので、いずれの場合も望ましくない。
【0040】
本実施形態では、エラストマー積層体2は、さらに非導電性補強剤を含む。少なくとも非導電性エラストマーと導電性充填材とさえあれば、感圧導電性エラストマー1を成形することは可能である。しかし、そこに非導電性補強剤を添加することで、感圧導電性エラストマー1の電気抵抗値を目的の値に調整できると共に、感圧導電性エラストマー1の引っ張り強度、硬度、および耐久性を向上させることができる。
【0041】
非導電性補強剤としては、たとえば、粒径が1μm未満のセラミック粒子が用いられる。このセラミック粒子をエラストマー積層体2に配合することで、非導電性エラストマー中に導電性充填材をより均一に分散させることができると共に、感圧導電性エラストマー1の機械的強度をより高くすることができる。このようなセラミック粒子としては、等軸状セラミック粒子、板状セラミック結晶、針状セラミック結晶、セラミック単結晶粒子、セラミック多結晶粒子、造粒セラミック粉体、セラミック顆粒、後述する層状無機化合物粒子などが挙げられる。また、セラミック粒子は、後述する非導電性セラミック粒子であってもよい。
【0042】
セラミック粒子の粒径は、5〜500nm、好ましくは10〜100nm、より好ましくは20〜50nmが好適である。これに対し、セラミック粒子の粒径が5nm未満であればセラミック粒子の均一分散が困難になると共に、感圧導電性エラストマー1の電気抵抗値変化が小さくなる一方、500nmを超えれば感圧導電性エラストマー1の繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性や繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が悪くなるので、いずれの場合も望ましくない。
【0043】
セラミック粒子の配合割合としては、0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%、より好ましくは1〜25wt%が好適である。これに対し、セラミック粒子の配合割合が0.1wt%未満であれば感圧導電性エラストマー1の電気抵抗値が荷重印加に対して急激に低くなると共に、感圧導電性エラストマー1の強度を高くすることができないために繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性や繰り返しの圧縮変形に対する耐久性が悪くなる一方、50wt%を超えれば感圧導電性エラストマー1の伸びや弾性が低下するので、いずれの場合も望ましくない。
【0044】
セラミック粒子が極めて大きい表面積を有する層状無機化合物粒子の場合、少量の添加で感圧導電性エラストマー1の電気抵抗値を適度な値にできると共に、感圧導電性エラストマー1の引張強度や耐久性を向上させることができるという利点がある。このような層状無機化合物粒子としては、粘土鉱物などが挙げられる。粘土鉱物としては、モンモリロナイト、スメクタイト、ハイドロタルサイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、サボナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ベントナイト、雲母鉱物、チタン酸化合物などが挙げられる。
【0045】
ここで、層状無機化合物粒子に有機化合物をインターカレートしておけば、層状無機化合物粒子とマトリックス(母材)としての硬化後の非導電性エラストマーとの親和性が高くなる。そのため、有機化合物をインターカレートした層状無機化合物粒子を配合すれば、感圧導電性エラストマー1中における亀裂生成を阻害できると共に、仮に亀裂が生成したとしても分子スケール又はナノメータースケールで亀裂の伝播・拡大を抑制できるので、荷重を印加及び除加した場合や熱的な変化を受けた場合における感圧導電性エラストマー1の機械的強度や耐久性を飛躍的に向上させることができるという利点がある。ここでいう分子スケールとは、1nm未満のスケールをいう。ナノメータースケールとは、1000nm(1μm)未満のスケールをいう。
【0046】
インターカレートに用いる有機化合物としては、炭素数6以上のアルキル基を有しかつ末端にイオン化可能な極性基(アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基等)を有するアミン、アルコール、カルボン酸、アルデヒド等が挙げられる。層状無機化合物粒子に有機化合物をインターカレートする方法としては、層状無機化合物粒子の懸濁液に有機化合物を添加、溶解させて所定時間撹拌する方法等が挙げられる。この場合、混合液に超音波を照射しながら撹拌すれば、より効率良くインターカレートできるという利点がある。
【0047】
特に、有機化合物及び硬化(架橋)前の非導電性エラストマーをインターカレートした層状無機化合物粒子を配合すれば、より効果的である。有機化合物及び硬化前の非導電性エラストマーをインターカレートする方法としては、上記のようにして有機化合物をあらかじめインターカレートしておいた層状無機化合物粒子を硬化前の非導電性エラストマーの溶液に添加し、この混合液を所定時間撹拌する方法等が挙げられる。この場合、混合液に超音波を照射しながら撹拌すれば、上記と同様、より効率良くインターカレートできるという利点がある。
【0048】
また、セラミック粒子は、有機化合物で表面処理した非導電性セラミック粒子が用いられる。非導電性セラミック粒子を有機化合物で表面処理(表面修飾)しておけば、非導電性セラミック粒子とマトリックス(母材)としての非導電性エラストマーとの間の結合性・親和性が高くなる。これは、有機化合物による表面処理によって、有機化合物の末端が非導電性セラミック粒子の表面に化学的に付加すると共に、有機化合物の他の有機官能基とマトリックスとしての硬化後の非導電性エラストマー分子との間に化学的もしくは物理的な親和が生じるからであると考えられる。そのため、有機化合物で表面処理した非導電性セラミック粒子を導電性充填材と共に配合すれば、感圧導電性エラストマー1中における亀裂生成を阻害できると共に、仮に亀裂が生成されたとしても分子スケール又はナノメータースケールで亀裂の伝播・拡大を抑制できるので、荷重を印加及び除加した場合や、これを多数回繰り返した場合、また熱的な変化を受けた場合における感圧導電性エラストマー1の機械的強度や耐久性を飛躍的に向上させることができるという利点がある。さらに、上記のような非導電性セラミック粒子とマトリックスとしての硬化後の非導電性エラストマーとの間の高い結合性・親和性のために、エラストマー本来の柔軟性を損なうことなく強度を向上させることができるという利点がある。
【0049】
ここで、非導電性セラミック粒子は、結晶質粒子、非晶質粒子、及びガラス質粒子のうちのいずれでもよい。このような非導電性セラミック粒子としては、二酸化ケイ素(シリカ)、マグネシア、カルシア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、イットリア、ハフニア、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、モナザイト、コーディエライト、ガーネット、パイロクロア、シリカガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
【0050】
非導電性セラミック粒子の表面処理に用いる有機化合物としては、無機物質と反応・結合する官能基〔X〕、及び、有機物質と反応・結合又は相互作用をする官能基〔Y〕をいずれも有するシランカップリング剤やシリル化剤等が挙げられる。
【0051】
シランカップリング剤の一般式は、
Y−R−Si−X
3
(但し、式中のRは不特定の原子団、Siはケイ素をそれぞれ表す。)
で示される。
【0052】
官能基〔X〕としては、水あるいは湿気と反応してシラノールを生成する官能基であるアルコキシ基、アセトキシ基、塩素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。官能基〔Y〕としては、ビニル基、アリル基、メタクリル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、アルキル基等が挙げられる。
【0053】
有機化合物による表面処理の方法としては、非導電性セラミック粒子と有機化合物との混合・攪拌を溶媒中で行う湿式処理、混合・攪拌を無溶媒系で行う乾式処理の他、乾式処理後に更に湿式処理を行う方法等が挙げられる。湿式処理としては、あらかじめシランカップリング剤等の有機化合物又はその原料を溶解した有機溶媒あるいは水に非導電性セラミック粒子を添加・攪拌して化学反応させることにより、非導電性セラミック粒子の表面に有機化合物を結合させる方法等が挙げられる。また、湿式処理においては、濃度0.01〜2.0重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%となるようにシランカップリング剤等の有機化合物を溶媒に溶解した溶液としておき、この溶液100重量部に対して非導電性セラミック粒子を0.5〜5.0重量部、好ましくは1.0〜2.5重量部添加して表面処理することが好適である。一方、乾式処理におけるシランカップリング剤等の有機化合物の配合量は、非導電性セラミック粒子100重量部に対して0.05〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部が好適である。
【0054】
さらに、セラミック粒子は、シリカ粒子を疎水処理したものである疎水性シリカ粒子、および中空構造のシリカ粒子である中空シリカ粒子の2種類の粒子が用いられる。この場合、シリコーンゴムおよび炭素粒子との親和性に優れているため、良好な分散性を実現することができる。ここでは、セラミック粒子として疎水性シリカ粒子および中空シリカ粒子の2種類の粒子が用いられたが、疎水性シリカ粒子および中空シリカ粒子の内、どちらか一方の粒子を用いてもよい。
【0055】
基材3は、たとえば、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂からなる高分子フィルムが用いられる。PET樹脂からなる高分子フィルムは、柔軟でありながら優れた強度を持ち合わせているので、基材3として適している。その上、耐熱性も高いので、非導電性エラストマーとして加熱硬化型エラストマーを用いる場合でも、問題なく用いることができる。加えて、安価であり、エラストマー積層体2との剥離性も良好である。なお、PET樹脂からなる高分子フィルムは、厚みが50μm以上500μm未満であることが望ましい。
【0056】
このほか、基材3として用いることができる高分子フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルやポリビニルアルコールなどのビニル系樹脂、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸エチルなどのアクリル系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリカーボネートやセロファンなどのエラストマー系樹脂などからなるものである。
【0057】
基材3として用いることができるそれ以外のフィルムとしては、金属箔フィルム、ガラスフィルム、もしくはこれらを高分子フィルムと組み合わせた複合化フィルムなどが挙げられる。また、フィルムではなく、紙、布、ゴムシート、電極基板などを基材3として用いることも可能である。
【0058】
次に、本実施形態の感圧導電性エラストマー1の製造方法について説明する。本実施形態の感圧導電性エラストマー1は、非導電性エラストマーであるシリコーンゴムと、導電性充填材であるナノサイズの炭素粒子と、非導電性補強剤であるナノサイズの2種のシリカ粒子とをノルマルヘキサン溶媒中に分散させてスラリー状のエラストマー積層体2を生成し、そのエラストマー積層体2をPET樹脂からなる高分子フィルムである基材3に塗布または印刷して硬化させたものである。なお、製造工程における分散溶媒としてノルマルヘキサンを採用した場合、ノルマルヘキサンとシリコーンゴム、シリカ粒子、炭素粒子とが良好な親和性を示すため、撹拌および分散を容易に行うことができる。
【0059】
均一な厚さの薄膜状のエラストマー積層体2を基材3に形成する方法としては、たとえば、ドクターブレード法がある。
図2は、ドクターブレード法により基材3にエラストマー積層体2を形成する状態を示す説明図である。
【0060】
図2に示されるように、本実施形態のドクターブレード法では、一部がドクターブレード形状に形成された容器4が用いられる。この容器4は、外周壁の下端部の一部に、容器4の内外を連通して吐出口5が形成されている。吐出口5が形成された箇所において、容器4の外周壁の下端部は、ドクターブレード形状に形成されている。
【0061】
容器4には、スラリー状のエラストマー積層体2が収容される。エラストマー積層体2は、シリコーンゴムを溶媒に溶かし、そこに、ナノサイズの炭素粒子、ナノサイズの疎水性シリカ粒子およびナノサイズの中空シリカ粒子を配合して混合し、その混合物から溶媒を取り除くことで、スラリー状の材料に形成される。なお、シリコーンゴム、ナノサイズの炭素粒子、ナノサイズの疎水性シリカ粒子、ナノサイズの中空シリカ粒子、およびノルマルヘキサン溶媒は、所定の割合で配合される。
【0062】
容器4内のスラリー状のエラストマー積層体2が吐出口5から外部へ吐出されつつ、容器4の下方に配置される高分子フィルム3が吐出口5から離れる方向へローラなどで移動することで、高分子フィルム3の上面にエラストマー積層体2が薄膜状に形成される。その後、所定の方法でエラストマー積層体2を硬化させることで、感圧導電性エラストマー1を形成することができる。このように、ドクターブレード法は、基材3の上にスラリー状のエラストマー積層体2をドクターブレードによって一定の厚さでコーティングして硬化させることで成形する方法である。この方法は、特に、厚さの均一な長尺シート状に成形する場合に好適に用いられる。
【0063】
また、エラストマー積層体2を基材3に形成する方法としては、たとえば、ディッピング法がある。
図3は、ディッピング法により基材3にエラストマー積層体2を形成する状態を示す説明図である。ここでは、基材3は、立体形状に形成されている。
【0064】
この
図3に示されるように、本実施形態のディッピング法は、容器6内に収容されたスラリー状のエラストマー積層体2に基材3を浸すこと(ディッピング)によって基材3の表面にエラストマー積層体2を付着させ、そしてエラストマー積層体2を硬化させることで、基材3とエラストマー積層体2とを接着させる方法である。なお、エラストマー積層体2は、前述したドクターブレード法で用いられたものと同様のものとされる。このディッピング法は、ロボットハンドなどの立体表面にエラストマー積層体2を成形する場合に好適に用いられ、厚塗りや重ね塗りなどが可能である。
【0065】
その他、基材3にエラストマー積層体2を形成する方法としては、スクリーン印刷法、パッド印刷法などがある。これらの方法は、空気中、真空中、不活性ガス中などで行うことが可能である。
【0066】
本実施形態の場合、高分子フィルム3とエラストマー積層体2とを一体化した状態で形成することができるので、従来のようにエラストマー積層体2が折り返されて表面同士が互いに貼り付いてしまう事態を防ぐことができるうえ、引っ張る力に対する強度が補強されるので、取り扱いを容易にすることができる。また、流動状(スラリー状)のエラストマー積層体2を高分子フィルム3に付着させて硬化させるので、ロール機を用いて圧延して形成する場合と比較して、エラストマー積層体2の厚みを容易により薄くすることができる。
【0067】
また、本実施形態の場合、基材3として高分子フィルムが用いられると共に、エラストマー積層体2が厚みを薄く形成される。従って、フィルム3とエラストマー積層体2とが一体化した状態で形成された感圧導電性エラストマー1は、柔軟性があって曲げても割れたりしないものとすることができる。
【0068】
また、本実施形態の場合、エラストマー積層体2が基材3と接着した状態で形成される。従って、感圧導電性エラストマー1の基材3との接着面は平滑なので、スプリッティングマシーンで表面を削ぐ必要も無くなる。
【0069】
さらに、本実施形態の場合、エラストマー積層体2と高分子フィルムである基材3とが一体化した状態で形成されるので、従来のように保護カバーの貼り付け作業を行う必要が無くなり、生産性の向上を図ることができる。保護カバーを貼り付けていない薄型感圧導電性エラストマー1が必要な場合でも、エラストマー積層体2を基材3から剥がすだけで済む。エラストマー積層体2との剥離性に優れた基材3であれば、この作業は極めて容易であり、時間も手間もかからない。
【0070】
本発明は、前記実施形態の構成に限らず、適宜変更可能である。たとえば、前記実施形態では、基材3は、PET樹脂からなる高分子フィルムとされたが、これに限定されるものではなく、たとえば、プリント配線板でもよい。この場合、基材3に電極の役割を果たすプリント配線板が用いられるので、エラストマー積層体2と電極とを一体化した状態で形成することができる。従って、エラストマー積層体2を形成後に、エラストマー積層体2と電極とを接着剤などで接着する作業を行う必要がなくなり、性能の安定化、歩留まりの改善および形成作業の効率化を図ることができる。
【実施例1】
【0071】
次に、本発明の実施例について説明する。
非導電性エラストマーとしては、1液型の加熱硬化型シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、商品名:KE−1830)を用いた。導電性充填材としては、ナノサイズカーボンブラック粒子(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、商品名:EC600JD)を用いた。非導電性補強剤としては、疎水性ナノサイズシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名:RX50)と中空ナノサイズシリカ粒子(日鉄鉱業株式会社製、商品名:シリナックス)を用いた。
【0072】
感圧導電性エラストマーを作成するには、まず、ナノサイズカーボンブラック粒子、疎水性ナノサイズシリカ粒子および中空ナノサイズシリカ粒子を混合して撹拌した混合物を、硬化前の非導電性エラストマーを溶媒に溶かした溶液に配合した後、ホモジナイザーによる超音波分散を60分間行い、十分に分散させた。なお、硬化前の非導電性エラストマー、ナノサイズカーボンブラック粒子、疎水性ナノサイズシリカ粒子、中空ナノサイズシリカ粒子およびノルマルヘキサン溶媒は、下記の表1の割合で配合した。
【0073】
【表1】
【0074】
次に、エバポレーターにより205hPaで溶媒除去を375秒間行うことで、混合物から溶媒をある程度取り除き、粘性のあるスラリー状とした。このスラリー状材料に、自転公転式攪拌脱泡機による3分間の分散工程を施し、再び分散させた。このスラリー状材料を、ドクターブレード法により、PET樹脂からなる厚さ100μmの高分子フィルム表面にコーティングし、最後に室温で30分放置して溶媒を揮発させたあと、恒温恒湿槽(温度90℃、湿度30%)に投入して12時間硬化させることで、感圧導電性エラストマーシートを作成した。
【0075】
得られた感圧導電性エラストマーシートから5mm×5mmの角形シート(面積:25mm
2)を抜き取り、繰り返し3回の圧縮変形に対する電気抵抗値の変化(再現性)を調べた。その結果を
図4に示す。圧縮条件は、下記の条件1とした。
【0076】
(条件1)
フォースゲージを用いて、ヘッドスピード2m/minで2000gfの荷重が加わるまで圧縮する。2000gfの荷重が加わったら、同じヘッドスピードで荷重から解放する。
【0077】
また、上記と同様の角形シートを別途用意し、繰り返し10万回の圧縮変形に対する電気抵抗値の変化(耐久性)を調べた。その結果を
図5に示す。試験条件は、下記の条件2とした。
【0078】
(条件2)
500gfの荷重を、0.1秒加重−0.1秒解放のサイクルで加える。1サイクルで圧縮1回とカウントし、一定回数圧縮するごとに条件1の条件下で特性を測定した。この測定は、圧縮回数0〜1000では圧縮100回ごとに、圧縮回数1000〜10000では圧縮1000回ごとに、圧縮回数10000〜100000では圧縮10000回ごとに行った。
【0079】
その他にも、再現性の試験を異なる温度環境で行った場合にどうなるか(温度依存性)を調べ、3回目の圧縮変形に対する電気抵抗値の変化を温度ごとに比較した。その結果を
図6に示す。試験条件は、下記の条件3とした。
【0080】
(条件3)
上記と同様の角形シートを、20℃に設定したドラフトチャンバーの中に1時間入れておいたあと、条件1の圧縮条件で再現性の試験を行った。次いで、ドラフトチャンバーの温度を30℃に設定し、同様にして1時間後に試験を行った。このように、温度を20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、20℃、10℃、0℃、−10℃、−20℃、と変化させながら、合計で11回、1時間ごとに試験を行った。ただし、70℃と20℃の間だけ1時間ではなく16時間の時間を空けた。
【実施例2】
【0081】
実施例1と同じ材料を用いて、実施例1と同じ方法で感圧導電性エラストマーを形成した。ただし、形成した感圧導電性エラストマーは4枚であり、それぞれの感圧導電性エラストマーは、非導電性エラストマー、各粒子および溶液を表2の割合で配合した。これは、表1の配合において、ナノサイズカーボンブラック粒子の配合量だけ変更したものである。
【0082】
【表2】
【0083】
これらの感圧導電性エラストマーについて、実施例1と同様に、得られた感圧導電性エラストマーシートから5mm×5mmの角形シート(面積:25mm
2)を抜き取り、繰り返し3回の圧縮変形に対する電気抵抗値の変化(再現性)を調べた。そして、3回目の圧縮変形に対する電気抵抗値の変化を、ナノサイズカーボンブラック粒子の配合量ごとに比較した。その結果を
図7に示す。圧縮条件は実施例1と同様に条件1とした。
【0084】
非導電性エラストマーとしては、1液型の常温硬化シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、商品名:KE−445)を用いた。粒径がナノメーターサイズの導電性フィラーとしては、球状の炭素粒子(三菱化学株式会社製、商品名:ケッチンブラックEC600JD、粒径:20〜40nm、平均粒径:34nm)を用いた。非導電性エラストマーには、導電性フィラーの他、シリコーンゴム粒子〔A〕(東レダウコウニング株式会社製、商品名:E80、粒径:20〜140μm、平均粒径:70μm、不定形)及びシリコーンゴム粒子〔B〕(東レダウコウニング株式会社製、商品名:トスパール、粒径:2〜3μm、平均粒径:2μm、球形)も配合した。なお、ナノメーターサイズとは、1000nm(1μm)未満のサイズをいう。
【0085】
感圧導電性エラストマーの作製に際しては、まず、硬化前の非導電性エラストマーを表3の配合量でヘキサン溶媒に溶かして非導電性エラストマー溶液とし、これに導電性フィラー、シリコーンゴム粒子〔A〕、及びシリコーンゴム粒子〔B〕を表3の割合で配合し、混合機で十分に混合した。
【0087】
次いで、エバポレーションにより混合物からヘキサン溶媒を留去し、十分に脱泡した。脱泡後の混合物をカレンダー成形機により圧延し、その圧延物を室温で24時間放置して硬化させ、厚さ1mmの感圧導電性エラストマーシートを作製した。
【0088】
得られた感圧導電性エラストマーシートから5mm×5mm角(面積:25mm
2)の角形シートを切り取り、繰り返し(1〜10回)の圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性(F−R特性)を調べた。その結果を
図8に示す。電気抵抗値の測定に際しては、1対の電極を上面に有する電極基板上に角形シートを載置し、更にその上をゴムカバーで覆うことにより、角形シートの上面全体に負荷(荷重)が加わるようにした。圧縮サイクルは、0.25Hz(負荷:3000gf、印加時間:1秒、除加時間:3秒)とした。
【0089】
これを
図4と見比べることにより、実施例1の方法でも感圧性のあるエラストマーシートが成形できていることが分かる。比較例では、
図8に示されるように、電気抵抗値変化特性のばらつきが小さい。これは、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性が良好であることを意味している。一方、実施例1では、
図4に示されるように、電気抵抗値変化特性のばらつきが小さい。従って、実施例1においても、繰り返しの圧縮変形に対する電気抵抗値変化の再現性が良好であることが確認された。また、実施例1および2で成形した計5つの感圧導電性エラストマーシートについて、各シートから5mm×5mmの角形シート(面積:25mm
2)を抜き取り、その厚さをダイヤルゲージで測定した。その結果を
図9に示す。ただし、
図9で示す厚さは、基板として用いた厚さ100μmのPET樹脂からなる高分子フィルムを含んだ厚さである。この図から分かるように、既存の感圧導電性エラストマーは300μmまでしか薄くすることができなかったが、本発明に係る方法ではそれより薄く成形できることが分かる。従って、従来のようにスプリッティングマシーンでスライスする必要がない。
【0090】
また、
図5から、何度圧縮され続けても良好なF−R特性を示し続けることが確認された。また、
図6から、幅広い温度範囲において良好なF−R特性を示すことが確認された。すなわち、
図5および
図6から、薄型感圧導電性エラストマーのF−R特性の頑強さが確認された。さらに、
図7から、導電性充填材の配合量を変えることで、薄型感圧導電性エラストマーの出力する抵抗値を操作できることが確認された。すなわち、顧客の要望に合わせて抵抗値の範囲を変えるなど、薄型感圧導電性エラストマーのF−R特性の柔軟さが確認された。