特許第6761917号(P6761917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6761917リン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ、及びリン化インジウム基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6761917
(24)【登録日】2020年9月9日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】リン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ、及びリン化インジウム基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/40 20060101AFI20200917BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20200917BHJP
   B24B 37/08 20120101ALI20200917BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20200917BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20200917BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20200917BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20200917BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C30B29/40 C
   B24B27/06 F
   B24B27/06 S
   B24B37/08
   B24B9/00 601H
   B28D5/04 C
   C23C16/18
   H01L21/304 601B
   H01L21/304 611W
   H01L21/304 621
   H01L21/306 B
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-78636(P2020-78636)
(22)【出願日】2020年4月27日
【審査請求日】2020年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2019-217552(P2019-217552)
(32)【優先日】2019年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡 俊介
(72)【発明者】
【氏名】栗田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健二
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−218033(JP,A)
【文献】 特開2014−041911(JP,A)
【文献】 特開2009−182135(JP,A)
【文献】 特開平09−017755(JP,A)
【文献】 特開2004−043257(JP,A)
【文献】 特開2016−044094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/40
B24B 9/00
B24B 27/06
B24B 37/08
B28D 5/04
C23C 16/18
H01L 21/304
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル結晶層を形成するための主面と、前記主面の反対側の裏面とを有するリン化インジウム基板であって、
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−2.0〜2.0μmであることを特徴とするリン化インジウム基板。
【請求項2】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−1.5〜1.0μmである請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項3】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−0.3〜0.9μmである請求項2に記載のリン化インジウム基板。
【請求項4】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−0.3〜0.9μmであり、基板の直径が100mm以下である請求項3に記載のリン化インジウム基板。
【請求項5】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−0.3〜0.5μmであり、基板の直径が76.2mm以下である請求項3に記載のリン化インジウム基板。
【請求項6】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、0.0〜0.7μmであり、基板の直径が50.8mm以下である請求項3に記載のリン化インジウム基板。
【請求項7】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のSORI値が、2.5μm以下である請求項1〜6のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板。
【請求項8】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のSORI値が、1.6〜2.5μmである請求項7に記載のリン化インジウム基板。
【請求項9】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のWARP値が、3.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板。
【請求項10】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のWARP値が、1.8〜3.5μmである請求項9に記載のリン化インジウム基板。
【請求項11】
前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のWARP値が、1.8〜3.4μmである請求項10に記載のリン化インジウム基板。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板の前記主面上に、エピタキシャル結晶層を備えた半導体エピタキシャルウエハ。
【請求項13】
リン化インジウムのインゴットからウエハをワイヤーソーで切り出す工程と、
前記切り出したウエハをエッチングする工程と、
前記エッチング後のウエハの外周部分の面取りを行う工程と、
前記面取り後のウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程と、
前記研磨後のウエハをエッチングする工程と、
を含み、
前記リン化インジウムのインゴットからウエハをワイヤーソーで切り出す工程は、ワイヤーを水平方向に往復させながら常に新線を送り続けるとともに、前記リン化インジウムのインゴットを載せたステージを前記ワイヤーへ向かって鉛直方向に移動させる工程を含み、前記ワイヤーの新線供給速度が10〜60m/分であり、前記ワイヤーの往復速度が300〜350m/分であり、前記リン化インジウムのインゴットを載せたステージの鉛直方向移動速度が200〜400μm/分であり、前記ワイヤーソーの砥粒の粘度が300〜400mPa・sであり、
前記切り出したウエハをエッチングする工程は、両面から合計5〜15μmだけエッチングし、
前記研磨後のウエハをエッチングする工程は、両面から合計8〜15μmだけエッチングする請求項1〜11のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ、及びリン化インジウム基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムリン(InP)は、III族のインジウム(In)とV族のリン(P)とからなるIII−V族化合物半導体材料である。半導体材料としての特性は、バンドギャップ1.35eV、電子移動度〜5400cm2/V・sであり、高電界下での電子移動度はシリコンやガリウム砒素といった他の一般的な半導体材料より高い値になるという特性を有している。また、常温常圧下での安定な結晶構造は立方晶の閃亜鉛鉱型構造であり、その格子定数は、ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化ガリウム(GaP)等の化合物半導体と比較して大きな格子定数を有するという特徴を有している。
【0003】
リン化インジウム基板の原料となるリン化インジウムのインゴットは、通常、所定の厚さにスライシングされ、所望の形状に研削され、適宜機械研磨された後、研磨屑や研磨により生じたダメージを除去するために、エッチングや精密研磨(ポリシング)等に供される。
【0004】
リン化インジウム基板の主面には、エピタキシャル成長によってエピタキシャル結晶層を設けることがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−218033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このエピタキシャル成長を実施する際、一般に、リン化インジウム基板を裏面側からサセプターで支持している。このとき、リン化インジウム基板の裏面の反りが大きいと、基板裏面とサセプターの接触が不均一となる。
【0007】
基板裏面とサセプターの接触が不均一であると、基板への熱伝導の面内分布も不均一となるため、エピタキシャル成長時の基板温度が不均一となる。その結果、生成するエピタキシャル結晶層の品質が低下し、発光波長がずれる等の半導体エピタキシャルウエハの性能の低下を引き起こす問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、基板裏面の反りが良好に抑制されたリン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ及びリン化インジウム基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は一実施形態において、エピタキシャル結晶層を形成するための主面と、前記主面の反対側の裏面とを有するリン化インジウム基板であって、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−2.0〜2.0μmであることを特徴とするリン化インジウム基板である。
【0010】
本発明のリン化インジウム基板は別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−1.5〜1.0μmである。
【0011】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−0.3〜0.9μmである。
【0012】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−0.3〜0.9μmであり、基板の直径が100mm以下である。
【0013】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、−0.3〜0.5μmであり、基板の直径が76.2mm以下である。
【0014】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のBOW値が、0.0〜0.7μmであり、基板の直径が50.8mm以下である。
【0015】
本発明は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のSORI値が、2.5μm以下であることを特徴とするリン化インジウム基板である。
【0016】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のSORI値が、1.6〜2.5μmである。
【0017】
本発明は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のWARP値が、3.5μm以下であることを特徴とするリン化インジウム基板である。
【0018】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のWARP値が、1.8〜3.5μmである。
【0019】
本発明のリン化インジウム基板は更に別の一実施形態において、前記リン化インジウム基板の前記裏面を上にした状態で測定した、前記裏面のWARP値が、1.8〜3.4μmである。
【0020】
本発明は更に別の一実施形態において、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の前記主面上に、エピタキシャル結晶層を備えた半導体エピタキシャルウエハである。
【0021】
本発明は更に別の一実施形態において、リン化インジウムのインゴットからウエハをワイヤーソーで切り出す工程と、前記切り出したウエハをエッチングする工程と、前記エッチング後のウエハの外周部分の面取りを行う工程と、前記面取り後のウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程と、前記研磨後のウエハをエッチングする工程とを含み、前記リン化インジウムのインゴットからウエハをワイヤーソーで切り出す工程は、ワイヤーを水平方向に往復させながら常に新線を送り続けるとともに、前記リン化インジウムのインゴットを載せたステージを前記ワイヤーへ向かって鉛直方向に移動させる工程を含み、前記ワイヤーの新線供給速度が10〜60m/分であり、前記ワイヤーの往復速度が300〜350m/分であり、前記リン化インジウムのインゴットを載せたステージの鉛直方向移動速度が200〜400μm/分であり、前記ワイヤーソーの砥粒の粘度が300〜400mPa・sであり、前記切り出したウエハをエッチングする工程は、両面から合計5〜15μmだけエッチングし、前記研磨後のウエハをエッチングする工程は、両面から合計8〜15μmだけエッチングする本発明に係るリン化インジウム基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の実施形態によれば、基板裏面の反りが良好に抑制されたリン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ及びリン化インジウム基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔リン化インジウム基板〕
以下、本実施形態のリン化インジウム基板の構成について説明する。
本実施形態のリン化インジウム(InP)基板は、エピタキシャル結晶層を形成するための主面と、主面の反対側の裏面とを有する。
【0024】
エピタキシャル結晶層を形成するための主面は、リン化インジウム基板を、半導体素子構造の形成のためにエピタキシャル成長用の基板として使用する際に、実際にエピタキシャル成長を実施する面である。
【0025】
リン化インジウム基板の主面の最大径は特に限定されないが、50〜151mmであってもよく、50〜101mmであってもよい。リン化インジウム基板の平面形状は、円形であってもよく、四角形等の矩形であってもよい。
【0026】
リン化インジウム基板の厚みは特に限定されないが、例えば、300〜900μmであるのが好ましく、300〜700μmであるのがより好ましい。特に口径が大きい場合、リン化インジウム基板が300μm未満であると割れる恐れがあり、900μmを超えると母材結晶が無駄になるという問題が生じることがある。
【0027】
リン化インジウム基板は、ドーパント(不純物)として、Zn(亜鉛)をキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、S(硫黄)をキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Sn(スズ)をキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Fe(鉄)をキャリア濃度が1×106cm-3以上1×109cm-3以下となるように含んでもよい。
【0028】
(BOW値)
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、一側面において、裏面を上にした状態で測定した、裏面のBOW値が、−2.0〜2.0μmに制御されている。このような構成によれば、基板裏面の反りが良好に抑制されたリン化インジウム基板が得られる。より具体的には、エピタキシャル成長を実施する際、リン化インジウム基板を裏面側からサセプターで支持しても、基板裏面とサセプターの接触が均一になる。このため、リン化インジウム基板への熱伝導の面内分布が均一となり、エピタキシャル成長時の基板温度が均一となる。その結果、生成するエピタキシャル結晶層の品質が向上し、発光波長がずれる等の半導体エピタキシャルウエハの性能の低下を良好に抑制することができる。
【0029】
ここで、「BOW値」について説明する。リン化インジウム基板を支持し、元の形状を変えないように測定した場合において、リン化インジウム基板の測定面上に、基板中心点を囲むように、3点を頂点とする三角形を描いたとき、当該三角形を含む平面を3点基準面とする。この3点は、基板中心を原点としてOF中央部が270°となるような極座標を取り、基板の半径をRとおいたときに、(0.97R、90°)、(0.97R、210°)、(0.97R、330°)となる3点である。3点基準面と垂直な方向において、基板中心点と3点基準面との間の距離を、上方向を正の値とし下方向を負の値として表したものがBOW値である。BOW値は、例えば、Corning Tropel社製Ultrasortを用いて測定することができ、リン化インジウム基板を、裏面を上側に向けてPP製カセットに収納し、自動搬送することで測定することができる。このとき、基板の反りが変化しないように、基板を非吸着状態で測定する。
【0030】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、リン化インジウム基板の裏面を上にした状態で測定した、裏面のBOW値が、−1.5〜1.0μmであるのが好ましく、−0.3〜0.9μmであるのがより好ましい。さらには、基板の直径が100mm以下である場合には−0.3〜0.9μmであってもよく、基板の直径が76.2mm以下である場合には−0.3〜0.5μmであってもよく、基板の直径が50.8mm以下である場合には0.0〜0.7μmであってもよい。
【0031】
(SORI値)
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、裏面を上にした状態で幅3mmの外周部分を除外して測定した、裏面のSORI値が、2.5μm以下に制御されているのが好ましい。このような構成によれば、基板裏面の反りがより良好に抑制されたリン化インジウム基板が得られる。より具体的には、エピタキシャル成長を実施する際、リン化インジウム基板を裏面側からサセプターで支持しても、基板裏面とサセプターの接触がより均一になる。このため、リン化インジウム基板への熱伝導の面内分布がより均一となり、エピタキシャル成長時の基板温度がより均一となる。その結果、生成するエピタキシャル結晶層の品質が向上し、発光波長がずれる等の半導体エピタキシャルウエハの性能の低下をより良好に抑制することができる。
【0032】
ここで、「SORI値」は、リン化インジウム基板を支持し、元の形状を変えないように測定した場合において、リン化インジウム基板の測定面形状から算出される最小二乗平面からの正方向(上方向)と負方向(下方向)の絶対値の最大値の和を示す。SORI値は、例えば、Corning Tropel社製Ultrasortを用いて測定することができ、リン化インジウム基板を、裏面を上側に向けてカセットに収納し、自動搬送することで測定することができる。このとき、基板の反りが変化しないように、基板を非吸着状態で測定する。
【0033】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、リン化インジウム基板の裏面を上にした状態で測定した、裏面のSORI値が、1.6〜2.5μmであってもよい。さらには、基板の直径が100mm以下である場合には1.6〜2.5μmであってもよく、基板の直径が76.2mm以下である場合には1.6〜1.8μmであってもよく、基板の直径が50.8mm以下である場合には1.7μm以下であってもよい。
【0034】
(WARP値)
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、裏面を上にした状態で幅3mmの外周部分を除外して測定した、裏面のWARP値が、3.5μm以下に制御されているのが好ましい。このような構成によれば、基板裏面の反りがより良好に抑制されたリン化インジウム基板が得られる。より具体的には、エピタキシャル成長を実施する際、リン化インジウム基板を裏面側からサセプターで支持しても、基板裏面とサセプターの接触がより均一になる。このため、リン化インジウム基板への熱伝導の面内分布がより均一となり、エピタキシャル成長時の基板温度がより均一となる。その結果、生成するエピタキシャル結晶層の品質が向上し、発光波長がずれる等の半導体エピタキシャルウエハの性能の低下をより良好に抑制することができる。
【0035】
ここで、「WARP値」について説明する。リン化インジウム基板を支持し、元の形状を変えないように測定した場合において、リン化インジウム基板の測定面上に、基板中心点を囲むように、3点を頂点とする三角形を描いたとき、当該三角形を含む平面を3点基準面とする。この3点は、基板中心を原点としてOF中央部が270°となるような極座標を取り、基板の半径をRとおいたときに、(0.97R、90°)、(0.97R、210°)、(0.97R、330°)となる3点である。3点基準面と垂直な方向において、3点基準面から見た基板の測定面の最高位置と3点基準面との間の距離、及び、3点基準面から見た基板の測定面の最低位置と3点基準面との間の距離の合計がWARP値である。WARP値は、例えば、Corning Tropel社製Ultrasortを用いて測定することができ、リン化インジウム基板を、裏面を上側に向けてPP製カセットに収納し、自動搬送することで測定することができる。このとき、基板の反りが変化しないように、基板を非吸着状態で測定する。
【0036】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、リン化インジウム基板の裏面を上にした状態で測定した、裏面のWARP値が、1.8〜3.5μmであってもよく、1.8〜3.4μmであってもよい。さらには、基板の直径が100mm以下である場合には、裏面のWARP値が1.8〜3.4μmであってもよく、基板の直径が76.2mm以下である場合には、裏面のWARP値が1.8〜2.2μmであってもよく、基板の直径が50.8mm以下である場合には、裏面のWARP値が2.2μm以下であってもよい。
【0037】
〔リン化インジウム基板の製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の製造方法について説明する。
リン化インジウム基板の製造方法としては、まず、公知の方法にてリン化インジウムのインゴットを作製する。
次に、リン化インジウムのインゴットを研削して円筒にする。
次に、研削したリン化インジウムのインゴットから主面及び裏面を有するウエハを切り出す。このとき、リン化インジウムのインゴットの結晶両端を所定の結晶面に沿って、ワイヤーソーを用いて切断し、複数のウエハを所定の厚みに切り出す。ウエハを切り出す工程では、ワイヤーを水平方向に往復させながら常に新線を送り続けるとともに、リン化インジウムのインゴットを載せたステージをワイヤーへ向かって鉛直方向に移動させる。
【0038】
ワイヤーソーによるインゴットの切断条件を以下に示す。
・ワイヤーの新線供給速度:10〜60m/分
・ワイヤーの往復速度:300〜350m/分
・リン化インジウムのインゴットを載せたステージの鉛直方向移動速度:200〜400μm/分
・ワイヤーソーの砥粒の管理
使用砥粒GC #1200、切削油PS−LP−500Dとし、砥粒は粘度計のロータ軸の回転速度60rpmのときに300〜400mPa・sになるように管理する。当該粘度は、東機産業製TVB−10粘度計で測定することができる。
【0039】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後のウエハを85質量%のリン酸水溶液及び30質量%の過酸化水素水の混合溶液により、両面から合計5〜15μmエッチングする。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングする。
【0040】
次に、ウエハの外周部分の面取りを行い、面取り後のウエハの少なくとも一方の表面、好ましくは両面を研磨する。当該研磨工程はラッピング工程とも言われ、所定の研磨剤で研磨することで、ウエハの平坦性を保ったままウエハ表面の凹凸を取り除く。
【0041】
次に、研磨後のウエハを85質量%のリン酸水溶液及び30質量%の過酸化水素水及び超純水の混合溶液により、両面から合計8〜15μmだけエッチングする。ウエハは、前記エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングする。
次に、ウエハの主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨して鏡面に仕上げる。
次に、洗浄を行うことで、本発明の実施形態に係るリン化インジウムウエハが製造される。
【0042】
〔半導体エピタキシャルウエハ〕
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の主面に対し、公知の方法で半導体薄膜をエピタキシャル成長させることで、エピタキシャル結晶層を形成し、半導体エピタキシャルウエハを作製することができる。当該エピタキシャル成長の例としては、リン化インジウム基板の主面に、InAlAsバッファ層、InGaAsチャネル層、InAlAsスペーサ層、InP電子供給層をエピタキシャル成長させたHEMT構造を形成してもよい。このようなHEMT構造を有する半導体エピタキシャルウエハを作製する場合、一般には、鏡面仕上げしたリン化インジウム基板に、硫酸/過酸化水素水などのエッチング溶液によるエッチング処理を施して、基板表面に付着したケイ素(Si)等の不純物を除去する。このエッチング処理後のリン化インジウム基板の裏面をサセプターに接触させて支持した状態で、リン化インジウム基板の主面に、分子線エピタキシャル成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)又は有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりエピタキシャル膜を形成する。
【0043】
このとき、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、裏面の反りが上述のように低減されているため、基板裏面とサセプターの接触が均一になる。このため、リン化インジウム基板への熱伝導の面内分布が均一となり、基板温度を均一にしながらエピタキシャル成長することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0045】
実施例1〜6及び比較例1〜5を以下のように作製した。
まず、所定の直径で育成したリン化インジウムの単結晶のインゴットを準備した。
次に、リン化インジウムの単結晶のインゴットの外周を研削し、円筒にした。
【0046】
次に、研削したリン化インジウムのインゴットから主面及び裏面を有するウエハを切り出した。このとき、リン化インジウムのインゴットの結晶両端を所定の結晶面に沿って、ワイヤーソーを用いて切断し、複数のウエハを所定の厚みに切り出した。ウエハを切り出す工程では、ワイヤーを水平方向に往復させながら常に新線を送り続けるとともに、リン化インジウムのインゴットを載せたステージをワイヤーへ向かって鉛直方向に移動させた。
【0047】
ワイヤーソーによるインゴットの切断条件を以下に示す。
・ワイヤーの新線供給速度:10〜60m/分
・ワイヤーの往復速度:表1に記載
・リン化インジウムのインゴットを載せたステージの鉛直方向移動速度:表1に記載
・ワイヤーソーの砥粒の管理
使用砥粒GC #1200、切削油PS−LP−500Dとし、砥粒は粘度計のロータ軸の回転速度60rpmのときに表1に記載の粘度になるように管理した。当該粘度は、東機産業製TVB−10粘度計で測定した。
【0048】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後のウエハを85質量%のリン酸水溶液及び30質量%の過酸化水素水の混合溶液により、両面から合計で表1に記載の量だけエッチングした(切断後エッチング)。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングした。
【0049】
次に、ウエハの外周部分の面取りを行い、面取り後のウエハの両面を研磨した(ラッピング)。このとき、所定の研磨材で研磨することで、ウエハの平坦性を保ったままウエハ表面の凹凸を取り除いた。
【0050】
次に、研磨後のウエハを85質量%のリン酸水溶液及び30質量%の過酸化水素水及び超純水の混合溶液により、両面から合計で表1に記載のエッチング量(表面からエッチングした厚み)でエッチングした(ラップ後エッチング)。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングした。
【0051】
次に、ウエハの主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨して鏡面に仕上げた後、洗浄することで、表1に示すウエハ外径を有するリン化インジウム基板を作製した。
【0052】
(評価)
・裏面評価
実施例1〜6及び比較例1〜5のサンプルについて、Corning Tropel社製Ultrasortを用いて、それぞれ裏面を上側に向けてPP製カセットに収納し、自動搬送にて、幅3mmの外周部分を除外したSORI値とWARP値を測定し、さらに、BOW値を測定した。当該測定は非吸着にて実施した。
【0053】
・表面評価
実施例1〜6及び比較例1〜5のサンプルについて、Corning Tropel社製Ultrasortを用いて、それぞれ表面を上側に向けてPP製カセットに収納し、自動搬送にて、幅3mmの外周部分を除外したWARP値及びTTV値を測定した。当該測定は非吸着にて実施した。
【0054】
なお、当該「TTV値」について説明する。TTV(Total Thickness Variation)は、リン化インジウム基板を支持し、測定面と反対の面を吸着し、吸着された面を基準面とする。基準面と垂直な方向において、基準面から見た基板の測定面の最高位置と最低位置との差がTTV値である。TTV値は、例えば、Corning Tropel社製Ultrasortを用いて測定することができ、リン化インジウム基板を、表面を上側に向けてPP製カセットに収納し、自動搬送することで測定することができる。
前述の製造条件、評価の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(評価結果)
実施例1〜6は、いずれも裏面を上にして平坦な面上に置いて測定したBOW値の絶対値が2.0μm以下であり、基板裏面とサセプターとの接触が均一になるような良好なリン化インジウム基板が得られた。
比較例1〜3は、ワイヤーソーによる切断工程において、それぞれのパラメータが適切ではなく裏面そりが大きいリン化インジウム基板となった。
比較例4は、切断後のエッチング工程において、エッチング量が適切ではなく切断時の加工ダメージを除去することができず裏面そりが大きいリン化インジウム基板となった。
比較例5は、ラッピング後のエッチング工程において、エッチング量が適切ではなくラッピング時の加工ダメージを除去することができず裏面そりが大きいリン化インジウム基板となった。
【要約】
【課題】基板裏面の反りが良好に抑制されたリン化インジウム基板、半導体エピタキシャルウエハ及びリン化インジウム基板の製造方法を提供する。
【解決手段】エピタキシャル結晶層を形成するための主面と、主面の反対側の裏面とを有するリン化インジウム基板であって、リン化インジウム基板の裏面を上にした状態で測定した、裏面のBOW値が、−2.0〜2.0μmであることを特徴とするリン化インジウム基板。
【選択図】なし