特許第6759612号(P6759612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6759612
(24)【登録日】2020年9月7日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】トロリ線及びき電ちょう架式架線
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/13 20060101AFI20200910BHJP
   B60M 1/30 20060101ALI20200910BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20200910BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   B60M1/13 A
   B60M1/30 302
   H01B5/02 Z
   H01B1/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-21785(P2016-21785)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-140866(P2017-140866A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−193807(JP,A)
【文献】 特開2012−129094(JP,A)
【文献】 特開2005−29884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00−7/00
H01B 1/02,5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
き電ちょう架式架線に用いられるトロリ線であって、当該トロリ線は、上部の小弧面と 、下部の大弧面と、前記小弧面と前記大弧面の間に位置する両側部のV字状のイヤー溝 を有し、両側部の前記イヤー溝間の前記小弧面を有する部分にイヤー金具が挟み込まれ ることによりハンガーに固定されるものであり、
Cu−Sn系合金と不可避不純物からなり、
前記Cu−Sn系合金のSn含有量が0.18質量%以上、0.30質量%未満であり、
引張強さが420MPa以上であり、
公称断面積が150mm2であり、JIS E 2101に規定された公称断面積が1 70mm2のトロリ線と前記小弧面を有する部分の形状及び大きさが同じであり、
導電率が85%IACS以上である、
トロリ線。
【請求項2】
引張荷重が61kN以上である、
請求項1に記載のトロリ線。
【請求項3】
請求項1または2に記載のトロリ線と、
前記トロリ線に電気を供給しつつ、これを支持するき電ちょう架線と、
を有する、
き電ちょう架式架線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、き電ちょう架式架線に用いられるトロリ線、及びき電ちょう架式架線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル内の建築限界に余裕がなく、き電線の架設が困難である場合に用いられる、シンプルカテナリー方式のちょう架線とき電線とを兼用するき電ちょう架線が知られている(例えば、特許文献1参照)。き電ちょう架線は、トロリ線に電気を供給しつつ、これを支持することができる。
【0003】
一般的に、き電ちょう架線として、公称断面積が356mm(356SQ)の2本の銅より線が用いられ、トロリ線として、公称断面積が170mm(170SQ)の1本の錫入り銅合金線が用いられている。
【0004】
き電ちょう架線とトロリ線とを備えたき電ちょう架式架線は部品点数が少ないため、近年、低コスト化や管理工数の低減のため、過密ダイヤの在来線で採用されている。また、首都圏近郊の列車ダイヤが過密でない在来線においても、低コストのき電ちょう架式架線の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−129094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のき電ちょう架式架線に用いられるトロリ線は、上述のようにサイズ(即ち、公称断面積)が大きく、重いため、施工性やコストに難点がある。
【0007】
したがって、本発明の目的の1つは、き電ちょう架式架線に用いられる、施工性やコストに優れるトロリ線、及びそのトロリ線を有するき電ちょう架式架線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]〜[4]のトロリ線、及び下記[5]のき電ちょう架式架線を提供する。
【0009】
[1]き電ちょう架式架線に用いられるトロリ線であって、Cu−Sn系合金を主成分とし、引張強さが420MPa以上であり、公称断面積が150mmである、トロリ線。
【0010】
[2]引張荷重が61kN以上である、上記[1]に記載のトロリ線。
【0011】
[3]導電率が85%IACS以上である、上記[1]又は[2]に記載のトロリ線。
【0012】
[4]前記Cu−Sn系合金と不可避不純物からなり、前記Cu−Sn系合金のSn含有量が0.18質量%以上、0.30質量%未満である、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のトロリ線。
【0013】
[5]トロリ線と、前記トロリ線に電気を供給しつつ、これを支持するき電ちょう架線と、を有し、前記トロリ線は、Cu−Sn系合金を主成分とし、引張強さが420MPa以上であり、公称断面積が150mmである、き電ちょう架式架線。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、き電ちょう架式架線に用いられる、施工性やコストに優れるトロリ線、及びそのトロリ線を有するき電ちょう架式架線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るき電ちょう架式架線の概略図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係るトロリ線の径方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施の形態〕
本実施の形態においては、従来、き電ちょう架式架線に用いられていた公称断面積が170mm(170SQ)のトロリ線を公称断面積が150mm(150SQ)のトロリ線に切り換えることにより、施工性の向上や低コスト化を図る。
【0017】
また、トロリ線をサイズ(即ち、公称断面積)の小さなものに切り換えることによる導電性の低下を抑えるため、トロリ線を構成する合金の組成を最適化する。
【0018】
(き電ちょう架式架線の構造)
図1は、本実施の形態に係るき電ちょう架式架線10の概略図である。き電ちょう架式架線10においては、トロリ線12がハンガー13によりき電ちょう架線11から吊り下げられる。き電ちょう架式架線10は、電車等の電気車用の架線であり、特に、在来線で用いられる架線である。
【0019】
き電ちょう架線11を構成する線条の種類、断面積、本数は、特に限定されない。例えば、き電ちょう架線11は、356SQの2本の銅より線から構成される。
【0020】
(トロリ線の構造)
図2は、本発明の実施の形態に係るトロリ線12の径方向の断面図である。トロリ線12は、JIS E 2101に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する。
【0021】
トロリ線12は、公称断面積が150mm(150SQ)、実測断面積が147mm以上の異形丸形のトロリ線であり、上部の小弧面21、下部の大弧面22、両側部の小弧面21と大弧面22の間のV字状のイヤー溝23と、を有する。イヤー溝23は、ハンガー13の下端にあるイヤー金具をトロリ線12に接続するための溝であり、トロリ線12の両側のイヤー溝23間の小弧面21を有する部分をイヤー金具で挟み込むことにより、トロリ線12をハンガーに固定する。
【0022】
図2中の距離Lは、トロリ線12の上端から下端までの距離であり、150SQのトロリ線12の距離Lは、およそ14.4mmである。なお、従来き電ちょう架式架線に用いられている170SQのトロリ線の距離Lは、およそ15.3mmである。そのため、トロリ線12は、き電ちょう架式架線に用いられている従来の170SQのトロリ線に比べてトロリ線の単位質量を約12.5%低下させることができる。その結果、従来のトロリ線よりも軽量化させたトロリ線12は、き電ちょう架式架線の一部として施工する際の作業効率を向上させることができるなど、施工性に優れるものとすることができる。また、トロリ線12は、軽量化させたことに伴い、従来のトロリ線に比べて製造にかかるコストが低減されたものとすることができる。
【0023】
トロリ線12は、公称断面積が150SQであり、公称断面積が170SQの従来のトロリ線と断面の直径が異なるものの、小弧面21を有する部分の形状及び大きさが従来のトロリ線とほぼ同じであるため、従来のトロリ線で用いられていた10SQのトロリ線用のイヤー金具を小弧面21の部分に接続することができる。すなわち、170SQのトロリ線を150SQのトロリ線に切り換えても、イヤー金具を変更する必要がなく、トロリ線の切り換えに伴うコストを低く抑えることができる。
【0024】
トロリ線12は、Cu−Sn系合金を主成分とし、引張強さが420MPa以上である。好ましくは、引張強さが420MPa以上、440MPa以下である。これにより、トロリ線12は、ドラムから延線する際に曲げ癖が残りにくく、施工性が良い。なお、引張強さは、JIS Z 2241に準拠する試験方法によって求められる。また、公称断面積が150SQであるトロリ線12は、引張荷重(引張試験において材料が耐えうる最大の荷重)が61kN以上である。すなわち、トロリ線12は、従来のトロリ線よりも公称断面積が小さいものの、従来のトロリ線と同等以上の引張荷重を確保することができる。なお、引張荷重は、引張強さに公称断面積を掛けることによって求められる。
【0025】
トロリ線12は、従来の170SQのトロリ線よりもサイズが小さいため、従来のトロリ線からの切り換えに伴う導電性の低下を抑えるため、導電率が85%IACS(International Annealed Copper Standard)以上であることが好ましい。150SQのトロリ線12の85%IACSは、およそ0.135Ω/kmに相当する。なお、170SQのトロリ線においては、およそ75%IACSが0.135Ω/kmに相当する。
【0026】
トロリ線12は、例えば、Cu−Sn系合金と不可避不純物からなり、Cu−Sn系合金のSn含有量が0.18質量%以上、0.30質量%未満である。Cu−Sn系合金のSn含有量が多いほどトロリ線12の強度が増加するが、導電率が低下する。Cu−Sn系合金のSn含有量を0.18質量%以上にすることにより、高い歩留まりで引張強さが420MPa以上のトロリ線12を形成することができ、0.30質量%未満にすることにより、引張強さが420MPa以上、440MPa以下の範囲でありながら高い歩留まりで導電率が85%IACS以上のトロリ線12を形成することができる。
【0027】
トロリ線12を介して電気車に給電が行われる際には、トロリ線12の大弧面22の底部が、パンタグラフ等の電気車の集電装置に接触する。このため、集電装置の摺動により、トロリ線12は大弧面22の底部から摩耗する。摩耗限度位置24は、摩耗により変化するトロリ線12の底面の限度位置を示し、トロリ線12の底面が摩耗限度位置24に達したときにはトロリ線12は交換される。
【0028】
ここで、図2中の距離Lは、摩耗前のトロリ線12の底面の位置と摩耗限度位置24との距離であり、摩耗しろと呼ばれる。また、距離Lは、トロリ線12の底面が摩耗限度位置24に達したときの残存したトロリ線12の高さであり、残存高さと呼ばれる。
【0029】
なお、トロリ線12は、摩耗が摩耗限度位置24に達したことを検知するための検知線を有してもよい。この場合、摩耗が進むと、摩耗限度位置24に達する前に検知線が断線し、断線検知システムが作動して、トロリ線12が限界に近いところまで摩耗していることが検知される。
【0030】
(トロリ線の製造工程)
以下に、トロリ線12の製造工程の一例を示す。
【0031】
本実施の形態に係るトロリ線12の製造工程は、銅母材にSnを添加して溶解し、銅合金溶湯を形成する溶解工程と、その銅合金溶湯を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、その鋳造材に複数段(多段)の熱間圧延加工を施して圧延材を形成する熱間圧延工程と、その圧延材を洗浄し、巻取ってトロリ線12を得る洗浄・巻取り工程と、を含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0032】
<溶解工程>
先ず、酸素を0.001〜0.1質量%(10〜1000質量ppm)含む銅母材に、全体の割合が0.18質量%以上、0.30質量%未満となる量のSnを添加して溶解を行うことで、銅合金溶湯を形成する。
【0033】
<鋳造工程>
次に、前工程で得られた銅合金溶湯は、SCR方式の連続鋳造圧延に供される。具体的には、SCR連続鋳造において、通常の溶融温度(1120〜1200℃)よりも低い溶融温度(1100〜1150℃)からなる銅合金溶湯で鋳造を行うと共に、鋳型(銅鋳型)を強制水冷し、銅合金溶湯の凝固温度より少なくとも15℃以上低い温度(例えば、800℃〜850℃程度の温度)に急速冷却して鋳造材を形成する。
【0034】
<熱間圧延工程>
次に、連続鋳造圧延における通常の熱間圧延温度よりも50〜100℃低い温度、すなわち鋳造材の温度を800℃以下、好ましくは750℃〜800℃に調整した状態で、鋳造材に、多段の熱間圧延加工を施す。最終圧延時において、500〜600℃の圧延温度で熱間圧延加工を施し、圧延材を形成する。本工程における圧延温度を従来の温度よりも低くすることにより、トロリ線12の強度を高めることができる。
【0035】
<洗浄・巻取り工程>
次に、圧延材を洗浄し、巻取りを行い、トロリ線12を得るための線材を得る。
【0036】
以上に説明した各工程は、既存又は慣用の連続鋳造圧延設備(SCR連続鋳造機)を用いて実施することができる。以上に説明した工程のあと、得られた線材を伸線加工することにより、小弧面21と大弧面22とイヤー溝23とを有するトロリ線12を得る。
【0037】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、き電ちょう架式架線に用いられるトロリ線を、Cu−Sn系合金を主成分とし、引張強さが420MPa以上であり、公称断面積が150mmとすることにより、き電ちょう架式架線に従来用いられている170SQのトロリ線と比べて施工性の向上及び低コスト化を図ることが可能である。
【0038】
また、トロリ線の主成分であるCu−Sn系合金のSn含有量を従来よりも少なくすることにより、導電率を上げ、小径化しながらも従来の170SQのトロリ線と同等以上の導電率を確保することができる。
【0039】
また、熱間圧延工程における圧延温度を従来の温度よりも低くすることにより、トロリ線の強度を高め、小径化しながらも従来の170SQのトロリ線と同等の引張荷重、耐摩耗性を確保することができる。また、トロリ線の残存高さも従来の170SQのトロリ線と同等に設定することができる。
【実施例】
【0040】
(トロリ線の引張強さ評価)
Cu−Sn系合金のSn含有量が0.17質量%である公称断面積150SQのトロリ線を製造したところ、引張強さが420MPa、導電率が85%IACSに満たなかった。
【0041】
一方、Cu−Sn系合金のSn含有量を0.22質量%とした公称断面積150SQのトロリ線を製造したところ、420MPa以上440MPa以下の引張強さ、85%IACS以上の導電率が得られた。
【0042】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0043】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0044】
10 き電ちょう架式架線
11 き電ちょう架線
12 トロリ線
13 ハンガー
21 小弧面
22 大弧面
23 イヤー溝
図1
図2