【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、AFX型ゼオライトについて検討した。その結果、DC4Brを含む組成物を結晶化して得られたAFX型ゼオライトは物質の拡散が十分に行われないこと、及び、AFX型ゼオライトの細孔状態を制御することで物質拡散に優れ、触媒特性が向上することを見出した。また更に、物質拡散に優れたAFX型ゼオライトを工業的に製造することができる、安価なAFX型ゼオライトの製造方法を見出した。
【0011】
すなわち、本発明はメソ孔を有するAFX型ゼオライトである。
【0012】
以下、本発明のAFX型ゼオライトについて説明する。
【0013】
本発明はAFX型ゼオライトに係る。AFX型ゼオライトとは、AFX構造を有するゼオライトであり、特にAFX構造を有するアルミノシリケートである。
【0014】
AFX構造とは、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コード(以下、単に「構造コード」とする。)で、AFX型となる構造である。
【0015】
本発明のAFX型ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO
2/Al
2O
3比」ともいう。)は4以上であることが好ましい。SiO
2/Al
2O
3比は触媒等の各用途に適した値とすればよい。SiO
2/Al
2O
3比が4以上、更には5以上、また更には6以上であることで、触媒等に適用できる触媒特性及び耐熱性を有する。SiO
2/Al
2O
3比が大きくなることで耐熱性が高くなる傾向があるが、触媒特性と耐熱性とを両立させるため、本発明のAFX型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比は50以下、更には30以下、また更には15以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のAFX型ゼオライトはメソ孔を有する。本発明におけるメソ孔及びミクロ孔はIUPACの定義に従う。すなわち、細孔直径が2nm未満の細孔がミクロ孔、細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔がメソ孔、及び、細孔直径が50nm超の細孔がマクロ孔である。
【0017】
本発明のAFX型ゼオライトがメソ孔を有することは、窒素の吸脱着測定により確認することができる。窒素吸脱着測定において、メソ孔を有さない物質の吸着等温線と脱離等温線はほぼ一致する挙動を示す。これに対し、メソ孔を有する物質では窒素の脱離が生じにくいため、特定の圧力範囲における吸着等温線と脱離等温線が一致しない部分を有する。本発明のAFX型ゼオライトは、測定温度77Kでの窒素吸脱着測定において、吸着等温線と脱離等温線との不一致部(以下、「ヒステリシスループ」ともいう。)を有すること、更に相対圧(P/P
0)0.4〜0.9においてヒステリシスループを有すること、また更には相対圧(P/P
0)0.4〜0.9においてH4型のヒステリシスループを有することが挙げられる。H4型のヒステリシスループとはIUPACの定義に基づくものである。
【0018】
本発明のAFX型ゼオライトは、当該AFX型ゼオライトのカチオンタイプをNH
4型とした場合であって、液体窒素温度下の窒素吸脱着測定における窒素吸着量が以下の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
V
P1−V
P2≧0.7
上記式において、V
P1は飽和吸着した窒素の脱離過程における相対圧(P/P
0)0.9での窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値(mL/g)であり、一方、V
P2は飽和吸着した窒素の脱離過程における相対圧(P/P
0)0.4での窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値(mL/g)である。また、液体窒素温度として77Kを挙げることができる。
【0020】
窒素吸脱着測定において、相対圧(P/P
0)0.9及び0.4における窒素吸着量が直接測定されない場合、各相対圧(P/P
0)±0.05の範囲内で測定された窒素吸着量であって、各相対圧(P/P
0)に最も近い2点の相対圧における窒素吸着量のプロットを直線で結んだ線から、各相対圧(P/P
0)に相当する窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値をもって、V
P1及びV
P2とすることができる。
【0021】
上記のV
P1−V
P2(以下、「メソ孔吸着量」ともいう。)はメソ孔の細孔容積を反映する指標となる。メソ孔吸着量が大きくなるほど、本発明のAFX型ゼオライトのメソ孔容積が大きくなる。結晶構造中の物質拡散がより促進されるため、メソ孔吸着量は7(mL/g)以上、更には9(mL/g)であることが好ましい。一方、メソ孔を有さないAFX型ゼオライトはH4型のヒステリシスループを有さないこと、又はメソ孔吸着量が5(mL/g)以下であることから確認することができる。
【0022】
物質拡散の促進と粒子の充填性の観点から、メソ孔吸着量は20mL/g以下、更には16mL/g以下、また更には14mL/g以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のAFX型ゼオライトはミクロ孔を有する。ミクロ孔は触媒反応における反応場や吸着反応における吸着場となるため、本発明のAFX型ゼオライトはミクロ孔を多く含むことが好ましく、ミクロ孔の細孔容積(以下、「ミクロ孔容積」ともいう。)は0.20mL/g以上、更には0.22mL/g以上、更には0.24mL/g以上、また更には0.25mL/g以上であることが好ましい。ミクロ孔はAFX型ゼオライトの結晶構造に由来するため、AFX型ゼオライトが有するミクロ孔容積には上限がある。したがって、本発明のAFX型ゼオライトのミクロ孔容積は0.40mL/g以下、更には0.35mL/g以下、また更には0.30mL/g以下である。
【0024】
ここで、本発明におけるミクロ孔容積はt−プロット法により測定される値である。
【0025】
このように、本発明のAFX型ゼオライトは、ミクロ孔とメソ孔とを有する構造である。このような階層的な細孔構造であること、ミクロ孔内の拡散が律速となる反応における反応物質の拡散が促進される。これにより本発明のAFX型ゼオライトの触媒特性が高くなる。
【0026】
本発明のAFX型ゼオライトは、BET比表面積が400m
2/g以上、更には450m
2/g以上、また更には500m
2/g以上、また更には550m
2/g以上であることが好ましい。BET比表面積が適度に高いことで、表面を反応場とする反応や吸着が生じやすくなる。比表面積として700m
2/g以下、更には650m
2/g以下、また更には600m
2/g以下であればよい。
【0027】
次に、本発明のAFX型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0028】
上記のとおり、キヌクリジン誘導体を使用するAFX型ゼオライトの製造方法は製造コストが高すぎるため現実的な製造方法ではない。一方、DC4BrをOSDAとして含む組成物を結晶化するAFX型ゼオライトの製造方法は工業的に適用できる可能性があるが、得られるAFX型ゼオライトの物質拡散性が低い。さらに、キヌクリジン誘導体と比較するとDC4Brは安価であるが、工業的原料とする場合、依然としてDC4Brは高価な化合物である。このように、いずれの製造方法もOSDAが必須であるため、これらの製造方法は製造コストが高くなる。これに対し、本発明の製造方法はOSDAを必須とすることなくAFX型ゼオライトを製造することができる。
【0029】
すなわち、本発明のAFX型ゼオライトの製造方法は、シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源及び種晶を含み、なおかつ、シリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比が0.01未満である組成物を結晶化させる結晶化工程、を有するAFX型ゼオライトの製造方法である。
【0030】
本発明の製造方法では、シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源及び種晶を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化する。本発明の製造方法における原料組成物は、OSDAを必須の成分とすることなく、メソ孔を有するAFX型ゼオライト、更にはメソ孔とミクロ孔とを有するAFX型ゼオライトが得ることができる。
【0031】
原料組成物のシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比は0.01未満である。本発明の製造方法における原料組成物はOSDAを含むことなくAFX型ゼオライトを得ることができる。そのため、原料組成物はOSDA、特に四級アンモニウムカチオンを含まない。しかしながら、不純物等として極微量の四級アンモニウムカチオンが含まれる場合がある。そのため、本発明の原料組成物のシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比は0.01未満であり、更には0.005以下であることが好ましい。原料組成物は実質的にシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比が0であることが好ましいが、組成分析等の誤差を考慮すると、原料料組成物のシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比は0.002以下、更には0.001以下であればよい。
【0032】
原料組成物に含まれるシリカ源は、シリカ(SiO
2)又はその前駆体となるケイ素化合物であり、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、ヒュームドシリカ、ゼオライト及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種を挙げることができ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、ヒュームドシリカ及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
原料組成物に含まれるアルミナ源は、アルミナ(Al
2O
3)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であり、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミノシリケートゲル、ゼオライト、金属アルミニウムからなる群の少なくとも1種を用いることができ、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、金属アルミニウム及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
原料組成物に含まれるナトリウム源は、ナトリウムを含む化合物であればよく、水酸化ナトリウム又はナトリウムのハロゲン化物、更には水酸化ナトリウムが好ましい。また。シリカ源、アルミナ源等、他の原料に含まれるナトリウムをナトリウム源としてもよい。
【0035】
原料組成物は種晶を含む。種晶は、AFX型ゼオライトであることが好ましい。OSDAを用いないゼオライトの結晶化において、種晶は生成するゼオライトの結晶相に大きな影響を与える。種晶の作用機構には様々な態様が存在する。特に、種晶が完全に溶解することなく、新たな結晶成長の場として機能する場合には、種晶の結晶構造や露出した結晶面が生成物に直接的に影響すると考えられる。種晶としてAFX型ゼオライトを用いることで、最もAFX型ゼオライトが得やすくなる。
【0036】
種晶は、原料組成物の固形分重量に対する種晶の重量割合が1%以上となるように原料組成物に混合することが好ましく、更には5%以上、また更には10%以上、また更には20%以上、また更には30%以上、また更には40%以上、また更には50%以上である。ここで原料組成物の固形分重量とは、原料組成物中のSi及びAlをそれぞれSiO
2及びAl
2O
3に換算した重量の和であり、原料組成物に混合される種晶中のSi及びAlの重量は含まない。
【0037】
原料組成物のSiO
2/Al
2O
3比は20以上、更には25以上、また更には30以上、また更には35以上、また更には40以上であることが好ましい。これにより溶解が促進され、結晶成長が速くなる。SiO
2/Al
2O
3は、100以下、更には80以下、また更には65以下であることが好ましい。これによりAFX型ゼオライトの収率が高くなりやすい。
【0038】
原料組成物のシリカに対する水のモル比(以下、「H
2O/SiO
2比」ともいう。)は、5以上、60以下であることが好ましい。H
2O/SiO
2がこの範囲であれば、結晶化中に適度な攪拌が可能な粘度の混合物となる。またH
2O/SiO
2は50以下、更には40以下、また更には25以下であることが好ましい。これにより収率が高くなりやすい。
【0039】
原料組成物のシリカに対する水酸化物イオンのモル比(以下、「OH/SiO
2比」ともいう。)は0.40以上、更には0.50以上、また更には0.55以上、また更には0.60以上であることが好ましい。これにより原料の溶解が促進され、結晶成長が速くなる。OH/SiO
2は1.00以下、更には0.80以下、また更には0.70以下、また更には0.65以下であることが好ましい。これによりAFX型ゼオライトの収率が高くなりやすい。
【0040】
不純物の生成を抑制されやすくなるため、結晶化温度は110℃以上180℃以下、更には120℃以上160℃以下、更には120℃以上150℃以下であることが好ましい
原料組成物が結晶化する条件であれば、任意の結晶化方法を使用することができ、水熱処理による結晶化であることが好ましい。水熱処理は、混合物を密閉耐圧容器に入れ、これを加熱すればよい。水熱処理条件として以下のものを挙げることができる。
処理時間 :2時間以上500時間以下、好ましくは5時間以上240時間以下
処理圧力 :自生圧
【0041】
水熱処理の間、原料組成物は静置された状態又は攪拌された状態のいずれでもよい。不純物の生成を抑制するため、結晶化は混合物が攪拌された状態で行うことが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法では、結晶化工程の後、洗浄工程、乾燥工程、アンモニウム処理工程又はプロトン化工程のいずれかを含んでもよい。一方、本発明の製造方法ではOSDAを含まない原料組成物からAFX型ゼオライトが得られる。そのため、OSDAを除去する工程するために必要とされる焼成工程や、その他OSDA除去工程を含まなくてもよい。
【0043】
洗浄工程は、結晶化工程後の生成物からAFX型ゼオライトと液相とを固液分離する。洗浄工程は、公知の方法で固液分離をし、固相として得られるAFX型ゼオライトを純水で洗浄すればよい。具体的には、水熱処理により得られた生成物をろ過、洗浄し、液相と固相に分離し、AFX型ゼオライトを得る方法が挙げられる。
【0044】
乾燥工程は、結晶化工程後又は洗浄工程後のAFX型ゼオライトから水分を除去する。乾燥工程の条件は任意であるが、結晶化工程後の混合物、又は洗浄工程後で得られたAFX型ゼオライトを、大気中、100℃以上、150℃以下の条件下で2時間以上処理することが例示できる。乾燥方法として、静置又はスプレードライヤーが例示できる。
【0045】
アンモニウム処理工程は、AFX型ゼオライトに含有されるアルカリ金属カチオンを交換し、アンモニウム型にするために行う。アンモニウム処理工程は例えば、アンモニウムイオンを含有する水溶液をAFX型ゼオライトと接触させることで行う。
【0046】
プロトン化工程は、AFX型ゼオライトのカチオンを交換しプロトン型にするために行う。プロトン化は熱処理、又は酸処理により行うことができる。具体的な熱処理条件としては、アンモニウム型のAFX型ゼオライトを用い、大気中、500℃、1〜2時間処理することを挙げることができる。酸処理条件としては、塩酸、硝酸又は硫酸を含む水溶液とAFX型ゼオライトとを室温で接触させることを挙げることができる。