特許第6759596号(P6759596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759596
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】AFX型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20200910BHJP
   B01J 29/70 20060101ALI20200910BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20200910BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   C01B39/48ZAB
   B01J29/70 A
   B01J35/10 301F
   B01D53/94 222
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-6825(P2016-6825)
(22)【出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2017-128457(P2017-128457A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】楢木 祐介
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−520432(JP,A)
【文献】 特表2014−526429(JP,A)
【文献】 米国特許第05370851(US,A)
【文献】 特開2014−148441(JP,A)
【文献】 特開2013−234109(JP,A)
【文献】 米国特許第05194235(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C01B 33/20−39/54
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンタイプをNH型とした場合であって、液体窒素温度下の窒素吸脱着測定における窒素吸着量が以下の関係を満たす、メソ孔を有するAFX型ゼオライト。
VP1−VP2≧0.7
上記式において、VP1は飽和吸着した窒素の脱離過程における相対圧(P/P0)0.9での窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値(mL/g)であり、一方、VP2は飽和吸着した窒素の脱離過程における相対圧(P/P0)0.4での窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値(mL/g)である。また、液体窒素温度77Kである。
【請求項2】
ミクロ孔の細孔容積が0.20mL/g以上である請求項1に記載のAFX型ゼオライト。
【請求項3】
シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源及び種晶を含み、なおかつ、シリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比が0.01未満である組成物を結晶化させる結晶化工程、を有する請求項1又は2に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記種晶がAFX型ゼオライトである請求項3に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAFX型ゼオライト及びその製造方法に関する。更には、本発明はメソ細孔を有するAFX型ゼオライト、及び、有機構造指向剤を用いることなくAFX型ゼオライトを合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AFX型ゼオライトは、S.I.Zonesにより初めて合成された合成ゼオライトであり(特許文献1)、結晶構造中に酸素二重六員環(以下、「D6R」とする。)を有する。結晶構造中にD6Rを有するゼオライトは、オレフィン製造用触媒や選択的接触還元触媒(いわゆるSCR触媒)として期待されている。
【0003】
しかしながら、これまで報告されたAFX型ゼオライトの製造方法は限られており、AFX型ゼオライトの製造方法として以下のものが広く知られている。
【0004】
AFX型ゼオライトの製造方法のひとつは、有機構造指向剤(以下、「OSDA」ともいう。)としてキヌクリジン誘導体を含む組成物を結晶化する製造方法である(特許文献1、非特許文献1)。しかしながら、キヌクリジン誘導体は非常に高価な化合物であるため、特許文献1の製造方法及びこれにより製造されるAFX型ゼオライトは工業的に適用することはできないことはもちろん、実用的な製造方法とすることはできなかった。
【0005】
他方のAFX型ゼオライトの製造方法は、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]−オクタン−C4−ジクアットジブロミド(以下、「DC4Br」とする。)を含む組成物を結晶化する製造方法である(特許文献2及び3、非特許文献2乃至4)。キヌクリジン誘導体と比較し、DC4Brは安価である。そのため、DC4BrをOSDAとして使用するこれらの製造方法は工業的に適用できる可能性がある。その一方で、DC4Brを使用する製造方法ではD6Rを結晶構造中に含むゼオライトであるY型ゼオライトを原料とし、D6RがAFX構造生成を容易にすることで、Y型ゼオライトからAFX型ゼオライトを製造するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4,508,837号
【特許文献2】米国特許5,194,235号
【特許文献3】国際公開2010/118377
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem Mater 8(1996)2409−2411
【非特許文献2】The Journal of Physical Chemistry C 114 (2010) 1633−1640
【非特許文献3】Applied Catalysis B:Environmental 102 (2011) 441−448
【非特許文献4】ACS Catalysis 2 (2012) 2490−2495
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DC4Brを含む組成物を結晶化するAFX型ゼオライトの製造方法及びこれにより得られるAFX型ゼオライトは工業的な適用が期待できる。その一方、触媒、特にSCR触媒等との用途においては、より一層の触媒特性を改善する必要があった。
【0009】
これらの課題に鑑み、本発明は工業的な触媒として適用できるAFX型ゼオライトを提供することを目的とする。さらには、この様なAFX型ゼオライトを製造する工業的な製造方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、AFX型ゼオライトについて検討した。その結果、DC4Brを含む組成物を結晶化して得られたAFX型ゼオライトは物質の拡散が十分に行われないこと、及び、AFX型ゼオライトの細孔状態を制御することで物質拡散に優れ、触媒特性が向上することを見出した。また更に、物質拡散に優れたAFX型ゼオライトを工業的に製造することができる、安価なAFX型ゼオライトの製造方法を見出した。
【0011】
すなわち、本発明はメソ孔を有するAFX型ゼオライトである。
【0012】
以下、本発明のAFX型ゼオライトについて説明する。
【0013】
本発明はAFX型ゼオライトに係る。AFX型ゼオライトとは、AFX構造を有するゼオライトであり、特にAFX構造を有するアルミノシリケートである。
【0014】
AFX構造とは、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コード(以下、単に「構造コード」とする。)で、AFX型となる構造である。
【0015】
本発明のAFX型ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO/Al比」ともいう。)は4以上であることが好ましい。SiO/Al比は触媒等の各用途に適した値とすればよい。SiO/Al比が4以上、更には5以上、また更には6以上であることで、触媒等に適用できる触媒特性及び耐熱性を有する。SiO/Al比が大きくなることで耐熱性が高くなる傾向があるが、触媒特性と耐熱性とを両立させるため、本発明のAFX型ゼオライトのSiO/Al比は50以下、更には30以下、また更には15以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のAFX型ゼオライトはメソ孔を有する。本発明におけるメソ孔及びミクロ孔はIUPACの定義に従う。すなわち、細孔直径が2nm未満の細孔がミクロ孔、細孔直径が2nm以上50nm以下の細孔がメソ孔、及び、細孔直径が50nm超の細孔がマクロ孔である。
【0017】
本発明のAFX型ゼオライトがメソ孔を有することは、窒素の吸脱着測定により確認することができる。窒素吸脱着測定において、メソ孔を有さない物質の吸着等温線と脱離等温線はほぼ一致する挙動を示す。これに対し、メソ孔を有する物質では窒素の脱離が生じにくいため、特定の圧力範囲における吸着等温線と脱離等温線が一致しない部分を有する。本発明のAFX型ゼオライトは、測定温度77Kでの窒素吸脱着測定において、吸着等温線と脱離等温線との不一致部(以下、「ヒステリシスループ」ともいう。)を有すること、更に相対圧(P/P)0.4〜0.9においてヒステリシスループを有すること、また更には相対圧(P/P)0.4〜0.9においてH4型のヒステリシスループを有することが挙げられる。H4型のヒステリシスループとはIUPACの定義に基づくものである。
【0018】
本発明のAFX型ゼオライトは、当該AFX型ゼオライトのカチオンタイプをNH型とした場合であって、液体窒素温度下の窒素吸脱着測定における窒素吸着量が以下の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
P1−VP2≧0.7
上記式において、VP1は飽和吸着した窒素の脱離過程における相対圧(P/P)0.9での窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値(mL/g)であり、一方、VP2は飽和吸着した窒素の脱離過程における相対圧(P/P)0.4での窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値(mL/g)である。また、液体窒素温度として77Kを挙げることができる。
【0020】
窒素吸脱着測定において、相対圧(P/P)0.9及び0.4における窒素吸着量が直接測定されない場合、各相対圧(P/P)±0.05の範囲内で測定された窒素吸着量であって、各相対圧(P/P)に最も近い2点の相対圧における窒素吸着量のプロットを直線で結んだ線から、各相対圧(P/P)に相当する窒素吸着量を0℃、1気圧に換算した値をもって、VP1及びVP2とすることができる。
【0021】
上記のVP1−VP2(以下、「メソ孔吸着量」ともいう。)はメソ孔の細孔容積を反映する指標となる。メソ孔吸着量が大きくなるほど、本発明のAFX型ゼオライトのメソ孔容積が大きくなる。結晶構造中の物質拡散がより促進されるため、メソ孔吸着量は7(mL/g)以上、更には9(mL/g)であることが好ましい。一方、メソ孔を有さないAFX型ゼオライトはH4型のヒステリシスループを有さないこと、又はメソ孔吸着量が5(mL/g)以下であることから確認することができる。
【0022】
物質拡散の促進と粒子の充填性の観点から、メソ孔吸着量は20mL/g以下、更には16mL/g以下、また更には14mL/g以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のAFX型ゼオライトはミクロ孔を有する。ミクロ孔は触媒反応における反応場や吸着反応における吸着場となるため、本発明のAFX型ゼオライトはミクロ孔を多く含むことが好ましく、ミクロ孔の細孔容積(以下、「ミクロ孔容積」ともいう。)は0.20mL/g以上、更には0.22mL/g以上、更には0.24mL/g以上、また更には0.25mL/g以上であることが好ましい。ミクロ孔はAFX型ゼオライトの結晶構造に由来するため、AFX型ゼオライトが有するミクロ孔容積には上限がある。したがって、本発明のAFX型ゼオライトのミクロ孔容積は0.40mL/g以下、更には0.35mL/g以下、また更には0.30mL/g以下である。
【0024】
ここで、本発明におけるミクロ孔容積はt−プロット法により測定される値である。
【0025】
このように、本発明のAFX型ゼオライトは、ミクロ孔とメソ孔とを有する構造である。このような階層的な細孔構造であること、ミクロ孔内の拡散が律速となる反応における反応物質の拡散が促進される。これにより本発明のAFX型ゼオライトの触媒特性が高くなる。
【0026】
本発明のAFX型ゼオライトは、BET比表面積が400m/g以上、更には450m/g以上、また更には500m/g以上、また更には550m/g以上であることが好ましい。BET比表面積が適度に高いことで、表面を反応場とする反応や吸着が生じやすくなる。比表面積として700m/g以下、更には650m/g以下、また更には600m/g以下であればよい。
【0027】
次に、本発明のAFX型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0028】
上記のとおり、キヌクリジン誘導体を使用するAFX型ゼオライトの製造方法は製造コストが高すぎるため現実的な製造方法ではない。一方、DC4BrをOSDAとして含む組成物を結晶化するAFX型ゼオライトの製造方法は工業的に適用できる可能性があるが、得られるAFX型ゼオライトの物質拡散性が低い。さらに、キヌクリジン誘導体と比較するとDC4Brは安価であるが、工業的原料とする場合、依然としてDC4Brは高価な化合物である。このように、いずれの製造方法もOSDAが必須であるため、これらの製造方法は製造コストが高くなる。これに対し、本発明の製造方法はOSDAを必須とすることなくAFX型ゼオライトを製造することができる。
【0029】
すなわち、本発明のAFX型ゼオライトの製造方法は、シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源及び種晶を含み、なおかつ、シリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比が0.01未満である組成物を結晶化させる結晶化工程、を有するAFX型ゼオライトの製造方法である。
【0030】
本発明の製造方法では、シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源及び種晶を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化する。本発明の製造方法における原料組成物は、OSDAを必須の成分とすることなく、メソ孔を有するAFX型ゼオライト、更にはメソ孔とミクロ孔とを有するAFX型ゼオライトが得ることができる。
【0031】
原料組成物のシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比は0.01未満である。本発明の製造方法における原料組成物はOSDAを含むことなくAFX型ゼオライトを得ることができる。そのため、原料組成物はOSDA、特に四級アンモニウムカチオンを含まない。しかしながら、不純物等として極微量の四級アンモニウムカチオンが含まれる場合がある。そのため、本発明の原料組成物のシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比は0.01未満であり、更には0.005以下であることが好ましい。原料組成物は実質的にシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比が0であることが好ましいが、組成分析等の誤差を考慮すると、原料料組成物のシリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比は0.002以下、更には0.001以下であればよい。
【0032】
原料組成物に含まれるシリカ源は、シリカ(SiO)又はその前駆体となるケイ素化合物であり、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、ヒュームドシリカ、ゼオライト及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種を挙げることができ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、ヒュームドシリカ及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
原料組成物に含まれるアルミナ源は、アルミナ(Al)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であり、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミノシリケートゲル、ゼオライト、金属アルミニウムからなる群の少なくとも1種を用いることができ、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、金属アルミニウム及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
原料組成物に含まれるナトリウム源は、ナトリウムを含む化合物であればよく、水酸化ナトリウム又はナトリウムのハロゲン化物、更には水酸化ナトリウムが好ましい。また。シリカ源、アルミナ源等、他の原料に含まれるナトリウムをナトリウム源としてもよい。
【0035】
原料組成物は種晶を含む。種晶は、AFX型ゼオライトであることが好ましい。OSDAを用いないゼオライトの結晶化において、種晶は生成するゼオライトの結晶相に大きな影響を与える。種晶の作用機構には様々な態様が存在する。特に、種晶が完全に溶解することなく、新たな結晶成長の場として機能する場合には、種晶の結晶構造や露出した結晶面が生成物に直接的に影響すると考えられる。種晶としてAFX型ゼオライトを用いることで、最もAFX型ゼオライトが得やすくなる。
【0036】
種晶は、原料組成物の固形分重量に対する種晶の重量割合が1%以上となるように原料組成物に混合することが好ましく、更には5%以上、また更には10%以上、また更には20%以上、また更には30%以上、また更には40%以上、また更には50%以上である。ここで原料組成物の固形分重量とは、原料組成物中のSi及びAlをそれぞれSiO及びAlに換算した重量の和であり、原料組成物に混合される種晶中のSi及びAlの重量は含まない。
【0037】
原料組成物のSiO/Al比は20以上、更には25以上、また更には30以上、また更には35以上、また更には40以上であることが好ましい。これにより溶解が促進され、結晶成長が速くなる。SiO/Alは、100以下、更には80以下、また更には65以下であることが好ましい。これによりAFX型ゼオライトの収率が高くなりやすい。
【0038】
原料組成物のシリカに対する水のモル比(以下、「HO/SiO比」ともいう。)は、5以上、60以下であることが好ましい。HO/SiOがこの範囲であれば、結晶化中に適度な攪拌が可能な粘度の混合物となる。またHO/SiOは50以下、更には40以下、また更には25以下であることが好ましい。これにより収率が高くなりやすい。
【0039】
原料組成物のシリカに対する水酸化物イオンのモル比(以下、「OH/SiO比」ともいう。)は0.40以上、更には0.50以上、また更には0.55以上、また更には0.60以上であることが好ましい。これにより原料の溶解が促進され、結晶成長が速くなる。OH/SiOは1.00以下、更には0.80以下、また更には0.70以下、また更には0.65以下であることが好ましい。これによりAFX型ゼオライトの収率が高くなりやすい。
【0040】
不純物の生成を抑制されやすくなるため、結晶化温度は110℃以上180℃以下、更には120℃以上160℃以下、更には120℃以上150℃以下であることが好ましい
原料組成物が結晶化する条件であれば、任意の結晶化方法を使用することができ、水熱処理による結晶化であることが好ましい。水熱処理は、混合物を密閉耐圧容器に入れ、これを加熱すればよい。水熱処理条件として以下のものを挙げることができる。
処理時間 :2時間以上500時間以下、好ましくは5時間以上240時間以下
処理圧力 :自生圧
【0041】
水熱処理の間、原料組成物は静置された状態又は攪拌された状態のいずれでもよい。不純物の生成を抑制するため、結晶化は混合物が攪拌された状態で行うことが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法では、結晶化工程の後、洗浄工程、乾燥工程、アンモニウム処理工程又はプロトン化工程のいずれかを含んでもよい。一方、本発明の製造方法ではOSDAを含まない原料組成物からAFX型ゼオライトが得られる。そのため、OSDAを除去する工程するために必要とされる焼成工程や、その他OSDA除去工程を含まなくてもよい。
【0043】
洗浄工程は、結晶化工程後の生成物からAFX型ゼオライトと液相とを固液分離する。洗浄工程は、公知の方法で固液分離をし、固相として得られるAFX型ゼオライトを純水で洗浄すればよい。具体的には、水熱処理により得られた生成物をろ過、洗浄し、液相と固相に分離し、AFX型ゼオライトを得る方法が挙げられる。
【0044】
乾燥工程は、結晶化工程後又は洗浄工程後のAFX型ゼオライトから水分を除去する。乾燥工程の条件は任意であるが、結晶化工程後の混合物、又は洗浄工程後で得られたAFX型ゼオライトを、大気中、100℃以上、150℃以下の条件下で2時間以上処理することが例示できる。乾燥方法として、静置又はスプレードライヤーが例示できる。
【0045】
アンモニウム処理工程は、AFX型ゼオライトに含有されるアルカリ金属カチオンを交換し、アンモニウム型にするために行う。アンモニウム処理工程は例えば、アンモニウムイオンを含有する水溶液をAFX型ゼオライトと接触させることで行う。
【0046】
プロトン化工程は、AFX型ゼオライトのカチオンを交換しプロトン型にするために行う。プロトン化は熱処理、又は酸処理により行うことができる。具体的な熱処理条件としては、アンモニウム型のAFX型ゼオライトを用い、大気中、500℃、1〜2時間処理することを挙げることができる。酸処理条件としては、塩酸、硝酸又は硫酸を含む水溶液とAFX型ゼオライトとを室温で接触させることを挙げることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明により、工業的な触媒として適用できるAFX型ゼオライトを提供することができる。従来のAFX型ゼオライトと比べて物質拡散に優れ、触媒反応や吸着反応が促進されたAFX型ゼオライトを提供することができる。さらには、この様なAFX型ゼオライトを製造する工業的な製造方法を提供することができる。本発明の製造方法では、有機構造指向剤を使用しないAFX型ゼオライトの製造方法であるため、より低コストでAFX型ゼオライトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】実施例1の生成物のXRDパターン
図2】実施例1のAFX型ゼオライトの窒素脱着等温線
図3】実施例2の生成物のXRDパターン
図4】比較例1の生成物のXRDパターン
図5】比較例2のAFX型ゼオライトの窒素脱着等温線
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
(粉末X線回折)
一般的なX線回折装置(商品名:Ultima IV Rigaku製)を使用し、試料のXRD測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
【0051】
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎秒0.02°
発散スリット: 1.00deg
散乱スリット: 1.00deg
受光スリット: 0.30mm
測定範囲 : 2θ=3.0°〜43.0°
得られたXRDのパターンから、結晶化工程で得られる生成物の結晶相、格子面間隔d、及びXRDピーク強度比を確認した。
【0052】
(組成分析)
一般的な誘導結合プラズマ発光分析装置(装置名:OPTIMA3300DV、PERKIN ELMER製)を用いて、試料の組成分析を行った。試料をフッ酸と硝酸の混合溶液に溶解させ、測定溶液を調製した。得られた測定溶液を装置に投入して試料の組成を分析した。
得られたケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)のモル濃度から、SiO/Alを算出した。
【0053】
(BET比表面積)
一般的なガス吸着量測定装置(装置名:BELSORP−max、MicrotracBEL社製)を用いて、試料の窒素吸脱着等温線を得た。測定に先立ち、試料を塩化アンモニウム水溶液でイオン交換した後、真空下、350℃で2時間の熱処理を行ない、前処理とした。窒素吸着条件は以下のとおりである。
測定方法 :定容法
吸着ガス :窒素
測定温度 :77K
得られた吸着等温線からBET多点法によりBET比表面積を求めた。相対圧P/Pは0.05〜0.15の範囲を用いた。
【0054】
(ミクロ孔容積)
BET比表面積の測定と同様な方法で吸着等温線を得た。得られた吸着等温線からt−プロット法によりミクロ孔容積を求めた。
【0055】
(メソ孔吸着量)
BET比表面積の測定と同様な方法で吸着等温線を得、その後、脱離等温線を得た。得られた脱離等温線から、以下の式によりメソ孔吸着量Vを求めた。
= VP1−VP2
上記式において、VP1は、相対圧(P/P)0.9における窒素吸着量(mL/g)、VP2は相対圧(P/P)0.4における窒素吸着量(mL/g)である。
【0056】
合成例1(種晶の合成)
3号珪酸ソーダ(SiO;30%、NaO;9.1%、Al;0.01%)、98%硫酸、水及び硫酸アルミニウムを混合して得られたゲルを固液分離し、純水により洗浄した。洗浄後のゲルに水、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムブロミド(以下、「DAdIBr」とする。)及び48%NaOHを加えて十分に撹拌混合し、組成物を得た。得られた組成物はモル比で以下の組成を有していた。
【0057】
SiO/Al = 19.8
OH/SiO = 0.20
Na/SiO = 0.20
DAdIBr/SiO = 0.05
O/SiO = 40
【0058】
得られた組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、当該オートクレーブを回転させながら、180℃で48時間加熱して生成物を得た。
生成物を濾過、洗浄し、大気中110℃で一晩乾燥させた。乾燥後の生成物を空気中、600℃で2時間焼成した。
【0059】
XRD測定により、焼成後の生成物がAFX型ゼオライトであることを確認した。当該AFX型ゼオライトのSiO/Alは18.4であった。
当該AFX型ゼオライトをボールミルを用いて湿式粉砕し、平均粒径1.2μmとした。なお、粉砕による結晶性の低下は観察されなかった。
【0060】
実施例1
3号珪酸ソーダ(SiO;30%、NaO;9.1%、Al;0.01%)、98%硫酸、水及び硫酸アルミニウムを混合して得られたゲルを固液分離し、純水により洗浄した。洗浄後のゲル、水及び48%NaOHを十分に撹拌混合して原料組成物を得た。得られた組成物の組成はモル比で以下のとおりであり、なおかつ、四級アンモニウムカチオンは含んでいなかった。
【0061】
SiO/Al = 43.4
OH/SiO = 0.65
Na/SiO = 0.65
O/SiO = 25
添加量が30%となるように合成例1で得られた種晶を原料組成物に添加した。
【0062】
得られた組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、当該オートクレーブを回転させながら、140℃で20時間加熱して生成物を得た。
【0063】
生成物を濾過、洗浄し、大気中110℃で一晩乾燥させ、本実施例のゼオライトを得た。XRD測定の結果、生成物はAFX型ゼオライトであることを確認した。本実施例のゼオライトの重量は種晶の重量の1.4倍であった。これにより、得られたAFX型ゼオライトは種晶そのものではなく、AFX型ゼオライトが結晶化していることが確認できた。
【0064】
当該AFX型ゼオライトはSiO/Alが11.2、BET比表面積が550m/g、ミクロ孔容積が0.26mL/g及びメソ孔吸着量が11.6mL/gであった。これにより、SiO/Al及びBET比表面積が種晶とは異なり、なおかつ、種晶の倍以上のメソ孔の細孔容積を有するAFX型ゼオライトであることが確認できた。本実施例のAFX型ゼオライトのXRDパターンを図1に、窒素脱着等温線を図2に示した。
【0065】
実施例2
以下のモル組成の組成物を使用したこと及び種晶を10%とした以外は実施例1と同様の方法で加熱、濾過、洗浄及び乾燥することで本実施例のゼオライトを得た。
【0066】
SiO/Al = 60.4
OH/SiO = 0.65
Na/SiO = 0.65
O/SiO = 25
【0067】
XRD測定の結果、主な生成物はAFX型ゼオライトであり、更にCHA型ゼオライトに類似するピークを持つ副生物を含むことを確認した。本実施例のゼオライトの重量は種晶の重量の3.6倍であり、AFX型ゼオライトが結晶化していることが確認できた。本実施例のAFX型ゼオライトのXRDパターンを図3に示した。
【0068】
本実施例のゼオライトはSiO/Al比が7.7、BET比表面積が550m/g、ミクロ孔容積が0.26mL/g及びメソ孔吸着量が9.1mL/gであった。
【0069】
比較例1
以下のモル組成の組成物を使用したこと及び種晶を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で組成物を調製した。
【0070】
SiO/Al = 43.4
OH/SiO = 0.65
Na/SiO = 0.65
O/SiO = 25
【0071】
得られた組成物をステンレス製オートクレーブに密閉し、当該オートクレーブを回転させながら、140℃で72時間加熱して生成物を得た。生成物を濾過、洗浄し、大気中110℃で一晩乾燥させ、本比較例のゼオライトを得た。XRD測定の結果、本比較例のゼオライトはMOR型ゼオライトと非晶質物質との混合物であった。XRDパターンを図4に示す。
【0072】
比較例2
合成例1で得られたAFX型ゼオライトを比較例2のゼオライトとした。当該ゼオライトはBET比表面積が580m/g、ミクロ孔容積が0.25mL/g及びメソ孔吸着量は4.6mL/gであった。
【0073】
本比較例のゼオライトの窒素脱着等温線を図5に示す。図5から、本比較例のゼオライトは相対圧(P/P)0.4〜0.9におけるヒステリシスループを有さないことが確認できる。上記のメソ孔吸着量及び図5から、本比較例のAFX型ゼオライトはメソ孔を有さないことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のAFX型ゼオライトは、吸着剤、触媒担体又は触媒、更には排気ガス処理システムに組み込まれる吸着剤又は触媒として使用でき、特に還元剤の存在下で自動車、特にディーゼル車の排ガス中の窒素酸化物を還元除去するSCR触媒として使用できる。
図1
図2
図3
図4
図5