(54)【発明の名称】ポリ乳酸系フィルム、該フィルムを用いた熱収縮性フィルム、該熱収縮性フィルムを用いた成形品または熱収縮性ラベル、及び、該成形品を用いたまたは該ラベルを装着した容器
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリ乳酸系樹脂(A)と、アセチル基含量が10〜25質量%、かつ、ブチリル基含量が25〜45質量%であるセルロースエステル(B)との混合樹脂組成物を主成分とする層を少なくとも1層以上有し、前記混合樹脂組成物における(A)と(B)の混合比が(A)/(B)=92/8〜55/45質量%であり、JIS K7136に準拠した内部ヘーズ値が15%以下であることを特徴とするポリ乳酸系フィルム。
請求項1に記載のフィルムを少なくとも一方向に延伸してなり、80℃温水中に10秒間浸漬した時の主収縮方向の熱収縮率が20〜80%であることを特徴とする熱収縮性フィルム。
JIS K7127に準拠して測定される、縦方向および横方向の引張弾性率がいずれも4000MPa以上であることを特徴とする請求項2に記載の熱収縮性フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例としてのフィルム(以下、「本発明のフィルム」と称する)、本発明の熱収縮性フィルム、本発明の成形品、本発明のラベル、本発明の容器について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
なお、本明細書において、「主成分とする」とは、主成分として含有される樹脂が有する作用・効果を妨げない範囲で、他の成分を含むことを許容する趣旨である。さらに、この用語は、具体的な含有率を制限するものではないが、構成成分全体の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であって、100質量%以下の範囲を占める成分である。
【0015】
<本発明のフィルム>
本発明のフィルムは、樹脂組成物としてポリ乳酸系樹脂(A)、及び、セルロースエステル(B)を含有する。
【0016】
<ポリ乳酸系樹脂(A)>
本発明で使用されるポリ乳酸系樹脂(A)は、D−乳酸もしくはL−乳酸の単独重合体、またはこれらの共重合体であり、具体的には構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、さらにはL−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリ(DL−乳酸)があり、また、D−乳酸とL−乳酸との共重合比の異なる複数の上記共重合体の混合樹脂も含まれる。
【0017】
上記L−乳酸とD−乳酸との共重合体は、D−乳酸とL−乳酸との共重合比(以下「D/L比」と略する。)が、好ましくは「1/99」〜「10/90」または「90/10」〜「99/1」であり、より好ましくは「1/99」〜「9.5/90.5」または「90.5/9.5」〜「99/1」であり、さらに好ましくは「1/99」〜「9/91」または「91/9」〜「99/1」である。
D/L比が99より高い、または1未満の場合には、高い結晶性を示し、融点も高く、耐熱性および機械的物性に優れる傾向がある。しかしながら、熱収縮性フィルムとして使用する場合は、通常、印刷および溶剤を用いた製袋工程が伴うため、印刷適性および溶剤シール性を向上させるために構成材料自体の結晶性を適度に下げることが必要となる。また、結晶性が過度に高い場合、延伸時に配向結晶化が進行し、加熱時のフィルム収縮特性が低下する傾向がある。さらに、延伸条件を調整することによって結晶化を抑えたフィルムとしても、熱収縮時に加熱により結晶化が収縮より先に進行してしまい、その結果、収縮ムラや収縮不足を生じてしまう傾向がある。
【0018】
一方、D/L比が90未満、10より高い場合は、結晶性がほぼ完全になくなってしまうため、その結果、加熱収縮後にラベル同士がぶつかった場合に熱にて融着してしまうなどのトラブルが発生することがある。また、延伸過程において、幅方向に厚みが揃いにくい傾向や、表面の平滑性を付与しにくく、透明性を阻害する傾向がある。
前記範囲にD/L比を調整することにより、このような問題を生じにくく、収縮特性の優れた熱収縮性フィルムを得ることが可能となる。本発明のフィルムでは、D/L比が異なるポリ乳酸系樹脂をブレンドすることも可能である。D/L比が異なるポリ乳酸系樹脂をブレンドすることによりポリ乳酸系樹脂のD/L比を比較的容易に調整できるため好ましい。この場合、複数の乳酸系重合体のD/L比を平均した値が上記範囲内に入るようにすればよい。使用用途に合わせて、D/L比の異なるポリ乳酸系樹脂を2種以上ブレンドし、結晶性を調整することにより、耐熱性と熱収縮特性のバランスをとることができる。
【0019】
また、上記ポリ乳酸系樹脂(A)は、その本質的な性質を損なわない範囲内であれば、少量の共重合成分として、乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール、及びエチレングリコール等の脂肪族ジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。また、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0020】
乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
また、前記ジカルボン酸の具体例としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、前記ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロへキサンジメタノール等が挙げられる。
【0021】
乳酸と、乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸、ジオール、またはジカルボン酸との共重合体の共重合比[乳酸/(乳酸以外のα−ヒドロキシカルボン酸、ジオール、またはジカルボン酸)]は、特に限定されないが、質量比で、好ましくは「100/0」〜「50/50」、より好ましくは「100/0」〜「60/40」、さらに好ましくは「100/0」〜「70/30」である。共重合比が上記範囲内であれば、剛性、透明性、耐衝撃性などの物性バランスの良好なフィルムを得ることができる。また、これらの共重合体の構造としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられ、いずれの構造でもよい。但し、フィルムの耐衝撃性および透明性の観点から、ブロック共重合体またはグラフト共重合体が好ましい。
【0022】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量は、20,000以上、好ましくは40,000以上、さらに好ましくは60,000以上であり、上限値を考慮して、400,000以下、好ましくは350,000以下、さらに好ましくは300,000以下である。重量平均分子量が20,000以上であれば、適度な樹脂凝集力が得られ、フィルムの強伸度が不足したり、脆化したりすることを抑えることができる。一方、重量平均分子量が400,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、製造、生産性向上の観点から好ましい。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と称する)により測定することができる。
【0023】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)の重合法としては、縮合重合法、開環重合法など、公知の方法を採用することも可能である。例えば縮合重合法であれば、D−乳酸、L−乳酸、または、これらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤などを用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合することにより任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。上記ラクチドには、L−乳酸の二量体であるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0024】
上記ポリ乳酸系樹脂(A)の代表的なものとしては、Nature Works LLC社製の「Nature Works」等が商業的に入手されるものとして挙げられる。また、ポリ乳酸系樹脂とジオールとジカルボン酸とのランダム共重合体の具体例としては、例えば「GS−Pla」(三菱化学社製)が挙げられる。
【0025】
<セルロースエステル(B)>
一般にセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート等が知られているが、本発明においては、セルロースアセテートブチレートを用いることで、ポリ乳酸系樹脂との相溶性、フィルムの透明性や剛性の向上、熱収縮性フィルムの収縮特性のバランスなどにおいて、良好な結果が得られることがわかった。
【0026】
上記セルロースエステル(B)のアセチル基含量は10〜25質量%であることが重要である。アセチル基含量は12〜20質量%であることが好ましく、13.5〜17.5質量%であることがより好ましい。アセチル基含量が上記範囲内であれば、ポリ乳酸系樹脂との相溶性に優れ、得られるフィルムは、透明性と剛性のバランス、成形性などに優れたものとなる。
【0027】
また、上記セルロースエステル(B)のブチリル基含量は25〜45質量%であることが重要である。ブチリル基含量は好ましくは30〜40質量%である。ブチリル基含量が上記範囲内であれば、ポリ乳酸系樹脂との相溶性に優れ、得られるフィルムは、透明性と剛性のバランス、成形性などに優れたものとなる。
【0028】
上記セルロースエステル(B)は、水酸基含量が0.5〜5.0%であることが好ましい。ポリ乳酸との良好な相溶性を得るためには1.0〜4.5%であることがより好ましく、1.0〜3.5%であることがさらに好ましい。
【0029】
上記セルロースエステル(B)の数平均分子量は、特に制限されるものではないが、下限値としては、8,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、12,000以上がさらに好ましい。また上限値としては、100,000以下が好ましく、90,000以下がより好ましく、80,000以下であることがさらに好ましい。
【0030】
セルロースエステル(B)の市販品としては、例えば、Eastman Chemical社製の[CA]「CAB」「CAP」シリーズが挙げられ、商業的に入手可能である。なおこれらのセルロースエステル(B)は、単独で用いてもよいし、組成の異なるものを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0031】
<混合比>
ポリ乳酸系樹脂(A)とセルロースエステル(B)との混合比は、(A)/(B)=92/8〜55/45質量%とすることが重要である。
セルロースエステル(B)の混合比の下限は、好ましくは10質量%以上であり、上限は、好ましくは40質量%以下である。また、ポリ乳酸系樹脂(A)の混合比の下限は、好ましくは60質量%以上であり、上限は、好ましくは90質量%以下である。
セルロースエステル(B)の混合比の下限が上記範囲であれば、フィルムとしたときの剛性は充分なものとなる。また、セルロースエステル(B)の混合比の上限が上記範囲であれば、透明性を満足することができる。
【0032】
<その他の成分>
本発明の混合樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、前記ポリ乳酸系樹脂(A)と、前記セルロースエステル(B)以外の他の樹脂を含有してもよい。
他の樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂以外のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、硬質ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を主成分とした共重合体や、コアシェル型多層構造重合体、及びこれらの変性体などが挙げられる。
これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂は、ポリ乳酸系樹脂との相溶性に優れるため、ポリ乳酸系樹脂とブレンドすることによって収縮特性に影響を及ぼすガラス転移温度の調整や、ポリ乳酸系樹脂中に微分散されることによる更なる耐破断性の付与などに有効である。
【0033】
さらに、本発明の混合樹脂組成物には、前述したその他の成分に加え、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤を適宜添加することができる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0034】
<透明性:内部ヘーズ値>
本発明のフィルムは、JIS K7136に準拠して測定した内部ヘーズ値が15%以下であることが重要である。内部ヘーズ値は10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。内部ヘーズ値が15%以下であれば、フィルムの透明性は充分であり、ラベル等として装着した際の、被覆体や裏面印刷の視認性を十分得ることができる。
なお、内部ヘーズ値は、本発明の混合樹脂組成物における、ポリ乳酸系樹脂(A)、セルロースエステル(B)の種類、組成、配合量として上述のものを採用すること等により調整することができる。
【0035】
<本発明の熱収縮性フィルム>
本発明の熱収縮性フィルムは、本発明のフィルムを少なくとも一方向に延伸してなるものである。
【0036】
<熱収縮率>
本発明の熱収縮性フィルムは、80℃温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上80%以下であることが好ましく、下限については30%以上であることがより好ましく、上限については70%以下であることがより好ましい。
上記熱収縮率を上記範囲とするには、後述の本発明の熱収縮性フィルムの製造方法における延伸工程における、延伸速度、延伸温度、延伸倍率、さらには、熱処理や弛緩処理における、温度、時間、弛緩率等の延伸条件により調整することができる。
【0037】
本発明における「熱収縮率」とは、後述するように、縦方向あるいは横方向について、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表したものである。また、「主収縮方向」とは、縦方向と横方向のうち延伸方向の大きい方を意味し、例えば、ボトルに装着する場合にはその外周方向に相当する方向である。
【0038】
上記主収縮方向の熱収縮率は、ペットボトルの収縮ラベル用途等の比較的短時間(数秒〜十数秒程度)での収縮加工工程への適応性を判断する指標となる。現在、ペットボトルのラベル装着用途に工業的に最も多く用いられている収縮加工機としては、収縮加工を行う加熱媒体として水蒸気を用いる蒸気シュリンカーと一般に呼ばれているものである。さらに熱収縮性フィルムは被覆対象物への熱の影響などの点からできるだけ低い温度で十分熱収縮することが必要である。しかしながら、温度依存性が高く、温度によって極端に収縮率が異なるフィルムの場合、蒸気シュリンカー内の温度斑に対して収縮挙動の異なる部位が発生し易いため、収縮斑、皺、アバタなどが発生し収縮仕上がり外観が悪くなる傾向にある。これら工業生産性も含めた観点から、80℃温水中に10秒間浸漬させた際のフィルム主収縮方向の熱収縮率が20%以上であれば、収縮加工時間内に十分に被覆対象物に密着でき、かつ斑、皺、アバタが発生せず良好な収縮仕上がり外観を得ることができるため好ましく、80℃温水中に10秒間浸漬させた際のフィルムの主収縮方向の熱収縮率の上限は、急激なフィルムの収縮を抑制する上で、80%以下であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の熱収縮性フィルムが熱収縮性ラベルとして用いられる場合、80℃の温水中に10秒間浸漬させた際の主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は、−10%以上10%以下(マイナスの収縮率とは、温水浸漬後においてフィルムが膨張していることを示し、一軸延伸フィルムの場合、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率測定において観察されることがある。)であることが好ましく、−8%以上8%以下であることがより好ましく、−6%以上6%以下であることがさらに好ましい。主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が−10%以上10%以下のフィルムであれば、収縮後の主収縮方向と直交する方向の寸法変化が小さく、収縮後の印刷柄や文字の歪みや、容器に装着した場合における縦引け現象が生じにくいため好ましい。
【0040】
<引張弾性率>
本発明の熱収縮性フィルムは、JIS K7127に準拠して、雰囲気温度23℃、引張速度5mm/分の条件下で測定される、縦方向および横方向の引張弾性率がいずれも4000MPa以上であることが好ましい。引張弾性率は、より好ましくは4200MPa以上、さらに好ましくは4500MPa以上である。引張弾性率が4000MPa以上あればフィルム全体のコシを高くすることができ、熱収縮性ラベルの印刷・製袋などの工程時にフィルムが蛇行するなどの不具合を生じにくくなり、好ましい。またフィルムの厚みを薄くした場合においても、ペットボトルなどの容器に製袋したフィルムをラベリングマシン等で被せる際に、斜めに被ったり、フィルムの腰折れなどで歩留まりが低下したりしやすいなどの問題点が発生し難く、好ましい。上限については特に限定されないが、引張弾性率が高いほどラベル厚みを薄肉化可能となる傾向にある。
【0041】
<貯蔵弾性率差(ΔE’)>
本発明の熱収縮性フィルムは、貯蔵弾性率差(ΔE’)が2.
0以下であることが好ましい。貯蔵弾性率差はより好ましくは1.8以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。本発明における貯蔵弾性率差とは、幅4mm×長さ60mmの試験片を粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測(株)製)を用いて、振動周波数10Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、チャック間2.5cmの条件の下、測定温度が−100℃から150℃の範囲で、横方向について動的粘弾性を測定した際の90℃での貯蔵弾性率E’
90と60℃での貯蔵弾性率E’
60の差ΔE’=logE’
90―logE’
60で表したものである。貯蔵弾性率差が2.
0以下であると、ガラス転移温度(Tg)以上から収縮温度までのフィルムの剛性変化が緩やかとなり、フィルムの収縮ムラを抑制することができ、シワなどの発生を低減できるため、好ましい。下限については特に限定されないが、十分な熱収縮率をフィルムが保持していれば、値は小さい方が収縮仕上がり性は良好な傾向にある。
【0042】
<層構成>
本発明のフィルムは、本発明の混合樹脂組成物を主成分とする層を少なくとも1層有していればよく、単層構成であっても、積層構成であってもよい。
積層構成は、本発明の組成物を主成分とする層(1)を複数積層してもよく、その他の樹脂を主成分とする層(2)との積層構成でもよい。具体例としては、(1)/(1)、(1)/(1)/(1)、(1)/(2)、(1)/(2)/(1)、(2)/(1)/(2)、(1)/(2)/(1)/(2)/(1)、等が挙げられるが、上記以外にも、求められるフィルムの品質に合わせて、どのような組み合わせであっても採用することができる。
なお、積層構成において、本発明の混合樹脂組成物を主成分とする層を表裏層として用いた場合は、各種層構成の中で最も透明性と剛性向上効果が期待できるため好ましい。また、中間層に用いた場合も、同様の効果が期待できるため好ましい。
【0043】
上記積層構成を形成する方法としては、共押出法、各層のフィルムを形成した後に、重ね合わせて熱融着する方法、接着剤等で接合する方法等が挙げられる。
【0044】
本発明のフィルムの総厚みは、単層であっても積層であっても、特に限定されるものではないが、透明性、収縮加工性、原料コスト等の観点からは薄い方が好ましい。具体的には、延伸後のフィルムの総厚みは100μm以下が好ましく、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下である。また、フィルムの総厚みの下限は特に限定されないが、フィルムのハンドリング性を考慮すると、10μm程度であることが好ましい。
【0045】
<本発明のフィルムの製造方法>
本発明のフィルムの製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法によって製造することができる。具体的には、例えば、インフレーション法、チューブラー法、Tダイ法などによりフィルムを得ることができる。また本発明のフィルムは、一軸または二軸延伸することもできる。延伸方法も特に限定されるものではなく、ロール法、テンター法、チューブラー法など、従来公知の方法を採用することができる。さらに本発明のフィルムには、各種機能付与を目的として、表面処理を行ってもよい。表面処理としては具体的には、コロナ処理、プラズマ処理、酸処理、あるいはコーティング処理などが挙げられ、必要に応じて適宜選択し行うことができる。
【0046】
<本発明の熱収縮性フィルムの製造方法>
本発明のフィルムを熱収縮性フィルムとする場合の製造方法も、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。具体的には、押出機を用いて樹脂を溶融し、Tダイから押出し、冷却ロールで冷却固化し、縦方向(フィルムの流れ方向)へのロール延伸や、横方向(フィルムの流れ方向に対して垂直方向)へのテンター延伸等により、少なくとも一方向に延伸される。また、同時二軸延伸機により縦方向、横方向に同時に延伸されてもよい。さらに、チューブラー法により内圧によってチューブ状のフィルムを放射状に延伸されてもよく、チューブラー法により延伸されたチューブ状物を切り開いて平面状にする方法も挙げられる。フィルムの形態としては平面状、チューブ状のいずれであってもよいが、生産性(原反フィルムの幅方向に製品として数丁取りが可能)や印刷が容易という観点から平面状が好ましい。
【0047】
上記延伸における延伸倍率は、オーバーラップ用等、二方向に収縮させる用途では、縦方向が2倍以上10倍以下、横方向が2倍以上10倍以下、好ましくは縦方向が3倍以上6倍以下、横方向が3倍以上6倍以下程度である。一方、熱収縮性ラベル用等、主として一方向に収縮させる用途では、主収縮方向に相当する方向が2倍以上10倍以下、好ましくは3倍以上8倍以下、より好ましくは3倍以上7倍以下であり、主収縮方向と直交する方向が1倍以上2倍以下(1倍とは延伸していない場合を指す。)、好ましくは、1.01倍以上1.50倍以下の、実質的には一軸延伸の範疇にある倍率比を選定することが望ましい。上記範囲内の延伸倍率で延伸したフィルムは、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が大きくなりすぎることなく、例えば、収縮ラベルとして容器に装着する場合にあたり、容器の高さ方向にもフィルムが熱収縮する、いわゆる縦引け現象を抑えることができるため好ましい。
【0048】
延伸温度は、用いる樹脂のガラス転移温度や熱収縮性フィルムに要求される特性によって調整する必要があるが、概ね60℃以上、好ましくは70℃以上であり、上限が100℃以下、好ましくは90℃以下の範囲で制御される。
【0049】
次いで、延伸したフィルムは、必要に応じて、自然収縮率の低減や熱収縮特性の改良等を目的として、50℃以上100℃以下程度の温度で熱処理や弛緩処理を行った後、分子配向が緩和しない時間内に速やかに冷却され、熱収縮性フィルムとなる。
【0050】
本発明の熱収縮性フィルムには、必要に応じて、コロナ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工、さらには、各種溶剤やヒートシールによる製袋加工やミシン目加工を施すことができる。
【0051】
本発明の熱収縮性フィルムは、被包装物によって平面状から円筒状等に加工し包装に供することができる。ペットボトル等の円筒状の容器で印刷を要するものの場合、まずロールに巻き取られた広幅のフラットフィルムの一面に必要な画像を印刷し、そしてこれを必要な幅にカットしつつ印刷面が内側になるように折り畳んでセンターシール(シール部の形状はいわゆる封筒貼り)して円筒状とすれば良い。センターシール方法としては、有機溶剤による接着方法、ヒートシールによる方法、接着剤による方法、インパルスシーラーによる方法が考えられる。この中でも、生産性、見栄えの観点から有機溶剤による接着方法が好適に使用される。
【0052】
<本発明の成形品、本発明のラベル、及び本発明の容器>
本発明の熱収縮性フィルムは、その用途が特に制限されるものではないが、これを基材として、必要に応じて印刷層、蒸着層、その他機能層を積層して形成することにより、ボトル(ブローボトル)、トレー、弁当箱、総菜容器、乳製品容器等の様々な成形品として用いることができる。
【0053】
また、本発明の熱収縮性フィルムを食品容器(例えば清涼飲料水用又は食品用のPETボトル、ガラス瓶、好ましくはPETボトル)用の熱収縮性ラベルの基材として用いることができる。この場合、複雑な形状(例えば、中心がくびれた円柱、角のある四角柱、五角柱、六角柱など)であっても該形状に密着可能であり、シワやアバタ等のない美麗に装着されたラベルとなる。そして、そのラベルを装置した食品容器は、容器として使用することができる。なお、前記の成形品及び容器は、通常の成形法を用いることにより作製することができる。
【0054】
本発明の熱収縮性フィルムは、高温に加熱すると変形を生じるようなプラスチック成形品に用いられる熱収縮性ラベル素材のほか、熱膨張率や吸水性等が本発明の熱収縮性フィルムとは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた包装体(容器)の熱収縮性ラベル素材としても好適に利用できる。
【0055】
プラスチック包装体を構成する材質としては、前記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−ブチルアクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、(メタ)アクリル酸−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック包装体は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【0056】
以上、本発明の組成物の用途を、熱収縮性フィルムを代表例として説明したが、本発明のフィルムの用途は熱収縮性フィルムに限定されず、例えば、各種包装用フィルムや容器、各種工業用部品、各種射出成形品、医療用材、建材、電気・電子機用部材、情報記録用などのフィルム、シート材料、ラベル、粘着テープの基材等として用いることも有用である。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0058】
<評価方法>
実施例に示す測定及び評価は、次のように行った。実施例では、フィルムの引き取り(流れ)方向を「縦」方向(または「MD」)、その直角方向を「横」方向(または「TD」)と記載する。
【0059】
(1)熱収縮率
得られたフィルムを縦10mm、横200mmの大きさに切り取り、80℃の温水バスに10秒間それぞれ浸漬し、収縮量を測定した。熱収縮率は、収縮前の原寸に対する収縮量の比率を%値で表示した。
【0060】
(2)引張弾性率
得られたフィルムについて、JIS K7127に準拠して、1号形試験片(全長200mm、幅10mm乃至25mmの短冊、標線間距離100mm、掴み具間距離150mm)の温度23℃における主収縮方向と直交する方向(MD)について引張弾性率を測定した。
○:引張破弾性率が4000MPa以上である場合
×:引張破断伸度が4000MPa未満である場合
【0061】
(4)内部ヘーズ値
得られたフィルムについて、JIS K7136に準拠して、内部ヘーズ値を測定し、下記基準にて判断した。
○:内部ヘーズ値が15%以下の場合
×:内部ヘーズ値が15%を超える場合
【0062】
(5)貯蔵弾性率差
得られたフィルムについて、幅4mm×長さ60mmの試験片を粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測(株)製)を用い、振動周波数10Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、チャック間2.5cmの条件の下、測定温度が−100℃から150℃の範囲で、横方向について動的粘弾性を測定した際の90℃での貯蔵弾性率E’
90と60℃での貯蔵弾性率E’
60の差ΔE’=logE’
90―logE’
60を算出し、下記基準にて判断した。
○:ΔE’が2.0%以下の場合
×:ΔE’が2.0%を超える場合
【0063】
<使用した材料>
(ポリ乳酸系樹脂(A))
・Nature WorksLLC社製、商品名:NatureWorks4060D、D体/L体量=12/88、「A−1」と略する。
・Nature WorksLLC社製、商品名:NatureWorks4043D、D体/L体量=4/96、「A−2」と略する。
【0064】
(セルロースエステル(B))
・Eastman Chemical社製、商品名:CAB381−0.1、アセチル基含量13.5%、ブチリル基含量38%、水酸基含量1.3%、数平均分子量20,000、「B−1」と略する。
・Eastman Chemical社製、商品名:CAB321−0.1、アセチル基含量17.5%、ブチリル基含量17.5%、水酸基含量1.3%、数平均分子量12,000、「B−2」と略する。
・Eastman Chemical社製、商品名:CAB171−15、アセチル基含量29.5%、ブチリル基含量17%、水酸基含量1.1%、数平均分子量65,000、「B−3」と略する。
・Eastman Chemical社製、商品名:CAB551−0.2、アセチル基含量2.0%、ブチリル基含量52%、水酸基含量1.8%、数平均分子量30,000、「B−4」と略する。
【0065】
(実施例1)
ポリ乳酸系樹脂(A−1)を45質量%、ポリ乳酸系樹脂(A−2)を45質量%、セルロースエステル(B−1)を10質量%の割合で配合し、2軸押出機(スクリュー径25mmφ)に投入し、設定温度200℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、50℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚み200μmの未延伸シートを得た。次いで、この未延伸シートを、予熱温度82℃、延伸温度82℃、熱処理温度82℃に設定したフィルムテンター(京都機械社製)を用いて、未延伸シートの幅方向に5倍延伸し、厚み40μmの熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2)
ポリ乳酸系樹脂とセルロースエステルの配合割合を変更した以外は、実施例1と同様の手法により、熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例3)
セルロースエステルを(B−2)に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0068】
(実施例4)
ポリ乳酸系樹脂とセルロースエステル(B−2)の配合割合を変更した以外は、実施例3と同様の手法により、熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例5)
ポリ乳酸系樹脂とセルロースエステル(B−2)の配合割合を変更した以外は、実施例3と同様の手法により、熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
ポリ乳酸系樹脂(A−1)を50質量%、ポリ乳酸系樹脂(A−2)を50質量%の割合で配合し、実施例1と同様の手法により、厚み40μmの熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0071】
(比較例2)
ポリ乳酸系樹脂とセルロースエステルの配合割合を変更した以外は、実施例1と同様の手法により、熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0072】
(比較例3)
ポリ乳酸系樹脂とセルロースエステルの配合割合を変更した以外は、比較例1と同様の手法により、フィルム採取を試みた。シート化は可能であったが、シートを5倍に延伸する過程で破断してしまい、フィルム採取は困難であった。
【0073】
(比較例4)
ポリ乳酸系樹脂(A−1)を45質量%、ポリ乳酸系樹脂(A−2)を45質量%、セルロースエステル(B−3)を10質量%の割合で配合し、実施例1と同様の手法により、シート化を試みた。ポリ乳酸樹脂とセルロースエステル(B−3)の溶融温度に差が有り、シート化は困難であった。
【0074】
(比較例5)
ポリ乳酸系樹脂(A−1)を45質量%、ポリ乳酸系樹脂(A−2)を45質量%、セルロースエステル(B−4)を10質量%の割合で配合し、実施例1と同様の手法により、厚み40μmの熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1に示す結果のとおり、本発明のフィルムは、熱収縮性フィルムとした場合、収縮特性に優れ、しかも常温での剛性に優れ、透明性に優れたフィルムとすることができる。
一方、表2に示す結果のとおり、セルロースエステルを配合しない(比較例1)、あるいは、本発明の範囲外である場合(比較例2〜5)は、成膜が困難であったり、剛性が未向上であったり、収縮特性に劣るフィルムとなった。