(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶核剤の含有量が、前記ポリグリコール酸樹脂100質量部に対して0.001〜10質量部である、請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載のポリグリコール酸樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、ポリグリコール酸樹脂の結晶化速度を高めるために様々な結晶核剤が提案されているが、近年、ポリグリコール酸樹脂のより高い成形加工性及び耐熱性の向上を実現させるために、さらに有効な結晶核剤が望まれている。
従って、本発明は、ポリグリコール酸樹脂の結晶化促進に好適な結晶核剤を添加した、ポリグリコール酸樹脂に比べて結晶化速度が速く、より高い成形加工性及び耐熱性の向上が可能なポリグリコール酸樹脂組成物、このポリグリコール酸樹脂組成物を結晶化して得られるポリグリコール酸樹脂成形体、及びこのポリグリコール酸樹脂成形体からなる層を具備する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ポリグリコール酸樹脂に結晶核剤として特定のアミド化合物を添加することにより、ポリグリコール酸樹脂の結晶化を促進することが可能であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、第1観点として、ポリグリコール酸樹脂、及び式[1]で表されるアミド化合物からなる結晶核剤を含む、ポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
【化1】
(式中、Aは炭素原子数1乃至10のアルキレン基を表し、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素原子数1乃至6のアルキル基を表し、R
3乃至R
10はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基、炭素原子数2乃至7のアシル基、炭素原子数2乃至7のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素原子数1乃至6のアシルアミノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1乃至6のアルコキシ基を表す。)
第2観点として、前記Aが炭素原子数2乃至8のアルキレン基である、第1観点のポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
第3観点として、前記Aが、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基及びヘキサメチレン基からなる群から選ばれる基である、第2観点のポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
第4観点として、前記Aがヘキサメチレン基である、第1観点乃至第3観点のうち何れか一つのポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
第5観点として、前記R
3乃至R
10が水素原子である、第1観点乃至第4観点のうち何れか一つのポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
第6観点として、前記R
1及びR
2がメチル基である、第1観点乃至第5観点のうち何れか一つのポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
第7観点として、前記結晶核剤の含有量が、前記ポリグリコール酸樹脂100質量部に対して0.001〜10質量部である、第1観点乃至第6観点のうち何れか一つのポリグリコール酸樹脂組成物に関する。
第8観点として、第1観点乃至第7観点のうち何れか一つのポリグリコール酸樹脂組成物の結晶化物である、ポリグリコール酸樹脂成形体に関する。
第9観点として、第8観点のポリグリコール酸樹脂成形体からなる層を具備する積層体に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリグリコール酸樹脂組成物は、特定のアミド化合物を結晶核剤として用いることにより、ポリグリコール酸樹脂の結晶化促進効果が向上されたものとなり、ひいては、成形加工性、耐熱性に優れたポリグリコール酸樹脂組成物、このポリグリコール酸樹脂組成物を結晶化して得られるポリグリコール酸樹脂成形体、及びこのポリグリコール酸樹脂成形体からなる層を具備する積層体を提供することができる。
上記本発明の成形体は、生体吸収性縫合糸、生体吸収性ステント、神経再生誘導チューブ等の生体内分解性材料として好適に使用することができる。
上記本発明の成形体は、シート、フィルム、包装容器、ボトル等のガスバリア層として、またシェールガス掘削用材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0010】
<ポリグリコール酸樹脂組成物>
本発明のポリグリコール酸(以下、PGAともいう。)樹脂組成物は、PGA樹脂、及びアミド化合物からなる結晶核剤、を含みて構成される。
【0011】
[PGA樹脂]
本発明に用いられるPGA樹脂としては、式[2]
−[O−CH
2−C(=O)]− [2]
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸のホモポリマー(以下、PGAホモポリマーともいう。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)、前記グリコール酸繰り返し単位を含むポリグリコール酸コポリマー(以下、PGAコポリマーともいう。)等が挙げられる。このようなPGA樹脂は、一種を単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0012】
前記PGAコポリマーを製造する際に、グリコール酸モノマーとともに使用されるコモノマーとしては、ジラクチド(別名:1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)等のラクチド類;β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリメチレンカーボネート(別名:1,3−ジオキサン−2−オン)等の環状カーボネート類;シュウ酸エチレン(別名:1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)等の環状エステル類;1,4−ジオキサン−2−オン等の環状エーテルエステル類;1,3−ジオキサン等の環状エーテル類;ε−カプロラクタム等の環状アミド類;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸類又はそのアルキルエステル類;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類又はそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物などを挙げることができる。これらのコモノマーは、一種を単独で使用しても二種以上を併用してもよい。これらのコモノマーのうち、耐熱性の観点からヒドロキシカルボン酸類が好ましい。
【0013】
また、前記PGA樹脂をグリコリドの開環重合によって製造する場合に使用する触媒としては、例えば、ハロゲン化スズ、有機カルボン酸スズ等のスズ化合物;アルコキシチタネート等のチタン化合物;アルコキシアルミニウム等のアルミニウム化合物;ジルコニウムアセチルアセトン等のジルコニウム化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモン等のアンチモン化合物などの公知の開環重合触媒が挙げられる。
【0014】
前記PGA樹脂は、従来公知の重合方法により製造することができるが、その重合温度としては、120〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、140〜240℃が特に好ましく、150〜230℃が最も好ましい。重合温度を120℃以上とすることで重合を十分に進行させることができ、300℃以下とすることで生成した樹脂の熱分解をより抑制することができる。
また、前記PGA樹脂の重合時間としては、2分間〜50時間が好ましく、3分間〜30時間がより好ましく、5分間〜20時間が特に好ましい。重合時間を2分間以上とすることで重合を十分に進行させることができ、また50時間以下とすることでより着色のない樹脂を得ることができる。
【0015】
本発明に用いるPGA樹脂において、前記式[2]で表されるグリコール酸繰り返し単位の含有量としては、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。グリコール酸繰り返し単位の含有量を70質量%以上とすることで、生分解性、加水分解性、ガスバリア性、機械的強度、耐熱性といったPGA樹脂としての効果をより得ることができる。
【0016】
前記PGA樹脂の重量平均分子量Mwとしては、30,000〜800,000が好ましく、50,000〜500,000がより好ましい。重量平均分子量Mwを30,000以上とすることでPGA樹脂成形体の十分な機械的強度が得られ、また800,000以下とすることでより容易に溶融押出や射出成形をすることができる。なお、前記重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメタクリル酸メチル換算値である。
【0017】
また、前記PGA樹脂の溶融粘度(温度:270℃、剪断速度:122sec
−1)としては、50〜3,000Pa・sが好ましく、100〜2,000Pa・sがより好ましく、100〜1,000Pa・sが好ましい。溶融粘度を50Pa・s以上とすることでPGA樹脂成形体の十分な機械的強度が得られ、また3,000Pa・s以下とすることでより容易に溶融押出や射出成形をすることができる。
【0018】
また、本発明に用いられるPGA樹脂としては、PGAホモポリマー又はPGAコポリマーを主体とした、他樹脂とのブレンドポリマーであってもよい。他樹脂とは、後述するPGA樹脂以外の生分解性樹脂、汎用の熱可塑性樹脂、汎用の熱可塑性エンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
【0019】
上述のPGA樹脂以外の生分解性樹脂としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)、3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸の共重合体(PHBH)等のポリヒドロキシアルカン酸;ポリカプロラクトン、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネート/アジペート、ポリブチレンスクシネート/カーボネート、ポリエチレンスクシネート、ポリエチレンスクシネート/アジペート等のポリエステル樹脂;ポリビニルアルコール;変性でんぷん;酢酸セルロース;キチン;キトサン;リグニンなどが挙げられる。
【0020】
前記汎用の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンコポリマー、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレンコポリマー、ポリブチレン(PB)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン(PS)、高衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリウレタン樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂;アミノ樹脂;不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0021】
前記汎用のエンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂などが挙げられる。
【0022】
[アミド化合物からなる結晶核剤]
本発明に用いられる結晶核剤は、式[1]で表されるアミド化合物からなる。
【0024】
式[1]において、Aは炭素原子数1乃至10のアルキレン基を表し、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素原子数1乃至6のアルキル基を表し、R
3乃至R
10はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至6のアルキル基、炭素原子数2乃至7のアシル基、炭素原子数2乃至7のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素原子数1乃至6のアシルアミノ基、ヒドロキシ基、又は炭素原子数1乃至6のアルコキシ基を表す。
【0025】
上記Aが表す炭素原子数1乃至10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、1−メチルエチレン基、プロパン−2,2−ジイル基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、ブタン−2,2−ジイル基、ペンタメチレン基、1−メチルテトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基、1,2−ジメチルトリメチレン基、2,2−ジメチルトリメチレン基、1−エチルトリメチレン基、ヘキサメチレン基、1−メチルペンタメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルペンタメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、1,2−ジメチルテトラメチレン基、2,2−ジメチルテトラメチレン基、1−エチルテトラメチレン基、1,1,2−トリメチルトリメチレン基、1,2,2−トリメチルトリメチレン基、1−エチル−1−メチルトリメチレン基、1−エチル−2−メチルトリメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等の鎖状又は分枝状アルキレン基が挙げられる。中でも、炭素原子数2乃至8のアルキレン基が好ましく、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基がより好ましく、とりわけヘキサメチレン基が好ましい。
【0026】
上記R
1及びR
2が表す炭素原子数1乃至6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。中でも、メチル基が好ましい。
【0027】
上記R
3乃至R
10が表す炭素原子数1乃至6のアルキル基としては、前述のR
1及びR
2で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0028】
上記R
3乃至R
10が表す炭素原子数2乃至7のアシル基としては、炭素原子数1乃至6のアルキル基にカルボニル基が結合した基、すなわち、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、2−メチルブタノイル基、3−メチルブタノイル基、ピバロイル基、n−ヘキサノイル基、4−メチルペンタノイル基、3,3−ジメチルブタノイル基、ヘプタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基等が挙げられる。
【0029】
上記R
3乃至R
10が表す炭素原子数2乃至7のアルコキシカルボニル基としては、炭素原子数1乃至6のアルコキシ基にカルボニル基が結合した基、すなわち、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ネオペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0030】
上記R
3乃至R
10が表す炭素原子数1乃至6のアシルアミノ基としては、アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブチルアミド基、イソブチルアミド基、ペンタンアミド基、2−メチルブタンアミド基、3−メチルブタンアミド基、ピバルアミド基、n−ヘキサンアミド基、4−メチルペンタンアミド基、3,3−ジメチルブタンアミド基、ヘプタンアミド基、シクロヘキサンカルボキサミド基等が挙げられる。
【0031】
上記R
3乃至R
10が表す炭素原子数1乃至6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0032】
上記R
3乃至R
10としては、水素原子が好ましい。
【0033】
式[1]で表されるアミド化合物は、その製造方法は特に制限されないが、カルボン酸又はその活性化体(酸ハロゲン化物、酸無水物、酸アジド、活性エステル等)と、アニリン類とを、従来公知の方法によってアミド化することにより、容易に得ることができる。
具体的には、例えば、式[3]に示した方法を挙げることができる。
【0035】
式[3]において、A及びR
1乃至R
10は前記と同じ意味を表す。また、Xとしては、アミド結合を生成できる基であれば特に制限されないが、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;アセトキシ基等のアシルオキシ基;アジド基;2,5−ジオキソピロリジン−1−イルオキシ基などが挙げられる。なお、互いに異なる複数のアニリン類を用いる場合には、一方を先に反応させた後に他方を反応させてもよいし、双方を同時に反応させてもよい。
【0036】
なお、これらの式[1]で表されるアミド化合物は、市販されている場合には、市販品を使用することもできる。
【0037】
前記式[1]で表されるアミド化合物からなる結晶核剤の添加量は、PGA樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。添加量を0.001質量部以上とすることにより、十分な結晶化速度を得ることができる。また、添加量が10質量部を超えても、結晶化速度がさらに速くなるわけではないため、10質量部以下で使用することが経済的に有利となる。
【0038】
[その他の添加剤]
本発明のPGA樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、公知の無機充填剤を配合することもできる。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。これらの無機充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末の何れでもよい。これらの無機充填剤は、PGA樹脂100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
【0039】
本発明のPGA樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、公知の難燃剤を配合することもできる。難燃剤としては、例えば、臭素系や塩素系等のハロゲン系難燃剤;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリコーン系化合物等の無機系難燃剤;赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系難燃剤;メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩、アルキルホスホン酸メラミン、フェニルホスホン酸メラミン、硫酸メラミン、メタンスルホン酸メラム等のメラミン系難燃剤;PTFE等のフッ素樹脂などが挙げられる。これらの難燃剤は、PGA樹脂100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
【0040】
さらに、本発明のPGA樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて一般的に添加される添加剤、例えば、末端封止剤、加水分解抑制剤、熱安定剤、光安定剤、熱線吸収剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、可塑剤、相溶化剤、シラン系、チタン系、アルミニウム系等の各種カップリング剤、発泡剤、帯電防止剤、離型剤、滑剤、抗菌抗カビ剤、顔料、染料、香料、その他の各種充填剤、その他の結晶核剤などや、他の熱可塑性樹脂などを適宜配合してもよい。
【0041】
[ポリグリコール酸樹脂組成物の製造方法]
本発明のPGA樹脂組成物は、前記PGA樹脂と前記アミド化合物からなる結晶核剤とを、混合することによって製造することができる。結晶核剤の混合方法としては特に制限はなく、例えば、成形前にPGA樹脂又はPGA樹脂と他の添加剤とを含有する組成物に結晶核剤を混合する方法、成形時にPGA樹脂又はPGA樹脂と他の添加剤とを含有する組成物に結晶核剤を混合する方法(例えば、サイドフィード)等が挙げられる。また、PGA樹脂を合成する際に、グリコール酸等のモノマー中に結晶核剤を混合してPGA樹脂組成物を製造することも可能である。
【0042】
本発明のPGA樹脂組成物としては、降温結晶化温度(溶融状態の樹脂組成物を冷却していく過程で樹脂が結晶化する温度)Tccが、例えば降温速度20℃/分において184℃以上であるものが好ましく、186℃以上であるものがより好ましく、188℃以上であるものが特に好ましい。
【0043】
<ポリグリコール酸樹脂成形体>
本発明のPGA樹脂成形体は、結晶化した前記PGA樹脂、及び前記アミド化合物からなる結晶核剤を含みて構成される。また、本発明のPGA樹脂成形体の球晶径としては、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。球晶径を30μm以下とすることで、表面がより平滑なPGA樹脂成形体を得ることができる。
このようなPGA樹脂成形体は、例えば、本発明のPGA樹脂組成物を使用し、これに含まれるPGA樹脂を結晶化させることによって得ることができる。PGA樹脂を結晶化させる方法としては特に制限はなく、例えば、PGA樹脂組成物を所定の形状に成形する過程において、前記PGA樹脂組成物を結晶化温度以上に加熱した後、冷却すればよい。また、上記過程において、前記PGA樹脂組成物を融点以上に加熱した後、急冷して非晶質のまま成形体とし、これを加熱することでも結晶化させることができる。
本発明のPGA樹脂成形体は、その球晶径が小さくまた揃っているため、優れたガスバリア性、機械的強度及び耐熱性を有するものとなる。
【0044】
本発明のPGA樹脂組成物を成形する場合、一般の射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の慣用の成形法を使用することによって、各種成形品を容易に製造することができる。
また、PGA樹脂は、その特徴(高ガスバリア性)を活かし炭酸飲料ボトルなどへの利用が提案されている。このボトルの代表的な成形法としては、インジェクションブローがある。
インジェクションブロー成形とは、射出成形によって試験管状の有底パリソン(プリフォーム)を射出成形し、このパリソンを過冷却状態又はガラス転移点以上でブロー成形するものであり、詳細にはさらに2つの成形方式(ホットパリソン方式、コールドパリソン方式)に区分される。
ホットパリソン方式は、パリソンの射出成形後、固化しない状態で、融点以下の温度で調温し、ブロー成形する。このとき、ボトルの結晶化は樹脂が溶融状態から冷却されたときに起こり、より高温側で結晶化が起こるほど樹脂の結晶化が速く、結晶核剤の性能が高いことを示す。DSC測定では降温結晶化温度Tccが指標となる。
一方、コールドパリソン方式は、パリソンの射出成形後、パリソンを一旦冷却固化した後、ガラス転移点以上に再加熱し、調温後、ブロー成形する。このとき、ボトルの結晶化は樹脂がガラス転移点以上の温度に加熱されたときに起こり、より低温側で結晶化が起こるほど樹脂の結晶化が早く、結晶核剤の性能が優れていることを示す。DSC測定では昇温結晶化温度(ガラス転移点未満の非晶状態の樹脂組成物を昇温していく過程で樹脂が結晶化する温度)Tchが指標となる。
本発明のPGA樹脂組成物は、何れのインジェクションブロー成形であっても好適に成形可能である。
【0045】
<積層体>
本発明の積層体は、本発明のPGA樹脂成形体からなる層を具備するものであり、2層以上であって、前記PGA樹脂成形物からなる層と、それに隣接する他の層とを具備するものであれば特に制限はない。前記PGA樹脂成形物からなる層に隣接する他の層としては、熱可塑性樹脂からなる層、紙からなる層、接着剤からなる層等が挙げられる。
【0046】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリブチレンスクシネート、ポリエチレンスクシネート/アジペート、ポリ乳酸(PLA)、ポリ3−ヒドロキシブチレート(PHB)、ポリカプロラクトン等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS)等のポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂等のスルフィド樹脂;ポリウレタン樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、一種を単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
中でも、用途に応じた所望の透明性及びガスバリア性をともに満足する積層体が得られるという観点から、ポリエステル樹脂が好ましく、ジオール成分及びジカルボン酸成分の少なくとも一方が芳香族化合物である芳香族ポリエステル樹脂がより好ましく、芳香族ジカルボン酸から得られた芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0047】
このような積層体において、前記PGA樹脂成形体からなる層の構成割合としては、質量基準(厚さ基準にほぼ等しい)で1〜10%が好ましい。PGA樹脂成形体からなる層の構成割合を1質量%以上とすることで、積層体の十分なガスバリア性を得ることができる。また、10質量%以下とすることで、ブロー成形時に多大な応力を必要とせず、さらに積層体の透明性を維持することができる。
【0048】
本発明の積層体の具体的な態様としては、多層フィルムや多層シートの他、多層中空容器等の成形容器などが挙げられる。このような積層体としては、共押出成形、共射出成形等により成形したもの、共押出ブロー成形、共射出ブロー成形等により延伸成形したものなどが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、試料の物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0050】
(1)5%重量減少温度(Td
5%)
装置:(株)リガク製 Thermo plus TG8120
測定条件:空気雰囲気下
昇温速度:10℃/分(25〜500℃)
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:(株)パーキンエルマージャパン製 Diamond DSC
【0051】
[合成例1]N
1,N
5−ビス(4−アセトアミドフェニル)グルタルアミドの製造
撹拌機、温度計、滴下ロート及びコンデンサを備え付けた反応フラスコに、4−アミノアセトアニリド[東京化成工業(株)製]3.00g(20mmol)、トリエチルアミン[東京化成工業(株)製]2.02g(20mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド45.2g(4−アミノアセトアニリド及びトリエチルアミンの合計質量に対し9倍量)を仕込み、撹拌しながら氷浴にて冷却した。この溶液に、グルタリルクロリド[東京化成工業(株)製]1.69g(10mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド15.2g(グルタリルクロリドの質量に対し9倍量)に溶解させた溶液をゆっくり滴下し、3時間撹拌した。反応混合物に水を加えた後、生成物を減圧ろ過し、水−メタノール混合溶液(質量比7:3)で洗浄後、乾燥することで白色粉末の目的物(化合物A)を得た。
得られた目的物の5%重量減少温度(Td
5%)は342.4℃であった。
【0052】
[合成例2]N
1,N
8−ビス(4−アセトアミドフェニル)オクタンジアミドの製造
グルタリルクロリドをスベロイルクロリド[東京化成工業(株)製]2.11g(10mmol)に変更した以外は合成例1と同様に操作し、白色粉末の目的物(化合物B)を得た。
得られた目的物の5%重量減少温度(Td
5%)は337.3℃であった。
【0053】
[合成例3]N
1,N
4−ビス(4−アセトアミドフェニル)テレフタルアミドの製造
撹拌機、温度計、滴下ロート及びコンデンサを備え付けた反応フラスコに、4−アミノアセトアニリド[東京化成工業(株)製]1.63g(11mmol)、トリエチルアミン[東京化成工業(株)製]1.00g(9.9mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド23.7g(4−アミノアセトアニリド及びトリエチルアミンの合計質量に対し9倍量)を仕込み、撹拌しながら氷浴にて冷却した。この溶液に、テレフタロイルクロリド[東京化成工業(株)製]1.00g(4.9mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド9.0g(テレフタロイルクロリドの質量に対し9倍量)に溶解させた溶液をゆっくり滴下し、3時間撹拌した。反応混合物を水−メタノール混合溶液(質量比7:3)245g(使用したN,N−ジメチルアセトアミドの総質量に対し7.5倍量)に滴下し、生成物をスラリー状態で沈殿させた。得られたスラリーを減圧ろ過し、水−メタノール混合溶液(質量比7:3)で洗浄後、乾燥することで白色粉末の目的物(化合物W)を得た。
得られた目的物の5%重量減少温度(Td
5%)は442.9℃であった。
【0054】
[合成例4]N
1,N
4−ビス(4−アセチルフェニル)テレフタルアミドの製造
4−アミノアセトアニリドを4−アミノアセトフェノン[東京化成工業(株)製]1.47g(11mmol)に変更した以外は合成例3と同様に操作し、白色粉末の目的物(化合物X)を得た。
得られた目的物の5%重量減少温度(Td
5%)は337.6℃であった。
【0055】
[合成例5]N
1,N
4−ジフェニルテレフタルアミドの製造
4−アミノアセトアニリドをアニリン[東京化成工業(株)製]1.01g(11mmol)に変更した以外は合成例3と同様に操作し、白色粉末の目的物(化合物Y)を得た。
得られた目的物の5%重量減少温度(Td
5%)は285.8℃であった。
【0056】
[合成例6]N
1,N
6−ジフェニルアジプアミドの製造
4−アミノアセトアニリドをアニリン[東京化成工業(株)製]1.12g(12mmol)に、トリエチルアミンの仕込量を1.10g(11mmol)に、テレフタロイルクロリドをアジポイルジクロリド[東京化成工業(株)製]1.00g(5.5mmol)に、それぞれ変更した以外は合成例3と同様に操作し、白色粉末の目的物(化合物Z)を得た。
得られた目的物の5%重量減少温度(Td
5%)は313.1℃であった。
【0057】
[実施例1,2]
PGA樹脂[(株)クレハ製 Kuredux(登録商標)]を270℃のホットプレスにて加熱し溶融させた後、氷水で急冷した。この樹脂を、室温で6時間減圧乾燥し、フィルム状の非晶質PGA樹脂を得た。
この非晶質PGA樹脂100質量部を1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIPA)2,000質量部に溶解させた溶液に、結晶核剤として合成例1,2で得られた化合物A又は化合物B1質量部を加え、室温(およそ23℃)で30分間撹拌し、均一な分散液を得た。該分散液のHFIPAをエバポレーターで留去し、結晶核剤を含むPGA樹脂組成物を得た。
得られたPGA樹脂組成物から約1mgを切り出し、DSCを用いて降温結晶化温度Tccを評価した。評価は、100℃/分の昇温速度で270℃まで昇温、1分間保持した後、20℃/分の冷却速度で冷却する際に観測されるPGA樹脂の結晶化に由来する発熱ピーク頂点の温度をTccとして測定した。Tccの値が大きいほど同一条件での結晶化速度が速く、結晶核剤として優れた効果を有することを表す。結果を表1に併せて示す。
【0058】
[比較例1]
結晶核剤を添加しなかった以外は実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0059】
[比較例2〜5]
結晶核剤として合成例3〜6で得られた化合物W,X,Y,Zを使用した以外は実施例1と同様に操作、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果より、結晶核剤として特定のアミド化合物を用いたもの(実施例1,2)は、結晶核剤を加えないもの(比較例1)、その他のアミド化合物を用いたもの(比較例2〜5)と比較して高いTccを示し、結晶化促進効果を有することが確認された。すなわち、PGA樹脂に結晶核剤として特定のアミド化合物を添加することにより、PGA樹脂の結晶化速度を高め、耐熱性、成形加工性に優れたPGA樹脂組成物を提供することが可能となった。